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博 士 ( 工 学 ) 大 井 元 貴 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 工 学 ) 大 井 元 貴

学 位 論 文 題 名

大 強 度 加 速 器 パ ル ス 中 性 子 源 用 減 速 材 集 合 体の      高 性 能 化 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  現在、日本とアメリカでMW級パワーの陽子加速器を用いたスポレーション反応によるパルス中 性子源が建設中である。このパワーは既存の最大パワーの施設の6倍以上となる。このような大幅な 加速器出カの増加に伴い、様々な新しい問題が生じてくる。減速材集合体は、主にターグット、減速 材、反射体および減速材周囲に取り付ける中性子吸収材デカップラーから構成されるが、減速材にお いては、減速材材料の放射線損傷の問題がある。反射体においては、反射体内における発熱密度の増 加に伴う冷却、および放射化が問題となる。そして、デカップラーにおいては、B4Cデカップラーの He生成と組成変化が指摘されている。本研究においては、これらの問題を考慮した上で、MWと言 う条件において優れた中性子ビームを供給するため、減速材集合体の高性能化に関する研究を行なっ た。

  減速材: MW級中性子源では、冷減速材として液体水素が使用される。これは、放射線損傷の問題 の為に最も優れた減速材であるメタン減速材が使用できないからである。しかしながら、液体水素減 速材はメタンに比ベ水素数密度が低いなどの欠点があり、メタン減速材に比べ強度が1/3以下になる。

そこで、水素減速材の特性を向上させる方法として、パラ水素減速材の利用を提案した。これを実証 するため、中性子測定を測定し、シミュレーション計算の結果と比較を行なった。実験と計算には多 少の差が見られたが、水素のオルソ・パラ比に対して同じ傾向を示したので、計算での中性子源の 最適化が可能であると言う見通しが出来た。その結果、結合型減速材は、減速材の厚さを増やすこと で中性子強度が増加し、メタン減速材と同程度の中性子強度になり、また、非結合型減速材は、5cm で最も特性が優れており、総合性能としてメタンと同程度、最も悪い場合でも1/2の性能を引き出す 事ができた。

  デカップラー:これまでの中性子源では、デカップラーとして、カドミウムとB4Cが使用されて いる。しかしながら、カドミウムでは、デカップリングエネルギー(Ed)が低く(0.4eV)減速材から 放出される中性子のパルス(放出時間分布)が広く減衰も遅い。そして、検討の結果leV程度のEd が必要であると言う結諭に達した。leVのEdを実現できるデカップラーとしては、B4Cが一般的で あるが、大強度化に伴いデカップラーの発熱や組成変化の為にMW級中性子源での使用が困難であ る。そこで、デカップラー材料として新たにAIC、ユウロピウム、サマリウム‐銀合金について検討 した。AICは銀、インジウム、カドミウムの合金で、カドミウムの吸収と、インジウム、銀の共鳴吸 収を利用している。また、ユウロピウムとサマリウムはそれ自身でEd=leVを実現できて、核変換後 も高い吸収断面積を有しているので、長期間の使用が可能である。これらをデカップラーとして使用     ―1161―

(2)

した 場合の中性子特性を比較し たところ、どの材料を用いてもほぼ同じ中性子特性が得られた。また、

時 間 変 化 に つ い て は 、AICデ カ ッ プ ラ ー は1MWで6年 程 度 使 用す る と、Cdの 燃焼 の 為に 中性 子吸 収特 性に変化が現れるが、減速 材から放出される中性子のパルス特性には殆ど変化は現れない。また、

Eu、Smデ カッ プラ ーに っ いて は、 中性 子透 過 特性 の時 間変化は無視 出来る程度であり、6年以上 継 続 し て 使 用 す る こ と が 可 能 で あ る 。特 にEuは 、厚 さImmでleVの デ カッ プリ ング エ ネル ギー を実 現出 来るので、発熱量も低く出 来る。

  ま た、従来のデカップラーシ ステムとは異なるパルス特性 の改善方法として、マルチデカップラー を提 案した。パルス波形、特に パルスの裾を改善するために は、通常高いデカップリングエネルギー が用 いられるが、この場合パル スのピーク強度まで減少させ てしまう。そこで、パルスの裾の原因と なる 、反射体内で多数回散乱し 、そこに長時間留まった中性 子を効率よく減衰させることを目的に、

反射 体内に複数層のデカップラ ーを配置する。これにより、 通常のデカップリングエネルギー以上の エネ ルギーの中性子で、反射体 内で減速した中性子の減衰を 促進した。結果として、鉛の様な非減速 型の 反射体材料の場合に、パル スのピーク強度はそのままに 、減衰を早くでき、特性が改善できるこ とが 分かった。

  反 射体:従来のパルス中性子 源における反射体は、反射体 内の発熱密度が低く、反射体冷却は簡便 な も の であ った 。 しか しな がら 、MW級 の中 性子 源を 考 えた 場合 、発 熱密 度 は数W/Cm3に 達す る事 が予 想されるので、反射体の健 全性を維持するため冷却が重 要になる。これまでに行なわれてきた反 射体 研究は、反射体冷却水など の影響を考慮しない研究が殆 どであった。MW級中性子源においては、

反射 体冷却のための反射体構造 材料及び冷却水の影響を考慮 する必要があるので、水冷構造まで考慮 した 反射体研究が必要である。

  反 射体 構造 材料 とし て は、SUSとア ルミ 合金 を比 較 した。結合型 減速材においては、反射体構 造 材 を 省略 した 物理 モデ ル に比 べ、 どち らの 場 合も 中性 子強度は減少 した。特にSUSを用いた場合 の 変 化 が大きく 、10%以上中性子強度が減 少した。アルミ合金の場合に は、約5%の減少であった。 非 結 合 型減 速材 にお いて は 、SUSを用いた 場合の中性子強度の減少が3%程度と小さく、アルミ合金 の 場 合 には 、5% 程 度減 少で あっ た。これ は、SUSは中性子散乱断面積 も大きいが、比較的中性子吸 収 の強 い物質であり、結合型減速 材においては、デカップラー に似た働きをし、一方、アルミ合金は中 性子 散乱断面積が小さいので、 鉛や鉄などの通常の反射体に 比ベボイドに近いからだと考えられる。

  反 射体の冷却構造について検 討を行なうにあたり、各反射 体材料を用いた場合の反射体内の発熱密 度を 評価し、十分に冷却可能な 冷却水流路を設定した。反射 体材料としては、ベリリウム、鉛、鉄、

銅 、 ニッ ケル 、水 銀に つ いて 検討 を行 なっ た 。1MWの 場合、反射体 内の発熱密度はニッケルの場 合 に 最 も高く最 大3.9W/CD13であった。これ らの数値を元に反射体の冷 却構造をそれぞれの反射体材 料 につ いて決定し、中性子特性を 比較したところ、結合型減速 材においてはベリリウム及び鉛反射体が 他の 材料に比べ10%以上高い中 性子強度を示した。非結合型減速材においては、鉛反射体が最も良く、

他 の 材料に比 べ10〜15%高い強度を示し た。他の材料については、程 度の差はあるが概ね5%の範 囲 内に 収まっているので、殆ど違 いは無いと言える。

  本 研究 では 、加 速器 出 力1MWの スポ レー ショ ンパ ル ス中性子源に っいて、中性子工学的側面か ら 研究 を行なった。その結果、減 速材にっいては、パラ水素濃 度依存のパルス中性子特性を世界で始め て測 定し、液体水素減速材の特 性改善方法を示した。また、 計算コードの信頼性について検証した。

デカ ップラー及び反射体につい ても、今後の中性子源開発に おいて参考になる検討結果を示した。こ れ ら の 結 果 の 一 部 は 、 現 在 日 本 で 建 設 中 のJSNS中 性 子 源 計 画 に も 取 り 入 れ ら れ て い る 。     ―1162 ‑

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

大強度加速器パルス中性子源用減速材集合体の      高性能化に関する研究

  中 性 子 の 利 用 は 、 物 質 科 学 の み な ら ず 広 く 産 業 応 用 の 領 域 ー 広 が っ て き て お り 、 科 学 ・ 技 術 を 支 え る 重 要 な プ ロ ー ブ の ー っ と し て 認 識 さ れ て い る 。 こ の よ う な 背 景 の も と 、 現 在 、 日 本 と ア メ リ カ でMW級 パ ワ ー の 陽 子 加 速 器 を 用 い た ス ポ レ ー シ ョ ン 反 応 に よ る パ ル ス 中 性 子 源 が 建 設 中 で あ る 。MWの パ ワ ー は 、 日 本 の 既 存 施 設 の 約330 倍 、 世 界 最 高 性 能 の イ ギ リ ス の 施 設 の6倍 以 上 で あ り 、 こ の よ う な 大 幅 な 加 速 器 出 カ の 増 加 に 伴 い 、 中 性 子 源 設 計 に お い て も 様 々 な 新 し い 問 題 が 生 じ て い る 。   加 速 器 中 性 子 源 の 減 速 材 集 合 体 の 主 た る 構 成 要 素 は 、 中 性 子 発 生 タ ー ゲ ッ ト 、 中 性 子 減 速 材 、 デ カ ッ プ ラ ー ( 減 速 材 周 囲 に 取 ゛ り 付け る中 性子 吸収 材) およ び反 射体 で あ る 。 減 速 材 に お い て は 、 減 速 材 材 料 の 放 射 線 損 傷 の 問 題 が あ り 、 デ カ ッ プ ラ ー に お い て は 、 ボ ロ ン 系 デ カ ッ プ ラ ー の 組 成 変 化 、 ま た 、 反 射 体 に お い て は 、 反 射 体 内 に お け る 発 熱 密 度 の 増 加 に 伴 う 冷 却 水 量 の 増 加 な ど が 指 摘 さ れ て お り 、 こ れ ら の 影 響 に よ る 中 性 子 特 性 の 劣 化 が 問 題 と な っ て い る 。 本 研 究 に お い て は 、 こ れ ら の こ と を 考 慮 し た 上 で 、MWと 言 う 条 件 に お い て 、 特 性 の 優 れ た 中 性 子 ビ ー ム を 安 定 に 供 給 す る た め に 、 減 速 材 集 合 体 の 高 性 能 化 に 関 す る 研 究 を 行 な っ た も の で あ る 。   本 論 文 で 得 ら れ た 成 果 を 要 約 す る と 以 下 の よ う に な る 。

    (1) 冷 中 性 子 減 速 材 と し て 、 最 も 優 れ た 減 速 材 物 質 で あ る メ タ ン 減 速材 が、 こ の よ う な ハ イ パ ワ ー の も と で は 、 放 射 線 損 傷 の た め に 使 用 で き な く な る 。 そ の た め 、 損 傷 に 強 い 液 体 水 素 の 使 用 が 余 儀 詮 く さ れ る が 、 今 ま で の 研 究 で は 、 メ タ ン に 比 べ 強 度 が 大 幅 に 減 少 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 そ こ で 、 水 素 減 速 材 の 特 性 を 向 上 き せ る 方 法 と し て 、 パ ラ 水 素 減 速 材 の 使 用 を 提 案 し 、 そ の 中 性 子 特 性 の 測 定 を 初 め て 行 な う と と も に 、 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 計 算 も 実 施 し 、 そ の 有 用 性 を 検 証 し た 。 そ の 結 果 、 大 強 度 実 験 用 の 結 合 型 減 速 材 で は 、 減 速 材 の 厚 さ を 増 や す こ と で 中 性 子 強 度 を 増 加 さ せ る こ と が で き 、 メ タ ン 減 速 材 と 同 程 度 と な る こ と 、 ま た 、 高 分 解 能 実 験 用 の 非 結 合 型 減 速 材

明 史

   

   

善 貞

柳 村

村 津

鬼 澤

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

(4)

においても、減速材から放出される中性子の時間分布を大幅に改善でき、総合性能と して メタンと同 程度の性能 を引き出す ことが可能 であること を明らかに した。

   (2 )高分解能実験用の非結合型減速材で使用されるデカップラーにっいては、こ れまで使用されていたボロン系材料は、中性子吸収によるへりウム生成による材料特 性の劣化やボロンの減少による中性子特性の変化が問題となっていた。これに代わっ て、長期間に渡って中性子特性が変化しないビームを供給できる材料を見出すために、

新しい材料、AIC (銀、インジウム、カドミウムの合金)、ユウロピウム、サマリウ ム.銀合金について検討を行なった。その結果、いずれの材料も5 年以上の長期にわ たって、中性子特性が変化しないことを明らかにした。特に、独自に提案したユーロ ピウムは、発熱量も他に比べて小さいため、熱除去の観点からも優れていることを明 らかにした。

   また、中性子特性を向上させるために、全く新しいデカップラー配置として、反射 体内に複数層のデカップラーを配置するマルチレイヤーデカップラーを提案した。こ れを用いることによって、鉛の様な非減速型の反射体材料の場合に、中性子放出時間 分布(中性子パルス)のピーク強度をあまり減らさないで、パルスの減衰だけを早く で き る こ と が わ か り 、 中 性 子 特 性 の 改 善 が 行 え る こ と を 明 ら か に し た 。    (3 )反射体に関する研究は、これまで反射体中の構造材や冷却水配管などの影響 を考慮しない研究が殆どであった。 MW 級中性子源においては、これらの割合が増え るため、実際の体系を出来るだけ忠実に反映したモデルでの中性子特性の検討が必要 となる。構造材としてアルミとステンレスを、反射体材料としてベリリウム、鉛、鉄、

銅、ニッケル、水銀について検討を行なった。冷却水配管も各反射体材料に対して個々 に最適化した体系について中性子特性を比較し、結合型減速材においては鉛およびベ リリウム反射体が他の材料に比べ10 %以上高い中性子強度となること、非結合型減速 材においては、鉛反射体が最も良く、他の材料に比べ10 ‑15 %高い強度を示すことを 明らかにした。

   ここ で、得られた結果は現在計画中の MW 級スポレーション中性子源の設計にと

っ て 重 要 な 知 見 で あ り 、 そ の 成 果 は 実 際 の 設 計 に も 取り 入 れら れ てい る 。

   以上要するに、本論文は大強度加速器パルス中性子源の減速材集合体にっいて、中

性子工学的側面から研究を行ない、その高性能化に関して有用な知見を得たものであ

り、原子力工学の発展に貢献すること大である。よって、著者は北海道大学博士(工

学)の学位を授与される資格あるものと認める。

参照

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