博 士 ( 工 学 ) 竹 内 貴 弘
学 位 論 文 題 名
氷 海 域 の 構 築 物 に 作 用 す る 氷 カ に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
世界 の極地 には ,多く の化石 燃料が 存在し てい ること が報告 されて いる 。特に,これらの海域 にお いて, 炭化水 素系資 源の 採鉱・ 開発の ために 建設 される 構造物 は,厳 しい環境条件に耐えう るだ けの安 全性が 要求さ れる 。しか し,海 氷によ って 構造物 に伝達 される カにっいての理解が不 十分 である ことが ,構造 物の 設計を行う上での大きな障害となっているのが現状である。これは,
設計 では考 慮すべ き海氷 の物 性値,構造物と海氷の相互作用時の氷盤の破壊にっいての理解不足,
及び これら が同時 に評価 され ていな いこと が大き な原 因とな ってい るため である。また,上記構 造物 のみナ ょらず ,寒冷 地の 港湾構造物,河川・湖沼に建設される構造物の設計においても,氷に よっ て構造 物に伝 達され るカ の評価 が必要 不可欠 とな る。
従来 の氷力 評価 に関す る研究 では, 氷と構 造物 が理想 的な条 件下で 相互 作用した時に構造物に 伝達 される 最大氷 力(初 期氷 力)と して氷 カが評 価さ れ,算 定式が 提案さ れてきた。これらの提 案式 には, @氷盤 と構造 物は 一様に 接触し た状態 (理 想的な 接触条 件)で 相互作用を開始する,
◎構 造物前 面の氷 盤が構 造物 幅にわ たり同 時に破 壊す る,◎ 氷厚が 一定で ある,@氷盤を移動さ せ るdriving forceの 大きさ に制 限はな い,と の仮定 があっ た。 これら の仮定 下の氷 カは ,実海 域で の氷カ と比較 すると 過大 傾向を示し,特に,この傾向は構造物が大型化する程,顕著になるミ しか し,実 海域の 氷盤先 端部 の形状 は非常 に不規 則で あるこ と,構 造物と 氷盤の接触部における 氷 盤 の破 壊 は 非 同 時的 で ある こと, 実氷野 の氷厚 は,pressure ridge. 多年氷 .lead iceの存 在 か ら非 一 様 で あ るこ と ,ridge―building効果 及び風 ・流れ のセン 断カ に起因 する氷 盤driv‑
ing forceの 大 き さ に は 制 限 が あ る こ と , の た め に 上 記 の 仮 定 は 必 ず し も 成 立 し な い 。 した がって ,実 海域の 氷象条 件を考 慮した 氷力 評価が 望まれ ている 。こ のため,本研究の目的 は以 下の通 りであ る。
@氷 のカ学 特性 及び氷 カの現 況を既 往の文 献か ら把握 する。 また, 北極 海の海氷,北海道の淡 水 湖 沼 氷 , オ ホ ー ツ ク 海 の海 氷 を 用 い た強 度 試 験 か ら, 氷 盤 の カ 学的 性 質 を 把 握 する 。 ◎ こ れ ま で の 氷 力 評 価 に お い て 考 慮 さ れ て い な い 次 の 点 を 検 討 す る 。
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a) 氷盤 と 構 造 物 の不 完 全 接 触時に おける 氷盤の 破壊 荷重,b) 構造物 前面の 氷盤の 非同時 的 破 壊 時 に お け る 氷 盤 の 破 壊 荷 重 ,c) 氷 厚 が 非 一 様 な 場 合 の 氷 盤 の 破 壊 荷 重 。 ◎ 多 脚 杭 で 構 成 さ れ る 海 洋 構 造 物 に 作 用 す る 全 体 水 平 氷 カ の 算 定 法 を 示 す 。 本論 文は, 全了章 で構成 され ている 。
第2章 で は,第 一に, 氷の カ学特 性値( 氷の圧 縮強度 ,曲 げ強度 ,引張 強度, セン 断強度 ,弾 性定数 ,ポ アソン 比,破 壊靱性 値)の 現状 を把握 した。 第二に ,こ れまで に提案 された水力評価 式の現 状を 把握し た。第 三に, 北極海 (チャクチ海)の海氷,北海道の淡水湖沼氷,オホー`ソク 海 の海 氷 を 用 い た室 内 圧 縮 試 験, 室内 曲げ試 験,室 内・現 位置 破壊靱 性試験 の結果 を示し た。
第3章 で は,氷 盤先端 部の 形状不 規則性 が構造 物の作 用す る水カ に与え る効果 を北 海道の 淡水 湖 沼氷 を 用 いた小 型杭・ 大型 杭によ って現 地氷盤 貫入 試験か ら検討 した。 ここで は,3種類 の氷 盤先端 部の 不規則 形状を 考慮し ,各々 の場 合にっ いて全 氷カを 理想 条件下 の全氷 カと比較した。
この結 果, 氷盤先 端部の 形状が 不規貝fJな場合,全氷カは低減する。これは,貫入杭が氷盤と接触 した後 ,初 期氷力 (最大 氷力) が発生 する までに 必要な 貫入量 (必 要貫入 量)よ りも大きい凸凹 が氷盤 先端 部にあ る場合 ,初期 氷カが 発生 せずに 氷盤の 非同時 的破 壊に起 因する 継続氷カのみが 発生す るた めであ る。こ の必要 貫入量 は, 氷厚及 び氷の 強度が 大き くなる に伴っ て小さくなる。
本実験 デー タに基 づくと ,必要 貫入量 は2〜6cm(氷 厚が6.5〜8. 8cm,氷の圧縮強度が4.74〜4.
88(MPa)と な る た め ,実 海 域 の 氷 盤先 端 部 に 僅 かな 凸 凹 が あ る と氷 盤 は 非 同時 的な破 壊をす る 。 ま た , 氷 盤 先 端 部 の 水 平 方 向 形 状 は , 上 空 写 真 か ら 容 易 に 判 断 出 来 る 。 第4章 で は,北 海道の 淡水 湖沼氷 を用い た現地 氷盤貫 入量 試験結 果を基 に,氷 盤の 非同時 的破 壊に起 因す る継続 氷カの 時系列 特性を 詳細 に調べ た。こ の結果 から ,氷盤 と構造 物の接触状態の 確率分 布と 局部水 圧力値 の確率 分布に 基づ いて, 構造物 幅,氷 厚, 非拘束 時の氷 の一軸圧縮強度 の関数 とし て,非 同時的 破壊時 の全氷 カの 算定式 を提案 した。 この 提案式 から推 定された全氷力 値 と シ リ ン ダ一 内 圧 か ら 実測 全 水 力 値 は 良く 符 合 す る こと が 知 ら れ た。 ま た ,Sandersonの pressure area― cu rveと良 く 対 応 し ,非 拘 束 時 の 氷の 一 軸 圧 縮 強 度がlOMpaかつ1%超 過確 率 値の 時 に は , 実測 デ 一 夕 の 上限 値は 予測値 を越え ず,予 測値 の実用 性が確 認され た。ま た,
Ashbyら の提 案 式 と 同 様に , 本 式 は 氷の 破 壊 強 度 の 寸法 依存 性を表 現して いる 。本実 験デ一 夕 に 基づ く と , 各 独立 破 壊 領 域 の局 部 氷 圧 力 値 が対 数 正 規分 布に従 わなか った。 この ため,Kry のモデ ルで 要求さ れてい る仮定 は成立 しな いこと が知ら れた。
第5章 で は,氷 厚の非 一様 性が氷 の強度 に与え る効果 を, 変断面 粱の理 論・有 限要 素解析 ・北 極海の 実氷 を用い た圧縮 試験に より検 討し た。計 算結果 から, 氷厚 が非一 様な氷 の強度は,氷厚
変化 の度合 と載荷 圧縮幅 に強 く影響 を受け る。ま た, 北極海 の実氷 を用い た実験 結果から,氷の 変形 様式, 破壊様 式を氷 厚変 化の度 合と載 荷圧縮 幅に 応じて 示した 。これ らの氷 カと関連させる た め には , 実海域 の氷厚 分布の 簡易 的な測 定法の 確立及 び3次元の 氷厚 分布の 強度評 価が今 後必 要と なる。
第6章 で は,単 杭に作 用する 氷カ の既存 の評価 法を組 み合わ るこ とによ って, 多脚杭 形式 の構 造物 に作用 す全氷 カの算 定が 可能で あるこ とを示 した 。また ,各杭 には時 差を伴 って氷カが作用 する ことに 注目し ,@初 期氷 カのみ の場合 ,◎初 期氷 カと継 続氷カ が作用 する場 合の両方を検討 した 。初期 氷カと 継続氷 カを 考慮し た場合 の本計 算結 果と多 脚杭モ デルを 用いた 既往の実験結果 を比 較し, 良く対 応する こと が知ら れた。また,アラスカクック湾の典型的な氷象条件を考慮し,
4本 脚・9本脚 構造 物の全 水カの 算定法 と計算 結果 を示し た。
第7章 で は,各 章の主 たる結 果を まとめ ,次に ,氷海 構造物 に作 用する 設計氷 カの評 価法 につ いて 言及し た。最 後に, 今後 の課題 を示し た。
以上 ,本研 究は ,氷海 構造物 に作用 する水 カの 評価を ,実海 域の氷 象条 件を取 り入れて評価し たも のであ る。
学位論文審査の要旨
極地海 洋にお ける ,化石 燃料等 の開発 のため に建 設され る構造 物は, 厳しい環境条件に耐えう るだけ の安全 性が要 求され る。 しかし ,海氷 によっ て構 造物の 伝達さ れるカ にっいての理解が不 十分で あるこ とが, 構造物 の設 計を行う上での大きな障害となっているのが現状である。これは,
設計で 考慮す べき海 水の物 性値 ,構造物と海氷間の相互作用時の氷盤の破壊にっいての理解不足,
及 び こ れ ら が 同 時 に 評 価 さ れ て い な い こ と が 大 き な 原 因 と な っ て い る た め で あ る 。 従来の 氷力評 価に 関する 研究で は,氷 と構造 物が 理想的 な条件 下で相 互作用した時の構造物に 伝達さ れる最 大氷力 (初期 氷力 )を氷 カとし て評価 され てきた 。しか し,実 海域の氷盤先端部の
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浩 興
博 昇
忠
睦
伯 倉
田 伯
佐
板
藤
佐
授
授
授
授
教
教
教
教
査
査
査
査
主
副
副
副
形 状は非 常に 不規則 である こと, 構造 物と氷 盤の接 触部に おける 氷盤 の破壊 は非同時的であるこ と , 実 氷 野 の氷 厚 は ,pressure ridge. 多年氷 ・lead iceの存在 から非 一様で ある こと等 ,実 海 域の氷 盤状 態を考 慮した 氷力評 価が 望まれ ていた 。この ため, 本研 究の目 的は以下の通りであ る 。
@氷の カ学特 性及び 水カの 現況 を既往 の文献 から把 握す る。ま た,北 極海の 海氷,北海道の淡 水 湖 沼 氷, オ ホ ー ツ ク海 の 海 氷を用 いた強 度試 験から ,氷盤 のカ学 的性 質を明 らかに する。
◎ こ れ ま で の 氷 力 評 価 に お い て 考 慮 さ れ て い な い 次 の 点 を 検 討 す る 。 a)氷 盤 と 構 造物 の 不 完 全 接触 時 に お け る氷 盤 の 破 壊荷重 ,b)構造 物前面 の氷盤 の非 同時 的 破 壊 時 に お け る 水 盤 の 破 壊 荷 重 ,c) 氷 厚 が 非 一 様 な 場 合 の 氷 盤 の 破 壊 荷 重 。 ◎ 多 脚 杭 で 構 成 さ れ る 海 洋 構 造 物 に 作 用 す る 全 体 水 平 氷 カ の 算 定 法 を 示 す 。 .本論 文は, 全7章で構 成され ている 。
第2章で は, 第一 に,氷 のカ学 特性値 (氷の 圧縮 強度, 曲げ強 度,引 張強 度,セ ン断強 度,弾 性 定数, ポア ソン比 ,破壊 靱性値 )の 現状を 把握し た。第 二,こ れま でに提 案された氷力評価式 の 現状を 把握 した。 第三に ,北極 海( チャクチ海)の海氷,北海道の淡水湖沼氷,オホー`ソク海 の 海 氷 を 用 いた 室 内 圧 縮 試験 , 室 内 曲 げ 試験 , 室 内 ・ 現位 置 破 壊 靱 性試 験 の結 果を 示した 。 第3章で は, 氷盤 先端部 の形状 不規則 性が構 造物 の作用 する氷 カに与 える 効果を 現地氷 盤貫入 試 験 か ら 検討し た。 ここで は,3種類 の氷盤 先端部 の不 規則形 状を考 慮し, 各々の 場合 にっい て 全 氷カを 理想 条件下 の全氷 カと比 較し た。こ の結果 ,氷盤 先端部 の形 状が不 規則な場合,全氷カ は 低滅す る。 これは ,貫入 杭が氷 盤と 接触し た後, 初期氷 力(最 大氷 力)が 発生するまでに必要 な 貫入量 (必 要貫入 量)よ りも大 きい 凸凹が 氷盤先 端部に ある場 合, 初期氷 カが発生せずに氷盤 の 非同時 的破 壊に起 因する 継続氷 カの みが発 生する ためで あるこ とを 明らか にした。この必要貫 入 量は, 氷厚 及び氷 の強度 が大き くな るに伴って小さくなることを明らかにし,実海域の氷盤エッ ジ 部の僅 かな 凸凹で 氷盤は 非同時 的な 破壊を するこ とを証 明した 。
第4章で は, 現地 氷盤貫 入量試 験結果 を基に ,氷 盤の非 同時破 壊に起 因す る継続 水カの 時系列 特 性を詳 細に 調べた 。この 結果か ら, 氷盤と 構造物 の接触 状態の 確率 分布と 局部水圧力値の確率 分 布に基 づい て,構 造物幅 ,氷厚 ,非 拘束時 の氷の 一軸圧 縮強度 の関 数とし て,非同時的破壊時 の 全氷カ の算 定式を 提案し た。こ の提 案式か ら推定 された 全氷力 値と シリン ダ一内圧から実測全 氷 力 値 は 良 く 符 合 する こ と が 明 らか と な っ た 。ま た ,Sandersonのpressure areaーcurveと 良 く 対 応 し ,非 拘 束 時 の 氷の 一 軸 圧 縮 強 度がlOMpaか つ1% 超過 確 率 値 の 時に は,実 測デ 一夕 の 上 限 値 は予測 値を 越えず ,予測 値の実 用性 が確認 された 。また ,Ashbyらの 提案式 と同様 に,
本 式は氷 の破壊 強度の 寸法 依存性 を表現 してい る。ま た, 各独立 破壊領 域の局部氷圧力値が対数 正 規 分 布 に従 わ な か っ た。 こ の た め ,Kryの モ デル で要求 されて いる仮 定は成 立し ないこ とが 知 られた 。
第5章で は,氷 厚の非 一様 性が氷 の強度 に与え る効 果を, 変断面 梁の理 論・有 限要 素解析 ,お よ び北極 海の実 氷を用 いた 圧縮試 験により検討した。計算結果から,氷厚が非一様な氷の強度は,
氷 厚変化 の度合 と載荷 圧縮 幅に強 く影響 を受け ること を明 らかに した。 また,北極海の実氷を用 い た 実 験 結果 か ら , 氷 の変 形様 式,破 壊様式 を氷厚 変化の 度合 と載荷 圧縮幅 に応じ て示 した。
第6章 で は ,3章と4章 で の 成果 に も と づ き, 単 杭に 作用す る氷カ を組 み合わ せるこ とによ っ て ,多脚 杭形式 の構造 物に 作用す る全氷カの算定が可能であることを示した。各杭には時差を伴つ て 氷カが 作用す ること に注 目し, 初期氷 カと継 続氷カ を考 慮した 場合の 本計算結果と,多脚杭モ デ ル を 用 い た 既 往 の 実 験 結 果 を 比 較 し , 良 く 対 応 す る こ と を 明 ら か に し た 。 第7章で は,各 章の主 たる 結果を まとめ ,次に ,氷 海構造 物に作 用する 設計氷 カを 評価法 につ い て言及 した。 最後に ,今 後の課 題を示 した。
こ れを要 するに ,著 者は氷 海域に建設される直立構造物に作用する氷カを明らかにしたもので,
氷 工学, 海洋工 学に貢 献す るとこ ろ大な るもの がある 。よ って著 者は, 博士(工学)の学位を授 与 される 資格あ るもの と認 める。
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