める段階になった︒テーマは3つあった︒ 1つ目は︑社内の課題にマッチした協業相手を見つけること︒新規事業の立ち上げや︑いまある島津の事業をさらに加速させることを狙う︒すでに︑有望なスタートアップも見つかり始めていた︒これは当初の目的通りで︑会社の期待もここにあった︒だが︑メンバーはそれだけでは満足せず︑2つ目の目標として︑社内で新規事業のアイデアコンテストを行うことを掲げた︒ ﹁もともと島津は︑科学技術でイノベーションを起こしてきたベンチャー企業です︒だからそのマインドを持っている社員は多いはずです︒ただ︑自身の業務の枠にとらわれず︑アイデアを自由に発信し︑形にする正式な場がこれまでなかなかありませんでした︒自分たちの技術をもっと世の中に役立てたいと思っている大勢の社員が︑﹃こういうものをやりたい﹄とより自由に動ける環境をつくっていくことが不可欠だと考えました﹂︵服部︶ 3つ目は︑京都・関西地域全体で︑スタートアップを起こしやすい風土を醸成し︑盛り上げていこうというもの︒京都府やものづくりスタートアップ向け試作コンサルティングを提供するサービス﹁Makers Boot Camp﹂が器をつくり︑そこに島津も加わり︑事業立ち上げのインキュベーションプログラムを走らせる︒参加するのは︑企業の新規事業担当者でも︑スタートアップでもかまわない︒ ﹁どんなアイデアが出てくるかもわ
挑戦と失敗ができ
る
プラットフォー
ムへ
そして春︑種は芽を出し始めた︒協業先候補として検討していたスタートアップとの話は︑社内の各事業部との引き合わせを行い︑条件や進め方についての協議を行う段階に進み︑内1件はすでにPoC︵概念実証︶が進んでいる︒社内で行ったアイデアコンテストでは︑インパクトや事業としての実現性を吟味して︑最終的に2つの案が残った︒外部講師による起業家向けの教育プログラムで︑さらにそのアイデアを事業化への道筋を立てていった︒これからさらにユーザーとの検証を進め︑役員らが検討する新事業検討会での提案を目指している︒ ﹁新たなイノベーション創出に挑戦できる場を与えてもらい︑奮い立つ思いです︒自分たちが考えたアイデアと技術で一つでも多くの命を救いたい︒その思いを強く持って実現を目指します﹂と︑新規事業の一つの立ち上げに挑戦する︑医用機器事業部技術部の奥村皓史はいう︒
行政を巻き込んでのインキュベーションプログラムも夏からの開始を目指して準備を進めている︒ 社長以下︑経営陣からの期待も︑成果を待ち望む声も次第に大きくなってきた︒だが︑成功事例を出すことだけが成果ではない︑と服部は考えている︒ ﹁SHIPSに行ったらいくらでも 挑戦できる︑そういうプラットフォームにしていきたいんです︒島津がもともと持っている挑戦の文化を改めて強くしていきたい︒あそこにいけば︑失敗しても次の挑戦に向けて︑もういっぺんやれと励ましてくれる場所に︒そうやって失敗と挑戦を繰り返すなかで成功事例が出て︑﹃なんか面白いことやってんな﹄といろんな人に感じてもらえたら︑イノベーションの創出が文化になっていくんじゃないかと思うんです﹂ 活動開始当初︑清水はTシャツをデザインしてメンバー全員に配った︒
SHIPSのロゴは︑風を受けて膨らむ帆をイメージしたという︒ 針路を定め︑SHIPSはいよいよ大海に出ようとしている︒ かりませんし︑当社にとってメリットがあるものになるかどうかもわかりません︒でも︑あそこに行けばなんとかなるかもしれないという頼りにされる存在になれたらと思っています﹂︵廣瀨︶ ﹁そこまでやる必要があるのかという声もありました︒でも︑もともと京都はベンチャーが多い土地柄ですし︑当社をはじめものづくり企業も多い︒しかも世界から観光で人が集まってきますから︑発信力もある︒スタートアップは︑東京に集中していますが︑我々自身が根を張っているこの地で︑オープンイノベーションの文化を花開かせることができて︑島津のファンを増やすことができれば︑将来的には当社のためにもなるはずです﹂︵佐藤︶ やや壮大に思えるこのテーマにも︑
SHIPSにかける覚悟が明確に現れていた︒
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先端技術はどこにある
﹁清水くん︑ちょっといいか﹂構内を歩いていた総合デザインセンター︵当時︶の清水耕助は︑ふいに呼び止められた︒声をかけてきたのは経営戦略室長︒普段直接仕事のやりとりをする間柄ではなかった︒ ﹁ひとつ︑相談があるんだが﹂ ﹁なんでしょう﹂ いぶかしんだ清水だったが︑その言葉を聞くうち︑みるみる目の色が変わっていた︒ ﹁やります︒やらせてください﹂ 経営戦略室長が語ったのは︑こんな話だった︒ 島津製作所が京都のスタートアップを支援する投資ファンドに出資しようとしている︒出資の狙いは︑国内外のスタートアップやベンチャーキャピタルとの連携を深め︑AI︑IoT︑ロボティクスなど最新技術の動向を捉えること︒スタートアップとの協業や︑その技術を取り込むことで︑自らのイノベーション力を高めることを狙ったものだ︒いわゆるオープンイノベーションだ︒ もちろん︑お金を出すだけでうまくいくはずはない︒スタートアップの担当者と丁々発止の議論しながら︑良いものを作ることを目指す︒そのために︑社内からきらりと光る中堅社員を集め︑さまざまなネットワークを構築するオー
プンイノベーション推進体制を作ろうとしているのだ︒名付けて︑﹁ShimadzuInnovation Platform with Startups︵SHIPS︶﹂︒清水に︑そのSHIPSを先導してくれないかという打診だった︒ オープンイノベーションは︑近年のものづくり企業のトレンドで︑前例のない製品・サービスを実現することが目的だ︒島津も年間百数十件の共同研究を推進し︑ユーザーとのコラボレーション用ラボを開設するなどしてイノベーションの創出に取り組んでいるが︑これまで積極的にスタートアップへアプローチをする取り組みは少なかった︒中長期的な視点から︑スタートアップが持つ革新的な先端技術や︑奇想天外なアイデアを取り入れようと︑島津もいよいよ動き出そうとしていた︒
欠けていた
事業化のノウハウ
清水は︑2007年プロダクトデザイナーとして島津に入社した︒2012年にできた海外現場研修制度に先陣を切って応募し中国の現地法人へ赴いた際︑急速に進歩を遂げる中国のビジネスに衝撃を受けた︒ ﹁聞いたこともないサービスを掲げたスタートアップが次々に現れ︑数ヶ月もすると︑そのサービスが世の中に浸透していく︒〝変わる〟ことを恐れないし︑〝変える〟ことに貪欲でした﹂ 清水は以降︑社内にも斬新なアイデアを出す仕組みや︑素早い意思決定が 必要だと︑臆することなく周囲に伝えてきた︒社外との付き合いも多く︑島津が出資するファンドの母体であるスタートアップ支援組織にも︑すでに何度か顔を出していた︒渡りに船とは︑まさにこのことだ︒ 医用機器事業部グローバルマーケティング部︵当時︶の服部充宏にも声がかかった︒﹁最先端の技術で人の役に立ちたい﹂との思いを抱えて島津に入社︒しかし︑せっかくの技術が本当に役立てられるまでに時間がかかってしまうことへのもどかしさを抱えていた︒ ﹁島津は長い歴史のなかで︑新しいことを始めることは多いのに︑それを事業化することが苦手だと言われてきました︒自分でも感じていたことであり︑お客さんや患者さんが本当に求めているものを︑より早く製品化して市場に届けなければと︑焦る気持ちがありました﹂ そこで服部は社会人大学院に通い︑
MBAを取得︒事業化のノウハウを学ぶとともに︑社外に多くのネットワークを構築し︑切り込み隊長として新しい事業の立ち上げに奔走していた︒ 2018年7月某日︑SHIPS初ミーティングの日がやってきた︒清水︑服部のほか︑経営戦略室のM&A担当の佐藤道隆︑分析計測事業部技術部の古田哲朗︑基盤技術研究所新事業開発室の廣瀨竜太がメンバーだ︒ 話し始めてすぐわかったのは︑全員が﹁新しいことをやりたい﹂という共通の熱意を持っていることだった︒まずはス タートアップと大企業のマッチングを行っているイベントに顔を出し︑経営者らと話すという活動からスタートした︒
文化の違いを痛感
活動を始めるとすぐに︑全員が自分たちとの違いに気づいた︒ ﹁彼らは︑何をするにも世の中ありきなんです︒世の中にはこんな課題があって︑それをなんとかしたいという熱が新しいものをつくりだす動機になっているんです﹂︵清水︶ ﹁みんな大きなビジョンを持っていて︑たとえばマンションの一室で一人で活動している人でも︑自分の意志で生きていることがひしひしと伝わってくるんです︒楽しそうで︑うらやましくも思えました﹂︵服部︶ 古田は︑以前から技術部内での開発効率を課題と捉え︑改善を進めていた︒
SHIPSに参加したのも︑スタートアップの現場を見ることで︑改善に役立つアイデアがないか探すためだった︒ 実際︑目からうろこが落ちた︒ ﹁スタートアップの多くは︑企画する人と実際に作る人が同じで︑考えながら手も動かしている︒しかも︑できるとすぐ顧客に見せにいって︑そこで要望があればまた自分で作り直す︒私たちのように数千人規模の企業では︑設計陣が考えに考えて仕様が決まってからじゃないとエンジニアの手は動かせない︒しかも仕様がしっかり決まっているからこそ︑簡単には修正できない︒スタートアップのやり方は︑一見無駄な工程も多くみえるかもしれませんが︑顧客の課題を解決することがゴールと考えれば︑こうやって直接顧客も巻き込んでいく方法も近道なんじゃないかと思いました﹂ 大きく異なるスピード感と文化︒メンバーは︑イノベーションとはこうして生まれてくるのだということを痛感した︒同時にそれは︑このミッションが簡単ではないことを予感させた︒
新規事業に臨む覚悟
それぞれが時間を見つけては情報を集め︑毎週1回︑その情報を持ち寄って顔を合わせつつ次の手を考えた︒ 秋になり︑メンバーの中で少しずつビジョンが見え始め︑活動のテーマを決
経営戦略室グローバル戦略ユニット社外連携G 佐藤道隆 WEBでもご覧
いただけます
2019
島津製作所は︑ヘルスケア領域を主要成長市場のひとつに位置付けています︒そのヘルスケア領域で︑革新的な新製品を開発し︑顧客・社会の課題を解決するソリューションを提供することで︑ヘルスケア事業の拡大を図るため︑本社のある三条工場︵京都市︶の敷地内に︑新開発棟﹁ヘルスケアR&Dセンター﹂を建設︒2019年6月に開所しました︒ 当社の強みである分析計測技術と医用画像診断技術を生かした技術開発を行い︑ライフサイエンス分野の深耕︑科学技術を用いた高齢化社会への貢献︑健康を増進させる食品開発支援など︑社是﹁科学技術で社会に貢献する﹂のもと︑持続的な成長を続けていくことを目指しています︒今後は同センターを中心に︑ヘルスケア領域において︑他を圧倒できる革新的な新製品開発や顧客の課題を解決するソリューションを提供します︒
ヘ ル ス ケ ア R & D セ ン タ ー
建設の
目的ライフサイエンスなどヘルスケア関連の開発部門を集約することで技術融合を促進し︑得られた要素技術を 早期に製品化し︑分析計測事業と医用事業の事業連携室を設置して︑ヘルスケア領域における両者の融合を促進します︒
●島津製作所のコア技術や産学官連携の取組みや成果を紹介し︑議論できる場として﹁オープンイノベーションエリア﹂を設置︒先進的顧客︑外部研究者との協働を促進する︒
●ヘルスケアの大きなイノベーションを創出︑日本から世界に発信する︒
●研究成果の社会実装に取り組み︑より良い社会の実現に科学技術で貢献していく︒
共同研究開発
ラ ボ
﹁K Y O L A B S
︵キョウラボ︶﹂で オ ー プ ン イ ノ ベ ー シ ョ ン を
推進内外の英知を集結し︑ヘルスケアを中心とした革新的技術の創出を目指した共同研究開発ラボを常設しています︒﹁人の健康﹂の維持・増進のために︑分析と医用の技術を融合することで︑たとえば︑常時可能な小型計測機器や︑自宅をつなぐ遠隔医療の実現︑心の健康を見守る技術︑人に優しい検査室・診察室など︑幅広い領域で革新的な製品やサービスの提供を目指します︒
ヘ ル ス ケ ア 領 域 に お け る 技 術 開 発 能 力 を 強 化 開 発 の 中 心 拠 点 ﹁ ヘ ル ス ケ ア R & D セ ン タ ー ﹂
お客様とともに新しい価値を創るオープンイノベーション空間、共同研究開発ラボ「KYOLABSTM」がある。