ア ル ・ア ンダル ス の ア ラ ビア語(石 原)67
ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語
品 詞 論 的 立 場 か ら(2):性,数,代 名 詞
石 原 忠 佳
は じめ に
筆 者 は前 稿 の結 び で,ア ラ ビア語 の きわ だ った 特 徴 の 一 っ と して,一 部 の 話 し言 葉 が 総 括 言 語 的要 素(pro‑synthetic)を と どめ て い る事 実 に触 れ っ つ,ア ラ ビア 語 の 諸 方 言 に お い て は 名 詞 の 語 尾 変 化(declensino)が 健 在 で あ る こ とを 名 詞,形 容 詞,さ らに定 冠 詞 にみ られ る具 体 的 な例 を も っ て示 し た 。 本 稿 で は 性 や 数 の 問 題 を と りあ げ,口 語 と して の ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア語 が 呈 す る きわ だ った側 面 を,代 名 詞 に焦 点 を あ て て 引 き続 き検 証 す
る こ と にす る。
6性(gender)に 関 して
ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 で は,女 性 名 詞 を 表 す 唯0の 形 態 素 は /‑a(t)/で あ る。 こ の 形 態 は 後 方 に 名 詞 を 伴 っ た 場 合 や,双 数 の 形 態 素 と の 合 体 の 際 に顕 在 化 す る が,こ う した 現 象 は ネ オ ア ラ ビ ア 語 全 般 で 普 遍 性 を も つ こ と が 確 認 さ れ て い る:IQ11/2/4.suffatalkasrコ ッ プ の 縁 」,Alc 8.duffetay「 ドア ー の 二 つ の チ ョ ウ ツ ガ イ 」 〈{dff},Va.sajaratalhabb
「西 洋 桜 の 木 」 〈 「種 子 の 木 」,Tp,(Granada)Talara〈/karatal̀arab/
c4sa
「ア ラ ブ 人 地 区 」,alrihatayn「 二 つ の 引 き 臼 」</arrahawani/〈{rhw},
(47) ̲̲(48}
ihdatha「 そ れ ら の う ち 二 つ 」 〈/'‑ihdaha/,̀a§atakrあ な た の 杖 」 〈
(49)(50)
/̀asaka/,sanatak「 あ な た の 栄 光 」 〈/sanaka/,mawl(a)百 「わ た し の 主 人 」 〈/mawlati/,IA400.dawatu「 彼 の 薬 剤 」 〈/dawa'uhu/
こ の 女 性 名 詞 の 形 態 素/‑at/は,後 方 に 形 容 詞 を 伴 う 際 に も 現 れ る こ と が 確 認 さ れ て い る:IA155.al̀asataltayyibah「 上 等 な 夕 食 」,Alc 39.13.almarYatalakiYia「 最 終 回 」,39.5.α1加y窃adeyma「 永 遠 な る 人 生 」,
{51}
《matalahuva》 〈Alc.habethulue〈Va.habbathuluwwah「 ア ニ ス 《植 物 》」
(52)
い っ ぽ う で は,/‑t/が 顕 在 化 し な い 例 も 多 く 確 認 さ れ て い る:Dc8.
刀 〃¢ 磁 卿 α1θ 雇 π 「聖 者 た ち の 通 功 」,ficahaalfocaha「 聖 職 者 の 叙 階 式 」, Tp.(Granada)Cantaralcadi「 裁 判 官 の 橋 」 〈/gantara(t)algadi/,Alc
42.1.jaYihaallah「 神 の 手 足 」,nutunaα 伽 伽9「 山 羊 の 匂 い 」
7数 に 関 して
7‑1双 数 の 扱 い
ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 で は 単 数,双 数,複 数 の 区 別,さ ら に 単 一 名 詞 と 集 合 名 詞 の 相 違 も 名 詞 の 語 尾 変 化 に よ り 明 確 に 示 さ れ て い た 。 通 常 /‑ayn/が 双 数 の 形 態 素(モ ル フ ェー ム)と し て 機 能 した が,時 に は 日常 語 的 用 法 に お い て/‑in/が こ れ に と っ て 代 わ っ た:Va.abawayn「 二 人 の 父 」,saqayn「 二 本 の 脚 」,̀aynln「 二 つ の 目」,idin「 二 つ の 手 」
しか しな が ら双 数 形 の 後 に 名 詞 が 後 続 す る 場 合 で も,古 典 ア ラ ビ ア 語 と は 異 な り,語 尾 の ヌ ー ン/‑n/の 脱 落 を 伴 わ な い 。 こ れ は ネ オ ア ラ ビ ア 語 全 般 に み られ る 現 象 で あ る:IQ113/2/2.bìaynayngaze「 ガ ゼ ル の 二 っ
(53)
の 目 で 」,tultaynalmabì「 売 り上 げ の3分 の2」
そ の 一 方 で,身 体 に お け る 二 つ の 器 官 を あ らわ す 名 詞 に 接 尾 代 名 詞 を 伴 う
アル ・ア ンダ ル ス の ア ラ ビア語(石 原)69
(54}
際 に は/‑n/が 脱 落 し た こ と が 確 認 さ れ て い る:IQg/34/3.biyadayh
「彼 の 二 つ の 目で 」,Alc.45.14.fiydeiq「 あ な た の 二 っ の 手 に 」,Z1640.
rijlikrあ な た の 二 つ の 脚 」
通 常 西 方 ネ オ ア ラ ビ ア 語 で は,双 数 の 使 用 は 日常 語 を 除 い て0般 的 で は な か っ た 。 そ し て 時 に は,接 頭 辞 的 に 数 詞/zawj/を 単 数 名 詞 に 先 行 さ せ て
(55){56)
「二 」 の 概 念 を 示 し た:IQ20/10/1.zawjkagadr二 枚 の 用 紙 」,121/2/3.
(57)
alzawjrixax「 そ の 二 っ の 城 《チ ェ ス の 駒 》」,zawjlihafr二 組 の ベ ッ ト カ
(58)
バ ー 」,zawjmaharis「 二 つ の 乳 鉢 」,Alc.zeuchminaYigZl「 二 人 の 男 」, min96%腕alguin=leuney「 二 つ の 色 か ら 」 〈{lwn},zeuchα 磁9「 二 つ の 頭 」
し か し な が ら 多 く の 場 合,こ う し た 双 数 の 形 態 素 は 次 第 に 複 数 の 形 態 素 と の 区 別 を 失 い,両 者 は 同 一 化 し て い っ た:IQ143/5/4.̀ayn了kumrあ な た が た の 目 」,Va.isdagaynrこ め か み 」 〈⑲dg},'idràaynr腕 」,aljibal
く59)
lahàaynaynwalhitanlahaudnayn「 山 に は 目 あ り,壁 に は 耳 あ り 」
7‑2複 数 の 扱 い
ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビア 語 に お け る規 則 複 数 や 不 規 則 複 数 の 用 法 は, 古 代 ア ラ ビ ア 語 の 基 本 的 素 性 を 維 持 し て い る 。
① 男 性 規 則 複 数
他 の ネ オ ア ラ ビ ア 語 同 様,男 性 規 則 複 数 形 の 使 用 は 頻 繁 で,特 に 形 容 詞 で は こ の 傾 向 は 顕 著 と な り,男 女 の 性 の 区 別 は 失 わ れ て い る:Va.a"sarin
「麻 痺 した 」,̀azlzh「 栄 光 あ る 」,Alc.α9%配 〜ceud〜ceudin「 黒 い 」, の 勧 勿 「困 難 な 」,卿 伽 魏 く{smm}「 唖 の 」,知 窺吻 〜kamYiin「 日焼 け した 」
〈{xm.r},〃2罐 漉 加 〜moaYrikin「 女 性 詩 人 」 〈{'rx},
しか し な が ら若 干 の 語 彙 で は,複 数 形 に お け る 男 女 の 性 を 区 別 し て い る:
Va.xarufah〜xirfan「 雌 の 子 羊 」,Alc.okt〜 狛槻 「姉 妹 」,guaquila〜vquele
「女 性 検 事 」 〈{wkl}
ま た 前 項7‑1.で 取 り 上 げ た 双 数 形 の 場 合 同 様 ネ オ ア ラ ビ ア 語 の 特 徴 の 一 つ と し て,後 に 名 詞 が 後 続 す る 場 合 で も 語 尾/‑n/の 脱 落 を と も な わ な い:IQg/28/3.mudallinaludnayn「 垂 れ 下 が っ た 耳 で 」,Alc.vcinin alhacene「 償 い の 日 々 」 〈/sanah十al十{hsn}/,huluinallicin「 滑 ら か
な」 〈 「舌 に 心 地 よ い 」
② 女 性 規 則 複 数
/‑at/は 女 性 規 則 複 数 を 示 す 形 態 素 で あ る が,グ ラ ナ ダ 県 の ア ラ ビ ア 語 で
(60)
は 時 に 硬 口 蓋 化 現 象 に よ り/‑it/と な っ た:IQ129/6/3.jarhatr怪 我 」, 93/2/1.nazlat「 風 邪 」,Va.batrahat「 膿 庖 」,baglahat「 雌 の ラ バ 」,
(6i)
kasrahat「 パ ンの か け ら」,harkati,Alc.zahca〜zahcat「 下 落 」 〈{zhq}
③ 不 規 則 複 数
ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 や ロ マ ン セ で は,以 下 の17の 形 態 が 最 も 多 く確 認 さ れ て い る 複 数 の 形 態 で あ る
③ 一1:{a12a3}型
こ の 形 態 は,碑 銘 な ど に 残 る 南 ア ラ ビ ア 語 群 の ア ラ ビ ア 語 や エ チ オ ピ ア 語 に 多 くみ られ,さ ら に は,イ エ メ ン的 用 法 の 影 響 を 多 分 に 被 っ て い る 可 能 性
tsa>(63)
が 指 摘 さ れ て い る:Va.ajr助 「翼 」 〈{jnb},amya「 水 」 〈/miyδh/〜/amwah/,
く (65)
awrat「 相 続 人 」 〈/wurata'/,aqbar「 墓 」 〈/qubur/,Alc。 α796」 「郵 便 」
/rasa'il/
③ 一2:{a12u3}型
Va.rikab〜arkub「(馬 具)の ア ブ ミ 」 〈/rukub/,MT452.6.arjul
「足 」 〈/arjul/,Alc.naala〜anuicl「 サ ン ダ ル 」 〈/nìal/〜/aǹul/〈
{ǹ1},fatal〜aztol「 バ ケ ツ 」 〈/astal/〜/sutul/〈{Std},gadir〜 α8ゴ∂7「 用 水 地 」 〈/gudur/〜/gudran/〈{gdr},lic"zn〜aldun「 言 語 」 〈/alsinah/〜/alsun/
<{lsn}
③ 一3:{a12f3a}型
ア ル ・ア ンダ ル ス の ア ラ ビア語(石 原)71
Alc.gueli〜avlis「 ア シ ス タ ン ト」 〈/awliya'/〈{wly},tabib〜atibbe
「物 理 学 者 」 〈/atibba'/〜/atibbah/
こ の 型 は,時 に{a12a3a}の 形 態 で 現 れ る こ と も あ る:Va.zugaq〜azaqqah
「横 町,袋 小 路 」 〈/aziqqah/,gasis〜aqassah「 聖 職 者 」 〈/qusus/〜/qusus/,
(s7)
sarir〜asarrahrベ ッ ト 」 〈/asirrah/,ajannahr庭(複 数)」 〈/jannat/
〜/jinan/
(ss)
③ 一4:{1u2u3}型
こ の 型 は 古 典 ア ラ ビ ア 語 本 来 の{1u2(u)3}型 や{1u2u3}型 か ら 転 じ た も の と 考 え ら れ る:IQ17/4/4.ususr土 台,基 礎 」 〈/usus/,Alc.
quitib〜eutub「 本 」 〈/kutub/,tabaa〜toboa「 音 楽 」 〈/cfibs/
さ ら に こ の 型 は,形 容 詞 で は バ リ ア ン トの{1u22u3}で 現 れ る こ と も あ る:Va.farig〜furrug「 空 の 」 〈/furrag/,gasih〜qussuh「 堅 」 〈 qas1Y/<{qsw}
③ 一5:{1i2a3}お よ び{1i213}型
こ れ ら の 型 は,古 典 ア ラ ビ ア 語 で{1i2a3}あ る い は{1i2a3}の 型 を も っ 語 彙 に 適 用 す る:Va.sarì〜.̲sera「 速 い 」 〈/sarì/,jummah〜jimam
「頭 髪 」 〈/jummah/〜/jumam/,Alc,g6〃e,g〃61「 篭(単 複)」<
/sila1/,ceub,cieb「 着 物 」 〈/tiya,b/,ibra,ybaY「 針 」,raynal,rimil「 砂 」 /ritual/
③ 一6:{la2i3}型
こ の 型 は,古 典 ア ラ ビ ア 語 の{1a2i3}の 型 を そ の ま ま 適 用 し て い る=
Alc.hirnar〜 伽 癬 「ロ バ 」 〈/hamir/,̀abd〜̀abid「 奴 隷 」 〈/̀abxd/
③ 一7={1a2a3}型
古 典 ア ラ ビ ア 語 の 単 数 形{1a2a3a}か ら 転 じ た バ リ ア ン ト と し て,複 数 形 を 示 す 形 態 と し て こ の 型 が 現 れ る こ と は 稀 で あ る が,集 合 名 詞 を 示 す 形 態
と し て 機 能 す る:Va.vadim〜xadam「 女 中 」 〈/xadimat/,Alc.kaxebe,
kaxeb「(建 築 用 の)梁 」 〈{xsb},daraqua,daraq「 ハ ー ト型 で 皮 製 の 盾 」 〈
(69)(70)
/daragat/,defla,defel「 キ ョ ウ チ ク ト ウ(植)」</diflal/,casaba,oα9の
(71)
「城 郭 の 砦 」 〈q邸ar巨t/
③ 一8:{1u2a3}型
(72}
こ の 型 は 単i数が{1u23a}の 語 彙 に 適 用 され た:hukak「 小 さ な箱 」 〈
(73)
/hugaq/〜/higaq/,luga,m「 か み っ き 」 〈/luqam/,Alc.gα め α,g(厩 δ 「戦 闘 集 団 」 〈/surab/,肱gzα,伽zz6¢ 「裁 縫 」 〈/xuraz/「 革 に あ け た 穴 」
時 に は{1u2a3}の バ リ ア ン ト と し て{1a23a}が 現 れ た:Alc.VcaYZa, cara「 寒 村 」 〈/qura/,daYta,duYat「 屍 」 〈/durat/〜/darn/
③ 一9:{1u2a3a}お よ び{1u2a3工}型
こ れ ら の 型 は そ の ま ま の 形 態 で 使 用 さ れ た:Alc.ifaqua,focaha「 イ ス ラ ー ム 法 学 者 」 〈fugaha'/〈{fqh},VacZr,09α ㍑ 「補 虜 」 〈/usara'/,equil1
〜 η%616「 大 食 い の(人)」 〈/akkal/,伽z7z,Vzeta「 名 誉 あ る 」 〈/àzza'/, Va.ujarah〜ujaxar女 中 」 〈/ujarà/,sukara「 酔 っ 払 い 」 〈/sakra/〜
(74)(75)
/sakara/〜/sukara/,fugara「 貧 乏 人 」 〈fugara'/,usara「 捕 虜 」 〈 /usara'/
③ 一10:{1u22a3}お よ び{1u22r3}型
古 典 ア ラ ビ ア 語 の こ れ ら の 形 態 は,単 数 形 が 意 味 上 形 容 詞 や 分 詞 と 関 連 を も っ 多 く の 語 彙 に 適 用 さ れ る:Alc.ficiq,カ9勿 「内 縁 関 係 の 」 〈/fussaq/
〜/fawasiq/ ,Vguzcze,9躍 α∂ 「広 い 」 〈/wisガ/,lean,luyin「 家 具,ク ッ シ ョ ン 」,「 柔 ら か い 」 〈/1ain/〜/alyina'/,kunce,kunic「 雌 雄 同 体 の 」 〈
(76)
/xinat/〜/xanata/,quhhab「 売 春 婦 」 〈/gihab/
さ ら に,古 典 ア ラ ビ ア 語 で 弱 母 音 を 第 三 語 根 に も っ 語 彙{12w}お よ び {12y}は,{1u2a(t)}の 形 態 を も っ て 現 れ た:Alc.Yayni,箔o〃2δ 「大 弓 を 射 る 人 」 〈/rumat/,g°ueli,gulet「 王 子 」 〈/wulah/「 支 配 者 」 〈{wly}
③ 一11:{1a23a}お よ び{1a23r}型
ア ル ・ア ンダ ル ス の ア ラ ビア語(石 原)73
こ れ ら の 型 は そ の 使 用 が 稀 で あ る:Alc.daayf,daafi「 貧 乏 人 」 〈
{77)(78)
/dùofa'/〜/dàfa/「 弱 者 」,meute「 死 人 」 〈/mauta/〜/amwat/,〃2砿 磁
「病 人 」 〈/march,/,
③ 一12:{1a2a3a}型
こ の 型 は 古 代 ア ラ ビ ア 語 に 頻 繁 に 現 れ る 型 で あ る が,ア ル ・ ア ン ダ ル ス の
(79}
ア ラ ビア 語 や ロマ ンセ で も多 くの文 献 で 確 認 され て い る:waratah「 相 続 {80)
人 」 〈/wurata'/,多'alabah「 学 生 」 〈/tullab/〜/talaba/,Alc.cid,cede
(81)
「主 人 」 〈/sadah/〜/'asyad/,vg°uazaY,guazara「(裁 判 所 な ど の)執 行 官 」
〈/wuzarガ/「 姫 」,vzzmirzamara「(楽 器)醸 家 」 〈/ZU㎜ 灘/「 フ ル ー (82)
ト演 奏 家 」,Va.lubb〜labah「 狼 」 〈{1PP},saxah「 老 人 」 〈/v‑‑suyux/〜/v‑asyax/, (83)
dababah「 熊 」 〈/adb…ib/〜/diba1)ah/
(84)
こ の 型 は さ ら に 異 形 態{1a22a3a}で 現 れ る こ と が あ る:Va.faggarah
「貧 乏 人 」</fugara'/,rakkabah「 騎 手 」 〈/rukkab/〜/rukban/, sahharah「 魔 術 師 」 〈/suhhar/〜/saharah/
ま た 古 代 ア ラ ビ ア 語{1a2a3a}に 由 来 す る 複 数 形 も さ ま ざ ま な 文 献 で 確 認 で き る:IQ28/1/2.&Z677.sabaya「 少 女 」 〈/sabaya/,Va.
zawaya「 角 度 」 〈/zawaya/,Alc.kataye「 失 敗 」 〈/xataya/
③ 一13={1i23ax1}お よ び{1i23rn}型
Alc.uucab,eigben「 鷲 」 〈/̀igban/〜/àqub/,kayof,kirfin「 子 羊 」<
/xiraf/一 一一/axrifa/一 一一/xirfan/
③ 一14:{1u23an}お よ び{1u231n}型
Alc.Yiquib,rugbin「 騎 手 」 〈/rukkab/〜/rukban/,ブ 勿9,vguYCZn「 騎 手 」
〈/fursan/〜/fawaris/,Sabi,伽 ∂伽 「男 の 子 」</sibyan/〜/sibyah/
③ 一15:{1u23}型
こ の 型 は,す で に ③ 一1で 言 及 し た{a12a3}の バ リ ア ン ト と し て 用 い ら
れ る:Alc.azfar,砺 力7「 黄 色 」 〈/asfar/,abiad,bid「 白 色 」</abyad/,
α∂〃諺,Vumz「 盲 目 」 〈/àma/
③ 一16:{a12i3a}型
こ の 型 は 稀 に 確 認 さ れ る:Va.asfiyar(親 愛 な る)友 人 」 〈/asfiy盃'/, Z1134.asdiga「 友 人 」 〈/asdiga'/
③ 一17:{1a2a3i4}お よ び{1a2a3i4a}型
四 語 根 名 詞 の 複 数 の 形 態 と し て,ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 は こ れ ら (ss>
の 型 を 有 し て い た:Alc.azcuf,α96伽 力 「司 教 」 〈/asagifa/〜/asagif/,
aimlaq,碗 痂1∫(脚 「巨 人 」 〈/̀ama,ligah/,カ ツ1θ 伽 プ,felecife「 哲 学 者 」 〈 /falasifah/,Va.muxaddah〜maxayidr枕 」 〈/maxadd/,mabajjah〜mahayij
「並 木 通 り 」 〈/mahajj/「 巡 礼 の 道 」
こ の よ う な 単 数 と 複 数 の 形 態 的 関 連 は,ア ラ ビ ア 語 モ ロ ッ コ 方 言 で 確 認 で
(86),(87)
き る と の指 摘 と と も に,F.Corrienteは 若 干 の 例 を あ げ て い る
次 に ア ル ・ア ンダ ル ス の ア ラ ビア語 に用 い られ る特 別 な形 態 の 単 数 語 尾 を 引 き合 い に 出す な ら,La19.dubbanah「 ハ エ 」,S1'banah「 シ ラ ミの卵 」, musranah「 内臓 」 な どの 例 が あ げ られ る。 これ らは 本 来 古 典 ア ラ ビア語 で
は確 認 され な い形 態 で あ るが,古 代 ア ラ ビア 語 に は従 来 存 在 して い た 集 合 名 詞 の 複 数 を示 す モ ル フ ェー ム/‑at/と の 混 同 に よ り こ う した 形 態 が 登 場 し
た と 考 え られ る 。 そ して 時 に は 発 音 上 の モ ル フ ェ ー ム/‑ah/が 以 下 の よ う な 語 彙 で 複 数 を 示 す こ と も あ った:IQ108/7/2.raggadah「 よ く眠 る人 」
(89)
〈{rqd},IA37.gammarah「 泥 捧 」<{qmr},IA265.̀arramah「 勇 気 の あ る 」 〈{̀rm},IA478.gassarah「 洗 濯 屋 」 〈{qsr},Va.zagal〜zagallah
「勇 気 の あ る 」 〈{Zgl},Z1356.naZ癒rah「 観 客 」 〈{nzr},Alc.挽o∂tazilJ moatazilrx「 変 則 的 な 」 〈{̀zl}
ま た ア ル ・ ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 の 特 徴 と し て,本 来 は 複 数 と し て 機 能 す る 形 態 が,時 に は 意 味 上 単 数 と な る こ と が あ る(depluralization)。 こ う
(90)
した 複 数 は 独 自 の 形 態 を 持 っ こ と が 多 い:azrar〜azirrah「 ボ タ ン 」 〈
ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア 語(石 原)75
/azrar/〜/zurur/,Va.karm〜kurum=kurmat「 ブ ド ウ 畑 」 〈{krm}〉
(91)
Alc.cδ7挽,cuYmit,riad,aYiida「 庭 」 〈/raud/〜/riyad/〜/rldan/,
(92)(93)
gasawisin「 司 祭 」 〈/gasawisa/〜/qussan/,gurusat「 大 農 園 」 〈/giras/
〜/agr百s/
8数 詞 に 関 して
8‑1基 数 の 扱 い
他 の ネ オ ・ア ラ ビア 語 同様 に,ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア 語 も 「3」 以 上 の数 にお け る男 女 の 性 の 区 別 を を 失 った 。 さ らに ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ
(94)
ビ ア 語 で は,「2」 に っ い て も 男 女 の 性 を 区 別 し な い:fadilataynitnayn
(95)(96)
「二 つ の 徳 性 」,xamsashur「 五 カ 月 」itnaynwaxamsTndarajahr摂 氏 52度 」,IQ82/0/2.arbàayyamr四 日 間 」,87/5/3.talatatman「 八 分 の 三 」,96/4/2.sab̀aV‑asya「 七 っ の 事 柄 」,IA52.sab̀ad烈ì「7本 の 肋 骨 」 〈{dl̀}
以 上 の よ う な 様 々 な 例 が 検 証 さ れ て い る が,ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 の 数 詞 に 関 し て の,時 代 別 あ る い は 地 域 別 の 詳 細 な 研 究 は,今 日 ま で ほ と ん ど な さ れ て い な い の が 現 状 で あ る 。 大 筋 か らあ る 種 の 規 則 的 な も の を 導 く
とす れ ば,い わ ゆ る 独 立 して 数 詞 の み を 取 り上 げ る と き は,従 来 の 古 典 文 法 で 用 い られ た 男 性 名 詞 を,い っ ぽ う 名 詞 の 前 に 置 か れ る 数 詞 に は 従 来 の 女 性
く
名 詞 を使 用 した よ うで あ る。 しか しなが ら母 音 で 始 ま る語 に先 行 す る数 詞 は,
(98)
音 の 調 和(euphony)か ら/‑t/を と も な っ た こ と も 確 認 さ れ て い る 。 次 に 「11」 か ら 「19」 ま で の 基 数 の 形 態 を,ア ル ・ ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 と ロ マ ン セ で 比 較 す る た め にAlcala(1505)を 引 き 合 い に だ す:
/hida(̀)vsar/vs.hidaaxar「11」,/itna(̀)vsar/vs.ycnaaxar「12」, (99){100)
/talatta(̀)sar/vs.calataaxarf13」,/arbàta(̀)sar/vs.
aYbaataxaY「14」,/xamista(̀)vsar/vs,kamiztaaxaY「15」,/sitta(̀)vsax/vs.
citaaxar「16」,/sab̀ata(̀)vsar/vs.g訪 α∂如 κα7「17」,/tamanta(̀)vsar/vs.
camantaaxar「18」,/tis̀ata(̀)vsar/vs.'ゴ(カa'α%α7
い っ ぽ う,「10」 や 「100」 の ま と ま り 関 す る 基 数,お よ び そ れ 以 上 の 基 本
数 の 例 は,ア ル ・ ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 と ロ マ ン セ で 以 下 の よ う に 対 応 し て い る 。 同 じ くAlcala(1505)か ら の 引 用 で あ る:/̀vrsrin/vs.観 κθ7勉
「20」,/talatfn/〜/talitfn/vs.calicin「30」,/arbàfn/vs.aYbaain
「40」,/rxamsin/vs.kamcin「50」,/sittin/vs.citin「60」,/sab̀fn/
vs.gα ∂α読 η 「70」,/tamanin/〜/tamlnfn/vs.¢ α珈 漉 π 「80」,/tis̀1n/
vs.麹 α∂髪 π 「90」,/miyya/vs.vmza「100」,/mitay(n)/vs.mitey(n)
「200」,/talatmiyya/vs.calacmis「300」,/arbàmiyya/vs.aYbaamis
「400」,/xamsumiyya/vs.緬 郷%編 α 「500」,/sittumiyya/vs.cetu v
mza「600」,/sab̀amxyya/vs.g励 α∂Vmza「700」,/tam工nmiyya/vs.
Ac aynan漉 α 「800」,/tis̀amiyya/vs.≠ ∫gαavynas「900」,/alf/vs.elf
「1000」,/alfay(n)/vs.elfeニ ソ 「2000」,/talatalaf/vs.calacelef
「3000」,/arbàalaf/vs.aYbaaelef
8‑2序 数 の 扱 い
「3」 か ら 「10」 ま で の 序 数 は,少 な か らず 教 養 語(highregister)の 影 響 を 被 っ た 。 特 に 注 目す べ き 点 は これ らの 語 彙 に お け る 口蓋 化(im烈a)の 緩 和 で あ る:Alc.δ 励 ゴ「二 番 目」,calic「 三 番 目」,Sabie「 四 番 目」,願 漉9
(101)
「五 番 目 」,Cadiz「 六 番 目 」,鋤 ∫2「七 番 目 」,a伽 勿 「八 番 目 」
ま た,数 詞 に 起 源 を も っ 家 系 ・系 統 を 表 す 名 称(い わ ゆ るnisba)で は 次 の よ う な も の が 確 認 さ れ て い る:Dc6.,9.&11.thelithi,aYUabii,
haanci,themini,tiphii,axiYi
ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビア語(石 原)77
9代 名 詞 に 関 して
9‑1人 称代 名詞 A)主 格
(1Q2}
一 人 称 単 数:/ana/〜/anl/
一 人 称 複 数:/hinat/
,/akin/,/(a)han/,/ihna/,/nihin(a)/,
(103)
/Hahn(u)/
二 人 称 単 数 《共 通 》:/anta/,/att/
二 人 称 複 数:/antum/
三 人 称 単 数 《男 性 》:/hu/,/huwwa(t)/,《 女 性 》:/hi/,/hiyya(t)/
三 人 称 複 数 《共 通 》:/hum/,/humat(t)/
B)接 尾 代 名 詞
一 人 称 単 数 《名 詞 と と も に 》:/‑i/
,/‑ya/,
《動 詞 と と も に 》:/一(a)ni/
一 人 称 複 数:/‑ina/お よ び/‑ana/
二 人 称 単 数:/‑ak/
二 人 称 複 数:/一(u)kum/
三 人 称 単 数 《男 性 》:/‑u/お よ び/‑h/,《 女 性 》:/‑ah/
三 人 称 複 数 《共 通 》=/一(u)hum/
次 に こ れ らの 人 称 代 名 詞 の 用 法 に 関 し て,ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 の 特 徴 を あ げ る こ と に す る:
① 人 称 代 名 詞 の 三 人 称 が,指 示 代 名 詞 《遠 称 》 の 機 能 を 果 た した こ と:
{ia4)cia5)
huwwaal‑makan「 あ の 場 所 」,hiyya!‑alayyam「 あ の 日 々 」,huwa
{106)
alkarm「 あ の ブ ドウ畑 」
② 都 市 部 の ネ オ ア ラ ビア 語 に関 して は,三 人 称 の代 名 詞 に は 男 女 の 区別 が
(107)
な か った に も か か わ らず,三 人 称 複 数 女 性 の 形 態 と して/hunnat/が 確
認 された こと
③ 接 尾辞/‑ya/を 一人 称単数 の接 尾代名 詞 とす る こと:
(108}(109)
uxay‑ya「 私 の お 兄 ち ゃ ん 」 〈/axi/,iday‑ya「 私 の 両 手 」 〈/yadaya/,
(110){111)
Alc.leye〈liy‑ya「 私 の た め に 」 〈/li/,biy‑ya「 私 と い っ し ょ に 」,
くユ
fiy‑ya「 私 の 中 に」
しか しな が らそ の 他 の 母 音 に関 して は,二 重 母 音 や 母 音 分立(hiatus)で 対 応 した:
(114)(113)
liwa‑y「 私 の 軍 旗 」 〈/liwa'1/,/tana‑y/「 私 の 賛 辞 」 〈/tan5'丁/,
(1ユ5}{lls)
siwa‑y「 私 を 除 い て 」 〈/siwa'丁/,dunya'1「 私 の 世 界 」 〈/dunyaya/,
{117){118)
nidei「 私 の 呼 び か け 」 〈/nida'i/,akoy「 私 の 兄 」 〈/axi/
④ 子 音 の 重 複 を 避 け る手 段 と して,ほ と ん ど の 場 合,接 尾 代 名 詞 に 先 行 す る名 詞 語 尾 に,い ず れ か の 母 音 を 随 意 的 に 挿 入 した こ と:
Alc.nehibbucum「 私 は あ な た が た を 愛 す 」 〈/nuhibbkum/,guechuhum
{119)(120)
「彼 ら のJ〈/wajhhum/,huildine「 我 々 の 父 」 〈/w… 丑idn盃/,rabena「 我 々
(121)
の 主 人 」 〈/rabbna/,sabrana「 我 々 の 忍 耐 」 〈/sabrna/
さ ら に 語 根 に 属 す 重 複 子 音 の う ち,後 方 の も の が 消 失 した 例 が 見 られ る:
(123)(122)
nehibhun2「 私 は 彼 らを 愛 す 」 〈{hbb},yehibcumr彼 は あ な た が た を 愛 す 」
⑤ 二 人 称 接 尾 代 名 詞 の 異 形 態(allomorph)と し て,/‑k(a)/が/‑ak/
{124)
に代 わ って使 用 され た と の指 摘 が あ るが,今 日で は特 殊 な詩 法 と して の用 法 の み に この 形 態 が 確 認 され て い る。F.Corrienteは こ の 用 法 が 細 分 化
{125)
方 言 に み られ る と して い るが,同 時 に 他 の ネ オ ア ラ ビア語 の 方 言 で も しば
(126)
しば 検 証 され る こ と を指 摘 して い る
⑥9‑1‑(B)で 既 に述 べ た よ う に,三 人 称 単 数 男 性 の接 尾 代 名 詞 は/‑u/
お よび/‑h/で あ る が,通 常/‑u/は 子 音 の 前 に,ま た/‑h/は 母 音 の 前 に お か れ た 。 しか し なが ら前 置 詞/li‑/「 〜 の た め に」 と の組 み 合 わ せ
(127)
に お い て は,/1u/あ る い は/lahu/の 二 つ の 形 態 が 可 能 で あ っ た 。 ま た
ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア 語(石 原)79
前 置 詞/bi/と の 組 み 合 わ せ で は/b蝕/が 確 認 され,意 味 上 は 「あ そ こ
く128)
に 」 と な る:al‑daralladisuknaybah「 私 の 住 む 家 」
⑦ さ ら に 三 人 称 単 数 女 性 の 接 尾 代 名 詞/‑a(h)/に 対 し て,教 養 語 と して の 用 法 で は 異 形 態/一(a)ha/が 確 認 さ れ て い る:
(129)(130)
rukkabha〈rukkaba(h)「 彼 女 の 騎 手(複 数)」,ninbaxxarha「 私 は 彼 女
{131){132)
に 香 を た き 込 む 」,nitallagha「 私 は 彼 女 と結 婚 す る」,badraha「 彼 女 の 満 月 」
9‑2指 示 代 名 詞(指 示 形 容 詞)
古 典 ア ラ ビア 語 同 様 に,指 示 代 名 詞 は 指示 形 容 詞 と 同一 の形 態 を 呈 す るが, ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア語 で は ロ マ ンセ の 基 層 の 影 響 で,指 示 代 名 詞 に
(133)
は近 称,中 称,遠 称 の 区別 が あ った 。 以 下 にそ れ ぞ れ の形 態 を示 す:
(134)
A)近 称:/hada/お よ び/hlda/《 単 数 》,/hawl(ay)/お よ び
(135)
/hawlin/《 複 数 》
ciss>
B)中 称:/hadak/《 単 数 》,/hawlink/《 複 数 》
(137)
C)遠 称:/dak/お よ び/dik/《 単 数 》,/hawlak/《 複 数 》 さ て ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 に お い て は,imala(palatalization)
が 顕 著 で あ る こ と は 既 に 指 摘 した が,そ の 結 果 と して 指 示 代 名 詞 の 単 数 形 に お け る 男 女 の 区 別 が 消 失 した こ と を 付 け 加 え て お く 。 こ う した 母 音/a/と /i/の 間 の 緩 和(neutralization)は,時 代 を 下 っ た 民 衆 語(10wregister)
の み に 限 らず,初 期 の 教 養 語(highregister)に も み られ た 現 象 で あ る:
{138)(139)(140)
dilamY「 こ の 命 令 」,diqa纏 「あ の 事 柄 」,fZdilyeum「 あ の 日 に 」,
(141)(142)(143)
daalmiski「 こ の 霧 香 」,diaigissah「 こ の 歴 史 」,daalayyam〜
くユぬ (145)
h乱噸al‑ayyam「 こ れ らの 日 々」,d5annugaymah「 こ の メ ロ デ ィー一」,Va.
da,k/dikallaylah「 あ の 夜 」
次 に 指 示 代 名 詞 の 形 態 に つ い て 明 記 す べ き 点 と し て,教 養 語 の 語 法 の 影 響
を被 っ て ロマ ンセ に お け る若 干 の語 彙 に は,古 典 ア ラ ビア 語 的 規 則 が 健 在 で
(146)
あ った こ と が あ げ られ る。 さ らに極 端 な例 と して は,同 一 の 指 示 代 名 詞 が 単 数 と複 数 の 区別 な く用 い られ て い た こ と が確 認 され て い る:
(147)
hadaal̀axnrin「 こ れ ら の 開 拓 者 た ち 」
9‑3関 係 代 名 詞
古 典 ア ラ ビ ア 語 同 様/alladi/が 多 くの 資 料 で 確 認 さ れ て い る:alladi
(148
agbalu)「 到 着 し た 者 た ち 」,alaxiita〃(149eda「..̲た る 物 事 」,havleqα 〃」謬
(151)
「あ れ らの 人 々 」,alynundaribaallediquinat「 起 こ っ た 戦 争 」
しか し な が ら民 衆 語 で は,/alladi/は/alli/に 取 っ て 代 わ られ た 。 時 に は/addi/と い う 形 態 も 確 認 さ れ た が,い ず れ も 早 口 の 発 音 か ら 生 じ る 同 化 現 象(assimilation)で あ る.さ ら に こ れ らの 発 音 は 表 記 上 は/d/と な っ
(152)
た:addilamnalhaqu「 私 が 捕 ま え る こ と の で き な か っ た 人 」,subhan
(153)
add了̀atak「 彼 が あ な た に くれ た 栄 光 」
こ の 関係 代 名 詞 は ロマ ンセ に 至 って様 々 な形 態 で 対 応 した:
{154}(155)
alehumajorob「 傷 っ い た 者 」,alecunttecol「 あ な た が 言 っ て い た 事 」,alle (156)
yanfas「 有 益 な も の 」,aallemetutunhallf7ト 合 法 的 で な い も の 」
{15$)
こ の 他Alc.で 検 証 さ れ る 独 特 な 形 態 が あ る が,こ れ らは 古 典 ア ラ ビ ア 語 か ら の 類 推(analogy)に よ る,過 剰 修 正(hyper‑correction)と し て 扱 う こ と が で き よ う 。 さ ら に,関 係 代 名 詞 が 主 語 人 称 代 名 詞 に よ っ て 取 っ て 代 わ
{159)
られ た 若 干 の 例 が 確 認 さ れ て い る:ardhiyakangarsan「 大 農 園 で あ っ
(lso>
た 土 地 」,kullqar̀ahhiyyabalhawmahrそ の 地 区 に 割 り 当 て られ た す べ て の 分 け 前 」
9‑4疑 問 代 名詞(疑 問 副 詞)
基 本 的 に は 一 定 の 形 態 か ら派 生 した もの が 用 い られ る
ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア 語(石 原)81
(16ユラ
①maあ る い はrminr誰 」,maあ る い はvas(hu)=iyyassu「 何 」 〈
/'ayyusay'inhuwwa/:IQ132/9/1.assanhu,Alc.men,menazeuch, me,ax,axu,axhu
②ayyrど れ,ど の 」:Alc.α 〃2繊)IQ1/7/3.aymin,104/1/2.
(w)Vasfaun「 ど の よ う な 種 類 の 」
く ラ(163)
③las(きu)〈/li'ayyivsay'inhuwwa/あ る い は̀alas〈/̀ala'ayyi
(165)(166){167)
say'in/「 V な ぜ 」,④hattas「 い っ ま で 」,⑤mata〜math「 い っ 」,⑥kif
{168){169}̲̲̲(170)
「ど の よ う に 」,⑦ay(n)「 ど こ 」,⑧ashai〈/vas+hal/あ る い はkam
「い く ら,い くつ 」,⑨vasma「 ど の よ う な も の で も 」
さ て こ れ ら の 疑 問 詞 を 用 い た 具 体 的 な 引 用 箇 所 を 確 認 す る:〃2α 短 〃観
(171)
tecuncaribateq「 あ な た の 親 類 で あ る よ う な 女 性 」,labuddminkabsma
くユア ラ ロ(173)
nudahhi「 私 が 生 け賛 にで き る よ う な雄 羊 が 必 要 で あ る」,aきmayaq司 「彼
(174)̲̲̲̲{175)
が 言 う い か な る 事 」,ayhabs「 い か な る 牢 獄 」,yavvwassunàmalbi而 垣
{176)
「私 は 自分 自身 で 何 を し よ う か 」,vwaskanyurar何 が 見 え て い た か 」,ay
ヱ の(178)
sang̀ah「 ど の よ う な 商 売 」,‑Vasbartal.̲vwasmaraqu「 鳥 と は ど の よ う な も の で,そ の ス ー プ は...」
さ ら に 関 係 代 名 詞/vas/は,前 置 詞 が 前 方 に 添 加 さ れ た 形 態 で 多 く の 場
(179)
合 に 用 い られ,関 係 副 詞 の 機 能 を 果 た す 例 が 確 認 さ れ て い る:arra
く
gasriyyahfasyakundaalsahm「 こ の 脂 肪 を そ の 中 に い れ る こ と の で き
く ユ
る 皿 を 私 に く れ 」,watlubsurrafah̀valastàtali「 君 が 登 る こ と の で き る
(182)
見 晴 ら し 台 を 見 っ け な さ い 」,allah...。.yàtinefasnaj̀aluh「 神 よ,我
{J.83)
ら に そ れ を 置 くべ き 場 所 を 与 え よ 」,layagnàbasmawajad「 彼 は 発 見 した も の に 満 足 し な か っ た 」
9‑5不 定 代 名 詞
(184)(186)(185)
ahadお よ びmanr誰 か 」,Vsayあ る い はV7/51r何 か 」,walasayr何 も 」 《否
(187}
定 》,walahad「 誰 も」 《否 定 》
く
これ らの 不 定 代 名 詞 を用 い た 具 体 的 な引 用 箇 所 を 確 認 す るvsayimaxa
(ass}
「あ る 印 」,v‑SIbi(垣̀ah「 あ る 商 品 」
10む す び
今 回 の続 稿 で は 形 態 論 全 般 を総 括 す べ く,筆 者 と して は短 い 期 間 なが らよ り多 くの 労 力 と時 間 を費 や した感 が あ る。 と りわ け,中 に は 本 論 の展 開 か ら 明 らか に逸 脱 して しま った よ う な事柄 も含 め て,傍 注 に掲 げ ざ る を得 な くな っ た 項 目が,前 稿 と合 わ せ て189箇 所 に も 至 って しま った こ と は,何 と も全 体 の バ ラ ンス を崩 して しま った の で は ない か と,大 い に危 惧 す る と ころ で あ る。
しか しなが ら,各 資 料 で 常 に遭 遇 す る動 詞 のパ ラデ ィグマ の多 様 性 を前 に, 筆 者 の 取 り組 んで い る域 は まだ 形 態 論 の一 部 に過 ぎ な い こ と を,切 実 な思 い で う け と め て い る。 と い う の は,そ れ ぞ れ の 資 料 が 示 す 事 柄 が,イ ベ リア半 島 に お け る 中世 の どの 時 代 の 言 語 現 象 に対 応 す る も のか,ま た そ う した 用 法 が 主 に どう い った 階 層 の人hに よ って 用 い られ て きた の か と い う言 語 の 水 準
(Register)を め ぐ る 問題 を,今 一 っ 正 確 に把 握 しきれ な い か らで あ る(本 稿 で は,教 養 語 を"highregister",民 衆 語 を"lowregister"と して,お お ま か な二 分 法 を試 み た が)。
そ こで前 稿 の 冒頭 で も触れ た よ うに,当 時 の状 況 を歴 史 言語 学 的 視 点 に立 っ て 今0度 なが め てみ れ ば,唯 一 の救 い は,今 日で は既 に 死語 と な って しま っ た ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア 語 の 言 語 学 的 痕 跡 が,北 ア フ リカの ア ラ ビア 語 マ グ レブ方 言 の 様 々 な側 面 に反 映 され て い る こ とで あ る。 しか しなが ら こ の マ グ レブ方 言 自体 が,大 筋 で は文 法 的 に統 一 され て い る も の の,音 韻 面 や 形 態 面 で(特 に 動 詞 に添 加 され る接 頭 辞 や 接 尾 辞 の使 用 に 関 して)地 域 格 差 が顕 著 で あ る こ と も事 実 で あ る。 筆 者 が渡 西 の 際 に身 を 寄 せ る ス ペ イ ンは グ
ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア 語(石 原)83
ラ ナ ダ の ア ラ ブ 学 研 究 所CSIC(Consejosuperiordeinvestigaciones
cientfficas)に て,各 方 面 の 研 究 に 携 わ る 多 く の モ ロ ッ コ人 学 者 に 尋 ね て も, モ ロ ッ コ ロ 語 の 文 法 的 側 面 に 関 して は い ま だ 統 一 した 見 解 を 見 い だ せ な い で い る の が 現 状 で あ る 。 と も あ れ,い っ に な る こ と か 明 言 は 避iけ る が,次 回 は サ ブ タ イ トル を 「形 態 ・統 語 面 的 立 場 か ら」 と 称 し て,ア ル ・ア ン ダ ル ス の
ア ラ ビア語 の動 詞 に関す る考 察か ら手が けた い と考 え てい る。
《略 語 》
(Tp.)=Toponyms地 名(カ ッ コ 内 は ス ペ イ ン に お け る 県 名)
{1}c.}=Ayala,MdeDoetorinaChristianaenleng°uaarabigaycastellana,, Valencia,1566.
(De.)=Dozy,R.&Engelmann,W.H.:●GlossaiYedesmotsespagnolset portugaisderivesdel'arabe,Leiden,1869.
(N.)=Neuvonen,E.K:IAS(澱 伽 例osdel/1/872elsigloXIH,Helsinki‐Leipzig, 1941.
(Alc.)=Alcala,P,de:Delinguaarabicalibriduo(Ante&Vocabulista) (ed.P.Lagarde}.Gottingen,1883.
(Va.)=Schiperelli,C.(ed.):1/ocabulistainArabico,Florence,1871.
(La)=R.̀Abdattawwab(ed.),Lahnal̀awamm(ta'lifAbiBalerM.B.
hasan.b.Madhijal‑tubaニ ソ漉),Cairo,1964.
(Lat.)=R.̀Abdattawwaab,Lahnal̀ammawattataunvurallugaun,Cairo, 1967.
(Stg.}=Steiger,A;Contributionalafoneticadelhispanoarabeydelos arabismosdeliberorromanicoyelsiciliano,Madrid,1932.
(Stn.)=Steiner,R.:Thecaseforfricative‐lateralsinProto‐Semitic,New Haven,Haven,1977.
(IQ}=GarciaGomezE.,TodoBenQuzman,Madrid,1972,
(ZM)=̀A.Matar,Lahnal‑̀amma万daw'addirasatal‑lugawiyyahal‑
haditah,Cairo,1967.
{Dz)=R.Dozy,Supplementaudiccionaires,Leiden1881,
(Mi)=C.Barcelo,MinoYiasislamicasenelpaisvalenciano,Madrid‑Valencia, 1984.
(Z)=M.Binきarl了fah(ed.),、4纏 〜1al̀awam万1'andalus,Fez,1971.
(IA)=̀A.Al.AhwanT:"Amt互1al‑̀互mmahfiL,'andalus,"Ila7「 励a
1勉5α 」栩,Cairo,1962.
(Gl}=Ch.Seybol.dted.),Glossariumlatino‑arabicumexunicoquiexstatcodice Leidense...,Berlin,1900.
(IH)=̀A.Al.Ahwani,"Alfazmagribiyyah血nki励lbnHisaxnal‑iaxmi fixahnal‑̀ammah,"Revuedel'InstitutdesManuscYiptsdelaLigue Arabe3,,1957.
(DE)=R.DozyyEngelmann,Glossairedesmotsespagnolsetportugais derivesdel'arabe,Leiden,1869.
(J)=̀AbdAl.Wahhab,H.H,(ed.),.A1一 ブumanaガi2aratal‑Yitana,
Cairo,1953.
(MT)=A.GonzalesPalencia,LosMozarabesdeToledoenlossiglosVIIy VIII.4vols.Madrid,1936.
(LAA)・=F.Corriente,、EIlexico∂7α う6伽 磁 〃StseguePedrode〆11cα1∂,
Madrid,1988.
(PES)=F.Corriente,Poesiaestroficaatribuidaal〃zistico8ア α鍛24勿o/1ぎ 一
sustari,Madrid,1988.
註
(46}MT554v1.
{47}Ibid.,109.
(48}PES79/3/3.
(49)Ibid.,75/3/4.
(50)Ibid.,109.
(51)《matalahuga》 も 同 様 に 「ア ニ ス 」 を 意 味 す る が,い ず れ の 形 態 に せ よ 現 代 ス ペ イ ン 語 に 至 る 段 階 で,音 韻[h]と[1]の 問 に 音 位 転 換(metathesis) が 生 じ て い る
(52)時 に は/‑a(t)/に 関 し て,異 形 態 を も っ 語 彙 が 確 認 さ れ て い る:
Alc11.coratna〜coYana「 我 々 の 村(複 数)」 〈{qry}+接 尾 代 名 詞
ア ル ・ア ンダ ル ス の ア ラ ビア語(石 原)85
(53)MT279.8.
(54)グ ラ ナ ダ 県 で 用 い ら れ た ロ マ ン セ で は,常 に/‑n/の 脱 落 が み ら れ た:
Alc8.9αcδ ∫ 「二 つ の 脚 」,martai「 二 回 」,leiletey「 二 晩 」,Yajulai「 二 人 の 男 」
(55)今 日 の ア ラ ビ ア 語 モ ロ ッ コ 方 言 に お い て も 「二 」 の 概 念 に は 数 詞/v‑'vzuz/
を 名 詞 に 先 行 さ せ て い る(古 典 ア ラ ビ ア 語 の/zawj/は 本 来 「一 対 」 の 意) (56)今 日 「紙 」 の 意 に,モ ロ ッ コ 方 言 で は/kagit/,ま た チ ュ ニ ジ ア 方 言 で は
/k議gid/を 用 い て い る 。 ち な み に,本 来 古 典 ア ラ ビ ア 語 で 「紙 」 を 意 味 す る /waraqah/は,モ ロ ッ コ 方 言(warqa)に お い て は 「切 符 」 の 意 味 に 用 い
ら れ て い る {57)MT1175‑10,12.
(58)Ibid.
(59)IA158.
(60)こ の 現 象 はimala(apophony)と 呼 ば れ る;詳 細 に っ い て は 拙 稿 『地 中 海 学 研 究 』XX(1997),131.
(61}PES4/4/5.
(62)F.Corriente,Problematicadelapluralidadensemitico,Madrid, 1971,42.
(63)古 典 ア ラ ビ ア 語 の 複 数 形 は/ajnihah/あ る い は/ajnuh/
(64}MT53.8 (65}Ibid.,1168.18
(66)現 代 ス ペ イ ン 語 は 《acerte》 「小 さ な 片 手 鍋 」 (67)ZM109.
(68)バ リ ア ン トに は{1u2u3a}が あ る:Va.xu'ulah「 伯 父,叔 父(母 方)」
(69)現 代 ス ペ イ ン 語 に 至 っ た 形 態 は 《adarga》
(70)現 代 ス ペ イ ン 語 に 至 っ た 形 態 は 《adelfa》
(71)現 代 ス ペ イ ン 語 に 至 っ た 形 態 は 《alcazaba》
(72)Z672.
X73)Ibid.,1227.
t74)PES*3*/3/1.
(75)IQ6/11/3.;な お,こ の 語 彙 に 関 し て はo卿oと い う 形 態 がDc13.&
ユ8.で 確 認 さ れ て い る
(76)K.Romer,"Studi.enuberdenCodex"ZeitsehriftfurAssyriologieand
verwandteGebietel9,98,1905‑6,47.
(77)Dc13.
{78}Ibid.
{79)Z661.
(80)Ibid.,730.
(81)現 代 ス ペ イ ン 語 に 至 っ た 形 態 は 《alguacil》
(82)ラ テ ン 語 源/lupu/が 考 え ら れ る 。 な お 現 代 ス ペ イ ン 語 で は 《lobo》
(83)Alc.で はdubebeと い う 形 態 が 確 認 さ れ て い る
(84)前 記 ③ 一4で,{1u2血3}の バ リ ア ン トと し て{1u22u3}が 存 在 す る こ と を 指 摘 し た が,こ の 型 は こ の 事 実 と 対 比 で き る
(85)し か し な が ら,{1a2a3i4a}型 は 教 養 語(highregister)と し て 稀 に 使 用 さ れ る に す ぎ な か っ た
(86)F.Corriente(1992),90.;kàb〜kawàb「 か か と 」 〈/kìab/〜
/kùub/,mak5n〜makakin「 場 所 」 〈/amkinah/〜/amakin/
(87)し か し な が ら,今 日 の マ グ レ ブ 方 言 に は 稀 な 母 音/a/の 存 在 か ら も 想 定 で き る よ う に,makan〜m.akakinな ど の 語 彙 は あ く ま で も 古 典 的 用 語
(classicism)に す ぎ ず,今 日 の モ ロ ッ コ 方 言 で は 「場 所 」 の 意 味 にmu dà〜muwadàが 庶 民 レ ベ ル で 用 い ら れ る
(88)こ の よ う な 形 態 が い か に し て 生 じ た か は,次 の よ う な 過 程 を 想 定 で き る:
「ハ エ 」 は 集 合 名 詞 で/dubab/,ま た そ の 個 は/‑at/の 添 加 に よ り /dubabah/と な る 。 さ ら に/dubab/は 集 合 名 詞 の 複 数 形 の 形 態/dubban/
を 有 す る が 故,こ の 段 階 で/dubban/を 集 合 名 詞 と み な す こ と に よ り,そ の 個 を 示 す た め に/‑at/(発 音 上 の モ ル フ ェ ー ム と し て は/‑ah/)を 添 加
し,/*dubbanah/が 生 じ た 。 同 様 な 過 程 か らS1'ban〜S1'banah,musran〜
musranahも 推 定 で き る
(89)gammarahは 今 日 の ア ラ ビ ア 語 モ ロ ッ コ 方 言 で は 「ギ ャ ン ブ ラ ー 」 の 意 で 使 わ れ て い て,「 泥 棒 」 の 意 味 に はsuffaxあ る い はsarraqを 用 い る;詳 細 は 拙 著 『モ ロ ッ コ ・ ア ラ ビ ア 語 』 大 学 書 林(2000),p83‑89.
{90)La98.
(91)現 代 ス ペ イ ン 語 に 至 っ た 形 態 は 《arriate》 「壁 ぎ わ の 細 長 い 花 壇 」 {92)MT378.4
{93)Ibid.,962v15
{94)W.Hoenerbach{1956),44.
(95)Ibid.,25.
(96}R.Dozy,LecalendrierdeCordouede1'annee961....,Leiden,
ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア語(石 原)87
1873,57.
(97)独 立 数 詞(男 性 形):/itnayn/「2」,/talata/「3」,/arbàa/「4」, /xamsa/「5」,/sftta/「6」,/sa'b̀a/「7」,/tamaniya/「8」,/tis̀a/「9」,
/̀iyasra/「10」;
名 詞 に 続 く 数 詞(女 性 形):/talat/「3」,/arbà/「4」,/xams/「5」, /sitt/「6」,/sab̀[a]/「7」,/taman/「8」,/tIS̀[a]/「9」,/̀飴r/「10」;
さ ら に ロ マ ン セ で も こ れ ら に 対 応 す る 独 自 の 数 詞 が 確 認 さ れ て い る:Alc.
guahid,ycney,calaca,arbaa,kamceJcete,9α ∂αa,9α 〃2枷 α,'7傾,
‑^
aaxara
(98)IQ122/8/1.talatatvasyar三 つ の 事 柄 」
(99)他 の ネ オ ア ラ ビ ア 語 の 方 言 と 同 様 に,ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 に お い て も,「11」 か ら 「19」 ま で の 基 数 の/̀Vasar/に お け る 咽 頭 音[̀]は, 発 音 上 前 方 の 子 音 の 咽 頭 音 化 に よ っ て 消 失 し た こ と が 確 認 さ れ て い る 。 し か
し な が ら,表 記 上 は 折 衷 主 義 的 に/̀/を と ど め て い る(elcecticgrapheme):
/talatta.(̀)vsar/>IQg7/10/4.talattasar
(100)咽 頭 音 化 に よ る[̀]の 消 失 の み な ら ず,/tvasar/の 語 尾 の/‑ar/も 脱 落 し て い る 。 こ れ は 北 ア フ リ カ の マ グ レ ブ 方 言 に 共 通 し た 現 象 で あ る:
/arbàtàきar/>IA789.arbat̀vas
(101)時 に は,註 勿 「二 番 目 」,citis「 三 番 目 」,ticie「 九 番 目 」 な ど の 形 態 も 確 認 さ れ て い る 。 な お 「第 一 番 目 」 を 示 す 序 数 は{1a2i3}の 型 に 代 表 さ れ, /awi/や/awili/が 用 い ら れ た ・
(102)こ の/anl/の 形 態 は,過 度 の 口 蓋 化(imala)を 反 映 す る も の で,Dc.
やAlc.で 確 認 さ れ て い る
(103)こ れ ら の バ リ ア ン ト に 関 し て は,細 分 化 方 言 あ る い は 話 し て の 言 語 水 準 (register)に 応 じ て,様hな 形 態 が 確 認 さ れ て い る
{1Q4}La252.
(105)Ibid.
(106)MT762.5.
(107)都 市 部 の ネ オ ア ラ ビ ア 語 に お い て は,三 人 称 の 代 名 詞 や 動 詞,さ ら に は 形 容 詞 な ど に お い て 男 女 の 区 別 を す る こ と は ほ と ん ど な か っ た 。 そ れ 故 に,こ の 三 人 称 複 数 女 性 の 形 態 は/h血mat/か ら の 単 な る 植 字 上 の ミ ス,あ る い は 古 典 主 義(classicism),ま た は 農 村 部 の 細 分 化 方 言 に み ら れ る 現 象 と し て 扱 う べ き で あ ろ う
{108}IQ89/8/3.
(109)Ibid.,135/6/1.
{11Q}IA399.
(111}W.Honerbach(1956),22.
(112)Ibid.
{113)IQ24/11/1.
(114)Ibid.
(115)Ibid.
(116)Ibid.,127/2/5.
(117)Alc.61/18.
(118)Ibid..,59.23 {119)Dc4v.
(120}Ibid.,5r.
(121)IQ83/0/1.
{122}Alc14.
{123}Ibid.
(124)F.Corriente,GYamatica〃z{或 〃疹 αz.YtextodelCancionero勉sかz2zo伽 αわ6de AbenQuzman,Madrid,1980,2.1.3.2.1&n.83
{125}F.Corriente,"MarginaliaonArabicdiglossia",journalofSemitic Studies20,1975,48.
(126)PES10.
(127)ロ マ ン セ で は,Dc.leuお よ びAlc.36.20.lehuな る 形 態 が 確 認 さ れ て い る が,後 者 は 教 養 語(highregister)と し て の 用 法 で あ る
(128)IQ23/6/2,;直 訳 的 に は 「そ こ に 私 の 住 ま い が あ る と こ ろ の 家 」 (129)IA338.
(130)Z97.
(131)Ibid.,96.
{132)IQ27/3/3.
(133)F.Corriente(1992),n89.は ア ラ ビ ア 語 モ ロ ッ コ 方 言 で も,指 示 代 名 詞 は 近 称/hada/,中 称/hadak/,遠 称/dak/の 区 別 が あ る こ と を 指 摘 し, こ う し た 区 別 は ア ル ・ ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 の 影 響 を 云 々 す る 前 に,ベ ル ベ ル 語 に お け る 指 示 詞 の 多 様 性 と の 接 点 を 見 逃 し て は な ら な い と し て い る 。 そ し て 具 体 的 に ベ ル ベ ル 語(リ ー フ 語)の 三 人 称 単 数 男 性 の 指 示 代 名 詞 を 引
き 合 い に 出 し て い る:近 称/wa/,中 称/wen/,遠 称/win/;し か し な が
ら 筆 者 は,モ ロ ッ コ ア ラ ビ ア 語 に お け る 指 示 代 名 詞 の 形 態 は 以 下 の よ う な も
ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビア語(石 原)89
の で あ る と 理 解 し て い る 故,従 来 は 指 示 形 容 詞 と し て 機 能 す る/dak/が 代 名 詞 の 遠 称 と し て,実 際 に モ ロ ッ コ の ど の 地 域 で 使 用 さ れ て い る の か 明 言 で
き な い:近 称/hada/《 男 》,/hadi/《 女 》,/hadu/《 複 数 》,ll中 称
/hadak/《 男 》,/hadik/《 女 》,/haduk/《 複 数 》
(134)南 ス ペ イ ン の グ ラ ナ ダ(Granada)県 で は/di/と い う 形 態 が 検 証 さ れ て い る
(135)Alc.hede,di,heuley,haulin,ま たIQ1/7/2.hawl,22/7/2.hawla が 確 認 さ れ て い る
(136)Alc.乃%64,勿 〃 吻 が 確 認 さ れ て い る (137)Alc.(擁,hauleqが 確 認 さ れ て い る {138)Alc34.19.
{139)Dc11.
(140)Ibid.,20.
(141)IQ2/1/2.
(142)bid.,4/5/1.
(143)Ibid.,7/15/2.
{1441bid.,38/7/1.
{145)Ibid.,10/14.
(146)Alc.&Z570.deliq「 あ れ ら の 」 /147)LeonTello,"CartasdepoblacionalosmornsdeUrzante"Actas
delprimerCongresodeestudiosarabeseislamicos,Madrid,1964,
341.1.;な お 指 示 代 名 詞 に お い て,単 数 と 複 数 に 同 一 の 形 態 を 用 い る 現 象 は, 今 日 の モ ロ ッ コ 方 言 で な お 健 在 で あ る と 指 摘 す る 研 究 者 も い る が,筆 者 の 認 識 で は モ ロ ッ コ 方 言 の 場 合,指 示 代 名 詞 で は な く 指 示 形 容 詞 《近 称 》/had/
の み に あ て は ま る 同 一 形 態 で あ る;拙 著(2000),P22参 照 (148)IQ9/24/3.4.
(149)Alc13.11.
(150)Ibid.,37.30.
{151)Ibid.,95/3/1.
(152)IQ16/5/5.
(153)Ibid.,95/3/1.
{154)Alc36/30.
(155)Ibid.,41/22.
{156}Ibid.,42/14.
(157)Ibid.,45/35.
(158)Alc.a〃edi《 男 性 単 数 》,alledina《 男 性 複 数 》,alleti《 女 性 単 数 》, a〃etinrx《 女 性 複 数 》;MT177.1.alrawahiballadin「 修 道 女+《 関 係 代 名 詞 》」,1089.2.alabatisatalliyat「 大 修 道 院 長+《 関 係 代 名 詞 》」
(159)MT931.5.
(160}Ibid.,66.5
(161)例 え ばaき 〜Vsnuな ど,疑 問 代 名 詞 に 関 し て は,ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 の 痕 跡 が 今 日 の モ ロ ッ コ 方 言 で 確 認 さ れ る
(162)モ ロ ッ コ 方 言 で はvasmen〜vSmen (163)IQ61/3/3.お よ び18/3/4.
(164)IQgo/o/2.Alc.ylex;ま た こ の 形 態 は そ の ま ま モ ロ ッ コ 方 言 で も 健 在 で あ る
(165)IQ36/1/3.
(166)Alc.miti (167)Ibid.,quif {168}IQ6/6/3.Alc.ay
(169)Alc.axhal;な お モ ロ ッ コ 方 言 で は"shat (170)Alc.(〜%6〃z
(171)Alc45.27.
{172)IQ8/0/2.
(173)Ibid.,18/6/4.
(174)Ibid.,1/6/2.
(175)Ibid.,26/1/14.
(176)Ibid.,9/27/3.;な お モ ロ ッ コ 方 言 で は 今 日,/̲vwas/は 肯 定 や 否 定 を 選 択 す る 疑 問 文 を 導 入 す る 際 の 接 辞 と し て 用 い ら れ て い る
(177)Z566.
(178)IA69.;な お"bartal"の 語 源 は 俗 ラ テ ン 語 《portale》
(179)モ ロ ッ コ 方 言 で は 疑 問 副 詞 と し て こ れ ら の 用 法 は 極 め て 頻 繁 で あ る:
/Yfas/,/vbas/,/̀alas/;拙 著(2000),P63.
(180)IQ118/3/2.;な お/arra/は 今 日 の モ ロ ッ コ 方 言 で は/ara/と い う 形 態 で,物 を 手 渡 す こ と を 相 手 に 要 求 す る 際 の 命 令 動 詞 と し て 健 在 で あ る (181)Ibid.,35/3/4.
(182)IA146.
{183}PES24/3/2.
ア ル ・ア ン ダル ス の ア ラ ビア語(石 原)91
(184)Alc46/6.22.ahadd,hade,ahade《 女 性 形 》 (185)IQ20/29/2.;な おAlc.で はxeiが 確 認 さ れ て い る
(186)Alc.幽 α1θxaiな お 今 日 の モ ロ ッ コ 方 言 で は,「 何 も 」 《否 定 》 の 意 味 に /walu/あ る い は/hattaVhaza/を 用 い る
(187)モ ロ ッ コ 方 言 で は こ の 意 味 に/hattahadd/あ る い は/hattawah.ad/
を 用 い る {188)PES34/0/1.
(189)Ibid.,11/0/2
終 わ りに
今 回 の 小 稿 を 書 き 上 げ る に あ た り,CSICの グ ラ ナ ダ 在 住 ア ラ ブ 人 研 究 者 の 方 々 に 大 変 お 世 話 に な った 。 と りわ け ア ラ ビ ア 語 文 献R.̀Abd‑al‑Tawwab
著Lahnal‑̀awamm(ta'lifAbir/'..りCairo,1964.に お け る 語 彙 の 」 摘 出 は,「 ア ル ・ア ン ダ ル ス に お け るSibawayhi文 法 の 軌 跡 」 と い う テ ー マ の も と に 研 究 を 続 け て い る パ レス チ ナ 人Dalal.A.H.Dehiedil女 史 の 協 力 が な か っ た な ら ば,と う て い 為 し得 な か っ た 作 業 で あ る。 ま た コ ー ラ ン研 究 に 従 事 す る モ ロ ッ コ の テ ト ゥ ア ン 出 身Sà1d氏 は,モ ロ ッ コ ロ 語 に お け る 数 々 の 語 彙 を 引 き 合 い に 出 し,そ の 地 域 性 を 加 味 し な が ら古 典 ア ラ ビ ア 語 と の 比 較 を 通 し,多 くの 用 例 を 示 し て くれ た 。 さ ら に,ア ル ・ア ン ダ ル ス の ア ラ ビ ア 語 研 究 の 第 一 人 者 サ ラ ゴ サ 大 学 のF.Corriente博 士,ま た ア ラ ビ ア 語 方 言 学,と り わ け モ ロ ッ コ 方 言 に 造 詣 の 深 い カ デ ィ ス 大 学 のJ.
Aguade教 授 に は,イ ン タ ー ネ ッ トな ど を 通 じて 貴 重 な 助 言 を 賜 った 。 こ の 場 を 借 り て 各 氏 に 感 謝 の 意 を 表 した い 。 ま た 各 国 か ら の よ り敏 速 な研 究 環 境 へ の ア ク セ ス と い う 趣 旨 か ら,両 氏 に メ ー ル ・ア ド レ ス の 公 開 を 依 頼 し た と
こ ろ,快 く筆 者 の 要 望 に 応 じ て い た だ け た 。 ア ラ ビ ア 語 は 勿 論 の こ と,両 氏 と も英 語 に 堪 能 で あ られ る 。 こ こ にCSICへ の ア ク セ ス 方 法 も 含 め て 連 絡 先 を と ど め て お く。CSICは 近 年 イ ン タ ー ネ ッ トの 開 設 と 共 に 古 文 書 館 の 拡 張
を 図 り,さ ら に 充 実 した 文 献 を 取 り揃 え,ア ラ ビ ア 語 は お ろ か 各 国 語 の 多 く の 関 係 資 料 の 閲 覧 が 可 能 で あ る 。 ア ラ ビ ア 語 方 言 学 に た ず さ わ る 研 究 者 諸 兄 に と っ て,今 後 多 少 な り と も の 手 助 け と な れ ば 幸 い で あ る。
FedericoCorriente:[email protected] JorgeAguade:[email protected]
CSIC(ConsejoSuperiordeInvestigacionesCientificas) マ ド リ ー ド:http://www.csic.es
グ ラ ナ ダ=http://csic.es/cbic/eara/ara2htm
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ノ