博 士 ( 医 学 ) 山 本 義 也
学位論文題名
Cloning and Characterization ofaNovel Gene , DRH1 , Down ‐ regulated in Advanced Human Hepatocellular Carcinoma
(進行肝細胞癌で発現が低下する新規遺伝子DRH1の単離,及びその特徴)
学位論文内容の要旨
肝細胞癌(肝癌)は,アジア,アフリカにおいて最も主要な悪性腫瘍のーつである.近年 のめざましい診断技術及び治療方法の進歩はあるものの,肝癌の発生率は,依然上昇してい る,肝癌は,我が国の場合,肝炎ウイルスによる慢性障害肝に生ずることが多いが,ウイル スの発癌への関与は不明な点も多い.また,障害肝からの肝癌の高頻度の再発性と,門脈浸 潤,肝内転移を生じやすいという特徴も肝癌をなかなか減少できないでいる大きな理由のー つである.
近年,癌の発生,進行に関して,癌遺伝子の活性化や癌抑制遺伝子の不活性化といった遺 伝子変異の蓄積が重要であることが,様々な癌において確立されてきている.発現の差に着 目したsubtractive hybriclizationやmRNA differential display of polymerase chain reaction(mRNA DD―PCR)といった方法は,癌での遺伝子変異を見っける上で有効な方 法のーつである.肝癌においてもこのような方法を用いて,発癌,進展に関わる遺伝子の同 定が 試 みら れて きた が, 鍵を握 ると 思わ れる 遺伝 子の 単離 は依 然な され てい ない , 今回,mRNA DD―PCRにて単離された肝癌細胞株間で発現の異なる遺伝子断片の中で,
外科切除された肝癌症例を用いた検討で,非癌部に比べ癌部,特に進行癌で有意に発現が低 下するDRH1のクローニングに成功したので報告する,
く方法と結果ニ冫
肝癌細胞株を用いmRNA DD―PCRを施行し,発現の差が認められた遺伝子断片を多数単 離精製 した .そ れら の中 で,DRH1はKYN2で発現の高い遺伝子として単離された.mRNA DDーPCRで単離された遺伝子断片の塩基配列からは,特に情報が得られなかったため.引 き続き ,KYN2か ら作 成し たcDNA libraryに よる スク リー ニング,更に5 RACEを施行 し,最終的に,419アミノ酸から成る4084―bpの全長と思われるク口ーンを得た.データベ ース上,これまで報告のない新規の分子であったが,アミノ酸配列上,VDUPl (accession No.NM−006472)と41%の相同性を示した,剖検で得られた多臓器の正常組織での検討か ら,DRH1は,全身臓器に広く発現していることが判明した.また,National Institute of General lVleclicalSじiences humanXroclent somatic cell hybrid mapping panel2を用 しゝっDRH1が,15番染色体上に位置していることが判明した,デ←夕べースでもDRH1を含 むDNi¥領域が,]5番染色体長腕上に位置していることが,最近報告されている(accession
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N0.AC0246 51) .GFP‑DRHl fusion proteinによ る検 討か ら,DR,Hiは ,主 に細 胞質 に局 在 し て い る と 予 想 さ れ た .1998年7月 か ら1999年6月 ま で の 間 , 国 立 が んセ ンタ ー中 央病 院 に て 外 科 切 除 施 行 さ れ た 肝 癌35症 例 に つ い て , 癌 部 , 非 癌 部 組 織 か らRNAを 抽 出 し , 01igo一 (lTを プ ラ イ マ ー と し て cDNAを 作 成 し た .SYBRGreenPCRkit(ABI) を 用 い た reaトtimequantitativeRT−PCRで , 肝 癌 症 例 に お け るDRHiの 発 現/ヾ 夕 ー ン を7700 Sじ (lucnceDetector(ABI冫 で評 価 した .そ の結 果,35症 例中29症 例(83% )で 非癌 部と 比 べて ,癌 部で 発現 が 低下 して いた .(Z4PDHの 発 現量 で各 々補 正し た発 現値 の平均は,非 癌部で9.02土0.71,癌部で4.98土0.73であった(p 0,0001).症例毎に求めた非癌部の発 現 量に 対す る癌 部の 発 現量 (T/Nratio) と臨 床病 理学的因子について,更に詳 細に検討した と こ ろ , 分 化 度 の 低 い 肝 癌 , 血 管 侵 襲 を 伴 う 肝 癌 , 血 清AFP値 (cutoff100ng/m1冫 が 高 い 肝 癌 症 例 で , 有意 にT/NratiOは , 低値 を示 した .そ の他 ,腫 瘍径 ,ウ イル ス感 染の 因子 においても 有意差を認めた.
く考察>
今 回 ク 口 一 二 ン グ に 成 功 し た 新 規 遺 伝 子DRHiに つ い て は , 肝 癌35症 例 で のreaトtime quantitativeRT−PCRでの 解析 の結 果, 癌部 での 発 現低 下が ,分 化度 の低 い肝 癌,血管侵襲 の ある 肝癌 ,ま たAFPの高 い肝 癌症 例で 顕著 であ っ た. 一般 的に ,肝 癌は ,多 段階的に進行 し てい く過 程で 脱分 化 を示 し, その なか で転 移性 が増し,血管侵襲を引き起こ すようになっ て く る , こ の 概 念か らす ると ,DRHjは, 高分 化肝 癌で 明白 な発 現低 下を 示さ なか った こと か らも ,そ の発 現低 下 は, 肝癌 の進 展の なか で比 較的lateeventとし て位 置付 けられるのか も し れ な い . ま た , 血 管 侵 襲 は 肝 癌 の 重 要 な 予 後 因 子 の ー つ で あ る と 報告 され てお り,
DRH|も予後マーカーとして有益な可能 性はある,
DR.Hjと 高 い ホ モ ロ ジ ー を 示 すVDUP1は , 分 化 誘 導 剤 の ー つ で あ る 活 性 型 ビ タ ミ ンD3 で 発 現 亢 進 す る 遺伝 子と して 同定 さ れた もの であ る.DRHjは, 低分 化な 肝癌 ほど 発現 が著 明 に 低 下 し , こ れは ,VDUP1の 発現 パタ ーン と矛 盾し ない もの で ある .DRHヱ が, 細胞 の分 化 にと って 必須 の分 子 か, もし くは ,分 化の 結果 として発現が変化する分子な のかは,今後 の 検 討 が 必 要 で あ る .DRHjの ア ミ ノ 酸 配 列 上, 核外 移行 シグ ナ ル配 列を 認め たが ,GFP― DRHifusionproteinが 主 と し て 細 胞 質 に 存 在 し て い た と い う 結 果 は ,DRHiの 核 外 移 行 シ グ ナル 配列 が, 実際 に 機能 して いた 可能 性を 示唆 する .DRHヱは ,こ れま で肝 癌では染色体 異 常 の 報 告 の 少 な い15番 染 色 体 上 に 位 置 し て い た . し か し , 乳 癌 な ど で,15番 染色 体の LOH(10ssofheterozygosity) が 特 に 進 行 癌 で多 く認 めら れた とい う報 告も あり ,こ の領 域 に 癌 の 進 展 を 妨げ る重 要な 遺伝 子 が存 在し てい る可 能性 もあ る. これ は,DRHiが, 肝癌 の 進行 度を 反映 して 発 現が低下していくという結果 とも矛盾しないものである.DR.Hユの癌 で の発 現低 下の メカ ニ ズム は,L○Hやプ ロモ ータ ー領域のヌチル化なども含め て,今後も検 討 す べ き 問 題 で あろ う, 以上 ,DRHjの機 能は ,ま だ多 くは 不明 であ るが ,そ の発 現低 下の 程 度が ,肝 癌の 病勢 を 非常 に的 確に 反映 して おり ,生物学的悪性度の指標とし て非常に有益 と思われる .
く結諭>
今回 ,肝 癌の 発育 , 進展 に影 響を 与え る遺 伝子 のスクリ一二ングを試み,進 行した肝癌で 発現の低下 するDR.HJの同定に成功した.今後,機能解析を進める ことによって、日干癌の壱 物 学的 な理 解が より 深 まり ,更 に, 肝癌 の診 断, 治療に有益な情報をもたらす ものと期待さ れる,
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Cloning and Characterization ofaNovel Gene , DRH1 , Down ― regulated in Advanced Human Hepatocellular Carcinoma
( 進 行 肝 細 胞 癌 で 発 現 が 低 下 す る新 規 遺 伝 子DRH1の 単離 ,及 びそ の特 徴)
近年、癌の発生、進行に関して、遺伝子変異の蓄積の重要性が、様々な癌で確立されてき て い る 。 今 回 、 申 請 者 は 、 肝 癌 の 発 生 、 進 展 に 関 わ る 遺 伝 子 の 同 定 を 試 み た 。 具体的には、肝癌細胞株(PRF/PLC/5、KYN−2)を用いdifferential displayを施行した。
DRH1は、KYNー2で 発現 の高い 遺伝 子と して 単離 され 、419アミノ酸から成る4084―bp の新 規遺 伝子 であ る。 前骨髄性自血病細胞株HL60でビタミンD3で発現亢進する遺伝子 VDLTP1とアミノ酸で41%の相同性を示した。また、核外移行シグナルを有していた。DRH1 は、 全身 臓器 に発 現し ており 、15番染 色体 上に 位置 していた。GFP−DRH1融合蛋白を ミドリサル線維芽細胞由来のCOS7に強制発現させたところ、細胞質に局在を示し、核外 移行シグナルの存在に一致した所見であった。19 98‑年7月から一年間で、国立がんセンタ ー中 央病 院に て手 術施 行され た肝 癌35症例 の癌 部、 非癌部組織を用いて、real‑time quantitative RT―PCRで、DRH1の 発現 様式 を評 価し た。35症例中29症例(83%)で非 癌部と比べて、癌部で発現が低下していた。症例毎に求めた非癌部に対する癌部の発現量 (T/N比)を臨床病理学的に検討したところ、分化度の低い肝癌、血管侵襲を伴う肝癌、血 清AFP値が 高い 肝癌 で、 顕著にT/N比は、低値を示した。その他、腫瘍径、ウイルス感 染の因子においても有意差を認めた。
一般に、肝癌は、多段階的な進行の過程で脱分化を示し、血管侵襲を引き起こすようにな る。DRH1は、分化度の低しゝ血管侵襲を伴う進行した肝癌で低下しており、この概念と合 致している。また、血管侵襲は肝癌の重要な予後因子であり、DRH1も予後因子として有 益な可能性はある。DRH1の位置する15番染色体は、肝癌では異常の報告は少ないが、乳 癌で 、15番染 色体 のL〇Hが特に進行癌で多く認められたという報告もあり、DRH1が進 行し た肝 癌で 発現 が低 下して いた 事は 興味 深い 。そ の他、HBV陽性のHCCは、HCV陽性 のHCCと比べて、DRH1の発現はより低値を示した。未解明である肝発癌への肝炎ウイル
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三 博 省 信 正
、
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授 授
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主 副
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スの影響の機構の解析に、DRH1の機能解析が役立っかもしれない。
今回、申請者は、肝癌の発育、進展に影響を与える遺伝子の同定を試み、進行した肝癌で 発現 の低下す る細胞質蛋白のDRH1をク□ーニングした。その機能は不明であるが、発現 低下が、肝癌の生物学的悪性度をよく反映していると思われた。今後の機能解析により、肝 癌の診断、治療に有益な情報をもたらすものと期待される。
公開発表に際し、副査の藤堂教授より、肝癌の特徴である不均一性から生ずる検体採取部 位や時期の問題点に関して質問があった。申請者は、採取時に一部は病理標本として組織像 を確認していると答えた。続いて、副査の浅香教授より、スクリ一二ングに用いた肝癌細胞 株に 関して、 また、ク口ーニングしたDRH1の全身臓器での発現に関してなどの質問があ った。申請者は、前者の質問に対して、両細胞株間では運動能に著明な差が認められた以外、
HBVの 関与 やAFP産 生 能 にお い ても 違 い が認 め られ 、DRH1が運動 能に関与 している 所 見 は 得ら れ てい な い が、HBV陽性 のHCCやAFP高 値のHCCで 発現低下 していた 事実は、
細胞 株の特徴 と合致すると答えた。後者の質問に対しては、DRH1の多臓器での発現から house keeping gene的なものである可能性を考え、他臓器の癌での更なる検討も必要であ ると 答えた。 続いて、主査の西教授より、数症例では、逆に腫瘍部でDRH1の発現が亢進 して いたこと に関して、 またホモ 口ジーの 高かったVDUP1の特徴に関してなど質問があ った。申請者は、前者の質問に対して、この分子の機能が不明である以上、サンプ1」ング時 の問題以外にも発現亢進自体に意味がある可能性も考慮すべきであると答えた。後者の質問 に対しては、WDL‑P1も現時点で機能不明であるが、分化誘導剤での発現亢進していたこと と、DRH1が低分化 癌で発現低下していたことは現象として類似すると答えた。細川眞澄 男教 授より、DRH1のC○S7での細 胞質内局 在の意義 と形態変化の有無に関して、また、
小林 正伸助教 授よりDRH1のmRNAレ ベルでの 発現低下 の機序に 関して質 問があっ たが、
各質問に対して、概ね適切な回答を行った。
本研 究では、 肝癌細胞株から単離されたDRH1が進行した肝癌で発現低下し、肝癌の悪 性度を非常によく反映していたことが示されたことより、今後の肝癌の発生、進展の分子機 構の解明に彳殳立つ事が期待される。以上より、審査員一同はこの研究を高く評価し、大学院 課程における研鑽や取得単位なども併せ、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な 資格を有するものと判定した。
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