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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 高 木 健 太 郎

     学位論文題名

    Micrometeorological effects on stomatal     response and evapotranspiration ina     cool‑temperate mlre ,northern Japan

(北日本の冷温帯湿原における気孔の挙動と蒸発散に及ぼす微気象の影響)

    1

学位論文内容の要旨

    湿 原に おい て, 蒸発 散は地表面の熟分配および水 消費を決定する主要な要素とされている が .こ の蒸 発散 は植 物の 群落構造及び生理的作用に大 きく影響される.従って地表面植生の変 化 に伴 い熱 ・水 収支 が変 化する可能性が考えられる. 現在,植物群落の熱収支や水収支を植物 の 生理 的要 因を 考慮 して 評価する研究例は数多く見ら れる.しかし,湿原植物の水分生理・蒸 散 特性 に関 する 研究 は数 少ない.さらには,微気象の 変化が短期的に引き起こすストレスに対 す る, 植物 個体 およ び群 落の反応を比較考察した例は ほとんど見られない.本研究の目的は高 層 湿原 にお いて ,地 表面 植生が群落の水・熱収支に与 える影響を明らかにすることである.そ し てそ の影 響を 特徴 づけ る維管束植物個体の蒸散特性 の日変化を微気象要素と関連させて明ら かにすることである.

    研 究は 北海 道北 部の 天塩 川水 系サ ロベ ツ川 沿岸 に 広が るサ ロベ ツ湿 原内 部の高層湿原域

(北緯45゜06 ,東経141°42,)において行った.この高層湿原ではチマキザサの侵入により,

ミ ズゴ ケを 優占 種と する 群落(ミズゴケ群落)とチマ キザサを中心とする維管束植物が優占す る 群落 (維 管束 植物 群落 )が 隣接 して 存在 する .本 研 究で はこ れら 両群 落を 研究の対象とし た.両群落の葉面積指数は8月下旬に最大値に達し,ミ ズゴケ群落で1.5,維管束植 物群落で3.8 で あっ た. また 植生 高は ミズ ゴケ 群落 で20〜60 cm, 維管 束植 物群 落で40〜60 cmであった.

ミズゴケ群落では地表面は 全体的にミズゴケによって覆われていた.

    この研究地域において ,以下の研究を行った.

  (I)熱収支ボ・エン比法により,ミズゴケ群落と維 管束植物群落の蒸発散量を植物の生育期 間 を通 して 評価 した .ま た微気象・水文観測および群 落構造の調査を同時に行い,それらが両 群落の蒸発散特性に及ぼす 影響について考察した.

  (II)維管 束植 物群 落に おいて優占植物4種(チマキザサ(Sasa palmata),ヌマガ ヤ(Molinio‑

psis japonica),ヤチヤナギ(Myrica galeL.var. tomentosa),ハイイヌツゲ(Dex crenata var.

paludosa))の気孔伝導度お よび蒸散量の観測を行い,4種間の蒸散特性の違いを明らかにした.

ま た微 気象 が個 葉の 蒸散 特性に及ぽす影響について考 察し,気孔開閉の日変化を微気象要素か ら説明した.

  (III)維 管束 植物 群落 における群落の蒸発散特性と 植物個体の蒸散特性を比較することによ り ,植 物個 体の 気孔 制御 が群 落の 蒸発 散に 及ぼ す影 響 につ いて 考察 した .特 に大気の飽差に よ って 短期 的に 引き 起こ され る水 スト レス に対 する 個 体・ 群落 それ ぞれ の反 応に焦点を当て

(2)

    (IV)微気象要素の変化にともなう気孔開閉の日変化をモデル化し,観測値との比較により その妥当性を検討した・

    (I)の結果から以下のことが明らかになった.(1)最大日蒸発散量は維管束植物群落で 4.6 mm,ミズゴケ群落で4.2 mmであり,維管束植物群落の蒸発散量のほうが大きかった.植 物生育期を通した152日間の積算蒸発散量を評価した結果,維管束植物群落で370 mm,ミズゴ ケ群落で285 mmとなり,維管束植物群落の方が85 mm大きかった.そしてその差は8月中旬以 降に現れた.この結果,ミズゴケ群落への維管束植物の侵入は湿原の乾燥化を促進させること が考えられた.(2)両群落とも,地下水位は植物生育期を通して高く,そのため泥炭土壌の水 分含量も高かった.この結果土壌水欠乏による維管束植物の水ストレスは起こりがたいことが 考えられた.また,両群落において地下水位および土壌水分と群落の蒸発散能の間に相関は見 られなかった.(3)大気の飽差が高い時に群落の蒸発散能が低くなる傾向が,盛夏期の維管束 植物群落においてみられた.一方,同時期のミズゴケ群落では飽差の増加に伴い蒸発散能は増 加した.この結果から,維管束植物群落では飽差の増加に対して蒸発散量を抑制する機構が盛 夏期に発達することが明らかになった.

    (II)の結果から以下のことが明らかになった.(1)観測期間中の気孔伝導度および蒸 散量の最大値は,チマキザサが0.95 molm.2S.1と8.2 mmolm.2S‥,ヌマガヤが1.2 molm・2S‑l と10.1 mmolm 2S‥,ヤチヤナギが1.55 molm.2S,1と10.7 mmolm 2S‥,/ヽイイヌッゲが0.74 molm・2S・1と6.7 mmolm.2S.1であり,4種中ヤチヤナギが両値とも一番大きい値を示した.ま た大気の飽差に対する気孔の閉鎖反応もヤチヤナギが一番大きかった.反対にハイイヌツゲは 気孔伝導度,蒸散量ともに4種中一番小さく,飽差に対する気孔の閉鎖反応も一番小さかった.

  (2)気孔伝導度の日変化において,日最大の飽差の増加に伴い,日最大の気孔伝導度が低下す る特異なヒステリシスが3種の植物において見られた.この反応により飽差が極度に大きい日に は個葉の蒸散量は減少した.この特異な日変化パターンは,本研究で初めて明らかにされた現 象である.(3)気孔伝導度と蒸散量の日変化から飽差に対する気孔の2つの反応を認識した.

一っは気孔伝導度の上限が飽差の増加に伴い減少する反応である.この反応は従来の研究でも 明らかにされている.もうーっは,飽差の変化速度が大きい日には,飽差の変化に対する蒸散 量の変化の割合が小さくなる反応である.この反応は本研究で始めて明らかにした現象であ る.

    (III)の結果から,維管束植物群落において,大気の飽差が高い時に群落の蒸発散能が低 くなる傾向がみられた時期には,個葉でみられたヒステリシスが群落の蒸発散能にも現れるこ とが明らかになった.独立した個体・群落レベルそれぞれの現地観測により,維管束植物群落 においては飽差に対する気孔の蒸散制御が群落の蒸発散の増減に強く関与しており,飽差が高 い と き に は 維 管 束 植 物 群 落 の 蒸 発 散 量 が 低 下 す る こ と が 明 ら か に な っ た .     (IV)大気の飽差に対する気孔の2つの反応を考慮して,気孔伝導度および蒸散量の日変 化を3つのPha seに区分し,モデル化した.蒸散量および飽差の増加時をPhase1とし,このとき の気孔伝導度を飽差の変化速度の関数として表した.気孔伝導度が飽差の増加にとむない減少 している時をPhase2とし,気孔伝導度を飽差の関数として表した.飽差の減少時をPhase3と し,本研究ではPhase2の減少が引き続き起こることを仮定した.このモデルにより,観測で得 ら れ た 気 孔 開 閉 の 日 変 化 を 再 現 し た . ま た 観 測 値 と の 相 関 も 高 か っ た .

    以上の結果から以下の結論が導きだされた・

(1)ミ ズゴケ湿 原が維管 束植物に 覆われると蒸発散量は増大し乾燥化が促進される.

(2) 大気 の 飽差の増加 によりお こる気孔 の閉鎖は 群落の蒸 発散量を 減少させう る・

(3)気孔開閉の日変化は,飽差および飽差の変化速度に対する気孔の反応を考慮することによ     り説明できる.

(3)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査    教授    小野有五 副査    教授    平川一臣 副査    助教授   高橋英紀

副査    助教授   岩間和人(農学部)

学 位 論 文 題 名

:NtIicrometeorological effects on stomatal  response and evapotranspiration in a    cool‑temperate mire, northern Japan

( 北 日 本 の 冷 温 帯 湿 原 に お け る 気 孔 の 挙 動 と 蒸 発 散 に 及 ぼ す 微 気 象 の 影 響 )

湿 原 環 境 は 微 妙 な 水 収 支 の 上 に 成 立 し て い る 。 湿 原 に お い て, 蒸発 散 は地 表面 の 熱分 配、 お よび 水消 費を 決定 する 主要な要素とされているが、こ の蒸発散は植物の群 落 構 造及 び生 理 的作 用に 大き く影 響さ れる 。現 在、 植物 群落 の熱 収支 や 水収 支を 植 物の 生理 的 要因 を考 慮し て評 価す る研究例は数多く見られる。し かし、湿原植物の水 分 生 理・ 蒸散 特 性に 関す る研 究は 数少 なく 、特 に微 気象 の変 化が 短期 的 に引 き起 こ すス トレ ス に対 する 植物 個体 およ び群落の反応を比較考察した例 はほとんど見られな い。

  本 研究 の目 的 は冷 温帯 の高 層湿 原に おい て、 植生 が群 落の 水・ 熱収 支 に与 える 影 響 を 明ら かに し 、そ の影 響を 特徴 づけ る維 管束 植物 個体 の蒸 散特 性の 挙 動を 微気 象 要素 と関 連 させ て明 らか にす るこ とで ある 。

  研 究 は 北 海 道 北 部 の 天 塩 川 水 系 サ ロ ベ ツ 川 沿 岸 に 広 が る サロ ベツ 湿 原内 部の 高 層湿 原域 に おい て行 った 。こ の高 層湿原ではササの侵入にともな いミズゴケを優占種 とす るミ ズ ゴケ 群落 とチ マキ ザサ を中心とする維管束植物が優占 する群落が隣接して 存在 する 。 本研 究で はこ れら 両群 落を 研究 の対 象と した 。

  こ の研 究地域において(1)熱収支ボーエン比法により,ミズゴ ケ群落と維管束植物 群 落 の蒸 発散 量 を生 育期 間を 通し て評 価す ると とも に微 気象 ・水 文観 測 およ び群 落

(4)

構 造の調査 を同時に行いそれらが両群落の蒸発散特性に及ぼす影響を考察した。

(2)維 管束植物 群落におい て優占植 物4種の気 孔伝導度 および蒸 散量の観 測を行 い 、種間の 蒸散特性の違い、個葉の蒸散特性あるいは気孔伝導度の日変化に及ぼ す 微気象要 素の影響、さらには植物個体の気孔制御が群落の蒸発散に及ばす影響 について考察した。(3)微気象要素の変化にともなう気孔伝導度の日変化をモデル 化し、観測値との比較によりその妥当性を検討した。

  その結果、(1)ミズゴケ群落および維管束植物群落からの蒸発散量は8月上旬まで は差はないが、その後、維管束植物群落の蒸発散量が大きくなることが明らかとなっ た。(2)気孔の挙動に関しては、大気の飽差が大きいときには大気飽差の増大に対し 群落の蒸発散能が減少する現象が見いだされ、これが気孔伝導度の減少と結びつい た植物による蒸散量抑制機構であることを明らかにした。(3)個葉の気孔伝導度の飽 差に対する挙動に見られるヒステリシス現象が群落伝導度にも明瞭に認められることを 初めて明らかにした。(4)気孔伝導度の日挙動モデルを飽差などの微気象要素を用 いて構築し、気孔伝導度の日変化を再現した。モデルにより得られた結果は観測値と も良く対応し、相関も高かった。

本 研究によ ルミズゴケ湿原の蒸発散への維管束植物侵入の影響、気孔の挙動およ び群落蒸発散への微気象要素の影響が明らかになり、モデルによるより詳細な解析 への道を開くことができた。

審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また本人が国際シンポジウムや学会に 積極的に参加して研鑽を積んでいること、さらには特別研究員として研究に従事して いる農 林省農業環境技術研究所における質の高い研究内容も併せ、申請者が研究 者として誠実かつ熱心であり、博士(地球環境科学)の学位を受けるに十分な資格を 有するものと判定した。

参照

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