博士(環境科学)
高尾信太郎
学 位 論 文 題 名
Biogeochemical roles of phytoplankton funCtionaltypeS intheSOuthernOCeanCarbonCyCle
(南大洋の炭素循環における植物プランクトン機能別分類群の
生物地球化学的役割)
学位論文内容の要旨
植物プランクトン機能別分類群とは,植物プランクトンを生物地球化学的機能,あるいは生態学 的機能の違いによって区分した分類群である.植物プランクトン機能別分類詳の違いは海洋表層か ら中深層への有機炭素輸送フラックスに影響を及ぽす,その中でも,海洋基礎生産の約40%を担う とともに,一般に海洋有機炭素輸送フラックスヘの寄与が大きい珪藻類の分布を広域かつ連続的に 把握することは地球規模の炭素循環を理解する上でも重要である,植物プランクトン現存量指標で あるク口口フィルロ濃度の衛星観測から,過去50年間の気温上昇が2‑3□に達する南極半島西部海域 では,珪藻類を主とする大型植物プランクトン群集の遷移がク口口フィルロ濃度の変動に影響して いた可能性が示されている.また,南大洋において,集合体を形成する殻を持たないハプト藻種で あるPhaocystis antarcticaの優占鹹珪藻類に匹敵する有機炭素輸送フラックスを持つ可能性も示さ れている.しかしながら,植物プランクトン機能別分類群の変化といった生物的要因が南大洋の炭 素循環に与える影響に関しては未だ知見が少ない.そこで,本研究では,海洋の基礎生産力(光 合成速度)に加え,植物プランクトン機能別分類群や光合成生理といった生物的要因に注目し,そ れらの変動が南大洋の炭素循環に与える影響を主に海表面の二酸化炭素分圧の観点から評価した.
海洋の純基礎生産カに対して植物プランクトン機能別分類群の変化がどのように関係している のかを時空間的に評価するため,過去10年間(1997年9月から2007年8月まで)の衛星データを用い て解析を行った.さらに,現場観測デ一夕を用いて,衛星デ一夕の検証を行った.それらの結果,
過去10年間にわたって夏季に純基礎生産カが減少傾向を示す海域では,同時に珪藻類が減少傾向に あることが明らかとなった.また,季節的に海氷が覆う海域においては,夏季の純基礎生産カが高
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い 年 に は 珪 藻 類 が 多 く 優 占 し, 逆 に 純 基 礎生 産 カ が 低 い年 に は ハ プ ト藻 類 が 多 く 優 占す る こ と が 明 ら か と な っ た . こ の こ と か ら, 南 大 洋 に おけ る 夏 季 の 純基 礎 生 産 カ の変 動 傾 向 に 植 物プ ラ ン ク ト ン 機 能 別 分 類 群 の 優 占 率 が 強 く関 与 し て い るこ と が 示 唆 され た . 次 に 本研 究 で は , 珪 藻類 が 優 占 す る 年 ほ ど 純 基 礎 生 産 カ が 高 か った と い う 点 に着 目 し , 衛 星デ 一 夕 か ら は評 価 が 困 難 な 植物 プ ラ ン ク ト ン の 光 合 成 生 理 特 性 と 植 物 プ ラ ン ク ト ン 機 能 別 分 類 群 との 関 連 に つ い て,2010年12月 か ら2011年1 月 に 南 大 洋 航 海 に 参 加 し , 調査 し た . 植 物プ ラ ン ク ト ンの 光 合 成 生 理特 性 は 光 合 成 ―光 曲 線 実 験 か ら , 植 物 プ ラ ン ク ト ン 機 能 別 分 類 群 は 高 速 液 体 ク 口 マ 卜 グ ラ フ イ ー(HPLC)に よ る 植 物 色 素 分 析 か ら 評 価し た , そ の 結 果,55°S以 北 の 海 域 では ハ プ ト 藻 類 や緑 藻 の 現 存 量が 相対的 に高く ,55°S以 南 の 海 域 で は 珪 藻 類 の 現 存 量が 相 対 的 に 高く な る 傾 向 カ滞 ら れ た . また , 光 合 成 ― 光曲 線 実 験 で 得 ら れ た 光 合 成 生 理 パ ラ メ ー タよ り , 珪 藻 類の 現 存 量 が 植物 プ ラ ン ク トン 全 体 の50% 以 上 を 占 める 海 域 ( 珪 藻 優 占 海 域 ) で は , 珪藻 類 が 優 占 して い な い 海 域に 比 べ て , 植物 プ ラ ン ク ト ンが 弱 光 下 に お い て 効 率 的 に 光 合 成 を 行 っ てい た こ と が 明ら か と な っ た. 最 後 に , 南大 洋 に お け る 植物 プ ラ ン ク 卜 ン 機 能 別 分 類 群 の 変 化 が 海 表 面 の 二 酸 化 炭 素 分 圧 に 与 え る 影 響 に つ い て 評 価 し た解 析 に は , 純 基 礎 生 産 カ に 対 し て 植 物 プ ラ ン ク ト ン 機 能 別 分 類 群 の 優 占 率 が 強 く 関 与 し て い た 季節 海 氷 域 の 現 場 デ ー タ を 使 用 し た , そ の 結果 , 珪 藻 類 の現 存 量 お よ 硝屯 基 礎 生 産 カと 海 表 面 二 酸 化炭 素 分 圧 の 間 に 有 意 な 負 の 相 関 が 得 ら れ た , こ の こ と か ら , 珪 藻 類 の 現 存 量 お よ び 純 基 礎 生 産 カの 変 化 は 夏 季 の 季 節 海 氷 域 に お け る 海 表 面 二 酸 化 炭 素 分 圧 の 変 動 に 影 響 を 与 え て い た こ と が 示 唆 さ れ た . 本 研 究 に よ り , 南 大 洋に お け る 夏 季の 植 物 プ ラ ン ク卜 ン の 純 基 礎生 産 カ お よ び光 合 成 特 性 は, 植 物 プ ラ ン ク ト ン 濺 能 別 分 類 詳の 優 占 率 に 強く 影 響 を 受 けて い る こ と が明 ら か と な っ た, さ ら に , 植 物 プ ラ ン ク 卜 ン 機 能 別 分 類 詳の 現 存 量 や 純基 礎 生 産 カ の違 い が , 海 表面 の 二 酸 化 炭 素分 圧 の 変 動 と 関 連 し ,南 大 洋 の 炭 素 循環 に 対 し て 影響 を 及 ぼ す こと が 示 唆 さ れた .
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学位論文審査の要旨 主査 副査
副査 副査 副査
准 教 授 教 授 教 授 准 教 授 准 教 授
鈴 木光 吉 川久 三 寺史 藤 井賢 平 譯
学 位 論 文 題 名
次 幸 夫 彦
享( 大学 院水 産科 学 研究院)
Biogeochemical roles of phytoplankton funCtionaltypeS intheSOuthernOCeanCarbonCyCle
(南大洋の炭素循環における植物プランクトン機能別分類群の 生物地球化学的役割)
植 物プ ラ ンク トン は, 海洋におけ る主要な基礎生産者であり ,海水中の二酸化炭素および 光を 利用 し て光 合成 を行 うことによ り,有機物を生産する。こ の有機物は生食食物連鎖や微 生物 食物 網 の過 程で 消費 ,分解され るが,その一部は海洋の中 深層へ輸送され,長期間,炭 素が 貯蔵 さ れる 。こ の海 洋生物によ る炭素貯蔵機溝は生物ポン プとよぱれ,その効率は各植 物プ ラン ク トン 分類 群の 光合成(基 礎生産)特性により大きく 支配される。申請者が研究対 象とした南大洋は,海 洋による二酸化炭素の吸収 に関して,重要な海域として知られている。
しか しな が ら, 過去50年 間の気温上 昇カs2‑3度に達する南極半 島西部海域において,植物プ ランクトン現存量指枴 やであるク口口フィルぁ農度カミ有意に変化し,植物プランクトン群集の 組成変化が伴ってしゝ たことが示唆された。また ,南大洋の極前線以南では,ケイ酸塩殻を持 つ珪藻類カiji物プラ ンクトン群集中で優占する ことが多いが,集合体を形成する殻を持たな いハ プト 藻 種Phaeocys出 釦な 朋 血卿 うt春季 に大 増殖し,珪藻 類に匹敵する生物ポンプ能を 持つ こと が 示さ れて いる 。そこで, 申請者は,植物プランクト ンを生物地球化学的機能,あ るい は生 態 学的 機能 の違 いによって 区分した分類詳,すなわち ,植物プランクトン機能別分 類群 に着 目 し, 南大 洋の 炭素循環に おける植物プランクトン機 能別分類群の役割を定量的二 評価することを目指し た。
先 ず, 申 請者 は, 南大 洋の純基礎 生産と植物プランクトン機 能別分類群との関係を評価す るた めに ,1997年9月か ら2007年8月 まで の衛 星 デー タの 解析 を行 っ た。 さらに,申請者が 参加 した 研 究航 海で 得ら れた現場観 測デ一夕などを用いて,衛 星データの検証を行った。そ れら の結 果 ,過 去10年間 にわたって 夏季に純基礎生産が年々減 少していた極前線海域では,
珪藻 類現 存 量も 減少 して いたことが 明らかとなった。一方,季 節的に海氷が覆う南極周極流 南部 の海 域 では ,夏 季の 純基礎生産 が高い年には珪藻類が植物 プランクトン群集中で優占し たの に対 し ,夏 季の 純基 礎生産が低 い年にはハプト藻類が優占 していたことが判明した。こ れら のこ と から ,南 大洋 における夏 季の純基礎生産の変動傾向 に対して,植物プランク卜ン
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機 能 別 分 類 群 の 優 占 率 が 強 く 関 与 し て い る こ と カ 沫 さ れ た 。
申 請 者 は , 上 で 記 し た 珪 藻 類 が 優 占 す る ほ ど 純 基 礎 生 産 が 高 か っ た と い う 点 に 着 目 し , 衛 星 リ モ ー ト セ ン シ ン グ で は 評 価 が 困 難 で あ る , 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 光 合 成 生 理 特 性 と 植物 プ ラ ン ク ト ン 機 能 別 分 類 詳 と の 関 連 性 を 明 ら か に す る た め ,2010年12月 か ら2011年1月 に 東 京 海 洋 大 学 の 海 鷹 丸 に よ る 南 大 洋 航 海 に 参 加 し た 。 こ の 際 , 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 光 合 成 生理 特 性 に つ い て は 光 合 成 ー 光 曲 線 実 験 か ら , 植 物 プ ラ ン ク ト ン 機 能 別 分 類 群 は 高 速 液 体 ク 口マ ト グ ラ フ イ ー(HPLC)に よ る 植 物 色 素 分 析 か ら 評 価 し た 。 そ の 結 果 , 極 前 線 が 位 置 す る55°S 以 北 で は ハ プ ト 藻 類 や 緑 藻 グ ル ー プ ( プ ラ シ ノ 藻 類 と 緑 藻 類 ) の 現 存 量 が 相 対 的 に 高 いの に 対 し , 極 前 線 以 南 の 海 域 で は 珪 藻 類 が 植 物 プ ラ ン ク ト ン 群 集 中 で 優 占 レ て い た こ と が 明ら か と な っ た 。 ま た , 光 合 成 ー う ヒ 曲 線 実 験 で 得 られ た 光 合 成 パラ メ ー タ ー の 測定 結 果 よ り ,珪 藻 類 が 優 占 し て い た 海 域 で は , 珪 藻 類 非 優 占 海 域 に 比 べ て , 植 物 プ ラ ン ク ト ン が 弱 光 環 境に 適 応 し , 効 率 的 に 光 合 成 を 行 っ て い た こ と が 判 明 し た 。
さ ら に , 申 請 者 は , 南 大 洋 に お け る 植 物 プ ラ ン ク ト ン 機 能 別 分 類 群 の 変 化 が , 海 表 面 の 二 酸 化 炭 素 分 圧 に 与 え る 影 響 を 評 価 し た 。 そ の 解 析 に は , 純 基 礎 生 産 に 対 し て 植 物 プ ラ ンク ト ン 機 能 別 分 類 群 の 優 先 率 が 強 く 関 与 し て い た 南 極 周 極 流 南 部 海 域 ( 季 節 海 氷 域 ) の 現 場デ 一 夕 を 使 用 し た 。 そ の 結 果 , 珪 藻 類 の 現 存 量 お よ ひ 純 基 礎 生 産 と 海 表 面 二 酸 化 炭 素 分 圧 の間 に 有 意 な 負 の 相 関 が 得 ら れ た 。 こ の こ と は , 珪 藻 類 の 現 存 量 と 純 基 礎 生 産 の 変 化 が 夏 季 の同 海 域 に お け る 海 表 面 二 酸 化 炭 素 分 圧 の 変 化 に 影 響 を 及 ぽ し て い た こ と を 示 唆 す る 。 申 請 者 は , 上 で 記 し た よ う に , 衛 星 ル モ ー ト セ ン シ ン グ お よ ひ 現 場 観 測 を 通 し て , 南 大 洋 の 炭 素 循 環 に お け る 植 物 プ ラ ン ク ト ン 機 能 別 分 類 群 の 役 割 を 定 量 的 に 把 握 す る こ と に 成功 し た 。 ま た , 申 請 者 は , ( 独 ) 日 本 学 術 振 興 会 の 特 別 研 究 員(DCl)に 採 用 さ れ た 。 審 査 委 員 一 同 は , こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価 し , ま た 研 究 者 と し て 誠 実 か つ 熱 心 で あ り , 大 学 院 博 士 課 程 に お け る 研 鎖 や 修 得 単 位 な ど も あ わ せ , 申 請 者 が 博 士 ( 環 境 科 学 ) の 学 位を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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