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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 学 ) 坂 野 博 之

学 位 論 文 題 名

洞爺湖におけるヒメマスの成長様式 およびその成長に対する種間関係の影響

学位論文内容の要旨

  日本の湖におけるヒメマスは、内水面漁業の重要種とされ、移殖・放 流によって個体群が維持されている。一方、ワカサギ個体群もヒメマス 同様に移殖・放流が行われ、両種が同所的に生息する洞爺湖や十和田湖 では、両種の漁獲量に経年変動が見られ、必ずしも安定した漁業生産が 得られていない。この原因として、両種とも湖の沖帯に分布し、共通の 動物プランクトンを摂餌することにより、種間での餌をめぐる競争が生 じるためと考えられている。すなわち、両種による動物プランクトンへ の捕食圧が、湖内の動物プランクトン群集の現存量および種組成を変化 させ、結果的に両個体群の再生産や加入、さらにその後の成長と個体群 変動へも影響をもたらしている可能性がある。しかし、ヒメマスとワカ サギの関係と、ヒメマスの成長に与える影響の具体的な過程は明らかに されていなぃ。

  そこで本研究では、北海道南西部に位置し、ヒメマスとワカサギが 同所的に生息する洞爺湖を対象として、ヒメマスの個体成長様式の変異 と、それに影響するワカサギとの種間関係を明らかにすることを目的と した。19 92〜1998年の7年間、北海道大学水産学部附属洞爺湖臨湖実 験所前浜にて、ヒメマスとワカサギを刺網を用いて周年採集し、解析に 供した。はじめに、ヒメマスの成長様式および食性の体サイズによる変 化を明らかにした。次に、野外で求められた成長率と湖沼環境の解析、

生体エネルギーモデルに基づぃた解析を行い、成長に影響する要因を推 定した。さらに、ヒメマスとワカサギの動物プランクトンをめぐる競争 関係を求め、而種が動物プランクトン現存量に与える影響について推定 した。なお、調査期間中における洞爺湖の動物プランクトン現存量は、

1994年以降著しく減少したことが知られている。

  はじめに、ヒメマスの成長様式の年変化を明らかにした。逆算体長

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は各年級群で異なり、1゛齢時と2←齢時では経年的に小型化した。3゛齢時 でも、逆算体長は経年的に小型化していたが、1994年級群で若干大型 化した。同様の傾向は成長係数においても認められた。体サイズと成長 量の関係を各年級群にっいて求めたところ、19 88〜1992年級群までは 初期成長が良く、その後の成長が悪いという関係、1993および1994年 級群では初期成長が悪く、その後の成長が良いという関係が得られたっ 以上のことから、ヒメマスの体長および成長係数は経年的に低下したが、

体サイズと成長率の関係は、1993年級群以降大きく変化したことが明 らかとなった。

  ヒメマスの成長様式の変化が生じた期間中の食性を求めた。1994〜 1997年におけるヒメマスの胃内容物中には、ワカサギが卓越して出現 した。体長約15cmを超えたヒメマスのみワカサギを摂餌し、大型のヒ メマスほどワカサギを摂餌している割合が高かった。また、ヒメマスと 摂餌されていたワカサギのサイズの関係は、大型のヒメマスほど摂餌す るワカサギの体長が大きく、重量が多いことを示した。体長約15cm未 満の小型ヒメマスは、動物プランクトンやヨコエビ類を摂餌していた。

したがって、1994〜1997年の間では、ヒメマスの胃内容物組成は、成 長に伴って変化することが明らかとなった。

  次に、ヒメマスの成長に影響する要因を推定した。放流時のヒメマ スの成長率、ー年目(0゛齢から1゛齢)およびニ年目(1゛齢から2゛齢)

の成長率は、動物プランクトン現存量と有意な正の相関が認められた。

生体エネルギーモデルによる解析から、水温や体サイズが異なっても、

ヒメマスの成長は摂餌量によってほとんどが説明されることが示された。

生体エネルギーモデルにおける幾っかの変数に関して感度分析を行った 結果、水温や遊泳速度などの変数よりも、摂餌比率や餌生物のエネルギ ー含有量など、摂餌に関する変数の方が成長に影響することが明らかと なった。これらのことから、洞爺湖におけるヒメマスの成長には、摂餌 要因が強く影響することが示唆された。

  洞爺湖において、ヒメマスと同所的に生息するワカサギの体長と食 性の年変化を明らかにした。1993〜1998年におけるワカサギの体長は、

当歳魚では年級群間で変化しないものの、1齢魚では1995年級群と1996 年級群 が、1993年級 群と1994年 級群よ り小さくなった。1994〜1997 年におけるワカサギの胃内容物解析の結果、ワカサギはヨコエビ類や不 明種の稚魚も摂餌するが、動物プランクトンを高い割合で摂餌すること が示された。

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  次に、ヒメマスとワカサギの餌をめぐる競争関係の有無について解 析した。19 93〜1997年におけるヒメマスとワカサギの餌ニッチ幅は、

1993年において最も広く、1995年において最も狭かった。同一期間に おける胃内容 物類似度指数は、1993年に高く、1995年に低いといった ニッチ幅の動態と同様の傾向を示した。1997年と1998年の調査の結果、

ヒメマスとワカサギの採集深度は、季節的に重複することが明らかとな った。漁獲量からみたヒメマスとワカサギの関係を明らかにするため、

両種の1930〜1997年までの漁獲量をロトカ・ヴォルテラ競争方程式に 当てはめた。得られた変数の関係から、両種は競争関係による不安定共 存状態にあることが推察された。以上のことから、両種は動物プランク ト ン を め ぐ る 潜 在 的 な 競 争 関 係 に あ る 可 能 性 が 推 察 さ れ た 。     ヒメマスとワカサギによる動物プランク卜ン群集への影響を求める ため、両種の 摂餌量推定を行った。ヒメマス個体群の摂餌量は1993年 に相対的に高く、その後、経年的に減少する傾向が示された。その組成 は、1993年には橈脚類と枝角類が主であったが、1994年以降ワカサギ が主要な構成餌生物となった。ヒメマス個体群に摂餌されたワカサギの 量は、洞爺湖漁業協同組合による漁獲量よりも多く、また、そのサイズ も漁業者によって漁獲されるワカサギよりも小型であった。ヒメマス個 体群による動 物プランクトン摂餌量は1993年に相対的に高く、1994年 以降減少することが示された。しかし、ワカサギ個体群による摂餌量は、

1995年まで大きくは減少しなかった。

  以 上の こ とか ら、1992年から1997年の間の洞 爺湖において、ヒ メ マスの成長の経年変化が生じており、これには競争種としてのワカサギ の存在と、両種が共通の餌とする動物プランクトン現存量の増減が影響 することが明らかにできた。すなわち、ヒメマスの成長様式の変化につ いて、以下のような過程が想定できる。動物プランクドン現存量が多い 1992年と1993年では、ヒメマスは動物プランクトンを摂餌し、その成 長率は高い。しかし、体サイズの大型化に伴い、体重維持摂餌量は多く なり、次第に資源の制限を受けやすくなるため、成長率は低下する。つ まり、初期成長が良く、その後の成長が悪いとぃうパターンになる。し かし、ヒメマスとワカサギによる動物プランクトンーの相対的に高い捕 食が一要因と して、1994年における動物プランクトン現存量を激減さ せた。1994年以降では、動物プランクトン現存量の減少が、動物プラ ンクトンを摂餌するワカサギや小型のヒメマスの成長を低下させ、経年 的な小型化をもたらした。一方、大型のヒメマスは、小型化したワカサ ギを摂餌できたため、動物プランクトン現存量の減少にも関わらず、そ

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の成長を補償できた。っまり、1994年以降のヒメマスの成長様式は、

初期成長が悪く、その後の成長が良いというパターンになる。したがっ て、動物プランクトン現存量の少ない時期では、ヒメマスとワカサギの 関係は、ヒメマスの体サイズによって餌の競争から捕食関係ヘ変わるサ イズ依存的な関係であることにより、ヒメマスの成長様式が説明される と考えられた。

(5)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教 授    教 授    助 教 授   助 教 授   教 授   

崎 健 二 城 春 雄 井 泰 憲 田    宏 山 雅 秀

学 位 論 文 題 名

洞爺湖におけるヒメマスの成長様式 および その成長に対する種間関係の影響

  日 本 の 湖 に お け る ヒ メ マ ス は 、 内 水 面 漁 業 の 重 要 種 と さ れ 、 移 殖 ・ 放 流 に よ っ て 個 体 群 が 維 持 さ れ て い る 。 一 方 、 ワ カ サ ギ 個 体 群 も ヒ メ マ ス 同 様 に 移 殖 ・ 放 流 が 行 わ れ 、 両 種 が 同 所 的 に 生 息 す る 洞 爺 湖 や 十 和 田 湖 で は 、 而 種 の 漁 獲 量 に 経 年 変 動 が 見 ら れ 、 必 ず し も 安 定 し た 漁 業 生 産 が 得 ら れ て い な い 。 こ の 原 因 と し て 、 両 種 と も 湖 の 沖 帯 に 分 布 し 、 共 通 の 動 物 プ ラ ン ク 卜 ン を 摂 餌 す る こ と に よ り 、 種 間 で の 餌 を め ぐ る 競 争 が 生 じ る た め と 考 え ら れ て い る 。 す な わ ち 、 両 種 に よ る 動 物 プ ラ ン ク ト ン へ の 捕 食 圧 が 、 湖 内 の 動 物 プ ラ ン ク ト ン 群 集 の 現 存 量 お よ び 種 組 成 を 変 化 さ せ 、 結 果 的 に 両 個 体 群 の 再 生 産 や 加 入 、 さ ら に そ の 後 の 成 長 と 個 体 群 変 動 へ も 影 響 を も た ら し て い る 可 能 性 が あ る 。 し か し 、 ヒ メ マ ス と ワ カ サ ギ の 関 係 や 、 ヒ メ マ ス の 成 長 に 与 え る 影 響 の 具 体 的 な 過 程 は 明 ら か に さ れ て い な い 。   そ こ で 本 研 究 で は 、 洞 爺 湖 に 生 息 す る ヒ メ マ ス の 成 長 に 影 響 す る 要 因 を 求 め 、 同 所 的 に 生 息 す る ワ カ サ ギ と の 関 係 が ヒ メ マ ス の 成 長 に 影 響 す る 過 程 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 、 両 種 の 成 長 お よ び 食 性 、 漁 獲 量 の 解 析 、 お よ び 調 査 期 間 中 で あ る1994年 以 降 減 少 し た 動 物 プ ラ ン ク ト ン に 対 す る 両 種 の 摂 餌 量 推 定 を 行 い 、 以 下 の 知 見 を 得 た 。 1) ヒ メ マ ス の 成 長 様 式 の 年 変 化 を 明 ら か に し た 。 逆 算 体 長 と 成 長 係 数 は 経 年 的 に 低 下 し た 。 体 サ イ ズ と 成 長 量 の 関 係 で は 、19881992年 級 群 ま で は 初 期 成 長 が 良 く 、 そ の 後 の 成 長 が 悪 い と ぃ う 関 係 、1993お よ び1994年 級 群 で は 初 期 成 長 が 悪 く 、 そ の 後 の 成 長 が 良 い と い う 関 係 が 得 ら れ た 。 し た が っ て 、 ヒ メ マ ス の 成 長 様 式 は 、 調 査 期 間 中 に 大 き く 変 化 し た こ と が 明 ら か と な っ た 。

2) ヒ メ マ ス の 成 長 様 式 の 変 化 が 生 じ た 期 間 の 食 性 を 求 め た 。 ヒ メ マ ス の 胃 内 容 物 は 、 成

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長に伴い動物プランクトンからワカサギに変化した。摂餌されたワカサギとヒメマスの サイズ関係は、大型のヒメマスほど大型のワカサギ、かつ多くのワカサギを摂餌するこ とを示した。

3)ヒメマスの成長に影響する要因を推定した。ヒメマスの成長率は、動物プランクトン 現存量と有意な正の相関が認められた。生体エネルギーモデルによる解析から、ヒメマ スの成長は摂餌量によって説明されることが示された。生体エネルギーモデルに対して 感度分析を行った結果、摂餌に関する変数が最も成長に影響した。以上のことから、洞 爺 湖 に お け る ヒ メマス の成 長に は、 摂餌要 因が 強く 影響す るこ とが 示唆 された 。 4)洞爺湖において、ヒメマスと同所的に生息するワカサギの体長と食性の年変化を明ら かにした。1993へ1998年におけるワカサギの体長は、当歳魚では年級群間で変化しない ものの、1齢魚では小型化した。ワカサギの胃内容物解析の結果、ヨコエビ類や不明種 の 稚 魚 も 摂 餌 す る が 、 動 物 プ ラ ン ク 卜 ン を 多 く 摂 餌 す る こ と が 示 さ れ た 。 5)ヒメマスとワカサギの餌生物をめぐる競争関係の有無にっいて解析した。而種の採集 深度は季節的に重複し、胃内容物類似度指数も高い値を示した。両種の漁獲量を当ては めたロトカ.ヴォルテラ競争方程式の変数から、競争関係による不安定共存状態にあるこ とが推察された。以上のことから、両種は餌生物をめぐる潜在的な競争関係にある可能 性が推察された。

6)ヒメマスとワカサギによる動物プランクトン群集への影響を求めるため、両種の摂餌 量推定を行った。ヒメマス個体群による動物プランクトン摂餌量は1993年に相対的に 高く、1994年以降減少した。しかし、ワカサギ個体群による摂餌量は、1995年まで大 きくは減少しなかった。

7)以上のことから、ヒメマスとワカサギによる動物プランクトンへの相対的に高い捕食 の結果、1994年に動物プランクトン現存量を激減させたと推察された。動物プランクト ン現存量の少ない時期では、両種の関係は、ヒメマスの体サイズによって餌の競争から 捕食関係ヘ変わるサイズ依存的な関係となることにより、ヒメマスの成長様式が説明さ れると考えられた。すなわち、動物プランクトン現存量の減少により、動物プランクト ンを摂餌するワカサギや小型のヒメマスは経年的に小型化したが、大型のヒメマスは、

小型化したワカサギを捕食できるため、動物プランクトン現存量の減少に関わらず、そ の成長を補償できると考えられる。したがって、1994年以降のヒメマスは、初期成長が 悪 く 、 そ の 後 の 成 長 が 良 い と い う 成 長 様 式 と な る こ と が 示 唆 さ れ た 。     以上の研究成果は、貧栄養湖としての洞爺湖におけるヒメマスとワカサギの成長・資 源動態の関係を明らかにしたにとどまらず、これらの結果が閉鎖的な水域への魚類の移 入に際して、魚種間関係はもちろんのこと、その環境収容カを十分検討する必要を示唆 しており、重要な知見を提供したものと高く評価され、本論文が博士(水産学)のが悔 い請求論文として相当の業績であると認定した。

参照

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