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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 生 命 科 学 ) 山 崎 哲 郎

学 位 論 文 題 名

10 族遷移金属触媒によるアリル型中間体の生成を 機軸としたカップリング反応の開発

学位論文内容の要旨

  本論文は10族遷移金属アリル型中間体を基盤とする2種類のクロスカップリング反応の開発に 関して書いたものである。クロスカップリング反応は近年の有機合成において重要な炭素・炭素結 合形成反応のーっであり、多くの生物活性化合物や機能性材料の合成に応用されている。しかし、

そ のほとんどがアリールやビニル化合物などのsp2炭素上でのカップリング反応であり、アリル 化合物から生成する兀.アリル型中間体と有機典型金属化合物とのクロスカップリング反応の例 は少ない。著者は新しい炭素‐炭素結合形成反応の開発を目指し、アリル型遷移金属中間体を経由 す る ク ロ スカ ッ プ リン グ 反 応の 検 討 を行 っ た 。その 結果にっ いて二章 に分け て記載す る。

第 一 章 : ア リ ル 型 遷 移 金 属 中 間 体 を 経 る2位 に 置 換 基 を 有 す る ハ ロ ゲ ン 化 ア リ ル と     有機典型金属化合物とのクロスカップリング反応

  2位 に置換基 を有するシクロヘキセン誘導体は天然物などの複雑な化合物を合成する上で有用 な合成 中間体として期待される。たとえば、著者が所属する研究室ではこれまでに、2位に置換 基を持っシクロヘキセン誘導体を基質とした触媒的不斉辻―Trost反応により、エナンチオ選択的 に窒素置換基を導入することに成功している。さらに、生成した光学活性化合物をキラルビルデ イングブロックとし、(‑)‑Strychnine等の生物活性アルカロイド類の全合成を達成している。不斉 辻一Trost反応を用いることによって、窒素求核剤の導入は比較的容易に行えるものの、マロン酸 誘導体などの炭素求核剤を用いると、低い不斉収率でしか反応が進行しないことが明らかとなっ ていた。そこで著者は、辻‑Trost反応に代わる新たな炭素置換基導入法の開発を目指し、兀‐アリ ルパラジウムを経由する右田‐小杉‑Stille反応ならびに、兀−アリルニッケルを経由する熊田―玉尾

―Corriu反応を検討した。その結果いずれの反応系においても、遷移金属触媒の配位子としてNHC

(〃―heterocyclic carbene)が非常に有効であることが分かった。NHCを配位子として用いることで、

ホスフイン系配位子を用いた場合に問題となる副生成物を抑制でき、目的のクロスカップリング 体が良好な収率で得られることを見いだした。

‑ 1382

(2)

第二章:ニッケル触媒による1,3‐ジェン、カルボニル化合物及び     有機典型金属化合物の立体選択的三成分連結反応の開発

  著者の所属する研究室ではニッケル触媒による1,3‐ジエンとアルデヒド及びシランの三成分連 結反応を報告している。本反応は1,3‐ジェンとアルデヒドの酸化的環化付加によって生成したニ ッケラサイクルとシランとのa‑ボンドメタセシスを経由して進行し、立体選択的に生成物が得ら れる。著者は1,3−ジエンとアルデヒドを用いる新しい多成分連結反応開発の一環として、シラン に代え有機典型金属化合物を用いることを計画した。すなわち、生成したニッケラサイクルと有 機典型金属化合物とのトランスメタル化反応が進行するならぱ、カップリング体に有機典型金属 由来の置換基が導入でき、新しい反応になるはずであると考え研究に着手した。その結果、有機 典型金属試薬としてフェニルボロン酸を用いた場合に三成分連結反応が進行し、位置及び立体選 択的にフェニル基が導入された3―フェニル‑4‑ペンテン‑1‑オール誘導体が収率よく得られること が分かった。得られた生成物の立体化学はC1位のヒドロキシ基とC3のフェニル基が1,3‐シンの 関係にあることが明らかとなった。また内部ジェンを用いた場合、C2位にも置換基を持つ生成物 が単一異性体として得られ、その立体化学は1,2ーアンチ、1,3一シンに完全に制御されていることが 分かった。次に1,3―ジェン、アルデヒドのカップリング反応に適用可能な有機典型金属試薬をさ らに探索したところ、ケイ素上にフェニル基とメチル基二つ、およぴD―HOCH2(C6H4)基をもつ有 機ケイ素試薬を用いると、驚くべきことに導入されるフェニル基の立体化学が逆転し、1,3−アンチ の立体化学を持つ三成分カップリング体が単一立体異性体として得られることが明らかとなった。

これ ら2種 類の立体選択的カップリング反応には種々の芳香族アルデヒドや脂肪族アルデヒドも 基質として適用可能であり、いずれの場合も完璧な立体選択性で1,3−シン体と1,3一アンチ体が作り 分けられることが判明した。有機金属試薬として、ボロン酸を用いた場合と有機ケイ素試薬を用 いた場合で立体選択性が逆転する機構については、次のように考察される。いずれの試薬を用い た場合もまず1,3―ジェンとアルデヒドのニッケル錯体に対する酸化的環化付加反応が進行し、五 員環ニッケラサイクルを経てアリル型ニッケル中間体となる。ボロン酸を用いた場合はアリル型 ニッケル中間体とのトランスメタル化反応が進行し、1,3‐シン体が得られたと思われる。ー方、有 機ケイ素試薬を用いた場合、ケイ素上のフェニル基が兀‑アリルニッケル中間体に対し、ニッケル の反対側から求核攻撃することで1,3−アンチ体のみがジアステレオ選択的に生成したと考えられ る。また、本法にはアルデヒドの代わりにケトンも用いることができる。i3‑ジェンとケトン、及 ぴ有機典型金属試薬の三成分カップリング反応も同様に立体選択的に進行し、有機金属試薬を使 い分 けるこ とによっ てCl位の 不斉四置換炭素の立体化学が完全に制御されたカップリング体の 作り分けができることが明らかとなった。

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

10 族遷移金属触媒によるアリル型中間体の生成を 機軸としたカップリング反応の開発

  近 年、有機 合成化 学におい て「クロスカップリング反応」は重要な炭素―炭素結合形成反応 の ーっとし て認識 されてお り、多くの生物活性化合物や機能性材料の合成に利用されている。

し かし、こ れまで 報告され ている「 クロス カップリ ング反 応」のほ とんど は基質としてアリ ー ル 又 はビ ニ ル ハライ ドなど を用いたsp2炭素 上での 結合形成 反応で あり、ア リル化 合物か ら 生成する7匸. アリル 型中間体と有機典型金属化合物とのsp3炭素上での結合形成反応の例は 少 ない。本 論文は 、10族遷移 金属ア リル型中 間体を基 盤とす るクロス カップ リング反応の開 発 に 関 し て 書 か れ た も の で あ り 、 そ の 内 容 に 関 し て 以 下 の 二 章 に 分 け て 記 載 す る 。 第 一 章 : ア リ ル 型 遷 移 金 属 中 間 体 を 経 る2位 に 置 換 基 を 有 す る ハ ロ ゲ ン 化 ア リ ル と     有機典型金属化合物とのクロスカップリング反応

  2位 に 置 換基 を 有 する シ ク ロヘ キ セ ン誘 導体は天 然物など の複雑 な化合物 を合成 する上で 有 用 な合 成 中 間体 と し て期 待 さ れる 。 たと えば、著 者の所属 する研 究室では すでに 、2位 に 置 換 基を 持 つシク ロヘキ セン誘導 体を基質 とした 触媒的不 斉辻‑Trost反 応によ り、エナ ンチ オ 選 択的 に 窒素置 換基を 導入する ことに成 功し、 さらに生 成した 光学活性 化合物 をキラル ビ ルディングブロックとし(‐)ーStrychnine等の生物活性アルカロイド類の全合成を達成している。

一 方 、こ の 不斉辻‑Trost反応で は窒素求 核剤の 導入は比 較的容 易に行え るもの の、炭素 求核 剤 と の反 応 は困難 である ことが既 に明らか となっ ていた。 本著者 はこの点 を克服 すべき、 辻

‑Trost反応 に代 わる新 たな炭素 置換基導 入法の 開発を目 指し、 研究に着 手した 。すなわ ち、

兀‐アリルパラジウム中間体を経由する右田・小杉―Stille反応並びに冗‑アリルニッケル中間体 を経 由する熊 田―玉 尾‑Corriu反 応を検 討した。 その結 果、いず れの反 応系においても遷移金 属 触 媒の 配 位 子と し て 含窒 素 ヘ テロ 環 カル ベン(NHC)が有効 であるこ とを見出 した。 また、

こ のNHCを配 位 子 とし て 用 いる こ と で、 こ の 種の 反 応 に 通常 用 い られ る ホ スフ イ ン 系配 位 子を 用いた場 合に問 題となる ロ―脱 離体や二 量化体などの副生成物を抑制でき、目的のクロス カップリング体が良好な収率で得られることも明らかとなった。

第 二 章 :ニ ッ ケ ル触 媒 に よる1,3‐ ジ ェ ン、 カ ル ポニ ル 化 合 物及び有 機典型金 属化合 物     の 立 体 選択 的 三 成分 連 結 反応 の 開 発

1384

洋 一

望 一

   

授 授

授 授

   

   

教 教

准 准

(4)

  著者の所 属する研 究室では、ニッケル触媒による1,3‐ジェンとアルデヒド及びシランの三 成 分連結 反応を既 に報告している。本反応は1,3‐ジェンとアルデヒドの酸化的環化付加によ っ て生成 したニッ ケラサ イクルと シラン とのo ‑ボンドメタセシスを経由して進行し、立体選 択 的に生 成物が得 られる 。一方、 著者は この反応 系におい てシラ ンの代わりに「有機典型金 属 化合物 」を用い ること を計画し た。す なわち、 生成した ニッケ ラサイクルと有機典型金属 化 合物と のトラン スメタ ル化反応 が進行 するなら ば、シラ ンを用 いたカップリング体では困 難 な新た な置換基 の導入を経たカップリング反応の開発が可能であると予想した。その結果、

有 機典型 金属試薬 として フェニル ボロン 酸を用い た場合に は、予 想した三成分連結反応が進 行 し、位 置及び立 体選択 的に有機 ホウ素 試薬由来 のフェニ ル基が 導入された3―フェニル‑4‑

ペ ンテン‑1‑オー ル誘導 体が収率 よく得 られることが分かった。また、この時得られた生成物 の 立体化 学はC1位の ヒドロ キシ基とC3のフェ ニル基が 完全に1,3‐シン の関係に制御されて い ること も明らか となっ た。更に 、内部 ジェンを 用いた場 合には 、C2位にも置換基を持っ生 成物が単一異性体として得られ、その立体化学は1,2−アンチ、1,3一シンに完全に制御されるこ と が分か った。一 方、本 反応に適 用可能 な有機典 型金属試 薬をさ らに探索したところ、ケイ 素 上 に フェ ニル基と メチル 基二つ、 およびo‑HOCH2(C6H4)基 をもつ有 機ケイ素 試薬を 用いて も 三成分 連結反応 が進行 し、この 反応条 件下では 驚くべき ことに 導入されるフェニル基の立 体 化学が 逆転し、1,3‐アンチの立体化学を持っカップリング体が単一立体異性体として得ら れ る こ とを 見出した 。これ ら2種 類の立体 選択的 カップリ ング反 応には種 々の芳香 族アル デ ヒ ドや脂 肪族アル デヒド も基質と して適 用可能で あり、い ずれの 場合も完璧な立体選択性で 1.3一シン体と1,3−アンチ体が作り分けられることが判明した。有機金属試薬として、ボロン酸 を 用いた 場合と有 機ケイ 素試薬を 用いた 場合で立 体選択性 が逆転 する機構については、著者 は 次のよ うに考察 している。すなわち、いずれの試薬を用いた場合もまず1,3一ジェンとアル デ ヒドの ニッケル 錯体に 対する酸 化的環 化付加反 応を経て 、共通 の中間体である五員環ニツ ケ ラサイ クルが生 成し、 この中間 体はア リル型ニ ッケル中 間体と の平衡関係にあると考えら れ る。ポ ロン酸を 用いた 場合は、 これら の中間体 上のニッ ケル中 心とホウ素との間でトラン スメタル化反応が進行するためフェニル基がニッケルと同じ側から導入された1,3‐シン体カミ 生 成した と考えら れる。 一方、有 機ケイ 素試薬を用いた場合、ケイ素上のフェニル基が7匸―

ア リルニ ッケル中 間体の ニッケル 中心の 反対側から求核攻撃し、1,3‑アンチ体のみがジアス テ レオ選 択的に生 成した と考えら れる。 本反応で は、アル デヒド の代わりにケトンも用いる こ と が で き、 や は り有 機 典 型金 属 試薬種 類によ ってCl位の 四置換 炭素の立 体化学 が完全に 制 御 さ れ た カ ッ プ リ ン グ 体 の 作 り 分 け が で き る こ と も 明 ら か と な っ た 。   以 上のよ うに、著者は、これまで報告例の極めて少ない10族遷移金属を用いた71ニ―アリル 中 間体上 でのクロ スカッ プリング 反応を広 汎に検 討し、新 たな立 体選択的クロスカップリン グ 反応の 開発に成 功した 。

  よ って著 者は、北 海道大 学博士( 生命科 学)の学 位を授与 される 資格あるものと認める。

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参照

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