博 士 ( 工 学 ) 西 形 孝 司
学 位 論 文 題 名
1 4‑Addition Reaction of Arylboron,‑silicon,‑bismuth Compounds to Enones Catalyzed by Dicationic Palladium( II)Complexes
( ジカ チオ ン性 パラ ジウ ム(H)に よるアリールホウ素、ケイ素、
ビ ス マ ス 化 合 物 の エ ノ ン ヘ の 1, 4一 付 加 反 応 )
学位論文内容の要旨
1,4―付加反応は、有機合成化学で幅広く用いられている炭素一炭素結合形成法であるっ 特に 触媒 的付 加反 応は 、キ ラル 配位 子による立体制御が可能なことからプロセス化学とし て優 れて おり 、医 薬品 や天 然物 の合 成で幅広く用いられている。また、近年開発された口 ジウム触媒を用いる有機ボロン酸のエノンへの1,4一付加反応は、これまで用いられてきた 有機 マグ ネシ ウム 、リ チウ ム、 銅、 亜鉛試薬とは異なり、官能基共存性に優れ、また高工 ナン チオ 選択 的に 進行 する こと からsp2炭 素導 入法 とし て様 々な 研究が展開されている。
本 研究 は、 カチ オン 性パ ラジ ウム 触媒を用いるアリールホウ素、ケイ素、ビスマス反応 剤のQ, ロー不飽和カルボニル化合物への1,4―付加反応をまとめたものである。カチオン 性パ ラジ ウム 触媒 を用 いる こと によ り0度 以下 の低 温で 進行 する こと、ホウ素、ケイ素、
ビスマスなど多くの金属試薬に対して広範な一般性を有していること、.さらに触媒サイク ル に 含 ま れ る 反 応 機構 を 明 ら か に し て、chiraphosやdipamp錯体 を用 いる 共役 不斉 反応 に展開した。
第・。章では、カチオン性パラジウムを用いるアリールボロン酸のエノンーの1,4一付加反 応について述べた。カチオン性パラジウム錯体である[Pd(dppe)(PhCN)2l(BF4)2を用いると、
室温 、中 性条 件下 で反 応が 円滑 に進 行することを見出した。また、触媒活性も比較的高く ターンオーバー数(TON)は500を達成した。
第二章では、カチオン性バラジウムを用いるアリールケイ素反応剤のエノンへの1,4―付 加反 応に つい て述 べた 。カ チオ ン性 パラジウム錯体は銀塩と塩化パラジウムの反応で合成 する のが 一般 的で ある 。し かし この 方法はベンゾニ卜リルを含まない高活性な触媒を系内 で調 製す る目 的に 適さ なか った こと から、dppe配位 子存 在下 でPd(dba)'2をCu(BF4)2で酸 化す る方 法を 新た に開 発し た。 この 方法は様々な配位子のスクリーニングを容易に行える 点で 優れ てい る。 また 従来 、ケ イ素 上の有機基を合成化学的に利用するにはフッ化物イオ ンの 添加 によ りC一Si結 合の 活性 化を 必要 とし たが 、本 触媒 系は 中性条件下で高い収率を ‐ I
達成した。
第三章では、カチオン性ノくラジウムを用いるアリールボ口ン酸のエノンへの1っ4ー付加反
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応に才jける反応機構について述べた。反応はカチオン性ノくラジウムとアリールボ口ン酸の 卜ランスメタル化によるカチオン性アリールパラジウム錯体(Ar―[Pd]゛)の生成、ニれの エノン二重結合への付加、これにより生じた/くラジウムェノラー卜の水による加水分解を 経て 進行 する と考えられる。触媒サイクル中、付加、加水分解過程は既知であるが、トラ ンス メタ ル化 段階に関する情報は極めて少ないことから、詳細な調査を行った。トランス メタ ル化 によ り生成するモノカチオン性錯体は不安定で単離不能であったが、トリフェニ ルホ スフ アン 錯体 とし て単 離・結 晶化 する ニとにより、X線結晶構造解析で同定するニと に成功した。また、種々のノくラ置換アリールボロン酸を用いてトランスメタル化速度を求 める こと にも 成功した。卜ランスメタル化反応は種々の触媒サイクルに含まれる基礎的プ 口セ スの ―つ であるが中間体の確認あるいはその動力学が調べられた例は極めて少ない。
ニれらの研究から、アリールボ口ン酸はジカチオン性ノくラジウム錯体に中性、室温で容易 にトランスメタル化すること、このときの反応の置換基効果は極めて小さく、電子求引基、
供与 基を 有す るボ 口ン 酸間 に大き な反 応性 の差 はな いニ とな どを 初め て明らかにした。
第 四章 では 、カ チオ ン性 パラジ ウム を用 いるトリアリールビスマス反応剤(Ar3Bi)のエ ノンへの不斉1,4ー付加反応について述ぺた。反応は炭素2っで架橋したビスホスフインに 特徴 的で ある こと から 、binap錯 体な どは 全く触媒効果を示さない。触媒活性とエナンチ オ 選 択 性 の 両者 に優 れた 触媒 はchiraphosとdipamp錯 体で 、エ ナン チオ 選択性 は反 応温 度の 低下 とと もに 増加 した 。従っ て、0 0C以下で反応が進行するAr3Biを用いることによ り最 も高 いェ ナンチオ選択性を得ることができ、最高で95%eeを達成した。ビスマス化合 物は 毒性 が低 く、アリールボロン酸と同程度の安定性、扱い易さを有するニと、またビス マ ス 上 の 三 つ の 有 機 基 を す べ て 反 応 に 使 用 で き る こ と か ら 合 成化 学 上 優 れ て い る 。 第 五章 では 、カ チオ ン性 パラジ ウム を用 いるアリールトリフルオロボレート(ArBFf3K) のェノンへの不斉1,4―付加反応について述べた。第四章の結果から、高いエナンチオ選択 性を 得る には 低温 が効 果的 である こと から 、これに見合う反応剤を模索した。ArBF:3Kを 用いるとアリールビスマスより屯さらに反応温度を下げることが可能であり、Grignardや 亜鉛 試薬 に匹 敵す るー15 0Cで反 応が 進行 した。これにより、工ナンチオ選択性を向上さ せる こと に成 功し た。 また 、Rhーbinap系 で高 い選 択性 が得ら れな かっ たpーアリールエ ノン で最 高97%eeを達 成し た。ArBF3Kは空 気や 水に 安定 で合 成や 保存 が容易であること からプ口セス化学的にも優れた反応剤である。
本 章で はさ らに 、カ チオ ン性不 斉錯 体のX線結晶解析から、不斉発現のメカニズムにつ いても議論した。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
1,4ーAddition Reaction of Arylboron,‑silicon,‑bismuth Compounds to Enones Catalyzed by Dicationic Palladium(H)Complexes ( ジ カ チ オ ン 性 パ ラ ジ ウ ム (H) に よ る ア1Jー ル ホ ウ 素 、 ケ イ 素 、 ビ ス マ ス 化 合 物 の エ ノ ン へ の1,4一 付 加 反 応 )
共役付加 反応は、 有機合成 化学で幅広 く用いら れている 炭素―炭素結合形成法である。
特に触媒 的付加反 応は、キ ラル配位子 による立 体制御が 可能なことからブ口セス化学とし て優れて おり、医 薬品や天 然物の合成 で幅広く 用いられ ている。また、近年開発されたロ ジウム触 媒を用い る有機ボ ロン酸のエ ノンへの 共役付加 反応は、これまで用いられてきた 有機マグ ネシウム 、リチウ ム、銅、亜 鉛試薬と は異なり 、官能基共存性に優れ、また高工 ナン チオ選 択的に進 行すること からsp2炭素 導入法と して様々 な研究が 展開され ている。
本研究は、カチオン性パラジウム触媒を用いるアリールホウ素、.珪素、ビスマス反応剤 のQ,B―不 飽和カル ポニル化 合物への1,4―付加反 応をまと めたものである。パラジウム 触媒 を用い ることに より0度以下 の低温で 進行する こと、ホ ウ素、ケ イ素、ビ スマスなど 多くの金 属試薬に 対して広 範な一般性 を有して いること 、さらに触媒サイクルに含まれる 反 応 機 構を 明 ら かに し て 、chraphosやdipamp錯 体 を用 い る 共役 不 斉 反応 に 展開 じ た 。 第一章では、カチオン性パラジウムを用いるアリールボロン酸のエノンへの1,4―付加反 応である 。カチオ ン性パラ ジウム錯体である[Pd(dppe)(PhCN)2l(BF4)2を用いると、室温、
中性条件 下で反応 が円滑に 進行するこ とを見出 した。ま た、触媒活性も比較的高くターン オーバー数(TON)は500を達成している。
第二章で は、カチ オン性パ ラジウムを用いるアリールケイ素反応剤のエノンへの共役f寸 加反応で ある。カ チオン性 パラジウム 錯体は銀 塩と塩化 パラジウムの反応で合成するのが 一般的である。しかしこの方法は、ベンゾニトリルを含まない高活´陸な角虫媒を系内で調製 する 目的に 適さなか ったことか ら、dppe配位 子存在下 でPd(dba)2をCu(BF.1)2で酸 化する 方法を新 たに開発 した。従 来、ケイ素 上の有機 基を合成 化学的に利用するにはフッ化物イ オンの添 加によりC‑Si結合の活 性iヒを必要としたが、開発された触媒系は中性条件下で高 い収率を達成した。
夫 治
毅
憲 正
浦
熊
宮 原
大
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
第三 章では、 カチオン 性パラジ ウムを用 いるアリールボロン酸のエノンヘの共役付加反 応における反応機構に関してである。反応はカチオン性ノくラジウムとアリールボロン酸の 卜ランスメタル化によるカチオン性アリールノくラジウム錯体(Ar−[Pd]゛)の生成、これの エノ ン二重結 合への付 加、これ により生 じたパラジ ウムェノラートの水による加水分解を 経て 進行する と考えら れる。触 媒サイク ルの内、付 加、加水分解過程は既知であるが、卜 ラン スメタル 化段階に 関する情 報は極め て少ないこ とから、詳細な調査を行っている。ト ラン スメタル 化により 生成する モノカチ オン性錯体 は不安定で単離不能であったが、トリ フェ ニルホス フィン錯 体として 単離・結 晶化するこ とにより 、X線結晶 構造解析 で同定す ることに成功した。また、種々のノくラ置換アリールボロン酸を用いて卜ランスメタル化速 度を 求めるこ とにも成 功した。 トランス メタル化反 応は種々の触媒サイクルに含まれる基 礎的 プ口セス のーっで あるが中 間体の確 認あるいは その動力学が調べられた例は極めて少 ない ことから 注目され る。これ らの研究 から、アリ ールボロン酸はジカチオン性パラジウ ム錯 体に中性 、室温で 容易にト ランスメ タル化する こと、このときの反応の置換基効果は 極め て小さく 、電子求 引基、供 与基を有 するボ口ン 酸間に大きな反応性の差はないことな どを初めて明らかにした,。
第四 章では、 カチオン 性パラジ ウムを用 いるトリア リールビ スマス反 応剤(Ar3Bi)のエ ノンヘの不斉1,4一付加反応について述べている。触媒活性とエナンチオ選択性の両者に優 れ た 触媒 はchiraphosとdipamp錯 体 で、 工 ナン チ オ 選択性は 反応温度 の低下とと もに増 加し た。従っ て、0 0C以下 で反応が 進行する"Ar3Biを用いることにより最も高いエナンチ オ選 択性を得 ることが でき、最 高で95%eeを 達した。ビスマス化合物は毒性が低く、アリ ール ボロン酸 と同程度 の安定性 、扱い易 さを有する こと、またビスマス上の三つの有機基 をすべて反応に使用できることから合成化学上優れている。
第五 章 で は、 カ チオ ン性パ ラジウム を用いる アリール 卜リフルオ ロボレー ト(ArBF3K) のエノンヘの不斉1,4―付加反応について述べた。高いエナンチオ選択性を得るには低温が 効 果 的で あ る こと か ら、こ れに見合 う反応剤 を模索し た。ArBF3Kを用い るとアリ ールビ スマ スよりも さらに反 応温度を 下げるこ とが可能で あり、Grignardや亜鉛試薬に匹敵する
―15 0Cで 反応が進 行した。これにより、エナンチオ選択性を向上させることに成功した。
ま た 、Rh―binap系で 高い 選択性が 得られな かったp‐ アリール エノンで最 高97%eeを達 成し た。ArBF3K は 空気や水 に安定で 合成や保 存が容易であることからプロセス化学的に も優れた反応剤である。
これ を要する に著者は 、医薬、 農薬合成 で重要なキラル分子のエナンチオ選択的合成を キラ ル触媒反 応を用い て達成し たもので あり、有機 合成化学、有機金属化学、触媒化学の 分野に対して貢献するところ大なるものがある。
よっ て著者は 、北海道 大学博士 (工学) の学位を授与される資格あるものと認める。