博 士 ( 工 学 ) 佐 々 木 皇 美
学位論文題名
Synthesis of Functionalized Aromatic Compounds by Utilizing Clean Processes
(クリーンプロセスを用いた官能基を有する芳香族化合物の合成)
学位論文内容の要旨
高 度に 複雑 化した現代社会においては、化学物質は必要不可欠なものであり、現在 も多 種多 様の 化合物が設計・合成・使用されている。しかし、近年これらの大量生産 され た人 工化 学物質が地球環境や生態系へ与える影響が問題となっている。従来の工 業的 化学 合成 においては、生産効率が最重要課題であったが、現在は化学物質による 環境 汚染 の深 刻化が生産される化学物質とプ口セスの見直しを追っている。有機合成 化学 にお いて も、光反応や電極反応等がクリーンプ口セスのーっとして研究されてき たが、今のところ、その応用範囲は一部に限られている。
様 々な 化学 物質の中で、官能基を有する芳香族化合物は、抗生物質等の医薬品の前 駆体として、あるいは現在多用されているポリエチレンテレフタレ丶一ト等汎用ポリマ ーを高機能化するためのモノマーとして、その利用が大いに期待されている。しかし、
そ の 合 成 は 、 複 雑 ・ 多 段 階 の 経 路 で 、 多 種 の 試 薬 を 使 用 し て い る こ と が 多 い 。 本論文では、クリーンなプ口セスの開発を目的として、光反応及び電極反応を用い、
官能基を有する芳香族化合物の合成について研究を行った。
光 反応 では 、光による付加あるいは環化反応を利用した選択的な芳香族化合物の合 成について研究した。また、電極反応では、従来の溶媒と比較して特異な性質を持ち、
かつ 無害 であ る超臨界二酸化炭素を溶媒として反応を行い、官能基を有する芳香族化 合物合成への応用並びにその特性について研究を行った。
本論文は6章で構成されている。
第1章では、本研究の背景と目的について述べた。
第2章では、2ーヒドロキシー1,41ナフトキノンとオレフィン類の[2十3]型光付加反応 による多環芳香族化合物の合成について述べた。
2―ヒドロキシー1,4−ナフトキノンと様々なアルケン・アルキン類が[2+3]型光付加反 応 によ り、 相当す る5員環のナフトフラン誘導体を高収率で生成することを示した。
第3章では、2―アミノ−1,4一ナフトキノンとオレフィン類の[2十2]型光付加・環化反 応による多環芳香族化合物の合成について述べた。
2―アミノ‑1,4―ナフ卜キノンと様々なオレフィン類による[2十2]型光付加反応によ り、相当する.シク口プタノール誘導体が高収率で合成できることを示した。さらに、
得られ たシク口 プタノー ル誘導体 がp一開裂 によルナフ トフラン 誘導体に転換できる こと、 光付加反 応のオレ フィンの 種類によ って、2種類 のナフト フラン誘導体が選択 的に合成できることを明らかにした。
第4章で は、ジオ ン誘導体 あるいは 、その誘 導体に相当 するへミ アセタール誘導体 の 光 反 応 を 用 い たp― 開 裂 に よ る フ タ リ ド 誘 導 体 の 合 成 に つ い て 述 べ た 。 この反 応により 、従来困 難であっ た3位が置 換されたフ タリド誘 導体を、一段階で 高選択 的に合成 できるこ とを明ら かにした。また、同様の反応により、環状ジオン誘 導 体及 び そ のへミア セタール誘 導体から 各種置換 ラクトン 類が容易 に合成で きるこ とを示した。
第5章で は、コル ベーシュ ミット反 応におけ る超臨界二 酸化炭素 の影響について述 ぺた。 コルベー シュミッ ト反応と して知られている、ナトリウムフェノキシドの二酸 化炭素 によるカ ルポキシ ル化反応 について、反応時間、反応温度、反応圧力等の反応 条件と 反応生成 物及び収 率との関 係を検討した。その結果から、本反応の反応速度定 数を決 定すると ともに、 コルベー シュミット反応への超臨界二酸化炭素の影響につい て考察した。
第6章で は、超臨 界二酸化 炭素中で の有機ハ 口ゲン化合 物の電解 カルボキシル化反 応について述べた。
従来常 圧で行わ れていた 有機ハ口 ゲン化合物の電解カルボキシル化反応を、超臨界 二酸化 炭素中で 実施する ことによ り、反応終了後、溶媒として使用した二酸化炭素を 容易に 回収でき る、環境 調和型の 合成プ口セスの構築を試みた。各種条件を検討した 結果、 僅かな共 溶媒の添 加により 、電解カルポキシル化反応が可能になることを世界 で初め て見いだ すことが できた。 この反応により、ハ口ゲン化ベンジルあるいは芳香 族ハロ ゲン化合 物から、 相当する フェこル酢酸あるいは芳香族カルポン酸が高収率で 合成で きること を示した 。これら の多環芳香族カルポン酸類は、高分子原料としての 利用が 期待でき るもので ある。さ らに、超臨界条件下の電解カルポキシル化反応の特 徴につ いて検討 し、共溶 媒がアセ トこ卜リルとジヌチルホルムアミドの場合では、電 解反応の状態が異なる事が判明した。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
徳田昌生 宮浦憲夫 米田徳彦 折登一彦
学 位 論文 題 名
Synthesis of Functionalized Aromatic Compounds by Utilizing Clean Processes
( ク リ ー ンプ ロ セ ス を 用 い た 官 能 基 を 有 す る 芳 香族 化合 物の 合成 )
高度 に複 雑化 した 現代 社会 においては化学物質は必要不可欠なものであり、現在も 多 種多 様の 化合 物が 設計 ・合 成・使用されている。しかしながら、近年、大量生産さ れ てき たこ れら の化 学物 質の 地球環境や生態系への影響が問題となっており、可能な 限 り環 境へ の負 荷の 低い 合成 プ口セスの開発が現在求められている。光反応や電極反 応 は 有 機合 成化 学の 分野 にお いて クリ ーンな プ口 セス のひ とつ とし て従 来か ら注 目 されてきたが、現在のところその応用範囲は限られている。
一方 、様 々な 化学 物質 の中 で官能基を有する芳香族化合物は、抗生物質等の医薬品 の 中間 体と して 、ま たポ リエ チレンテレフタレートなどの現在多量に使用されている 汎用ポリマー類の高機能化用モノマーとして、その重要性が益々高くなってきている。
し かし なが ら、 それ らの 合成 手法は複雑・多段階の経路を用いたり、多種の試薬や有 害物質を使用することが多い。
本論 文は 、官 能基 を有 する 芳香族化合物のクリーンな合成プロセスの開発を目的と し て、 光に よる 付加 ある いは 環化反応の利用、あるいは従来の溶媒と比較して特異な 性 質 を 有し かつ 無害 であ る超 臨界 二酸 化炭素 を溶 媒と する 電極 反応 の利 用な どに つ い て研 究を 行い 、ク リー ンで 効率的な合成法を開発した成果についてまとめたもので ある。
第1章 は序 論であり、本研究の背景と目的が述べられている。
第2章では、2―ヒドロキシ‑1,4一ナフトキノンとオレフィン類の新規なE2+3l型光付 加反応による多環芳香族化合物の合成について述べられている。2−ヒドロキシ−1,4− ナ フト キノ ンと 様々なアルケンやアルキン類を光照射することによって新規な[2+3] 型 光付 加反 応が 進行 し、 相当 する5員環 のナ フトフラン誘導体が一段階かつ高収率で
合成されることを見出している。
第3章では、2ーアミノ−1,4ーナフトキノンとオレフイン類の[2十2]型光付加・環化反 応による多環芳香族化合物の合成について述べられている。2一アミノ―1,4−ナフトキ ノンと様々なオレフィン類による[2十2]型光付加反応により相当するシク口プタノー ル誘導体が高収率で合成され、さらに生成されたシク口プタノール誘導体がB―開裂に よ ル ナ フ ト フ ラ ン 誘 導 体 に 転 換 で き る こ と を 新 た に 明 ら か に し て い る 。
第4章で は、 ジケ トン誘導体あるいはその誘導体に相当するへミアセタール誘導体 の光反応を用い、p―開裂によるフタリド誘導体の合成について述べられている。この 反応 によ り、 従来 困難であった3位に置換基を有するフタリド類を一段階かつ高選択 的に合成できることを明らかにしている。また、同様の反応により、環状ジケトン誘 導体およびそのへミアセタール誘導体から、各種置換ラクトン類が容易に合成できる ことを見出している。
第5章 では 、コ ルベーシュミット反応における超臨界二酸化炭素の影響について述 べられている。コルベーシュミット反応として知られているナトリウムフウノキシド の二酸化炭素によるカルポキシル化反応について、反応時間、反応温度、反応圧力等 の反応条件と反応生成物および収率との関係を検討している。それらの結果から、本 反応の反応速度定数や活性化エネルギーが決定され、コルベーシュミット反応への超 臨界二酸化炭素の影響が明らかにされた。
第6章 では 、超 臨界 二酸 化炭素中での有機ハ口ゲン化合物の電解カルポキシル化反 応について述べられている。従来は有機溶媒を用い常圧の二酸化炭素の条件下で行わ れていた有機ハ口ゲン化合物の電解カルポキシル化反応を、超臨界二酸化炭素中で行 い、反応終了後に溶媒として使用した二酸化炭素を回収する環境調和型合成プロセス の構築が試みられた。種々の条件を検討した結果、少量の共溶媒の添加によって効率 的な電解カルポキシル化反応が可能になることを、世界で最初に見出している。この 反応により、ハロゲン化ベンジルあるいは芳香族ハ口ゲン化合物から、相当するフェ こル酢酸あるいは芳香族カルポン酸が高収率で合成できることを示した。これらの多 環芳香族カルポン酸類は高分子原料としての利用が期待できるものである。さらに、
超臨界条件下の電解カルポキシル化反応の特徴について検討し、共溶媒がアセトニト リ ルと ジメ チル ホル ムア ミドの 場合 では 電解 反応 の状 態が異なることを明らかにし ている。
これ を要 する に、著者はクリーンな合成手法である光反応および電極反応を用い、
ナ フ卜 フラ ン誘 導体、フタリド誘導体および芳香族カルポン酸などの官能基を有する 芳 香族 化合 物を 高収率で合成することに成功し、さらに環境調和的な媒体である超臨 界 二酸 化炭 素を 反応場とする新規な電極反応を開発したものであり、有機合成化学な らびに有機工業化学に貢献するところ大なるものがある。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。