博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 劉 向 東
学位論文題名
Studies on SurfaCeMOdifiCation
W . ithanAminO ‐ polySaCCharid6 , ChitOSan
(アミノ多糖キトサンによる表面特性の改変に関する研究)
学位論文内容の要旨
森林乱伐、ゴミ処理問題、地球温暖化、オゾン層破壊、さらに化学物質による環境汚染 など、これまでの無謀な大量開発に起因する様々な環境問題の反省から、「持続可能な開発」
を目指して環境調和型の技術開発が精力的に進められている。こういう背景下、資源再生 可能で、使用後生分解可能な新規材料も注目されている。海洋生物のカニやエビなどの殻 に豊富に存在するムコ多糖のキチンも、将来材料資源の有力候補のーっと考えられ、その 有効利用方法などに関する技術開発が強く望まれている。キチンは植物中に豊富に存在す るセルロースと相似した化学構造を持ち、生産する際に、小型生物の捕集や共存するタン パク質の除去などコス卜上の難点があるものの、地球上でセルロースに次ぐ二番目の生物 生産量を有する物質として重要視されている。
キチンは、水や有機溶媒に難溶性で化学反応性に欠けることから利用方法が限定されてい る。これに対して、キチンをアルカリ条件下で脱アセチル処理して容易に得られるキ卜サ ンは、希酸水溶液に溶解することが可能で、キチンやセルロースより化学反応性が優れて いることから注目を集めている。さらに、キトサンは、生分解性・生体適応性が高く、種々 の生理活性を有するので、機械特性に優れた他の素材と組み合わせてキトサン複合材料と しての応用研究も活発である。実際、複合繊維、フィルム、ゲルなどに成形し、工業用膜 分離、食品、治療薬の生体内の運送や制御徐放などの分野に応用する研究も進められてい る。キトサン複合材料の調製方法については、水溶性高分子と共同混合方法、アニオン性 分子とコンプレックスに形成する方法や共有結合で他の物質と結合する方法などがすでに 多数報告されている。これに対して、、筆者は、キ卜サンを化学反応通じて材料の表面に固 定化して、その表面にキトサン特有な生物特性や活発な化学反応性などを導入する方法も キトサン複合化の有カな手段であると考えた。このようなの申請者の発想をもとに、本論 文は、種々の材料表面にキトサンの固定化する簡便な合成方法の確立とこのキ卜サン固定 化 新 規 材 料 に 対 す る 物 性 評 価 の ニ つ の 面 か ら 行 った 研究 をま とめ たも ので ある 。 キトサンは有機溶媒に難溶であるため、素材表面にアルデヒド基を導入してから、水相 で室温下速やかに進行可能なアミノ基とアルデヒド基間のシッフ塩基生成反応を利用して キトサンを固定する方法を始めに検討した。まず、綿繊維からなる紡績用糸を過ヨウ素酸 ナトウリム水溶液で酸化すると、構成グルコース残基の一部がジアルデヒドグルコースヘ 変換 され る。 そこ で 、この綿糸をキ卜サン酢酸水 溶液と反応させて固定化を行った。
Kjeldahl窒素分析方法で求めたキ卜サ ン最大導入量は1.58%(w/w)に達した。さらに、
このキトサン処理した繊維に、創傷治癒促進作用,殺菌作用及び抗腫瘍作用を有する漢方 薬成分のーつであるシコニンを吸着させ、薬剤吸着性と徐放性を検討した。その結果、キ トサン処理した繊維の吸着量と薬剤徐放性はともに未処理繊維と比較して2倍近く向上し
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ていることが判明した。この薬徐放性を有する新規繊維は低刺激性・抗菌性・治療有用性 を有 するアト ピー性 皮膚炎患 者用紡 績用品な どーの 応用が可 能であると考えられる。
さらに、同様のシッフ反応を利用してキトサンを表面に固定した非多孔質ガラスビーズ の合成も検討した。シランカップリング剤処理によルアミノ基を導入されたガラスビーズ を、グルタルアルデヒドにより処理して、アミノ基をアルデヒド基に変換した後、キトサ ン水溶液中に分散し反応させた。ビーズ表面に導入したアルデヒド基がキ卜サンのアミノ 基と シッフ塩 基反応を行って、キトサンがビーズの表面に0.3%(w/w)固定されたことが 判明された。得られた新規キトサン固定化ガラスビーズをカラムに充填し、室温で金属イ オンに対する吸着挙動を調べた結果、このキトサン固定化ガラスビーズは単純なキトサン ビーズと同じように、重金属イオンや遷移金属イオンに対して吸着性を示したことが確か められた。このキトサン複合ビーズは機械的強度も強く、環境浄化や汚水処理などに利用 されることが期待できる。
このようなシッフ反応では、キトサン所有する複数のアミノ基が同時に表面に導入した アルデヒド基と反応するため、キトサン導入量に限界、がある。そこで、キトサンの還元末 端のみで反応させる方法について調べた。その結果、ガラスビーズ表面にシスティンを導 入し、亜硝酸処理で得られるアルデヒド基を持っキ卜サンと反応させて、キトサンを固定 化する方法がキトサンの導入量に優れていることが見出した。アミノ化されたガラスビー ズに、システィンのテアゾリジン誘導体と縮合反応した後、希塩酸処理により脱保護した。
ついで、室温で、このビーズを亜硝酸により分解されて得られたキトサンオリゴマーの酢 酸水溶液中に分散し、システィンとキトサンのアルデヒド端末のカップリング反応を進行 させた。ガラス表面に結合した化合物に対する分析は通常のスペクトル方法では困難であ るので、システィン塩酸塩とグルコサミンやキトサンの亜硝酸分解物とのモデル反応を行 い、得られた化合物の赤外吸収と核磁気共鳴のスペク卜ル結果から、キトサンとシスティ ンのカップリング反応の進行を追跡した。その結果からも、各段階の反応は予想どおり進 行されたことが判明した。さらに、キトサンのビーズ表面への固定化量は、複合ビーズを 塩酸分解したのち生じたグルコサミンを定量する方法により確かめられた。同じ材質と粒 子径のガラスビーズと同じ分子量のキトサンを使用して、シッフ反応とシスティンカップ リン グ反応に よるキ トサン固 定化量 を調べると、前者の0.06%(w/w)に対して、後者が 0.73%(w/w)までに増加することが分かった。
以上、申請者はキトサンを様々の材料表面に固定化して複合材料を調製する簡便な合成 を開発した。この結果は、キトサンの持つ化学的な性質、生化学的性質が賦与された材料 が合成できるものと期待される。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
坂 入 信 夫 西 則 雄 荒 木 義 雄 野 水 基 義
学 位 論 文 題 名
Studies on SurfaCeMOdi轟Cation WithanAminO‐p01ySaCCharide,ChitOSan
( ア ミ ノ 多 糖 キ ト サ ン に よ る 表 面 特 性 の 改 変 に 関 す る 研 究)
森 林 乱 伐 、 ゴ ミ 処 理 問 題 、 地 球 温 暖 化 、 オ ゾ ン 層 破 壊 、 さ ら に 化 学 物 質 に よ る 環 境 汚 染 な ど 、 こ れ ま で の 無 謀 な 大 量 開発 に 起 因す る 様 々な 環 境 問題 の 反 省か ら 、 「持 続 可 能 な 開 発 」 を 目 指 し て 環 境 調 和 型 の 技 術 開 発 が 精 力 的 に 進 め ら れ て い る 。 こ う い う 背 景 下 、 資 源 再 生 可 能 で 、 使 用 後 生 分 解 可 能 な 新 規 材 料 も 注 目 さ れ て い る 。 海 洋 生 物 の カ ニ や エ ビ な ど の 殻 に 豊 富 に 存 在 す る ム コ 多 糖 の キ チ ン も 、 将 来 材 料 資 源 の 有 力 候 補 の ー っ と 考 え ら れ 、 そ の 有 効 利 用 方 法 な ど に 関 す る 技 術 開 発 が 強 く 望 ま れ て い る 。 キ チ ン は 植 物 中 に 豊 富 に 存在 す る セル ロ ー スと 相 似 した 化 学 構造 を 持 ち、
生 産 す る 際 に 、 小 型 生 物 の 捕 集 や 共 存 す る タ ン パ ク 質 の 除 去 な ど コ ス ト 上 の 難 点 が あ る も の の 、 地 球 上 で セ ル ロ ー ス に 次 ぐ 二 番 目 の 生 物 生 産 量 を 有 す る 物 質 と し て 重 要 視 さ れ て い る 。
キ チ ン は 、 水 や 有 機 溶 媒 に 難 溶 性 で 化 学 反 応 性 に 欠 け る こ と か ら 利 用 方 法 が 限 定 さ れ て い る 。 こ れ に 対 し て 、 キ チ ン を ア ル カ リ 条 件 下 で 脱 ア セ チ ル 処 理 し て 容 易 に 得 ら れ る キ ト サ ン は 、 希 酸 水 溶 液 に 溶 解 す る こ と が 可 能 で 、 キ チ ン や セ ル ロ ー ス よ り 化 学 反 応 性 が 優 れ て い る こ と か ら 注 目 を 集 め て い る 。 さ ら に 、 キ ト サ ン は 、 生 分 解 性 ・ 生 体 適 応 性 が 高 く 、 種 々 の 生 理活 性 を 有す る こ とか ら 、 複合 繊 維 、フ ィ ル ム、
ゲ ル な ど に 成 形 し 、 工 業 用 膜 分 離 、 食 品 、 治 療 薬 の 生 体 内 の 運 送 や 制 御 徐 放 な ど の 分 野 で も 注 目 さ れ て い る 。 申 請 者 は 、 キ ト サ ン を 化 学 反 応 に よ り 材 料 の 表 面 に 固 定 化 し て 、 キ ト サ ン 特 有 な 生 物 特 性 や 活 発 な 化 学 反 応 性 な ど を そ の 表 面 に 導 入 す る 方 法 も キ ト サ ン 複 合 化 の 有 カ な 手 段 で あ る と 考 え た 。 こ の よ う な 申 請 者 の 発 想 を も と に 、 本 論 文 は 、 種 々 の 材 料 表 面 に キ ト サ ン の 固 定 化 す る 簡 便 ぬ 合 成 方 法 の 確 立 と こ の キ ト サ ン 固 定 化 新 規 材 料 に 対 す る 物 性 評 価 の ニ つ の 面 か ら 行 っ た 研 究 を ま と め た も の で あ る 。
キトサンは有機溶媒に難溶であるため、素材表面にアルデヒド基を導入してから、
水相で室温下速やかに進行可能なシッフ塩基生成反応を利用してキトサンを固定 する方法を始めに検討した。まず、綿繊維からなる紡績用糸を過ヨウ素酸ナトウリ ムで酸化すると、構成グルコース残基の一部をジアルデヒドグルコースし、ついで キ卜サン酢酸水溶液と反応させて固定化を行った。キトサン最大導入量は1.58 %
(w/w)に達し た。さらに、このキトサン処理した繊維に、創傷治癒促進作用,殺 菌作用及び抗腫瘍作用を有する漢方薬成分のーつであるシコニンを吸着させ、薬剤 吸着性と徐放性を検討した。その結果、キトサン処理した繊維の吸着量と薬剤徐放 性はともに未処理繊維と比較して2 倍近く向上していることが判明した。この薬徐 放性を有する新規繊維は低刺激性・抗菌性・治療有用性を有するアトピー性皮膚炎 患者用紡績用品などへの応用が可能であると考えられる。
さらに、同様のシッフ反応を利用してキトサンを表面に固定した非多孔質ガラス ビーズの合成も検討した。ビーズをシランカップリング剤ついでグルタルアルデヒ ド処理してアルデヒド基に変換した後、キトサン水溶液中と反応させシッフ塩基を 形成させたところミキトサンが
0.3%
(w/w)固定されたことが判明された。得られ たガラスビーズをカラムに充填し、各種金属イオンに対する吸着挙動を調べた結果、
このキトサン固定化ガラスビーズは重金属イオンや遷移金属イオンに対して吸着 性を示したことが確かめられた。このキトサン複合ビーズは機械的強度も強く、環 境浄化や汚水処理などに利用されることが期待できる。
このようなシッフ反応では、キトサン所有する複数のアミノ基が同時に表面に導 入したアルデヒド基と反応するため、キトサン導入量に限界がある。そこで、キト サンの還元末端のみで反応させる方法について調べた。その結果、ガラスビーズ表 面にシスティンを導入し、亜硝酸処理で得られるアルデヒド基を持っキトサンと反 応させて、キ卜サンを固定化する方法がキトサンの導入量に優れていることが見出 した。アミノ化されたガラスビーズに、システィンのチアゾリジン誘導体と縮合反 応した後、希塩酸処理により脱保護した。ついで、亜硝酸により分解されて得られ たキトサンオリゴマーの酢酸水溶液でこのビーズを処理すると、システィン残基と キトサンの還元端末のカップリング反応が進行し、キトサンが固定化された。シス ティン塩酸塩とグルコサミンやキトサンの亜硝酸分解物とのモデル反応を行い、赤 外吸収と核磁気共鳴のスペクトルの測定から目的のカップリング反応の進行を確 認した。キトサンのビーズ表面への固定化量は、同じ材質と粒子径のガラスビーズ と同じ分子量のキトサンを用いた前法と比較して、前者の
0.06%(w/w) に対して、
後者が0.73 %(w/w) までに増加することが分かった。
さらに、申請者の合成したキトサン複合材料を用いることによりさまざまな生医 学材料や環境修復材料が開発できると期待できる。