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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 獣 医 学 ) 村 上 隆 広

     学 位 論 文 題 名

    Conservation biological study of the

Japanese sable Martes zibellina brachyura in Hokkaido      ( 北 海 道 に お け る エ ゾ ク ロ テ ン Martes zibellina brachyura の      保 全 生 物 学 的 研 究 )

学位論文内容の要旨

   北海道に分布するエゾクロテン(Martes zibellina brachyura) は、クロテンの 一固有亜種である。20 世紀初めにエゾクロテンは高い捕獲圧の影響を受け、1920 年からは捕獲禁止とされている。しかしながら、その後エゾクロテンの分布や個体 群動態などの生物学的情報はきわめて少ない。加えて、1940 年代には、北海道にテ ンが導入された。すなわち、エゾクロテンとテンとの交雑が起きるおそれがある。

このような状況から、エゾクロテンは、IUCN レッドデータリストのデータ不詳亜種 (Data Deficient) とカテゴリー分類されている。

   エゾクロテンの生物学的特徴を明らかにし、その保全策を提示するために、エゾ クロテンの分布、導入されたテンとの遺伝的関係、食性に関する情報を得るための 研究を行った。保全策は、対象種のステータスによって変更する必要があるので、

種の有効なモニタリング手法を開発する必要がある。そこで、糞から抽出したDNA を用いたモニタリング手法の有効性を評価した。

( 1 ) 北 海 道 に お け る エ ゾ ク ロ テ ン と 導 入 さ れ た テ ン の 現 在 の 分 布 エゾ ク ロテン と導入さ れたテンの 分布を、 死体と撮 影された 写真の収 集によっ て明 らか に した。 エゾクロ テンは、北 海道北部 と東部に 分布して いる一方 、テンは 北海 道西 部 と 南部 に 分布 し て いた 。 これ ら 2 種 は札幌付 近のわず かな地域 でしか同 所的 に分布していなかった。

(2 )テンとエゾクロテンのミトコンドリア DNA 変異

エゾクロテンと導入されたテンのチトクロームb (112bp) 、tRNA −thr (67bp) 、゛tRNA ―

pro (65bp) 、 コ ント ロ ール 領 域 (277 〜 280bp) の塩 基 配 列 (521 〜 524bp) をエ ゾクロ

テン と テンと で比較し 、両種の遺 伝的関係 を調べた 。各種内 の塩基置 換率(エ ゾク

ロテン 3 .8 〜   15. 0% 、テン1 .9 〜16 .4 %)は、種間の塩基置換率(5 .8 〜16 .6 %)とほ

ば同 じ で あっ た 。塩 基 配 列デ ー タの 比較 から、エ ゾクロテ ンの 5 つの ハプロタ イプ

と テ ン の 4 つ の ハ プ ロ タ イ プ が 、 大 き く 2 っ の グ ル ー プ ( ク ラ ス タ ー A と B) に 分

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け ら れ る こ と が わ か っ た 。 ク ラ ス ター A には 、テ ンの 2 ハ プロ タイ プとエ ゾク ロテ ン の 2 ハ プ ロ タ イ プ が 含ま れ 、 ク ラ ス タ ー B に は 、 テン の 3 ハ プ ロ タイプ とエ ゾク ロ テ ン の 2 ハプロ タイ プが 含ま れて いた 。最 終的 な結 諭を 確証 する には、 ミト コン ド リ ア DNA の 他 の 領 域 や核 DNA の 解 析が 必要 であ るが 、こ の結 果か らはエ ゾク ロテ ン と テ ンの 間に 過去 に交 雑が 起き たか 、両種 とも にミ トコ ンド リア DNA に 類似 した へ テ ロ プ ラ ズ ミ ー を 有 し て い る と 考 え ら れ る か 、 ミト コ ン ド リ ア DNA の コピ ー配 列を核 DNA に有しているためと考えられる。

   (3 )北海道におけるエゾクロテンの食性

     エ ゾ ク ロ テ ン の 食 性 の 季 節 変 化を 調べ るた め、 北海 道東 部で 1998 年 から 2002 年 ま で に 採 集 し た 糞 193 個 と 胃 内 容 物 20‑ 個 を分 析し た。 エゾ クロ テンは 雑食 性で あ り、 哺乳 類・ 昆虫 類・ 植物 ・鳥 類・ は虫 類・両 生類 ・魚 類・甲殻類を採食してい た。哺乳類は年間を通じて主要な食物で、とくにヤチネズミ類(口 ethrionomys spp. ) の 出 現 頻 度 が 高 く ( 糞 か ら の 出 現 頻 度 56 . 3 % ) 、 つ い で エ ゾ シ マリス (Tamias sibiricus 、19 .3 % )、 アカ ネズミ類 (Apodemus spp. 、14 .6 恥であった。昆虫類は 夏期に多く出現し(48 .゛8 %)、一方植物は果実類がほとんどで、秋期(45 .7 %)と冬期

(68 .4 %)に多く出現した。これらの結果から、エゾクロテンは哺乳類を主要な食物 と する ー方 、そ の量 の変 動に 対応 する ため に昆虫 類や 植物 種子も必要で、それらを 供 給す る多 様な 自然 環境 を維 持す るこ とが エゾク ロテ ンの 保全に重要であることが 示唆された。

( 4 ) 糞 か ら 抽 出 し た ミト コ ン ド リ ア DNA の 部分 配列 比較 によ るイ タ弔類 の種 判別    イ タ チ 類 の 糞 か ら 種 を 判 別 す る ため に、 ミト コン ドリ アDNA のチ トク ロー ムb 、 tRNA 、 コン トロ ール 領域 の塩 基配 列を 比較 した。 北海 道内 の複数の調査地域から採 集 し た 189 個 の 糞 の う ち、 47 個 (24.9 % ) の 糞 に つ いて 対 象 領 域 の PCR 増 幅が 確認 さ れ 、 5 個 (2.7 % ) の 糞 に つ いて 、 種 を 識 別 す る こ と が 出 来 た 。 こ の う ち 3 つ の 糞 は エ ゾ ク ロ テ ン の も の で あ り 、 ほ か の ニ っ は そ れ ぞ れ テン と イ タ チ (Mustela I ね tsi) の 糞であ った 。識 別率 が低 かっ たの は、 糞内 のPCR 阻害 物質 によ って 、PCR 阻 害 が 生じ てい るこ とが 主要 因で ある と推測 され た。 糞か ら抽 出し たDNA シー ケン ス 技 術 は 、 種 識 別 だ け で な く 、 遺 伝 学 的 な 研 究 に も 応 用 可 能 で あ る 。

結 論

   エゾ クロ テン 個体 群の 保全 生物 学の 上で の位 置づけについて、いくっかの問題が あ る。 第1 に、 かっ ては全 道的 に分 布し てい たエ ゾク ロテ ンの 現在 の分 布は 北海道 東 部と 北部 に限 定さ れて いる 。な ぜェ ゾク ロテ ンの分布域が縮小したのかを明らか に する 研究 が必 要で ある 。第 2 に、 導入 され たテ ンと エゾ クロ テン の遺 伝的 関係が た いへ ん近 いこ とが 明ら かに なっ たこ とか ら、 両種の 交雑 が懸 念さ れる 。第 3 に、

ハ ビタ ット の悪 化が エゾ クロ テン に影 響す るか もしれない。なぜなら、エゾクロテ

ン は各 季節 にさ まざ まな 食物 を利 用し てい たか らである。エゾクロテンには、―年

を 通 じ て さ ま ざ ま な 食 物 を供 給で きる よう な食 物の 豊か な自 然環 境が 必要 であ ろ

(3)

う。最後に、個体群の推移や繁殖にっいての情報は現状ではほとんどない。これは

個体群モニタリングの手法がないことに起因すると考えられた。そこで、糞から抽

出したDNA 塩基配列を分析する手法を開発した。エゾクロテンは現在、 IUCN レッド

リストの定義による絶減危惧亜種ではない。しかし、保全策がもし遅れたら、やが

てエゾクロテンが絶減危倶亜種となる可能性がある。保全生物学の方針を含めて新

たな方向性を見いだす必要がある。

(4)

学位 論文審 査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教 授 教 授 教 授 助 教 授 助 教 授

大 泰 司 藤 田 神 谷 増 田 鈴 木

紀之 正一 正男 隆一 正嗣

     学位論文題名

    Conservation biological study of the

Japanese sable Martes zibellina brachyura in Hokkaido      (北海道におけるエゾクロテンMartes zzbellina brachyura の      保全生物学的研究)

  北 海道に 分布す るエゾ クロテン(Martes zibellina brachyura)は、クロテンのー固有亜種である。

20世 紀初め にエゾ クロテ ンは高 い捕獲 圧の影 響を受 け、1920年 からは 捕獲禁 止とさ れている 。しか しながら、その後のエゾクロテンの分布や個体群動態などの生物学的情報はきわめて少ない。加えて、

1940年代に は、北海 道にテ ンが導 入され た。す なわち、エゾクロテンとテンとの交雑が起きるおそれ が あ る 。 この よ う な 状況か ら、エ ゾクロテ ンは、IUCNレッ ドデー タリスト のデー タ不詳 亜種(Data Deficient)とカテゴリー分類されている。

  本 研究は 、エゾ クロテ ンの生 物学的 特徴を 明らかにし、その保全策を提示するために、エゾクロテ ン の分布 、導入 された テンと の遺伝 的関係、 食性に関する情報を得るための研究および、種の有効な モ ニタリ ング手 法を開 発する ために 、糞から 抽出し たDNAを 用いたモ ニタリング手法の有効性を評価 したものである。

(1)北海道にIおけるエゾクロテンと導入されたテンの現在の分布

  本 研究に よって 、エゾ クロテ ンは、 北海道 北部と東部に分布している一方、本州から導入されたテ ン は北海 道西部 と南部 に分布 してい ること、 これら2種は札 幌付近 のわずかな地域でしか同所的に分 布していないことが明らかになった。

(2)テンとエゾクロテンのミトコンドリアDNA変異

  エゾクロテンと導入されたテンのチトクロームb (112bp)、tRNAーthr (67bp)、tRNA−pro (65bp)、コン ト ロール 領域(277ー280bp)の塩 基配列(521−524bp)を エゾク ロテン とテン とで比 較し、両 種の遺伝 的関係を調べたものである。本研究によると 、各種内の塩基置換率(エゾクロテン3.8―15.0%、テン 1.9―16. 496)は、種間の塩基置換率(5.8―16.6めとほば同じであった。塩基配列データの比較から、

エ ゾ ク ロ テン の5つ の ハプロ タイプ とテン の4つの ハプロタ イプが 、大き く2つの グルー プ(ク ラス     ‑ 232―

(5)

ターAとB)に分 けられ ること がわか った。 クラスタ ーAには 、テン の2ハプ ロタイ プとエ ゾクロ テン の2ハ プロ タ イ プ が含 ま れ 、 クラ ス タ ーBに は、 テンの3ハプロ タイプ とエゾ クロテ ンの2ハ プロタ イプが 含まれ ていた 。最終 的な結論 を確証 するに は、ミ トコン ドリアDNAの他の 領域や 核DNAの解析 が必要 である が、こ の結果 からはエ ゾクロ テンとテンの間に過去に交雑が起きたか、両種ともにミト コンド リアDNAに 類似し たへテ ロプラ ズミー を有し ているか 、ミト コンド リアDNAの コピー 配列を核 DNAに有しているためと考えられる。

(3)北海道におけるエゾクロテンの食性

    エゾク ロテン の食性 の季節 変化を 調ぺる ため、 北海道 東部で1998年から2002年まで に採集 した 糞193個 と 胃 内 容物20個を分 析した もので ある。 本研究か ら、エ ゾクロ テンは 雑食性 であり 、哺乳 類・昆 虫類・ 植物・ 鳥類・ は虫類・ 両生類 ・魚類・甲殻類を採食していることがわかった。哺乳類は 年間を 通じて 主要な 食物で 、とくに ヤチネ ズミ類(Clethrionomys spp.)の出現頻度が高く(糞から の出現 頻度56.3%)、 ついで エゾシ マリス (Tamias sibiricus.19.3%冫、アカネズミ類(Apodemus spp.、14.6%冫であることが示された。昆虫類は夏期に多く出現し(48.8%)、一方植物は果実類がほ とんどで、秋期(45.7めと冬期(68. 4cYo)に多く出現した。これらの結果から、エゾクロテンは哺乳類を 主要な 食物と するー 方、そ の量の変 動に対 応するために昆虫類や植物種子も必要で、それらを供給す る 多 様 な 自 然 環 境 を 維 持 す る こ と が エ ゾ ク ロ テ ン の 保 全 に 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。

(4) 糞 か ら 抽 出 し た ミ ト コ ン ド リ アDNAの 部 分 配 列 比 較 に よ る イ タ チ 類 の 種 判 別   イタチ 類の糞 から種 を判別 するた めに、 ミトコン ドリアDNAのチ トクロー ムb、tRNA、コン トロー ル領域 の塩基 配列を 比較し たもので ある。 本研究によると、北海道内の複数の調査地域から採集した 189個の 糞 の う ち、47個(24.9% )の 糞 に っ いて 対 象 領 域のPCR増 幅 が 確認 さ れ 、5個(2.7% )の 糞に つ い て 、3っ の糞 はエ ゾクロ テンの もので あり、 ほかの ニっは それぞ れテンと イタチ(Mustela jぬおヵ の糞で あるこ とが示 された 。識別率 が低か ったの は、糞 内のPCR阻害物質によって、PCR阻害 が生じ ている ことが 主要因 であると 推測さ れたが 、糞か ら抽出 したDNAシーケンス技術は、種識別だ けでなく、遺伝学的な研究にも応用可能である。

結論

  情報の きわめ て少な い亜種 であっ たエゾクロテンについて、本研究から、保全生物学の位置づけを 定める ための 重要な 知見が 得られ た。第1に、かっ ては全 道的に 分布していたエゾクロテンの現在の 分布が 、北海 道東部 と北部 に限定 されてい ること が示さ れた。 第2に、導入されたテンとエゾクロテ ンの遺 伝的関 係がた いへん 近いこ とが明ら かにな った。 第3に、 エゾクロテンは各季節にさまざまな 食物を 利用し 、ー年 を通じ てさま ざまな食 物を供給できるような食物の豊かな自然環境が必要である と推測された。これらの事実はエゾクロテンの保全策を早急に立てる必要を示している。本研究では、

糞から 抽出し たDNAによ る種判 別効率 を調査 し、保 全策を 効果的に 進めるための個体群モニタリング の手法 として の評価 を行っ ている 。本研究 結果は、北海道におけるエゾクロテンの保全に大きく寄与 すると ともに 、情報 が不足 してい る種の保 全という保全生物学では着目されていなかったテーマにー つの指針を与えるものである。

  よって 審査委 員ー同 は、上 記博士 論文提出者村上隆広の博士論文は、北海道大学大学院獣医学研究 科 規 程 第 6条 の 規 定 に よ る 本 研 究 科 の 行 う 博 士 論 文 の 審 査 等 に 合 格 と 認 め た 。

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参照

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