博士(地球環境科学)山田真路 学位論文題名
分子認識 場能と反応場能をもつ二次元分子 配列シ ステムの構築に関する研究
学位論文内容の要旨
近年、固液界面に韜いて二次元分子配列を構築することに注目がおかれている。その理 由は、電極表面上や基板上に二次元分子配列を構築することによって、センサー機能を 持った分子素子の開発や触媒機能を持った生体模倣の反応場としての利用が考えられてい るためである。そこで、本研究ではイオン結晶界面やアミノ酸結晶界面の機能性について 原 子・ 分子 レベル でそ の場 観察 するこ とができる原子間力顕微鏡(AFM)を用い検討を 行った。
NaCl結晶(001)は固液界面においてイオン密度の約85%の低下によって、非平衡イオ ン配列を形成する。その際、界面上で垂直方向にイオンが動く柔軟な界面を構成してい る。そのため、このNaCI結晶の非平衡イオン配列はーつの二次元分子認識場として扱う ことができる。そこで、分子内空孔に塩化物イオンを分子認識して包接することができる 塩 化 物 イ オ ン レ セ プ タ ー マ ク ロ ト リ サ イ ク リ ッ ク 第4級 ア ン モ ニ ウ ム イ オ ン (RMQA4+)の 固 液 界 面での 挙動 をAFMを 用い 検討 した。 その 結果 、NaCI非平 衡イ オン 配列は二次元分子認識場としての機能性を持ち、RMQA4十は分子内空孔に塩化物イオン を包接するとぃうホスト―ゲスト相互作用によって二次元分子配列を形成することが明ら かになった。この様な、二次元分子配列は現在までに報告されている格子整合や水素結合 による二次元分子配列とぃう概念とは異なり、固液界面における包接過程を伴うホストー ゲスト相互作用による二次元分子配列という新しい概念によるものである。またそれとと もに、二次元分子配列の分子間距離は塩化物イオンレセプターの疎水基に支配され、かさ 高い疎水基の方がより分子間距離が長くなり、固液界面においても疎水基が効果的に働い ていることが明らかにされた。
一方、アミノ酸結晶界面の機能性として、亜鉛含有タンパク質の活性中心に注目し、
亜鉛イオンの二次元分子配列構築を試みた。そこで、原子・分子レベルで平らな表面を得 ることができるアミノ酸として、亜鉛イオンの分子認識部位を持つしヒスチジン(L‐His) 単結晶とL・システイン(しCVs)単結晶、亜鉛イオンの分子認識部位を持たなぃL‐ロイシ
ン(L‑Leu)単結晶 に注 目し た。Si3N4製 の探針 を用 いたAFM観察 からは(1)亜鉛イオン がアミノ酸側鎖と比較して小さぃため(2)亜鉛イオンが配位することによる見かけの構造 変化が小さぃための 理由から亜鉛イオンの二次元分子配列を観察することができな かった。そこで、亜鉛イオンを直接観察する方法でなく、亜鉛イオンに配位したヒドロ トリスピラゾリルボレート(LHB(pz)3J‑)を観察することによって亜鉛イオンの二次元分 子配列の確認を行った。その結果、【HB (pz)3l‑はL‑His、L‑Cys上に、それぞれの結晶構 造に紹ける格子定数の2倍の周期を持って二次元分子配列を形成するが、L‑Leuには二次 元分子配列を形成しなぃことが明らかになった。これは、亜鉛イオンがL‑His由来のイミ ダゾール基、L‑Oys由来のチオール基に配位し、二次元分子配列を形成し、その亜鉛イオ ンに対して[HB (pz)3J‑ が配位することによって[(L‑His)3Zn{HB(pz)3}]十、[(L‑
Cys)3Zn{HB(pz)3}]+という亜鉛錯体を固液界面に形成するからである。これらの結果か ら、Si3N4製の探針を持っtcAFM観察では亜鉛イオンの二次元分子配列を直接観察でき なかっナてが亜鉛イオンに配位した[I‑m(pz)3J‑を観察することによって間接的に亜鉛イオ ンの二次元分子配列の構築を確認することができた。
亜鉛イオンの二次元分子配列をより詳しく考察するために、亜鉛イオンと強い相互作用 を持つ化学修飾探針を作成し化学力顕微鏡(CFM)観察を試みた。そこで、亜鉛イオンと 強い相互作用をもっ分子として窒素原子をもつ分子の自己組織化膜を探針の先に修飾する ことによって探針の先に窒素原子が存在する化学修飾探針を作成した。この様な、化学修 飾探針を用いForce Curve測定を行ったところ大気中、水溶液中、メタノール中ともに亜 鉛イオンが存在するときの方が大きな付着カを示した。このことから、本研究で作成した 化学修飾探針は亜鉛イオンと強い相互作用を持つことが明らかにされた。すなわち、この 化学修飾探針は亜鉛イオンを識別することができる探針であることが明らかになった。
化学修飾探針を用いCFM観察を試みたところ、水溶液中の亜鉛イオンの有無によって CFM像に違いが見られた。亜鉛イオンが存在していなぃ時は、Si3N4製の探針を用いた AFM測定、結晶構造の結果と一致したが、亜鉛イオンが存在している時には、スポット 間の距離が2倍になった。これらのことは、亜鉛イオンが結晶構造から得られるb軸方向 の格子定数の2倍の周期を持って二次元分子配列を形成する[HB(pz)3l‑の二次元分子配列 の結果と一致した。このことから、化学修飾探針を用い亜鉛イオンが二次元分子配列を形 成していることを確認することができた。また、化学修飾探針を用いた、CFM観察はミ クロンレベルでの分子識別能を持っていることが現在までに報告されていたが、本研究か ら化学修飾探針はナノメータレベルでの分子を識別する能カを持っていることが明らかに された。
固液界面における亜鉛イオンの二次元分子配列は二次元反応場として考えることがで き、二酸化炭素の水和やぺプチド結合やエステル結合の加水分解のための二次元形状の反 応場として、環境関連の応用などにも期待される。
学位論文審査の要旨 主査 教授 市川和彦 副査 教授 大澤雅俊 副査 助教授 嶋津克明
学 位 論 文 題 名
分子認識場能と反応場能をもつ二次元分子 配列システムの構築に関する研究
近 年 、 固液 界 面に 紹 い て二 次 元分 子 配 列を構築 すること に注目が おかれてい る。
そ の理 由 は 、電 極 表面 上 や 基板 上 に二 次 元分子 配列を構 築するこ とによって 、セン サ ー機 能 を 持っ た 分子 素 子 の開 発 や触 媒 機能を 持った生 体模倣の 反応場とし ての利 用 が考 え ら れて い るか ら で ある 。 そこ で 、本研 究は、分 子認識場 能と反応場 能をも つ二次 元分子配 列システ ムの構築 を目的とし 、ホスト ーゲスト 相互作用による二次元 分 子認 識 場 と亜 鉛 タン パ ク 質の 活 性中 心 を模倣 した二次 元反応場 の構築を行 った。
本 論 文 は 第 八 章 か ら なり 、 第 一章 で は二 次 元 分子 配 列 の必 要 性に つ い て言 及 し た 。第 二 章 はそ の 場観 察 に 最も 適 して い る 原子 間 力顕 微 鏡(AFM)の 原理 と試料調 製 に つい て 述 べた 。 第三 章 で は、 マ クロ 卜 リ サイ ク リッ ク 第4級 アン モ ニウム イオン の 二次 元 分 子配 列 の構 築 を 行っ た 。NaCI結 晶(001)は 固液 界 面 にお い てイ オン密度 の 約85% の 低 下 に よ っ て、 非 平 衡イ オ ン配 列 を 形成 す る 。そ の 際、 界 面 上で 垂 直 方 向に イ オ ンが 動 く柔 軟 な 界面 を 構成 し ている 。そのた め、NaCI結晶 の非平衡イ オ ン 配列 は ー つの 二 次元 分 子 認識 場 とし て 扱うこ とができ る。そこ で、分子内 空孔に 塩 化 物 イ オ ン を 分 子認 識 して 包 接 する こ とが で き る塩 化 物イ オ ン レセ プ タ ーマ ク ロ ト リ サ イ ク リ ッ ク 第4級 ア ン モ ニ ウ ム イ オ ン(RMQA4+)の 固 液 界 面 で の 挙 動 を AFMを 用 い 検 討 し た 。 そ の 結 果 、NaCI非 平 衡 イ オ ン 配列 は 二次 元 分 子認 識 場 とし て の 機 能 性 を 持 ち 、RMQA4十 は 分 子 内 空 孔 に 塩 化 物 イ オン を 包接 す る とぃ う ホス トーゲ ス卜相互 作用によ って二次 元分子配列 を形成す ることが 明らかになった。これ は 、現 在 ま でに 報 告さ れ て いる 格 子整 合 や水素 結合によ る二次元 分子配列と いう概 念とは 異なり、 固液界面 における 包接過程を 伴うホス トーゲス ト相互作用による二次 元 分 子 配 列 と ぃ う 新 し い 概 念 に よ る も の で あ っ た 。 第 四章 で は、RMQA4十 の 単分 子 膜 形 成 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、2種 類 のRMQA4十 をNaCl結 晶 表 面 上 に 滴 下 す る こ とに よ っ てCenularPattemを 形 成 する こ とが で き た。 ま た、 こ のCellularPattem
は 滴 下 す るRMQA4+の 量 を 変 え る こ と に よ っ てCellサ イ ズ を50ー500 nmと 変 化 させることができた。
第五 章か らは 、亜鉛 タン パク 質の 活性 中心 に注 目し た、 亜鉛 の二 次元 分子配列の 構 築を 試み た。 そこで 、原 子・ 分子 レベ ルで 平ら な表 面を 得る こと がで きるアミノ 酸として、亜鉛の分子認識部位を持つL・ヒスチジン(L−His)単結晶とL‐システイン
(L・Cys)単結晶、亜鉛の分子認識部位を持たなぃL.ロイシン(L−Leu)単結晶に注目 し 、AFM観察 を 行 っ た 。 第六 章で は亜 鉛を 介し た超 分子構 造か らア ミノ 酸結 晶界 面 上 の亜 鉛の 二次 元分子 配列 を確 認し た。 .即 ち、Si3N4製の 探針 を用 いたAFM観察か ら は亜 鉛の 二次 元分子 配列 を観 察す るこ とが でき なぃ ため 、亜 鉛に 配位 したヒドロ トリスピラゾリルボレート(LHB(pz)3l―)を観察することによって亜鉛の二次元分子 配 列の 確認 を行 った。 その 結果 、LHB(pz)3l‑はL―His、L−Cys上に 、そ れぞれの結 晶 構 造 に お け る 格 子 定 数の2倍周 期を 持っ て二 次元 分子配 列を 形成 する が、L−Leu 上 には 二次 元分 子配列 を形 成し なぃ こと が明 らか にな った 。こ れは 、亜 鉛がL―His 由 来の イミ ダゾ ール基 、LーCys由来 のチ オー ル基 に配 位し 、二 次元 分子 配列を形成 し、その亜鉛に対して [HB(pz)3]‐ が [(LーHis)32n{HB(pz)3}]十、[(Lー Cy0)3 Zn{HB(pz)3}]十という亜鉛錯体を固液界面に形成するためである。第七章 で は亜 鉛の 二次 元分子 配列 を直 接観 察す るた めに 、亜 鉛と 強い 相互 作用 を持つ化学 修 飾 探 針 を 作 成 し 化 学 力顕微 鏡(CFM)観察 を試 みた 。そこ で、 亜鉛 と強 い相 互作 用 を もっ 分子 の自 己組織 化膜 を探 針の 先に 修飾 する こと によ って 化学 修飾 探針を作成 し た 。 こ の 様 な 、 化 学 修飾探 針を 用いForce Curve測定を 行っ たと ころ 大気 中、 水 溶 液中 、メ タノ ール中 とも に亜 鉛が 存在 する とき の方 が大 きな 付着 カを 示した。こ の こと から 、本 研究で 作成 した 化学 修飾 探針 は亜 鉛を 識別 する こと が明 らかになっ た 。 化 学 修 飾 探 針 を 用 いCFM観察 を試 みた とこ ろ、 水溶液 中の 亜鉛 の有 無に よっ て CFM像 に 違い が 見 ら れ た 。 亜 鉛 が 存 在 し て い な ぃ 時 は、Si3N4 製 の探 針を 用い た AFM測 定 、結 晶 構 造 の 結 果と 一致 した が、 亜鉛 が存 在する こと によ って スポ ット 間 の 距 離 がb軸 方 向 の2倍 周 期 に な っ た 。 こ れ は 亜 鉛 がb軸 方 向 の 格 子 定 数 の2倍 周 期 を持 って 二次 元分子 配列 を形 成す るこ とを 示す もの であ り、 化学 修飾 探針を用い る こと によ って 亜鉛の 二次 元分 子配 列の 構築 を確 認す るこ とが でき た。 第八章は総 括 で 、 分 子 認 識 場 能 と 反 応 場 能 を も つ 二 次 元 分 子 配 列 に つ い て 述 べ た 。 亜鉛 の二 次元 分子配 列は 二次 元反 応場 とし て考 える こと がで き、 二酸 化炭素の水 和 やぺ プチ ド結 合・リ ン酸 エス テル 結合 の加 水分 解の ため の二 次元 形状 の反応場と して応用することが、今後期待される。
審査 委員 一同 は、こ れら の成 果を 高く 評価 し、 大学 院課 程に おけ る取 得単位など も 併せ て申 請者 が博士 (地 球環 境科 学) の学 位を 受け るに 十分 な資 格を 有すると判 断した。