おいては月経周期ごとに脱落・再生を繰り返し,マウス においても分娩ごとに修復が起きることから,高い再生 能を有していると考えられる.この子宮内膜の正常な再 生は妊娠成功に向けての鍵を握ると考えられるが,再生 を制御する詳細な機序についてはほとんど明らかにされ ていないのが現状である.子宮内膜に高い再生能力を付 与する根本原理を解明する研究は,子宮再生医療の開 発・発展に寄与する可能性があるため,基礎医学の観点 だけでなく,臨床医学の観点からも非常に重要な意義が あると考えられる.晩婚化の進む現代の日本社会におい て生殖医療技術は目覚ましい発展を遂げてきたが,流産 手術などの子宮内手術や先天性子宮奇形による内膜欠損 が原因となる不妊症に対しては,これまで有効な治療法 は存在しなかった.子宮内膜再生機序の解明に向けての 研究は,これらの難治性妊孕性障害症例に対する画期的 な治療戦略を再生医療の観点から提供できる可能性があ り,今後の発展が大いに期待される.そこでわれわれは 今回,子宮内膜再生機序に関する基礎的知見を得るため,
生体内で子宮再生を誘導するマウスモデルを作成し,再 生過程を組織学的に検証した.
脱細胞化組織移植によるマウス子宮部分的再生
野生型のドナーマウス子宮を採取し,子宮内膜と筋層 を含む × mm大の直方体の形状に細切後,界面活性 剤である %ドデシル硫酸ナトリウムに一時間浸漬・振 盪したのち洗浄バッファー内で 週間振盪することで脱 細胞化子宮組織を作成した(図 A,B).この脱細胞化 組織は,ドデシル硫酸ナトリウム処理により細胞膜を破
トマウス子宮の対血管側に,麻酔下において内腔から筋 層に至るまでの × mmの人工的欠損部位を作成し,
前述のドナー由来の脱細胞化組織を ― ナイロン糸を 用いて顕微鏡下に結節縫合し移植した(図 A,D).移 植後 日目(移植当日を移植後 日目と定義した)にレ シピエントマウスを解剖し移植部位を採取したところ,
脱細胞化組織内に脈管構造を伴った組織が構築されてい ることが肉眼的に確認された(図 A).再生部位の中 心付近を子宮角長軸と垂直な断面で薄切し,ヘマトキシ リンエオジン染色や免疫染色により組織学的に検証した ところ,再生部位の子宮は正常子宮と相同の組織学的構 造を有しており,卵巣ホルモン受容体の発現は正常で あった(図 B,C).この再生部位の機能を評価するた め,移植後 ヵ月のレシピエントマウスを野生型の雄マ ウスと交配し,妊娠初期の卵巣ホルモン応答能を評価し たところ,着床マーカーと考えられている妊娠 日目に おける上皮の増殖停止と間質の増殖亢進[ ]は正常に 認められた(図 A).さらに,再生部位における正期 産までの妊娠継続が可能であり,妊娠 日目の帝王切開 により正常産仔の分娩が可能であったことから(図 B
〜E), 再生子宮が機能的に正常であることが示された.
脱細胞化組織移植モデルによる子宮再生過程の検証
次にわれわれは,この脱細胞化組織移植のマウスモデ ルを,子宮の再生制御機構を詳細に観察できる実験モデ ルであると考え,子宮再生過程を経時的に観察した.そ の結果,移植翌日には脱細胞化組織の表面に扁平な細胞 が出現し,この細胞は移植後 日目には円柱状の形態に 変化し,移植後 日目には成熟した形状の管腔上皮が形 成され,その直下に腺管を含む間質が再構築されること がわかった(図 A).この移植後早期に脱細胞化組織 表面に出現する扁平な細胞は,免疫染色により正常な子 連絡先:平岡毅大,東京大学医学部産婦人科学教室
〒 ― 東京都文京区本郷 ― ― TEL : ― ―
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E-mail:t̲[email protected]
図 マウス脱細胞化組織移植モデル(文献 Hiraoka T. et al. JCI Insight より引用)
A.研究手法の概略.DUM ; decellularized uterine matrix 脱細胞化子宮組織,DMT ; decelllarized matrix transplantation 脱細胞化組織移植 B.脱細胞化子宮組織
C.脱細胞化子宮組織のヘマトキシリンエオジン染色.l:管腔面,s:間質の細胞外基質,m:筋層の細胞外基質,v:血管の細胞外基質 D.脱細胞化組織移植直後(移植後 日目)の肉眼写真.UT,移植片周囲の子宮
図 脱細胞化組織移植によるマウス子宮再生(文献 Hiraoka T. et al. JCI Insight より引用)
A.移植後 日目における移植部位の肉眼写真
B.子宮再生部位(移植後 日目)のヘマトキシリンエオジン染色
C.子宮再生部位(移植後 日目)の免疫染色.CK ;cytokeratin ,αSMA;alpha smooth muscle actin,ERα;
estrogen receptor alpha,PR;progesterone receptor
D.間質・筋層特異的レポーターマウスにおける移植後 日目の蛍光顕微鏡写真 平岡 毅大 他
宮上皮と同様の性質を備えていることが明らかになった
(図 B).さらに,子宮上皮の系譜を特異的に追跡可能 な遺伝子改変マウスを作成し,野生型ドナーマウス由来 の脱細胞化組織を移植したところ,この扁平な細胞は移 植片周囲の管腔上皮から供給され移動してきた細胞であ ることが明らかとなった(図 C).また,子宮間質・
筋層の細胞系譜を追跡可能な遺伝子改変マウスも作成 し,移植後 日目に観察したところ,再生された子宮上 皮は,レシピエント上皮由来の細胞のみから構成されて いることが明らかになった(図 D).以上の検証によ り,脱細胞化組織移植モデルによる子宮再生過程におい て,子宮管腔上皮の再生能が卓越していることが明らか となった.
卵巣ホルモンがマウス子宮再生に与える影響
次にわれわれは,卵巣ホルモンが子宮再生に与える影響を評価するため,卵巣除去術後 週間の野生型ドナー マウスおよびレシピエントマウスを用いて脱細胞化組織 移植を行った.その結果,子宮の再生過程は前述した通 常のマウスにおける再生過程と類似しており(図 A),
移植後 日目の組織学的評価では,再構築された子宮は 正常子宮と相同の構造を有していた(図 A,B).この 結果は,子宮再生過程に卵巣ホルモンが必須の要素では ないことを示唆しており,ヒト子宮内膜再生が血中卵巣 ホルモン濃度低値である月経期に開始する事実や[ ― ],
帝王切開後の無排卵期においても子宮の治癒が可能であ る事実を反映しているものと考えられた.
子宮上皮再生における転写因子 STAT の役割
本モデルを用いてさらに詳細に子宮再生機構を検証す るため,われわれは周期的に分泌される卵巣ホルモンの 影響を除外できる卵巣除去術後の脱細胞化組織移植モデ
図 子宮再生部位の機能的評価(文献 Hiraoka T. et al. JCI Insight より引用)
A.妊娠 日目における Ki 染色.着床直前の子宮内膜のホルモン応答能,すなわち上皮の増殖停止と間質の増殖亢進は正常 である.
B.妊娠 日目での子宮再生部位における妊娠の維持
C.妊娠 日目で発育している胎児の数は手術側子宮角と非手術側子宮角の間で差がない.
D.妊娠 日目に帝王切開で分娩した産仔の肉眼写真
E.妊娠 日目に帝王切開で得られた産仔の体重.再生部位より得られた産仔の発育は正常であった.
図 子宮再生過程の経時的観察(文献 Hiraoka T. et al. JCI Insight より引用)
A.移植後 日目, 日目, 日目のヘマトキシリンエオジン染色.矢頭は脱細胞化組織表面の扁平な細胞を示す.
l:管腔上皮,g:腺上皮,s:間質 B.移植後 日目の免疫染色
C.上皮特異的レポーターマウスにおける移植後 日目の蛍光顕微鏡写真
図 卵巣除去術後マウスにおける子宮再生(文献 Hiraoka T. et al. JCI Insight より引用)
A.移植後 , , , 日における移植部位のヘマトキシリンエオジン染色 B.移植 日目における移植部位の免疫染色
平岡 毅大 他
ルを用いて,細胞の増殖能をKi 染色で評価した.そ の結果,卵巣ホルモン非存在下に,移植片周囲の子宮上 皮が移植後 時間で増殖を開始することがわかった(図 A).また,移植後 時間までの上皮再生過程の観察 により,エストロゲン投与群と対照群において顕著な管 腔上皮再生能の差を認めなかったことから(図 B),
子宮内膜損傷後の早期段階においては卵巣ホルモンを必 要としない分子経路が再生を支配的に制御しているもの と推測された.
この上皮の再生誘導経路を検証するため,われわれは 転写因子STAT に注目した.STAT はIL― ,LIF,oncosta- tin Mと い っ たIL― フ ァ ミ リ ー サ イ ト カ イ ン やEGF
(epidermal growth factor)などの下流に位置し,標的 遺伝子の転写調節に関与することが知られており[ ],
種々の臓器における損傷からの修復過程において重要な 役割を果たしていることがわかっている[ ― ].子宮に
おけるSTAT の機能に関しては,子宮のSTAT を欠損 したマウスが着床障害による不妊となることは知られて いるものの[ ― ],子宮の再生という観点ではその機 能は知られていなかった.そのためわれわれは脱細胞化 組織移植後のSTAT の活性化を免疫染色で検証したと ころ,移植後 時間に移植片周囲の上皮において顕著に,
また間質や筋層においてもSTAT の活性化が認められ た(図 A).そこでわれわれは子宮特異的STAT ノッ クアウトマウス(ΔSTAT )を作成し,卵巣除去術施行 週間後に野生型ドナーマウス由来の脱細胞化組織を移 植し,移植後 時間における上皮の再生能を評価した.
結果,ΔSTAT マウスにおいては,野生型と比較し脱細 胞化組織表面の扁平な再生上皮細胞の絶対数の有意な低 下を認め,その原因として,移植片周囲の上皮の増殖率 の有意な低下が考えられた(図 B〜D).これらの結果 から,子宮内膜再生の初期段階に位置する上皮再生過程
図 卵巣ホルモン非存在下に管腔上皮は早期に再生を開始する(文献 Hiraoka T. et al. JCI Insight より引用)
A.移植後 , , 時間における Ki 染色.上皮の増殖は移植後 時間より誘導される.
B.移植後 , , , 時間におけるエストロゲン投与群と対照群の管腔上皮再生能の比較.管腔上皮の再生に明らかな差を認めなかった.
図 STAT は子宮上皮再生に重要である(文献 Hiraoka T. et al. JCI Insight より引用)
A.移植後 , 時間における pSTAT 免疫染色.移植片周囲における STAT の活性化は移植後 時間より上皮中心に起こり,間質,筋層でも 活性化される.
B.移植後 時間における ΔSTAT マウス(子宮特異的 STAT ノックアウトマウス)の STAT 活性の低下と Ki 染色による上皮増殖能の低下 C.移植後 時間の ΔSTAT マウスにおける脱細胞化組織上の再生上皮細胞数の有意な低下
D.移植後 時間の ΔSTAT マウスにおける移植片周囲上皮増殖率の有意な低下
図 生理的子宮内膜再生過程における STAT の活性化(文献 Hiraoka T. et al. JCI Insight より引用)
A.マウス分娩直後の子宮内膜における STAT の活性化 B.ヒト月経期,増殖初期における STAT の活性化 平岡 毅大 他
後,ヒト月経後期・増殖初期といった生理的な子宮内膜 の再生過程におけるSTAT の関与について検証した.
免疫染色の結果,STAT の活性化は,マウス・ヒトいず れにおいても上皮において顕著に,また間質においても 認められ,脱細胞化組織移植モデルにおけるSTAT 活 性化と類似した所見を示した(図 A,B).この結果か ら,生理的な子宮内膜修復過程においてもSTAT が関 与していることが示唆された.
結 語
今回われわれは,脱細胞化組織移植技術を用い,マウ ス子宮の生体内での部分的再構築に成功した.さらに,
本モデルを用いて子宮再生過程を解析し,転 写 因 子 STAT が子宮内膜再生の初期に位置する上皮再生に重要 な役割を果たしていることを明らかにした[ ].本モ デルは,種々の遺伝子改変マウスを用いることで子宮の 再生を制御する分子学的機構をより詳細に解明し,子宮 の再生を促進する化合物の同定につながる可能性も秘め ていると考えられる.さらに,子宮内膜の異所性増殖を 本態とする宮内膜症や子宮腺筋症の病態解明にも役立つ 可能性もあり,本モデルを用いた今後のさらなる研究の 発展が期待される.
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