博 士 ( 工 学 ) 藤 田 秀 二
学 位 論 文 題 名
マ イ ク ロ 波領 域 にお け る氷 結 晶の 誘 電 特性 の 測定 と , 極 域 雪 氷 圏 に お け る 電 波 リ モ ー ト セ ン シ ン グ ヘ の 応 用
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
地 球規 模の 気 候・ 環境 変動 の解明にとって,両 極域の雪氷圏の研 究が果たす役割は 大きい。そ れ は ,極 域雪 氷 圏が ,地 球上 の熱や水の循環,地 球大気及び海洋の 循環系に大きな影 響を与えて い る から であ る 。そ の極 域雪 氷圏の観測に,人工 衛星や航空機を用 いた電波リモート センシング は 欠 かせ ない 技 術で ある 。 本論 文は , マイ クロ 波領域の 周波数である9.7GHzにおい て氷の誘電 特 性 を沮lJ定 し ,そ の結 果を 極域雪氷圏における 電波リモートセン シングによって得 られる観測 デ ー タの 解釈 , 更に は将 来あ るべきレーダーやセ ンサ―の開発思想 に応用した一連の 研究の結果 を 述べたものである 。
ま ず, 第1章 には 氷 の誘 電特 性 の研 究の レ ビュ ーを 示 す。 第2章 は本 研究で用いた 測定手法や シ ステムにっいての 解説である6
第3章と第4章が具体 的な測定結果をま とめたものであり ,ここでtまいくっかの新事 実を示す。
ま ず 第3章で は,氷の誘電率実 数部の一軸異方性を はじめて定量的に 明らかにする。測 定の結果,
結 晶C軸 と 電場 ベク ト ルが 平行 な 場合 の誘 電 率あ ォは 結 晶C軸 と電 場ベ クトルが垂直 な場合の誘 電 率 £i。よ りも大きいことが 明らかになった。こ の傾向は,デバイ 緩和周波数領域か ら静的誘電 率 の 領域 の低 周 波で 観測 され ているものと同じで ある。この事実は ,9. 7GHzと低周 波数の中間 の 周 波数 領域 で あるHF,VHF, マ イク 口波 領 域で もめ 。>8icであ る ことを示 唆している。5らォ とsi。は共に温度に わずかに依存するが誘電異方性△8′(ニニめ。と一8i。)は一定であり,0. 037
( 土O. 007)で あ っ た 。こ の 結果 に基 づ いた 計算 か ら, ラジ オ エコ ーサ ウ ンデ ィン グ(Radio Echo Sounding)技 術 で 極地 氷 床の 内部 層 から 観測 さ れる 電波 の 反射 の主 要 原因 のー っ が氷 の 誘 電異方性であると いう結論を導いた。
次 に第4章で は, 含 有不 純物 と して 酸を 含 む氷 の複素誘電率を明 らかにする。酸天 然の雪や氷 に 含 まれ る主 要 な不 純物 であ りながら,それがマ イクロ波領域での 氷の誘電特性に与 える影響は 従 来 全く わか っ てい なか った 。本研究では,氷の 複素誘電率が氷が 含有する酸の濃度 に比例して
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増大し,さらには酸の濃度を体積モル濃度で表すとき,その直線関係は酸の種類に依存しないこ と を は じ め て 明 ら か に し た 。 特 に 誘 電 損 失 は 含 有 す る 酸 に 大 き な 影 響 を 受 け る 。 次に第5章では,4章で述べたような酸を含有する氷の9. 7GHzでの誘電特性を,従来他の研 究者によって低周波帯(LF帯)で得られているそれと比較する。その結果,第4章に得られた ような酸の濃度と誘電損失のもつ直線関係を電気伝導度で書き表した場合,それはマイクロ波帯 でもLF帯でもほば同一の値になることがわかった。またさらには,氷が酸を含有することによっ て起こる電気伝導度の値は,かって極地氷床氷の直流電気伝導メカニズムを説明するために提唱 さ れ て き た モ デ ル か ら 得 ら れ る 値 と も よ く 一 致 す る こ と が わ か っ た 。 第6章 では ,第5章 まで に得られた氷の高 周波での誘電特性から,氷体 内をMHz帯とGHz 帯の電磁波が伝播する際の電波特性を示す。氷体中の電磁波の伝播速度は,おおよそ169m/〃
secであるが,この速度は氷体温度の上昇と共に0.023m/ロsec℃の割合で減少する。氷単結晶 の誘電率には一軸対称の誘電異方性があることから,伝播速度は電磁波のもつ電場ベクトルと氷 の結晶C軸の角度に応じてIm/朗sec変化しうる。氷単結晶に一軸対称の誘電異方性があると いうことは,氷多結晶のもつ誘電率テンソルもまた異方性をもっことを意味している。この事実 は,氷体中を伝播する電磁波の偏波状態はこの誘電率テンソルによって決定されていることを意 味している。
氷多結晶の誘電損失は,それが含有する酸の濃度に比例して大きく変化するので,酸を含有す る氷の中では純氷の中よりも著しい電磁波の減衰が起こる。電磁波の氷体への浸透深さを,水素 イオン濃度指数pHの関数として見積もった結果,それはpHと温度と測定周波数に強く依存す ることがわかった。
第7章では氷床内部反射層の原因と性質を議論する。氷床内部反射は,氷床内部でファブリッ クパターンが深さ方向に変化したとき,あるいは,含有する酸の濃度が変化し結果として電気伝 導度が変化したときに起こり得ることを明らかにする。氷床内部反射の原因は,氷床浅層部では 密度変化が支配的であるが,深層部ではファブリックパターンの変化と電気伝導度の変化の両方 であるという結論が導かれる。それぞれの反射層がそのどちらかの原因で成り立っているかは,
電 磁 波 の 強 度 反 射 係 数(PRC)の 周 波 数 依 存 性 を 調 べ れ ば わ か る こ と を 示 す 。 第8章では,南極みずほ基地で観測された氷床内部反射と,ここで掘削された氷床コアのファ ブリックパター ンの関係にっいて論じる。179MHzのラジオエコーサウン ディング(RES)の データと700m深の氷床コアから測定したファブリックパ夕一ンのデ一夕を用いた。これらの デ一夕から計算した氷床の誘電率テンソルから,みずほ基地下の氷床が一軸異方性の複屈折媒体
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で ある ことが わかっ た。
第9章では 南極 氷床を 形成す る多結 晶氷 のファ ブリッ クパタ ーンが ,そ の地域 の氷床 の動力 学 的 環境 を密接 に反映 してい る例 を示す 。東南 極,セ ル口ン ダー ネ山地 の周辺地域から得られた氷 試 料の ファブ リック の解析 から ,氷床 流に対 し,山 脈の側 方に あたる 地域の氷床表面氷は,広域 に わた って側 方から のせん 断歪 が蓄積 されて いるこ とを示 すフ ァブリ ックパターンをもっている こ とを 明らか にする 。
第10章は 本論 文のま とめで ある。
学位論文審査の要旨
地球 規模 の気候 ・環境 変動の 解明に とっ て,両 極域の 雪氷圏 の研 究が果 たす役割は大きい。そ れは ,極域 雪氷圏 が, 地球上 の熱や 水の循 環, 地球大 気及び 海洋の 循環系 に大きな影響を与えて いる からで ある。 その 極域雪 氷圏の 観測に ,人 工衛星 や航空 機を用 いた電 波リモ―トセンシング は欠 かせな い技術 であ る。
本論 文は, マイ クロ波 領域の 周波数9.7GHzでの 氷の誘 電特性 の測 定結果 を,極 域雪氷 圏に お ける 電波リ モート セン シング によっ て得ら れる 観測デ ータの 解釈, 更には 将来あるべきレーダー やセ ンサー の開発 思想 に応用 した一 連の研 究を まとめ たもの である 。
まず , 第1章 では 氷 の 誘 電特性 の研 究のレ ビュー を示し ,第2章で は本 研究で 用いた 測定手 法 やシ ステム にっい て解 説して いる。
第3章で は,氷 の誘電 率実 数部の 一軸異 方性を はじ めて定 量的に 検討し ている 。測 定の結 果,
結 晶C軸 と 電 場 ベ クト ル が 平行 な場合 の誘 電率め 。は結 晶C軸と電 場ベク トルが 垂直 な場合 の誘 電率Eヱ 。より も大き いこと が明 らかに なった 。め。 と81オは共に温度にわずかに依存するが誘電 異方 性△6′(―み ォ−6i。 )は 一定であり,0. 037(土O.007)であった。この結果に基づぃた計 算か ら,ラ ジオエ コー サウン ディン グで観 測さ れる氷 床内部 層電波 反射の 主要原因のーっが氷の
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爾
弘 広
彦
晋
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精
塚
藤
前 大
堤 伊
授 授
授 授
教 教
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査 査
査 査
主 副
副 副
誘電 異方性 である とい う結論 を導い た。
次に 第4章 では ,天然 の雪や 氷に含 まれる 主要 な不純 物であ る酸が マイ クロ波 領域で の氷の 誘 電特 性に与 える影 響を 明らか にした 。氷の 複素 誘電率 は,酸 の体積 モル濃 度に直線的に比例し,
酸の 種類に 依存し ない ことを 発見し た。
第5章 で は , 第4章 に 得 られた 酸の 濃度と 誘電損 失のも つ直線 関係 を電気 伝導度 で書き 表し た 場合 ,周波 数によ らず 一定と なり, その関 係が 極地氷 床氷の 直流電 気伝導 メカニズムを説明する ため に提唱 されて きた モデル で説明 される こと を示し た。
第6章 で は , 氷 体 内 をMHz帯 とGHz帯 の 電 磁 波 が 伝播 す る 際 の 電波 特 性 に っ いて 述 べ て い る。 氷単結 晶の一 軸対 称誘電 異方性 から, 氷多 結晶の もつ誘 電率テ ンソル も異方性をもっことを 示し ,氷体 中を伝 播す る電磁 波が偏 波状態 にあ ること を明ら かにし た。氷 多結晶の誘電損失は,
それ が含有 する酸 の濃 度に比 例して 大きく 変化 するの で,酸 を含有 する氷 の中では純氷の中より も 著 しい 電 磁 波 の 滅 衰が 起 こる。 電磁波 の氷体 への 浸透深 さは, 水素イ オン濃 度指 数pHと温 度 と測 定周波 数に強 く依 存する ことが 明らか とな った。
第7章でfま ,氷床 内部反 射は ,氷床 内部で ファブ リック パタ ーンが 深さ方 向に変化したとき,
ある いは, 含有す る酸 の濃度 が変化 し結果 とし て電気 伝導度 が変化 したと きに起こり得ることを 明 ら かに し て い る 。 反射 層 がその どちら の原因 で成 り立っ ている かは, 電磁波 の強 度反射 係数 (PRC)の周波 数依 存性を 調べれ ばわか るこ とを示 した。
第8章 で は , ラジ オ エ コ ー サウ ン デ ィ ン グの デ 一夕 と700m深 の氷床 コアか ら測定 した ファブ リッ クパタ ーンの デ一 夕を用 い,み ずほ基 地下 の氷床 が一軸 異方性 の複屈 折媒体であることを示 した 。
第9章では 東南 極,セ ルロン ダーネ 山地の 周辺 地域か ら得ら れた氷 試料 のファ ブリッ クの解 析 から ,氷床 流に対 し, 山脈の 側方に あたる 地域 の氷床 表面氷 は,広 域にわ たって側方からのせん 断 歪 が蓄 積 さ れ て い るこ と を 示 す ファ ブ リ ッ ク パタ ー ン を も って い る ことを 明ら かにし た。
第10章は本 論文の まとめ であ る。
以上 のよ うに著 者は, 氷結晶 のマイ クロ 波誘電 物性に っいて の新 知見を 得るとともに,極域雪 氷圏 リモー トセン シン グ技術 に関し ても新 しい 提案を 行って おり応 用物理 学の進歩に貢献すると ころ 大なる ものが ある 。よっ て著者は,博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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