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JRC蘇生ガイドライン2015オンライン版‐第5章 急性冠症候群(ACS)

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(1)

5 章

急性冠症候群

(2)

目次

序文

JRC 蘇生ガイドライン 2015 作成の方法論 ... iv

1.JRC 蘇生ガイドライン 2015 作成委員会の組織 ... iv 2.ILCOR への参画とガイドライン作成委員会の設置 ... iv 3.委員の責務 ... v 4.GRADE によるエビデンスの質と推奨レベルの評価 ... v 5.GRADE と非 GRADE 部分の考え方 ... x

1

はじめに

... 1

1. ILCOR ACS Task Force の手順 ... 1

2

ACS の初期診療アルゴリズム(図 1) ... 4

3

ACS 診断のための検査 ... 5

1. 病院前または救急部門での STEMI の 12 誘導 ECG の判読 ... 7 2. 心筋バイオマーカーによる ACS 除外診断 ... 12 3. リスクの層別化 ... 20 4. 画像診断 ... 21

4

初期治療

... 22

1. 酸素、ニトログリセリン、鎮痛・鎮静 ... 23 2. アスピリン(アセチルサリチル酸) ... 26 3. クロピドグレルやその他の血小板 ADP 受容体拮抗薬 ... 26 4. ヘパリン類 ... 28 5. Gp Ⅱb/Ⅲa 阻害薬 ... 33

5

再灌流療法に関する治療戦略

... 34

1. 病院前トリアージ ... 36 2. 医療従事者が接触してからの再灌流療法の選択 ... 40 3. PCI と血栓溶解療法との組み合わせ ... 50

6

薬物追加治療

... 52

1. 抗不整脈薬の予防的投与 ... 52 2. β遮断薬 ... 52

(3)

3. ACE 阻害薬(ACEI)とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB) ... 53 4. HMG CoA 還元酵素阻害薬(スタチン) ... 53

7

ACS 診療に関するシステムへの介入 ... 54

1. 病院前通知による心臓カテーテル室の準備とカテーテルチームの招集 ... 55 2. その他の改善策 ... 57

8

ROSC 後の PCI ... 58

1. STEMI ... 59 2. STEMI 以外 ... 62 *薬物名の表記について:国内未承認薬は欧文表記とした。 *非 GRADE 部分の表記について:JRC 蘇生ガイドライン 2015 作成委員会では、CoSTR 2015 で更新・改訂のために取り上げられなかったトピックについては、重要な追加情報があるも のについては更新・改定を加え、強い根拠がない限り JRC 蘇生ガイドライン 2010 の推奨内 容を踏襲した。ただし、今回採用した CoSTR 2015 の GRADE 推奨のセクションと区別するた め、ページの左側に余白を空け、文字の大きさを一回り小さくすることにより、JRC 蘇生ガ イドライン 2010 に準拠したものであることを明示した。

(4)

序文

JRC 蘇生ガイドライン 2015 作成の方法論

1.JRC 蘇生ガイドライン 2015 作成委員会の組織

JRC(Japan Resuscitation Council 日本蘇生協議会)ガイドライン 2015 の作成にあたって は 、 2010 年に 作 成した 際 の経 験と 実 績を 基礎 に 、 GRADE( Grading of Recommendation Assessment, Development and Evaluation)システム(以下 GRADE)を中心としたいくつか の新たな手法や工夫が加えられた。さらに、これらの経験とノウハウを今後に継承し、 ILCOR(International Liaison Committee On Resuscitation) や ア ジ ア 蘇 生 協 議 会 ( RCA, Resuscitation Council of Asia)連携を推進するために、JRC から推薦された ILCOR タスク フォース参画のメンバーを中心に構成され、JRC 参画学会からの支援、メンバー推薦にも配 慮がなされた。 以下、JRC 蘇生ガイドライン 2015 作成の経緯を概説する。

2.ILCOR への参画とガイドライン作成委員会の設置

今回のガイドライン作成は、2012 年 10 月 20 日にウィーンで開催された ILCOR 会議に、RCA を通じ JRC から推薦された 6 名のメンバーがタスクフォースメンバーとして参加したことに 端を発する。本会議で ILCOR の 2015 年 CoSTR (Consensus on Science and Treatment Recommendations)を GRADE を用いて作成する方針が発表され、ILCOR 内での啓発とシステム 化の必要性が唱えられ、手法の解説が行われた。

GRADE システムを利用した国内ガイドラインはほとんどない上に、GRADE を利用した国際的 なコンセンサスに基づいて国内ガイドラインを作成するという新しい試みであった。帰国後、 タスクフォースメンバーは、GRADE Working Group のメンバーである相原守夫先生(相原内 科医院、弘前)に協力を依頼し、2012 年 11 月、2013 年 3 月に当時東京大学国際保健政策学 に在籍されていた大田えりか先生(現、国立成育医療研究センター)を講師としてお迎えし、 GRADE によるシステマティックレビューと質の評価方法について具体的な方法を学んだ。

ILCOR タスクフォースのメンバーが中心となり JRC 蘇生ガイドライン 2015 作成の準備を重 ね、第1回作成準備会議(2014 年 4 月 25 日東京)と第 2 回(2014 年 5 月 2 日 ILCOR 会議カナ ダ Banff Fairmont Hotel)を開催し、参加メンバーに対し GRADE システムの導入、委員会組 織のあり方を紹介するとともに作成作業の方法と工程について概略を検討した。

ILCOR を構成する世界各地の蘇生協議会に参加する国・地域の蘇生ガイドラインは、ILCOR が作成する CoSTR に沿って策定することになっている。わが国の 2010 年蘇生ガイドラインは、 JRC がアジア蘇生協議会(RCA)の一員として ILCOR に参加後初のガイドラインであり、従来 わが国のガイドライン的役割を担ってきた救急蘇生法の指針を作成してきた日本救急医療財

(5)

団と合同で作成された。

2015 年ガイドラインについては、2014 年 10 月付けで一般社団法人となった JRC が作成し、 これに基づいて日本救急医療財団がより具体的な内容を盛り込んだ救急蘇生法の指針を作成 することとなった。その理由は JRC がアジア蘇生協議会(RCA)の傘下の団体として認められ た、わが国を代表する蘇生協議学術団体であり、RCA を通して ILCOR の CoSTR を入手する資 格を有する国内唯一の団体であるからである。JRC ガイドライン作成委員会は、編集委員長 (1 名)、編集委員(7 名)のもとに、具体的な課題を担当する作業部会として JRC 加盟の担当 学会から作業部会共同座長(19 名)および作業部会委員(135 名)の総勢 162 名で構成され た。

3.委員の責務

委員会の委員は、わが国の診療ガイドラインを適正かつ良質な内容にすること、これを国 内外に発信することが主要な責務である。さらに、守秘義務と利益相反にかかわる申告義務 がすべての委員に課せられた。

守秘義務は ILCOR から提供される CoSTR 情報の秘匿に関わるものである。ILCOR は 2010 年 と同様に、その内容は、最終的に Circulation 誌および Resuscitation 誌に 2015 年 10 月 15 日に掲載されるまでは非公開となった。ILCOR 加盟団体(国あるいは地域組織)の守秘義務 契約を交わした者のみが CoSTR の事前情報を提供されて、それぞれの蘇生ガイドライン作成 に供することができるため、JRC と作業部会委員との間で CoSTR の内容に関する守秘契約を 文書で交わした。この契約によって、委員は当委員会活動に関わらない場所および人に対し ては CoSTR 情報を漏らすことが禁じられた。また、2015 年 10 月 15 日の本ガイドラインオン ライン版の発表までは、漏洩の嫌疑がかからないように心肺蘇生に関連する講演や執筆を控 えることが勧告された。 一方、利益相反の申告は、ガイドラインの推奨内容が委員自身の研究成果に偏ったり、委 員および家族、あるいは関係する企業等に利益を誘導することを防止し、公平中立の立場で ガイドラインが作成されることを担保することが目的である。利益相反管理規定が制定され、 ガイドライン作成者とは独立した利益相反管理委員会(3 名)が設置されて、申告書の審査、 規定の運用にあたった。すべての委員の利益相反の有無については、ガイドラインに資料と して添付されている。規定の申告書を提出しない委員は合同委員会から外すことが定められ たが、全員の提出が有り審査の上問題が無いことが明示された。利益相反管理委員会の詳細 は別途記載する。

4.GRADE によるエビデンスの質と推奨レベルの評価

JRC 蘇生ガイドライン 2015 は、CoSTR 2015 を基盤として作成された。CoSTR 2015 は、ILCOR が蘇生科学に関する文献を克明に検索、吟味して作成した文書で、蘇生の分野におけるエビ デンスの集大成である。世界中から招請された ILCOR の専門家集団が CoSTR 2015 の内容に関 する GRADE を用いた最終的なコンセンサスに到達した過程については、本ガイドラインの補 遺に詳しい。GRADE の方法論については補遺では記載が十分ではないため、ここで概説する。

(6)

ごとのエビデンスの質評価ではなく、コクランレビューのシステマティックレビューのよう な、複数のエビデンスをアウトカムごとに統合した body of evidence(エビデンス総体)を 使って、推奨の強さを決定するものである。その目的に GRADE システムを利用することが決 定された。GRADE システムは,システマティックレビュー(SR)、医療技術評価(HTA: health technology assessment)、および診療ガイドライン(CPG)におけるエビデンス総体の質を評 価し,HTA や CPG に示される推奨の強さをグレーディングするための透明性の高いアプロー チである。EBM 導入以来の大きなパラダイムシフトが蘇生領域でも生じることになった。GRADE は、すでに多くの国際的な診療ガイドラインに適用されている方法であるが、国内の診療ガ イドラインにおいては GRADE を順守したものは極めて少ない。

1)PICO の決定

ILCOR のそれぞれのタスクフォースが、2010 年のワークシートで課題となったトピックに ついて、メンバー内での投票により優先順位をつけ、それぞれの臨床疑問(Clinical question、CQ)を確定した。PICO とは、臨床疑問をより具体的に整理するために、Patients: 患者(傷病者)・集団(標的母集団)、Intervention:介入方法、Comparison:比較方法(比較対 照)、Outcomes:主要なアウトカム、の頭文字をとったものである。GRADE においては複数の アウトカムを用意して重みづけをしたうえでレビューを行うことに特徴があるが、最大 7 つ までのアウトカムを選択することを基本とし、各アウトカムの重要性の評価を、タスクフォー ス内の合意のもとに、患者にとって、重大(7~9 点)、重要(4~6 点)、重要でない(1~3 点)の 9 段階に分類した。このうち、重要でないアウトカムはエビデンス総体の質評価の対 象にはならず、患者にとって重大あるいは重要なアウトカムが推奨決定のための対象とされ た。

2)文献検索

文献抽出では、PICO 形式のトピックスに関するキーワードを組み合わせた検索式が重要と なる。CoSTR 2010 では、検索式はそれぞれのワークシート執筆者が作成したため、検索式の 質に不揃いが生じた。そのため今回は PICO に応じた文献検索を ILCOR 専任のライブラリアン (Evidence Search Specialist, ESS と呼ばれる)が検索式を作成し、文献が広く抽出された。

この検索式や論文の適格基準(組み入れ基準と除外基準)は事前にエビデンス評価エクスパー トの査読を受け、妥当なものであるか検証された。承認が得られればエビデンス評価者のも とへ論文リストが提示され、PICO の評価に適していると思われる論文を抄録やタイトルから 絞り込み、絞り込まれた論文についてフルテキスト論文を使用して GRADE に沿ったレビュー が行われた。研究デザインに関しては、ランダム化比較試験(RCT: Randomized controlled trial)なのか観察研究であるかを明確にし、以後の評価で両者が混在しないように作業が進 められた。この作業には 2 名の評価者がペアとなり独立して作業を行い、最終的には意見の 一致が求められた。文献データベースとして、PubMed、Cochrane Library、EMBASE が使用さ れた。

3)文献評価システム

CoSTR 2010 では、それぞれの文献を全て、3 つのカテゴリー、すなわち PICO に対して、支 持する、反対する、中立とわけ、更に、それらの論文の質を 5 段階(1~5)尺度により、3

(7)

段階(good, fair, poor)に評価された。しかし、この手法には、RCT から症例集積の観察 研究、数学的モデルや実験データまで含んで評価がなされ、透明性や明確性に欠ける点があっ た。 そこで、CoSTR 2015 では、これまでのガイドライン作成で行われていた個別研究ごとのエ ビデンスの質評価ではなく、アウトカムごとのエビデンス総体の質評価を行う GRADE が導入 された。

4)アウトカムごとのエビデンス総体の質評価

GRADE においては、アウトカムごとに複数の研究を横断的に統合したエビデンス総体の質 を 8 つの要因を使って評価する。すなわち、治療介入に関する RCT や観察研究、治療や予後 に関する研究に関しては 5 つのグレードダウン要因があり、良質な観察研究に関しては 3 つ のグレードアップ要因がある。診断精度に関しては、QUADAS(Quality Assessment tool for Diagnosis Accuracy Studies)Ⅱが用いられた。また予後予測に関する観察研究のエビデン ス総体の質の評価は「高」から開始される。 4)-1 エビデンスの質の評価を下げるグレードダウン 5 要因 下記①~⑤の要因がある。それぞれ 3 段階(なし:0、深刻な:-1、非常に深刻な:-2)に 評価し、”深刻な”では 1 段階グレードダウン、”非常に深刻な”では 2 段階グレードダウ ンを検討する。CoSTR 2015 では、段階の表記が略されていることがある。 ① バイアスのリスク(risk of bias) バイアスのリスクは、下記の 6 つのドメインによる評価を統合した研究の限界をさ す。GRADE におけるバイアスのリスクの評価は、まず個々の論文について行い(within studies)、その後にアウトカム毎に統合した研究群(across studies)について行 う。個々の論文について低、不明、高の 3 段階に分ける。次に、研究群に対して 3 段階(深刻なバイアスのリスクなし、深刻なバイアスのリスクあり、非常に深刻な バイアスのリスクあり)に分類する。 個別研究のバイアスのリスク評価の 6 ドメイン:

i) 適切な無作為化の方法が記載されていない(Random sequence generations) ii) 割り付けが隠蔽化されていない(Allocation concealment):組み入れる担当者が、

次に組み入れられる対象がどの群に属するのか知っている場合に生じる。割り付け が、曜日、誕生日、カルテ番号などで実施するときに selection bias が生じやすい。 iii) 参加者や研究者、評価者などが盲検化されていない(Blinding of outcome) iv) 不完全なデータ追跡(脱落率が高い)や intention-to-treat が適用されていない

(Incomplete outcome data):

v) プロトコール通りのアウトカムが報告されていない(Selective outcome reporting) vi) 早期終了などの他の問題がある(Others)

② 非一貫性(Inconsistency):研究間の異質性(heterogeneity)を示す。メタ解析の 結果から、点推定値が研究間で大きく異なり、信頼区間の重なりが少ない。全研究 での異質性検定で有意差があり(p<0.05)、研究間の異質性検定 I2値が高い。具体

(8)

的には、I2値が 40%未満なら低い、30~60%は中等度、50~90%はかなり高い、75~ 100%は著しく高いと考えられる。説明のつかない異質性がある場合には、深刻な非 一貫性ありとする。 ③ 非直接性(Indirectness):集団間の差異や介入の差異、アウトカム指標の差異、ア ウトカムの期間の差異、間接比較があれば、その程度により深刻な非直接性がある と判断する。 ④ 不精確さ(Imprecision):サンプルサイズやイベント数が少なく、そのために効果 推定値の信頼区間の幅が広いときには、その結果は不精確と判断する。診療ガイド ラインにおいては、信頼区間が治療を推奨するかしないかの臨床決断のための閾値 をまたぐ場合、閾値をまたがないならば最適情報量(例、総イベント発生数が 300 件未満、総サンプル数が 3,000 未満など)の場合には、不精確さがあると判断する。 ⑤ 出版バイアス(Publication bias):研究が選択により偏って出版されることが原因 で本来のプラス効果またはマイナス効果が系統的に過小または過大に評価されるこ とをいう。有意差のある試験が,否定的な試験より報告されやすいという偏りがあ り、メタ解析のファンネルプロットでの目視評価や統計的手法による非対称性を確 認した場合に、出版バイアスがあると判断する。 4)-2 エビデンスの質の評価を上げるグレードアップ 3 要因 観察研究では、”低い“から開始して、グレードを上げる 3 つの要因を考慮する。通常 GRADE では、何らかの原因でグレードダウンとなった観察研究のエビデンスの質の評価を上げるこ とはしないが、CoSTR 2015 では、グレードダウンとグレードアップを同時に適用しているこ とがある。 ① 効果の程度が大きい(Large magnitude):大きい RR(相対リスク)>2 または<0.5

② 用量反応効果がある(Dose response effect):用量反応性がある場合には結果の確信を

高めるため、質を上げることがある。 ③ 特別な交絡因子の影響がある(confounders):全ての交絡因子が、明示された効果を減 少させる方向へ働くにもかかわらず、それでもなお効果が認められた場合(またはその 逆) これら 5 つのグレードダウン要因と 3 つのグレードアップ要因の 8 項目について、RCT の 場合には初期の質として“高い”から開始して、-1 ならグレードを 1 段階下げて中等度と し、-2 なら 2 段階下げて低い、-3 以上なら 3 段階下げて非常に低いとする。RCT ではグレー ドアップは原則として検討しない。 グレードダウン要因とグレードアップ要因に関しては,各評価を定量的に行ってはいけな い。つまり,-1 と-1 が 2 つ存在したら,必ず 2 段階下げるということではない。エビデ ンスの質の評価に影響する要因は相加的だが(各要因の減少あるいは増加がその他すべての 要因に加算され,それによって 1 つのアウトカムに関するエビデンスの質が上下する),単 純なポイント計算によってエビデンスの質の評価が決定されるわけではない。 エビデンス総体に関する 8 要因の評価(Quality assessment)と結果の要約(Summary of findings:SoF)から構成され、アウトカムごとにまとめられたものをエビデンスプロファイ ルと呼ぶ。

(9)

4)-3 エビデンス総体の質のカテゴリー GRADE を使った、各アウトカムに関する最終的なエビデンス総体の質は 4 段階に分類され る。JRC 蘇生ガイドラインにおいても CoSTR 2015 を活かして、この評価を付記している。 GRADE における、エビデンスの質(4 段階)の各カテゴリーの意味は以下である。 ・高い(high):真の効果が効果推定値に近いという確信がある ・中等度(moderate):効果推定値に対し、中等度の確信がある。真の効果が効果推定値 に近いと考えられるが、大幅に異なる可能性もある。 ・低い(low):効果推定値に対する確信には限界がある、真の効果は効果推定値と大きく 異なるかもしれない。 ・非常に低い(very low):効果推定値に対しほとんど確信が持てない。真の効果は、効 果推定値とは大きく異なるものと考えられる。

上記のエビデンスの質の GRADE カテゴリーと定義が、CoSTR 2015 における CoS(Consensus on Science)に該当する。なお、複数のアウトカムにおいて、エビデンス総体の質が異なり、 なおかつアウトカムが異なる方向(利益と害)を示している場合、アウトカム全般にわたる エビデンスの質は、「重大なアウトカムに関するエビデンスの質の中で最低のものを選択す る」。全てのアウトカムが同じ方向(利益、または害のいずれか一方)を示している場合は、 「重大なアウトカムに関するエビデンスの質の中で、最高のものを選択する」というのが GRADE の重要なルールの一つである。

5)エビデンスから推奨へ

臨床疑問に関連した治療的介入や治療方針の推奨レベルは、CoSTR 2015 における GRADE 表 記の 2 段階(強い、弱い)に分類された。推奨の強さは 4 つの要因を考慮して決定される。 つまり、アウトカム全般にわたるエビデンスの質,望ましい効果と望ましくない効果のバラ ンス、患者の価値観や好み、コストや資源の利用を考慮し、診療の推奨の方向性(する・し ない)と推奨の強さ(強い推奨、弱い推奨)が策定された。 強い推奨(We recommend,推奨する)とは、介入による望ましい効果(利益)が望ましく ない効果(害・負担・コスト)を上回る、または下回る確信が強い。患者のほぼ全員が,そ の状況下において推奨される介入を希望し,希望しない人がごくわずかである。医療従事者 のほぼ全員が推奨される介入の実施を受け入れる。政策作成者にとっては、ほとんどの状況 下で推奨事項をパフォーマンス指標として政策に採用することが可能である。 弱い推奨(We suggest、提案する)とは、介入による望ましい効果(利益)が望ましくな い効果(害・負担・コスト)を上回る、または下回る確信が弱い。患者の多くが,その状況 下において提案される介入を希望するが、希望しない人も少なくない。医療従事者が、患者 が意思決定できるように介入を提案しているかは、医療の質の基準やパフォーマンス指標と して利用できるだろう。政策作成者にとっては、政策決定のためには、多数の利害関係者を 巻き込んで実質的な議論を重ねる必要がある。

この推奨は、CoSTR 2015 における Treatment recommendation(TR)に該当する。推奨作成の ためのさまざまな過程において、タスクフォース内で議論され、合意形成が行われた。エビ デンスが不十分で推奨もしくは提案の作成に至らなかったトピックについては、GRADE シス テムでは地域や施設でこれまで行われてきた方法を用いることに同意している。ただし、

(10)

CoSTR 2015 では必ずしも明示されていないために、JRC 蘇生ガイドライン 2015 では必要とさ れる補完を行った。 CoSTR 2015 の“推奨と提案”であっても、法的規制や教育体制の違いなどにより、推奨を そのままわが国で実践できるわけではない。そのため、ILCOR の“推奨と提案”を記載した 後に、それをわが国の状況に即して必要に応じて修正した JRC としての推奨を追記した。具 体的には、ILCOR による“推奨と提案”の和訳は、「ILCOR は・・・・を推奨(提案)する」 と記載し ILCOR の推奨であることを強調し、JRC としての推奨は、「わが国では・・・・する ことを推奨(提案)する」などと記載した。

5.GRADE と非 GRADE 部分の考え方

CoSTR 2015 では全部で 169 件のトピックが検討されているが、CoSTR 2005 や CoSTR 2010 で検討された重要なトピックの一部は、更新・改訂などの新たな検討がされなかったものも 多い。JRC 蘇生ガイドライン 2015 作成委員会では、CoSTR 2015 で更新・改訂のために取り上 げられなかったトピックについては、重要な追加情報があるものについては更新・改定を加 えることした。トピックに関する 2010 年からの 5 年間に発表された論文を CoSTR 2010 の検 索式を利用して PubMed 検索を行い、作業部会で抽出し、本ガイドラインへの採択を編集会議 で最終決定した。強い根拠がない限り JRC 蘇生ガイドライン 2010 の推奨内容を踏襲した。た だし、今回採用した GRADE による推奨のセクションの部分との混乱を避けるため、2010 年に 使用された AHA の 5 段階のエビデンスレベル(level of evidence:LOE)表記や、推奨に関 する Class 分類を削除した。CoSTR 2015 の GRADE 推奨と区別するため、文字の大きさとイン デントで区別し、CoSTR 2010 に準拠したものであることを明示した。 こうして作成された原案文のすべてを、編集委員会と共同座長による編集会議が校閲した。 この校閲は、作業部会が手分けして作成した原案文のバラツキをなくし、質を担保すること が目的であり、これが不可欠の作業であることは JRC 蘇生ガイドライン 2010 を策定した経験 で実証されている。とくに、文体・表記法・用語の統一、記述内容の整合性と一貫性などに ついて、一文一文、一字一句を吟味した。記述内容に疑問や矛盾があれば、原著論文や CoSTR 2015 を確認した。 本ガイドラインのオンライン版では、ILCOR タスクフォースで作成されたエビデンステー ブルやメタアナリシスで使用したフォレストプロットや文献は掲載されていないため、詳細 については、ILCOR のホームページでご確認いただきたい。 (https://volunteer.heart.org/apps/pico/)。 統計関連略語一覧 HR (hazard ratio ハザード比) OR (odds ratio オッズ比) RR (relative risk 相対リスク) CI (confidence interval 信頼区間)

ARR (absolute risk reduction 絶対リスク減少) MD (mean difference 平均差)

SMD (standard mean difference 標準化平均差) NNT (number needed to treat 治療必要数)

(11)

IQR (interquartile range 四分位範囲) SD (standard deviation 標準偏差)

(12)
(13)

第 5 章 急性冠症候群(ACS)

1 はじめに

1. ILCOR

ACS

Task

Force の手順

CoSTR 2015 を作成した ILCOR ACS タスクフォースはシンガポール、日本、オーストラリア、 ニュージーランド、ギリシャ、ベルギー、フランス、米国、カナダとパナマから集められ、 循環器専門医、救急医とプレホスピタルの医師が含まれていた。これら 12 名の専門家に 5 名 のレビュアー(救急隊員とレジデント/フェロー)が追加され、ACS と STEMI の初期管理に関 する 18 のトピックスが評価された。タスクフォースは、プレホスピタルと病院収容 1 時間以 内、特に救急部門(ED)での STEMI(と ACS)の診断と治療に関連したエビデンスを評価した。 2012 年(発表の 3 年前)からエビデンス評価のための会議を開催し、新しいエビデンスが発 表されれば、その都度、作成中の勧告内容を改善した。レビューの目的は、ACS が示唆され る症状と徴候を呈する患者に最初に接触するヘルスケアプロバイダーのために、最新のエビ デンスに基づいた科学と治療勧告についてのコンセンサス(CoSTR)を提供することにあった。

ILCOR ACS タスクフォースは GRADE プロセスの導入に関して、会議開催時、オンラインや 自発的に教育的なセッションに参加し相当な時間を費やした。ILCOR ACS タスクフォースは 5 回の会議(2012 年 10 月オーストリア・ウィーン、2013 年 4 月オーストラリア・メルボルン、 2014 年 4 月カナダ・バンフ、2014 年 11 月米国・シカゴ、2015 年 1 月/2 月米国・ダラス)と 9 回(2014 年 6 月~2015 年 1 月)のウェブ会議を開催した。SEERS ウェブサイトの活用はオ フラインのエビデンスレビューとオンラインによる進捗状況の確認を容易にした。これはタ スクフォース委員、タスクフォース共同座長、エビデンス評価委員と編集委員による定期的 な確認・承認を可能にした。 CoSTR 2015 ACS レビューのトピックスは過去の勧告と今後の課題や、入院後管理よりもむ しろ病院前や救急部門での治療に最も関連する救急科学やホットトピックスのブレーンス トーミンングから生まれた。ILCOR ACS タスクフォースは、異なる能力と資源のシステムに 対して治療のエビデンスを提供するために、STEMI ケアシステムを集中的に検討した。トピッ クに関連したリスト作成後に、ILCOR ACS タスクフォースはトピックの優先順位に関して投 票し、最終的に、CoSTR 2015 ACS レビューについてのトップ 20 を決定した。2 つのトピック は新しい研究成果がみつからなかったので延期され、最終的に 18 のトピックスが残った。 一旦トピックスが決定されれば、ACS タスクフォースはそのトッピクについて COI のない 専門知識を有するタスクフォースメンバーに各トピックを割り当てた。タスクフォースメン バーは各トピックの臨床疑問(Clinical Question: CQ)について Patients:患者・集団(標

(14)

的母集団)、Intervention:介入方法、Comparison:比較方法(比較対照)、Outcomes:主要な アウトカム、すなわち PICO を定義することで問題解決を試みた。また、タスクフォースは ACS に必要なアウトカムに 9 段階のスケールを使用して患者にとって重要なアウトカムにつ いてのコンセンサスに達した。7-9 点を重大な結果[死亡(9)、頭蓋内出血(8)と緊急血行再 建(7)]、4-6 点は重要[脳卒中(6)、大出血(6)、再梗塞(5)と再灌流時間(5)]とした。この 方法は各トピックに関して、一貫したアウトカムと重要性を提示することを可能にした。

AHA(アメリカ心臓協会)、ACC(アメリカ心臓病学会)、ESC(ヨーロッパ心臓病学会)そし て日本循環器学会は、STEMI や NSTEMI の入院後の治療も含めた包括的なガイドラインを発表 してきた。読者は ACS 患者に関するより詳細な推奨事項については、これらのガイドライン を参照していただきたい。CoSTR 2015 および本ガイドラインでは、これらを補完する形で、 病院前や救急部門での初期評価や治療に焦点を当てていることに留意していただきたい。

頻用する略語

ACS:acute coronary syndrome(急性冠症候群) AMI:acute myocardial infarction(急性心筋梗塞) CAG:coronary angiography(冠動脈造影)

NSTEMI:non-ST elevation myocardial infarction(非 ST 上昇型心筋梗塞) PCI:percutaneous coronary intervention(経皮的冠動脈インターベンション) ROSC:return of spontaneous circulation(自己心拍再開)

STEMI:ST elevation myocardial infarction(ST 上昇型心筋梗塞) UA:unstable angina(不安定狭心症) 注意すべき用語 ・ Emergency department(ED):本稿では「救急部門」としているが、欧米の ED とわが 国の「救急部」や「救急外来」の違いに留意しておく必要がある。欧米の ED には、比 較的長時間(1 日程度)、経過観察を行う機能〔例えば胸痛観察室(chest pain observation unit)〕があり、わが国では入院として取り扱われる範囲の診療も行うこ とがある。 ・ 非 ST 上昇型 ACS(NSTE-ACS):NSTEMI および UA を合わせた表現として用いられる。 ・ Door-to-balloon 時間:再灌流療法までの時間として door(病院の入口)から balloon

(PCI 実施)までが使われてきたが、「救急隊の接触」、「最初の医療従事者の接触(多 くの場合、最初の医療従事者は救急隊である)」さらに「症状発現」から「再灌流達成」 へとさまざまな表現が用いられる[最初に接触する医療従事者を FMC (first medical contact)という]。

以下は CoSTR2015 での ACS の診断および治療の推奨と提案について、前回の CoSTR 2010 か らの重要な変更点についての要約である。

A. ACS の診断

■ 病院前 12 誘導心電図(electrocardiogram:ECG)の推奨が再強調された。新しいエビ デンスは病院前

12 誘導

ECG が STEMI の早期診断を容易にするだけではなく、病院前お

(15)

よび病院収容後の迅速な再灌流療法の機会を提供し、死亡率の改善も示している (ACS 336)。 ■ コンピュータによる

12 誘導

ECG 自動解析は使用されるコンピュータのアルゴリズムに 依存するため、いまだ補助的手段である (ACS 559)。 ■ 医師以外の医療従事者による STEMI の

12 誘導

ECG 判読は、十分な判読成績が慎重にモ ニターされたプログラムによって維持される場合に提案される (ACS 884)。 ■ 病院前からの STEMI 通知による緊急冠動脈造影(CAG)の準備は、治療遅延を改善する だけでなく、死亡率を改善する新しいエビデンスにより提案される (ACS 873)。 ■ トロポニンを来院時と 2 時間後に測定するのみで ACS を除外診断しないことを推奨す る。来院時と 2 時間後の高感度トロポニン I が陰性(99 パーセンタイル未満)で低リ スク群に層別化されるか、もしくは来院時と 3~6 時間後のトロポニン I または T が陰 性で非常に低いリスク群に層別化される場合に ACS(1 カ月以内の ACS の発症や主要心 血管イベント発生)を除外してもよい (ACS 737)。

B. ACS の初期治療

■ STEMI が疑われる患者に対してプライマリーPCI を行う予定であれば、アデノシン二リ ン酸(ADP)受容体拮抗薬と未分画ヘパリンを投与するタイミングは、病院前、病院到 着後のいずれでもよいことを提案する (ACS 335) (ACS 562)。 ■ STEMI 患者にプライマリーPCI を施行する際に未分画ヘパリンに代わるものとして病院 前でエノキサパリンを使用してもよい。bivalirudin を未分画ヘパリンの代わりに使用 することに関しては十分な根拠がない (ACS 568)。 ■ 正常酸素分圧の ACS 患者に対してルーチンに酸素を投与しないことを提案する (ACS 887)。

C. STEMI の再灌流療法

■ 血栓溶解療法を前提とした場合には、搬送時間が 30 分以上を要するときに病院前で血 栓溶解薬の投与を推奨する (ACS 338)。 ■ PCI センターを利用できる地域では、救急隊は PCI センターに直接搬送することを提案 する。PCI センターに搬送できない場合に病院前血栓溶解療法を提案する (ACS 341)。 ■ すぐに PCI 施行できる場合には、救急部門において血栓溶解薬のルーチン使用は推奨し ない (ACS 882)。 ■ 個々の症例の発症からの時間経過と PCI 実施までの遅延時間により再灌流療法(プライ マリーPCI と血栓溶解療法のどちらを施行するか)を選択することを提案する (ACS 337)。 ■ プライマリーPCI を施行できない施設に STEMI 患者が来院した場合には、血栓溶解療法 を施行せずにすみやかに PCI 可能施設に転院させることを推奨する。すみやかに PCI 可能施設に転院させることができない場合には、代替として血栓溶解療法を提案する (ACS 332)。 ■ プライマリーPCI を施行できない施設の救急部門で STEMI に対して血栓溶解療法を施行 した場合には、心筋虚血が残存した場合に限り PCI を目的に転院搬送するのではなく、 すみやかに[3~6 時間以内](遅くとも発症 24 時間以内に)PCI センターへの転院を提

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案する (ACS 779) (ACS 334)。

D. 自己心拍再開例に対する病院収容後再灌流療法の決定

■ STEMI による心原性心停止が疑われる院外心停止 ROSC 後の患者には緊急 CAG を推奨す る (ACS 340)。 ■ 心原性心停止が疑われる院外心停止 ROSC 後の昏睡患者では、

12 誘導

ECG で ST 上昇の 所見がなくとも緊急 CAG を提案する (ACS 885)。

2 ACS の初期診療アルゴリズム(図 1)

虚血を示唆する胸部症状を有する患者が救急車を要請する場合や初期救急医療機関を受診する場合 のいずれでも、中心となるコンセプトはACSの迅速な診断および、酸素、アスピリン、硝酸薬およびモ ルヒネを用いた治療の実行である。救急部門での病歴聴取と診察では緊急度と重症度を評価する。12 誘導ECGは患者の初期トリアージで中心的役割を担う。STEMIと診断した場合には、循環器医と連携し再 灌流療法を優先する。ST低下を認めた場合には、高リスクのUAまたはNSTEMIを疑い、循環器医と連携し CCUまたはそれに準じた病室への入院となる。これらの患者は、短期の心イベント(死亡、非致死的心 筋梗塞、および緊急血行再建)発生のリスクが高く、薬物療法に加え早期にPCIを中心とした侵襲的治 療が選択されることが多い。正常または判定困難なECG所見の患者では、各施設の胸痛観察プロトコー ルに従い、トロポニンなどの心筋バイオマーカーおよび 12 誘導ECGの経時的な観察により、さらにリス クの層別化が可能になる。心エコーは、局所壁運動異常、左心機能および機械的合併症(左室自由壁破 裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂)の評価のみならず他の疾患(急性大動脈解離、急性肺塞栓、急性心膜 炎など)との鑑別に有用である。胸部X線写真は、重症度評価や他の疾患との鑑別に有用であるが必須 ではない。さらに、診断確定のために採血結果を待つことで再灌流療法が遅れてはならない。初期救急 医療機関では、緊急PCIを施行できる施設への搬送は受診した時から 30 分以内とする。

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図1 ACS の初期診療アルゴリズム

■3 ACS 診断のための検査

ACS は、ST 上昇を伴うまたは伴わない急性心筋梗塞(AMI)と不安定狭心症(UA)を含む疾 患概念を示している。世界保健機関(WHO)で定義された心筋梗塞の用語は、心筋虚血(虚血 以外に原因が明らかでない)に一致する臨床的心筋壊死が明らかに存在する場合に用いられ ている。

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AMI の診断基準 ● 心筋特異性の高い心筋トロポニンが健常者の上限値の 99 パーセンタイルを超えて一 過性に上昇し下降する急性変化を認めることが必須条件である。 ● そして、以下の症状、ECG 変化、または支持する画像所見の少なくとも 1 つを伴った心 筋虚血が明らかであること ・ 虚血症状は、労作または安静時の胸部、上肢、顎、または心窩部不快感など様々な組み 合わせを含む。狭心症の症状持続時間は 20 分未満であることが多く、20 分以上持続す る場合には心筋梗塞を強く疑う。症状は、しばしば広範囲で、局所的でなく、姿勢によ らず、動作で影響を受けず、そして呼吸困難、冷汗、嘔気、または失神を伴うこともあ る。 ・ 新規の虚血を示唆する ECG 変化は、新規の ST-T 変化または新規の左脚ブロック(LBBB)、 病的な Q 波の出現を含む。 ・ 画像所見は、新規の生存心筋の壊死を反映、または新規の局所壁運動の異常を呈する。 この ACS 診断の章では、STEMI の認識と診断における病院前 12 誘導 ECG の重要性、そして 低リスクの胸痛に対する ACS 除外診断のための心筋バイオマーカーの有用性に焦点を絞る。 12 誘導 ECG

救急部門と院外での 12 誘導 ECG は、ACS の可能性のある患者の初期トリアージとマネージ メントの開始に必須である。徴候と症状のみでは救急部門と病院前で AMI または心筋虚血を 診断する感度は十分でないことはよく知られている。病院前 12 誘導 ECG の記録と判読は、 STEMI とそれ以外のハイリスク ACS 症例の早期認識において重要である。ILCOR ACS タスク フォースはその点を考慮し、STEMI 認識のための病院前 12 誘導 ECG の有用性に焦点を絞った。 正確な認識と病院への事前通知は、院内での治療の遅れを最小限に防ぎ、患者の転帰を改善 させる可能性がある。 病院前 12 誘導 ECG での STEMI の認識に関する多くの研究では、医師による解析が絶対的な 標準とされている。しかしながら、この方法は、現実問題として医師がいつも現場に居ると は限らず、ECG 判読を誤る可能性が高くなる。病院前 12 誘導 ECG は、医師の現場での解析、 医師以外の経験を積んだ医療従事者の現場での解析、現場でのコンピュータ解析、現場から 離れた場所にいる医師への伝送、という 4 つの方法で解析することができる。 この章では、STEMI 認識に関する病院前 12 誘導 ECG の有用性のエビデンス、病院への通知 および/またはカテーテル検査室を起動するために使用された場合の価値、補助的なコン ピュータ解析および/または院外での医師以外の医療従事者による解析の有用性のエビデン スをレビューする。 この科学のレビューは、病院前 12 誘導 ECG 記録とそれに続く通知が、患者の治療の遅れと 転帰に与える影響に焦点を絞っている。コンピュータ解析の補助のある場合とない場合に医 師以外の医療従事者が ECG 解析をする際の精度に関しても言及した。後者は、研究に含まれ る対象が不均一であるため、診断能力を推定するのは不可能であり、研究を通して観察され た感度と特異度に基づいて、罹患率を 5%から 20%まで任意に仮定した時の偽陽性(FP)と 偽陰性(FN)を算出することで検討した。病院前に関する既存のエビデンスには、医療資源 と地域のシステムに大きな相違があるため、そこで検討された治療戦略の実施をすべての地

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域のシステムに一般的な適応として勧告することを妨げている。また、異なる地域の診療シ ステムにおける研究結果を直接比較することは困難である。ただし、用いられる治療戦略に 関わらず、それぞれのシステムで病院前 12 誘導 ECG 解析での正確な診断と STEMI の認識がで きるように努力すべきである。それぞれのシステムにおける病院前 12 誘導 ECG による STEMI 診断の偽陽性率と偽陰性率を検討する際には、診断能力の感度と特異度をその地域の搬送症 例における STEMI 罹患率と関連付けて考慮すべきである。その理由は、12 誘導 ECG 判読での 偽陰性例において治療が遅れることによる患者のリスクと、12 誘導 ECG 解析での偽陽性例に おいてシステムが誤って起動されることで生じる不適切な医療資源の分配との効果的なバラ ンスのために非常に重要である。

1. 病院前または救急部門での STEMI の 12 誘導 ECG の判読

1) 病院前 12 誘導 ECG

CQ:病院前 12 誘導 ECG の伝送または通知は STEMI の転帰を改善するか?

P:院外で STEMI を疑われた成人患者 I:病院前の 12 誘導 ECG の伝送と通知 C:12 誘導 ECG を記録しない、または伝送と通知をしないこと O:死亡、および治療までの時間(医療従事者との最初の接触から再灌流までの時間、また は血栓溶解療法開始までの時間、または救急外来受診から再灌流までの時間、または血栓溶 解療法開始までの時間)(FMC to balloon time, FMC to needle time, door to balloon time, door to needle time)

推奨と提案

STEMI が疑われる成人患者には、病院前 12 誘導 ECG を記録して病院へ事前通知することを 推奨する(強い推奨、低いエビデンス)。

エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス

重大なアウトカムとしての PCI を受けた STEMI 患者の 30 日後死亡率について、9 件の観察 研究があり、20,402 名において病院前 12 誘導 ECG を記録し病院へ通知する群が病院前 12 誘 導 ECG 記録も通知もしない群と比較して有用であったことが示されており(RR 0.68, 95%CI 0.51~0.91)、死亡率で 32%の相対的減少である(低いエビデンス:バイアスのリスクによ りグレードダウン、治療効果によりグレードアップ)。重大なアウトカムとしての血栓溶解療 法を受けた STEMI 患者の 30 日後死亡率については 2 件の観察研究があり、59,631 名におい て病院前 12 誘導 ECG を記録し病院へ通知する群が病院前 12 誘導 ECG 記録も通知もしない群 と比較して有用であったことが示されており(RR 0.76, 95%CI 0.71~0.83)、死亡率で 24% の相対的減少である(低いエビデンス:バイアスのリスクによりグレードダウン、治療効果 によりグレードアップ)。 重要なアウトカムとしての STEMI 患者に最初に医療従事者が接触してから再灌流までの時 間、病院到着からバルーン拡張までの時間、病院到着から血栓溶解療法開始までの時間につ

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いて、7 件の観察研究と 14 件の観察研究と、そして 3 件の観察研究があり、それぞれ病院前 12 誘導 ECG を記録して病院へ通知することが再灌流までの時間を短縮することを示してい る。(非常に低いエビデンス:バイアスのリスクによりグレードダウン)。しかし、治療効果 を評価するには対象が不均一であったため、治療開始までの時間をまとめることが出来な かった。

図 2: 病院前 12 誘導 ECG の記録および病院への通知の有無によるプライマリーPCI

を受けた STEMI 患者の 30 日後死亡率(ランダム効果モデル)

図 3: 病院前 12 誘導 ECG の記録および病院への通知の有無による血栓溶解療法を受

けた STEMI 患者の 30 日後死亡率(固定効果モデル)

推奨と提案

STEMI が疑われる成人患者には、病院前 12 誘導 ECG を記録して病院へ事前通知することを 推奨する(強い推奨、低いエビデンス)。

患者にとっての価値と

ILCOR の見解

この推奨の作成において、観察研究に内在するバイアスのリスクはあるものの、大規模な 症例数(>80,000)での一致した死亡率の改善と再灌流までの時間短縮をより重視している。 病院前 12 誘導 ECG の伝送または通知 病院前 12 誘導 ECG を記録しない、または 伝送/通知しない 病院前 12 誘導 ECG の伝送または通知 病院前 12 誘導 ECG を記録しない、または 伝送/通知しない

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Knowledge Gaps(今後の課題)

この問題は 12 誘導 ECG 判読の方法については特に配慮していない。STEMI の 12 誘導 ECG 診断の異なったシステム(補助的なコンピュータアルゴリズムの有無にかかわらず)の直接 的な比較を見つけることはできなかった。 わが国において病院前 12 誘導 ECG 記録は十分に普及しているとは言えず、STEMI の専門的 治療開始をより早めるためにも病院前 12 誘導 ECG 記録の活用・普及について検討することが 望ましい。

2) 医師以外の医療従事者による STEMI の判読

CQ:医師以外の医療従事者が 12 誘導 ECG で STEMI を認識できるか?

P:院外で STEMI が疑われる成人患者 I:医師以外の医療従事者(例えば看護師や救急救命士) C:医師

O:早期診断に許容できる偽陰性率と不要な緊急 CAG を減らす偽陽性率における 12 誘導 ECG による STEMI の認識精度

推奨と提案

院外で STEMI が疑われる成人において、偽陽性率と偽陰性率が低いシステムでは、医師以 外の医療従事者が STEMI を認識するために 12 誘導 ECG 解析を行うことを提案する(弱い推奨、 非常に低いエビデンス)。

エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス

重要なアウトカムとしての偽陽性と偽陰性について、3 件の観察研究があり、1,360 名の 12 誘導 ECG において(有病率を 5%と仮定すると(偽陽性の最大値を想定))、偽陽性率は 0.3~ 30.5%であった。(有病率を 20%と仮定すると(偽陰性の最大値を想定)、偽陰性率は 4%を 超えなかった(非常に低いエビデンス:バイアスのリスク,非一貫性によりグレードダウン)。 感度は 80~99.6%で、特異度は 68~96.8%であった。 重要なアウトカムとしての偽陽性/全陽性については、9 件の観察研究があり、900 名の 12 誘導 ECG において偽陽性/全陽性率は 8~40%であった(非常に低いエビデンス:バイアスの リスク,非一貫性によりグレードダウン)。

推奨と提案

院外で STEMI が疑われる成人において、偽陽性率と偽陰性率が低いシステムでは、医師以 外の医療従事者が STEMI を認識するために 12 誘導 ECG 解析を行うことを提案する(弱い推奨、 非常に低いエビデンス)。

患者にとっての価値と

ILCOR の見解

この推奨の作成において、STEMI 患者の治療の遅れを最小限にすることと間違って治療シ

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ステムを立ち上げることによって生じるかも知れない医療資源の浪費を避けることのバラン スを取るようにした。 医師が発症現場に不在の多くの病院前のシステムにおいて、高度にトレーニングされた救 急救命士や看護師が STEMI を正しく認識できるというエビデンスは知られている。強力な初 期教育プログラム、継続した監督、可能なら補助的なコンピュータ解析、および質の保証さ れたプログラムを有する組織化された病院前医療システムにおいて行われた結果であろう。 異なる研究方法や異なるゴールドスタンダードが使用された過去のデータをまとめて評価 することは不可能である。様々な医療システムからのレポートにおいて医師以外の医療従事 者による STEMI の 12 誘導 ECG 認識の信頼性は同等ではなかった。これは、医療従事者のトレー ニングや個々の技量のレベルだけではなく、記録された 12 誘導 ECG の質や所見も関連してい るかもしれない。したがって、質をコントロールするためには、適切なトレーニングプログ ラムと慎重な維持管理をすることにより医療従事者の適切な診断正確性を保証する絶え間な い努力を医療システムが行わなければならない。この観点において、診断の成績や病院前お よび病院での 12 誘導 ECG 所見やカテーテル所見を、STEMI を収容した病院がタイムリーに フィードバックすることが大切である。非常に高い有病率または非常に低い有病率は、感度 や特異度の数値としては満足できるかも知れないが、許容できない偽陽性や偽陰性を導くか もしれないので、診断能力は常に地域の STEMI の有病率と関連して考えなければならない。 これは、経験豊富な医療従事者に 12 誘導 ECG 伝送を行うことや、コンピュータによる自動解 析を用いて現場で 12 誘導 ECG 判読を行う他の選択肢と比較して、医師以外の医療従事者が STEMI の判読をすることになる特別な医療システムにおける最適性を判断する上で重要な糸 口を与えるかもしれない。

Knowledge Gaps(今後の課題)

医師以外の医療従事者による 12 誘導 ECG 診断のための初期及び維持するための教育プログ ラムや特別な教育もしくは経験に基づく 12 誘導 ECG 診断能力の測定についての評価法をみつ けることが今後の課題である。

3) コンピュータによる 12 誘導 ECG 自動解析

CQ:12 誘導 ECG のコンピュータ自動解析を使用すれば STEMI の認識は可能

か?

P:院外で STEMI が疑われる成人患者 I:コンピュータによる 12 誘導 ECG 自動解析の使用 C:医師の 12 誘導 ECG 診断もしくは臨床的 STEMI 診断

O:早期診断に許容できる偽陰性と不必要な緊急 CAG を減らす偽陽性における 12 誘導 ECG による STEMI の認識精度

推奨と提案

コンピュータによる 12 誘導 ECG 自動解析は、コンピュータアルゴリズムの特異度が高い場 合には、STEMI を認識する補助として使用することを提案する(弱い推奨、非常に低いエビ

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デンス)。 コンピュータによる 12 誘導 ECG 自動解析は、コンピュータアルゴリズムの感度が低く、偽 陰性のリスクが高くなるので、STEMI を除外するために単独で使用しないように提案する(弱 い推奨、非常に低いエビデンス)。

エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス

重要なアウトカムとしての偽陽性(FP)および偽陰性(FN)について、2 件のコホート研 究があり、1,112 名の STEMI 患者と 12 誘導 ECG において(STEMI 有病率を 5%と仮定すると [偽陽性の最大値を想定])STEMI 診断の偽陽性率は 0~8.7%で、(STEMI 有病率を 20%と仮定 [偽陰性の最大値を想定])偽陰性率は 4.4~8.4%であることが示されている[感度が 0.58~ 0.78、特異度が 0.91~1 の範囲である](非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、非一貫 性と不精確さによりグレードダウン)。 重要なアウトカムとしての偽陽性/全陽性について、6 件の研究があり、1,949 の 12 誘導 ECG において STEMI 診断の偽陽性/全陽性率は 0~42.9%であることを示している(非常に低 いエビデンス:バイアスのリスク、非一貫性と不精確さによりグレードダウン)。

推奨と提案

コンピュータによる 12 誘導 ECG 自動解析は、コンピュータアルゴリズムの特異度が高い場 合には、STEMI を認識する補助として使用することを提案する(弱い推奨、非常に低いエビ デンス)。 コンピュータによる 12 誘導 ECG 自動解析は、コンピュータアルゴリズムの感度が低く、偽 陰性のリスクが高くなるので、STEMI を除外するために単独で使用しないように提案する(弱 い推奨、非常に低いエビデンス)。 *コンピュータによる 12 誘導 ECG 自動解析は補助として、または医師または他の熟練した 医療従事者による判読との組み合わせで使用可能である。このようにすることでコンピュー タの自動解析による STEMI の認識が個別に検証されることになり、また、コンピュータの自 動解析の結果だけで STEMI が除外される事態を避けられる。

患者にとっての価値と

ILCOR の見解

この推奨の作成においては、間違って治療システムを立ち上げることによって生じるかも 知れない医療資源の浪費よりも STEMI 患者の治療の遅れを最小限にすることをより重視して いる。 しっかりとした初期教育プログラムと質を保証するプログラム、継続的な監督がある場合 には、コンピュータの自動解析による判読の補助と共に医療従事者が現場で判読することで 12 誘導 ECG での STEMI の認識は最適化されるかもしれない。 パブリックコメントで指摘されたように、異なる独自の解析アルゴリズムや異なるゴール ドスタンダードを用いているので、各々の研究を直接比較することやデータをまとめること は困難である。異なるアルゴリズムでは異なる結果が出ても不思議ではない。コンピュータ 解析アルゴリズムは定期的にアップデートされるため、使用したものと同じアルゴリズムや バージョンでなければ、その有効性を変化させ、以前の研究を不適切とするかもしれない。 最後に、最近のアルゴリズムは、使われ方や必要性によって、低い偽陽性または低い偽陰性

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となるよう改善されているものもある。そのため、そのようなコンピュータアルゴリズムを 補助として使用するのを選択する場合は、各々のアルゴリズムの能力を注意深く考慮し、自 分が使用する環境においてそれを評価することが大切である。 コンピュータによる ECG 解析の使用は、感度が 0.58~0.78 で特異度が 0.91~1 である種々 の医療システムにおいて同様に有効性を得られなかった。これは、アルゴリズムの能力や STEMI の異なる病型での異なる影響によるものかもしれないが、記録された 12 誘導 ECG の質 やトレーニングのレベルや 12 誘導 ECG を記録する個々の技能に関係しているかもしれない。 コンピュータアルゴリズムの能力的特徴は、病院前に比べて安定した患者のいる管理された 院内とは、異なる可能性がある。そのため、それぞれの医療システムは、アルゴリズムが用 いられる特定の環境下で任意の特定のアルゴリズムの能力を評価しなければならい。非常に 高い有病率または非常に低い有病率は、感度や特異度の数値としては満足できるかもしれな いが、許容できない偽陽性や偽陰性を導くかもしれないので、診断能力は常に地域の STEMI の有病率と関連して考えなければならない。ECG 診断のために経験豊富な医療従事者に ECG 伝送を行うという他の選択と比較して、この方法が最も適しているかどうかを判断する上で、 これは重要な糸口を与えるかもしれない。

Knowledge Gaps(今後の課題)

異なるコンピュータアルゴリズムが比較されたことはない。非専門家による解析の補助と して使用されるのに適した 12 誘導 ECG 解析アルゴリズムは決定されていない。 わが国では病院前での 12 誘導 ECG 記録は普及していない。また、STEMI の診断のための様々 なコンピュータアルゴリズムの科学的な評価もされていない。

2. 心筋バイオマーカーによる ACS 除外診断

心筋トロポニンは心筋虚血の診断に最も広く利用され、その有効性が確立された生化学検 査であり、心筋梗塞の国際的診断基準に推奨される心筋バイオマーカーである。心筋梗塞の 診断のためには、myoglobin(ミオグロビン)、Brain Natriuretic Peptide(BNP:脳性ナト リウム利尿ペプチド)、NT-proBNP、D-dimer(D ダイマー)、C-reactive protein(C 反応性 蛋白)、ischemia-modified albumin(虚血修飾アルブミン)、Pregnancy-Associated Plasma Protein A(PAPP-A:妊娠関連血漿蛋白 A)、interleukin-6(インターロイキン-6)など、様々 なバイオマーカーが候補として挙げられているが、症状から心筋虚血が疑われる患者を評価 するための一次検査として、いずれかの項目を単独で利用することを支持するエビデンスは 不十分である。 AMI の診断には心筋バイオマーカーであるトロポニンの測定が含まれるため、多くの研究 で様々な測定方法を用いて、AMI を診断するために異なる時間間隔での測定の有効性が検討 されている。多くの循環器ガイドラインでは AMI 診断のための二回測定法が推奨されている。 高感度トロポニン[high sensitivity (hs) cardiac troponin (cTn) T, I]測定が可能とな り、AMI を除外するために用いる場合のトロポニン測定の精度と検査特性は注目される領域 である。

このエビデンス評価では、ACS の除外診断におけるトロポニンの使用に限定した。トロポニ ンは AMI の除外診断に有用であるが、AMI 以外の ACS では、おそらくトロポニンは上昇しな いため、トロポニンだけで ACS を除外することは不可能である。しかしトロポニンを他の検

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査と組み合わせることにより 30 日以内の主要心事故の発生頻度が非常に低い(1%未満と定 義)患者の一群を特定することができるかもしれないため、実質的には ACS を除外、または 否定することが可能である。 救急部門を受診した胸痛患者の、30 日以内の主要心事故発生の危険性が非常に低い患者の 一群を早期に選別することにより、胸痛で入院する患者数を大幅に減らすことができるであ ろう。特定の間隔でのトロポニン測定は他の検査を併用してもしなくても、安全に帰宅でき る危険性の非常に低い患者を選別することができるであろう。この非常に危険性の低い患者 はおそらく冠動脈疾患の診断のためにさらに検査が必要ではあるが、それらの検査は外来患 者として行うことが可能である。 ここで評価されたエビデンスは、すべて観察研究に基づいたものであり、RCT は見い出せ なかった。研究の大多数で、ACS の診断におけるゴールドスタンダードは、しばしば一定期 間(30 日間、6 か月、または1年)に記録された主要心事故の診断であった。救急部門にお けるもっとも重要な使命の一つは、ACS を安全に除外し、適時の帰宅を促すことができる患 者を見つけ出すことである。そのため、診断検査の価値を評価するための重要な指標は偽陰 性の割合であり、ACS であるすべての患者に対する偽陰性の割合である(FN/FN+TP)。偽陰性 の発生率は、母集団における関連疾病の割合で決まる。そのために、ACS 患者を対象とし、 臨床的リスク分類法とトロポニン測定を併用することが、ACS の診断精度を向上することを 示すためにエビデンスを評価した。重大なことは、胸痛を訴えて救急外来を受診した多くの 患者で急性冠症候群の診断が見過ごされた場合には、有害な結果が生じることである。

CQ:心筋バイオマーカーは ACS を除外できるか?

P:心臓疾患が原因と考えられる胸痛で救急部門を受診する患者 I:来院時、1、2、3、6 時間後のトロポニン検査結果が陰性 C:トロポニン検査が陽性 O:ACS の除外

推奨と提案

ACS の診断を除外するため、来院時と 2 時間後の hs-cTnT と cTnI の測定のみで判断しない ことを推奨する (強い推奨、非常に低いエビデンス)。 ACS の診断を除外するため、来院時と 2 時間後に測定した hs-cTnI 陰性(注 1)を、低リスク 患者(Vancouver rule や TIMI スコア 0 または 1 で規定した低リスク)で用いることを提案 する(弱い推奨、低いエビデンス)。

ACS の診断を除外するため、来院時と 3~6 時間に測定した cTnI 陰性*あるいは cTnT 陰性(注 2)を、超低リスク患者(Vancouver rule、TIMI スコア 0、低リスク HEART スコアまたは低リ スク North American CP rule で規定した低リスク)で用いることを提案する(弱い推奨、低 いエビデンス)。

(注 1)陰性値は 99 パーセンタイル以下

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エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス

高感度心筋トロポニンT(hs-cTnT)[表 1-1 参照] 重大なアウトカムとしての「ACS の診断を除外する」ことについて、1 件の観察研究があり、 救急部門を胸痛で受診した 939 名の患者において来院時と 2 時間後の hs-cTnT がいずれも 99 パーセンタイル以下で、前値と比較した上昇度が 20%以下であり、かつ臨床スコアリングを 使用しない場合、調整 1 年間のイベントを転帰として用いた偽陰性率〔FN/(FN+TP)〕は 2.5% であった(非常に低いエビデンス:深刻なバイアスのリスク、不精確さによりグレードダウ ン)。 重大なアウトカムとしての「ACS の診断を除外する」ことについて、1 件の観察研究があり、 救急部門を胸痛で受診した 764 名の患者において来院時と 2 時間後の hs-cTnT がいずれも 14ng/L 未満であり、臨床スコアリングを使用しない場合、30 日以内の主要心事故を転帰とし て用いた偽陰性率〔FN/(FN+TP)〕は 3.6%であった(非常に低いエビデンス:深刻なバイア スのリスク、不精確さによりグレードダウン)。 表 1-1:主要心事故を除外するための高感度心筋トロポニン T(hs-cTnT)と重症度分類 高感度心筋トロポニン T(hs-cTnT) 文献 対象 基準 症例 数 方法 臨床 スコア 偽陰 性率 アウト カム Aldous, 2011 胸痛 939 来院時と 2 時間後の hs-cTnT がいずれも 99 パーセントタイル 以下であり、上昇が 20%以下 なし 2.5% 調整 1 年 間の心 イベン ト Parsonage , 2014 胸痛 764 来院時と 2 時間後の hs-cTnT がいずれも 14ng/L 未満 なし 3.6% 30 日以 内の主 要心事 故 偽陰性率=偽陰性/(偽陰性+真陽性) 高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)[表 1-2 参照] 重大なアウトカムとしての「ACS の診断を除外する」ことについて、1 件の観察研究があり、 ACS を疑う症状で救急部門を受診した 1,635 名の患者において、来院時と 2 時間後の hs-cTnI がいずれも 99 パーセンタイル以下であり、かつ Vancouver Rule に合致した場合、30 日以内 の主要心事故を転帰として用いた偽陰性率〔FN/(FN+TP)〕は 0.9%であった(非常に低いエ ビデンス:深刻なバイアスのリスク、不精確さによりグレードダウン)。 重大なアウトカムとしての「ACS の診断を除外する」ことについて、1件の研究があり、 ACS を疑う症状で救急部門を受診した 909 名の患者において、来院時と 2 時間後の hs-cTnI がいずれも 99 パーセンタイル以下で、かつ TIMI スコアが 0 または 1 である場合、30 日以内

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の主要心事故を転帰として用いた偽陰性率〔FN/(FN+TP)〕は 0.8%であった(非常に低いエ ビデンス:深刻なバイアスのリスク、非一貫性,不精確さによりグレードダウン)。 重大なアウトカムとしての「ACS の診断を除外する」ことについて、1 件の観察研究があり、 胸部圧迫感が 5 分以上継続し、救急部門を受診した 1,635 名の患者において来院時と 2 時間 後の hs-cTnI がいずれも 99 パーセンタイル以下で、かつ TIMI スコアが 0 または 1 であった 場合、30 日以内の主要心事故を用いた偽陰性率は 0.8%であった(非常に低いエビデンス: 深刻なバイアスのリスク、不精確さによりグレードダウン)。 重大なアウトカムとしての「ACS の診断を除外する」ことについて、1 件の観察研究があり、 症状から ACS が疑われ救急部門を受診した 909 名の患者において来院時と 2 時間後の hs-cTnI がいずれも 99 パーセンタイル以下で,かつ TIMI スコアが 0 であった場合、30 日以内の主要 心事故を用いた偽陰性率は 0%であった(非常に低いエビデンス:深刻なバイアスのリスク、 非一貫性、不精確さによりグレードダウン)。 重大なアウトカムとしての「ACS の診断を除外する」ことについて、1 件の観察研究があり、 胸部圧迫感が 5 分以上継続し、救急部門を受診した 1,635 名の患者において来院時と 2 時間 後の hs-cTnI がいずれも 99 パーセンタイル以下で、かつ TIMI スコアが 0 であった場合に 30 日以内の主要心事故を用いた偽陰性率は 0%であった(非常に低いエビデンス:深刻なバイ アスのリスク、不精確さによりグレードダウン)。

表 1-2:主要心事故を除外するための高感度心筋トロポニン I(hs-cTnI)と重症度分類  高感度心筋トロポニン I(hs-cTnI)  文献  対象  基準  症例 数  方法  臨床  スコア  偽陰 性率  アウトカム  Cullen,  2014  ACS を示唆する症状  1,635  来院時と 2 時間後の hs-cTnI が いずれも 99 パー センタイル以下  Vancouver  0.9%  30 日以内の主要心事 故  Cullen,  2013  ACS を示唆 する症状が出現し
表 1-3:主要心事故を除外するための心筋トロポニン I と T(cTnI, cTnT)と重症度分類  心筋トロポニン I と T(cTnI, cTnT)  文献  対象  基準  症例 数  方法  臨床  スコア  偽陰 性率  アウトカム  Aldous,  2011  胸痛  939  来院時と 2 時間後のcTnI が 0.056 mcg/L 以下  なし  7.8%  調整 1 年間の心イベン ト  Cullen,  2014  ACS を示唆する症状  1,635  来院時と 2 時間後の c
図 5: 病院前 vs 病院到着後での ADP 受容体拮抗薬投与による 30 日後死亡率  4. ヘパリン類  わが国では低分子ヘパリン製剤は、手術後の静脈血栓塞栓症の発症抑制、DIC(Disseminated  Intravascular Coagulation:播種性血管内凝固症候群)や体外循環時の凝固防止が適応であり、選択 的Xa阻害薬も手術後の深部静脈血栓症の発症抑制が適応であり、ともにACSには適応外である。抗トロ ンビン薬bivalirudinは未承認であり、現時点ではわが国でACSに適応が認め
表 2:STEMI 患者における再灌流法の選択-2015 年におけるトピックス  トピックス  決定場所  再灌流療法  比較された再灌流療法 血栓溶解療法  (病院前 vs 救急部門)  病院前  病 院 前 血 栓溶解療法  救急部門血栓溶解療法 病院前トリアージ  (PCI センター vs 病院前血 栓溶解療法)  病院前  病 院 前 血 栓溶解療法  プライマリーPCI  救 急 部 門 血 栓 溶 解 療 法 + PCI vs PCI 単独  救急部門  (PCI 可能 施設)  救 急 部 門
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