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わが国では低分子ヘパリン製剤は、手術後の静脈血栓塞栓症の発症抑制、DIC(Disseminated Intravascular Coagulation:播種性血管内凝固症候群)や体外循環時の凝固防止が適応であり、選択 的Xa阻害薬も手術後の深部静脈血栓症の発症抑制が適応であり、ともにACSには適応外である。抗トロ ンビン薬bivalirudinは未承認であり、現時点ではわが国でACSに適応が認められているのは未分画ヘパ リンのみである。本ガイドラインでは、わが国では適応外あるいは未承認の薬物についての海外での知 見とそれに基づく推奨と提案について参考のため紹介するが、未分画ヘパリンの使用は、APTT

(Activated Partial Thromboplastin Time:活性化部分トロンボプラスチン時間)などのモニタリン グが必要であり、ヘパリン起因性血小板減少症の危険性があることを考えると、わが国でもACSに対し、

低分子ヘパリン製剤、抗Xa阻害薬、抗トロンビン薬が使用できるように今後検討されることが望まれる。

1

STEMI

PCI

で治療する際の抗凝固薬投与

1

CQ

PCI

を前提とした

STEMI

患者への抗凝固薬投与は病院前投与と非 投与のどちらが良いか?

P:院外で STEMI が疑われプライマリーPCI のため搬送された成人患者

I:病院前の抗凝固療法(例:bivalirudin、ダルテパリン、エノキサパリン、フォンダパリ ヌクス)

C:病院前の抗凝固薬の非投与

O:死亡、頭蓋内出血、血行再建術、大出血、脳卒中、再梗塞

推奨と提案

現在の方法を変更するにはエビデンスが不十分であるため、プライマリーPCI が予定され る STEMI を疑う患者への未分画ヘパリンの投与は病院前でも病院到着後でもよいことを提案 する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。

エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス

重大なアウトカムとしての 30 日後死亡率について、1 件の観察研究があり、プライマリー PCI を受けた 1,702 名の STEMI 患者において、病院前での未分画ヘパリン投与が院内での未 分画ヘパリン投与に比べ有益性がなかったことを示している(OR 1.07, 95%CI 0.595~

1.924)(非常に低いエビデンス:非常に深刻な非直接性、非常に深刻な不精確さによりグレー

ADP 受容体拮抗薬 病院前投与

ADP 受容体拮抗薬 病院到着後投与

ドダウン)。

重大なアウトカムとしての脳卒中について、1 件の観察研究があり、プライマリーPCI を受 けた 1,702 名の STEMI 患者において病院前での未分画ヘパリン投与が院内での未分画ヘパリ ン投与に比べ有益性がなかったことを示している(OR 0.25, 95%CI 0.034~3.136)(非常に 低いエビデンス:非直接性、不精確さによりグレードダウン)。

重大なアウトカムとしての心筋梗塞について、1 件の観察研究があり、プライマリーPCI を 受けた 1,702 名の STEMI 患者において病院前での未分画ヘパリン投与が院内での未分画ヘパ リン投与に比べ有益性がなかったことを示している(OR 0.979, 95%CI 0.366~2.62)(非常 に低いエビデンス:非直接性、不精確さによりグレードダウン)。

重大なアウトカムとしての大出血について、1 件の観察研究があり、プライマリーPCI を受 けた 1,702 名の STEMI 患者において病院前での未分画ヘパリン投与が院内での未分画ヘパリ ン投与に比べ有益性がなかったことを示している((OR 0.699, 95%CI 0.466~1.047)(非常 に低いエビデンス:非直接性、不精確さによりグレードダウン)。

STEMI 患者に対して他の抗凝固薬を病院前に投与することについて院内投与と比べた直接 のエビデンスは認められていない。

推奨と提案

現在の方法を変更するにはエビデンスが不十分であるため、プライマリーPCI が予定され る STEMI を疑う患者への未分画ヘパリンの投与は病院前でも病院到着後でもよいことを提案 する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。

患者にとっての価値と

ILCOR

の見解

この推奨の作成において、不確かな有益性を求めるよりも病院前の治療方法に複雑さを加 えないことを推奨することを重視した。

Knowledge Gaps

(今後の課題)

わが国では病院前に救急隊が抗凝固療法を行うことは認められていないため、ドクター カーやドクターヘリシステムでの病院前でのエビデンスの蓄積が必要である。

2

CQ

PCI

施行を前提とした

STEMI

患者に対する病院前の抗凝固薬の投 与は、未分画ヘパリンと比較してどちらが良いか?

P:院外で STEMI が疑われプライマリーPCI のため搬送された成人患者

I:病院前の抗凝固薬投与(例:bivalirudin、ダルテパリン、エノキサパリン、フォンダパ リヌクス)

C:病院前の未分画ヘパリン投与

O:死亡、頭蓋内出血、血行再建術、大出血、脳卒中、再梗塞

推奨と提案

病院前で診断された STEMI 患者に対して病院前の未分画ヘパリンと比べて、病院前の bivalirudin 投与は、現在の方法を変更するにはエビデンスが不十分であるため、治療法を

変更しないことを提案する。(弱い推奨、非常に低いエビデンス)

STEMI に対するプライマリーPCI の併用療法として病院前のエノキサパリン投与を病院前 の未分画ヘパリン投与の代替治療として行うことを提案する(弱い推奨、低いエビデンス)

エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス

bivalirudin vs 未分画ヘパリン RCT

重大なアウトカムとしての 30 日後死亡率について、1 件の RCT があり、プライマリーPCI のため搬送された 2,218 名の STEMI 患者において病院前の bivalirudin 投与が病院前の未分 画ヘパリン投与に比べ有益性がなかったことを示している(OR 0.96, 95%CI 0.59~1.56)

(非常に低いエビデンス:バイアスのリスク、非直接性、不精確さによりグレードダウン)。 重要なアウトカムとしての脳卒中について、1 件の RCT があり、プライマリーPCI のために 搬送された 2,218 名の STEMI 患者において病院前の bivalirudin 投与が病院前の未分画ヘパ リン投与に比べ有益性がなかったことを示している(OR 0.55, 95%CI 0.2~0.5)(非常に低 いエビデンス:バイアスのリスク、非直接性、不精確さによりグレードダウン)。

重要なアウトカムとしての再梗塞について、1 件の RCT があり、プライマリーPCI のために 搬送された 2,218 名の STEMI 患者において病院前の bivalirudin 投与が病院前の未分画ヘパ リン投与に比べ有益性がなかったことを示している(OR 1.95, 95%CI 0.90~4.22)(非常に 低いエビデンス:バイアスのリスク、非直接性、不精確さによりグレードダウン)。

重要なアウトカムとしての大出血について、1 件の RCT があり、プライマリーPCI のために 搬送された 2,218 名の STEMI 患者において病院前の bivalirudin 投与が病院前の未分画ヘパ リン投与に比べ有益性がなかったことを示している(OR 0.5, 95%CI 0.26~0.96)(非常に 低いエビデンス:バイアスのリスク、非直接性、不精確さによりグレードダウン)。

bivalirudin vs 未分画ヘパリン 観察研究

重大なアウトカムとしての 30 日後死亡率について、2 件の観察研究があり、プライマリー PCI のために搬送された 543 名の STEMI 患者において病院前の bivalirudin 投与が病院前の 未分画ヘパリン投与に比べて有益性がなかったことを示している(OR 0.78, 95%CI 0.39~

1.56)(非常に低いエビデンス:非一貫性、非直接性、不精確さによりグレードダウン)。

重要なアウトカムとしての脳卒中および再梗塞について、1 件の観察研究があり、プライ マリーPCI のために搬送された 369 名の STEMI 患者において病院前の bivalirudin 投与が病 院前の未分画ヘパリン投与に比べて脳卒中に対しても(OR 0.86, 95%CI 0.12~6.19)再梗 塞に対しても(OR 0.86, 95%CI 0.17~4.33)有益性がなかったことを示している(非常に 低いエビデンス:非直接性、不精確さによりグレードダウン)。

重要なアウトカムとしての大出血について、2 件の観察研究があり、プライマリーPCI のた めに搬送された 543 名の STEMI 患者において病院前の bivalirudin 投与が病院前の未分画ヘ パリン投与に比べて有益性があったことを示している(OR 0.39, 95%CI 0.2~0.76)(非常 に低いエビデンス:非直接性、不精確さによりグレードダウン)。

エノキサパリン vs 未分画ヘパリン

重大なアウトカムとしての 30 日後死亡率については、1 件の RCT があり、プライマリーPCI

のため搬送された 910 名の STEMI 患者において病院前のエノキサパリン投与が病院前の未分 画ヘパリン投与に比べて有益性がなかったことを示している(OR 0.58, 95%CI 0.32~1.08)

(低いエビデンス:バイアスのリスク、不精確さによりグレードダウン)。

重要なアウトカムとしての脳卒中について、1 件の RCT があり、プライマリーPCI のため搬 送された 910 名の STEMI 患者において病院前のエノキサパリン投与が病院前の未分画ヘパリ ン投与に比べて有益性がなかったこと示している(OR 3.08, 95%CI 0.32~29.73)(低いエ ビデンス:バイアスのリスク、不精確さによりグレードダウン)。

重要なアウトカムとしての再梗塞について、1 件の RCT があり、プライマリーPCI のため搬 送された 910 名の STEMI 患者において病院前のエノキサパリン投与が病院前の未分画ヘパリ ン投与に比べて有益性がなかったことを示している(OR 0.5, 95%CI 0.90~4.22)(低いエ ビデンス:バイアスのリスク、不精確さによりグレードダウン)。

重要なアウトカムとしての大出血について、1 件の RCT があり、プライマリーPCI のため搬 送された 910 名の STEMI 患者において病院前のエノキサパリン投与が病院前の未分画ヘパリ ン投与に比べて有益性がなかったことを示している(OR 0.61, 95%CI 0.31~1.20)(低いエ ビデンス:バイアスのリスク、不精確さによりグレードダウン)。

推奨と提案

病院前で診断された STEMI 患者に対して病院前の未分画ヘパリンと比べて、病院前の bivalirudin 投与は、現在の方法を変更するにはエビデンスが不十分であるため、治療法を 変更しないことを提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。

STEMI に対するプライマリーPCI の併用療法として病院前のエノキサパリン投与を病院前 の未分画ヘパリン投与の代替治療として行うことを提案する(弱い推奨、低いエビデンス)。

患者にとっての価値と

ILCOR

の見解

bivalirudin に関するこの推奨を作成するにあたって、相対的な有益性が明らかでない介 入に新たな医療資源の分配を推奨しないことを重視した。

これらの推奨にあたり STEMI 患者に対する抗凝固薬の病院前投与について病院内投与と比 べた検討を考慮することもまた重要である。これについては、未分画ヘパリンのみが直接評 価されているものの明らかな有益性の根拠はなく、病院前で抗凝固薬投与を行うシステムは 推奨されない。しかしながら、いくつかの地域でこれを日常的に行っていることを認識して おり、ある薬物が他の薬物と比較して有益性があるか調べるために CoSTR 2015 でまとめてい る。

ステント血栓症は重要でないアウトカムとされているが、bivalirudin は急性ステント血 栓症の危険性と強く関連している(RR 6.11. 95%CI 1.37~27.24)。この結果は病院内投与に ついての他の報告や PCI 施行患者に対する本薬物のメタ解析の報告とも矛盾しない。出血合併 症を減少させる点で bivalirudin 投与は未分画ヘパリン単独投与と比べた有益性が示されて いるが、一貫したステント血栓症の増加によってこの有益性は疑問視されている。このステン ト血栓症のリスクは推奨と提案を行うにあたってタスクフォースによって考慮された。

Knowledge Gaps

(今後の課題)

わが国では、未分画ヘパリンも含め病院前の救急隊による抗凝固療法は認められていない。

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