いくつかの大規模RCTとメタアナリシスおよび小規模RCTのすべてで、Gp Ⅱb/Ⅲa阻害薬がプラセボ に比較して臨床成績の改善を示した。Gp Ⅱb/Ⅲa阻害薬をより早く使用する治療戦略が、他の治療戦略 より臨床成績の改善につながることが、多数の臨床試験で支持された。一方で、結果に差がなかったと するいくつかの臨床研究もある。いくつかの臨床研究では、Gp Ⅱb/Ⅲa阻害薬が標準治療に比較して臨 床成績を改善することなく、むしろ出血合併症を起こして輸血を必要とした。Gp Ⅱb/Ⅲa阻害薬を支持 する研究も、効果が認められないまたは悪化させたとする研究では、いずれもGp Ⅱb/Ⅲa阻害薬による 大量出血の発生率が多かった。わが国の報告では、75 歳未満、100kg未満のSTEMIまたはUAの 973 例に abciximab 0.2mg/kg初回投与後の持続投与(10μg/分または 0.125μg/kg/分)、0.25mg/kg初回投与後 の持続投与(10μg/分または 0.125μg/kg/分)とプラセボ群で比較検討し、30 日後の死亡、AMI、緊急 再血行再建の一次エンドポイントは、3 群間に有意差はなく、用量依存性に出血合併症が増加した。
STEMIまたはNSTEMI患者に病院前または救急部門でGp Ⅱb/Ⅲa阻害薬をルーチンに使用することを 支持する十分なデータはない。高リスクのNSTEMI患者の一部には、PCIが予定されている状況下で abciximab、eptifibatide、tirofibanを使用することは容認されるかもしれない。ヘパリンとGp Ⅱb/
Ⅲa阻害薬をルーチンに併用すると出血のリスクを高める。これに代わる抗凝固、抗血小板治療が考慮 されるかもしれない。
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Knowledge Gaps(今後の課題)
わが国ではGp Ⅱb/Ⅲa阻害薬が使用できない。わが国でも承認に向けたエビデンスの蓄積が求められ る。
■5 再灌流療法に関する治療戦略
さまざまな状況における STEMI に対する最善の再灌流療法について示す。どの方法を選択 するかは地域における病院前システムと利用可能な PCI センターの有無に依存する。ここで 記載される病院前システムには、病院前血栓溶解療法を安全に実施できる医師もしくは高度 にトレーニングされた医療従事者が必要である。利用可能な PCI センターがある地域とは、
短時間で PCI 施設に搬送可能な地域であり、STEMI 患者は病院前でトリアージされて PCI 施 設へ直接搬送される。つまり地域の利便性により再灌流療法(例えば、病院前か救急部門で の血栓溶解療法、あるいは病院前血栓溶解療法か PCI 施設への直接搬送)が決まる。表 2 に、
再灌流療法を実施する状況、治療法とその比較を含めた本項の内容の理解を助けるための系 統的レビューの概要を示す。
表 2:STEMI 患者における再灌流法の選択-2015 年におけるトピックス トピックス 決定場所 再灌流療法 比較された再灌流療法 血栓溶解療法
(病院前 vs 救急部門)
病院前 病 院 前 血 栓 溶解療法
救急部門血栓溶解療法 病院前トリアージ
(PCI センター vs 病院前血 栓溶解療法)
病院前 病 院 前 血 栓 溶解療法
プライマリーPCI
救 急 部 門 血 栓 溶 解 療 法 + PCI vs PCI 単独
救急部門
(PCI 可能 施設)
救 急 部 門 血 栓 溶 解 療 法
+ (1~4 時間 以内の)PCI
プライマリーPCI
開始が遅れる PCI vs.血栓 溶解療法 (STEMI 発症からの 時間で分類)
どこでも プ ラ イ マ リーPCI
血栓溶解療法(時間依 存)図 8 参照
PCI センターへの転院 vs 救急部門血栓溶解療法+必 要時 PCI センターに転院
救急部門
(PCI 不可 能施設)
救 急 部 門 血 栓 溶 解 療 法
+必要時 PCI セ ン タ ー に 転院
PCI センターへの転院
救 急 部 門 血 栓 溶 解 療 法 + ルーチンに早期 CAG のため 転院 vs 血栓溶解療法施行 せずに PCI センターに転院
救急部門
(PCI 不可 能施設)
救 急 部 門 血 栓 溶 解 療 法
+ ル ー チ ン に PCI セン タ ー へ の 転 院
血栓溶解療法施行せず に PCI センターに転院
救急部門血栓溶解療法後の 早期 CAG のための転院 vs 必要時 PCI センターに転院
救急部門
(PCI 不可 能施設)
救 急 部 門 血 栓 溶 解 療 法
+ ル ー チ ン に PCI セン タ ー へ の 転 院
救急部門血栓溶解療法
+必要時 PCI センター
に転院
それぞれの地域ではこれらの研究で認められた同じ利益を提供できる安全な方法を実施す ることを推奨する。現在の医療資源とシステムで、どの方法が最善策かを検討することを提 案する。重要なことは、再灌流療法の適応と判断したら、診断後に可能な限り迅速に実施し なければならない。
病院前血栓溶解療法は長時間搬送を要する場合に有利である。搬送時間が短くなると、期 待される有益性は失われる。これらの有益性は、病院前血栓溶解療法の適用に必要な医療資 源と利用可能な代替治療法を比較考慮する必要がある。したがって、PCI が利用できるなら、
PCI 施設への搬送時間が、治療法の選択に重要な決め手となる。いくつかの系統的レビュー では、地域の医療資源かシステムかに基づいて血栓溶解療法か PCI かを選択することに焦点 が置かれている。
血栓溶解療法は未だ多くのシステムにおいて実施可能であるため、いくつかのレビューで は、ルーチンの CAG(適応があれば PCI も)をいつの時間帯に実施するかについて、血栓溶 解療法施行後に行うか、あるいは虚血がみられる時のみ救済的に PCI を実施するかについて 検討された。これらの選択は PCI が同じ施設で、あるいは転院搬送が必要かによっても変わ るかもしれない。
CoSTR 2010 では、STEMI への望まれる再灌流戦略として PCI を推奨したが、その利点は低 い再梗塞率を反映しており、PCI の実施が限られる場合や、遅れる状況(地理的、資源、時 間帯)では、血栓溶解療法を実施後に CAG を行うための早期転院搬送が理にかなった選択肢 かもしれない。PCI は、症例数の多い施設で経験ある術者によって実施されなければ、利点 は不確かとなる。患者の搬送は、十分な患者監視や心停止を含む合併症への対応が可能な、
良好に組織化された治療システムの中で行われるべきである。一つのレビューでは、発症早 期例と発症から時間が経過した例のエビデンスを要約し、発症からの時間に基づいて PCI か 血栓溶解療法かを具体的に述べている。勧告は PCI の遅れに対する治療体制を構築するため に利用される。別の問題として、発症早期例や発症から時間が経過した症例への対応につい て、このレビューは判断の手掛かりにもなる。これらの勧告では、特殊な患者における状況 を考慮する必要がある(性、年齢、併存疾患、梗塞部位)。血栓溶解療法の相対禁忌患者で再 灌流による利益が少ない場合には低リスクの治療法選択が有益となる。
PCI の研究では、血栓溶解療法の禁忌患者、心原性ショックを呈した高リスク患者、大腿 動脈穿刺が困難な患者は除外されている。血栓溶解療法が禁忌なために除外された患者や ショックの患者では一般的にプライマリーPCI が行われる。血栓溶解療法が相対的あるいは 絶対的に禁忌となる患者では、時間帯にかかわらずプライマリーPCI が必要になる。