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それぞれの地域ではこれらの研究で認められた同じ利益を提供できる安全な方法を実施す ることを推奨する。現在の医療資源とシステムで、どの方法が最善策かを検討することを提 案する。重要なことは、再灌流療法の適応と判断したら、診断後に可能な限り迅速に実施し なければならない。

病院前血栓溶解療法は長時間搬送を要する場合に有利である。搬送時間が短くなると、期 待される有益性は失われる。これらの有益性は、病院前血栓溶解療法の適用に必要な医療資 源と利用可能な代替治療法を比較考慮する必要がある。したがって、PCI が利用できるなら、

PCI 施設への搬送時間が、治療法の選択に重要な決め手となる。いくつかの系統的レビュー では、地域の医療資源かシステムかに基づいて血栓溶解療法か PCI かを選択することに焦点 が置かれている。

血栓溶解療法は未だ多くのシステムにおいて実施可能であるため、いくつかのレビューで は、ルーチンの CAG(適応があれば PCI も)をいつの時間帯に実施するかについて、血栓溶 解療法施行後に行うか、あるいは虚血がみられる時のみ救済的に PCI を実施するかについて 検討された。これらの選択は PCI が同じ施設で、あるいは転院搬送が必要かによっても変わ るかもしれない。

CoSTR 2010 では、STEMI への望まれる再灌流戦略として PCI を推奨したが、その利点は低 い再梗塞率を反映しており、PCI の実施が限られる場合や、遅れる状況(地理的、資源、時 間帯)では、血栓溶解療法を実施後に CAG を行うための早期転院搬送が理にかなった選択肢 かもしれない。PCI は、症例数の多い施設で経験ある術者によって実施されなければ、利点 は不確かとなる。患者の搬送は、十分な患者監視や心停止を含む合併症への対応が可能な、

良好に組織化された治療システムの中で行われるべきである。一つのレビューでは、発症早 期例と発症から時間が経過した例のエビデンスを要約し、発症からの時間に基づいて PCI か 血栓溶解療法かを具体的に述べている。勧告は PCI の遅れに対する治療体制を構築するため に利用される。別の問題として、発症早期例や発症から時間が経過した症例への対応につい て、このレビューは判断の手掛かりにもなる。これらの勧告では、特殊な患者における状況 を考慮する必要がある(性、年齢、併存疾患、梗塞部位)。血栓溶解療法の相対禁忌患者で再 灌流による利益が少ない場合には低リスクの治療法選択が有益となる。

PCI の研究では、血栓溶解療法の禁忌患者、心原性ショックを呈した高リスク患者、大腿 動脈穿刺が困難な患者は除外されている。血栓溶解療法が禁忌なために除外された患者や ショックの患者では一般的にプライマリーPCI が行われる。血栓溶解療法が相対的あるいは 絶対的に禁忌となる患者では、時間帯にかかわらずプライマリーPCI が必要になる。

I:病院前における血栓溶解療法 C:病院内での血栓溶解療法と比較

O:死亡、頭蓋内出血、重大出血、脳卒中、再梗塞

推奨と提案

STEMI 患者に対して血栓溶解療法を選択した際に、搬送時間が通常 30 分以上を要する場合 には、病院到着後の血栓溶解療法と比べて病院前での血栓溶解療法を推奨する。

そして、その病院前血栓溶解療法は医師の監視のもとに十分に確立されたプロトコール、

包括的なトレーニングプログラム、質の保証されたプログラムで育成された有資格者によっ て施行されるべきである(強い推奨、中等度のエビデンス)。

エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス

重大なアウトカムとしての生存退院について、3 件の RCT があり、531 名の患者において院 内血栓溶解療法と比較して病院前血栓溶解療法の利点が示されている(OR 0.46, 95%CI 0.23~0.93) (中等度のエビデンス:非常に深刻な不精確さによりグレードダウン)。

重大なアウトカムとしての頭蓋内出血については 2 件の RCT があり、438 名の患者におい て院内血栓溶解療法と比較して病院前血栓溶解療法の有害性がないことが示されている(OR 2.14, 95%CI 0.39~11.84) (低いエビデンス:バイアスのリスク、不精確さによりグレー ドダウン)。

重要なアウトカムとしての出血性合併症について、2 件の RCT があり、438 名の患者におい て院内血栓溶解療法と比較して病院前血栓溶解療法に有害性がないことが示されている(OR 0.96, 95%CI 0.40~2.32)(低いエビデンス:不精確さによりグレードダウン)。

その他のアウトカムとしての再血行再建、再梗塞、虚血性脳卒中については、RCT からの エビデンスは認められなかった。

推奨と提案

STEMI 患者に対して血栓溶解療法を選択した際に、搬送時間が通常 30 分以上を要する場合 には、病院到着後の血栓溶解療法と比べて病院前での血栓溶解療法を推奨する。

そして、その病院前血栓溶解療法は医師の監視のもとに十分に確立されたプロトコール、

包括的なトレーニングプログラム、質の保証されたプログラムで育成された有資格者によっ て施行されるべきである(強い推奨、中等度のエビデンス)。

患者にとっての価値と

ILCOR

の見解

この推奨の作成において、合併症の頻度や病院前血栓溶解療法プログラム実施に要する医 療資源よりも死亡率の低下を重視した。プライマリーPCI がより広く普及することで、PCI と 病院前血栓溶解療法の比較に影響を与えている。このトピックに関しては次の系統的なレ ビューを参照のこと。

このエビデンスの元となった 3 件の研究はすべて 20 年以上前に行われたのもので、これら の研究により死亡率に関する有益性が示されているので、更なる RCT が実施されることはな い。そこで、これらの初期研究を支持もしくは否定する最近の観察研究の有無を調査したと ころ過去 5 年間で 1 件の観察研究が確認された。この研究ではバイアスリスクが確認された。

しかし、その研究は過去の研究と同様の病院前血栓溶解療法の死亡率に関する有益性を示さ なかったが、有害性も示さなかった。

病院前血栓溶解療法が真に有利となるのは搬送時間が 30~60 分以上を要する場合である。

これらの RCT では病院前治療と病院後治療の時間差は 33~52 分であり、設定に相違が認め られた。病院までの搬送時間は 38~60 分であった。搬送時間が短縮することで血栓溶解療法 に期待された利点は失われることになる。

これらの研究におけるシステムは医師の監視のもとに施行された十分に確立されたプロト コール、包括的なトレーニングプログラム、質の保証されたプログラムを用いて血栓溶解薬 を投与する医師および病院前のプロフェッショナルを包括するものであった。

Knowledge Gaps

(今後の課題)

ILCOR においては病院前での血栓溶解療法を推奨しているものの、わが国では医師以外に よる血栓溶解薬の投与は認められていない。ドクターカー・ドクターヘリシステム下での、

病院前における血栓溶解療法の有用性のエビデンス蓄積が求められる。

図 6:病院前血栓溶解療法と院内血栓溶解療法の 30 日後死亡率の比較

CQ

STEMI

患者を救急隊が直接

PCI

可能施設へ搬送することと、病院前血栓

溶解療法を施行することではどちらが良いか?

P:院外における成人の STEMI が疑われる患者 I:PCI 施行可能施設への直接トリアージ・搬送 C:病院前血栓溶解療法

O:死亡、頭蓋内出血、重大出血

推奨と提案

PCI 施行可能施設が存在する場合あるいは PCI が可能である地域では PCI 施行可能施設へ の直接トリアージ・搬送を提案する(弱い推奨、低いエビデンス)。PCI は血栓溶解療法と比 較して死亡率に差が認められない(中等度のエビデンス)が、血栓溶解療法より有害事象が 少なかった(低いエビデンス)。

病院前血栓溶解療法 院内血栓溶解療法

エビデンスの評価に関する科学的コンセンサス

重大なアウトカムとしての 30 日後死亡率について、4 件の RCT があり、2,887 名の ST 上昇 型心筋梗塞患者において病院前血栓溶解療法と比較して、PCI 施行可能施設へのトリアージ・

搬送は有意差を認めなかった(OR 1.03, 95%CI 0.72~1.46) (中等度のエビデンス:不精確 さによりグレードダウン)。

重大なアウトカムとしての 1 年死亡率については 2 件の RCT があり、1,877 名の STEMI 患 者において病院前血栓溶解療法と比較して PCI 施行可能施設への直接トリアージ・搬送は有 意差を認めなかった(OR 0.88, 95%CI 0.60~1.27) (中等度のエビデンス:不精確さにより グレードダウン)。

重大なアウトカムとしての頭蓋内出血について、4 件の RCT があり、2,887 名の STEMI 患者 において病院前血栓溶解療法と比較して PCI 施行可能施設への直接トリアージ・搬送は、有 害事象が少ないことが示された(OR 0.21, 95%CI 0.05~0.84) (中等度のエビデンス:不精 確さによりグレードダウン)。

推奨と提案

PCI 施行可能施設が存在する場合あるいは PCI が可能である地域では PCI 施行可能施設へ の直接トリアージ・搬送を提案する(弱い推奨、低いエビデンス)。PCI は血栓溶解療法と 比較して死亡率に差が認められない(中等度のエビデンス)が、血栓溶解療法より有害事象 が少なかった(低いエビデンス)。

患者にとっての価値と

ILCOR

の見解

この推奨の作成において、生存率よりも有害事象の回避を重視した。

また、死亡率が両群間で差がないことから新たなる適応に対して PCI 施行施設を増やすこ とを推奨しない。一部の症例数の多い施設に患者を集約化することでより良い臨床成績を上 げることが認識されている。

Knowledge Gaps

(今後の課題)

ILCOR は PCI 施行可能施設がない地域においては PCI 施行可能施設への直接トリアージ・

搬送の代替治療として病院前血栓溶解療法を施行することを提案している。わが国では、医 師のみが血栓溶解療法を施行できるので、ドクターカー、ドクターヘリ等による場合に限ら れる。

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