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(1)

はじめに

H

暗黙の契約 一優越的地位の濫用が生ずるメカニズム

9 9 9 9 9 , '

9 9 9 9

̀ ,

〗論説-―

-999999999•99999999999-

9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9  

ホールドアップ

優越的地位の濫用の解釈と双方ロックイン 対等でない力の濫用について 暗黙の契約違反

﹁正常な商慣行﹂の解釈

第三章ロックイン及び公正競争阻害性について 第六章民法上の問題と優越的地位の濫用規制の意義

六 五 四 三 二

優越的地位の濫用規制について①

大 録 英

19-3•4-227 (香法 2000)

(2)

本稿は︑独占禁止法の不公正な取引方法の一般指定一四項の優越的地位の濫用規制とそれに関連した問題について

検討するものである︒

従来︑優越的地位の濫用規制は︑規模の格差を考えるにせよ︑取引依存度を考えるにせよ︑対等でない力の濫用を 考えている︒しかし︑このような考え方では︑力が対等でないようにみえることは世の中にいくらでもあり︑規制対

象が際限なく広がってしまうのではないか︑法的安定性を害するのではないかという疑問を生ずる︒

これは︑従来の考え方が︑対等な力による契約かどうかを問題としない民法の契約法の考え方とあまりにもかけ離

ロックインが行われた場合に暗黙の契約に違反することであるという考え

方を提ホする︒これは︑契約法と極めてなじみの強い考え方であり︑前述の疑問を解決することができると思われる︒

この考え方は︑民法の継続的取引の解消の問題にも応用することができ︑継続的取引に関する民法上の種々の問題

また︑本稿の分析は︑従来︑対等でない力による取引の規制と考えられてきた分野︑例えば︑労働法にも応用する

優越的地位の濫用規制は︑独占禁止法の体系でどう位置づけるのかが難しい規定であるとされてきた︒

優越的地位の濫用は︑契約の不完備性に関する問題であり︑契約の不完備性が情報の不完全性によると考えれば︑ ことができると思われる︒ の解決にも役立つと思われる︒ 本稿では︑優越的地位の濫用について︑ れているためである︒

(3)

優越的地位の濫用規制について(I)(大録)

デメリットがある︒ このようなことは不可能である︒ 情報の不完全性に関する市場の失敗の類塑に属すると位置づけることが可能であると思われる︒

優越的地位の濫用規制は︑従来︑事業規模格差あるいは取引依存度による対等でない力による抑圧︵力の濫用︶を

規制するものであると考えられてきた︒

弱者を保護しようとして取引に介入して規制すると︑弱者に対する需要︵場合によっては供給︶

弱者に不利益を与える︒例えば︑弱者が下請業者である中小企業であるとすると︑

が減

り︑

かえって

下請企業を保護しようとして取引 に介入して規制すれば︑下請企業に対する需要が減り︑下請企業特に相対的に最も弱い下請企業がかえって不利化す 当事者だけをみていると正しいと思われることが︑社会全体でみると正しくないことがある︒これを合成の誤謬と

上に述べたことは︑合成の誤謬の︱つの例になっている︒

従来の経済法の考え方では︑事業規模の格差であれ取引依存度であれ︑当事者の力が対等でない場合に︑優越的地

位の濫用はこれを矯正するものであると考えているが︑合成の誤謬により︑

当事者の力が対等でないという理由で取引に介入しても︑力の弱い方の取引条件を改善する効果はなく︑また︑完

備な契約や暗黙の契約による取引を阻害して経済効率性を阻害し︵資源配分を歪ませる︶︑介入の費用もかかるという

る ︒ 者に不利益を与えてしまう︒

しかし︑従来のような力の強い者が弱い者を抑圧すること 以下︑本稿について︑おおづかみに要約しよう︒

︵力の濫用︶を規制するという考え方では︑かえって弱

19~3-4~229 (香法2000)

(4)

れた場合のホールドアップ問題である

︵そ

のメ

カニ

ズム

は後

述︶

経済的弱者を救済しようとするのであれば︑取引に介入するのではなく︑補助金や税制上の優遇等の直接的な所得

移転のメカニズムによる必要がある︒

市場経済では︑力が対等でないという理由で取引に介入すべきではない︒

下請や流通等の事業者間取引に関する優越的地位の濫用についてみてみよう︒

筆者は︑優越的地位の濫用は︑下請や流通等の事業者間取引に関しては︑関係特殊的投資が行われた場合のホール

ドアップの規制であると考える︒

他に転用することが難しい関係特殊的投資を行う場合︑契約が不完備であり立証不可能であることから︑取引条件

の調整は関係特殊的投資が行われてから事後的に行われ︑当該投資の他への転用が困難であり取引相手を変えない場

合に価値を生ずることに乗じて︑取引相手が収益の一部を手に入れ︑これを予想して各主体が事前の行動を選択する

ため︑完備契約の場合︵最適な場合︶と比べると事前の関係特殊的投資が過小となる︒これが関係特殊的投資が行わ

このような場合︑関係特殊的投資が行われた後︑事後的に︑規制主体が介入してホールドアップでない状態︵契約

が完備とした場合の状態︶をつくろうとしても︑当事者よりも情報の少ない規制主体が行うことは不可能である︒

しかし︑現実には︑次のようなホールドアップの規制はある程度は可能であると考えられる︒

ホールドアップのおそれが高ければ︑こわくて関係特殊的投資を伴う取引が十分に行われない︒場合によっては関

係特殊的投資が行われず取引そのものが消滅してしまう︒現実には︑ホールドアップが起こらないように︑評判のメ

カニズムによる人質を担保として継続的取引の暗黙の契約による取引が行われる︒経済主体は︑これを信頼して関係

特殊的投資を行う︒しかし︑評判のメカニズムは万全でなく︑評判のメカニズムが有効に働かず暗黙の契約に反して

(5)

優 越 的 地 位 の 濫 用 規 制 に つ い て(1)(大録)

等の交渉力を持つとしても︑ホールドアップは起きる︒ 取引条件を変更するホールドアップが行われる可能性があり︑には︑ホールドアップは暗黙の契約に反して取引条件を不利に変更することが問題となり︑優越的地位の濫用規制は︑関係特殊的投資の後︑暗黙の契約に反して後から取引条件を変更することを規制すればよい︒

暗黙の契約が守られる場合は︑共同収益から関係特殊的投資を行った主体にその費用が渡され︑残りの共同利潤の 最大化に近づくように取引が行われ関係特殊的投資の最適に近い水準が実現される︒共同利潤は交渉力に応じて分配

される︒しかし︑暗黙の契約が破られ︑事後的に再交渉が行われるのであれば︑

を行った主体にその費用を渡さずに共同収益そのものが交渉力に応じて分配され︑

まう︒それは︑この場合︑関係特殊的投資をした主体はその費用を負担しているから一

00

%の交渉力を持ち共同収 益をすべて獲得しない限りホールドアップは起きるが︑関係特殊的投資は取引相手を変えない場合に価値を生ずるこ

に乗じて取引相手は必ず共同収益の一部を手に入れるから︑これが不可能であるためである

従来の対等でない力の濫用︵力による抑圧︶ その分関係特殊的投資を阻害する︒

という考え方は︑

したがって︑現実

共同収益のうちから関係特殊的投資

必ずホールドアップは発生してし

︵そ

のメ

カニ

ホールドアップについては次のような問題がある︒

関係特殊的投資が行われた後︑暗黙の芙約が破られ︑事後的に交渉が行われれば︑上述したように︑関係特殊的投

資をした主体が一

00

%の交渉力を持ち共同収益をすべて獲得しない限りホールドアップは起こるから︑当事者が対 したがって︑対等でない力の濫用︵力の抑圧︶を優越的地位の濫用規制によって規制し事後的に対等な力関係によ

る取引を実現することが仮にできたとしても︵現実には合成の誤謬により不可能である︶︑

しま

う︒

ズム

は後

述︶

︵ 人

質 ︶

ホールドアップは発生して

ホールドアップは事後的に当事者が対等な力を持っている場合と比較しているのではなく︑完備契約の場合

19-3•4-231 (香法2000)

(6)

る ︒ 筆

者は

の濫用規制はそもそもこれを目標とするものではない︒ ︵近似的には暗黙の契約が守られている場合︶と比較しているのである︒

暗黙の契約による取引は︑契約が完備である場合の状態︵当事者間のパレート最適︑事業者の場合は共同利潤の最

大化

に近い取引が行われる︒

優越的地位の濫用は︑暗黙の契約違反を規制して︑関係特殊的投資が減少するのを防止し︑暗黙の契約が守られて

いる状態に近づけようとするものである︒優越的地位の濫用規制で取引に介入し関係特殊的投資を行った主体の事後

的な交渉力を強めることは合成の誤謬により不可能である︒従来考えられてきたような対等でない力の濫用︵力によ

る抑圧︶を規制し対等な力関係による取引を実現しようとすることは合成の誤謬により不可能であるが︑優越的地位

一般指定一四項の﹁正常な商慣行﹂を現実の商慣行と考える︵厳密には︑﹁正常﹂という言葉を︑現実の商

慣行のうちから︑取引条件を暗黙の契約に反して変更するホールドアップの場合を除いたものと解する︶︒

現実の商慣行が暗黙の契約の内容になっていると事実上推定できるから︑優越的地位の濫用規制は︑簡単に言えば︑

典型的には︑現実の商慣行に反して取引条件を不利に変更することを規制するという常識的なものとなる︒

優越的地位の濫用規制は︑関係特殊的投資の後︑事業規模格差や取引依存度がどうであろうと︑暗黙の契約によっ

て取引が行われているなら規制する必要はなく︑暗黙の契約に反して後から取引条件を不利に変更する場合に規制す

る必要がある︒この場合︑民事訴訟による救済だけでは不十分で優越的地位の濫用規制のような公的介入が必要であ

従来のような対等でない力の濫用︵力による抑圧︶という考え方では︑完備な契約や暗黙の契約による取引を阻害

し経済効率性を阻害してしまうし︑合成の誤謬により︑弱者に対する需要を減らし︑かえって弱者に不利益を与えて

(7)

優越的地位の濫用規制について(1) (大録)

る︒優越的地位の濫用規制は関係特殊的投資が行われた場合のホールドアップを規制して関係特殊的投資を促進させ ようとするものであると考えると︑従来の取引依存度基準は適当でなく︑従来言われてきたような取引依存度が高か

ろうと低かろうと︑関係特殊的投資が行われたかどうかを問題にしなければならない︒

取引依存度を考える考え方の︱つに︑特定の相手との取引を市場と考え︑優越的地位の濫用の公正競争阻害性をこ

ことをしていないからロックインではなく︑ 優越的地位の濫用は︑

ま た

しまう︒また︑違反対象が事前にはっきりわからず法的安定性を害する︒優越的地位の濫用は︑下請や流通等の事業 者間取引に関しては︑関係特殊的投資が行われた場合の暗黙の契約違反を規制するものであるというように発想を切

近年︑優越的地位の濫用として取引依存度を基準にする考え方がよく議論される︒

取引依存度基準についても︑最も大きな問題点は対等でない力の濫用︵力による抑圧︶

これについては前に述べたので︑それ以外の問題点について説明しよう︒

を考えている点であるが︑

優越的地位の濫用として取引依存度を考える従来の考え方は︑当事者の一方だけのロックイン

ている︒しかし︑当事者の一方が関係特殊的投資をした場合︑当該主体だけでなく相手もロックインされるのであり︑

当事者の双方がロックインされる︒したがって当事者の一方だけがロックインされることに基礎を置いた従来の取引

依存度基準の議論は適当でない︒関係特殊的投資は双方ロックインが行われるから︑双方が互いに取引依存している︒

また︑従来の取引依存度基準で取引依存度が高く転換可能性がないと言われたことは︑ り換える必要がある︒

一方だけがロックインされているために生ずるのではなく︑契約の不完備性のために生ずる︒

よい取引先であるから取引 を強く望み取引が停止されるとよい取引先がなくなって困るということをいっているにすぎない︒これは不可逆的な

このことと︑関係特殊的投資が行われたかどうかは別のことであ

︵非

転換

性︶

を考え

19  3•4~233 (香法 2000)

(8)

により︑関

一定の取引分野︵市場︶

しかし︑関係特殊的投資の後の特定の相手との取引を市場にとると︑関係特殊的投資は必然的にロックインを伴い

他と取引するのが妨げられるから︑必ず︑この市場の競争減殺となってしまう︒したがって︑関係特殊的投資の後の

特定の相手との取引を市場としてその市場の競争減殺を問題とするのでは関係特殊的投資ができなくなる︒

さらに︑このように市場︵一定の取引分野︶をとると︑関係特殊的投資は必然的にロックインを伴い他と取引する

のが制限されるから︑必ずこの市場︵一定の取引分野︶

この

よう

に︑

での競争を実質的に制限し︑私的独占になってしまう︒

ロックインの後の特定の相手との取引を市場︵一定の取引分野︶ととると不都合を生ずる︒

ロックインを伴う取引の場合︑独占禁止法上は︑後述の事後的ロックインを別にすれば︑

は取引関係に入る意思決定の段階で考え︑競争制限性の問題はこの一定の取引分野︵市場︶

優越的地位の濫用は︑後述の事後的ロックインを別にすれば︑競争制限性の問題ではなく︑競争減殺と関係がない︒

関係特殊的投資の場合のホールドアップは︑契約の不完備性︵立証可能な契約を結ぶことができない︶

係特殊的投資がもたらす収益︵余剰︶は︑関係特殊的投資の後の事後的な交渉に基づいて分割され︑各主体はそれを

見越した上で事前の行動を選択するために︑事前の関係特殊的投資が過小になるという問題である︒契約が完備であ

れば︑ホールドアップは発生せず︑優越的地位の濫用は生じない︒優越的地位の濫用は︑契約の不完備性の問題であ

り︑契約の不完備性が情報の不完全性によると考えれば︑情報の不完全性による市場の失敗の類型に属する︒

優越的地位の濫用は︑顧客保護や消費者保護に使うことが期待される︒消費者保護は情報の非対称性が問題となる︒

ただし︑筆者は︑情報の非対称性があることを優越的地位と考えない︒それは︑このように考えると︑関係特殊的投

資が行われた場合の契約の不完備性によるホールドアップが説明できなくなるし︑

(2 ) 

の市場での競争減殺とする考え方がある︒

で考える必要がある︒

また︑不当表示のような欺眺的顧

}¥ 

(9)

優 越 的 地 位 の 濫 用 規 制 に つ い て(1)(大録)

号の競争者の取引妨害条項が一般条項であると考える︒ 客誘引も優越的地位の濫用に含まれて︑優越的地位の濫用規制の統一がとれなくなるからである︒優越的地位の濫用は︑非転換的なことをしたときに暗黙の契約を破ることによって生ずるホールドアップの問題と考え︑消費者保護の問題についても︑情報の非対称性によってこれが問題となる場合に限定した方が統一性が保たれる︒この場合も︑優越的地位の濫用は︑契約の不完備性の問題であり︑情報の不完備性による市場の失敗の類型である︒

本稿では︑情報の不完全性という言葉は︑情報の非対称性の場合も含むけれど︑

如のために契約がうまくつくれないような場合も含み︑契約の不完備性の原因を総称して使っている︒情報の不完全

従来は︑独占禁止法二条九項の取引上の地位の不当利用は︑優越的地位の濫用だけが含まれると考えられてきた︒

しかし︑独占禁止法二条九項五号の取引上の地位の不当利用は︑ それだけでなく︑将来の情報の欠

筆者は︑不公正な取引方法の公正競争阻害性を競争の不完全性に関する場合︵独占.寡占問題︶

に関する場合︵情報の不完全性による市場の失敗の規制︶に分類する︒

情報の不完全性による市場の失敗の規制には一般指定八項の欺邸的顧客誘引の規制︵情報の非対称性に関する規制

の一

っ︶

や一般指定一四項の優越的地位の濫用規制︵ホールドアップ規制︶等が含まれる︒

不公正な取引方法について︑競争の不完全性に関する場合︵独占・寡占問題︶も︑情報の不完全性に関する場合︵情

報の不完全性による市場の失敗の規制︶も︑独占禁止法二条九項五号の取引上の地位の不当利用条項及び二条九項六

情報の不完全による市場の失敗の場合についてみると︑今後特に一般条項としての役割が期待されるのが二条九項 に広い適用範囲を持つ規定であると考える︒ 性の方が情報の非対称性より広い概念である︒

と情報の不完全性 一般指定一四項の優越的地位の濫用よりも︑はるか

19-3•4-235 (香法2000)

(10)

( 2

)  

( 3 )  

( 4

)  

( 1

)  

これは︑契約がうまくつくれない 筆者は︑優越的地位の濫用規制について︑

一九九五年の﹁不当な廉売︑差別対価︑抱き合わせ販売の公正 吾緊の取引上の地位の不当利用条項である︒この条項に基づいて新たな一般指定や特殊指定を設ければ︑幅広い消費

このように考えれば︑情報の非対称性を優越的地位と考えるよりも︑優越的地位の濫用の統一性がとれ︑

ての

論文

であ

る︒

者保護が可能となろう︒

また︑情

報の不完全性による市場の失敗の行為類型を一般指定や特殊指定によって具体的に一っ︱つ明確化することができよ

(3 ) 

一九九一年に﹁ホールドアップ問題と優越的地位の濫用﹂を執筆した︒

︵契約の不完備性︶場合のホールドアップを優越的地位の濫用規制に適用した初め

また︑取引上の地位の不当利用規制について︑情報の不完全性による市場の失敗の規制の一般条項と把え︑消費者

保護に幅広く適用すべきであることを指摘したのは︑

競争阻害性について⑫﹂の論文のなかである︒

本稿は︑これらを整理発展させ︑規制の基準の明確化を図ろうとするものである︒

白石忠志﹁﹃取引上の地位の不当利用﹄規制と﹃市場﹄概念﹂法学︵東北大学︶

5 7 3

( l

)

の文献参照

拙稿﹁ホールドアップ問題と優越的地位の濫用﹂公正取引四八七︑四八八︑四九一︑四九二号一九九一年︒

拙稿﹁不当な廉売︑差別対価︑抱き合わせ販売の公正競争阻害性について⑬﹂公正取引五三六号一九九五年︒

1 0

 

(11)

優 越 的 地 位 の 濫 用 規 制 に つ い て(1)(大録)

ればならない︒

優越的地位の濫用規制を顧客保護や消費者保護に適用することは後で検討することにして︑

通等の事業者間取引に関する優越的地位の濫用について検討することにしよう︒

優越的地位の濫用規制は︑下請や流通等の事業者間取引に関しては︑関係特殊的な投資が行われた後︑事後的に︑

取引条件が暗黙の契約に反して不利となるように変更されることを排除することにより︑関係特殊的投資を行うイン

センティブを高め︑効率的な資源配分を実現するものであると考えられる︒

後述するように︑筆者は︑関係特殊的投資が行われた場合に︑暗黙の契約を破ること自体を優越的地位の濫用と考

える︒それは︑暗黙の契約を破り︑再交渉が行われれば︑必ずホールドアップを生ずるからである︒

本稿

では

しばらくは︑下請や流

わかりやすくするために︑優越的地位の濫用について︑筆者の考え方を下請や流通等の事業者間取引に

関しては関係特殊的投資が行われた場合の暗黙の契約違反と捉えるとし︑従来の考え方を対等でない力の濫用︵抑圧︶

従来の優越的地位の濫用の考え方は︑事業格差や取引依存度による対等でない力の濫用︵抑圧︶を規制しようとし

ている︒しかし︑このような考え方では︑合成の誤謬によりかえって弱者の不利益を与えるし︑

暗黙の契約による取引を阻害し︑経済効率性を阻害してしまう︒特に︑暗黙の契約による取引を阻害することが多い︒

優越的地位の濫用は︑関係特殊的投資の後︑暗黙の契約に反して取引条件が不利に変更されることを問題にしなけ

と捉えると説明することにしよう︒

第︳章

暗黙の契約とホールドアップ

また︑完備な契約や

19-3•4-237 (香法2000)

(12)

して偏在している場合である︒ 情報の非対称性には二つのタイプがある︒ 契約の不完備性

契約にすべての条件を書くことができ︑

との情報の非対称性がある場合である︒ 本章では︑この考え方の基礎となる暗黙の契約について検討することとしたい︒

にそれを示 かつ︑後で実行させることができるような裁判所による強制力のある芙約

を完備契約

( c

o m

p l

e t

c o e

n t r a

c t )

という︒これに対し︑立証不可能性により裁判所による強制力がない場合や︑不確実

性が多く︑すべての状態を書けない契約を不完備契約

( i

n c

o m

p l

e t

e c o

n t r a

c t )

とい

う︒

不完備契約は︑契約の内容が完全には特定されず︑再交渉の余地を残したものとなろう︒この場合に︑契約に不完

理由の一っは︑情報の非対称性による立証不可能性がある場合である︒これは︑当事者間の情報の非対称性のため︑

うまく契約を作れないか︑あるいは︑取引主体間では情報の非対称性がなくとも第三者︵例えば裁判所︶

すことができないケースである︒後者は第三者︵例えば栽判所︶

このとき︑売手が高品質であるといっても買手が信用してくれないから︑市場に低品質のものばかりが出回る逆選

択が生ずる︵これを﹁レモン﹂の問題という︶︒逆選択は品質について完備な契約がつくれないことから生ずる︒

もう︱つは経済行動自体が私的情報として偏在している場合である︒ 契約に不完備性がある場合︑ 備性があるという︒

︱つは取引の対象である商品の品質・内容等に関する情報が私的情報と つまり︑契約をうまく作れないのは︑二つの理由がある︒ まず︑契約の不完備性について説明しよう︒

(13)

優 越 的 地 位 の 濫 用 規 制 に つ い て(1)(大録)

関係特殊的投資と契約の不完備性

関係特殊的投資

( r e l a t i o n s h i p ‑ s p e c i f i c i n v e s t i m e n t

) は︑現在の取引相手と将来行うであろう取引から得られる価値 契約の不完備性は極めて広範囲に発生する︒ くの場合︑極めて難しい︒ この例がモラルハザードである︒モラルハザードは︑ある人の行動が別の人にわからないという通信的不確実性と︑

経済主体の意思と関係のない不確実性︵環境的不確実性︶とがあるときに両者を区別できないことを利用して行われ

る現象である︒モラルハザードは︑もともと保険の限界として議論されたものである︒保険は本来環境的不確実性︵リ

に対して設定されるものである︒しかし︑例えば︑盗難保険に入ると︑加入者は安心して注意を怠る︒そのた

め盗難件数が増大し︑保険料が上がってしまい︑保険が成立しないこともあるという問題である︒これは︑盗難は努

力を怠ったために生じたのか外部的な理由で生じたのかを判断できないために生ずる問題である︒

例えば︑努力をするというような条項を契約に入れても︑外見による証拠だけでは︑モラルハザードを生ずるから︑

モラルハザードは努力について完備契約をつくれないことから生ずる︒

︵契

約の

不完

備性

理由の二つ目は︑将来情報の欠如である︒これは将来生じうる状況の

可能性があまりに多く複雑なために︑契約を作ることができないか︑

また

は︑

たとえ︑契約が可能であっても契約を

上の二つの理由により︑取引される財・サービスの質的側面を明確に指定する契約を作成し︑実行することは︑多

的確に実行することが困難である場合である︒ 契約がうまくつくれない 的確に実行することはできない︒ ス

ク ︶

19-3•4-239 (香法2000)

(14)

書くのが困難であるという問題である︒ 難であろう︒努力水準を指定する契約は︑ ︵あるいは余剰︶を︑他の相手との価値よりも高めるような投資のことであり︑社会的にみて有用な投資である︒これは︑簡単に言えば︑他に転用が難しく特定の相手にしか通用しない投資である︒

このような投資は︑当事者の一方が行っても︑当事者の双方が転換可能性が難しくなり︑双方がロックインされる︒

なぜなら︑関係特殊的投資は双方に有用であり︑いずれの当事者も︑取引相手を変更すれば︑収益が小さくなるから

である︒この点は︑従来の経済法学説や公正取引委員会のガイドラインは誤解しており︑

関係特殊的投資を伴うような取引は︑一回限りの取引を別々の相手と繰り返し行うよりも︑特定の相手と長期的な

取引を行った方が取引主体双方にとって有利である︒

関係特殊的投資を伴う取引を事前に契約で書こうとすると次のような困難がある︒

︱つ目は︑裁判所のような第三者に立証するのが難しいという問題である︒

例えば︑下請会社が親会社向けの設備や人的投資をする場合︑親会社向けに適した工程を考え出す努力や緊急事態

に対して対処する仕方を学ぶというようなことは関係特殊的投資に含まれるが︑努力水準を裁判所に立証するのは困

モラルハザードを生じ︑裁判所のような第三者に判断することができず︑

たとえ作成されても実行されないだろう︒したがって関係特殊的投資の水準を契約で決めることは難しい︒

二つ目は︑将来情報の欠如であり︑長期の取引については︑不確実性が大きいため︑すべての事態を予想し契約に

将来の状況がよくわからなければ︑ある程度取引の状況が明らかになってから部品の仕様の細部や取引条件を決定 したがって関係特殊的投資を伴う取引は長期的なものとなる︒ ると考えている︒

一方だけがロックインされ

一 四

(15)

優 越 的 地 位 の 濫 用 規 制 に つ い て(1)(大録)

ある

I

暗黙の契約

本項

で︑

これについて説明しよう︒

一 五

であっても︑当事者同士では観察可能である

が問題となり︑ 暗黙の契約について

した方が効率的である︒実際関係特殊的投資が行われる場合︑取引が開始される段階では︑細かい仕様︑

発注量︑価 また︑当事者が将来の状態に関する見通しが異なる場合は︑契約内容に関する合意の形成も難しくなるだろう︒

以上のような理由のために︑関係特殊的投資を伴う取引は︑契約が不完備になることが考えられる︒

契約が不完備の場合︑

て説明しよう︒

どのようにして︑質のよい財・サービスを取引するか︑あるいは︑

これを解決するための工夫の一っとして︑人質による継続的取引の暗黙の契約があげられる︒

契約に裁判所による強制力を持たせるためには︑裁判所のような第三者による検証可能性︵立証可能性︶

これは第三者に観察可能かどうかということである︒

しかしながら︑裁判所のような第三者には観察不可能︵立証不可能︶

場合がある︒このような場合には完備な契約は結ぶことはできないが︑継続的取引を行って完備な契約に近いことを 行うことができる︒これが人質を担保とした暗黙の契約

( i m p l i c i t c o n t r a c t )

であ

る︒

まず︑品質のよい商品を取引するために︑信用が重要な意味を持ち︑暗黙の契約による取引が行われる場合につい

品質について︑裁判所の検証可能性がなく完備な契約がつくれない場合を考えよう︒ 格は未決定で︑これらは後から決められることが多く︑

ホールドアップを防ぐか

が必要で 一度決めた価格を後から事後調整することもよく行われる︒

19-3•4-241 (香法2000)

(16)

投資の費用は︑これで回収できる︒信用は資産である︒ 買手が品質がよくわからないという情報の非対称性があれば︑することが行われる︒これが横行すると︑当事者が高品質の商品を取引したくとも︑買手が高品質であることを信じてくれず︑市場には低品質のものばかりが出回る逆選択︵﹁レモン﹂の問題︶が生ずる︒逆選択の現象は︑買手が品質がよくわからないという情報の非対称性のために完備な契約がつくれず︑市場が機能不全に陥ることを示している︒

しかし︑取引が繰り返されると状況が変わってくる︒この状況では︑信用が重要な意味を持つ︒

情報の非対称性がある場合︑ある経済主体が将来期待できる利益の大きさは︑評判の大きさに依存する︒情報の非

対称性があるような財やサービスを購入するとき︑購入者は他の人の評判や自分の経験を参考にして決定するだろう︒

このような評判は︑売手が過去にどのような財やサービスを提供したのかに依存しているので︑評判を下げることの

不利益が大きいときには︑短期的な利益を得るためにあえて評判を下げようとはしないだろう︒

売手が品質の低い商品を高いと偽って販売したことを買手が観察したときには︑評判のメカニズムにより︑信用を 失い︑将来の利益が得られなくなれば︑売手が偽って販売することが抑止される︒信用を維持できれば継続的な利益

一度大きな短期的な利益を得るために︑相手を冷遇し信用に傷をつけてしまうと︑その

を得続ける方が利益が大きいならば︑信用という目に見えない財産を守るために短期的なインセンティブを抑え︑相

(2 )

3

) 

手を厚遇するというインセンティブを持つことになる︒

高い信用が得られれば︑売手は高い価格を設定でき︑将来得られる利益が大きくなる︒良い信用を確立するための

このようにして︑品質の高い商品を取引することが可能となる︒これは暗黙の契約の一例である︒ 後継続的な利益を得続けることはできなくなってしまう︒一度大きな短期的な利益を得ることよりも︑継続的な利益 を得続けることができるが︑ 一回限りの取引では︑低品質を高品質と偽って販売

一 六

(17)

優越的地位の濫用規制について (1)(大録)

次に︑人質を担保とした暗黙の喫約によって努力に関する取引が行われることについて説明しよう︒

前述したように︑努力に関しては裁判所の検証可能性がなく︑

しかし︑努力は継続的取引によって当事者間では観察可能となる︒

労働者や下請会社の努力を評価したくとも︑業績の結果は︑努力によるのか外部的な理由によるかはわからない︒

しかしながら︑ある属性︵努力︶を直接観察できなくとも継続的取引を行い属性︵努力︶

を繰り返し観察することで︑属性︵努力︶

を観察することが可能となる︒結果だけを見ていると︑短期的には業績が 悪い場合怠けていたのか外部的な要因によるのかわからなくとも︑長期的にみれば怠けていたかどうかがわかる︒こ のように継続的取引を行うと情報の非対称性が改善され観察可能となりモラルハザードが改善できる︒このような場

合︑継続的取引が当事者間で観察可能にしている︒継続的取引における労働者の昇進制度や下請会社の評価制度は︑

努力が裁判所による検証可能性がなく完備契約によって取引できなくとも︑当事者間で観察可能となれば︑人質を

担保とした暗黙の契約によって取引が可能となる︒

例えば︑労働者がどのくらいまじめに働いたかが第三者︵裁判所︶

はわかる場合を考えよう︒このように︑当事者間で観察可能であるときには︑継続的取引を行い︑市場より高い賃金 を支払い︑怠けたことが観察されたときには︑取引を停止することにすれば︑労働者に継続的取引のメリットがある

から︑怠けることを抑止することとなる︒これは暗黙の契約である︒

上の例では︑労働者に怠けないインセンティブを与えることが重要であるために︑市場より高い賃金を支払い労働 このようなものとして理解することができる︒ の

が難

しい

一 七

と確率的に結びついた結果 による検証可能性はないが︑経営者や労働者に

モラルハザードのため完備契約によっては取引する

19-3•4-243 (香法2000)

(18)

( 1

)  

暗黙の契約は次の文献参照︒

市場より高い賃金を支払わなくとも︑年功賃金や退職金のように賃金形態を工夫できれば︑この目的のために使う 年功賃金や退職金は長く勤める程有利となり中途でやめると不利となる︒年功賃金や退職金によって継続的取引の

メリットをつくり︑労働者が怠けていたことが観察されたときには︑取引を停止する

働者が怠けることを抑止することができる︒これも暗黙の契約である︒

主体間の結びつきの強さということについて考えるうえで有益な概念として︑クライン11

クロウフォード

11アルチ

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は﹁取引停止により失われる準レント﹂

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を提

案し

た︒

これは︑相手から取引を停止されたとき得られなくなる準レントであり︑現在の取引相手と取引を継続するときの利

益と彼との取引を停止して他者との取引をするときの利益との差として定義される︒

相手を裏切ったため取引停止をされることにより失われる準レントのなかには人為的に作られるものもある︒これ

は﹁人質﹂と呼ばれる︒人質をうまく作れば︑取引停止により失われる準レントを大きくすることができる︒ただし︑

本稿では簡単のため準レントを広く人質ということにしよう︒

前述の例では︑信用による利益︑市場より高い賃金︑退職金や年功賃金が人質︵準レント︶になっている︒このよ

うに︑暗黙の契約が行われるためには人質︵準レント︶

︵準

レン

ト︶

として機能する︒

こと

がで

きる

者が継続的取引から受ける利益を大きくしている︒

が必要である︒また︑後述のように︑関係特殊的投資も人質

︵解雇する︶ことにすれば︑労

一 八

(19)

優 越 的 地 位 の 濫 用 規 制 に つ い て(1)(大録)

約により取引が行われる必要がある︒ 関係特殊的投資が行われる場合には︑ホールドアップを起こさないように︑

一 九

両当事者が人質を出し合って暗黙の契

まず

関係特殊的投資についてみてみよう︒ 双方向の人質によって︑暗黙の契約によって取引が行われる︒ 事業者間の取引では︑

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単に取引が繰り返されても有限回の取引ではパレート最適に近い状態にならず︑品質情報の不完全性の問題は解決されない︒有限 回では︑最終回で粗悪品を良質品と偽って売ったりする誘因が強くなる︒これを前提として各期の戦略を考えると結局一回限りのゲ ームと同じことになってしまう︒しかし︑評判のメカニズムが働ければ︑特定の取引先とは取引が有限回であっても︑無限回反覆ゲ ームと同じ効果を持ち︑将来の取引ができないことにより失われる準レントが大きくなって取引先とのパレート最適に近い状態が

実現でき︑品質情報の不完全性の問題が解決できる︒

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297326. 

双方向の人質

協調関係を維持し︑

関係特殊的投資を伴う取引は前述のように完備な契約がつくれない︒

関係特殊的投資をする者だけが人質を出していたのではホールドアップされる

一方の行動が他方に影響を及ぼすのは︑

一方

向で

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く︑

双方向であることが多い︒そこで︑

19-3•4-245 (香法 2000)

(20)

判のメカニズムによる人質︵準レント︶

を担保として︑

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例えば︑下請部品メーカーは︑関係特殊的投資を行い︑人質をとられており︑

っている︒下請部品メーカーが供給する部品は︑多くの場合︑親会社のために特別に仕様されたものであり︑

産のための設備は他に転用がきかない︒親会社を裏切ったため親会社との関係を打ち切られれば︑

なってしまう︒継続的取引により︑下請部品メーカーには様々の情報や技術が蓄積されるが︑

しかし︑下請企業の人質︵準レント︶

親会社も︑人質︵準レント︶を下請業者に供出している︒特定の部品を親会社の生産計画に従って供給するために

は︑下請部品メーカーに蓄積された投資と経験︵関係特殊的投資︶

を防ぐ準レント

が大きくなる程︑下請企業が親会社のホールドアップに会う可能性も大きく

このような人質︵準レント︶

︵ 人

質 ︶

なる

きかなければ人質となる︒ おそれがあるから︑

それが協調的な行動をとる誘因とな

が必要であり︑親会社が他と取引するのが妨げら

はホールドアップを防ぐためには小さすぎる︒ こわくて︑関係特殊的投資をしないだろう︒

それらも他への転用が

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ホールドアップ

として親会社を縛っているのは︑評判のメカニズムである︒親会社は︑多くの下請業者と取 引をしているが︑もしそのうちの︱つの下請業者の信頼を裏切るような行為に出れば︑他の下請業者は︑自分が裏切

られることを想定して対応し︑関係特殊的投資をしなくなり︑結局すべての下請業者との継続的取引が円滑にいかな

くなる︒関係特殊的投資が行われた場合暗黙の契約が守られ円滑に機能している継続的取引では︑

会社に信じてもらうことが必要となり︑下請会社は︑これを信頼して関係特殊的投資を行う︒ このような双方向

の関係があり︑人質をたてに一方が他方を搾取しないようにして取引を円滑にしていると考えられる︒親会社は︑評

ホールドアップをせずに暗黙の契約を守るということを下請 この設備が無駄に 二

0

(21)

優越的地位の濫用規制について(1)(大録)

て円滑に交渉していくことが可能となる︒ 継続的取引で多面的取引が多いのは︑情報の非対称性の改善の活用という面がある︒

て双方向に人質︵準レント︶

に伴う準レント︶ れ

る︒

また人質︵準レント︶を大きく

しているという面もある︒ある取引で裏切ることで他の取引もうまく行かなくなれば︑人質︵準レント︶全体が失わ 下請や流通等の企業間の継続的取引では︑詳細な契約を結ぶ必要はない︒その代わりに︑評判のメカニズムも含め

が提供され︑相手を裏切れば取引が停止され人質︵準レント︶を失うという担保のもと

で暗黙の契約が行われ︑情報の非対称性を改善し︑事態の進行を見ながらその都度話し合って取引条件を決めていき︑

複雑な取引関係を維持する︒取引当事者の双方が短期的な機会主義的行動による利益よりも長期的な利益︵取引停止

の方が大きく︑相手が機会主義的行動をとらないという信頼が存在していれば︑継続的取引におい

これがモラルハザードを防止する︒ い

︒例

えば

相手の努力は短期的には結果はほかの要因によるかどうかわからないが長期的に取引を行えばわかる︒ 下請や流通等の事業者間取引では︑双方向の人質が提供され︑

ホールドアップを防止するとともに︑人質を担保と

した暗黙の喫約によって︑完備な契約では取引することのできないようなさまざまな財・サービスの取引が行われる︒

︱つは︑情報の共有によるコーディネーションの円滑化であ

る︒例えば︑下請関係では︑部品がタイミングよく納入されるジャストインタイムの生産方法や︑部品の品質改良︑

新製品による部品の仕様の変更等で︑親会社と下請部品メーカーとの連携プレーのために︑両者の間で継続的取引に よる情報の蓄積は重要な意味を持つ︒もう︱つは︑継続的取引によって観察可能になることである︒暗黙の契約は当 事者間で観察可能なことについて行われる︒継続的取引によって情報の非対称性を改善し︑観察可能となることは多

継続的取引は当事者間の情報の非対称性を改善する︒

19-3•4-247 (香法2000)

(22)

(三)

( 6 )  

このような継続的取引においても︑取引は合意によって行われていく︒しかし︑

士がわかっているだけでよく︵当事者間では観察可能である必要がある︶︑第三者︵例えば裁判所︶にわかるように︵例

する必要がない暗黙の契約である︒暗黙の契約は︑私法的救済を担保にしていない合意であり︑第三者

による検証︵観察︶可能性をあてにしていない合意である︒

ここで述べたことは使用者と労働者との取引についても当てはまる︒

このことをゲームの理論では次のように説明する︒

非協カゲームでは︑パレート最適︵これ以上すべての人を同時に改善することができない状態︶は達成されない︒囚人のジレンマ

はその代表的な例である︒しかし︑このような事態が生ずるのは︑ゲームを一回限りとしているからである︒繰り返しゲームでは︑

パレート最適に近づく可能性がある︒繰り返しゲームの戦略として引き金戦略

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は︑初回には協調を選択し︑その後は︑相手が協調的に行動すれば協調を選ぶが︑相手がいったん非協調を選択すると︑以降はずっ

と非協調を選択するという行動様式である︒非協調による一時的な利益よりも協調による将来の利益の方が大きければ︑相手が引き

金戦略をとる限り︑自分も引き金戦略をとることが有利となる︒このことによって︑繰り返しゲームでは︑囚人のジレンマが解消さ

れ協調が生まれる︒

上の分析は︑事業者間の継続的取引がもつ協調への誘因に応用することができる︒現在裏切ることの利益よりも︑それによって失

う将来の利益の方が大きければ︑各経済主体は裏切りをしないで︑協調的に行動するだろう︒

丸山雅祥・成生達彦現代のミクロ経済学│情報とゲームの応用ミクロ第八章

なお

︑ 自己拘束性

完備契約による取引は︑私法的救済を担保として︑参加当事者をパレート最適にするように行われるが︑継続的取 ︵

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判所

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創文社

この合意は︑その内容を当事者同

(23)

優 越 的 地 位 の 濫 用 規 制 に つ い て(1)(大録)

能しなくなる︒このことは︑後で詳しく検討しよう︒ 的な利益よりも大きければ︑自己拘束的となる︒ され 引の暗黙の契約による取引は︑取引停止に伴う人質︵準レント︶を担保にして︑参加当事者をパレート最適に近づけ

これをゲームの理論では次のように説明する︒裁判所のような外部の者によって契約の拘束力が担保されている場 合を協カゲームといい︑このような拘束力のある契約によって当事者間でパレート最適な取引が行われる︒これに対 して︑取引当事者のインセンティブだけに基づく場合を非協カゲームといい︑継続的取引が行われ取引停止に伴う準 レントが大きければ︑裁判所のような第三者の介入なしに︑取引当事者のインセンティブだけで︑暗黙の契約が遵守

︵自己拘束的という︶︑当事者間でパレート最適に近い取引が行われる︒

暗黙の契約は︑

円滑な取引関係を継続することによって得られる長期的利益が︑暗黙の契約を破って得られる一時

暗黙の契約は︑当事者同士が知っていればよく︵観察可能である必要がある︶︑裁判所のような第三者にわからせる

必要はない︒暗黙の契約が有効に機能するためには︑継続的取引による長期的メリットが十分大きいことが必要であ

る︒これが十分大きければ︑裁判所による強制力が無くとも︑暗黙の契約を守らせることができる︒

重要なことは︑暗黙の契約が機能するためには︑

上記のような継続的取引の正常な取引停止を裁判所が法律違反と してはならないということである︒裁判所が継続的取引の正常な取引停止を法に違反するとすれば︑暗黙の契約は機 なお︑契約の不完備性がある場合︑ある程度は裁判で立証することができたとしても︑情報の非対称性や将来情報

の欠如のような情報の不完全性が強く契約の不完備性が強い程︑裁判が難しく裁判の費用︵時間的費用や金銭的費用︶

がかかるだろう︒

したがって︑ある程度は裁判で立証することが可能であっても裁判の費用を節約するために人質を

るように行われる︒

19  3•4 249 (香法 2000)

参照

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