博 士 （ 工 学 ） 渋 谷 昌 彦
学 位 論 文 題 名
高 速 デ ィ ー ゼ ル 機 関 に お け る 燃 焼 お よ び排 気 特 性 の 燃 料 性 状 依 存 性 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
デ ィーゼ ル機関 は，そ の優 れた経 済性， 出力特 性，耐 久性 等のた め，動 力源と して極めて広範 囲に また 数多く 利用さ れてい るが， 近年 とくに 都市部 におけ る物 流の拡 大にと もなうディ―ゼル 機関 の需 要増加 とも相 まって ，環境 保全 の観点 から， その排 気工 ミッシ ョンを 更に低減すること が社 会的 要求と して強 く求め られて いる 。
こ れに対 する対 応とし て， 従来か ら機関 におけ る燃焼 系の 改善あ るいは 排気処 理システム等の 研究 開発 が多く されて 来てい るが， 一方 燃料側 からの 排気工 ミッ ション 低減に 対するアプローチ も非 常に 重要で あって ，国内 外にお いて 各種燃 料およ びその 燃焼 に関す る研究 の進展に大きな期 待が 寄せ られて いる。
本 研究は このよ うな背 景を 踏まえ て，と くに高 速ディ ―ゼ ル機関 の燃焼 および 排気工ミッショ ン に 対 する 燃 料 性 状 依存 性 に 関 して系 統的な 解明を 行う と共に ，燃料 性状の 点か ら排気 工ミッ ショ ンの 低減に 対する 知見を 得よう とす るもの である 。
本 論文は6章 から構 成され ている 。
第1章 で は，研 究の 目的， 社会的 背景， およ び得ら れた結 果の概 要を示 すと ともに ，ディ ーゼ ル 機 関 の燃 焼 お よ び 排気 工 ミ ッ シ ョ ンと 燃 料 性 状 に関 す る 研 究 の動 向 に っ いて 述べて いる。
第2章 で は，本 研究 で使用 した各 種の炭 化水 素燃料 ，実験 装置お よび測 定装 置にっ いて説 明す ると 同時 に，主 ナょ実 験方法 にっい ても 記述し ている 。
第3章か ら第5章ま でが 本論文 の中核 であり ，． 得られ た実験 結果お よびそ の解 析結果にっいて 論述 して いる。
第3章 で は，通 常の 石油系 燃料に おける 個々 の主要 な燃料 性状と ディー ゼル 機関の 定常運 転時 にお ける 燃焼・ 排気特 性との 関係に っい て系統的な検討と解明を行っている。すナょわち，燃料の 動粘 度， 着火性 ，芳香 族含有 割合お よび 硫黄含有割合の各々の性状因子が，燃焼および排気工ミッ シ ョ ン に与 え る 影 響 をそ れ ぞ れ 独 立 に解 明 す る と 同時 に， とくに 排気 黒煙お よびNOxに対 して
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は三っ の燃料 性状 因子， っまり ，着火 遅れ ，動粘 度，芳 香族含 有割合 を変 数とと した一次結合回 帰式に よって それ らの排 出濃度 を概ね 記述 し得る ことを 立証し ，併せ て排 気エミ ッションの低減 に必要 な燃焼 性状 上の知 見を提 示して いる 。なお ，その 知見に 基づき ，排 気工ミ ッションの改善 に向け て性状 の適 合化を 施した 石油系 燃料 を試作 するこ とによ り，燃 料に よる排 気工ミッション の低減 効果を 実証 してい る。
第4章 で は， 各種の 単組成 炭化水 素を 広範囲 かっ系 統的に 混合し た燃 料を用 いるこ とによ り，
燃料中 のとく に芳 香族成 分に注 目して ，そ の具体 的な分 子構造 が機関 定常 運転時 の燃焼・排気特 性に及 ぼす影 響に っいて 究明し ている 。す なわち ，一環 あるい は二環 を有 する芳 香族系炭化水素 とそれ らに物 理的 性状が 類似し ている パラ フアン 系炭化 水素と の混合 燃料 を使用 し，芳香族系炭 化水素 の分子 構造 と燃焼 ・排気 特性と の関 係にっ いて検 討を行 った。
その 結果， 排気黒 煙濃度 と芳香 族成 分との 関連に っいて は， 一環の べンゼ ン芳香 族系炭化水素 におけ るアル キル 基の位 置およ び数な どの 分子構 造の如 何に依 らず， 燃料 中の芳 香族含有割合と 言 うよ り は む し ろC／H原 子 比が 黒 煙濃 度を決 定する 支配因 子にな り得 ること ，更に 二環ま でを 有 する 芳 香 族 系 炭化 水 素 で の 黒煙 濃度 に対す る支 配因子 も，ベ ンゼン 核の 環数よ りもC／H原子 比 に概 ね 集 約 さ れる こ と 等 を 明ら かに してい る。 一方，NOx濃 度と芳 香族成 分の 関係tま， 燃料 中 の芳 香 族 系 炭 化水 素 の 分 子 構造 に直 接依存 する のでは なく， その単 位体 積当た りの発 熱量に よって 説明さ れ得 ること を論述 してい る。
第5章 で は， 前章ま でに述 べた機 関の 定常運 転時に おける 排気特 性に 代わっ て，過 渡運転 時と くに加 速運転 時で の排気 特性に 対する 燃料 性状の 影響に っいて 時系列 的な 解析を 行っている。ま ず，加 速運転 時で の排気 をサイ クルオ ーダ で採取 するた めの排 気採取 シス テムを 試作・構築する ことに よって ，加 速時の 基本的 な排気 特性 を把握すると同時に，各種燃料性状に対する排気工ミッ ション を時系 列的 に測定 ・解析 するこ とに 成功し ている 。
そ の 結 果 ，加 速 開 始 後 に おけ る 排 気 黒 煙，C0，CO： ， および0： の濃度 は， いずれ の燃焼 性 状 にお い て も 加 速開 始 直 後 か らほ ぼ 一 定 の 定常 値 と し て推 移す るのに 対し，NOxお よび未 燃炭 化 水素THCの濃 度 は 過 渡 的な 推 移 を 経 過 して 定 常 値 に 収束 してお り， その場 合の過 渡的な 推移 特 性は 経 過 サ イ クル 数 の 指 数 関数 に よ っ て 概ね 記 述 で き る こと を 明 ら か にし て いる。 更に，
NOxあ る い はTHC濃 度 の 推 移 特 性 に っ い て ， 燃焼 性 状 の 影 響 を最 も 大 き く 受け る の は 加 速開 始直後 である こと ，その 際のガ ス濃度 は， 燃料の 蒸留特 性，動 粘度， およ び着火 性などの物理的 性状に 依存し ，芳 香族成 分など の燃料 分子 構造そ れ自体 にはほ とんど 左右 されな いこと，ならび に定常 運転時 の排 気濃度 に影響 を与え ない 燃料性 状であ っても ，加速 時の 排気濃 度に影響を与え
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る場 合があ るこ と等を 見出し ている 。
第6章は 結論 であっ て，こ こでは 本研究 の結 果を総括して記述している。
学位論文審査の要旨
ディー ゼル機 関は ，その 優れた 出力特 性のた め動 力源と して広 範な分 野において利用されてい るが， 近年そ の排気 エミッ ショ ンある いは燃 焼の改 善に 対する 社会的 要望が一層強くなる状況に ある。
本論文 は，高 速デ ィーゼ ル機関 の燃焼 および 排気 工ミッ ション に対す る燃料性状依存性に関し て系統 的な解 明を行 うと同 時に ，燃料 性状の 点から 排気 工ミッ ション の低滅に対する有益な知見 を提示 したも のであ って，6章 から構 成さ れてい る。
第1章 で は ， 研 究 の 目 的 ， 社 会 的 背 景 ， お よ び 得 ら れ た 結 果 の 概 要 を 述 べ て い る 。 第2章に おいて は，本 研究で 使用し た各 種の炭 化水素 燃料， 実験 装置お よび測 定装置 にっい て 説明す ると同 時に， 主な実 験方 法にっ いても 記述し てい る。
第3章 から 第5章 ま でが 本論 の中核 であり ，得ら れた実 験結 果およ びその 解析結 果に っいて 論 述して いる。
第3章で は，通 常の石 油系燃 料にお ける 面々の 主要な 燃料性 状と ディー ゼル機 関の定 常運転 時 におけ る燃焼 ・排気 特性と の関 係にっ いて系 統的な 検討 と解明 を行っ ている。すなわち，燃料の 動粘度 ，着火 性，芳 香族含 有割 合および硫黄含有割合の各々の性状因子が，燃料および排気工ミッ ショ ン に 与 え る影 響 を それ ぞれ独 立に解 明す をとi司時 に，と くに排 気黒煙 およびNOxに対し て は三っ の燃料 性状因 子，一 ま り，着 火遅れ ，勤粘 度芳 香族含 有割合 を変数とした一次結合回帰 式によ ってそ れらの 排出濃 度を 概ね記述し得るニ とを立証し，併せて排気工ミッションの低減に 必要な 燃料性 状上の 知見を 提示 してい る。ま た，そ の知 見に基 づき， 排気エミッションの改善に
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登 正
一 三
之
献 雄
英
本 山
藤 田
川
宮 村
伊 真
小
授 授
授 授
授
教
教
教
教
教
助
査
査
査
査
査
主
副
副
副
副
向けて 性状の 適合化 を施し た石 油系燃 料を試 作する こと により ，燃料 による 排気工 ミッションの 低滅効 果を実 証して いる。
第4章 で， 各種 の単組 成炭化 水素を 広範囲 かつ 系統的 に混合 した燃 料を 用いる ことに より， 燃 料中の とくに 芳香族 成分に 注目 して， その具 体的な 分子 構造が 機関定 常運転 時の燃 焼・排気特性 に及ぼ す影響 にっい て究明 して いる。
すなわ ち排気 黒煙 濃度は ，芳香 族に結 合したアルキル基の位置および数などの分子構造よりは，
燃 料 のC／H原 子 比 に 大き く 依 存 す るこ と ， ま た ，NOx濃 度 は， 燃 料 中 の 芳香 族 系 炭 化 水素 の 分子構 造に直 接依存 するの では なく， その単 位体積 当た りの発 熱量に よって 説明さ れ得ることな どを明 らかに してい る。
第5章 では ，過 渡運転 時とく に加速 運転時 での 排気特 性に対 する燃 料性 状の影 響にっ いて時 系 列的な 解析を 行って いる。 まず ，加速 運転時 での排 気を サイク ルオー ダで採 取する ための排気採 取シス テムを 試作・ 構築す るこ とに成 功して いる。
こ の シ ステ ム を 用 い て ，加 速 開 始 後 にお け る 排 気 黒煙 ，CO, CO：，お よび0：の 濃度は ，い ずれ の 燃 料 性 状に お い て も 加速 開 始 直 後 から ほ ぼ 一 定 の定常 値とし て推 移する のに対 し，NOx およ び 未 燃 炭 化水 素THCの 濃 度 は 過 渡 的な 推 移 を 経 過し て定 常値に 収束 するこ と，ま たその 場 合の過 渡的な 推移特 性は経 過サ イクル 数の指 数関数 によ って概 ね記述 できる ことを 明らかにして い る 。 更 に ，NOxあ る い はTHC濃 度 の 推 移特 性 に っ い て， 燃 料 性 状 の影 響 を 最 も 大 きく 受 け るのは 加速開 始直後 である こと ，その 際のガ ス濃度 は， 燃料の 蒸留特 性，動 粘度， および着火性 などの 物理的 性状に 依存す るこ と等を 見出し ている 。
第6章では ，本研 究の結 果を 総括し ，結論 として とりま とめ ている 。
これを 要する に， 本論文 はディ ―ゼル 機関の 燃焼 ・排気 特性に 対する 燃料 性状の 影響にっいて 系統的 な解明 を行っ たもの であ って， 内燃機 関工学 およ び燃焼 工学の 分野に 貢献す るところ大で ある。
よ っ て 著 者 は ， 博 士 （ 工 学 ） の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 が あ る も の と 認 め ら れ る 。
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