博 士 ( 獣 医 学 ) 大 崎 智 弘
学 位 論 文 題 名
動 物 の腫 瘍 に対 する BPD − MA
(benzoporphyrin derivative monoacid ring A) を 用いた光線力学療法の基礎的および臨床学的研究
学位論文内容の要旨
動物 の悪 性固 形腫 瘍の 治療 は、 外科 的摘 出を 基本とし、放射線療法や抗がん化学療法 を併用 して 行わ れて いる もの の、 耐性 の出 現や 副作用の点でさらに有効な治療法が望ま れてい る。 その 可能 性を 有す る治 療法 のー っと して 期待 される 光線 力学 療法(PDT)は、
腫瘍親 和性 の光 感受 性物 質を あら かじ め投 与し 、その後に光励起することによって腫瘍 を消退 させ る治 療法 であ る。 現在 ヒト 医療 で臨 床応用されている第一世代の光感受性物 質は 皮 膚 へ の 長 期 残 留や 短い 吸収 波長 のた め組 織透 過性 が小 さい などの 点で 問題 が多 い。し たが って 、様 カな 光感 受性 物質 が検 討さ れ、それらの腫瘍細胞内での局在性や光 物理化学的反応の機序についても議論が進められている。
以上 のこ とか ら、 本研 究で は体 外へ の排 泄が 速く、組織透過性が大きい690 nmの吸収 波長を 有す る第 二世 代の 光感 受性 物質BPD−MA (benzoporphyrin derivatlve monoacid ringA)をPDTに 用い 、動 物の 腫瘍 治療 に応 用す るための基礎的および臨床学的研究を行 った。
第1章では、BPD−MAを用いたPDTに対する光感受性の違いをマウス色素性黒包腫(Bl6Fl)、
マウス 肺扁 平上 皮癌(KLN205)、マウス骨肉腫(LM8)およびラット神経膠腫(LM8)の4種類の 腫瘍細胞を用いて比較検討した。0. 10ルg/mlのBPD―MA濃度での細胞生存率は、BPD−MA の取り込み量、あるいは細胞のコ口ニー形成効率との間に強い相関が認められた。また、
細胞傷 害活 性に おい て、BPD−MA濃度あるいはレーザー光の照射量を示すフルエンスの用 量依存 性の 光毒 性が 認められた。さらに、レーザー光照射後3時間日のアポトーシスの割 合は、4種 類の 腫瘍 細胞の間に有意差が認められた。これらの細胞の光感受性の違いは、
腫瘍 細 胞 の 大 き さ や コロ ニー 形成 効率 など の細 胞の 性質 の違 いで あると 考え られ た。
以上の 結果 から 、腫 瘍細胞におけるBPD―MAの光物理化学的反応は、腫瘍細胞の種類、光 感受 性 物 質 の 濃 度 や フル エン スな ど、 様々 な要 因に 影響 を受 けて いると 考え られ た。
わ ガvoに お け るPDTに よ る 抗腫 瘍 効 果 は 、 少 な く とも 腫瘍 細胞 に対す る直 接効 果と 血管傷 害に よる 間接 効果 (抗 血管 効果 )の ニっ の機序によって起こる。その抗血管効果 に よ る 血 流 動 態 の 変 化 と 抗 血 管 効 果 の 有 効 性 に つ い て 議 論 が な さ れ て い る 。 第2章 で は 、KLN205腫 瘍お よびLM8腫 瘍の2種類 のマ ウス 腫瘍 モデ ルに おけ るBPD−MA を 用 い た 細 胞 標 的PDT(3時 間 間隔PDT)あ る い は 血 管 標 的PDT(15分 間 隔PDT)に よ る
抗腫瘍効 果、腫瘍 血管の血流 動態の変 化および 腫瘍組織 の低酸素 状態を総 合的に評価し た。 腫 瘍の 成 長 抑制 効 果 は、 両 腫瘍 と も に3時間 間 隔PDT群 に 比べ て15分 間 隔PDT群 の 方が 強 かっ た 。 超音 波 パ ワー ド プラ 検 査 にお い て、3時間 間隔PDT群に 比べて15分 間隔 PDT群 の 方が 腫 瘍 内の 血管分布 および血 液灌流量の 有意た減 少が認め られた。 組織学的 検査 に おい て 、3時 間間 隔PDT群 で は 細胞 死 が 腫瘍辺 縁を除く 腫瘍組織 全体に認 められ た。 こ れに 対 し 、15分間隔PDT群 では主に 傷害を受け た腫瘍血 管の周囲 に細胞死 が認め られ た 。以 上 の 結果 か ら 、3時 間 間 隔PDT群 に 比べ て15分 間 隔PDT群 の方 が 血 流の遮 断 とそれによる抗腫瘍効果はより強いことが示唆された。
血 管 標的PDT(抗 血管PDT)は、腫瘍 血管を標 的にするた め、レー ザー光の 照射時に お ける 光 感受 性 物 質の 血中濃 度が重要 である。し たがって 、抗血管PDTの対象で ある腫瘍 動物におけるBPD−MAの薬物動態を把握する必要がある。
第3章 では 、 頭 部腫 瘍 の9頭の 犬 に 対し て 抗 血管PDTを 臨床的に 適用した 際のBPD―MA の臨床薬 物動態を 評価した。0.5 mg/kgのBPDーMAを症 例犬の静 脈内に投 与した後の各種 パラメー ターはそ れぞれ以下の通りであった。半減期(Tl/2):8.14土5.34時間、クリア ランス(Cl):35.13土9.62 ml/(時間.kg)、中心コンパートメント分布容積(V。):0.08土0.01 l/kg、定常状態分布容積(Vヨョ):0.38土0.31 l/kg。自血球数および血清アルカリフオス ファター ゼ値の一 時的な上昇 が認めら れたが、 これ以外 の臨床上 考慮すべ き異常は特に 認められ なかった 。犬のTl/2は、ラットと同様の値であり、また犬のTl/2、ClおよびVヨs は、ヒト のこれら の値に比べ て低値で あった。 頭部腫瘍の犬のBPD―MAの薬物動態の各種 パラメー ターから 判断すると 、BPDーMAを用 いた抗血 管PDTは、短 時間で治 療を終了する こと が でき 、 ま たBPD―MAの蓄積 性が低い ため繰り返 して行う ことがで きると考 えられ る。した がって、 本治療法は 悪性固形 腫瘍の犬 に対して 有用であ ることが 示唆された。
最 後 に第4章 で は、 頭部腫瘍 の19頭の犬 に対して、0.5 mg/kgのBPD−MAを症 例犬の静 脈内 に 投与 開 始 して15分後 に690 nmの レ ーザ ー 光を 照 射 する 抗 血 管PDTを 行っ た。抗 血管PDT後1年以 上 の 経過 を 観察 す る こと が で きた 口 腔腫 瘍 の6頭 の犬 の 生存 期 間の中 央 値 は423日 で 、1年 生 存 期 間は67% で あ った 。 抗 血管PDT後1年以 上 の 経過 を 観察 す るこ と がで き た 鼻腔 腫 瘍5頭の 犬 の 生存 期 間 の中 央 値は533日 で、1年 生 存率 は60%で あっ た 。造 影 前 と後 のCT値 の 差を 示 す 増強CT値に お いて 、 抗 血管PDT前と 後 の腫 瘍の 間に有意 差が認め られた。抗 血管PDT前と 後の腫瘍 の増強CT値 は、それ ぞれ54.3土25.8 HU(15頭 で21回 の 治療 ) お よび5.5土5.7 HU(11頭で18回の治療) であった 。21回の 治療 の 内、 腫 瘍 に対 し て 抗血 管PDTが 効 果 的で あ った19回の 治 療 にお け る腫 瘍 の増強 CT値 の 平均 は57.2HUであ っ たが 、 効 果が 低 か った残り2腫瘍の増 強CT値の平 均は27.5 HUで あ った 。 主な 副 作用とし て、抗血 管PDT後に照射 領域周辺 に一過性 の浮腫が 認めら れたが、特に治療の必要はなかった。さらに、BPD―MAは排泄が速くて蓄積性が低いため、
繰り 返 してPDTを 行う ことが可 能であっ た。以上の 結果から 、固形腫 瘍の治療 において 抗血 管PDTは 重 度 な副 作用もな く、非常 に有効な治 療法であ ると考え られた。 血管造影 CTは 、 抗血 管PDTの 適応 症例の選 択および 治療効果の 判定に極 めて有用 な方法で あると 考えられた。
本 研 究の 結 果、 む 汀む〇に おけるPDTの 光感受性は 様々な要 因に影響 を受ける ことが わか っ た。 わ 汀voで は 、抗 血 管PDTに よ って 腫 瘍血管 が重度に 傷害され 、細胞標 的PDT
に比べて大きな抗腫瘍効果が認められた。臨床治療試験においては、血中のBPD―MA濃度 は急激に低下するため、光照射を短時間で終了する必要があるが、一方で排泄が速くて 蓄 積 性 が 低 い た め 、 繰 り 返 し て PDTを 行 う こ と が 可 能 で あ っ た 。 結論として、動物の悪性固形腫瘍に対するBPD―MAを用いた抗血管PDTは重度な副作用 もなく有望な治療法のーっになり得るものと判断された。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
藤 永 徹 棄 原 幹 典 落 合 謙 爾 奥 村 正 裕
動 物 の 腫 瘍 に 対 す る BPD ― MA
(benzoporphyrin derivative monoacid ring A) を 用い た光線力学療法の基礎的および 臨床学的研究
光 線 力 学 療 法(PDT)は 、 腫 瘍 親 和 性 の 光 感 受 性 物 質 を 腫 瘍 動 物 に あ ら か じ め 投 与 し 、 そ の 後 に 光 励 起 す る こ と に よ っ て 腫 瘍 を 消 退 さ せ る 新 し い 治 療 法 で あ る 。 申 請 者 は 、 組 織 透 過 性 が 高 い690 nmの 吸 収 波 長 を 有 す る 第 二 世 代 の 光 感 受性 物 質 で あ るBPDーMAを 動 物 の腫 瘍 に 対す るPDTに 適 応 する た め 、基 礎 的 およ び 臨 床学 的 研 究を行 った。
腫 瘍 細 胞 に 対 す るBPD−MAの 光物 理 化 学 的反 応 に つい て 、 げっ 歯 類 の異 な る4種 類 の 腫 瘍 細 胞 を 用 い てinガ む りで 検 討 した 結 果 、 腫瘍 細 胞 の種 類 、 光感 受 性 物質 の 濃 度 、 あ るい は 照 射 光量 を 示 すフ ル エ ンス な ど の様々な 要因の 影響を受 ける事 を明らか に し た 。 励 汀 ゆ で は 、BPD―MA投 与 開 始3時 間 後 にPDTを 実 施し た 群 に比 べ て 、15分 後 にPDTを 行 う 抗血 管PDT群 の 方が 血 流 の遮 断 とそれ による 抗腫瘍効 果がよ り強いこ と を 示 し た。 犬 の 臨 床治療 試験例に おいて 、血中のBPD―MA濃度の推 移を検 討した結 果、
BPD―MAは 急 速に 代 謝され るため、 光照射 を短時間 で終了 する必要 がある ものの、 排泄 が 速くて 蓄積性が 低いた め、繰り 返してPDTを行 うことが可能であると判断された。19症 例 の 頭 部 腫 瘍 の 犬 に0. 5mg/kgのBPD‑MAを 静脈 内 に10分 間 かけ て 投 与し 、 投 与開 始 15分 後 に 光 照 射 を 実 施 す る 抗 血 管PDTの 結 果 、従 来 の 放射 線 療 法や 抗 が ん化 学 療 法 な ど に 比べ て よ り 良好 ぬ 治 療結 果 を 得た 。 さ らに血管 造影CT法 は、腫瘍 血管構 築網を 描 写 す るこ と が で きる た め 、抗 血 管PDTの 適応 症 例 の選 択 お よび 治 療 効 果の判 定に極 め て有用 な方法に なり得 る成績を 得た。
以 上の 通 り 申 請者 は 、 小動 物 の 悪性 固 形 腫瘍 の 治 療に お い て、BPD一MAを用いた 抗 血 管PDTは 反 復 実施 可 能 で顕 著 な 副作 用 も 少な く 、 治療 効 果 の高 い 新 し い治療 法にな り 得 る こと を 示 し た。さ らに、血 管造影CT法は、抗 血管PDTの適応 症例の 選択と予 後診
断に有用な情報源となり得ることを明らかにした。
よって、審査員一同は、上記博士論文提出者大崎智弘氏の博士論文は、北海道大 学大学院獣医学研究科規程第6条の規定による本研究科の行う博士論文の審査等に 合格と認めた。