博 士 ( 農 学 ) 倉 島 栄 一
学 位 論 文 題 名
融 雪 流 出 解 析 に お け る 熱 収 支 融 雪 モ デ ル と そ の 適 用 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
融 雪 流 出 水 は 農 業 用 水 を は じめ 重要 な資 源と な り, 地域 の生 活, 産業 に密 接に 関 連 し て い る 。 し か し そ の 一 方 でしfiし ば融 雪洪 水 に代 表さ れる 融雪 災害 の発 生要 因 とな って いる .
農 業 土 木 を は じ め と す る 科 学技 術の 分野 では , 融雪 期の 流出 解析 に関 係し た融 雪 量 の 算 定 に は 簡 便 な 流 量 対 応 の経 験的 手法 が多 く 用い られ ,現 象解 析を 基礎 とす る 熱収 支的 手法 の適 用は 極め て少 ない .
最 近で はア メダ ス観 測網 の充 実, 加え てコ ン ピュ ータ の発 達,普及とあいまって,
経 験 的 手 法 の 簡 便 さ と い う 利 点 も 苺 れ る 傾 向 に あ る と 考 え ら れ る , 本 論 文 で は 融 雪 に 関 す る 現 地調 査を 行い ,そ れ らの 結果 から 各種 気象 要素 を基 礎 とす る熱 収支 によ る融 雪演 算モ デル を構 築し , 融雪 期流 出予 測解析の地域間汎用化,
精度 の向 上を 図っ たも ので ある .
第1章 で は , 積 雪 地 帯 の 河 川 流 況 を 例 示 し , 融 雪 期 の ダ ム流 入量 が年 間総 流入 量 の30〜40% に も 相 当 す る こ と を示 した .ま た, そ れが 短期 に集 中す るこ とか ら資 源 化 さ れ て い な い 実 態 と そ の 対 策に ョい て指 摘し た ,さ らに ,農 業就 業構 造と 水稲 の 栽 培 形 態 の 変 化 に よ る 農 業 用 水需 要の 短期 集中 化 ,暖 冬に よる 流況 の変 化に とも な う水 不足 の実 態に つい て述 べた .ま た, 融雪 洪 水の 被. 害状 況を1981年の豪雪年につ い て 示 し , 利 水 面 , 防 災 面 と も に 融 雪 流 出 諸 過 程 の 研 究 が 重 要 で あ る と し た .
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第2章 で は 本 論 文 の 目 的 を 示 し た ,融 雪流 出解 析で は ,降 雨・ 降雪 の判 別か ら積 雪 ヘ , 積 雪か ら融 雪水 ヘ, 融 雪水 の流 出へ の三 つの 変換 過程 が必 要で ある ,積 雪か ら 融 雪へ の変 換過 程に つい ては 経験 的手 法と 熱収 支的 手法 が あり ,こ れら について の 既往 の研 究を 概観 した . その 結果 ,融 雪流 出解 析の 分野 にお ける 熱収 支法 の適 用 が 極 めて 少な いこ と, なら びに 経験 的手 法の 問題 点を 指摘 し た. さら に融 雪流 出を 的 確 に 把握 する こと の重 要性 を示 し, この 目的 のた めに 熱収 支 法に 基づ く積 雪・ 融 雪 モデ ルの 構築 と融 雪流 出解 析へ の適 用を 行った
第3章 では 現地 調査 から 熱収 支 積雪 ・融 雪モ デル のキ 冓築 とその適用,モ デルの融 雪 流 出解 析へ の適 用に 至る まで の研 究 方法 の概 要を 示し た. また ,岩 手大 学附 属御 明 神 牧場 内 に設 けた 現地 調査 地, モデ ルの 適用 地点 ,融 雪流 出解 析 の対 象流 域に つ いて ,そ の 位置 ,気 象等 の概 要を示した
第4章 で は 岩 手 大 学 附 属 御 明 神 牧 場に 設 けた 現地 調査 地に おけ る融 雪と 気象 要素 の 観 測方 法を 示 した ,ま た融 雪に 関す る積 雪に おけ る熱 収支 を検 討し て その 成果 か ら 熱収 支融 雪モ デル を構 築し た.
1) 日 中 の 融 雪 現 象 に お い て , 融 雪 熱 量 の 一 部 は 前 夜 にお ける 積雪 の冷 却貯 熱量 を 消 去し ,雪 温を 高め るた めに 消費 さ れる .
2) 前 項 に 基 づ き , 冷 却 に よ る 積 雪 の 熱 伝 導 , 積 雪 層 の保 水能 およ び積 雪保 留水 の 凍 結等 を考 慮し た融 雪モ デル を構 築 した .
3) モ デ ル を1986〜1988年 の3年 間 に 計 算 単 位 を1時 間 とし て適 用し たと ころ ,日 融 雪 流 下 畳 の 再 現 性 は 良 好 で あ り , 相 対 誤 差 は 0. 19で あ っ た . 4)モ デ ルの 適用 結果 から みる と, 融雪 期の 放射 収支 量は ,日 中 の融 雪ナ ょら びに夜 間 の冷 却に おい て支 配的 な要 素で あ るこ とが 示さ れた 。
5) モ デ ル を1986年 の 積 雪 期 間 に 適 用 し た 結 果 , 融 雪 開始 日の 計算 値は 実測 とほ ぼ 一 致し た.
6)1日 を 夜 間 と 日 中 に2分 した12時 間単 位で 融雪 モデ ルの 計 算を 行っ た結 果は ,1時 ―503―
間単 位の 計算と比較し て,ほぽ同等であった.
5章 では 長期 流出 解析 を目 的と ,し て,12時間 単位 でのモデルの適用を行うために モ デ ル の入 力 気象 要素 を, 気象 官署 ,ア メダ ス資 料を 用い て推 定す る 方法 を示 した また , これ らの 推定 要素 を用 いて モデ ルを 適用し,そ の実用化を試みた.
1) 日 最 高 ・ 最 低気 温, 日平 均・ 最小 湿度 ,日 平均 風速 ,日 照時 間を 用 いて ,融 雪 モ デ ル への 入 力要 素で ある12時 間平 均気 温, 同湿 度, 日射 量, 下向 き 長波 放射 量の 推 定 方 法 を 示し た, 推定 され た気 象要 素の 精度 は概 ね良 好で あっ た
2) 推 定 さ れ た 気 象 要 素 を 用 い て 融 雪 モ デ ル を 適 用 し た 結 果 , ア ル ペ ドを 期間 一定 と し た た め , 消 雪 日 付 近 の 計 算 融 雪 流 下 量 が , や や 過 小 に 評 価 さ れ た . 6章 で は 融 雪 流 出 解 析 へ 適 用 す る た め に , 前 章 ま で の 熱 収 支 融 雪 モ デル に改 良を 加 え , 融 雪 量 と と も に 積 雪 深 , 積 雪 水 量 の推 定も 可能 な熱 収 支積 雪・ 融雪 モデ ルに 拡張 した .さ らに この モデ ルを 札幌 ,湯 田( 岩 手) ,釜 淵( 山形 ), 高坂(山形),
上 越 ( 新 潟 ) , 刀 利 ( 富 山 ) の6地 点 の 計38年 に 適 用 し , そ の 適 合 性 を検 討し た.
1) 現 地 調 査 資 料 を 用 い て , 粘 性 圧 縮 理 論 に 基 づ く 密 度 の 推 定 方 法 を 検討 する とと も に ア ル ペ ド と 表 層 密 度 と の 回 帰 式 を 作 成し ,そ の妥 当性 を 示し た, これ らの 推定 機 構 と 降 雪 深 要 素 を 利 用 し た 降 水 形 態 の 判別 機能 を熱 収支 融 雪モ デル に与 えて 熱収 支積 雪・ 融雪 モデ ルを 構築 した .
2) 熱 収 支 積 雪 ・ 融 雪 モ デ ル を 上 記6地 点 に適 用し た. 積雪 深 への 適合 性を 目的 とし た 計 算 に お い て も 積 雪 水 量 の 適 合 性 は 良 好 で あ り , モ デ ル の 妥 当 性 が 示 さ れ た . 3) 適 用 地 点 に お け る 日 中 の 熱 収 支 を 比 較 し , 場 所 に よ っ て 構 成 要 素 の相 違が 大き いこ とが 判明 した .
7章 で は 釜 淵1号 沢 流 域 , 高 坂 ダ ム 流 域 , 刀 利 ダ ム 流 域 を 対 象 に 熱 収 支 積 雪 ・ 融 雪モ デル によ って 融雪 流出 解析 を行 った .
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1) 流 出 モ デ ル と し て タ ン ク モ デ ル を 採 用 し , 最 適 化 手 法 の ー つ で あ るSP法に よっ て対 象3流域 のタ ン クモ デル のパ ラメ ータ を同 定し た.
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2) 流域 の気 温, 湿度 , 風速 ,放 射要 素に 関す る仮 定を 設け ,融 雪流 出解 析を 行 っ た . とく に放 射要 素に 関し ては 林相 や地 形の 影響 を考 慮し , 日射 量に 対し ては 平坦 開 地に 対す る減 率, 下向 き長波放射量は増率を仮定した ,その結果,簡便ナょ手続き で 本モデルの適用 が可能であることを示した,
3)菅 原の 融雪 計算 方法 によ って 同様 に融 雪流 出解 析 を行い,前項の結果と比較し , 本 モ デ ル の適 用結 果が 融雪 期の 相対 誤 差評 価に おい て, より 良好 であ るこ とを 確認
した
8章 結 諭 で は 本 研 究 に よ っ て得 られ た 主要 な結 果を 概括 し, 本モ デル が融 雪洪 水 予 測にも適用可能 であることを示唆した.
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学 位 論 文 審査 の要 旨
学 位 論 文 題 名
融 雪 流 出 解 析 に お け る 熱 収 支 融雪 モデ ル と その適用に関す.る研究
本 論 文 は 緒 言 , 本 論7章22節 お よ び結 論 か ら構 成 さ れ ,図97,表54,写 真1,引 用 文 献74を 含 む 159頁 の 論 文 で あ る . 他 に 参 考 論 文10編 が 添 え ら れ て い る . 融 雪 流 出 水 は 農 業 用水 を は じめ 重 要 な資 源 と なる 反 面 , 融雪 洪 水 に代 表 さ れる 融 雪 災 害の 発 生 要因 と な って い る .
融 雪 量 の 算 定 に は 簡便 な 流 量対 応 の 経験 的 手 法が 多 く 用 いら れ , 現象 解 析 を基 礎 と す る熱 収 支 的手 法 の 適用 は 極 め て少 な い .
本 論 文 で は 各 種 気 象要 素 を 基礎 と す る熱 収 支 によ る 融 雪 演算 モ デ ルを 構 築 し, 融 雪 期 流 出 予 測 解 析 の 地 域 間 汎 用 化 , 精 度 の 向 上 を 図 っ た も の で あ る . 第1章 で は , 積 雪 地 帯 の 河 川 で は 融 雪 期 に 流 出が 集 中 し ,そ れ が 十分 に 資 源化 さ れ て い な い 実 態と そ の 対策 に つ いて 指 摘 した . さ らに , 水 需 要の 短 期 集中 化 等 にと も な う 水 不 足 の実 態 に つい て 述 ぺた . ま た, 融 雪 洪水 の 被 害 状況 を 豪 雪年 に つ いて 示 し , 利 水 面 , 防 災 面 と も に 融 雪 流 出 諸 過 程 の 研 究 が 重 要 で あ る と し た . 第2章 で は 融 雪 に 関 す る 既 往 の 研 究 成 果 を 概 観し , 評 価 すろ と と もに , 融 雪流 出 解 析 諸 過 程 の なか で , 降雪 の 堆 積か ら 消 雪に 至 る 過程 を 再 現 する 熱 収 支法 に 基 づく 積 雪 ・融 雪 モ デル に よ る融 雪 流 出 解析 を 行 うことが 研究の 目的であ ることを 示した . 第3章 で は研 究 方 法と 研 究 対 象地 点 に つい て 概 説し た ,
第4章 で は 現 地 調 査 地 に お け る 気 象 要 素 等 の 観測 方 法 を 示し た . また , 積 雪に お け る 融 雪 サ イ ク ル に つ い て 考 察 し , 熱 収 支 融 雪 モ デ ル を 構 築 し た , 1) 融雪 熱 量 の一 部 は 前夜 に お け る積 雪 の 冷却 貯 熱 量を 消 去 する た め に消費 される . こ れ に 基 づ き , 熱 の 授 受 に と も な う 諸 過 程 を 考 慮 し た 融 雪 モ デ ル を 構 築 し た . し
2)モ デ ル を3年 間 に1時 間 単 位 で 適 用 し た , 融 雪 流 下 量 の 再 現 性 は 良 好 で あっ た . 3)モ デ ル の 適 用 結 果 か ら み る と , 融 雪 期 の 放 射 収 支 量 は , 日 中 の 融 雪 な ら びに 夜 間 の 冷却 に お いて 支 配 的な 要 素 で ある こ と が示 さ れ た。
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治
夫 融
安 郁
田
口 谷
梅
堀 新
授 授
授
教 教
教
査 査
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主 副
副
4)モデルを積雪期間に適用した結果,融雪開始日の計算値は実測とほぼ一致した.
5) 12時間単位でモデル適用した結果は前項の計算と比較して,ほぼ同等であった.
5章ではモ デルの入力気象要素を,気象官署,アメダス資料を用いて推定する方 法を示し,モデルの実用化を試みた.
1)モデル ヘの入力要素である12時間平均気温,同湿度,日射量,下向き長波放射 量 の 推 定 方 法 を 示 し た . 推 定 さ れ た 気 象 要 素 の 精 度 は 概 ね 良 好 で あ る , 2)推定さ れた気象要素を用いて融雪モデルを適用した結果,アルペドを期間一定 と し た た め , 消 雪 日 付 近 の 計 算 融 雪 流 下 量 が , や や 過 小 に 評 価 さ れ た , 6章では融 雪流出解析へ適用するために,熱収支融雪モデルに改良を加え,融雪 量とともに積雪深,積雪水量の推定も可能な熱収支積雪・融雪モデルに拡張した.
さらにこのモデルを北海道から北陸に至る札幌,湯田,釜淵,高坂,上越,刀利の6 地点に適用し,その適合性を検討した,
1)粘性圧 縮理論に基づく密度の推定方法を検討するとともにアルペドと表層密度 との回帰式を作成し,これらの推定機構と降水形態の判別機能を熱収支融雪モデル に与えて熱収支積雪・融雪モデルを構築した.
2)熱収支積雪・融雪モデルを6地点に適用したところその適合性は良好であった,
3) 適 用 地 点 の 日 中 の 熱 収 支 を 比 較 し , そ の 相 違 点 を 示 し た , 7章では釜淵1号沢流域,高坂ダム流域,刀利ダム流域を対象に熱収支積雪・融雪 モデルによって融雪流出解析を行った.
1)流出モデルとしてタンクモデルを採用し,SP法によって対象3流域のタンクモデ ルのパラメータを同定した.
2)流域の 気温,湿度,風速,放射要素に関する仮定を設け,融雪流出解析を行っ た . そ の 結 果, 簡 便な 手 続 きで 本 モ デル の 適用 が 可 能で あ るこ と を 示し た . 3)菅原の融雪計算方法によって同様に融雪流出解析を行い,前項の結果と比較し,
本モデルの適用結果が,より良好であることを確認した.
以上のごとく本研究で得られた成果は,入手可能な気象要素によって熱収支法に よる融雪流出解析が可能であることを示し,経験的手法の適用が常識化しつっあっ た 農 業 土 木 学 を は じ め と す る 流 出 解 析 の 分 野 に 貢 献 し う る も の で あ る . よって審査員一同は,別に行った学力確認試験の結果と合わせて,本論文の提出 者,倉島栄―は博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格があるものと認定した.
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