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博 士 ( 農 学 ) 飯 島 倫 明

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 飯 島 倫 明

学 位 論 文 題 名

マ ン グ 口 ー ブ 樹 木 リ グ ニ ン の 化 学 的 性 質 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  マングローブは,熱帯・亜熱帯の海岸や河口の汽水域という特殊な立地に生育する植物群落の 呼称である。代表的な純マング口ーブ種であるヒルギ科の樹木は高木をなし,森林資源としても 重要である。また,その根の形状と大型の胎生種子に特徴がある。胎生種子とは,母植物体に付 いた状態で胚軸が発達・伸長したもをさし,母樹より落下後,発根し本葉を発し幼樹を形成する。

現在,マングローブ林の造林体系はまだ確立されていない。一方,マング口ーブ樹木の化学的性 質に 関する知 見も充分 に得ら れていな い。特に,胎生種子の化学的性質は解明されていない。

  本論文は,マングローブ樹木の化学的性質を明らかにし,大本植物を木たらしめるに重要な木 質化を考察し,これに欠くことの出来ない成分であるりグニンに焦点を合せ,その化学的性質を 解明することを目的とした。

1.マングローブ樹木の材部と胎生種子の化学成分組成

  夕イ 国産12種, 本邦産4種の マングロ ーブ樹木の材部及び本邦産3種の胎生種子にっいて,化 学成分組成を検討した。材部の成分組成は樹種間で相違があることを示した。本邦産主要広葉樹 と比較し,アルコール.ベンゼン抽出成分とホロセル口ース量はほぼ同程度であり,リグニンは やや低い値を,灰分は高い値を示した。胎生種子の成分組成においては,抽出成分はそれぞれの 材部より高く,ホロセルロースとローセルロースは非常に低い値を示し,ヘミセルロースの糖組 成も材部と差異を示した。

  材部と胎生種子の成分組成の特徴的な差異は,胎生種子はホロセルロースが少なく,20〜43% と多 量のデン プンを含 有して いたこと 及び縮合型夕ンニンを比較的多量に含有していたことで あった。

  材リグニンに対する呈色反応は広葉樹リグニンの特徴を示した。しかし,胎生種子リグニンに 対する呈色反応は極めて弱いか観察し難い結果を与えたが,胎生種子のりグニン量は母樹とほぼ 同一か,それより高い含有値を示した。胎生種子リグニンがどのような性状であるか,また,胎 生 種 子 の 木 質 化 過 程 が ど の よ う な も の で あ る か を 精 査 す る 必 要 性 を 示 唆 し て い た 。 2.ヒルギ科マングローブ樹木ジオキサンリグニンの化学性状  |

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,3樹種 の 材DLは , フェ ノ ー ル 陸水 酸 基 とメ ト キ シル 基 含 有量 が , 比較 試 料ブ ナ材DLに 比 較的類似していた。また,赤外線吸収スペクトル分析,アルカリニト口ペンゼン酸化分解,1 C

‑ NMR分 析 の 結 果 も 同 様 で あ っ た 。 こ れ に 対 し , 本 邦 産3樹 種 の 胎 生 種 子DLは ,母 樹DL に比べて,窒素含有量とフェノール性水酸含有量が高く,メトキシル基量が低い結果を示した。

また ,グアイヤシル核に対するp―ヒドロキシフェニル核の割合が高い結果を示した。母樹リグ ニンと極めて異なった性状であることが示唆された。

3.オヒルギ材部と胎生種子MWLの化学性状

  オヒ ルギ材MWLのフ ェノー ル性水酸基量及びメトキシル基量は0.85%,20. 84%を示した。

こ れ に対 し , 胎生 種 子MWLでは ,フェノ ール性 水酸基量 は5.06%と材 の約6倍と高 く,メト キ シ ル 基 量 は1. 38% と 材 の1/15と 大 変 低い 値 を 示 した 。 材MWLのS/V値 とH/V値は , オヒルギでは3. 62,0.01を,ブナでは2.81,0.02を示した。胎生種子MWLでは,S/V値は0. 44と材 よ り1/7と 低く ,H/V値は0. 12とS/V値と 対象的 に材の約8倍の 値を示 した。胎 生 種 子MWLは0.51% と 材MWLの5倍 以 上 窒 素 を 含 有 し て い た 。 ブ ナ 材MWLの 重 量 平 均 分 子 量は 約6,200, オヒルギ 材MWLは約5,700を 示し, 胎生種子MWLの 平均分子 量は約2,300と材 の約半分であった。

  オヒ ル ギ 材MWLは, 元 素組成, フェノー ル性水 酸基量, メトキ シル基量 ,紫外 線吸収ス ペ クト ル分析 ,赤外線 吸収スペ クトル 分析,ア ルカリ ニト口ベ ンゼン 酸化分解 ,'3C―NMRスペ ク ト ル 分 析 及 びGPC分 析 の 結 果 が ブ ナ 材MWLに 近 似 し て い た 。 一 方 , 胎 生 種 子MWLは , リグニンの特徴であるメトキシル基が極めて少なく,窒素含有量とフェノール性水酸基量が多く,

構成 フェノール単位としてグアイシル核に対するp−ヒド口キシフェニル核の比が高い,重量平 均分子量が低い等の特徴が認められた。

  マングローブ材リグニンは比較試料温帯酸広葉樹ブナ辺材リグニンに近い化学構造と化学的性 質である。これに対し,胎生種子リグニンは母樹リグニンと極めて異なった化学構造と化学的性 質であることが示唆された。

  樹上で成熟した胎生種子中のりグニンは,これらの特徴から樹木の新生組織リグニンや培養カ ルスのりグニンに比較的近い化学構造と性質であり,木質化の初期に生成するりグニンと推定さ れた 。また,構成フェノ―ル単位としてp―ヒド口キシフェニル核を含むことから,草本類のり グニンに似ていることが考察された。

4.オヒルギ胎生種子の組織化学的観察

  樹上で胚軸が伸長し,母樹より落下直前の成熟した胎生種子においては,その胚軸に維管束が 観察 され,1次木部が確認できた。しかし,分裂組織はまだ輪をなしておらず,束内形成層と束

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間形成層の段 階であり,2次木部はまだ分 化していなかった。1次木部 細胞壁は,二重染色,フ 口口グルシン 塩酸反応による呈色及び紫外線吸収から,この段階で木質化が始まっていることが 確認された。

  母樹から離 れた胎生種子は,発根,発芽後,直ちに,急激な細胞分化を始めた。若い幼樹の元 来胚軸であっ た部位では,1次木部の外側 に2次木部及び束内形成層と 束間形成層とが結合した 形成層が観察された。2次木部は木質化が進行し,肥大生長が観察されたが,この元来胚軸であっ た部位の伸長 生長は観察されなかった。

  芽生え部で は,広葉樹の細胞分化と木質化の過程が観察された。

  樹上におい ては成熟した胎生種子の木質化過程が未熟な段階であることは,胎生種子は母樹に 付いており,2次木部を形成し木質化して 胚軸の物理的強度を増す必要がなく,マングローブ胎 生種子の異常 に伸長した胚軸の機能は,胚が海水に浸からないようにする働き及び発根や発芽に 必要なデンプ ンの貯蔵組織としての働きと推察された。しかし,発根,発芽後は,幼樹の元来胚 軸であった部 位においても物理的強度が必要となる。2次木部が形成され木質化が進む。更に,

生 長 に 必 要 な 養 分 等 の 輸 送 の た め 細 胞 が よ り 分 化 す る と 推 察 さ れ た 。   以上,本研 究はマングローブ樹木,胎生種子の化学的性質を明らかにした。特に,木質化に強 く関与するり グニンの化学的性質を検討し,材リグニンと胎生種子リグニンとに著しい差異があ る。材リグニ ンは広葉樹シリンジルリグニンであるが,樹上においては成熟した胎生種子リグニ ンはp―ハイド口キシフェニル核に富み, 窒素を含有するりグニンであり,木質化初期に相当す るりグニンで あることを明らかにした。更に胎生種子の成熟,落下,発芽から幼芽から幼樹形成 に至る木質化 と細胞分化を考察した。

  こ れ ら の 成 果 は , 今 後 , マ ン グ 口 ー ブ 資 源 の 育 成 及 び 利 用 拡 大 の 基 礎 と な る 。

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    笹 谷 宜 志 副 査    教 授    寺 澤    實 副 査    教 授    深 澤 和 三 副査    助教授   佐野嘉拓

本論文は7章からなり,図20,表22,写真48,文献103を含む頁数150の和文論文であり,別に,

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参考論文15篇が付されている。

  マング口―ブは,熱帯・亜熱帯の海岸や汽水域に生育する植物群の呼称で,代表的な純マング 口ーブ種であるヒルギ科の樹木は高木になる。マングローブは大型の胎生種子を生じ,根の形状 に特徴があり,また森林資源としても重要である。胎生種子とは母樹にっいた状態で胚軸が発達

・ 伸 長 し た も の を 指 し , 母 樹 よ り 落 下 後 , 発 根 し 本 葉 を 発 し , 幼 樹 を 形 成 す る 。   本論文はマングローブ樹木木部および胎生種子の化学的性質を知るとともに,これらのりグニ ンの化学的性質を明らかにし,さらに胎生種子から幼樹にいたる過程での木質化を組織化学的に 考察したものである。

  本研究の結果は次のように要約される。

1)タイ国産12種,本邦西表島4種のマング口ーブ木部の化学組成は樹種間で相違が見られたが,

  本邦産広葉樹46種の化学組成と比較し,木材多糖は同程度,リグニンはやや低く,抽出成分は   高い値を与えた。この結果は,これらの樹種が化学的に有用な資源であることを示唆した。西   表 島 産 ヤ エヤ マ ヒ ルギRhizophora stylosa Griff., オ ヒル ギBruguiera gymnorrhiza     (L.)Lamk., メ ヒ ル ギKandelia candel(L.)Druce材 ジオ キ サ ンリ グ ニ ン(DL)の   官 能 基分 析 ,UV,IR,1°C―NMRスペ クトル の分析, アルカ リニトロ ベンゼン 酸化分 解等   の結果,分解生成物のバニリンに対するp―ヒドロキシフェニルベンズアルデヒドの割合がブ   ナ 材DLよ り 若干 高 い 結果 を 示 した が , シ リン ガアルデ ヒドの 割合はブ ナ材DLと ほぼ同程   度であった。即ち,マングローブ材リグニンはシリンギル核を主要な構成単位とするりグニン   であることが明らかとなった。

  2)西 表島3種マン グローブ 胎生種子の化学組成は木部の化学組成に比べ,高いデンプンおよ   びタンニン量を示し,バイオマス資源としての利用の可能性を示唆した。しかし,木材多糖は   極めて低かった。一方,リグニン量は木部リグニン量と同程度であるにも拘らずそのりグニン   呈色反応に顕著を差異が認められた。これは両者のりグニン構造の相違によるものと考えられ,

  そ の 内容 を 検 討し た。3種マ ングロー ブ胎生 種子DLの分 析結果 はそれら の母樹DLに比ベ,

  フェノール性水酸基,窒素含有量が高く,メトキシル基は著しく低く,またアルカリニトロペ   ンゼン酸化分解物生成量も低かった。バニリンに対するp→ヒド口キシフェニル核の割合は非   常に高く,シリンギル核単位はバニリン(グアヤシル核)と同程度であることを示した。これ   はメトキシル基の少ない単位に富むりグニンであることを示唆した。オヒルギ胎生種子磨砕リ   グ ニ ン(MWL)の 重 量 平 均 分 子 量Mwは 母 樹 材MWLの 亠Mwの 約1/2で あ っ た 。 従 っ て ,   胎生種子 リグニ ンは母樹 材リグ ニンに比 ベ,Mwが 小さく, メトキシ ル基置 換の少ない即ち   p―ヒ ド口キシフェニル核に富むりグニンであり,材リグニンと著しく異なるりグニンである     −160―

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  ことを示した。シリンギル単位が材リグニンより少ない構造はりグニンの呈色反応が材リグニ   ンとは異なり不鮮明にしている 結果を良く説明するものである。

3)母 樹上の成熟した胎生種子を組織的化学的に観察すると, 維管束,木質化した1次木部が認   め られ る が,2次 木部 は未 だ観 察さ れ ない 。1次木 部の 紫外線(UV)吸収スペクトルのスmax   は285 nmにあり,リグニン以外 のフェノール類の沈着をも示唆した。母樹から離れた種子は   発根・発芽後,直ちに急激な細 胞分化を始め,若い幼樹の元来胚軸である部位の1次木部の外   側 に2次 木 部 や 形 成 層が 認め られ た。2次木 部の スmaxは280 nmにあ り, これ はグ アヤ シ   ル 核に 富 むり グニ ンの 存在 を示 した 。芽 生え 部の1次.2次 木部 ・ 髄は いず れもUV吸収が   認 めら れ ,そ のスmaxは各 々282 nm,Ltt nm,280 nmで あり2次 木 部の 吸収 はシ リンギル   核由来の吸収であり,材リグニ ンの結果と一致した。

  以上,本研究はマングローブ木部リグニンが広薬樹を特徴づけるシリンギル骨格に富むりグニ ンであり,一方,胎生種子リグニ ンはメ卜キシル基置換単位の少ない全体としてp―ヒドロキシ フェニル単位に富んだ構造のりグニンであり,木部と胎生種子間に顕著な差のあることを初めて 明らかにした。p―ヒドロキシフェニル単位の存在は樹木の新生組織のりグニン構造に特有のも のであり,木質化初期に生成するりグニンであることを示した。またこれまで全く知られていな い胎生種子の落下後,幼樹形成に至る木質化を組織化学的に明らかにしたものであり,これらの 成果は関連分野で高い評価を受けている。本研究は今後のマング口ーブの研究に重要な知見と指 針を与えるものである。

  よって審査員一同は,別に行った学力確認試験の結果と合わせて,本論文の提出者,飯島倫明 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。

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参照

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