博 士 ( 農 学 ) 島 村 誠 一
学 位 論 文 題 名
乳 業 に お け る ビ フ ア ズ ス 菌 の 利 用 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ビ フ アズ ス菌 は,1899年Tissierによ り発見 されて 以来 ,人の 健康と 関わる ことか ら多 くの研 究 が行わ れ,今 日では ,食 品,医 薬品, そして 酪農 飼料な ど,様 々な分 野にお いて 広く利用され て いる。 その中 におい ても 乳業界 におい ては最 も古 くから 開発が 進めら れ,本 菌を 含んだ乳酸菌 飲 料,醸 酵乳な ど数多 くの 製品が 開発さ れた。 これ らの製 品の製 造に於 いては ,ビ フアズス菌が 偏 性嫌気 性菌で あるた め, 酸素の 影響を 極力除 くこ とが必 要であ る。し かしな がら ,工業的規模 で 種々の 乳製品 を製造 する 上で, 工程中 から酸 素を 完全に 取り除くことtま非常に困難であり,ビ フ アズス 菌に対 する酸 素の 影響を 無視す ること はで きない 。従っ て,ビ フアズ ス菌 を含んだ乳製 品 を開発 するた めには ,本 菌と酸 素に関 わる問題にっいて根本的に検討を加えなければならない。
本 研究は 上記の 問題を 解決 するこ とを目 的とし ,ビ フィズ ス菌の 酵素に 対する 挙動 にっいて検討 を 加え, 本菌の 酸素吸 収活 性,酸 素代謝 機構と 酸素 感受性 の関係 ,酸素 毒性緩 和物 質の検索とそ の メカニ ズム, そして 製品 中にお ける本 菌への酸素の影響とその防御方法にっいて明らかにした。
1ビフ ィズス 菌の酸 素吸収 および 菌体 内多糖 類につ いて
Bifidobacterium bifidum(ATCC 15696),B. infantis (ATCC 15697),B. breve(ATCC 15700),B.adolescentis(ATCC 15703),B.longz.tm (ATCC 15707),お よ びB.longrtm (BB536)の 酸 素吸 収 活 性 を 詳細 に 検 討 し たと こ ろ , 供 試し た全て の菌株 におい て酸 素吸収 現象 が 観察さ れた。 また, 本菌 はグル コース 等の基 質を 必要と しない 内生酸 素吸収 活性 も高く有して い た。一 方,本 菌の菌 体内 には多 量の多 糖類が 観察 された 。この多糖類tま,酸加水分解したとこ ろ 殆どグ ルコー スだけ を遊 離した ことか ら,グ リコ ーゲン 類似物 質と考 えられ た。 このグリコー ゲ ン様物 質を, 無糖培 地中 でのイ ンキュ ベーシ ョン により 消費さ せて菌 体の酸 素吸 収活性を測定 し たとこ ろ,内 生酸素 吸収 活性の 大幅な 低下が 観察 された 。これ らのこ とから ,ビ フィズス菌の 示 す高い 内生酸 素吸収 は, 菌体内 貯蔵物 質であ るグ リコー ゲン様 物質の 代謝に より 起こることが 推 察され た。
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2ビ フィズ ス菌 の酸素 代謝系 と酸素 感受性 につ いて
B. in危nとfs(ATTCC15697),B. らreUe(ATCC15700),B.adoぬscenとfs(ATCC15703),
B. め 凡 ぎMm(ATCC15707) にお け る 酸 素 感 受性 と 酸 素 代 謝機 構 に っ い て検 討 し た 。4菌 株 の 中で ,B. 沈′0nns,B.6reUe,B.め′ 曙Umtまほ ば同様 な酸素感受性を示し,若干の酸素存在下 でも 良好な 生育を 示した。しかし,B.0doぬsce凡とfsだけは同じ条件下で生育することができず,
他3菌 種 に 比 べ て 酸 素 感 受 性 が 高い こ と が 示 され た 。 一 方 ,ビ フ ィ ズ ス 菌は2電 子 還 元型 の NADHoxidaseお よ びNADHperoxidaseの 両 酵 素 を 持 ち , 分 子 状 酸 素 を 過 酸 化 水 素 を 経 て 水に 還元す る酸素 代謝機 構を持 っこ とが観 察され た。ま た, これら 両酵素 の活性 は酸素感受性と 対応 してい た。即 ち,酸 素感受 性の 高いB.0d〇ZPsce凡£fsはこれらの酵素活性が低く,酸素感受 性の 低いB.f′洳凡 とfs,B.6reUe, そしてB. め′曙umの活 性の1/5ー1/10で しかなかった。
こ れ ら の こ と は , ビ フ ア ズ ス 菌 の 持 つNADH−oxidaseお よびNADHperoxidaseの 両 酵 素 が , 本 菌に 対 す る 酵 素 毒性 を 緩 和 し てい る こ と を 示唆 し てい た。 また,superoxidedismutaseも ビ フィ ズス菌 に於い て観察 された が, その活 性は非 常に低 く, また酸 素感受 性とは 関連しないこと か ら , 本 菌 に お け る 酸 素 毒 性 の 緩 和 に ほ と ん ど 寄 与 し て い な い と 考 え ら れ た 。
3ビ フ ィ ズ ス 菌 に 対 す る 酸 素 毒 性 緩 和 物 質 お よ び そ の メ カ ニ ズ ム に つ い て B. in′0nとfs(ATCC15697),B.6reリe(ATCC15700) ,B.adoぬsce凡ぬs(ATCC15703),
B.め ′ 璢Um(ATCC15707)に 対 す る酸素 毒性を 緩和 する物 質およ びその 作用メ カニ ズムに っい て検討 した 。微好 気条件 下にお ける培 養に 於いて,培地中にカタラーゼ,鉄イオンあるいはアスコ ルビン 酸ナ トリウ ムを添 加する ことに より 成育が改善された。しかしながら,酸素感受性の非常に 高 いB. 口doぬscemfsにお いては ,力夕 ラー ゼある いは鉄 イオン の効 果は認 められ なかっ た。力 夕 ラ ー ゼ あ る い は 鉄 イ オ ン を 添 加 し て 培 養 し た 菌 体 に お い て は ,NADHoxidaseおよ びNADH peroxidaseの 活性が 嫌気培 養時 に比べ て1.5〜4.5倍に上昇し,また嫌気培養時にこれらの物質を 添加し ても 両酵素 活性は 上昇し なかっ たこ とから,これらの酵素は直接的には酸素によって誘導さ れてい ると 推察さ れ,力 夕ラー ゼや鉄 イオ ンは誘 導のた めの2次的な役割を果たすと考えられた。
更に, 鉄イ オンを 添加し た場合 ,菌体 内に 嫌気培 養時の3〜4倍 の鉄が 蓄積さ れた。 この鉄分は,
無 細胞 抽 出 液の 分子量1万 以上の 画分に 多く 認めら れたこ とから ,細胞 内で 何等か の物質 と結合 し,酸 素代 謝酵素 の活性 化に影 響を与 えて いると推測された。またアスコルビン酸ナトリウムの添 加 で は ,NADHoxidase,NADHperoxidaseの 両 酵 素 活 性 は 嫌 気 培 養 時 と ほ ぼ 変 わ ら ず , 酵 素の誘導が行われていナょかった。このことは,アスコビン酸ナトリウムの強カな還元カが,ビフィ
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ズ ス菌に 酸素由 来の ストレ スを与えない環境を形成していると推測された。
4ビ フィズ ス菌 の利用 におけ る酸素 の影 響とそ の対策
B. infantis(ATCC 15697),B.breve(ATCC 15700),8.adolescentis (ATCC 15703), B. longttm (ATCC 15707), お よ びB.longum(BB 536)にっ い て , 乳 業へ の 利 用 に おけ る 酸素 の影響 を明確 にし, その 対策を 検討し た。ビ フアズ ス菌 の酵母 工キス 添加牛乳培地において の生 育は, 酸素の 影響が 大き い場合 は生育 の遅れ ,又は 不能 を起こ し,そ の度合は菌株の酸素感 受性 によっ て変化 した。 アス コルビ ン酸ナ トリウ ムの添 加は,酸素感受性の高いB. adolescentis の 生 育を 改 善 し た が,B.longumに 対し て は 効 果が なかっ た。カ タラ ーゼ, 硫酸鉄 は両菌 株に 対し て生育 改善効 果を示 した 。
ビ フ ア ズ ス 菌ヨ ー グ ル トの 保存中 におけ るビフ ィズ ス菌の 生残性 に対す る酸素 の影 響を検 討 し, 保存中 の酸素 がビフ ィズ ス菌の 生残性 に大き く影響 する ことを 確認し た。このヨーグルトに 硫酸 鉄,力 夕ラー ゼ,ア スコ ビン酸 ナ卜リ ウムを 添加し たと ころ, 特にカ タラーゼの添加によル ビフ アズス 菌生残 性が大 きく 改良さ れた。
ビフ ィズス 菌に対 する 酸素毒 性緩和 物質と して ,ラク トフェ リン, ラクト ペルオキシダーゼを 試験 したと ころ, 両物質 とも 牛乳培 地中に おける 生育あ るい はヨー グルト 中における生残性など に, 酸素毒 性緩和 効果を 持っ ことが 示され た。ラ クトフ ェリ ンの効 果はそ の結合鉄によるもので あり ,ラク トペル オキシ ダー ゼの効 果はカ タラー ゼと同 じ作 用によ るもの であることが明らかと なっ た。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 斎 藤 善 一 副 査 教 授 冨 田 房 男 副 査 教 授 高 橋 興 威 副査 助教授 三河勝彦
本 論 文は ,7章 か らなり ,図29,表25, 引用文 献75を 含む総 頁数134の和 文論 文であ る。別 に 参 考 論 文14編 が 添 え られ て い る 。
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ビフィ ズス菌 は, 人間の 健康と 深く関 わる ことか ら,食 品,医 薬品, 酪農 飼料な ど様々な分野 におい て広く 利用さ れ, 乳業界 におい ても本 菌を含 む数 多くの 製品が 開発さ れて いる。 しかしな がら, 偏性嫌 気性菌 であ るため 酸素の 影響が 大きく ,ビ フィズ ス菌を 含む乳 製品 を開発 するため には, 本菌と 酸素の 関係 にっい て知る 必要が ある。 本研 究は培 養上の 問題を 解決 するこ とを目的 とし, ビフィ ズス菌 の酸 素に対 する挙 動にっ いて検 討を 加え, 本菌の 酸素吸 収活 性,酸 素代謝機 構と酸 素感受 性の関 係, 酸素毒 性緩和 物質の 検索, そし て醸酵 乳中に おける 本菌 への酸 素の影響 にっいて明らかにした。
ビフ ィズス 菌とし てBifidobacterium bifidum (ATCC 15696),B.infantis (ATCC 15697), B. breve(ATCC 15700),B.adolescentis (ATCC 15703), お よびB.longum2菌 株(ATCC 15707,BB 536)を 用 い ,そ れ ら の 酸 素吸 収活性 を詳細 に検討 したと ころ ,全て の菌株 におい て 酸素吸 収現象 が観察 され た。ま た,本 菌はグ ルコー ス等 の基質 を必要 としな い内 生酸素 吸収活性 も高か った。 一方, 本菌 の菌体 内には 多量の グリコ ーゲ ン様物 質と考 えられ る多 糖類が 含まれて いた。 このグ リコ― ゲン 様物質 の滅少 により ,内生 酸素 吸収活 性の大 幅な低 下を みたこ とから,
ビフィ ズス菌 の示す 内生 酸素吸 収は, 菌体内 貯蔵物 質で あるグ リコー ゲン様 物質 の代謝 により起 こることを推察した。
酸 素 感 受 性と 酸 素 代 謝 機構 と に っ いて 検討し た結 果,B.inをmfs,B.6reUe,B. めnぎumは ほぼ 同 様 な 酸 素感 受性 を示し たが,B.adofescP凡tぬだ けは他 の3菌株に 比べ て酸素 感受性 が高 い こ と が 観 察 さ れ た 。 一 方 , ビ フ ア ズ ス菌 はNADHオ キ シ ダ ーゼ お よ びNADHペ ル オ キシ ダ ー ゼを持 ち,分 子状酸 素を 過酸化 水素を 経て水 に還元 する 酸素代 謝機構 を持っ こと が示さ れ,これ ら両酸 素の活 性が酸 素感 受性と 対応し ていた ことか ら, 両酵素 が本菌 の酸素 毒性 防御機 構として 働いていることを示した。
酸素毒 性を緩 和す る物質 および そのメ カニ ズムに っいて 検討し た。培 地中 へのカ タラーゼ,硫 酸鉄あ るいは アスコ ルビ ン酸ナ トリウ ムの添 加は酸 素毒 性緩和 効果を 示した 。微 好気条 件下でカ タ ラ ー ゼ あ る い は 硫 酸 鉄 を 添 加 し て 培 養 し た 菌 体 に お い て は ,NADHオ キ シ ダ ー ゼ お よ び NADHペ ルオ キ シ ダ ー ゼの 活 性 が 嫌 気 培養時 に比 べて1.5〜4.5倍に上 昇した が,嫌 気培 養時に これら の物質 を添加 して も両酵 素活性 は上昇 しなか った 。また ,アス コルビ ン酸 ナトリ ウムの添 加によ っても ,両酵 素活 性は上 昇しな かった 。した がっ て,ア スコル ビン酸 ナト リウム はその還 元 カ に よ り 本 菌 に 酸 素 由 来 の ス ト レ ス を 与 え な い 環 境 を 形 成 し て い る と 推 察 し た 。 B.め′。n£fs,B.breUe,B.ad,soぬsce凡とfs,ならびにB.め′曙Hmにっいて,乳業への利用に おける 酸素の 影響を 明確 にし, その対 策を検 討した 。酸 素存在 下にお けるビ フア ズス菌 の酵母工
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キス添加牛乳培地における生育は,菌株の酸素感受性によって変化した。アスコルビン酸は,酸 素感受性の高いB. adolescentisの生育を改善したが,B.longumに対して効果がなかった。
カタラーゼ,硫酸鉄は両菌株に対して生育改善効果を示した。
ビフアズス菌ヨーグルトの保存中において,酸素がビフアズス菌の生残に大きく影響すること を確認した。ヨーグルト製造時に硫酸鉄,力夕ラーゼ,アスコルビン酸ナトリウムを添加したと ころ,特にカタラーゼの添加によルビフアズス菌生残性が著しく改良された。ラクトフェリン,
ラクトペルオキシターゼの添加は,牛乳培地中,およびョ―グルト中におけるビフアズス菌の生 育,あるいはヨーグルト中における同菌の生残性を改善し,酸素毒性緩和効果を持っことを明ら かにした。
以上の効果成果は,ビフアズス菌の特殊な性質を解明し,醸酵乳等の製造に利用する場合の貴 重 な 知 見 を 示 し た も の で , 学 術 上 , ま た 応 用 の 面 か ら も 高 く 評 価 さ れ る 。 よって審査員一同は,別に行った学力確認試験の結果と合わせて,本論文の提出者島村誠一は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。
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