【司会:小藤康夫】それでは時間になりましたので,後半のパネルディスカ ッションに移りたいと思います。これからの時間配分として,まず私のほう からパネリスト 人の方々に質問し,お答えいただきます。その後に,フロ アから御質問をお受けするという形で進めたいと思います。
発表順に 番目の報告者であります中浜先生からお聞きします。
保険業をめぐるグローバリゼーションの背景と動向 ということで,グ ローバル化の推進力として国内的・域内的要因と国際的要因に分けながら つの事柄を指摘されています。それは金融サービス分野への規制緩和,金 融・保険グループの形成・成長,そして人口動態の変化でした。そうした中 で先進諸国では既にグローバル化に向けて積極的に取り組んできました。わ が国は最近に至って,その動きをようやく進めています。なぜこのような相 違が生じたのでしょうか。 つの事柄に絡めながら説明して頂けないでしょ うか。
私見ですが,欧米の保険会社とわが国の保険会社ではガバナンスの相違が あるからではないかと考えています。最近になって外国人持株比率の上昇が 目立ちます。この要因が外部からのチェックを厳しくさせ,グローバル化を 推進させているようにも感じます。保険会社をめぐるガバナンスの強化も つの事柄に加えて指摘できないでしょうか。
【中浜 隆】先生がご指摘されましたように,私は先ほどの報告で,国内 的・域内的要因と国際的要因に分けて,それぞれ つの要因を挙げました。
グローバリゼーションと保険業
創立75周年記念大会シンポジウム
パネルディスカッション
その際に 先進国に着目した場合 と言いましたが,それはアメリカ,EU,
そして日本です。アメリカ・EU・日本で事情(要因)が異なるかもしれま せんし,同じアメリカでも損害保険業と生命保険業で違いがあるかもしれま せん。さらに同じ生命保険業でも,個社で事情が異なるかもしれません。そ のために,これらを全部まとめて議論したのは無理があったと反省も含めて 思っているところです。アメリカ・EU・日本と広くとっていますので,で きれば共通した側面を出せないかということで つの要因を挙げてみました。
小藤先生のご質問は,むしろ違いのほうであろうかと思います。ご質問と ともに第 の要因として,保険会社をめぐるガバナンスの強化という点を指 摘できないかとのご高論をいただきました。
ご存じのとおり,日本の損害保険会社では, 大メガ損保の持ち株会社の 外国人持ち株比率は現在,40%を超えるほどになっているようです。他方,
生命保険会社では2000年代に入り 社が株式会社化しまして,大手では第一 生命が2010年に株式会社化しました。外国人株主と申しましても,機関投資 家が多分多いのだろうと思います。外国人株主は株主利益(投資収益率)を 重視しているということをよく聞きます。こうした外国人持ち株比率の上昇 や株式会社化の時期の違いが保険会社の海外進出の時期の違いの大きな要因 になっているかというと,私は決して否定するつもりはありませんが,大き な要因にはなっていないのではないかと考えています。つまり,別の要因が あるのではないかと考えています。
ここではアメリカと日本を取り上げ,損害保険会社と生命保険会社に分け て考えてみたいと思います。
日本では,1998年に損害保険料率の自由化が行われ,本格的な価格競争の 時代を迎えました。アメリカでは,日本のような全国的な料率規制が行われ ていたということは伺っていません。アメリカの損害保険市場は世界で最大 ですが,損害保険会社は数が多いだけでなく,以前から料率競争を行ってき たと思います。そして,それが損害保険会社の収益性に影響を与えてきたな らば,収益機会を求めて海外進出しようとするインセンティブがアメリカの
損害保険会社には比較的早くからあったのではないかと思います。
他方,生命保険会社につきましては,アメリカでも日本でも1980年代以降,
利差損の発生という同じ事態が生じました。しかしアメリカと日本では,
つの点が異なっていました。 つは事態が生じた時期であり,もう つは利 差益に転換するまでの期間です。アメリカでは,1980年代に利差損が発生し,
90年代初めにエクイタブルの経営悪化やエグゼクティブライフの経営破綻と いう事態が生じました。こうした事態がおよそ10年遅れて日本で生じ,しか も日本では利差益に転換するまでの期間が長かったということです。こうし た点が日本とアメリカの生命保険会社の海外進出の時期に影響を与えたので はないかと考えています。
また,個社の事情や経営者の判断も大きいと思います。先ほどの池尾先生 のご講演にありましたが,東京海上は1980年にアメリカの損害保険会社を買 収したが,結果的にうまくいきませんでした。東京海上の場合は,その後の 海外進出に対して慎重になったという側面もあると思います。こう言っては 身も蓋もなくなるかもしれませんが,やはり経営者の判断も大きいと思いま す。
【司会】御丁寧に答えて頂きましてありがとうございます。
次に 番目に報告された木下先生に御質問したいと思います。国際保険監 督規制に関連する資料は膨大な量です。それを読破しながら正確に理解する のに大変な努力を払われたと推察します。そういう中で 番目に報告された 第一生命の野口さんが子会社業務範囲規制に注目し,監督体制の整備やリス ク管理手法の進展等の状況を踏まえながら抜本的な検討を要する時期に来て いると主張されています。
野口さんは仕事を実際に行ううえで子会社業務範囲規制を無くしたほうが よい,あるいは改善したほうがよいといったニュアンスの主張をされていま す。国際保険監督規制の立場から見て,木下先生はこれに対してどのように お考えでしょうか。
【木下孝治】お答え申し上げたいと思います。子会社業務範囲規制を検討さ れたグループ経営ワーキングに,私もメンバーで入っていました。当時は,
全体としての私は,このワーキングで,規制緩和は慎重にというスタンスで 申し続けていました関係で,そのときの発言と真逆のことは,この席でもな かなか言いにくいという言い訳を最初に申し上げたいと思います。当時は海 外進出のチャンスであるという大義があり,戦略的にただちにこれを見直す べきであるということだったと思います。そういう戦略性は 当然,みんな 分かっているよね というようなことでした。その折に,併せて,包括移転 についても規制緩和をせよという,契約者保護の観点から,より慎重な検討 を要するように見えた問題とセットでしたから,そこでの議論に引きずられ て,子会社規制についてもなかなか大きく一歩を踏み出すという気運が,私 も含めて育てられなかったと思い,振り返っています。
今日の報告に出てきたことを材料に考えるとしますと, つの手がかりが あると考えています。一つ目ですが,金融危機対応ということから申します と,今回,保険会社についても金融市場の安定を損なわないようにという話 になったのは,皆さまご案内のとおり,保険会社の非保険金融業務で健全性 を大きく害したという実績があるというわけです。そういう実績があるので すが,金融業務の垣根や,リスク性の高い取引についての規制自体を元に戻 そうという動きは全くないわけで,あくまでも資本規制です。資本規制の中 に循環増幅的な効果を生じるものを組み込もうとか,あるいは資産運用上偏 ったインセンティブを生じることもコントロールしようということをいろい ろと工夫して折り込んでいくのですが,そういう資本規制の中で,過剰なリ スクテークのブレーキをつくっていこうという期待があるのだと思います。
そういうことを踏まえてということだと思うのですが,最新の実務をご紹 介下さった本日の後半の報告の中でも,リスク管理というか ERM が,既に わが国の監督指針の下で積極的に導入されて活用されているということがあ り,ComFrame の中でも,そういうものが新たな監督体制の基盤になると いうことが IAIS のレベルでも出されているということがあります。ですか
ら,バランスシートの上で広くリスクを特定して,資本規制を強化するとい うのがトレンドですから,この子会社リスクの問題は,ある程度対応できそ うだと思われます。
他方,報告の中でも少し触れましたけれども,現段階での IAIS の作業で は,非保険事業についてのリスク管理手法がまだ開発途上でありまして,こ の問題を具体的に,どのように取り上げるかということは,IAIS の資料を 見ていますと,まだこれからということです。それらを踏まえて,今,答え を出せと言われますと,IAIS の作業がどうなるか,その進展を待ってから 判断してもいいのではないかというのが,私なりに筋の通る答えだと思いま す。
最後に,結局,報告の中でも申しましたように,何らかの形で保険業法の 改正をしなければなりません。これは銀行法並びの整備法的な改正になるか もしれませんけれども,何らかの形で法改正をするという際に,今回の目玉 は,明らかに資本規制の導入という保険契約者保護の方向性とも親和的な改 正とセットになるわけですから,こういうものと併せて,子会社の業務範囲 の規制を緩和するという論点の組み合わせというか,あるいはタイミングと しては適当だと思いますので,今度は前向きに考えることも十分にあり得る のではないかと思います。それでは遅すぎるというお声もあろうかと思いま すけれども,現在の 年猶予規制と組み合わせて何とかうまくいけばいいが という希望を持っています。
【司会】続いて 番目に報告された岡田先生の 保険業のドメスティック性 とグローバル性 について御質問します。報告の中ではそれほど強調されな かったかもしれませんが,レジュメでははっきりと情報の不均衡性とモラル ハザードの問題を取り上げながらドメスティック性を強調されています。そ の問題を解消するために市場規律,情報開示,透明性,説明責任,自己責任 というキーワードを並べ,このうち市場規律には限界があるという御主張を 展開されていると解釈しました。
具体的に生保と損保に分けながら,具体的事例を挙げながら説明して頂け ると助かります。また,そのことがグローバリゼーションとうまく噛み合わ なくなる可能性についても説明して頂きたいと思います。
【岡田太志】ご質問,ありがとうございます。今,先生のほうからご質問を いただきましたとおりで,モラルハザードの問題と情報の問題をまず取り上 げました。今回いただいたテーマは,二分法で,保険業が持っているドメス ティック性とグローバル性を浮き彫りにせよ,そして,グローバル性と保険 業の親和性を明らかにせよ,ということだったと思います。そこで採った手 法が,近隣の銀行・証券との違いから,保険業の特徴を浮き彫りにしたいと 考え,着目したのが規制でありました。規制を考える際に,おそらく規制の 分類方法は,研究目的によっていろいろあると思いますが,一つには,健全 性規制,行動規制,競争規制ということで三分類する方法があります。その 方法で,銀行は何ゆえに規制されて,目的は何なのか,方法はどうなってい るのか。証券の場合は,保険は,というので,理論的な比較研究ですが,そ れで違いを見ようということで,改めて情報の問題を取り上げました。
いわゆる情報に関わる一連の問題について,何を申し上げたいかというと,
生損保に分けてとか,生保の場合は,損保の場合はというのではなく,銀行,
保険,証券の三つを相対比較しますと,保険については健全性規制も行動規 制,競争規制もがっちりあります。銀行の場合は,どちらかというと,健全 性の方にずっと重心がある規制になっています。証券の場合は,行動規制に 重心がある規制になっています。それぞれに特徴があるということで,私が 申し上げたかったことは,情報の非対称性と市場の失敗の可能性との関連で は,おそらく金融産業の中で,保険がさまざまな局面で最も錯綜する状況に あるのではないかと,その状況はおそらく,保険が一番きついのではないか と。おそらく最もシンプルなのは証券で,間にあるのが銀行で,保険が一番 情報の非対称性に関わる問題を含んでいます。この問題が至るところにある ということになっているのではないかという特徴を浮き彫りにすることによ
って,それを銀行業,または証券業との関係において,保険の特性と捉えて みたいと思ったわけです。それには幾つか理由があります。
保険の歴史を勉強したり読んでいますと,おそらくアメリカもそうですし,
ヨーロッパもわが国もそうですし,今もそうかもしれませんけれども,規制 が先行するのは銀行で,若干遅れて証券,あるいは証券は争っていて,保険 が遅れているという見解をみたりします。例えば,保険はどうあるべきかと いった時に,銀行を見て,そこからアナロジーで保険のことを考えるとか,
あるいは銀行がこのように動いたから,それを保険に当てはめるとこうだと か,いろいろな場面でそういう歴史が繰り返されてきたのではないでしょう か。保険の歴史を学ぶ者としては,保険は遅れていると常に言われながら,
また他業からの影響を受けながら,必ずしも保険に問題があるのではないの だが,変えられていくということが,なぜ起きるのかという問題意識も持っ ています。今もこうした一面があるのかもしれません。もう少し積極的に保 険のドメスティック性や特質性というものを強く主張してもいいのではない かという問題意識を常に持っています。なぜそうなのかということはまだ解 決できていないのですが,それ故に問題提起をしたところです。
特質性ということをもう少し申し上げておきますと,市場や組織との関係 でありますが,保険事業規制や保険市場における規律の限界はどこにあるの かということです。解明しているわけではありませんけれども,ひとつは長 期性だと思うのです。これも相対的なもので,価値循環の転倒性は唯一保険 業にのみ特徴的なものではなく,他の産業にもあるのではないかとおっしゃ ると思うのですが,それにしても確かに 年,10年の契約は長いと思うので す。
続いて つ目は,市場規律が働きにくいということ,スポット性と呼ばれ るものだと思います。例えば自動車保険の場合では,20歳で入って50年間ド ライバーをすると,生涯を通じて何回,自動車保険市場に出ていって保険を 買うのか,基本的に50回です。現状では生涯を通じて,せいぜい 人50回ま でかと思います。一方,物価の優等性とされ,価格が市場均衡的に決まって
いるとされる卵については,われわれはいったい生涯を通じて何回卵を買う のか。その回数比較をすれば,おそらくスポット性という意味では,保険の 場合には,市場規律は非常に働くにくいのではないかという問題意識です。
次に,各大学ともそうだと思うのですが,図書館に入りますと,判例研究 のコーナーというものがあります。そこで,銀行に関する判例研究,証券に 関する判例研究に比べて,圧倒的に多いのは保険に関する判例研究なのです。
何故に保険については,これほどまでに判例研究が長らく積み重ねられてき たのか,これはいったい何を示しているのか,そこには何か金融他業との違 いがあるからではないか,という問題意識を抱かざるを得ないわけです。そ して,そういう意識の下で,情報の問題,モラルハザードの問題を話したわ けです。
つ目のご質問だと思うのですが,どのようにグローバリゼーションとか み合わなくなるのかという点です。グローバリゼーションとかみ合わなくな っていくというプロセスを,正確にイメージというか,考えついているわけ ではないのですけれども,先ほど私の報告の中で,Commins と Venard の 編著による研究,16の国と地域についての研究をご紹介いたしました。これ は2005年に始まって2007年に出された研究です。そこでは,今日は詳細には ご紹介できませんでしたが,非常に強いディッファレンシーズ,中浜先生に 多様性と訳していただきましたが,多様性が見られるという事実が確認され ています。そこには随分と深いさまざまな要因があるのではないかと考えて います。
この16の国と地域をそれぞれに保険制度のモデルと考えれば,16のモデル があの研究の中で示されているわけです。ただしそれでも,潜在的にわれわ れが考えるところの保険制度の可能性という観点から考えれば,実現してい るのはほんの一部でしかないのです。われわれがイメージする,健全で効率 的で安定的な,経済を支えるに有用な保険制度のバリエーションはまだまだ 残されていて,決してすべてが出尽くしているわけではないと考えていると ころです。そう考えますと,何か一つこれぞ理想的な制度,市場も十全に機
能する,これが唯一の制度,そしてルールだ,という考え方そのものに対し ては,私自身は非常に懐疑的な思いを持っています。実は,まだわれわれの 知恵はすべて出し尽くされておらず,今後もさまざまなバリエーションが考 えられるということで,また実際にそういうことが起こるという限りにおい て,グローバリゼーションというものはなかなかに収斂していかないのでは ないかと考えています。
【司会】それでは 番目に報告された第一生命の野口さんに御質問します。
生保商品の種類についてです。アジアの新興地域を中心に展開している生 保が販売している主力商品は養老保険,ユニットリンク,投資信託です。本 来の生命保険といいますと,亡くなったときに保険金が下りる保障性商品で すが,なぜアジアの地域では保障性商品が売れないのかということに疑問を 持っています。
わが国の過去を振り返りますと,明治時代の頃は養老保険が主力商品でし た。なぜかというと,亡くなったときにお金が下りる本来の生命保険につい て国民が十分に理解していなかったという背景があったようです。
昨日,慶応大学図書館に特設された福澤諭吉展で明治生命を起こしたお弟 子さんの阿部泰蔵氏の資料を見させて頂きました。当時は生保会社を立ち上 げるにあたって大変苦労されたようです。死亡によりお金が得られる仕組み にかなりの抵抗感があったからです。そこで,無事に生きていてもお金が下 りる養老保険しか理解できなかったのだと思われます。わが国では戦後にな って生命保険の本来の役割が理解できるようになり,保障性を付けた定期付 き養老保険や定期付き終身が爆発的に売れました。
このような過去の経緯を知っているからこそ,アジアの新興地域での養老 保険等の販売も長期的戦略からいずれ死亡保障型商品につながると考えてい るのではないかと感じました。最近では,徐々にアメリカのほうにも進出し ています。この動きはアジアの新興地域では生命保険の理解が浸透するのに 時間が掛かると判断したのではないかとも解釈できます。生命保険は複雑で
すので理解度が国によって違っているのではないかと思いますが,いかがで しょうか。
【野口直秀】まず,先ほど木下先生のほうから,私の報告に関して,非常に 示唆に富むコメントをいただきましてありがとうございます。報告でも触れ ましたが,業務範囲規制の問題はかなり過去から経緯のある問題ですし,独 禁法など他法令との関係もありますので,なかなか簡単にいく話ではないと 思います。いただいたように ERM や国際的な監督の枠組みの中でどのよう に対応していけるかという点も含めて,いろいろ検討していく必要があると 思います。
次に,アジア各国での商品性のご質問をいただきました。報告でも触れま したが,アジア各国で養老保険等の貯蓄性商品が非常に売れているという状 況はご指摘のとおりです。保険会社としても,保障性を含めた幅広い保険商 品の普及を志向していますが,マーケットの状況をみるともう少し時間がか かるだろうと思います。
日本の経験値に照らすと,先ほど日本の商品構成の変化をご指摘いただき ましたけれども,日本でも戦後を含めて養老保険がずっと主流でした。1960 年ぐらいから定期保険を付加した定期付養老,1970年代ぐらいから,定期保 険と終身保険を組み合わせた定期付終身が普及し,徐々に保障が大型化して いったという経緯があります。それがアジア各国にそのまま当てはまるかど うかは分かりませんけれども,経済成長とともに国民の生活が豊かになって,
保障性を欲するニーズというのも出てくるのではないかと考えています。
例えばということで, 人当たり GDP の話が今日も出ていましたけれど も,現状でいきますと,IMF の調査では,中国は7,500ドル,インドでも 1,600ドル,ベトナム2,000ドル,タイ5,400ドルというレベルにあります。
これは,過去の日本の1人当たり GDP の伸びのグラフとプロットすると,
1950年代から60年代ぐらいという位置に来ると思います。先ほど1960年代ぐ らいから,定期付養老がどんどん売れていったという話をしましたが,相対
的には保障性商品の拡大に向けた入り口にあり,今後拡大が期待できるとい う捉え方もできなくはないと思います。
一方で,全くそれが当てはまるかどうかは,まだこれからというところも ありまして,岡田先生からも,各国・地域のドメスティック性というか文化 というご指摘をいただきましたが,国民性などの要素がどこまで関係してく るのかというところはよく見ておく必要があると思います。例えば中国など でも家計の貯蓄率が非常に高く,貯蓄を好むといわれています。そういうと ころで今後保険マ−ケットがどうなっていくのかは注目しているところです。
また,各国別でみても,例えばベトナムでは,医療保険制度が未成熟で使い 勝手が悪いというところがあり,調査によっては医療保障のニーズが一番に 来るケースもあります。当社の子会社も医療特約の販売を開始して対応して いるところですが,各国別に見るときには,国民性などの他に社会保障制度 との関係なども見ていく必要があると思います。
【司会】ありがとうございました。
引き続いて 番目に報告された三井住友海上の鈴木さんに御質問します。
損保の普及度について実態と実務の方との感じ方の違いのようなものについ てお聞きいたします。
損保会社は自動車保険料に代表される収入保険料の伸び悩みから海外市場 で M&A を展開しております。その中で分母に GDP を取り,分子に損保保 険料収入を取った損保普及度を見ますと,まだ伸びる傾向にあります。さら に先進国の資料(2013年 月末のデータ)から各国の損保普及度を調べます と,日本が2.27%であるのに対して,アメリカは4.52%,ドイツは3.69%,
フランスは3.57%,英国4.32%です。わが国の損保普及度はまだまだ伸びて いくのではないかというのが実感です。数字から判断する限り,損保市場は 飽和状態に達していないように感じられます。
それにもかかわらず,どうして海外市場に向けて積極的な動きに転じてい るのでしょうか。あるいはそうした指標とは関係なく,リスク分散化といっ
た視点から海外業務にウエイトを移しているのでしょうか。そうであれば再 保険はそれに代わる役割を十分に果たせないのでしょうか。
【鈴木衆吾】今のご質問ですが,まずリスクの分散化というところで,先ほ どの私の報告の中でもグループのリスク選好方針を示していますが,まず国 内も海外もリスクテイクしていく,両方増やしていくという考えがあります。
その中で,海外事業の拡大は,先ほどお話ししたとおり,ポートフォリオの 分散や,収益源の多角化,収益の安定化による健全性の確保,という考えの もとで進めていますので,国内事業の拡大と並行して,海外事業の拡大を目 指しています。
また,国内の GDP 対比の比率が他国と比べると少なく見えるという点で すが,日本の場合は全体の市場規模・ボリュームが大きい一方,GDP 対比 では主要国と比べると少ないように見えるのは事実としてあります。しかし,
この数値自体は,その国の制度,日本でいう労災保険などですが,国が運営 している制度が充実していると民間に保険をかける部分は減ってきますので,
そのような見た目の普及率は,政府の制度によって上下する面があると思い ます。また日本の場合は共済などもありますので,損保の普及率で絶対値を 比較すると低めですが,いろいろな捉え方があるように考えています。
先ほど小藤先生から,飽和状態というコメントがあったと思います。日本 の場合は自動車保険や火災保険という,いわゆる伝統的な保険商品の加入率 というのは,世界的に見ても非常に高い水準にあります。保険金額や補償内 容も,高額で手厚い内容ですし,将来的には少子高齢化の進展で,市場が縮 小していくということもいわれていますが,伝統的な保険商品に関しては,
成長の余地は限られていて,飽和状態にあるという見方はあると思います。
一方でこのような事業環境の変化,少子高齢化の進展にはプラスの側面も ありまして,高齢者の増加やライフスタイルの変化,あとは国が後押しする 成長産業の出現,企業による海外進出の増加等,今までなかった未知のリス クを顕在化させてくる面もあると思います。そこにビジネスチャンスも出て
くる,このように考えています。そのような意味では,日本にも潜在的な市 場,新たなリスクを取るという,このような挑戦ができる余地がまだあるの ではないかと考えています。中長期的には緩やかな成長というのも,国内市 場においては可能ではないかと考えています。
【司会】ありがとうございました。
今までは報告者御一人ずつ指名しながら議論を進めてきました。今度は全 体を通して答えられる方から自主的に挙手して回答して頂きたいと思います。
共通の話題として M&A の目的についてすべての報告から伺いましたが,
結局,国内のみに絞って業務を展開していくといずれ収益に限界が見えてく るので,海外市場に向かって行かざるを得ないという内容だったと解釈して います。海外 M&A を繰り広げる最大の理由は収益の拡大にあることは誰 しも認める事実であろうと思います。
それともう一つはリスク分散化の視点から国内業務に専念するよりも海外 業務も展開したほうがいいだろうと考えられます。それ以外の要因があると したら,何かご指摘して頂きたいと思います。
最近ではアジアから欧米に向けて海外進出が展開されています。これはリ スク分析や保険引受の専門的業務をこなす人材やノウハウの確保が目的では ないかとも推察されます。どなたか教えて頂けないでしょうか。それでは中 浜先生にお願いします。
【中浜】その他の要因ということですが,やはり主要な要因(目的)は,先 生がおっしゃったように収益の拡大とリスクの分散であろうと思います。
最近ではアジアから欧米へ ということをご指摘されましたが,欧米は市 場規模が大きく,収益規模も安定的ですので,魅力的なのだと思います。ノ ウハウの取得もあるかもしれません。保険会社の保険引受のほうは,私は詳 しいことは存じませんけれども,資産運用のほうですと,日本はずっと低金 利状態が続いていますし,保険業における資産運用の重要性というのもあり
ますので,海外の資産運用会社との提携には,商品開発や資産運用のノウハ ウの取得という目的があるのではないかと考えています。私が説明できるの はこの程度です。
【司会】いきなりで申し訳ないのですが,岡田先生にもお願いします。
【岡田】私は答えを持っていないのですが,今,中浜先生がおっしゃった,
収益の拡大,リスクの分散という要素は大きいと思います。収益の拡大もリ スクの分散化も恐らくは収益の拡大のため,ひいては企業価値の最大化に向 けての試みだと思います。あとはそれほど大きなポイントではないかもしれ ませんが,他の産業においてもグローバル化というものが非常に進んできて,
それが金融業,保険業についても,後押しの力になっているのではないかと 思います。
【司会】次に損保の生保子会社について質問します。
わが国のメガ損保は本体に相当する損保事業のほかに海外事業や生保事業 も展開し, つの事業ポートフォリオを組み立てています。その中で生保子 会社が非常に伸びています。結局,生保子会社の躍進で組織全体に余力が生 まれ,海外業務への進出が勢いづいているのではないだろうかと感じます。
生保子会社と海外事業の関連性についてどのようにお考えでしょうか。鈴木 さん,いかがでしょうか。
【鈴木】生保子会社は,私は専門ではないのですが,小藤先生がお話しのと おり,大きく言いますと,国内の損保事業,国内の生保事業,海外事業とい う つの大きな事業領域があります。私どもの場合は,海外で損保事業,ア ジアでは生保事業もやっています。海外事業に限らず,国内損保も国内生保 も伸ばしていく考えです。伸ばしていって何を目指したいかというと,一つ は先ほど何回かお話ししたとおり,収益性をそれぞれ向上して,健全性を確
保するとともに収益の安定化を図っていくこと。それによって,新たなリス クテイクができるような状態になります。損保事業の場合はリスクへの対応 力がやはり根っこの部分ですから,何か大きな事故があってつぶれてしまう という,そんな会社であってはいけないし,お客様に対しての安心を提供し なければいけませんので,それぞれの事業を伸ばしていくことで,全体の規 模を拡大して,新しいリスクを引き受ける,この余力をつくっていくという ことが大きいと考えます。
業界全体で,損保子会社の国内生保会社が伸びているというのは事実だと 思いますが,それだけが海外事業展開の直接の要因ではありません。もちろ ん,国内損保の自動車保険を中心としたコンバインド・レシオの改善,国内 生保の伸び,これらによる資本バッファーを新しい事業の投資に当てていく ことは,海外に限らず今後も十分あると考えます。
【司会】次に生保の販売チャネルに関連した質問をします。
主要生保は海外進出に積極的に取り組んでいます。その一方で,国内でも まだ成長する余地が残されているようにも感じられます。過去において,営 業職員による販売チャネルが圧倒的な存在感を示していました。営業職員の 方は GNP 戦略といって,義理の G,人情の N,プレゼントの P を営業の手 段として活躍していました。最近では新 GNP 戦略という言葉を耳にします。
その場合の G は銀行窓口,N はインターネット,P はショップです。つま り,営業職員による販売チャネルのほかに銀行窓口販売,インターネット販 売,そして乗合代理店による販売チャネルが伸びていることです。
こうした動きを見ていると,リスクを冒しながら積極的に海外進出しなく ても国内でもまだ成長の余地が残されているように感じます。いかがでしょ うか。どなたか,お答え頂くと助かります。
【野口】生命保険に関するところですので私から答えさせていただきます。
ご質問の前提として国内の生保マーケットが厳しいのではないかという問
題意識もあると思いますが,どの角度から見るかで捉え方が違ってくると思 います。生保協会が統計を公表していますけれども,収入保険料で見ると,
前年度決算でも対前年107%で伸びています。確かに保有契約額は過去長ら く減少してきたという経緯はありますけれども,実は前年度決算では対前年 100%で下げ止まり,直近の 月末の保有契約額は対前年100.3%で,若干上 向いています。恐らく死亡保障自体は当然人口構成に合わせて減っていくと いう面はあると思いますが,その分,年金など投資性の商品や医療分野,介 護などは成長しています。マーケット自体がシュリンクしているというより,
その内容が変わってきているという捉え方をした方がよいと思います。
当社においても,そのような成長分野向けに国内で保険子会社をつくり,
販売チャネルの特性やお客さまのニーズを踏まえたエッジの利いた商品を提 供すべくしっかり経営資源も投入しています。国内をあきらめて海外にとい うことでは全くなく,国内も頑張って海外も頑張ります。例えば,弊社では 専用の子会社をそれぞれつくって,銀行向けに投資性の外貨建保険などを提 供する会社をつくったり,これは始まったばかりですが ネオファースト ということで,医療分野の保障をショップ等に供給していくという会社もつ くったりしています。本体ではなかなか小回りが利かないようなエッジの効 いた商品を,専用の保険子会社をつくって供給していくと。そこで競争力を 高めて,お客さまに買っていただくという努力をしている状況です。
【司会】時間も徐々に経ってきましたので,私のほうから最後に質問して,
その後,フロアの皆さんから御質問を受け入れるという形で進めていきます。
今日,保険業界のランキングが盛んに入り乱れています。昔は規模による 順位が固定化していましたが,最近では海外 M&A の影響からランキング が変動しています。海外 M&A の目的として利益の短期的な拡大が挙げら れますが,長期的に見て業界内でのランキング争いの手段として利用できる ような側面があるのではないかと感じます。どの業種であれ規模が 位にな ると信頼が得られる傾向があります。ナンバーワン効果です。 位になるた
めの手段として海外 M&A が利用されているのではないかと勘ぐったりし ているわけです。
それに関連して全く非科学的で学問的に証明されているわけでもないので すが,アナリスト達がしばしば の法則を唱えます。業界内で競争が繰り広 げられると,最終的に 社に絞られ,業界の黄金律として売上高は 位が 割, 位が 割, 位が 割の値に収束するという内容の法則です。確かに 自動車業界はトヨタの独り勝ちで,日産,ホンダが続いています。最近では 携帯業界なども 社に絞られています。生損保業界も の法則に吸い込まれ ていくのではないかと考えたります。業界の方にとっては馬鹿げた失礼な質 問に感じられるかもしれませんが,どなたかお答え頂きたいと思います。中 浜先生,どうぞお願いします。
【中浜】野口先生と鈴木先生は答えにくいと思いますので,私か岡田先生,
木下先生が答えるのがよいでしょう。ランキング競争が海外事業を押し上げ ていることはないか,また の法則は保険業界にも当てはまりそうか,とい うご質問ですね。
私は先ほどの報告で,塗先生のご研究に少し言及しました。アメリカの三 大生命保険会社は19世紀後半にイギリスをはじめ海外で事業を展開しました。
塗先生は,アメリカの三大生命保険会社の海外進出(外国営業)は国内にお ける拡張競争の延長として行われたと捉えられていたと思います。現代の海 外 M&A も,ランキング競争と関係しているのかもしれません。ナンバー ワン効果はやはり知名度の点で大きいと思います。ランキング競争について は経営者の方々にお聞きするのが一番早いと思うのですが,私としてはラン クをあまり気にしていただきたくないという希望を持っています。
それから の法則ですけれども,損保業界では三大メガ損保が誕生してい ますので, の法則は損保業界には当てはまっていることになります。生保 業界では,現在は大手 社ですので, の法則が当てはまるには, 社のう ちの 社が脱落するか,あるいは 社のうちの 社が合併するか,多分どち
らかしかないだろうと思います。今後どうなっていくのか,単なる推測でお 答えすべきではないと思いますので,よく分からないと答えさせてください。
【野口】 点だけコメントさせてください。
今のご質問ですが,われわれ事業者側からしますと,経営も含めて,海外 事業の買収を数字の足し算という捉え方はしておりませんし,やはり経営の クオリティが大事だと思います。数字の上では,買収して10+10で20ちょう どにはなりますけれども,むしろその後の経営管理が非常に肝で,場合によ っては10+10が15ぐらいになることもあり得るということです。どの会社さ んもそうだと思いますけれども,数字を足してランキングをどうという考え 方は取ってないと思いますので,一言コメントさせていただきました。
【司会】それではフロアの皆さんから御質問を受けながらパネリストの方に 答えて頂くことにします。慣例に従いまして,御所属と御名前をお願いしま す。
【遠藤 寛(損害保険事業総合研究所】損保総研の遠藤です。先ほど基調報 告で,池尾先生のほうから,日本の保険会社は競争上,どのような優位と強 みがあるかということと,任せきりにならない経営管理体制を確立し,それ を担える人材を育成していくことがポイントだというお話がありましたけれ ども,代表して野口さんに,この 点につき,どうお考えについて,お答え いただけないかと思います。
【野口】補足があれば鈴木さんのほうから,いただければと思います。
人材が肝だというのはまさにおっしゃるとおりだと思います。弊社でいけ ば,10年ぐらい前から本格的に海外展開をしていますけれども,海外に人を 送って勉強したり,現地の保険会社でいろいろトレーニングを積んだりとい うことで,地道に人材育成をしてきています。海外展開した後も,先ほど鈴
木さんからもありましたが,現地の保険会社から当社に来ていただき,隣で 机を並べて業務を行ったり,会議を開催したりして,そこで切磋琢磨して,
グローバルなマネジメント力を高めているところです。われわれレベルでも,
例えば法務やコンプライアンス,ERM など,テーマごとに,各国の海外子 会社の人材を一堂に集めて,泊まり込みで研修というか会議をやったりしま す。ちょうど今月にも会議があったのですが,このような機会を生かして英 語でしっかり意見交換をしていく中で,国際的なマネジメントを高める努力 をしています。
【遠藤】最初の質問についてはいかがでしょうか。
【野口】日本の保険会社の競争上のメリットについては,特にアジアの中で 考えた場合に,日本のブランドやバックアップというのは競争力も含めて,
ある程度あるのではないかと思います。例えば欧州系の保険会社は伝統的に 貯蓄性商品が得意ですが,先ほどベトナムの医療特約の話もしましたが,保 障性の商品開発という面では,われわれから海外の子会社にいろいろノウハ ウを提供したりして競争力を高めている面もあります。
チャネル管理の観点では,アジア各国では個人の募集代理店での営業が一 般的であったりしますが,国によっては体制が未熟なところもあったりしま す。チャネル管理については,われわれ生保業界は営業職員と長くお付き合 いをして管理のノウハウを相当に蓄積していますので,営業経験者をアジア の子会社に送り込んで,営業の制度を変えたり,管理手法を変えたりしてい くことで,エージェントの能力を引き出すということをしています。
例えば,先ほどのベトナムの子会社などは買収前の時点ではシェアは 4.4%でしたけれども,こうした改善努力を経て,今は %とシェアを拡大 し 位の位置まで来ています。改善プロセスを繰り返して,現地の保険会社 にも当社と組むメリットを感じていただきながらやっているということです。
お答えになっていないかもしれませんけれども,以上です。
【本間照光(青山学院大学)】青山学院大学の本間です。中浜先生と岡田先生 にお聞きします。
本日の池尾先生の基調報告では,現代化として銀行,証券,保険の生損と いった業態概念を解消していった先に成功がある,という趣旨のお話だった と思います。日本の改革は10年遅れだ,敗者復活戦だ,人材育成だと。
実は池尾先生は,20年前,1995年の保険学会大会で,大会のテーマが57年 ぶりの 新保険業法について でしたが, 金融変革の中での保険制度改革 という基調報告をされていて,20年後の今日につながっているわけです。
1995年の基調報告でも,10年遅れの遅れに失した改革で日本が全力で追いか けても,先行集団はさらに先を行っているとのことでした。お聞きしたとこ ろによれば,今日の他の報告者の方々も,その大きな枠組みを与件として,
前提されているように見受けられました。幾つかの疑問符は付いていました けれども。
そこでお聞きしたいのですが,先行する諸国のうちで,どこに現代化,成 功事例があるのかということです。成功事例は,海のかなたの空想の世界に しか存在しないのではないでしょうか。私は成功事例があるのではなくて,
転落競争を繰り広げてきたのではないかと考えています。その背景に,改革 の名で推進された政策と経営,学説があって,それに起因して起こっている ということは,われわれ学問研究に携わる者にとっても,非常に大きな責任 があるのではないでしょうか。
私は95年の大会で,改革なるものの一層の推進によって,危険な実験を繰 り返すことになるのではないか。それはやってはいけないということを発言 しました。95年の学会は,金融改革,そして保険制度改革,翌96年に94年の 合意の駄目押しで日米保険合意が強行されました。そして金融ビッグバンで すね。翌97年から,次々と日本の生命保険会社が 分の つぶれていきまし た。それは何となくつぶれたわけではないのです。この一連の流れの中で起 きたことです。金融グローバリゼーションへの進出が早かったから損保が生 保に先行したのではなく,逆です。駆け込み乗車をした生保が破綻し,遅れ
た損保の痛手が少なかったのです。学問的検証と再出発が求められています。
その日米保険合意を演出し,指導した AIG 保険がリーマン・ショックで 破綻しました。ですから,これは日本国内の問題であるとともに,国際的な 金融保険の問題でもあるということです。私は,問題の立て方が大きく違っ ているのではないかという具合に感じました。金融工学なる錬金術が可能な のではなくて不可能だということを踏まえてこそ,初めて展望が見えてくる のではないかと思います。言うならば本業回帰です。各業態,保険業はもち ろんそうですけれども,その本業回帰を堅持してこそ未来が見えてくるので はないかと。今は業界にとっても先が見えないのではないでしょうか。改革 の遅れが劣化をもたらしたのではなく,事実は改革なるものによって劣化が もたらされたのであります。求められるのは錬金術師ではなく,それが不可 能だと自覚し動じない人材です。
実は遅れていると見えたことが遅れているのではなくて,事業の本質に基 づくものであり,むしろ強みだということを確認して,事業も学問も進んで いくべきだと思いますが,諸先生はいかがですか。
【岡田】ご質問,ありがとうございます。頂いたご質問との関連では,経済 発展段階説というものがあります。先ほど申し上げましたけれども,先頭を 走るのがどこそこの国で,若干遅れてどこそこがあって,日本は随分遅れて いるとか,あるいは先頭を走るのが銀行で,すぐ後ろを走るのが証券で,保 険は随分遅れている,損保はいいが生保はもっと遅れていると,そういう議 論かと思います。
端的に申し上げれば,歴史観というものはおそらく単線進化論と複線進化 論の つがあります。単線進化論とは,先頭がどこそこの国で,後が遅れて いるということです。複線進化論は,それぞれに固有の発展段階があってと いうことで,歴史観として単線進化論を取るか,複線進化論を取るかという ことになってくるかと思います。私は複線進化論というものを考えています。
例えば,経済の発展段階ですと,それぞれなかなかに要素が違ってきます。
よくあるご質問ですが,日本と欧米ではほぼ同じ経済の発展段階にあるから,
今後グローバル化はどうなるのかということですが,これも非常に粗い議論 で,先進国の中でもアメリカという国は移民の国ですので,高齢化問題は抱 えていなかったりして,少し違ったところが微妙に効いてきたりすると考え ます。
先生のご質問に直接お答えすることにはなりませんが,先生のご質問との 関連では,私は複線進化論という視点を失ってはいけないといつも考えてい ます。
【中浜】ご質問を賜りまして,誠にありがとうございます。私はグローバリ ゼーションの良し悪し(功罪)という視点から保険業のグローバル化を考え ていませんでしたので,先生のご質問にお答えすることはできません。申し 訳ございません。貴重なご教示をいただきましたので,今後の研究の糧にさ せていただければと思います。
【大森義夫(ポストライフ)】ポストライフの大森です。
岡田先生に,先ほどの本間さんの質問と類似するのですけれども,この保 険業のグローバル性とローカル性の観点ですが,例えばアメリカにおいては ホームオーナーズ保険が,生損保でやられて,それで発展途上国においては,
養老保険的なものが好まれるというのが形だとすると,グローバル化でより いっそう発展途上国に対する金融規制が厳しくなってくるのではないかと思 います。そうするとかえって,発展途上国のニーズを満たせないようになっ てくる,そういうジレンマに陥るのではないかと思うのです。
その際,当然先進国から侵入した会社が大きな資本力を持って,その発展 途上国における保険業に対する発展を妨げるという状況が生じかねないと。
そうするとイコールの競争ではなくなるというように感じるのです。そうい う観点からいえば,ある程度ローカルな金融機関に対する何か優遇的な措置 というものが,税制でもいいのですけれども,資本規制的なものを求めなが
ら,競争条件をイコールにさせるべきではないのか。いわゆる両方発展させ るためには,そのように思うのです。その国において,発展途上国において,
そのような政策を取ることができるのだろうか。そういうことに対するご意 見はいかがでしょうか。
【岡田】今日の報告の中で,一つあまり触れることができなかったのが,ル ールやマネジメントを担保するガバナンスの問題です。先生からご指摘があ りました内容は,より一般化すると,おそらく発展途上国と先進国間だけの 問題ではなく,発展途上国間にあっても,わが国とアメリカの関係において もあるかもしれません。問題意識として持っていますのは,統一的ルールは ルールということで,ルールをベースとして,最後にガバナンスをどこまで 準備できるか。それは今朝方からも少し話が出ていたと思うのですが,まさ に今,各国が交渉に入っている段階で,国の代表者は国益をしっかりと主張 しつつ,制度づくりに参加するという意識とともに,この点が大切ではない かと思います。
ガバナンスにつきましては,マネジメントの上位概念がガバナンスと理解 しているのですが,それは最後は責任の問題でどこまで制度化できるかとい うことで,一国とグローバル化された組織との違いは,一国の場合には,政 府があって,責任を持って一国の中で完結するという点です。そういうもの が国境を超えてつくられるかというと,おそらくつくれないのではないかと 思うのです。そこには明らかに限界があると思いますので,グローバルガバ ナンスという言葉は概念としては出てきますが,これはつくれないのではな いか,それを克服するためには,まさに国益を代表する折衝の中で,前提条 件として,そのあり方を探っていくということがまずは基本なのではないか と考えています。
【大森】農産物とかそういうものに対しては,一応企業としてできるのだけ れども,なぜ金融分野はそういうことができないのですか。いわゆる保険と
か銀行とか,そういうところにおいて,ローカルな企業を,ドメスティック な企業を育成するような施策というのは税制からできそうだと思うのですが,
その辺りはどうしてできないのですか。
【岡田】難しいご質問ですね。うまく答えられないですけれども,どうして それができないかということになりますと,政策が大きいと思うのですが,
政策の目的が恐らくそこにはないのではないでしょうか。時の政策当局者の 判断かもしれませんが,そもそも,いずこの国においても,今おっしゃった ようなところには政策目標がないということではないかと思います。
【鈴木智弘(信州大学)】信州大学の鈴木と申します。本日は貴重なお話をあ りがとうございました。たくさん質問したいことがありますが, 点だけに 絞らせていただきます。変なたとえですが,家庭生活でも結婚する前は価値 観が合って結婚して,離婚するときは価値観が違ったという形で離婚します。
企業の場合というのは,離婚したらおしまいということではないと思うので すが,国際事業を考えていくときに,海外事業自体はどういう目的を取るの か,特に M&A をする場合に,どういう目的を達成するのか。これは言い 換えれば,エグジットポリシー(exit policy)をどこに置くのかということ が非常に大事だということを考えるわけです。
特に第一生命の野口様,三井住友の鈴木様は答えにくいことかもしれませ んが,海外ビジネスにおけるシナジーといっても,先ほどのお話を聞くと,
資産運用と一部の人材養成に関してはシナジーはある程度見いだせると思い ます。それ以外は国の制度が違って,共通な商品ができない等から,なかな かシナジーを発揮するのが難しいと思うのです。御社にとって海外事業とい うものの目的,特にエグジットポリシーは何でしょうか。
これは非常に答えにくいかもしれませんが,例えばアメリカの場合であれ ば,結婚のときに結婚契約書というものをつくって,万が一離婚するときに は,このような財産分割をしますということまで,かなり明確に記載するわ
けです。これから海外の M&A をやっていく際には,そのような視点とい うものがあるのか。また海外事業で何を目指すのかが,先ほどから話題に出 ている,海外人材とは,どういう人材なのかという定義にもなると思います。
今までのお話を聞いていると,現地法人レベルのグローバル化はやってい ると思うのですが,一番の問題点というのは,日本企業の30年以上前からの 海外進出を見ていると,いわゆるガラスの天井があって,なかなか現地の人 たちというのが,ある一定のところにいけない。だから優秀な人たちは日本 企業にあまり来ないということが,日本の製造業の国際化の中で大きな問題 になっていると思います。そのような先行する事例というものは十分研究さ れて,海外に進出されていると思いますが,差し支えない範囲でどのように お考えになっているのかを教えていただければ幸いです。
【野口】しっかりお答えできる自信はありませんが,コメントさせていただ きます。
おっしゃるとおり,結婚前には,まず経営レベルでコミュニケーションを 取って価値観を共有するというのは当然しっかりと行っています。結婚した 後も,離婚しないようにしっかり,先ほど申し上げたようなコミュニケーシ ョンや改善取組みを実施していって,幸せな結婚生活が送れるよう努力を継 続します。
しかし,当然投資する以上は,離婚も想定して,しっかりと投資前に投資 基準あるいは撤退基準,これは IRR になると思いますが,そういう基準を しっかり定めて,そこを下回ってくるおそれがあれば,いろいろ改善努力を 高める。仮に,それでも基準を下回ってどうしても駄目だということであれ ば,そこはエグジットの判断になってくると思います。うまくいかない場合,
そうならないように頑張るわけですけれども,当初の目的が達成できない場 合には,そこはしっかり管理できるのかなと。
あとはガラスの天井というところで,一番大きいのは言葉の問題だと思い ます。外国の方が日本に来て,しっかりと昇進できるのかという問題意識か
と思います。例えば鈴木さんのところもそうだと思うのですが,当社もシン ガポールとニューヨークに地域統括会社を置いて傘下の地域の海外子会社の 管理をしています。そういう拠点では,使っている言葉は英語です。日本人 社員が出向して行って,むしろ英語で四苦八苦している中,地域のローカル 人材は英語を駆使して生き生きと働いています。統括会社レベルでは,英語 のローカル人材をどんどん採用し育成しているような状況です。確かに日本 でどうかというところはあるのですが,地域統括のようなところも含めて,
人材交流をして,現地のローカル人材もどんどん活躍する場面は増えてきて いると思います。
経営レベルで見たときには,社外取締役で外国出身の方も活躍されていま す。また,海外子会社の経営者も地域統括会社の取締役などにも就任し,し っかり会社全体のガバナンスの中で活躍されています。人材面の取組みは終 わりがないと思いますので,グローバル化の進展に向け継続して努力してい くべき点と認識しています。
【司会】ありがとうございました。時間が来ましたがせっかくですから,最 後にお 人ということで質問をお受けします。
【米山高生(一橋大学)】時間がないのにありがとうございます。一橋大学の 米山と申します。私も具体的にお聞きしたいことがたくさんあるのですが,
時間もないので,先ほどの本間先生の質問はとても大事だと思ったので,こ れに関して今日の話でずっと引っ掛かりがあったので,それに関連して質問 をします。
グローバリゼーションの定義は,岡田先生のプレゼンテーションにあって,
私は,グローバリゼーションはあの定義でいいと思うのですけれども,この 議論の中で,小藤先生を中心に,グローバリゼーションイコール保険会社の 海外進出と取られかねないような問題設定をされています。例えば塗先生の 研究によるアメリカ生保の海外進出をグローバリゼーションの先駆のように
示されていたようですが,あれはアメリカの保険会社の多国籍企業化の先駆 と考えるべきではないでしょうか。何を言いたいかといいますと,グローバ リゼーションの中で,保険会社の海外進出を考えるという問題設定をすれば,
先ほどの本間先生の問題を考慮することができると思った次第です。また,
発言のポイントは,保険会社の海外進出イコール,グローバリゼーションと すべきではないのではないということです。
もう一つは木下先生にご質問をしたいと思います。国際的な金融規制の目 的を国内法に対するリパーカッションするというのはとても大事だと思いま す。他の国で国際金融のシステミックリスクへの対応を盛り込んでいるよう な法律というものがあれば,教えていただきたいと思います。
【司会】最初のほうのお話は御意見という形で受け入れていいですね。それ では木下先生,お願いします。
【木下】グローバル金融市場のシステムリスクを正面から入れた保険監督法 制が、国内法のレベルにおいて,現在進行形で進んでいるかといわれますと,
私はまだそういうものに出会っていません。EU のソルベンシーⅡはタイミ ング的に,リーマン・ショックの後の処理とほぼ同時に進んでおりました。
私がドイツに行っていましたときに,ソルベンシーⅡを入れる過程で,その ようなリスク管理的な問題を考えて議論しておりました。ただ,ソルベンシ ーⅡのリスク管理の中で,グローバル金融市場の安定ということが正面から 議題,話題になっていて,それをどうしようかというところまではいってい なかったというのが印象です。
【司会】ありがとうございました。それでは予定の時間を大幅に過ぎました ので,これで終わりにします。最後に本日の議論が皆さま方の研究,ならび に保険会社の方々のお仕事の役に立てたならば幸いです。
これで本日のシンポジウムを終わりにします。長時間にわたり,お付き合
いいただきまして誠にありがとうございました。これで終わりにさせていた だきます。