グローバリゼーションと保険会社の 海外進出:はじめに
平成23年度大会シンポジウム
総合司会 久 保 英 也
日本の製造業と同様に,日本の保険会社が堰を切ったように海外に進出し ている。1980年代後半にはグローバルな資産運用をめざし投融資の拠点とし て欧米に進出したが,今回は現地において保険の引き受けを目的とし,その 形態も既存の保険会社を買収するもの,現地法人を設立するものなど多様で ある。その背景にはここ10年で,日本の保険業界のおかれている経営環境や アジア地域の市場性が劇的に変化したことがある。
このシンポジウムでは保険会社の経営行動の変化が如実に表れる国際化,
すなわち, グローバリゼーションと保険会社の海外進出 を取り上げるこ ととした。
⑴ 国際化の背景
保険会社の国際化がこの時期に加速するには理由がある。円滑な国際化を 進める国内の条件は1990年代後半から進んだ。具体的には,①1996年の新保 険業法施行が金融自由化への対応を掲げ,競争の促進,競争条件の整備,健 全性確保に向けたインフラ作りを促したこと,②損害保険,生命保険共に国 内市場が伸び悩み,死亡保障市場などは一部に縮小する動きが明確に見られ ること,③保険ニーズの多様化とそれをニッチにとらえる特化型保険会社
(ブティック化)の躍進(ネットチャネル,共済形態)の登場,などがあげ
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*平成23年10月22日の日本保険学会大会(神戸学院大学)報告による。
/平成24年1月23日原稿受領。
グローバリゼーションと保険会社の海外進出 日本保険学会大会】シンポジウム
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ただ,この環境変化への対応は損害保険業界と生命保険業界とでは異なっ ている。損害保険業界では,短期間に保険料の全面自由化への対応を迫られ たことから,①経営統合などによる大規模化,保険会社の集約化,②販売チ ャネル全般の見直し,代理店チャネルの合理化・統廃合,という大胆な行動 がとられた。一方,生命保険業界では,バブル時の高い予定利率商品販売と その後の長期の低金利や国内株式市場の低迷とによる,いわゆる 逆ザヤ の埋合わせのための徹底した事業費の圧縮,②破綻会社の処理とその引受け 手となった外資による
M&A
の進展,③相互会社の株式会社化の加速(株 式会社に転換した会社の収入保険料のシェアは全体の19%(簡保除き,2010 年度)),など生き残りをかけた対応がなされた。一方で,両業界が共通して対応したことに,①子会社方式による互いの相 手方保険事業への参入,②保険金不払い問題への対応,そして,③保険業務 についての海外進出,があげられる。
さて,保険会社が海外に進出する理由を理論的に考えると,主に以下の7 点があげられる。①先発している欧米系保険会社や現地保険会社とは異なる 経営戦略の展開,②保険引受リスクの国際分散,③長期的にみた(将来の)
円安に備えた先行投資,④世界水準の経営ノウハウの獲得,⑤日本の本社に 対する意識改革,⑥ブランド価値の確立,⑦日本国内の投資収益率の極端な 低下,である。
一方で,このような理論的な理由があったとしても,現実に海外進出を決 断するとなるとさらに高いハードルが存在する。たとえば,①過去に進出し た,または投資した海外保険事業の社内評価はどうか,②社内の人材を勘案 した時,市場性,文化が異なる海外市場で利益を確保できる目途は立てられ るか,③保険業においても,製造業のような差別化できる技術力や魅力が存 在するのか,④保険事業を安定的に運営するのは大量の保有契約が必要であ るが,それを可能にする強靱な販売チャネルを確保できる目途はあるか,④ 会社全体の利益に寄与する程の海外保険事業で利益の絶対額を将来的には確
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保できるのか,⑤基礎データが少ないと考えられる海外市場で保険の引き受 け能力は十分か,などである。
⑵ シンポジストの分担領域
海外保険事業への進出は,単に国内の保険事業の成長戦略が描けないから 事業リスクが高い海外保険事業に進出ということはありえず,多くの要素を 勘案し優先付けした後の経営判断であると考えられる。ただ,これらの判断 は個別会社の経営マターであり,一般論として整理することは困難であるか もしれないものの,生命保険業界,損害保険業界に共通する国際戦略や所属 会社の独自の戦略について,3名のシンポジストの方からお話をいただきた いと考えている。
損保業界の状況について,野村秀明氏(三井住友海上)から,生保業界の 状況については谷口哲也氏(第一生命)から,そして,日本の保険業界の海 外進出の姿を進出先の現地から見た場合について沙銀華氏(東京海上日動保 険中国現地法人)からコメントをいただく。この議論を横軸とし,更に議論 に深みを加えるため,縦軸として保険会社の海外進出について理論分析を加 えることとした。具体的には,①相互会社の海外進出への妥当性評価,②日 中保険会社の効率性を比較することによる競争力評価,である。この部分を 久保(滋賀大学)が担当する。このテーマは, 日中および相互・株式会社 間の効率性比較からみた相互会社の国際化の評価 となる。
(筆者は滋賀大学大学院経済学研究科教授) 保険学雑誌 第 616号
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