62 (東京女医大誌第28巻第4号頁288−290昭和33年4月)
人涙腺内に認められアこ有孔核“・Lochkerne”
に!)いて
東京逓信病院眼科(部長高野安雄博士)加 藤 淑 子
カ トウ 司シ コ(受付 昭和33年1月9日)
1 緒 言 種々の染色法,鍍銀法を施した成人涙腺の組織 標本を観察中,所謂有孔細胞核を発見して多大の 興味を覚えたが,主な研究目的は他にあったので, ここでは有孔核の本態や発現機転等を論ずること はできない。ただその観察結果のみを述べてみた いと思う。 ■ 観察標本 材料:病変の認められない成人眼瞼部涙腺 固定:カルノア液,ツェンケルホルモール液及び 10倍中性ホルマリン液に摘出直後固定 染色:ヘマトキシリンエオジン重染色,アザン染 色,チオニン水溶液染色,ヌクレアル染色(Feulgen 反応)及びビルシ・ウスキー切片鍍銀法(鍍銀の みは30∼40μの凍結切片を用い,他の染色には5 ∼15μのパラフィン包埋切片を用う) 封入:アルコール,キシロールを経て脱水後,バ ルサム又はビオライトを用う。 皿 自家所見及び考察 1.分泌細胞の有孔核(第1及び第4図) 涙腺終末部を形成する分泌細胞の核の中央或い は周辺が,恰も鋭利な穿孔を受け,またはえぐら れたかの如く正円形乃至楕円形の欠損を示して被 染色性,好銀性がない。 欠損孔は多くの揚合1コで,核はドーナツ形を 呈するが,時には2∼3コの小欠損孔の存在する こともある。欠損部の大きさは核の殆んど半分を 占めるものから,かなり小さいものまで様々であ る。穿孔が不完全で,単に陥凹を示すのみの核も肇《》ハ奮澱轟
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第1図 涙腺分泌細胞の有孔核鍵盤轡鯵
第2図 涙腺内毛細血管内皮細胞の有孔核例ダ¢夢蟻繧瑠
第3図 涙腺内脂肪細胞の有孔適例 第4図 涙腺分泌細胞の有孔核(Li) 稀にある。しかしいつれの揚合にも欠損孔の境界 は極めて明瞭である。 かかる有孔核は,腺細胞においては稀に発見さ れるのみであるが,腺小葉の中央部よりはむしろ 周辺部に多く存在する。Yoshiko KATO (Tokyo Teishin Hospita1, Eye CJinic) : On nuclei with hole ’iLochkerne’i in human
lacrimal glands.
os 第5図 毛細血管内皮細胞の有孔核(L2) 2.血管内皮細胞の有孔核(第2及び第5図) 腺実質内に分布する毛細血管,並びに細小動静 脈の内皮細胞においても有孔核が認められるが, 分泌細胞の有孔核に較べると発見度数はさらに勘 い。 扁平な内皮細胞核を小管状に貫通する核欠損 で,概して小さく,大きいものでも核全体の数分 の一・を占める程度である。 3. 脂肪細胞の有孔核(第3及び第6図) 脂肪細胞は腺実質内に散在し,しばしば大きな 脂肪滴のために核は原形質と共に一隅に圧排せら れている。これら脂肪堅甲の大部分,及び未だ脂 肪滴を含有するに到らぬ脂肪母細胞においても一 購鑓灘
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第6図 腺内脂肪細胞の有孔核(L3) 及び分泌細胞の有孔核(Ll) L3 Ll 乃至数ケの,上述の如き欠損孔を有する有孔核が 認められる。 使用したアルコール,キシロールのために脂肪 滴は融解し去り,脂肪滴の部分は組織標本では大 きな欠損として認められる。 以上は臨床的にも組織的にも涙腺自体に病変を 認めない組織標本についての観察結果であり,死 後変化等を考慮:する余地はない。したがって有孔 核は恐らく生理的に存在するものと思われる。核 小体,クロマチン,好銀性顯粒は非欠損部に分布 している。 不完全穿孔が一部の分泌細胞核において見られ る以外には穿孔は完全で,三種の細胞を通じて欠 損孔の状態は鏡検上全く等しい。いつれの組織標 本について観察したところでも,欠損孔と核質と の境界は明確であり,周囲は楕円形を呈する場合 もあるが,正円形のことが最:も多く,不正形を呈 するものは見られない。脂肪滴の溶出によって生 じた脂肪細胞の空隙の小規模のものの如き所見を 呈し,表面張力の大きな水溶性或いは脂溶性の流 動性物質の溶出によって形成せられた核の空隙で あろうと判断せられる。 St6hrは脂肪細胞,唾液腺及び脳の毛細1血管内 皮細胞に見られるLochkerneは核内に存在する 脂肪滴の溶出によるらしいと述べた。しかし石沢 によると有孔核は細胞核を貫通して存在する管ま たは窓を有する核の総称で,生理的意義,発生機 転は決して一律一様のものではない。脂肪細胞の 有孔核は核内の脂肪小滴の溶出によって発生する ことは成書にも見られるところであるが,成人涙 腺内の毛細1血管及び細小血管の内皮細胞,分泌細 胞の核において稀に認められる有孔核も,恐らく これと類似の原因によって形成せられた生理的な 存在であろうと思われる。 なお涙腺細胞の有孔核については,浜崎のいわ ゆる生理的血色性核質涌出現象が聯想せられるが 小滴の核外値嵩像は確認し得ない。 脂肪細胞,唾液腺内及び脳内毛細血管の内皮細 胞,イモリ幼虫の原腎上皮細胞の有孔核について はすでに記録せられているが,成人涙腺の分泌細 胞,腺実質内に分布する毛細血管及び細小動静脈 の内皮細胞における有孔核についての記録は見当 らないので以上簡単に報告した。その発現機転及 び本態を明らかにするためには,他日改めて実験 的研究を行う必要があると考える。IV結 語
成入健常涙腺の各種染色組織標:本を鏡検中,分 泌細胞及び腺内に分布する毛細血管等の内皮細胞 には稀に,腺小葉内に散在する脂肪細胞には屡 々,所謂有孔核,LcChkerneを認めた。恐らく 核内に生理的に含有せられる流動性物質が溶出し て生じた小欠損と考えられる。 一 289 一64 先行研究に引続き御指導御校閲を賜りし東大萩原教 授,東京逓信病院高野部長,東京女子医大久保田教授 に謝意を表す。 参考文献 1)浜崎葦雄,病理組織標本の見方と鑑別診断の付 け方(南山蛍),15,(昭23) 2) 3) 4) 5) 浜崎幸雄,細胞核の生理と病理(永井書店), 37, 231, (Ha 26) 石沢政男,福岡医大誌,14,492,(大10) 岡嶋敬沿,解剖学,1(吐鳳堂),78,(昭15) St6hr jr, Ph.:Lehrb. d. Histolog. (Springer−Verlag), 20, (1951) 一 290 一