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開発途上国における経済状況と手洗いに用いる洗浄剤の選択に関する研究-カンボジア貧困層を事例として- 利用統計を見る

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(1)

開発途上国における経済状況と手洗いに用いる洗浄

剤の選択に関する研究-カンボジア貧困層を事例と

して-著者

貫 久望子

学位授与大学

東洋大学

取得学位

博士

学位の分野

国際地域学

報告番号

32663甲第422号

学位授与年月日

2017-09-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00009006/

(2)

2017 年度

東洋大学審査学位論文

開発途上国における経済状況と

手洗いに用いる洗浄剤の選択に関する研究

-カンボジア貧困層を事例として-

国際地域学研究科国際地域学専攻博士後期課程

4810120001 貫久望子

(3)

目 次 目次 ... ⅱ 図・表・写真リスト ... ⅵ 略語一覧 ... ⅸ 現地写真 ... ⅹ 現地対象地地図 ... ⅺ 第1章 序論 ... 1 1.1 研究の背景 ... 2 1.2 研究の目的 ... 4 1.3 研究の方法 ... 4 1.3.1 文献調査 ... 4 1.3.2 カンボジアにおける現地調査 ... 4 1.3.3 手洗いに用いる洗浄剤の購入可能人口割合に関する感度分析 ... 5 1.4 先行研究と本研究の位置づけ ... 5 1.5 本論分の構成 ... 6 第2章 手洗いの意義と開発途上国の手洗いの現状 ... 7 2.1 手洗いが確立されるまでの経緯 ... 8 2.2 適切な手洗い方法とは ... 9 2.3 手洗いに用いる洗浄剤としての石けん ... 12 2.4 下痢性疾患等に有効な手洗い ... 13 2.5 開発途上国の手洗いの現状と手指衛生教育の介入 ... 15 2.6 本章のまとめ ... 20 第3章 カンボジアの基本情報と手洗いの現状 ... 22 3.1 カンボジアの基本情報 ... 22

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(2)人口の分布と変遷... 22 (3)宗教、教育および識字状況 ... 25 (4)経済格差と貧困削減への取り組み ... 26 (5)水道整備と水利用状況 ... 28 (6)地下水のヒ素汚染問題と対策事例 ... 30 (7)衛生整備状況 ... 31 3.2 下痢性疾患罹患状況と洪水の影響による健康被害 ... 33 3.3 手洗いの現状 ... 35 3.4 本章のまとめ ... 37 第4章 カンボジア貧困層の経済状況と手洗いに用いる洗浄剤に関する調査 ... 39 4.1 はじめに ... 39 4.2 調査対象地の概要... 39 4.2.1 調査対象地の位置と選定理由 ... 39 4.2.2 調査対象世帯数と家族人数等の基本情報 ... 41 4.2.3 回答者の年齢別でみた衛生教育受講状況 ... 42 4.2.4 調査対象世帯の衛生設備使用状況 ... 43 4.3 調査対象地の水供給設備と手洗いへの利用状況 ... 44 4.4 手洗いに関する調査の方法 ... 45 4.4.1 調査概要 ... 45 4.4.2 洗浄剤の保有状況と手洗いへの使用状況に関する聞き取り調査 ... 45 4.4.3 手指汚染度調査... 45 (1)手指汚染度調査の概要 ... 45 (2)手指汚染度測定装置の原理と使用方法 ... 46 4.4.4 手洗い前行動と手洗い頻度に関する聞き取り調査 ... 48 4.4.5 洗浄剤への支出と家計支出額に関する聞き取り調査 ... 48 4.5 液体石けんへの支払い意思額調査 ... 48 4.6 手洗いと家計支出状況に関する結果 ... 49 4.6.1 洗浄剤の保有状況と手洗いへの使用状況 ... 49 4.6.2 手指汚染除去率検査 ... 50 4.6.3 手洗い前行動と手洗い頻度から見た流水の必要性 ... 53

(5)

4.6.4 家計支出額調査... 54 4.7 液体石けんへの支払い意思額調査 ... 57 4.8 本章のまとめ ... 59 第5章 貧困層における手洗いに用いる洗浄剤の購入可能性の検討 ... 60 5.1 はじめに ... 61 5.2 手洗いに用いる洗浄剤の購入可能世帯割合を算出するための変数と計算式 ... 63 5.2.1 変数の設定 ... 63 5.2.2 手洗いに用いる洗浄剤の購入可能世帯数算出のための計算式 ... 64 5.2.3 カンボジア農村を事例とした手洗い剤購入可能世帯割合 ... 65 (1)手洗い1回当たりの費用の算出 ... 65 (2)手洗い剤4品目を購入可能な世帯割合の算出 ... 65 (3)ルー村を事例とした手洗い剤購入可能人口割合算出に関する結果 ... 67 5.3 カンボジア貧困層の手洗い剤購入可能人口割合の算出 ... 68 5.3.1 調査対象地 ... 68 5.3.2 手洗い剤購入可能人口割合の算出方法 ... 69 5.4 本章のまとめ ... 72 第6章 カンボジア農村部における流水の利用と石けんを用いた手洗いの関係性 ... 73 6.1 はじめに ... 74 6.2 調査地概要 ... 75 6.3 調査概要 ... 76 6.3.1 手指汚染度調査... 76 6.3.2 手洗い前行動ごとの水供給設備使用状況に関する聞き取り調査 ... 76 6.3.3 手洗い前行動ごとの手洗い剤使用状況に関する聞き取り調査 ... 76 6.3.4 家計支出額調査... 77 6.4 水供給設備使用状況、手洗い状況および家計支出状況に関する結果 ... 77 6.4.1 調査対象世帯における回答者への手指汚染度調査 ... 77 6.4.2 手洗い前行動ごとの水供給設備使用状況 ... 80 6.4.3 手洗い前行動ごとの手洗い剤使用状況 ... 81 6.4.4 水道整備世帯と水道未整備世帯の家計支出額状況の比較 ... 83

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6.5 本章のまとめ ... 86 第7章 結論 ... 87 謝辞 ... 92 参考文献 ... 93 付録 1 ルー村の回答者情報および家族人数の結果 ... 100 付録 2 ブーディンスラムの回答者情報および家族人数の結果 ... 101 付録 3 経済状況と手洗い状況に関する質問票 ... 102 付録 4 水供給設備の使用と手洗いに関する質問票 ... 108 付録5水道整備世帯の回答者基本情報 ... 113 付録6水道未整備世帯の回答者基本情報 ... 114

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図・表・写真リスト 第1章 序論 図 1-1 世界の5歳未満乳幼児死亡原因の割合 ... 3 図 1-2 途上国における持続的発展を妨げる感染症のリスク ... 3 第2章 手洗いの意義と開発途上国の手洗いの現状 図 2-1 適正な手洗いの手順... 10 図 2-2 固形石けんによる交差感染のイメージ ... 13 図 2-3 粉石けん水溶液の作成イメージ(出典;筆者作成) ... 17 図 2-4 ティッピー・タップのイメージ ... 18 図 2-5 アルミ缶を用いた簡易流水装置のイメージ ... 19 図 2-6 F 図(F-Diagram) ... 19 表 2-1 手指洗浄の過程でみられる動作や手洗い用洗浄剤に関する用語の定義一覧 ... 11 表 2-2 手洗い用洗浄剤の種類 ... 12 表 2-3 自己感染と手洗い後にみられる糞便性細菌のコロニー数 ... 14 写真 2-1 ケニア農村部における粉石けん水溶液入りのバケツ設置の様子 ... 18 第3章 カンボジアの基本情報と手洗いの現状 図 3-1 カンボジアにおける 1960 年~2015 年までの人口の遷移 ... 24 図 3-2 カンボジアにおける年代別の人口割合と実質GDP成長率の推移 ... 25 図 3-3 カンボジアにおける家屋内給水の普及率 ... 29 図 3-4 カンボジアの改善された衛生設備の普及率の変化 ... 31 表 3-1 カンボジアの州都面積と人口 ... 24 表 3-2 カンボジア都市部と農村部におけるトイレの種類 ... 32 表 3-3 カンボジアにおける下痢性罹患率の推移 ... 34 表 3-4 カンボジアにおける州別の手洗い状況 ... 36 写真 3-1 カンボジアメコン川下流域の洪水の様子 ... 23 第4章 カンボジア貧困層の経済状況と手洗いに用いる洗浄剤に関する調査 図 4-1 カンボジアにおける調査対象地の位置イメージ ... 40 図 4-2 ルー村の年齢別の衛生教育受講状況 ... 42 図 4-3 ブーディンスラムの年齢別の衛生教育受講状況 ... 42 図 4-4 ルー村のトイレ設備使用状況 ... 43 図 4-5 ブーディンスラムのトイレ設備使用状況 ... 43

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図 4-7 ルミテスターPD-30 の発光原理 ... 47 図 4-8 手洗い剤4品目と水洗いによる手指汚染度除去率のばらつき ... 52 図 4-9 ルー村における手洗い前行動 ... 53 図 4-10 ブーディンスラムにおける手洗い前行動 ... 53 図 4-11 ルー村の手洗い剤への支出限度ライン ... 55 図 4-12 ブーディンスラムの手洗い剤への支出限度ライン ... 55 図 4-131ヶ月1人当たりの全家計支出額分布 ... 56 図 4-14 ルー村とブーディンスラムのジニ係数およびローレンツ曲線 ... 57 図 4-15 推計された液体石けんの需要曲線 ... 58 表 4-1 調査対象地の人口と調査対象世帯数 ... 41 表 4-2 世帯の洗浄剤保有割合と手洗いへの使用割合 ... 49 表 4-3 被験者別の手指汚染度除去率 ... 51 表 4-4 手洗い剤別手指汚染除去率 ... 52 表 4-5 項目別支出額 ... 54 写真 4-1 ルー村でみられる高床式住居 ... 40 写真 4-2 ルー村村内の商店が並ぶ通り ... 40 写真 4-3 ブーディンスラムの建屋と周辺の様子 ... 41 写真 4-4 ルー村住民の手洗い ... 44 写真 4-5 ブーディンスラム住民の手洗い ... 44 写真 4-6 ルミテスターPD-30 とルシパックペン ... 46 第5章 貧困層における手洗いに用いる洗浄剤の購入可能性の検討 図 5-1 カンボジア農村を事例とした全家計支出額分布 ... 67 図 5-2 ルー村を事例とした手洗い剤4品目の購入可能世帯割合 ... 68 図 5-3 手洗い剤への支出可能割合と購入可能人口割合 ... 71 表 5-1 手洗い剤購入可能人口割合の算出に用いる変数 ... 63 表 5-2 手洗い剤4品目の手洗い費用 ... 65 表 5-3 カンボジア農村を事例とした手洗い剤4品目の購入可能世帯割合算出用設定値 .. 66 表 5-4 手洗い剤への支出可能額算出のための変数 ... 70 表 5-5 調査対象地における手洗い剤4品目の手洗い費用 ... 70 第6章 カンボジア農村部における流水の利用と石けんを用いた手洗いの関係性 図 6-1 カンボジア農村部の軒先給水管までの配水イメージ ... 74 図 6-2 カンボジア農村部の民家敷地内の軒先給水管の位置イメージ ... 75 図 6-3 水道整備世帯と水道未整備世帯の位置 ... 81 図 6-4 水道整備世帯の手洗い前行動別の各手洗い剤使用者割合 ... 82

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図 6-5 水道未整備世帯の手洗い前行動別の各手洗い剤使用者割合 ... 82 図 6-61ヶ月1人当たりの家計支出額分布 ... 85 表 6-1 調査世帯数および調査した世帯内の全人口 ... 75 表 6-2 水道整備世帯の手洗い剤別手指汚染除去率 ... 78 表 6-3 水道未整備世帯の手洗い剤別手指汚染除去率 ... 79 表 6-4 手洗い前行動ごとの水供給設備別使用者割合 ... 80 表 6-5 世帯当たりの項目別支出額平均値 ... 84 表 6-6 一人当たりの項目別支出額平均値 ... 84

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略 語 一 覧

略語 正式表記

ADB Asian Development Bank ATP Adenosine TriPhosphate

CDC Centers for Disease Control and Prevention CDHS Cambodia Demographic and Health Survey

DAC Development Assistance Committee FDA Food and Drug Administration

GPH The Global Public-Private Partnership for Handwashing

IPA Innovations for Poverty Action

JICA Japan International Cooperation Agency JMP Joint Monitoring Programme

MDGs Millennium Development Goals

MRD Ministry of Rural Development of Cambodia MIME the Ministry of Industry, Mines and Energy NEDO New Energy and Industrial Technology Development Organization

NGO Non-governmental organizations

NPO Nonprofit Organization or Not-for-Profit Organization

PPWSA Phnom Penh Water Supply Authority

UNICEF United Nations International Children's Emergency Fund

WB World Bank

WSP Water and Sanitation Program WHO World Health Organization

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現地写真 プノンペン市内を流れるメコン川 カンダール州ルー村内の様子 (出典:石川正頼氏撮影) (出典:筆者撮影) ブーディンスラム内の商店街の様子 ルー村でみられる高床式住居 (出典:筆者撮影) (出典:筆者撮影) ルー村における住宅敷地内の水瓶 ルー村における聞き取り調査の様子 (出典:筆者撮影) (出典:筆者撮影)

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調査対象地であるルー村とブーディンスラムの位置イメージ (出典:筆者作成) 100 km プノンペン市 ブーディンスラム ルー村 カンダール州

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第1章 序論

1.1 研究の背景

世界の5歳未満乳幼児死亡の大きな原因の一つは下痢性疾患であり(UNICEF and WHO,

2009)、特に開発途上国では深刻な健康問題となっている(図 1-1)。図 1-2 に示すように、 下痢性疾患等の感染症は貧困問題をもたらし、ひいては貧困は子どもが十分な衛生教育を 受けることができなくなる要因となり、更なる感染症リスクの増加を招く(渡辺ら,2007)。 また、非衛生な状態は貧困の悪循環へと繋がり、疾患による医療費の負担で土地や家畜等の 財産犠牲や雇用機会の喪失等が原因で貧困からの脱却を困難にするといわれている(保坂 ら,2006) 下痢性疾患等の感染症対策として、安全な水の確保に関する研究、トイレに関する研究、 石けんを用いた手洗いに関する研究がなされてきた。 安全な水の確保に関しては、インドで飲用水源の選択要因を水の味と安全性の観点から 明らかにしたもの(佐藤ら,2012)や、バングラデシュで代替可能な飲用水について経済的 側面から明らかにしたもの(眞子ら,2011)等が存在する。また、バングラデシュ農村部を 対象に安全な飲料水供給と衛生に対する住民意識について調査を行い、農村域での生活環 境を改善する上での課題を明かにしたものもある(酒井ら,2010)。 トイレに関する研究に関しては、バングラデシュ農村地域でトイレと衛生改善に関する 課題を明らかにしたもの(保坂ら,2006)やバングラデシュ都市部の貧困層を対象にトイレ とし尿処理の現状を把握した上で適正技術や技術を適用するための前提条件について議論 したもの(萩原ら,2003)等が存在する。 石けんを使用した手洗いは既に感染症予防に効果的であることが明らかにされており (Curtis ら,2003)、先行研究ではパキスタンで抗菌剤の含有有無にかかわらず石けんに よる手洗いは下痢性疾患や呼吸器疾患の罹患率を低減する効果があることを証明したもの (Luby ら,2005)や、手洗い教育による行動変容と下痢性疾患低減の関係について明らか にしたもの(Micky ら,2015)等が存在する。 加えて、手洗い教育や行動変容についても多くの研究がなされている。青山ら(2001)は 国全体の保健医療システムが機能していない場合でも、住民への健康教育等の地域に密着

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した予防的公衆衛生活動や基本的医療活動(プライマリー・ヘルス・ケア)が下痢性疾患等 の感染症の予防や早期治療に繋がるだけでなく、これらの活動を通して住民の衛生に対す る意識が高まると述べている。 本研究の対象国であるカンボジアでも5歳未満乳幼児死亡原因の第2位が下痢性疾患で あり、その対策は喫緊の課題となっている(UNICEF,2014)。しかし、未だカンボジアの一 般家庭を対象とした手洗いに関する先行研究や情報は少ない。本研究に類するものでは、農 村部住民の手洗いへの意識、手洗い行動、手洗いに用いる洗浄剤を調査した上で、手洗い促 進には経済的かつ文化的に妥当な流水供給装置が必要であることが報告されている (Jenkins ら,2013)。また、カンボジアの農村部や都市スラムのような貧困層における家計 状況等の経済的な側面から石けんを用いた手洗いの普及を検討した研究もほぼない。 図 1-1 世界の5歳未満乳幼児死亡原因の割合(出典:UNICEF,2013b) 23% 16% 10% 3% 2% 10% 3% 33% 呼吸器疾患 下痢性疾患 マラリア エイズ はしか 傷害 髄膜炎 その他

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1.2 研究の目的 本研究では、以下の3点を目的としている。 ① カンボジア貧困層の洗浄剤保有状況と手洗いへの使用状況、手洗い前行動、手洗い頻度、 家計支出状況に関する実態を明らかにする。 ② その上で、手洗いに用いる洗浄剤の購入可能性について分析し、石けんを用いた手洗い の普及に必要な要素を検討する。 ③ カンボジア農村部における流水の普及と手洗いの関係性を検討する。 1.3 研究の方法 1.3.1 文献調査 カンボジアの衛生状況、水利用状況、および経済状況に関し、カンボジア統計局、カンボ ジア農村計画省、国際協力機構(以下、JICA)のカンボジア事務所、調査対象地が位置する 州の保健局、カンボジア国立図書館等を訪問し、研究に関連する英語の文献やクメール語の 資料等のデータを整理した。また、現地で入手することができなかったデータに関しては、 インターネット、本学の図書館および我が国の国会図書館を利用し収集した。 1.3.2 カンボジアにおける現地調査 本研究では 2013 年にカンボジアの農村1箇所と都市スラム1箇所で調査を行い、2015 年 には農村のみで調査を行った。 2013 年には1年間で4回(3月,8月,12 月,1月)の現地調査を行った。調査対象地 は、農村の事例としてカンダール州キリンスヴァイ郡ルー村を選定し、その対照地である都 市スラムの事例としてプノンペン市ブーディンスラムを選定した。これらの調査対象地に おいて手洗い状況や家計状況に関する質問票を使用し、調査対象世帯の住民に聞き取り調 査を行った。この聞き取り調査では、英語で作成した質問票を現地通訳者がクメール語で回 答者に対して問い、口述により得た回答を通訳者や筆者が記入するという形式とした。

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手洗いに用いる洗浄剤の販売価格や販売量については、各調査対象地の住民が日常的に 利用するマーケットで市場調査を行った。加えて、流水が使用可能で手洗い方法が安定して いるブーディンスラムでのみ手指汚染度調査を行った。 近年、ルー村に 2013 年現在ではみられなかった軒先給水管(簡易水道)が住宅敷地内に 整備され始めたことから、現地住民の手洗い状況に変化があるかどうかを把握することに した。このことから、2015 年 12 月にルー村の水道整備世帯と水道未整備世帯を対象に流水 の普及と手洗いの関係性について実態調査を行った。 1.3.3 手洗いに用いる洗浄剤の購入可能人口割合に関する感度分析 カンボジア貧困層の人々が購入可能な手洗いに用いる洗浄剤を検討するために、計算式 を構築し変数を設定した上で、農村の事例として 2015 年現在のルー村を対象に手洗いに用 いる洗浄剤の購入可能世帯割合を感度分析した。また、2013 年に現地調査を行ったルー村 とブーディンスラムでは現状でどの洗浄剤が購入可能かを検討し、さらに地区間のその違 いを把握するために、聞き取り調査によって取得したデータに基づき各地区の手洗いに用 いる洗浄剤の購入可能人口を感度分析した。 1.4 先行研究と本研究の位置づけ 本研究は、開発途上国の貧困層における適正な手洗いの普及に必要な要件を社会経済学 的な観点から検討するために、カンボジア貧困層を事例としている。 これまで、手洗いについては疫学的な研究や社会学的な研究は多く行われいるものの、貧 困層住民の家計状況を把握し、手洗いへの支出状況について実態を明らかにしたものは少 ない。また、手洗いに用いる洗浄剤の購入可能性を検討するための計算式を構築し、どの程 度の支出であればどの洗浄剤が購入可能かについてシミュレーションを行った研究事例も ほとんどない。 カンボジアの手洗いに関する研究事例としては、Jenkins ら(2013)がカンボジア農村部 3地域の住民を対象に行った手洗いに関する調査が挙げられる。この先行研究では、住民の

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流水の代替装置の普及が適正な手洗いを促す可能性があると述べられている。しかしなが ら、この研究事例を除いて同国の手洗いに関する先行研究はほとんどない。さらに、社会経 済的な観点から適正な手洗い普及について検討した研究事例もほぼないといえる。 1.5 本論分の構成 本論文は、以下のとおりで構成されている。 第1章「序論」ではカンボジア貧困層の手洗いについて取り上げ、住民の手洗い状況と経 済状況に関する調査および分析を行う意義について言及し、本研究の目的、方法、位置づけ、 論文構成について説明する。 第2章「手洗いの意義と開発途上国の手洗いの現状」では、手洗いが確立されるまでの経 緯、適正な手洗い方法の紹介、石けんが手洗いに適正な理由等について説明し、手洗いの意 義を示す。また、開発途上国の手洗いの現状と手指衛生教育の介入について、いくつかの先 行研究を取り上げ説明する。 第3章「カンボジアの基本情報と手洗いの現状」では、カンボジアの風土、人口変遷、歴 史や経済状況等の基本情報とカンボジアの手洗い状況について説明している。 第4章「カンボジア貧困層の経済状況と手洗いに用いる洗浄剤に関する調査」では、2013 年にルー村とブーディンスラムで行った手洗い状況と家計状況に関する調査結果に加え、 ブーディンスラムのみで実施した手指汚染度調査の結果を示し、カンボジア貧困層の手洗 いに関する現状を示している。 第5章「貧困層における手洗いに用いる洗浄剤の購入可能性の検討」では、手洗いに用い る洗浄剤の購入可能世帯および人口について計算式を用いて検討している。 第6章「カンボジア農村部における流水の利用と石けんを用いた手洗いの関係性」では、 2015 年にルー村で実施した水供給設備の利用状況と手洗い状況に関する調査結果を示し、 簡易水道である軒先給水管の流水利用と手洗いの関係性について検討している。 第7章「結論」では第6章までをまとめ、現状対策および今後の課題について検討する。

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第2章 手洗いの意義と開発途上国

の手洗いの現状

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第2章 手洗いの意義と開発途上国の手洗いの現状 2.1 手洗いが確立されるまでの経緯 古来の手洗いは感染症予防の手段としてではなく、審美的な思考の下で儀式の一環とし てか、地域で信仰される宗教上の習わしの一部として行われてきた。その例を挙げると、ユ ダヤ人は宗教的な儀式の過程で手洗いを行う習慣があり、この宗教的な手洗い行動が 14 世 紀頃に流行していたペスト(黒死病)による乳幼児死亡率を低減することに繋がったといわ れている(Jumma,2005)。 16 世紀に入り細菌学が確立され始めたが、当時は目視することが困難な細菌が感染症を 引き起こすという考えは医療関係者にとって受け入れ難いものであり、手洗いに関する基 準が設けられる近年まで感染症予防としての手洗いは確立されなかった(Jumaa,2005)。 1846 年、ウィーンのセンメルヴェルツ医師は、現代で産褥熱と呼ばれているが当時は原 因不明であった疾病が医療従事者の手洗い不足と関連することに気が付いた。そこで、セン メルヴェルツ医師がある産婦人科病棟の医療従事者に手洗いを強制させたところ、医療従 事者が手洗いを行う病棟は手洗いを行わない病棟に比べ母子死亡数が減少することが判明 した(Nathan,2013)。その後、手洗いが感染症予防に効果的であることが明らかにされ、 世界各地で手洗いによる感染症予防対策が積極的に行われるようになった。 わが国では 1952 年に集団赤痢が大流行したことを受け、学校や事業所等で薬用石けん液 とディスペンサーと言われる石けん液用の容器が普及した。このとき初めて手洗いが衛生 向上のための手段として認識されたのである(松村,2010)。アメリカでは、1961 年に医療 従事者が患者への接触前後に手洗いを1、2分間行うことが推奨され、1975 年と 1985 年に は病院内における手洗いに関する公式な手引きが発行されることとなった(Garner,1986)。 また、2008 年の国際衛生年には毎年 10 月 15 日を「世界手洗い日」と定め、世界各地で UNICEF による石けんを用いた手洗い普及活動が行われるようになった(WHO,2008)。

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2.2 適切な手洗い方法とは Larson ら(2006)によると、手洗い方法、手洗いの頻度、手洗いの時機、手洗いに要する 時間、手洗いに用いる洗浄剤等の様々な要件が手洗い効果の度合いを決定づけるとされて いる。手洗い手順の内、泡立ち、洗浄、乾燥という手順が重要であることが特に強調されて おり(FDA,2013)、WHO は図 2-1 に示すような手洗い手順を推奨している。 手指洗浄の過程でみられる動作や手洗い用洗浄剤に関する用語は表 2-1 に示すように定 義されており(WHO,2009)、微生物の不活性化もしくは除去のための洗浄剤や様々な手洗 いの形態が示されている。こうした手洗いの過程の中で特に指先と爪の隙間を入念に洗う ことや、容器から水を注ぎ洗浄する方法よりも水道の流水で洗浄することが手指上の大腸 菌の減少に有意であることは既に証明されている(Friedrich ら,2017)。 手洗いを行うべき時機について、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、調理の前後、 食事前、病人や怪我を負った人の看病や治療の前後、トイレ後、乳幼児のオムツの取り換え や子どものトイレの世話後、鼻をかんだ後、くしゃみの後、動物接触後、動物餌付け後、廃 棄物への接触後に手洗いを行うことを推奨している。加えて、手を石けんで泡立てた後に少 なくとも 20 秒間は手を擦り合わせる必要があると述べている(CDC,2015)。 一概に手洗いといえども、目的に応じた清浄度が求められるといわれる(松村,2010)。 感染症予防のために皮膚の通過菌や汚染菌を除去する程度のものであれば、液体石けんや 固形石けんを用い、図 2-1 のような手順で手洗いを行えば達成される。一方で、食品取扱者 や医療従事者のように、手指上の表面や深層に存在する常在菌でさえ除去を行わなければ ならない場合、手指上の微生物を徹底的に除去することを目的とした薬用石けんやアルコ ールを使用した手指洗浄を行う必要がある(松村,2010;丸山,2014)。また、Garner ら (1986)により作成された医療従事者向けの手洗いの手引きには、日常的な手洗いよりも高 頻度の手洗いと洗浄剤の取り扱いや手洗い場に関する詳細な決め事が記載されている。

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図 2-1 適正な手洗いの手順(出典:WHO,2017a)

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附百川

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表 2-1 手指洗浄の過程でみられる動作や手洗い用洗浄剤に関する用語の定義一覧

手洗いに関する用語 定義

Antiseptic handwashing 石けんと水による手洗いもしくは消毒剤を含む手洗い用洗浄剤に

よる手洗いを示す。

Antiseptic hand rubbing 流水、水によるすすぎ、布等による乾燥を伴わずに、微生物の活

性を低減もしくは抑制するための手もみを示す。

Alcohol-based (hand) rub 手指上の微生物を不活性化し一時的に増殖を抑える働きをするア ルコール含有剤(液体、ゲルまたはフォーム)を示す。

Antiseptic agent 微生物の増殖を阻害し不活性化する抗菌物質。例としては、アル

コール、グルコン酸クロルヘキシジン(CHG)、塩素誘導体、ヨウ 素、クロロキシレノール(PCMX)、四級アンモニウム化合物、お よびトリクロサンが挙げられる。

Antiseptic hand wipe 手指上の微生物汚染を不活性化または除去することを目的とした

抗菌剤で湿らせた布または紙の片を示す。 Antimicrobial (medicated) soap 微生物を不活性化または一時的にその増殖を抑制するために十分 な濃度の消毒剤を含有する石けん(洗剤)。このような石けん (洗剤)は微生物または他の汚染物質を皮膚から取り除く可能性 がある。 Hand antisepsis /decontamination 擦式手指消毒の適用もしくは手洗い消毒剤により微生物の増殖を 低減および抑制することを示す。 Hand care 手荒れや刺激のリスクを低減するための行動を示す。 Handwashing 抗菌剤無添加の石けんもしくは抗菌剤入り石けんと水を用いて手 を洗浄することを示す。 Hand cleansing 汚れ、有機物、もしくは微生物を物理的に除去するという目的に 対し行う手指衛生行動を示す。 Hand disinfection この用語は世界のいくつかの地域で使用されており、抗菌剤入り 石けんと水や消毒剤を用いた手指消毒を指す。消毒とは通常、汚 染除去のことを指すので、この用語は WHO のガイドラインでは使 用されていない。

Hygienic hand antisepsis 常在菌に必ずしも影響を与えるとは限らない通過細菌を低減する ために行う手指消毒もしくは手洗い消毒にいずれかによる処理

Hygienic hand rub 常在菌に必ずしも影響を与えるとは限らない通過細菌手指消毒剤

を用いて行う手指の処理であり、薬効効果が広く即効であり持続 活性の抗生物質が必要である。

Hygienic hand wash これは手指消毒および通過菌の除去を目的とした手指の処理を示

す。また、この抗薬範囲は広いが、「Hygienic hand rub」よりも 効き目が緩やかである。 Plain soap 抗菌剤を含有しないか、または抗菌剤を単に防腐剤として含む洗 浄剤を示す。 Waterless antiseptic agent 水の使用を必要としない液体タイプもしくは泡タイプの抗菌剤で ある。これを使用後、皮膚が乾燥するまで手を擦り合わせる。

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2.3 手洗いに用いる洗浄剤としての石けん 高級脂肪酸塩である石けんは、元来、西欧古代人の宗教的儀式で神への供え物として焼い ていた動物の脂と木灰の混合から偶然生成されたものと考えられている(中曽根,2007)。 この生成物が化学の進歩に伴い進化を遂げ、現在のように身体を洗浄するものとして利用 されるようになった。現在では手洗い用洗浄剤は固形や液体のもの等、様々な形態で販売さ れるようになり、その種類は表 2-2 に示すように石けん(高級脂肪酸塩)、複合石けん、合 成洗剤の3種類に大別されている(丸山,2014)。 表 2-2 手洗い用洗浄剤の種類 手洗い用洗浄剤の種類 説明 石けん (高級脂肪酸塩) ・主な洗浄作用が純石けん分(脂肪酸塩)の界面活性作用によるもの ・純石けん分以外の界面活性剤を含まないもの 複合石けん 石けんに石灰石けん分散剤という界面活性剤を混合し、耐硬水性を改良したもの 合成洗剤 工業的に化学合成された界面活性剤を用いた洗浄剤 (出典:丸山,2014;下野ら,1984 にもとづき筆者作成)

今や世界の多くの国々で「Hand washing with soap(石けんを用いた手洗い)」が注目さ

れており、わが国でも戦後の水道普及と共に石けんを用いた手洗いが普及した。 わが国の「Soap」に対する表記は石鹸、石けん、セッケン、ソープというように語彙が含 む意味に応じて変わるものとされている(日本石鹸洗剤工業会,2017)。だが、「石鹸」の 鹸という字は当用漢字に登録されていないことから、「石けん」という表記が一般的とされ ており、人体の洗浄に使用される石けんは化粧石けんと称される。化粧石けんは固形の硬石 けんであり、泡立ちがよく、芳香があり、刺激や変質がなく、化粧用もしくは浴用に適する 品質を有しているものと定義付けられている(日本工業標準調査会,2017)。 石けんの中でも手洗いに用いる石けんには要件があり、丸山(2014)が出版している「食 中毒・感染症を防ぐ!!食品を取り扱う人のための衛生的な手洗い」には下記3点が記載され ている。 ①手に付着した汚れや細菌・ウイルスを効果的に除去できるもの ②洗浄剤自体に微生物が混入して汚染を拡大することがないもの

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③食品の風味を損ねる香料が配合されていないもの これら3つの要件は主に食品管理者を対象としたものであるため、一般家庭にとっては上 記③は特に重要視する点ではないだろう。だが、上記①と②については手指上の汚染物質や 微生物の除去に加え、石けんを介してヒトからヒトへ病原菌が感染するような交差感染(図 2-2 参照)を予防するために重要な点である。 図 2-2 固形石けんによる交差感染のイメージ(出典:筆者作成) 2.4 下痢性疾患等の感染症予防に有効な手洗い 手洗いの主な目的は可能な限り迅速に一過性の病原菌を取り除き、手指上の常在菌の活 動を抑制することであり(Jumaa,2005)、感染症予防のためには、日常的に手洗いを行う ことが重要とされている(岸,2012)。 日常的な手洗いには石けんを利用せずに流水だけによるものや固形石けんやポンプ式石 けんを利用するものが含まれるが(城生ら,1999)、石けんを用いた手洗いは、表 2-3 に示 すとおり、水のみを使用する手洗いに比べ手指上の糞便性細菌を除去する効果が高いこと が証明されている(Burton ら,2011)。また、石けんを用いた手洗いには、下痢性疾患の罹 患リスクを約 50 %まで低減することや(Curtis ら,2003)、石けんの抗菌剤の含有有無に かかわらず感染症の罹患率を低減する効果があることが立証されている(Luby ら,2005)。

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表 2-3 自己感染と手洗い後にみられる糞便性細菌のコロニー数 糞便性細菌の種類 石けんと流水 石けん未使用 (水のみ) 未洗浄 Enterococcus spp. 4 (3%) 24 (15%) 46 (29%) Enterobacter amnigenus 4 (3%) 4 (3%) 14 (9%) Enterobacter cloacae 2 (1%) 5 (3%) 13 (8%) Shigella spp. 0 (0%) 1 (1%) 2 (1%) Klebsiella spp. 1 (1%) 2 (1%) 5 (3%) E. coli spp. 1 (1%) 0 (0%) 0 (0%) Pantoea spp. 1 (1%) 2 (1%) 0(0%) 複数分離 10 (6%) 2 (1%) 0(0%) その他の細菌 70 (44%) 36 (23%) 13 (8%) 合計 160 (100%) 160 (100%) 160 (100%) (出典:Burton ら,2011 にもとづき筆者作成) このように手洗いの効果に関しては、これまでにも不衛生な環境が取り巻く開発途上国 で多くの実証実験や調査研究が行われてきた。 Shahid ら(1996)は、バングラデシュの首都ダッカ市内で特に下痢性疾患罹患者が多く みられる地域の住民に石けんと手洗い用の水瓶を配布し、食事前、料理前、トイレ後に石け んを用いた手洗いを1年間にわたり実施させた結果、住民の下痢性罹患率が以前よりも低 減したことを報告している。Luby ら(2011)は、バングラデシュ農村部において、糞便性環 境汚染、栄養不足、下痢性疾患がみられる 50 村の貧困家庭を対象に、手洗いの時機および 石けんの有無と下痢性疾患との関係性を明らかにした。また、この村の住民が日常的に素手 で生鮮食品や調味料を取り扱う習慣があったため、このような習慣がある地域では特に食 事前の手洗いが重要であると述べている。さらに、排泄後に石けんを用いた手洗いを行う家 庭では、子どもの下痢性疾患罹患率が低減する傾向にあったことを報告している。

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2.5 開発途上国の手洗いの現状と手指衛生教育の介入

2015 年9月に「国連持続可能な開発サミット」が開催され、人間、地球および繁栄のた

めの行動計画として、ミレニアム開発目標の後継として、17 の目標と 169 のターゲットを

からなる SDGs(Sustanable Development Golds)を掲げた(UN, 2017)。この中の目標6

には「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことが提示され ている。この具体的なターゲットには、全ての人々の安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平 なアクセスの達成、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスの達成、開発途上国に おける水と衛生分野での活動と計画を対象とした国際協力と構築支援、および水と衛生の 管理向上のおける地域コミュニティの参加を支援・強化すること等が含まれている(UN, 2017)。このように SDGs には国際的な衛生に対する取り組みが新たに組み込まれた。 石けんを用いた手洗いは、上下水道の整備やトイレ整備に比べ安価であり、下痢性疾患予 防に効果的であることは既に立証されている。しかしながら、多くの開発途上国では手洗い に必要な安全な水や石けんのように手洗いに適切な洗浄剤を確保すること自体が困難な状 況にある。そのため、開発途上国における水供給や手洗いに関する調査・研究は多く行われ てきた。 Saboori ら(2011)は、2008 年に安全な水の供給と手洗い教育の内発的発展に必要な要件 を明らかにするため、ケニア農村部の小学校 60 箇所を対象にモニタリング調査を実施した。 その結果、持続的な手洗いには、財政的な能力、アカウンタビリティ(Accountability)、 実現可能な技術、コミュニティサポート、指導者のオーナーシップ、学生の主体性が必要で あることを明らかにした。また、手洗い用の固形石けんの盗難対策や継続的な石けんの購入 等の経済的な問題の解決が必要であることも示し、固形石けんの盗難対策として図 2-3 に 示すような盗難され難く安価な粉石けんの水溶液を手洗いに使用することを提案している。 その後もモニタリング調査がケニア農村部の小学校 11 箇所を対象に 2008 年から 2009 年に かけて実施された。その結果、粉石けん水溶液の使用は持続的な手洗い行動をもたらすこと が証明されたと述べられている(写真 2-1)。同時に、手洗い場を管理する責任者の意識の 欠如や経済状況の不安定さが子どもたちの手洗い行動促進を妨げているということが示さ れた。

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開発途上国の上水道整備が不十分な地域では、流水を用いた手洗いを可能とする装置つ くりが行われている。Contzen ら(2015)は、エチオピア南部に位置する農村部で簡易流水 装置であるティッピー・タップを設置し啓発活動を行うことで、石けんを用いた手洗いに対 して住民の意識変化をもたらすことに成功した。図 2-4 に示すティッピー・タップは世界的 によく知られている簡易流水装置であり、Zhang ら(2013)はウガンダ農村部で1校当たり 約 900 人規模の子どもが在籍する小学校を8箇所選定し、ポスターや手洗いの歌を交えた 子どもが理解し易い方法でティッピー・タップの作成方法や使用方法に関する啓発活動を 実施した。このティッピー・タップの設置と啓発活動は、各学校の子どもの手洗い行動を促 進しただけでなく、子どもから親へと情報伝達が行われ、各家庭内でティッピー・タップが 作成されるという動機付けになったことが報告されている。 ティッピー・タップの流水による石けんを用いた手洗いが貯水によるものよりも効果的 かどうかについて検証した事例がある。Sugita ら(2015)は、ウガンダ農村部に位置する 2箇所の小学校に通う9歳から 14 歳の生徒を、ティッピー・タップの流水で洗浄するグル ープとタライに溜めた水で洗浄するグループに分け、それぞれの石けんを用いた手洗い前 後の手指汚染除去効果を比較した。その結果、ティッピー・タップのグループがタライのグ ループに比べ僅かに高い手指汚染除去率を示したものの、水の清潔さ等の理由から2つの グループ間に有意な差はみられなかった。このことから、流水を使用するかどうかよりも石 けんを用いた手洗いを行うことが重要であることが述べられており、さらにティッピー・タ ップは手洗いのための清潔な水の供給という役割だけでなく、その存在自体が手洗い促進 をもたらす要因になると推論されている(Sugita ら,2015)。 ティッピー・タップは、プラスチック容器、木材、紐、釘、金槌という現地で入手可能な 材料で簡単に作成することができ、経済状況が不安定で流水を取得し難い地域では水道水 のような流水の代替物として作成される。さらに、より簡易な流水装置として、図 2-5 に示 すような装置が Morgan ら(2011)により考案されている。この流水装置は使用済みのペッ トボトルやアルミ缶を利用し、下記①から⑤のような順序で作成される。 ① 使用済みアルミ缶の上部を缶切りで開け、側面の両側に釘で穴を開ける。 ② 吊り下げるために開けた2つの穴へ針金を通し、持ち手を作る。 ③ アルミ缶の下部に2,3 mm の釘とハンマーで穴を開ける。 ④ 針金で作成した持ち手をトイレ設備内やトイレ周辺に吊り下げる。

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⑤ 手洗いを行う者はアルミ缶へ水を注ぎ入れ流出させながら手を洗浄する。 この簡易流水装置はジンバブエにおける学校や家庭に供与され、その作成方法や使用方法 に関する啓発活動がなされたことが報告されている。また、ベトナムではティッピー・タッ プをモデルにしたハッピータップという流水装置を販売することで、人々の手洗いへの意 識や行動の変容をもたらすことを目的とした長期計画が立てられている(Revall ら,2014)。 手洗い行動の変容については、多くの開発途上国で調査研究がなされている。David ら (2009)は、図 2-6 に示すような参加型の衛生改善手法の一つとして提唱されている F 図 (F-Diagram)を利用し、ガーナ農村部の住民へ手洗いやその他の衛生に関する啓発活動を 行った。その結果、安全な水と衛生に対して住民の意識が向上することが明らかとなり、特 に女性の手洗いに対する意識が変化し行動変容が促されたことが報告されている。 近年、石けんを用いた手洗いに関する啓発活動は世界中で行われており、UNICEF は世界 手洗いの日に正しい手洗い方法の普及と手洗いに対する意識の向上を目的とした啓発イベ ントを実施している。南米、中東、アフリカ地域の国々で実施された手洗いイベントでは、 エチオピアで約 500 万人の子どもが参加し、イエメンで学校 3,300 箇所を対象に約 1,400 万 人の子どもが参加したと報告されている(UNICEF, 2013a)。このような手洗いに関する知 識の付与や開発を通し手洗い普及をより盛んにするために、2001 年に国際機関、世界の学 術機関、NGO および NPO 団体、民間企業が連携したグローバル・パートナーシップ共同体が 公式に形成されることとなった(GHP, 2017)。 以上のように、下痢性疾患等の感染症の予防に手洗いが効果的であることやコミュニテ ィへの介入が人々の衛生に対する意識の変化と行動変容を引き起こすことは十分に証明さ れている。しかしながら、世界の石けんを用いた手洗い普及 率は未だに低く留まっていることが現状であり、今後も対策 しなければならない課題の一つとなっている(WB,2005)。 図 2-3 粉石けん水溶液の作成イメージ (出典;筆者作成)

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写真 2-1 ケニア農村部における粉石けん水溶液入りのバケツ設置の様子 (出典:IPA,2017)

図 2-4 ティッピー・タップのイメージ (出典:CDC,2017)

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図 2-5 アルミ缶を用いた簡易流水装置のイメージ (出典;筆者作成) 図 2-6 F 図(F-Diagram) (出典:Water1st International,2017) ①アルミ缶 ②針金 ③2,3 mm の釘で開けた穴

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2.6 本章のまとめ 本章では、手洗いの確立や適正な手洗いに必要不可欠な石けん、および手洗い普及に関す る研究事例や取り組まれている活動について説明した。 手洗いに関する歴史と手洗いが感染症の予防方法として確立するまでの経緯に加え、現 在の手洗いの在り方を説明し、推奨されている手洗い方法や手洗いを行うべき時期等につ いて述べた。また、適正な手洗いに必要不可欠な洗浄剤である石けんに関する情報を提示し、 下痢性疾患等の感染症に効果的な手洗いに関する研究事例をいくつか挙げ、その有効性に ついて示した。感染症の予防に効果的な石けんを用いた手洗いに関し、様々な国や地域で調 査、研究、啓発活動が行われているだけでなく、手洗いに用いる流水が得難い開発途上国に おいては流水の代替装置の作成および設置や人々に対する啓発活動が行われてきた。また、 その啓発活動により人々の手洗い行動が促されることが明らかとなっている。しかしなが ら、世界で石けんを用いた手洗いを行うことが可能な人口割合は未だに低く、今後も対策を 行っていく必要がある。

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第3章 カンボジアの基本情報と

手洗いの現状

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第3章 カンボジアの基本情報と手洗いの現状 3.1 カンボジアの基本情報 (1)地理と風土 カンボジアは東南アジア地域に含まれる農業大国であり、西部と北西部はタイ、東部と南 東部はベトナム、北部はラオスに接しており、南部はシャム湾に開けインドシナ半島の中央 部に位置している(カンボジア統計局,2011)。この国の国土面積は北海道の土地面積の約 2倍に相当する約 18 万 ㎢であり、中央部にはカンボジア平原とよばれる平坦な低地が広 がっている(須藤ら,1996)。この平野部は地形の特色によって、台地および西部地域の扇 状地、メコン川氾濫原、トンレサップ川沿い氾濫原、バサック川沿い氾濫原、高位沖積面に 区分され、地域別の特徴的な洪水の影響や水利用がみられる(久保,2006)。 カンボジアは年平均気温 27 度で熱帯モンスーン気候に属しており、季節は雨季(5月か ら 11 月)と乾季(12 月から4月)に大別される。年降水量は首都プノンペン特別市で約 1,400 mm、山岳部の最高で約 5,000 mm 以上と多く、雨季は乾季に比べ降水量が大幅に増加 する。そのため、東南アジアで最大の国際河川でありカンボジア国内を流れるメコン川の下 流域、カンボジア中央部に位置するトンレサップ湖周辺地域、およびトンレサップ湖から流 れるバサック川周辺地域では、毎年大規模な洪水が発生している(写真 3-1)。この洪水は、 住宅の損壊だけでなく稲や野菜等の農作物に対し甚大な被害を引き起こし、カンボジア国 民の約8割が農業従事者であるため、人々の生活を脅かす要因となっている。また、農村部 の住民が主な生活用水として使用する地下水や表流水が洪水により汚染されることで水系 感染症が蔓延し、健康被害が生じることも報告されている(風間,2007)。 (2)人口の分布と変遷 カンボジアにおける各州都の面積、人口、および人口密度を表 3-1 に示す。カンボジアは 23 州と1つの特別市である首都プノンペンで構成され、2013 年現在で州内は 159 郡に分け られており、これら郡内には全体で 1,429 のコミューンと 14,119 村が存在する(MRD,2013)。

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カンボジア国土を平野部、トンレサップ湖周辺、沿岸部、山岳部の地域区分別でみると(表 3-1 参照)、平野部は全体の約 14 %を占めており、カンボジア全人口の約 50 %の人々が居 住している。平野部に位置する州都の内、特に首都プノンペン特別市の人口密度は他の州に 比べ圧倒的に高く、一極集中型を形成していると考えられる。トンレサップ湖周辺と山岳部 が占める面積はいずれも約 38 %と同様の数値を示しており平野部に比べ広いことがわかる が、人口に関してはトンレサップ湖周辺の方が山岳部に比べて約3倍と高い。 カンボジアにおける近年までの人口の変遷については、入手可能であった 1960 年から 2015 年にかけての人口のデータを図 3-1 に示している。1962 年、カンボジアの人口は現在 の約半分の約 570 万人であったが、1970 年までの8年間で 19 %増加した。ところが、1970 年代にポル・ポト政権下で国民が大量に虐殺されたため、1981 年時点で約 670 万人まで減 少した。しかし、この独裁国家が崩壊した後に、急激な経済成長に伴い 1998 年から 2008 年 までの 10 年間にかけて人口が約2 %増加し、2017 年現在の全人口は約 1,600 万人に達し た。そのうち、全体の約 80 %に相当する約 1,200 万人の人々が農村部に在住しており、約 20 %は都市部に在住している(カンボジア統計局,2011)。 カンボジアの年代別人口割合と実質 GDP 成長率の推移をみると(図 3-2)、1994 年付近で は 15 才未満と 15 才から 65 才未満の人口割合がほぼ同等であるが、1994 年以降は実質 GDP 成長率の上昇に伴い、徐々に 15 才から 65 才未満の人口割合が増加している。一方で、15 才未満の人口割合は減少傾向にある。 写真 3-1 カンボジアメコン川下流域の洪水の様子

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表 3-1 カンボジアの州都面積と人口 地域区分 州名および市名 面積 (㎢) 面積割合 (%) 人口 (万人) 人口割合 (%) 人口密度 (人/ ㎢) 平野部 コンポンチャム 9,799 5.5 168 12.5 171 カンダール 3,568 2.0 127 9.5 356 プノンペン特別市 290 0.2 133 9.9 4586 プレイヴェン 4,883 2.7 95 7.1 195 スヴァイリエン 2,966 1.7 48 3.6 162 タケオ 3,563 2.0 84 6.3 236 トンレサップ湖 周辺 バンテェイミエンチャイ 6,679 3.8 68 5.1 102 バッタンバン 11,702 6.6 103 7.7 88 コンポンチュナン 5,521 3.1 47 3.5 85 コンポントム 13,814 7.8 63 4.7 46 プーサット 12,692 7.1 40 3.0 32 シェムリアップ 10,299 5.8 90 6.7 87 オッドミンチェイ 6,158 3.5 19 1.4 31 パイリン 803 0.5 7 0.5 87 沿岸部 カンポット 4,873 2.7 59 4.4 121 コッコン 11,160 6.3 14 1.0 13 シアヌークビル 868 0.5 20 1.5 230 ケップ 336 0.2 4 0.3 119 山岳部 コンポンスプー 7,017 3.9 72 5.4 103 クラティエ 11,094 6.2 31 2.3 28 モンドルキリ 14,288 8.0 6 0.4 4 プレアビヒア 13,788 7.7 17 1.3 12 ラタナキリ 10,782 6.1 15 1.1 14 ストゥントレン 11,092 6.2 11 0.8 10 *面積のデータはカンボジア人口センサス 2008,カンボジア計画省 **人口のデータは Statistical Yearbook of Cambodia 2010

(出典:総務省統計局およびカンボジア統計局,2011 にもとづき筆者作成) 図 3-1 カンボジアにおける 1960 年~2015 年までの人口の遷移 (出典:WB,2016) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 人口(万人) 都市部 農村部 全人口

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*年代別の人口割合は 1960 年~2015 年までの入手可能なデータ **実質 GDP 成長率は 1994 年~2015 年までの入手可能なデータ 図 3-2 カンボジアにおける年代別の人口割合と実質 GDP 成長率の推移 (出典:WB,2016 のデータにもとづき筆者作成) (3)宗教、教育および識字状況 Phin(2013)によると、フランス植民地以前のカンボジアでは仏教や王権思想の下で教育 が行われてきたが、ベトナムのような社会主義革命を恐れたフランス植民地政府は権力を 維持するために、意図的に人々に対して適切な教育を与えなかったといわれている。その後、 ポル・ポト政権下でそれまでの教育制度が崩壊され、1979 年以降にフォーマル教育が再開 されたものの、未だ教育システムは脆弱なままである(廣畑ら,2016)。また、以前は教育 の場であった仏教はポル・ポト政権時には僧侶の大量虐殺や強制還俗により壊滅状態に陥 ることとなったが、現在では約 90 %の人々が上座仏教を信仰している(ムコパディヤーヤ, 2009)。 1991 年のパリ協定成立後、民主体制へ移行した新しい国家体制の中で教育が社会開発の 重要な柱として位置づけられ、多数の国際援助機関の参入により学校建設や教師の再教育 等の援助が行われてきた。また、2005 年には教育制度が6・3・3制に整えられ、道徳、ク 0 3 6 9 12 15 0 10 20 30 40 50 60 70 1960 1961 1962 1963 1964 1965 1966 1967 1968 1969 1970 1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 実質 G DP 成長率(%) ** 年代別の人口割合(%) * GDP成長率 65才以上 15才以上65才未満 15才未満

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られることになった(羽谷,2011)。なお、2013 年現在で、筆者が訪問した公立小学校で は、高学年を対象に生活科の授業が行われており、その教科書内に写真 3-2 に示すような手 洗いに関する内容が記載されていた。 政治に左右されてきたカンボジアの教育状況は時代の流れとともに変化してきたことに 加え、これまで様々な援助により教育の質を向上する取り組みがなされてきた。しかしなが ら、教育を受けるために必要な識字については、今もなお大きな課題となっている。1998 年 から 2008 年の統計書によると、カンボジア全州の7歳以上の識字率は 2004 年現在で 79.9 % に及んでいるものの、都市部住民に比べ農村部住民の識字率は低く、特に女性の識字率は男 性に比べて低いことが報告されている(カンボジア計画省,2008)。 写真 3-2 カンボジアの公立小学校で使用される生活科の教科書に掲載されている手洗いイメージ (筆者撮影) (4)経済格差と貧困削減への取り組み カンボジアの主要産業は農業や漁業のような第一次産業が中心であるが、近年では観光 業や縫製業が発達したことで 1999 年から 2001 年の間は平均7 %の経済成長率を維持し、 現在もなお経済成長を続けている(WB,2016)。このような急速な経済発展に伴い貧困が低 減されていく一方で、都市部と農村部間の経済格差は拡大し続けているといわれている。 重田(2015)は、カンボジアの貧困と経済格差の原因には①農業と環境の危機、②人間の 基本的権利の危機、③経済のグローバル化による危機の3つの危機が絡み合い、「新しい貧 困の罠」が存在していると考えている。①農業と環境の危機については、地球温暖化や洪水

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のような自然環境の変化により農業生産が低下することで農村部住民は自宅での副業や工 場労働者のような副業や出稼ぎを余儀なくされていると示している。②人間の基本的権利 の危機については、「医療、教育など農民の基本的な権利が侵されている人間の安全保障の 危機のこと」と示されており、農村では医療費の負担が大きいことが借金や土地の喪失に繋 がり一家離散に発展することや農作業の人手確保のために子供の教育機会が奪られること が述べられている。③経済のグローバル化による危機については、経済発展に伴うグローバ ル化により海外からの資本が流入することで都市住民や有力者が豊かになり、農村住民と の経済格差が一層広がるというものである。また、土地の権利を持たない農村住民は、土地 開発のために土地を手放さなければならないという現状にあることも述べられている(重 田,2015)。 2000 年に MDGs が採択されて以降、カンボジアにおいても次の①から⑨に示すような独自 の開発目標が掲げられた(カンボジア計画省,2013b)。 ① 極度の貧困および飢餓の撲滅 ② 普遍的基礎教育の達成 ③ 男女平等および女性の地位強化の推進 ④ 幼児死亡率の削減 ⑤ 妊産婦の健康の改善 ⑥ HIV(エイズ)やマラリア、その他の疾病の蔓延防止 ⑦ 環境の持続可能性の確保 ⑧ 開発のためのグローバル・パートナーシップの構築 ⑨ 地雷除去、不発弾の処理、および犠牲者支援 この中でカンボジア政府は貧困問題の解決を最重要課題に位置付けており、多岐にわた る貧困削減の取り組みを行ってきた。農村の貧困問題に対しては、①農業開発、②農産加工 産業の振興、③マイクロクレジットの普及、④労働集約的工業、⑤道路整備、⑥保健医療サ ービスの質と量の向上というような政策を掲げている(矢倉,2008)。また、カンボジア政 府は 2015 年までに全体の 19.5%まで貧困率を低減することを目標に掲げ、世帯の消費デー タを基に貧困者比率の推定を行い、対策を行ってきた(JICA,2010)。その結果、1990 年代 に比べカンボジアの貧困削減は達成されることとなった。しかしながら、未だ都市部と農村

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カンボジアでは自営業で収入を得る世帯が多く、国全体の平均では全収入の約 65 %が自 営業から得た収入であることが報告されている。プノンペン市内の世帯では全収入の約 59 %が自営業によるものであり、約 38 %は雇用主から支払われる給与や賃金が占めている。 また、他の都市部と農村部における自営業で得る収入が占める割合はそれぞれ約 60 %と 68 %であり、農村部は都市部に比べ自営による収入の割合が高い(カンボジア統計局,2009)。 2009 年のカンボジア統計書によると、主要な労働が農業である農村部住民の1ヶ月1世帯 当たりの平均収入は 553,614 リエル(約 138 ドル)である一方で、外資系の大規模商業施設 や雇用の多いプノンペンと地方都市部ではそれぞれ 2,015,904 リエル/世帯/月(約 504 ド ル/世帯/月)と 1,088,516 リエル/世帯/月(約 272 ドル/世帯/月)であることが報告されて おり、農村部の世帯収入の平均額は都市部に比べ低い。また、1ヶ月1人当たりの収入は国 全体の平均額で約 39 ドル、地方都市部で約 57 ドル、農村部で約 30 ドルだが、プノンペン は約 101 ドルと最も高く、地域ごとに収入の格差がある。なお、カンボジアでは公定通貨単 位であるリエルと主要通貨単位である米ドルが併用されているため、上記の数値は 4,000 リ エル当たり 1 米ドルで換算している。 (5)水道整備と水利用状況 カンボジアで住民の生活を支える主要な水源は、メコン川(Mekong river)、セザン川

(Sesan river)、セコン川(Sekong river)、スレ・ポック川(Sre Pok river)、トンレ

サップ湖(Tonle Sap lake)である。これらの水源は人間活動により汚染されていることが

報告されており、特に人口密度の高い都市部の排水は近郊の水域を汚染しているといわれ ている(WB,2008)。 カンボジアの首都プノンペンの上水道整備は 1895 年から 1966 年にかけて建設され、1966 年時点では 1 日当たり 14 万㎥の給水を行っていたが、内戦の影響により施設の破壊と運転 管理要員の損耗により十分な維持管理はなされなくなったため、給水水質は最悪のものと なった(木山,2011)。そのため、1992 年に我が国の無償資金協力により「プノンペン市上 水道整備計画」が策定され、我が国と他ドナーにより、プノンペン市の上水道は集中的に整 備され始めた(JICA,2015a)。加えて、1996 年には PPWSA(プノンペン水道公社)が公社 化され、独立採算で水道事業が可能になった。

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2015 年現在でプノンペン特別市における水道普及率は約 90 %に達し、この成功事例に基 づき他の8州都(シェムリアップ、バッタンバン、カンポット、コンポンチャム、コンポン トム、ポーサット、スヴァイリエン、シアヌークビル)でも公営水道事業体の公社化に向け た援助が進められてきた。しかしながら、カンボジア全土でみると住居や軒先に給水管が接 続されている世帯の割合は約 14 %に留まっている(カンボジア統計局,2011)。また、図 3-3 に示すように、上水道が家屋内に接続されている家屋内給水の普及率は、都市部と農村部 では大きな開きが生じている。 カンボジアの全人口の8割の人々が居住する農村部では水道が未だに整備されていない 地域がほとんどであり、井戸水、表流水、雨水のような様々な水源が飲用や生活用水として 使用されている。また、季節別や河川までの距離により飲用水源が異なることが明らかとな っており(渡辺ら,2007)、カンボジア統計書(2011)によると、カンボジア農村部全体の 約 40 %が通年で地下水を使用し、乾季には河川水や湖水等の表流水、雨季には雨水を主要 水源とすることが報告されている(カンボジア統計局,2011)。 *1990 年、1995 年、2000 年、2015 年のデータは 2014 年と 2015 年に作成された Progress on drinking

water and sanitation(WHO and UNICEF,2014,2015),2005 年と 2010 年のデータは Demographic and Health Survey(カンボジア統計局,2005,2010)から引用

図 3-3 カンボジアにおける家屋内給水の普及率

(出典:WHO and UNICEF,2014,2015;カンボジア統計局,2005,2010 のデータにもとづき筆者作成) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 1990 1995 2000 2005 2010 2015 家屋 内給 水の 普及 率 (% ) 年 都市部 農村部

図 2-1 適正な手洗いの手順(出典:WHO,2017a) Wel hands with waler righl palm over left dorsum with inlerlaced lingers and vice versa rolaliαlal rubbing 01 left thumb clasped in righl palm and vice versa 
表 2-1 手指洗浄の過程でみられる動作や手洗い用洗浄剤に関する用語の定義一覧
表 2-3 自己感染と手洗い後にみられる糞便性細菌のコロニー数  糞便性細菌の種類  石けんと流水  石けん未使用  (水のみ)  未洗浄  Enterococcus  spp
図 2-4 ティッピー・タップのイメージ
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参照

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