第5章 貧困層における手洗いに用いる洗浄剤の購入可能性の検討
5.3 カンボジア貧困層の手洗い剤購入可能人口割合の算出
濯洗剤については、いずれも家計の 0.25 %の支出で全世帯の約 80 %の世帯が購入すること ができることがわかった。食器洗剤や洗濯洗剤を継続的に手洗いに使用することは手あれ を生じさせる要因になると予想されるため手洗いに適切ではないと考えられるが、現状で ルー村の住民にとって比較的購入しやすい手洗い剤は食器洗剤と洗濯洗剤である。
図 5-2 ルー村を事例とした手洗い剤4品目の購入可能世帯割合(2015 年現在)
(出典:調査結果にもとづき筆者作成)
一方、ブーディンスラムは首都プノンペン内に位置する都市スラムであり、家屋内給水が 使用可能であり、所得はルー村に比べ高い。また、ルー村の調査対象世帯では洗濯洗剤を手 洗いに使用する家庭が多い一方で、ブーディンスラムにおける調査対象として選定した 42 世帯の中では洗濯洗剤に比べ高価な液体石けんを手洗いに用いる家庭が多かった。このよ うな手洗い剤の違いは経済状況に関係すると考え、本章では各地区の調査対象世帯を対象 に家計支出の何 %でどのような洗浄剤が購入可能かを検討するととした。
5.3.2 手洗い剤購入可能人口割合の算出方法
第4章で示した図 4-5 は1ヶ月1人当たりの全家計支出額ごとの人口分布を示す分布図 である。全家計支出額中で手洗い剤4品目に対する支出可能割合が全所得層で同じと仮定 する場合、低所得層は安い手洗い剤しか購入することができない。そこで、価格は高いが適 正な手洗い剤を普及させる場合、手洗い剤4品目への支出可能割合をどの程度まで上昇さ せる必要があるかをシミュレーションにより分析する。そのための計算に用いた記号等は 表 5-4 にまとめた。
まず、世帯 i が全ての手洗いに対し手洗い剤jを使用すると仮定した場合の1ヶ月1人 当たりの手洗い剤jへの必要支出額Ehijの求め方は前述の式(3)で示したとおりである。
また、手洗い剤jによる手洗い 1 回当たりの費用Cwjの求め方については、前述の式(4)
で示した通りである。
本研究の調査対象地であるルー村とブーディンスラムにおける世帯 i の1ヶ月1人当た りの全家計支出額Iiは聞き取り調査から求めた項目別支出額Ecikにより次式のように算出す ることができる。なお、家計支出額調査で聞き取りを行った支出項目は、全洗浄剤代、食費、
教育費、医療費、石炭代、ガス代、電気代、水代、その他の9項目である。
I
i= ∑ Ec
ik9
k=1
この全家計支出額Iiに対して、手洗い剤jへの支出が可能な金額の割合をrと仮定する場合、
世帯 i の手洗い剤への可能支出額EAijは次式で示すことができる。
EA
ij= I
i× r
jこの手洗い剤 j への可能支出額EAijが必要支出額Ehijを上回る場合は手洗い剤 j を購入可能 であるといえる。手洗い剤 j への支出可能割合 r に関して、水に対する支出可能割合はル
ー村で 1.5 %、ブーディンスラムでさえ 1.9 %にしか達しておらず(表 4-5 参照)、
r
jは生活に必要不可欠な水への支出可能割合よりも低いと考えられる。
表 5-4 手洗い剤への支出可能額算出のための変数
変数 説明 計算式 単位
Coj 手洗い剤 j の手洗い1回当たりの使用量
(実験結果にもとづく) g/回
Cwj 手洗い剤 j による手洗い1回当たりの費用
(実験結果と市場調査結果にもとづく)
Pj
Uqj× Coj ドル/回 EAij 世帯 i の手洗い剤 j への支出可能額 Ii× rj
100 ドル/人/月 Ecik 世帯 i の 1 ヶ月1人当たりの支出項目 k への支出額
(聞き取り調査結果にもとづく) ドル/人/月
Ehij 世帯 i が全手洗い剤 j を使用した場合の1ヶ月1人当たり の手洗い剤 j への支出額
Fti
Hni × Cwj× 30 ドル/人/月 Fa 1 日1人当たりの手洗い頻度
(聞き取り調査結果にもとづく)
∑ni=1Fti
∑ni=1Hni 回/人/日 Fti 世帯 i の手洗い頻度(聞き取り調査結果にもとづく) 回/世帯/日 Hni 世帯 i の家族人数(聞き取り調査結果にもとづく) 人/世帯
Ii 世帯 i の1ヶ月1人当たりの全家計支出額
(聞き取り調査結果にもとづく) ドル/人/月
Pj 洗浄剤 j の販売価格(市場調査結果にもとづく) ドル/g Uqj 洗浄剤 j の販売単位(市場調査結果にもとづく) g/個
n 調査世帯数
r
j 手洗い剤 j への支出可能割合i 調査対象世帯番号(1~n)
j
手洗い剤4品目 (1:液体石けん、2:固形石けん、3:
食器洗剤、4:洗濯洗剤)
k
支出項目(1:全洗浄剤代、2:食費、3:教育費、4:医 療費、5:石炭代、6:ガス代、7:電気代、8:水代、
9:その他)
注:1)Cojは筆者が手洗い剤 j で 10 回の手洗いを行い、手洗い1回ごとの分量を測定し平均した実測値 である。
注:2)複数の手洗い剤を使用している場合、Cwjは各手洗い剤の 1 回当たりの費用を平均した。
(出典:筆者作成)
表 5-5 調査対象地における手洗い剤4品目の手洗い費用
項目 洗濯洗剤 食器洗剤 固形石けん 液体石けん
1 日の手洗い費用
(Cwj× Fa)(ドル/人/日)
ルー村 0.0019 0.0022 0.0042 0.0342 ブーディンスラム 0.0002 0.0024 0.0045 0.0366 注:1)聞き取り調査結果より、各種洗浄剤による手洗い費用はルー村とブーディンスラムの手洗い頻度 をそれぞれ 2.8 回と 3.0 回として計算している。
(出典:調査結果にもとづき筆者作成)
そこで、計算に用いた r は最大でも水に対する支出の約半分程度である1%を超えることが ないと考え、0.1 %から1%に変化させて計算した。これらの
r
jに対し手洗い剤 j が世帯 i で EAij>Ehijとなるか否かを計算し、購入可能な人口割合を示したものが図 5-3 である。この 図により、支出可能割合r
jを1%まで大きくしても、ルー村では1回あたりの手洗い費用(表 5-5 参照)が高い液体石けんを購入することができる人口の割合は極めて低く、現状で液体 石けん普及は難しいことが明らかになった。また、液体石けんの次に適切とされる固形石け んについては、住民の約半数の世帯が使用可能になるための支出可能割合r
jがブーディンス ラムでさえ全家計支出額の約 0.15 %であるのに対し、ルー村では 0.4 %も必要であること がわかった。そのため、現状のルー村では手洗いの度に石鹸を使用することが難しい家庭 が多いと考えられる。これらのことから、ルー村をはじめとする農村で手洗いに適正な石 けんが普及されるためには、住民の所得向上に加え、手洗い剤への支出の必要性に関する 啓発活動や住民にとって経済的に妥当な石けんの開発および販売が必要であると考えら れる。また、これらの方策を通し、適正な手洗い剤の購入と使用を普及し疾病を防止する ことができれば、6~7%に及ぶ医療費(表 4-5 参照)の削減分で手洗い剤が購入可能で あると予想され、家計への影響は少なくなると考えられる。0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
購入可能人口割合(%)
支出割合rj (%)
洗濯洗剤(ブーディンスラム) 洗濯洗剤(ルー村)
食器洗剤(ブーディンスラム) 食器洗剤(ルー村)
固形石けん(ブーディンスラム) 固形石けん(ルー村)
液体石けん(ブーディンスラム) 液体石けん(ルー村)