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第7章 結論

本研究ではカンボジア貧困層を事例に、開発途上国における経済状況と手洗いに用いる 洗浄剤の選択に関する研究と題し、第1章から第3章までで手洗いが確立されるまでの経 緯や世界の手洗い普及への取り組みや活動、および先行研究を説明し、カンボジアの下痢性 疾患罹患状況や手洗い状況についてまとめている。また、第4章では、カンボジア貧困層の 経済状況と手洗い状況に関する実態調査結果を示し、第5章では第4章の結果を基に手洗 い剤の購入可能性について変数の設定および計算式の構築を行い、感度分析を行った。加え て、第6章では農村部における流水と手洗いの関係性に関する実態調査の結果をまとめて いる。

2013 年に、カンボジア農村の事例としてカンダール州キリンスヴァイ郡ルー村を選定し、

その対照地および都市スラムの事例としてプノンペン市内に位置するブーディンスラムを 選定した。現地調査では、家計支出状況や手洗いに用いる洗浄剤に関する質問票を用いた聞 き取り調査を行った。また、流水を使用でき手洗い方法が安定しているブーディンスラムで のみ、現地で入手可能かつ住民が日常的に手洗いに使用している手洗い剤の手指汚染除去 検査を実施した。これらの調査から明らかとなったことは以下のとおりである。

① 住民が日常的に手洗いに使用する洗浄剤を用いた手指汚染度調査の結果、食器洗剤や 洗濯洗剤よりも液体石けんや固形石けんの方が手洗い剤の手指汚染除去効果が高い可 能性が示され、後者の使用が適正である。

② 質問票を用いた聞き取り調査の結果、ルー村の1ヶ月1人当たりの全家計支出額はブ ーディンスラムに比べ約2分の1と低く、貧困ライン以下の人口割合はブーディンス ラムの約2倍と高かった。

③ 全洗浄剤への支出は両地区でほぼ同額であり、ルー村における全洗浄剤への支出が家 計に占める割合はブーディンスラムより高かった。農作業等のために衣服の洗濯の機 会が多いと考えられるルー村では、石けんのような適正な手洗い剤にまで十分投資す る余裕がないと考えられる。

④ 低所得のルー村では、ブーディンスラムと比較し、安価な洗濯洗剤の手洗いへの使用割 合が圧倒的に高かった。適正な洗浄剤の中ではさほど高価ではない固形石けんの手洗 いへの使用割合はブーディンスラムと同程度であるが、高価な液体石けんについては ブーディンスラムの半分以下に過ぎなかった。

⑤ 最も手洗いに適している液体石けんへの支払意思額調査では、ルー村の住民には液体 石けんに対する購入意思はあるものの、ブーディンスラムに比べ所得の低いルー村で は液体石けんは高価であるという認識があると予想され、現状では手洗いに使用され 難いと考えられた。

⑥ ルー村住民は動物接触等の手洗いが必要とされる機会がブーディンスラムに比べ約3 倍と高いにも関わらず1日当たりの手洗い頻度はブーディンスラムとほぼ同様であっ た。これは流水が利用可能なブーディンスラムと比較してルー村では水供給設備にア クセスし難いためと考えられる。

上記で示したように、ルー村をはじめとするカンボジア農村部では経済的な理由で石け んのような手洗いに適正な洗浄剤が用いられていないと考えられた。そこで、手洗いに用い る洗浄剤の購入可能世帯および人口を算出するための計算式を構築し、各種手洗い剤の購 入可能性について検討することとした。調査対象世帯で手洗いに用いられている洗浄剤の 上位4品目の液体石けん、固形石けん、食器洗剤、洗濯洗剤を手洗い剤4品目と定義し、支 出割合を変化させた場合の手洗い剤4品目の購入可能世帯割合および人口割合を感度分析 した。この分析によりわかったことは以下のとおりである。

① 手洗い剤の購入可能世帯割合および人口割合について感度分析によるシミュレーショ ンを行い、現状のルー村をはじめとする農村部では手洗いのために毎回石けん類を使 用することが難しい家庭が多いことが予想された。

② ルー村をはじめとするカンボジアの農村部で適正な石けんが普及するためには、住民 の所得向上に加え、手洗い剤への支出の必要性に関する啓発活動や住民にとって経済 的に妥当な石けんの開発および販売が必要である。

③ これらの方策を通し、適正な手洗い剤の購入と使用を普及し疾病を防止することがで きれば、医療費の削減分で手洗い剤が購入可能であると予想され、家計への影響は少な くなると予想される。

第4章から第5章までの結果から、ルー村をはじめとするカンボジア農村部で石けんを 用いた手洗いを普及するためには、経済状況の向上、衛生教育や啓発活動による知識の付与、

および住民にとって経済的に妥当な石けんの販売方法の確立が必要であると考えられた。

これに加え、適切な手洗いには流水の普及が必要不可欠であることは先行研究で報告され

2013 年に調査を行ったルー村では、2015 年までに簡易水道である軒先給水管を整備して いる世帯がみられるようになった。軒先給水管が整備される状況下で住民の経済状況や手 洗い状況がどのように変化しているのかを把握するために、軒先給水管が整備されている 水道整備世帯と整備されていない水道未整備世帯を対象に実態調査を行った。この調査に よって明らかとなったことは以下のとおりである。

① 水道の有無に関わらず未だ伝統的な水瓶に溜めた混合水を手洗いに使用する家庭が多 いが、軒先給水管の使用者割合は手押しポンプ付き井戸を上回っていたため行動変容 が生じていると考えられる。

② 水道整備世帯は手洗い頻度の高い行動後に液体石けんを使用し、水道未整備世帯は以 前と同様に洗濯洗剤を使用していることがわかった。

③ しかし、水道未整備世帯の手洗い剤使用状況をみると、手洗い前行動項目の中には液 体石けんや固形石けんを使用する世帯もみられ、各世帯とも行動別で手洗い剤を選択 している可能性があると考えられた。

④ 軒先給水管の整備と所得状況は関係しておらず、住宅が処理水を溜める高架タンクに 近く、水道未整備世帯に比べ水への支払い意思があると予想される家庭が軒先給水管 を整備していると考えられた。

以上の現地調査と分析の結果から、次のことを結論とする。

① ルー村のような農村部では流水が得られないことや都市部に比べ低所得であること が手洗い不足と適切な手洗い剤の使用を妨げると考えられる。そのため、経済的に 貧しい農村住民が継続的に購入することが可能な石けんの販売や適切な手洗いに関 する啓発活動の実施等を通じ、石けんへの支出を促す必要がある。

② 適正な手洗いには流水が必要であるが、ルー村のような農村では簡易水道が整備さ れ始めても伝統的な水利用が存在し流水が直接手洗いに使用されない可能性があ る。そのため、水道整備世帯では流水の有効性に関する知識の付与を行い、流水利 用へと行動変容を促す必要があると考えられる。

③ ルー村の水道整備世帯と水道未整備世帯では水道の有無に関わらず手洗い行動別に 手洗い剤を選択している可能性があるため、いずれの世帯も適切な手洗い剤を各行 動後にも使用することを促すために石けんを用いた手洗いの教育を行う必要があ る。

④ 現状のルー村のような貧しい農村部の住民に対しては、第一段階の取り組みとして 洗濯洗剤や食器洗剤のような手洗いに適正ではない手洗い剤から固形石けんへの移 行を促し、第二段階の取り組みとして所得が向上し流水が普及する状況に合わせ て、固形石けんから液体石けんへと移行させることを提案する。

謝辞

本研究を進めるにあたり、主指導教員である北脇秀敏教授、副指導教員である荒巻俊也教 授、杉田映理教授には多くのご助言とご指導を賜りました。この場をお借りして感謝申し上 げます。

北脇教授のお力添えにより、2013 年から2年間にわたり、JICA 事業による産官学連携プ ロジェクトである「カンボジア王国における殺菌剤入り石けん液等の普及による衛生状況 の向上のための BOP ビジネス事業準備調査」に調査団員として参加させて頂きました。この プロジェクトでは、サラヤ株式会社、オリジナル設計株式会社、立山公也氏と共に調査を行 う機会を頂き、さらに国際機関や現地政府間との情報交換や住民への聞き取り調査の機会 を与えて頂きました。また、このプロジェクトを通して得られたデータから本研究の構築や 論文作成を行うことが出来ました。北脇秀敏教授から 2015 年 12 月にもカンボジア農村部 での調査を許可して頂き、そこで取得した情報を用い、2016 年 11 月に国際開発学会にて口 頭発表することが出来ました。加えて、東洋大学国際共生社会研究センターのリサーチアシ スタントに雇用して頂き、さらにバングラデシュへの現地調査に同行させて頂いたこと、重 ねて厚く感謝申し上げます。

荒巻俊也教授には研究発表時や研究論文作成時に多くの的確なご助言を頂き、杉田映理 教授には 2014 年9月にウガンダ農村部へ現地調査に同行させて頂き、数々の貴重な経験を させて頂きました。なお、この調査結果の量的データの分析に携わらせて頂き、東洋大学大 学院の紀要論文「Comparison of Handwashing Methods in Uganda : Is using a Tippy Tap better than washing hands using a basin?」に共著者として発表させて頂いたこと、感 謝申し上げます。

東洋大学大学院国際地域学研究科の後輩には公私ともに支えて貰ったこと感謝致します。

特に、東洋大学大学院からリンカーン大学の博士後期課程へ進学した高松裕希氏には、互い に切磋琢磨できる仲として支えて貰いました。本当にありがとうございます。

東洋大学大学院博士後期課程への進学を勧めて下さった高知大学農学部土壌環境学研究 室の康峪梅教授やご助言をしてくださった高知大学理事の櫻井克年教授、田中壮太教授に 感謝申し上げます。

カンボジアの関係者の方々や現地で調査にご協力頂いた住民の皆様、東洋大学ラーニン グサポートセンターの皆様、家族、および友人達に心から感謝申し上げます。

最後に、改めてこれまで多くの方々に支えられながら研究を行うことが出来たことを、重 ねて感謝申し上げます。誠にありがとうございました。