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第4章 カンボジア貧困層の経済状況と手洗いに用いる洗浄剤に関する調査

4.2 調査対象地の概要

4.2.1 調査対象地の位置と選定理由

カンボジアにおける農村の事例として、首都プノンペン市の中心部から南東に約 30 km 離 れた場所に位置するカンダール州キリンスヴァイ郡ルー村(N11°46′76.21″E105°14′

58.02″)を選定した(図 4-1)。なお、カンダール州はプノンペン市を取り囲むように位置 し、11 地区 127 コミューン 911 村で形成されている。2013 年現在のルー村で見られた住宅 の多くは写真 4-1 に示すような木造の高床式住居であった。また、ルー村の中心部には寺院 や小中学校があり、その付近には写真 4-2 に示すように衛生商品や雑貨類を販売する商店 が並び、休日には小規模の市場が開かれていた。この村において、2010 年4月から 2012 年 3月に筆者参加の下 NEDO 助成金による「カンボジア王国における高性能鉄吸着剤を用いた ヒ素汚染地下水の浄化技術の研究開発」の調査が行われた。また、この調査期間中、ルー村 内の小学校1箇所と中学校1箇所で地下水のヒ素汚染に関する啓発活動を実施した。この ような背景の下、2013 年現在でルー村には上水道が十分に整備されていなかったことに加

え、雨季に生じる洪水地域に属することや手洗い普及に関する NPO および NGO 団体の介入 がなかったことから、本研究の調査対象地として選定した。

一方、ルー村の比較対照地であり都市スラムの事例として、プノンペン市内に位置する貧 困地区であり老朽化した集合住宅地であるブーディンスラム(N11°55′32.53″E104°

93′27.82″)を選定した(図 4-1)。写真 4-3 に示すブーディンスラムは 2013 年現在でプ ノンペン市内に唯一現存していたスラム地区であり、その付近には薬局やヘルスセンター が多くみられ、生鮮食品、衣服、日用品等を販売する市場や個人経営の商店がルー村よりも 多く存在する。また、ルー村と異なるブーディンスラムの特徴として、各世帯で家屋内給水 が利用可能であることや台所やトイレ合設のシャワー室で流水利用が可能なことが挙げら れる。

図 4-1 カンボジアにおける調査対象地の位置イメージ(出典:筆者作成)

写真 4-1 ルー村でみられる高床式住居 写真 4-2 ルー村内の商店が並ぶ通り

(出典:筆者撮影) (出典:筆者撮影)

100 km

プノンペン市 ブーディンスラム

ルー村

写真 4-3 ブーディンスラムの建屋と周辺の様子(出典:筆者撮影)

4.2.2 調査対象世帯数と家族人数等の基本情報

表 4-1 には本研究の調査対象地であるルー村とブーディンスラムの全人口、調査世帯数、

調査した世帯内の全人口、1世帯当たり家族人数、抽出率を示している。なお、表 4-1 中の 各地区の全人口は、カンボジア統計局で正確な数値を記載している資料やデータを入手で きなかったため、各地区の代表者による口述で得た数値を示している。

各地区ではほぼ全戸を訪問し、聞き取り調査に対して協力的な世帯を調査対象世帯とし た。また、家計状況を把握している世帯主の男性もしくは配偶者である女性を1名選び回答 者とし、聞き取り調査を行った。この回答者の男女比は、ルー村とブーディンスラムのいず れも男性が約 20 %,女性が約 80 %と同様であった。また、回答者の平均年齢はルー村で約 41.8 歳とブーディンスラムで 42.3 歳であり、回答者の年齢もほぼ同様であった。

ルー村では調査対象の 70 世帯中 57 世帯(約 81 %)に 18 歳以下の子どもがおり、1 世帯 当たりの 18 歳以下の子どもの数は約 1.9 人、成人数は約 3.8 人であった(付録1参照)。

一方、ブーディンスラムでは 42 世帯中 35 世帯(約 83 %)に 18 歳以下の子どもがおり 18 歳以下の子どもの数は約 2.2 人、成人数は約 4.0 人とルー村よりも多い(付録2参照)。

表 4-1 調査対象地の人口と調査対象世帯数

項目 記号 ルー村 ブーディン

スラム 調査対象地の全人口(人) A 900 400

調査世帯数 B 70 42

調査した世帯内の全人口(人) C 395 261 1 世帯当たり家族人数(人) C/B 5.6 6.2

抽出率(%) C/A 44 65

(出典:調査結果にもとづき筆者作成)

4.2.3 回答者の年齢別でみた衛生教育受講状況

調査対象世帯の回答者の衛生教育受講状況について、年齢別や地区間でどのような違い があるかを把握するために、各地区の年齢別の衛生教育受講状況をそれぞれ図 2 と図 4-3 に示した。

ルー村では 40 代と 50 代で衛生教育の受講経験が無いと応えた回答者数が多いが、20 代 と 30 代では衛生教育の受講経験が有ると応えた回答者が多く全体の約 40 %を占めてい た。このことから、ルー村では 30 代以下に比べ 40 代以上では衛生教育を受けたことが無 い人口が多い可能性があり、世代間で衛生に関する知識や認識に違いがあると推測され た。

一方、ブーディンスラムでは 50 代以上で受講した経験が無いと応える回答者が多く、

20 代と 30 代で衛生教育の受講経験が有ると応えた回答者割合は全体の約 20 %とルー村に 比べ低いことがわかった。これらのことから、ブーディンスラムでは 30 代以下の世代で 衛生教育の受講経験が有る人口は少ない可能性があると考えられた。

図 4-2 ルー村の年齢別の衛生教育受講状況(出典:調査結果にもとづき筆者作成)

図 4-3 ブーディンスラムの年齢別の衛生教育受講状況(出典:調査結果にもとづき筆者作成)

しかしながら、衛生教育の有無に関する聞き取り調査は、衛生教育の定義を明確に提示 せずに実施したため、ルー村の人々は都市部よりも農村部で多く実施されている衛生や安 全な水に関する啓発活動を衛生教育として認識している可能性があると予想された。これ

0 5 10 15 20

20-29 30-39 40-49 50-59 60以上 年齢不明

回答者数(人)

年齢(才)

無回答 衛生教育有 衛生教育無

0 5 10 15 20

20-29 30-39 40-49 50-59 60以上

回答者数(人)

年齢(才)

無回答 衛生教育有 衛生教育無

によりルー村における衛生教育受講有りの回答者割合がブーディンスラムを上回る結果に なったと考えられる。また、この結果に対し農村部から都市部への人口流入による可能性 も考えられ、世代別の衛生教育受講状況を比較する際には回答者の出身地や学歴等を加味 し、より詳細な調査を実施する必要があった。

4.2.4 調査対象世帯の衛生設備使用状況

調査対象地の衛生設備とその使用状況を比較するために、各地区の衛生設備の使用割合 をそれぞれ図 4-4 と図 4-5 に示す。

ルー村で最も多く使用されている衛生設備は手流しによるトイレで、次いでピットラト リンとなっており、野外排泄はみられなかった。このように、トイレ設備自体は改善された ものが使用されているが、調査対象世帯の中には腐敗槽が管理されいない世帯や垂れ流し 状態のまま十分なし尿処理が行われていない世帯もみられた。なお、ルー村では手流しによ るトイレはトタン屋根付きのコンクリート製建屋内に作られている場合が多く、トイレの 脇に排泄物や紙類を流すための水がコンクリート製の槽に溜められていた。

一方、ブーディンスラムの全世帯ではシャワー合設の水洗や手流しによるトイレが整備 されており、ルー村のようにトイレを共有する世帯やピットラトリンを使用する世帯はみ られなかった。また、このスラムには下水道が整備されており、シャワー合設のトイレは住 民にとって排泄後の手洗いが行い易い状況であることから、ルー村よりも衛生状況は良い と考えられる。

図 4-4 ルー村のトイレ設備使用状況 図 4-5 ブーディンスラムのトイレ設備使用状況

(出典:調査結果にもとづき筆者作成) (出典:調査結果にもとづき筆者作成)

81%

10%

3% 6%

世帯所有の手流しによるトイレ 世帯所有のピットラトリン 共同トイレ(種別不明)

無回答

90%

10%

世帯所有の手流しによるトイレ 世帯所有の水洗トイレ