第5章 貧困層における手洗いに用いる洗浄剤の購入可能性の検討
5.2 手洗いに用いる洗浄剤の購入可能世帯割合を算出するための変数と計算式
5.2.1 変数の設定
手洗いに用いる洗浄剤の購入可能世帯割合を算出するための計算式に使用する変数を表 5-1 に示す。
表 5-1 手洗い剤購入可能人口割合の算出に用いる変数
変数 説明 単位
AP 手洗い剤 j を購入可能な世帯数
Coj 手洗い1回当たりの手洗い剤 j の使用量 g/回 Cwj 手洗い剤 j による手洗い 1 回当たりの費用(手洗い費用) ドル/回 EAij 支出可能割合 rjの場合の世帯 i における1ヶ月当たりの
手洗い剤 j の購入可能額 ドル/世帯/月
EHij 世帯 i の1ヶ月当たりの手洗い剤 j に対する必要支出額 ドル/世帯/月
FNi 世帯 i の家族人数 人/世帯
HTi 世帯 i の1日当たりの全手洗い回数 回/世帯/日 Ii 世帯 i の1ヶ月当たりの収入額 ドル/世帯/月 Ik 所得階層番号 k の世帯数
Pj 手洗い剤 j の販売価格 ドル/個
R 全世帯数 TP に対する手洗い剤 j を購入可能な世帯数 AP の
割合 %
TP 全世帯数
Uqj 手洗い剤 j の販売単位 g/個
n 所得階層数 m 世帯数
q 手洗い剤の品目数
rj 手洗い剤 j への支出可能割合 %
i 調査世帯番号(1~m)
j 手洗い剤品目番号(1~q)
k 所得階層番号 (1~n)
5.2.2 手洗いに用いる洗浄剤の購入可能世帯数算出のための計算式
表 5-1 に示した変数を用いて、手洗いに用いる洗浄剤を購入可能な世帯数は次のような 順序で算出することができる。
世帯 i の所得額Iiの rj %が洗浄剤 j に対し支出可能であると仮定する場合、世帯 i の洗浄 剤 j の購入可能額EAijは次式のように示される。
EAij= Ii× rj
100 (1)
一方で、世帯 i の1ヶ月当たりの洗浄剤 j への必要支出額をEHijとすると、洗浄剤 j を購 入することが可能な状況は以下の式(2)が成立する場合である。
EAij≥ EHij (2)
このEHijは、世帯 i の家族人数FNiに世帯 i の1日当たりの手洗い回数HTiと実験から求めた 手洗い剤jの1回あたりの費用Cwjを乗じ、1ヶ月あたり 30 日間として算出した値である。
なお、手洗い剤 j による手洗い 1 回当たりの費用Cwjは、手洗い剤 j の販売価格Pjを販売単 位Uqjで除し、筆者による実験で求めた手洗い剤 j の手洗い1回当たりの使用量Cojを乗じた 値である。
EHij= FNi× HTi× Cwj× 30 (3)
Cwj= Pj
Uqj× Coj (4)
ここで、EAij≥ EHijの関係式が成立した洗浄剤 j を購入可能な世帯数を AP とすると、所得 階層番号kの世帯数Ikを累積した全世帯 TP に対する洗浄剤 j の購入可能世帯割合 R は次の ように示される。
R=100 ×APTP (5) TP=∑nk=1Ik (6)
5.2.3 カンボジア農村を事例とした手洗い剤購入可能世帯割合
(1)手洗い1回当たりの費用の算出
カンボジアで手洗いに使用する洗浄剤の費用を(4)の式によって算出する。ここで、対 象とする洗浄剤は、カンボジアの住民が手洗いに使用する手洗い剤上位4品目とし(第4章 の表 4-2 参照)、これらを手洗い剤4品目と表現する。
式(4)の説明変数には、筆者による市場調査で得られた各手洗い剤の販売価格および販 売単位、さらに筆者の実験で求めた各手洗い剤を用いた手洗い1回当たりに必要な使用量 を設定し、手洗い費用を算出した(表 5-2)。その結果、カンボジアでは液体石けんと固形 石けんの手洗い費用はそれぞれ洗濯洗剤の約2倍と約 17 倍であり、石けん類の手洗い費用 は他の手洗い剤に比べ高いことがわかった。
表5-2 手洗い剤4品目の手洗い費用
項目 洗濯洗剤 食器洗剤 固形石けん 液体石けん
販売単位(Uqj)(g/個) 130 400 80 250 平均使用量(Coj )(g/回) 0.3 0.50 0.25 0.8 販売価格(Pj)(ドル/個) 0.3 0.6 0.6 3.8 1 回の手洗い費用(Cwj)(ドル/回) 0.0007 0.0008 0.0015 0.012
(出典:調査結果にもとづき筆者作成)
(2)手洗い剤4品目を購入可能な世帯割合の算出
カンボジア農村部に位置するルー村を事例とし、表 5-1 に示す変数と前述の(1)から
(6)の式に設定値を代入し、手洗い剤4品目を購入可能な世帯割合をシミュレーションに より求めた。このシミュレーションには、本研究の第6章「カンボジア農村部における軒先 給水管の利用と石けんと用いた手洗いの関係性」でも示している 2015 年 12 月にルー村で 実施した調査結果を設定値として用いている。
表 5-3 カンボジア農村を事例とした手洗い剤4品目の購入可能世帯割合算出用設定値
変数 設定値
EAij: 支出可能割合 rjの場合の世帯 i における1ヶ月当たりの手洗い剤 j の 購入可能額(ドル/世帯/月)
支出可能割合 0~1 %で変化させた場合の 78 世帯の手洗い剤 4 品目の購入可能額とした。
なお、聞き取り調査結果により、水への支出 率が約 1.8%であったことから、その半分程度 の 1%を上限値とした。
EHij: 世帯 i の1ヶ月当たりの手洗い剤 j に対する必要支出額(ドル/世帯/月)
78 世帯の 1 ヶ月当たりの手洗い剤 4 品目の各 必要支出額とした。
FNi: 世帯 i の家族人数(人/世帯) 各世帯の大人や子供の数を合計した数値とし た。
HTi: 世帯 i の1日当たりの全手洗い回 数(回/世帯/日)
各世帯の家族 1 人 1 人の 1 日当たりの手洗い 回数を合計し、1 世帯当たりの 1 日に行う手 洗い回数を合計した。
Ii: 世帯 i の1ヶ月当たりの収入額もし くは家計支出額(ドル/世帯/月)
各世帯で、1 ヶ月1世帯当たりの項目別支出 額の合計値を収入額とみなした。
Ik: 所得階層番号 k の世帯数 1 ヶ月 1 世帯当たりの所得額の範囲を 0~850 ドル/世帯/月とし、50 ドル刻みで 17 階層と した。
R: 全世帯数 TP に対する手洗い剤 j を 購入可能な世帯数 AP の割合
Uqj: 手洗い剤 j の販売単位(g/個) 表 5-2 を参照
n: 所得階層数 50 ドル刻みで 17 階層と設定した m: 調査対象世帯数 78 世帯*
q: “j”品目の手洗い剤 液体石けん、固形石けん、食器洗剤、洗濯洗 剤の4品目とした。
rj: 手洗い剤 “j”への支出割合 (%) 液体石けん、固形石けん、食器洗剤、洗濯洗 剤への支出割合
i: 調査世帯番号(1~m) 各世帯に付けた世帯番号は 1~78 である。
j: 手洗い剤品目番号(1~q) q=4(1:液体石けん、2:固形石けん、3:食器 洗剤、4:洗濯洗剤)とした。
k: 所得階層番号 (1~n) n=17
Pj: 手洗い剤 j の販売価格(ドル/g) 表 5-2 を参照
*2015年にカンボジアのカンダール州キリンスヴァイ郡ルー村を調査対象地として実施した調査で選定し た78世帯とそのデータを設定値に用いている。
(出典:筆者作成)
(3)ルー村を事例とした手洗い剤購入可能人口割合算出に関する結果
2015 年現在のルー村の所得額分布は、下層に向かうにつれ世帯数が増加し、下方部で分 布の山を形成した(図 5-1)。ルー村の平均所得額は約 234±145 ドル/世帯/月であり、全 洗浄剤に対する平均支出額は約 9.5±7.2 ドル/世帯/月と家計の約 4.1 %を占めていた。ま た、平均所得額以下の世帯数は 78 世帯中 46 世帯(約 60 %)であり、2015 年以降の貧困ラ インである1日1人当たり 1.9 ドル未満で生活する世帯は 78 世帯中 61 世帯(約 90 %)と 貧しい世帯が多いことがわかった。このように低所得者が多い村で、支出割合を変化させた 場合にどの手洗い剤が購入可能であるか示した結果を図 5-2 に表す。
図 5-1 カンボジアのルー村を事例とした全家計支出額分布(2015 年現在)
(出典:調査結果にもとづき筆者作成)
各手洗い剤の購入可能世帯割合をみると、液体石けんについては、支出割合上限の半分で ある 0.5 %の支出では全体の約 1%の世帯しか購入することができず、さらに1%まで支出割 合を上昇させても全体の約 8.0 %の世帯しか購入することができないことが明らかとなっ た。また、液体石けんの次に手洗い費用が高い固形石鹸については、家計の 0.35 %の支出 で全体の約 50%の世帯が購入することが可能であり、さらに 1 %まで支出を引き上げること
0 2 4 6 8 10 12 14 16
0-49 50-99 100-149 150-199 200-249 250-299 300-349 350-399 400-449 450-499 500-549 550-599 600-649 650-699 700-749 750-799 800-849
世帯数
全家計支出額階層(ドル/世帯/月)
濯洗剤については、いずれも家計の 0.25 %の支出で全世帯の約 80 %の世帯が購入すること ができることがわかった。食器洗剤や洗濯洗剤を継続的に手洗いに使用することは手あれ を生じさせる要因になると予想されるため手洗いに適切ではないと考えられるが、現状で ルー村の住民にとって比較的購入しやすい手洗い剤は食器洗剤と洗濯洗剤である。
図 5-2 ルー村を事例とした手洗い剤4品目の購入可能世帯割合(2015 年現在)
(出典:調査結果にもとづき筆者作成)