• 検索結果がありません。

今 物 語 に お け る 希 望 表 現 に つ い て

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "今 物 語 に お け る 希 望 表 現 に つ い て"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

今物語における希望表現について

二七

文庫その他に二十余種の写本が伝わり、版本として天明六年 (一七八六) 刊・ 文 化 十 年 (一 八 一 三 ) 刊・ 群 書 類 従 本 が あ る が、 大 き な 差 異 は 認 め られない、とされている。   テ キ ス ト に は、 久 保 田 淳・ 大 島 貴 子・ 藤 原 澄 子・ 松 尾 葦 江 校 注 『今 物 語 』

を 用 い る。 そ の 底 本 は、 宮 内 庁 書 陵 部 蔵 写 本 で あ る。 テ キ ス ト の 「凡 例 」 に よ れ ば、 翻 字 に あ た っ て 歴 史 的 仮 名 遣 い に 改 め た 部 分 に は 振 り仮名を付し、濁点、句読点および引用符を用いた、とする。   二、希望表現の構成形式   今 物 語 (以 下、 「本 書 」 と 略 す ) に お け る 希 望 表 現 と 認 め ら れ る 構 成 形 式と用例数は以下の通りである。    「~ントオ ボ ス」      (一例)

   「~ントス」        (二例)

   「~タマヘ」        (一例)

   「望ム」          (二例)

   「祈ル」          (三例)    目次

    一、はじめに     二、希望表現の構成形式     三、各形式の用法     四、おわりに

  一、はじめに   本 稿 は、 別 稿

を 受 け、 今 物 語 を 研 究 資 料 と し て、 そ れ に お け る 希 望 表現

の実態を解明しようとするものである。

  今 物 語 の 編 者 お よ び 成 立 に つ い て は 諸 説 が あ る が、 『日 本 古 典 文 学 大 辞 典 』

に よ る と、 藤 原 信 実 の 編、 暦 仁 二 年 (一 二 三 九 ) か ら 仁 治 元 年 (一 二 四 〇 ) ま で の 間 に 成 立 し た と 推 定 さ れ る。 現 存 本 は 一 冊 で、 五 三 編の短小な説話を収める。おおむね平安後期・鎌倉前期の説話に材を取 り、淡々とした和文体を基調とし、若干の悲恋遁世説話において和漢の 詩 歌 を 織 り 込 ん だ 美 辞 麗 句 を つ ら ね る。 文 体 に つ い て は、 「伊 勢 物 語 」 に代表される平安時代の歌物語を思い出させる。素材は先行書からの抄 録によらず、すべて口承のものかとされる。伝本は宮内庁書陵部・内閣 今物語における希望表現について

  田   昭   二

   連   

  仲   友

  

(2)

二八

   「ム」           (一例)

   「マウシ」         (一例)

   「タシ」          (二例)

   「 バ ヤ」          (一例)

   「ナン」          (一例)

  本 書 に お け る 希 望 表 現 は、 そ の 構 成 形 式 が 大 き く 慣 用 形 「~ ン ト オ ボ ス 」「~ ム ト ス 」「~ タ マ ヘ 」、 実 動 詞 「望 ム 」「祈 ル 」、 付 属 語 「ム 」「マ ウ シ 」「タ シ 」「 バ ヤ 」「ナ ン 」 と い う 三 つ の 類 型 に 分 類 で き、 そ の 種 類 がこれまで考察してきた説話文学資料におけるそれと比較するとかなり 少ない。また、各構成形式の用例数も少ない。したがって、本書におけ る希望表現の構成が単純なものであると指摘できる。その理由について は、口承の説話を同一人のまとめたこととともに、本書の分量が挙げら れる。本書は五三編の短小な説話で成り、少ない分量に希望表現が現れ る用例も必然的に下がる。また、本書の内容とも関係があると考えられ る。本書には仏教関係の説話が部分的に見られる程度であまり多くない ため、神仏に対する願いや祈りの表現が少なくなる。それに、本書の文 体的要素も原因になると思われる。本書は和文体であり、その希望表現 も 和 文 体 の も の の み が 用 い ら れ、 漢 文 訓 読 体 に 多 く 見 ら れ る 「ネ ガ ハ ク ハ 」 な ど が 現 れ な い。 し か し、 今 ま で 考 察 し て き た 説 話 関 係 の 諸 文 献 と 比べ、 「タシ」 の存在が一つの特徴と言えよう。本書は願望の助動詞 「マ ホシ」 が見られずに、 「タシ」 が用いられていることは、成立時期とも関 係があろうかと思われる。   三、各形式の用法   1 、「~ントオボス」 「~ムトス」 「~タマヘ」 の用法

  まず、 「~ントオ ボ ス」 の用法を見よう。

  本 書 に は、 希 望 表 現 と 認 め ら れ る 慣 用 形 式 「~ ン ト オ ボ ス 」 が 一 例 の み見られる。

( 1 ) ち と き こ し め し て、 い か で 御 覧 ぜ む と お ぼ し け る ま ゝ に、 に は か にお

しいらせたまひけり。 (五   一二六頁)

  例 ( 1 ) は、 主 体 が 明 ら か で は な い が、 「御 つ ぼ ね 」 で の こ と で あ り、 敬 語 表 現 で、 「お 気 づ き に な り、 ど う に か し て 御 覧 に な り た い と お 思 い になる御心にまかせて、 」 の意と解され、第三人称の 「願望」

を 「説明」

する用法である。

  次に、 「~ムトス」 の用法を見よう。

  本書には、希望表現と関連性を持つ 「~ムトス」 が二例認められる。

  「~

ム ト ス 」 は 慣 用 形 式 で あ り、 本 来 「将 然 」 を 表 す 用 法 に 属 す る が、 そ の 中 で も 有 情 物 の 「将 然 」 を 表 す 用 法 は、 希 望 表 現 に 極 め て 近 い も の がある。

( 2 ) そ の の

ち こ の 女 た づ ね ゆ か む と し け れ ど、 ち ゝ は ゝ あ り け る ゆ ゑ

にて、ゆるさざりければ、たゞひとりいでて

行けるに、やう〳〵そ の国までかゝぐりつきにけり。 (二五   一四四頁)

( 3 ) あ る 説 経 師 の、 請 用 し て、 こ と に め で た く た ふ

と く 説 法 せ む と し けるに、 (五二   一六六頁)

(3)

今物語における希望表現について

二九

  例( 2 )( 3 )はいずれも有情物の 「将然」 を表す用法である。例 ( 2 )は、 「その後、この女が男を訪ねようとしたが、 」の意と解され、 「~したかっ た 」 と い う 希 望 表 現 の 用 法 に 近 い 心 理 的 な 意 志・ 願 望 の 意 味 を 表 す。 例 ( 3 ) は、 「あ る 説 法 師 が、 招 か れ て、 立 派 に 威 厳 を も っ て 説 法 し よ う と した時に、 」 の意と解され、この 「~しようとする時」 の用例は例 ( 2 ) の 心理的な意志・願望と対比し、より動作・状態の移行の意を表すもので あり、ニュアンス的に例 ( 2 )と差が感じられる。

  次に、 「~タマヘ」 の用法を見よう。

  本 書 に は、 「~ タ マ ヘ 」 は 一 例 見 ら れ る。 「~ タ マ ヘ 」 は も と も と 敬 語 「タ マ フ 」 の 命 令 形 で 一 般 的 に 命 令 表 現 に 用 い ら れ る。 し か し、 神 仏 や 為政者に対して相手の行動に関係せずに話し手の希望を表現する意味で 命令表現というより希望表現の用法と見るものがある。

( 4 )「紫式部なり。そらごとをのみお ほ くしあつめて、人の心をまどは すゆゑ

に、地獄におちて、苦をうくる事、いとたへ

がたし。源氏の 物語の名を具して、なもあみだ仏といふ哥を、巻ごとに人〳〵によ ませて、わがくるしみをとぶひたまへ 」といひければ、 (三八   一五六頁)

  例 ( 4 ) に お け る 「と ぶ ひ た ま へ 」 は 諸 本 「と ふ ら ひ た ま へ 」 と あ る に し た が い、 「私 の 苦 し み を 慰 め て ほ し い。 」 と 祈 願 す る 意 と 解 さ れ、 他 の 人 々 に 対 す る 祈 願 と し て 「希 求 」

を 直 接 「表 出 」

す る 用 法 で あ る と 解 釈 する。

  2、「望ム」「祈ル」の用法

  本 書 に は、 希 望 表 現 と 認 め ら れ る 動 詞 「望 ム 」 が 二 例、 「祈 ル 」 が 三 例 見られる。希望表現として同時代の他の資料によく用いられる 「欲」 「願」 「乞」 「求」 などは見られない。

  まず、 「望ム」 の用法を見よう。

( 5 ) 後拾遺をえらばれける時、 (略) えらぶ人のもとに行て、 「此哥いら む」 と望 けるに、 (四一   一五九頁)

( 6 ) 小 侍 従 が 子 に 法 橋 実 賢 と い ふ 者 あ り け り。 い か な り け る 事 に か、 世 の 人 こ れ を、 ひ き が へ る と い ふ 名 を つ け た り け る。 法 眼 を 望 申 て、 (四九   一六五頁)

  例( 5 )は、 「『この和歌が入って ほ しい』 と望んだが、 」の意、例 ( 6 )「法 眼という僧位を望んで、 」の意と解され、いずれも実動詞用法である。

  次に、 「祈ル」 の用法を見よう。

( 7 )「この定ならば、臨終のさまたげにも成なむず。いそぎいのる べき ぞ」 とていのら れけり。 (三六   一五四頁)

( 8 ) あ る 時 に、 「念 仏 に て 祈 て み む 」 と て、 蓮 花 谷 の ひ じ り 三 四 十 人 ば かりめぐりゐて、 (三六   一五四頁)

  例( 7 )は、 「『はやく祈るべきだ。 』と言って祈った。 」の意、例 ( 8 )は、 「念 仏 し て 祈 っ て み よ う。 」 の 意 と 解 さ れ、 い ず れ も 実 動 詞 用 法 で あ る。 因みに、本書において 「望ム」 「祈リ」 には 「のぞみ」 「いのり」 といった 名詞用法は見られない。

(4)

三〇

  3、「ム」「マウシ」「タシ」「バヤ」「ナン」の用法

  本書には、助動詞 「ム」 が一例、 「マウシ」 が一例、 「タシ」 が二例、終 助 詞 「 バ ヤ 」 が 一 例、 「ナ ン 」 が 一 例 見 ら れ る。 こ れ ら が 本 書 に お け る 希 望表現の中心的な表現であるといえる。

  ま ず、 「ム 」 の 用 法 を 見 よ う。 「ム 」 は い わ ゆ る 推 量 の 助 動 詞 で あ り、 基本的な用法は意志・推量・勧誘を表すが、文脈によっては希望表現と 解釈することができよう。

( 9 ) 後拾遺をえらばれける時、 (略) えらぶ人のもとに行て、 「此哥いら む 」と望けるに、 (四一   一五九頁)

  例( 9 )は、 「この和歌が入って ほ しい。 」の意と解され、相手に対して 婉 曲 的 に 希 望 を す る と 解 し、 「希 求 」 を 直 接 「表 出 」 す る 用 法 で あ る と 解 釈できる。

  次に、 「マウシ」 の用法を見よう。助動詞 「マウシ」 は希望の助動詞 「マ ホシ」 の対義語である 「憂し」 の派生語として、 「~したくない」 「気が進 まない」 の意を表す。

  (四五 一六二頁)

10

)ちるもうし散しく庭もはかまうし 花に物おもふ春のこのもり   例 (

い。 」という否定的に 「願望」 を直接 「表出」 する用法であると解する。 い た 庭 を 掃 き た く な い。 」 の 意 と 解 さ れ、 「掃 く の も つ ら い、 掃 き た く な

10

) に お け る 「マ ウ シ 」 は 和 歌 に お け る 用 例 で あ り、 「花 の 散 り 敷

    次に、 「タシ」 の用法を見よう。

  て、布施もとりとらずかへりて、 (五二 一六六頁) け る に、 は こ の し た か り け れ ば、 事 い そ が し く 成 て よ ろ づ い そ ぎ

11

) あ る 説 経 師 の、 請 用 し て、 こ と に め で た く た ふ と く 説 法 せ む と し

  (五二 一六六頁) り けるを、すかしてむとおもひて、すこしゐな ほ る様にしければ、

を12

) そ の 吹 の 日、 又 人 に よ ば れ て 説 経 し け る ほ ど に、 又 は こ の し た か

(次)

  例 (

11

)(

あると考える。 とらえ、 「厠に行きたかった」 の意と解し、 「願望」 を 「説明」 する用法で

12

) は、ともに 「はこ (箱) をする」 を婉曲的な表現であると   次に、 「 バ ヤ」 の用法を見よう。

  (四九 一六五頁)

13

)法のはしの下に年ふるひきがへるいまひとあがりとびあがらばや   例 (

する用法である。 がりたい。 」 の意と解され、希望表現の下位分類の 「願望」 を直接 「表出」

13

) は、和歌における用例であり、 「もうひとつ上の僧位に飛び上   次に、 「ナン」 の用法を見よう。

  なん (三八 一五六頁)

14

) き り つ ぼ に ま よ は ん や み も は る ば か り な も あ み だ 仏 と つ ね に い は

(5)

今物語における希望表現について

三一

  例 (

求」 を直接 「表出」 する用法であると解せられる。 仏と常に唱えて ほ しい。 」 と他人に願う表現と解され、他者に対する 「希

14

) も和歌における用例であり、夢の中で紫式部が、 「南無阿弥陀   四、おわりに

  以上、今物語における希望表現について考察してきた。今物語におけ る希望表現の構成形式は単純であり、その用例数も少ない。これは今物 語の分量、内容、文体に起因するものと考えられる。

  各形式の用法について見ると、 「~ントオ ボ ス」 は 「願望」 を 「説明」 す る用法であり、 「~ムトス」 は本来有情物の 「将然」 を表す用法であるが、 希 望 表 現 と 関 連 性 が あ る 用 法 で あ る。 「~ タ マ ヘ 」 は 形 式 上 は 命 令 表 現 であるが、文脈からはは希望表現の下位分類の 「希求」 を 「表出」 する用 法である。動詞 「望ム」 「祈ル」 は名詞用法が見られず、すべて実動詞用 法である。助動詞 「ム」 は相手に対する 「希求」 を「表出」 し、 「マウシ」 は 否定的な希望表現として 「願望」 を「表出」 し、 「タシ」 は「願望」 を「説明」 する用法である。終助詞 「 バ ヤ」 は「願望」 を「表出」 し、 「ナム」 は「希求」 を「表出」 する用法である。

  総じて言えば、今物語における希望表現の構成形式は単純なものであ り、その用法も和文的な限られたものである。希望の心理に基づいた動 作 を 表 す 動 詞 用 法 と 内 心 の 希 望 を 「表 出 」 す る 用 法 が あ る が、 希 望 の 名 詞 化 用 法 を 表 す 「欲 」「願 」、 名 詞 用 法 の 「の ぞ み 」「い の り 」 な ど が 用 い られないことが本書の特徴と言えよう。

【注】 ( 1 )柴田昭二、連 仲友 「希望表現の通史的研究 序説」 『香川大学教育学部研究報 告第 Ⅰ 部第

109

号』 平成

( 2 ) こ こ で い う 希 望 表 現 と は、 人 の 願 い 望 み に 関 す る、 一 種 の 心 情 的 表 現 形 式

12

年 3 月 ( 8 )注 ( 2 )参照。 ( 7 )注 ( 2 )参照。 ( 6 )注 ( 2 )参照。 ( 5 )希望表現の下位分類については (注 2 )参照。       校注 中世の文学第一期・第七回配本 三弥井書店 昭和五四年五月 ( 4 )『今 物 語・ 隆 房 集・ 東 斎 随 筆 』  久 保 田 淳・ 大 島 貴 子・ 藤 原 澄 子・ 松 尾 葦 江     ( 3 )『日本古典文学大辞典』 第一巻 岩波書店 一九八三年一〇月第一刷発行 明」 にあたる。 しいか」 、三人称の 「三人称~たがる」 「三人称~て ほ しがる」 などの形式は、 「説 た 」「一 人 称 ~ て ほ し か っ た 」、 二 人 称 形 式 「二 人 称 ~ た い か 」「二 人 称 ~ て ほ はそれぞれ 「願望」 、「希求」 の「表出」 であり、一人称の過去形 「一人称~たかっ 的である。したがって、一人称現在形形式 「一人称~たい」 「一人称~て ほ しい」 望」 は 「~たい」 の形で、 「希求」 は 「~て ほ しい」 の形で表現するのが最も一般 質しや過去などの場合を希望の 「説明」 と称する。現代日本語においては、 「願 と 称 す る。 さ ら に、 希 望 を 直 接 発 す る 場 合 を 希 望 の 「表 出 」、 そ れ 以 外 の 問 い るものを 「願望表現」 、他者の動作 ・ 状態に対して向けられるものを 「希求表現」 である。また、その下位分類として、話者自身の動作・状態に対して向けられ

(しばたしょうじ      香川大学名誉教授)

(れんちゅうゆう   広島市立大学客員研究員)

(二〇一六年一一月三〇日受理)

参照