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沙 石 集 に お け る 希 望 表 現 に つ い て

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(1)

沙石集における希望表現について    目次

    一、はじめに

    二、希望表現の構成形式

    三、各形式の用法

    四、おわりに

  一、はじめに

    本 稿 は、 別 稿

を 受 け、 沙 石 集 を 研 究 資 料 と し て、 そ れ に お け る 希 望 表現

の実態を解明しようとするものである。

  『日

本 古 典 文 学 大 事 典 』

な ど に よ る と、 沙 石 集 は 鎌 倉 中 期 の 仏 教 説 話 集。 無 住 道 暁 著、 十 巻。 弘 安 六 年 (一 二 八 三 ) 成 立。 そ の 成 立 事 情 に つ い て は 諸 説 あ る が、 原 識 語 に よ る と、 弘 安 二 年 (一 二 七 九 ) 夏 に 起 稿 さ れ、数年間の中絶の後に弘安六年に再び書き継がれて、同年の仲秋に脱 稿、 そ の 後 も 絶 え ず 加 筆 さ れ る。 そ の 内 容 は、 霊 験 談、 高 僧 伝、 文 芸 譚、笑話、庶民の生活など約一五〇話の説話を含む。その文体の基本は 漢字片仮名交じり文であり、和歌と漢文体のものも含まれる。   テ キ ス ト に は、 渡 邊 綱 也 校 注 『沙 石 集 』(岩 波 書 店 日 本 古 典 文 学 大 系

  〈 〉で傍記した。   仮 名 を 〔 〕 で 傍 記 し た。 歴 史 的 仮 名 遣 い と 異 な る 仮 名 は 正 し い 仮 名 を 注者のつけたものは平仮名で示され、仮名に漢字をあてた場合はもとの 本としている。翻刻に際して、底本にある振り仮名は片仮名のまま、校 巻 第 一 〇 末 は 市 立 米 沢 図 書 館 蔵 本 (興 譲 館 旧 蔵 本、 古 鈔 一 二 帖 本 ) を 底 第 一 〇 本 ま で は お 茶 の 水 図 書 館 蔵 梵 舜 本 (慶 長 二 年 書 写、 成 簣 堂 旧 蔵 )、 85   昭 和 四 一 年 五 月 第 一 刷 発 行 ) を 用 い る。 そ の 底 本 は、 巻 第 一 よ り 巻   二、希望表現の構成形式

  沙 石 集 (以 下、 「本 書 」 と 略 す ) に お け る 希 望 表 現 と 認 め ら れ る 構 成 形 式及びそれぞれの用例数は以下の通りである。

   「欲」          (五四例)

   「~ントオモフ」     (七三例)

   「~ントス」       (六七例)

   「願」          (五六例) 沙石集における希望表現について

  田   昭   二

   連   

  仲   友

  

(2)

   「願フ」         (三九例)

   「欣フ」          (二例)

   「給ヘ」         (一四例)

   「望」          (五四例)

   「祈」          (五〇例)

   「乞」          (三〇例)

   「請」          (五三例)

   「求」          (三〇例)

   「誂」           (一例)

   「ホシ」         (二〇例)

   「マホシ」         (二例)

   「タシ」         (一五例)

   「 バ ヤ」         (一八例)

   「モガナ」         (一例)

   「ナン」          (一例)

  ま ず、 全 体 的 に、 本 書 に お け る 希 望 表 現 の 用 例 は 豊 富 で あ る。 そ の 構 成 形 式 の 種 類 も 多 様 に わ た り、 主 要 な 構 成 形 式 の 数 も 多 量 に の ぼ る。 具体的に見れば、仏教用語としての名詞 「欲」 「願」 が多数見られる。慣 用形式 「~ントオモフ」 「~ントス」 も多く見られるが、 「ネガハクハ~」 は 見 当 た ら な い。 動 詞 形 式 も 多 く 見 ら れ る。 和 文 形 式 の 形 容 詞 「ホ シ 」、 助動詞 「マホシ」 「タシ」 、終助詞 「 バ ヤ」 「モガナ」 「ナン」 が見られ、助 動詞 「マホシ」 より 「タシ」 の方が多用されている。

  また、その分布を見れば、名詞形式、動詞形式などは偏って用いられ る 傾 向 が 認 め ら れ な い が、 終 助 詞 「 バ ヤ 」 は 巻 一、 巻 二、 巻 三 に 見 ら れ ず、巻四に一例のみ見られ、それ以外の一七例は全部巻五以後に集中す る。この 「 バ ヤ」 が後半に偏ることは内容と関わり注目に値する。   三、各形式の用法   1 、「欲」 「~ントオモフ」 「~ントス」 の用法

    ま ず、 「欲 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「欲 」 は 五 四 例 見 ら れ、 そ の う ち 名 詞用法が五二例、動詞用法が二例である。

( 1 )上代ハ人心スナヲ

(ホ)

ニ欲 ナクシテ、善

ぜん

ごん

ヲ營ミシモ、皆實

まこ

トシキ心ニ 住シキ。 (巻第八   三六二頁)

( 2 )五欲 ノタノシミ、名

みやう

ノ執

しふ

フカクシテ、マメヤカニ世間ヲ厭ヒウト ム心ナシ。 (巻第一〇本   三九九頁)

( 3 )是

これ

ニ似テ、彌勒ハ賢人ノ如ク穢

ゑど

土ヲ舍

ステ

、彌陀ハ聖

せい

じん

ノ如ク欲界 ニイ マス。 (巻第二   一一九頁)

( 4 )サレ バ 貪

とん

よく

・瞋

しん

等ノ心ノ常ニヲ

(オ)

コラム人ハ、生

しやう

ヲ經

トモ止

ヤミ

がた

シト 知

しり

テ、恐レトヲ

(ホ)

ザカリ、對

たいぢ

治ノ觀念、滅罪ノ方法ヲ營

イトナム

ベシ。

(巻第八   三三七頁)

  例( 1 )における 「欲」 は人間一般の普通の 「欲」 の意を表すが、例 ( 2 ) における 「五欲」 、例 ( 3 )における 「欲界」 、例 ( 4 )における 「貪欲」 は仏 教用語である。いずれも名詞用法である。

( 5 )高

かう

だい

いはく

、「余 五 八 歳、 長 夜 ニ 念

  ず

ゑんにう

ヲ、 浮 雲 何

いづく

ノ 處

  より

  る

、 本 是 淨虛空、欲

  せば

  らんと

二 

心一

  を

、三曜

えう

あきらか

ナリ」 。

(巻第五末   二五七頁)

(3)

三 沙石集における希望表現について

(6)利

生 シヤウ方

ハウベン

便、七十九年、欲  (巻第一〇末四五九頁)

  レ 二 一

知端的、佛祖不傳。

  ント   セバ タンテキヲ ブツ ソ フ デン

  例(5)(6)における「欲」は漢文における用法であり、「心の一趣を知りたいならば、」「真実を知りたいならば、」と解され、いずれも希望表現の下位分類では「願望」

を「説明」

する用法である。

  次に、「~ントス」の用法を見る。本書に「~ントス」は六七例見られる。周知のように、「~ントス」はある状況が発生しようとする「将然」を表すが、以下の例のような「有情物」の「将然」は希望表現と関連性もある。

(7)心ヲ靜メテ定

ぢやう

ヲ修セムトスレバ、林ニ鳥集 あつまりテ喧 カマビスシカリケリ。

(巻第八  三六四頁)

(8)「汝ガ自害セムトスル事愚

ヲろか

ナリ。昔

むか

シ國王トシテ民ヲ惱

なやま

シタリシ報ナリ。タトヒ生

しやう

ヲカウ

(フ)

トモ、苦

ハ遁ルベカラズ。」

  (巻第八  三六六頁)

  例(7)(8)は、「心静かに禅定を修行しようとすると、」「あなたが自害しようとすることは愚かである。」の意と解され、将然の意をもちいずれも希望表現と関連性があるものである。

  次に、「~ントオモフ」の用法を見る。本書に希望表現と認められる「~ントオモフ」は七三例見られる。

(9)佛

ぶつじよう

乘ノ妙

たへ

ナル衜ニ入

いら

シメ、世間淺近

ごん

ノ賤キ事ヲ譬

タトヘ

トシテ、勝

しょう

ノ深キ理

ことわり

ヲ知

しら

シメント思フ。 (序  五七頁) (

10 )「彼詞ワスレガタキ故ニ、兄ヲ助ムト思フ」。(巻第三一五七頁)

   の ことば たすけ

  例(9)(

省略された一人称の「願望」を「表出」する用法である。

を広めたいと思う。」「兄を助けたいと思う。」の意と解され、いずれも 10)は文末で言い切りの形である。例(9)は「真実の深い理

11 )是ハ人ノ心ヲ直ナラシメント思食ス故也。(巻第一六〇頁)

これ すぐ ヲボシメ

 リ。(巻第五本二〇八頁) 12)サレバ、佛性ヲアラワサント思ハン人、慈悲ヲ心ニ習ヒ好ベキナ

(ハ) このむ

  例(

11)(

解され、いずれも「願望」を「説明」する用法である。 いとお思いになるからである。」「仏の性を表したいと思う人は」の意と 12)は連体修飾語の形である。「人の心を素直なものにした

 明ムベシ。(巻第三一六四頁)

あきら

13)自在ノ妙樂ヲヱムト思ハヾ、行住坐臥妄念ヲユルサズシテ、本心ヲ

じ ざい めうらく (エ) ぎやうぢうざぐわ

14)「セメテハ名字斗ヲモ唱ヘムト思ヘドモ、ウルワシクモイワレズ。」

みやうじばかり (ハ) (ハ)

(巻第七  三一五頁)

  例(

13)(

いずれも「願望」を「説明」する用法である。 「せめて陀羅尼の名字だけでも唱えたいと思うけれども、」の意と解され、 14)は従属節の形で、「自在の妙法を得たいと思うならば、」   2、「願」「願フ」の用法

  まず、名詞「願」の用法を見る。本書に「願」は五六例見られ、すべて

(4)

佛教用語である。

  トヲ シクモ覺 、貴 カラン。 (巻第一 八四頁) (ホ) ヲボヘ タツト

15

)本 師 阿 彌陀ノ本 願 ヲ賴 ミ、實 ノ心アリテ念佛ヲモ申サ バ 、イカニイ ほん し あ み だ たの まこと ほん ぐわん

  念ノ悲 願 ヲ〔オ〕 コシ都 率 ニ生 キ。 (巻第一〇末 四五七頁) ト ソツ うまれ ヒ グハン

16

)サレ バ 調 逹 ガ六萬藏 ノ經 ヲ誦 セシモ、奈 落 ヲマヌカレズ、慈 童 ガ一 テウ ダツ ザウ キヤウ ジユ ナ ラク ジ ドウ

  例 (

15

)(

「心 願 」「願 力 」「結 願 」「願 文 」 が 見 ら れ、 そ の 用 法 は 例 ( 詞用法である。それ以外に、 「所願」 「大願」 「願望」 「宿願」 「誓願」 「行願」

16

) における 「本願」 「悲願」 はいずれも仏教用語であり、名

15

)(

似するものである。

16

) と 類

  次 に、 「願 フ 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「願 フ 」 は 三 九 例 見 ら れ、 そ の う ち連用形名詞法が四例、実動詞用法が三五例である。

17

)願ヒ ノ如ク、スコシモタガハズ念佛シテ息絕 ニケリ。 たえ

       (巻第一〇本   四二七頁)

  多ク、意 ノ望 ミフカシ。 (巻第一〇末 四六〇頁) こころ のぞ

18

)其レ世ノ物語、多 ハヨシナキ人ノ上、ハカナキ物ネガヒ 、口ノトガ ヲ 、 ク

  例(

17

)(

はより広い意味の、一般的な 「願望」 である。 名詞用法である。仏教用語として神仏にかける 「願」 と比べ、この 「願ヒ」

18

)は、 「願いのとおり、 」「とりとめのない願い、 」の意であり、

19

)此 世 ノゾメキステガタクシテ、榮 華ヲ思ヒ、富貴ヲ願フ 。   の   ヨ エイぐわ

              (巻第五本   二二二頁) (

         (巻第七 三三〇頁)

20

  )コレヲ緣トシテ娑婆ヲ厭 ヒ、淨土ヲ願 ヒ テ極樂ニ生ゼシガ如ク、 イト ネガ

  例(

19

)(

て」 の意と解され、いずれも実動詞用法である。

20

)は、 「富貴になることを願う。 」「淨土に生まれることを願っ

  (

21

)只我 心ヲ恥 シメテ、今ヨリ後、咎 ナク罪ナキ身トナリテ、淨 土菩 提 わが ハジ とが じやうど ぼ だい

ヲコヒ願フ ベシ (巻第一   七五頁) 。 (

22

)但 自 然と戒 力ナクシテ、凢下ノ者乞 願 心ノナキニコソ。 ただし じ ね ん かいりき

コヒネガヒ

      

  (巻第二

  一二〇頁)

  例(

21

)(

22

)は、 「コヒ願フ」 の形である。例 (

い願う心を持たない」 の意と解され、いずれも実動詞用法である。 ネ ガ フ 心 」 と す べ き で あ ろ う。 「淨 土 菩 提 を 乞 い 願 う べ き で あ る。 」「乞

22

)は他本により 「コヒ

  次 に、 「欣 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「欣 」 は 二 例 見 ら れ、 実 動 詞 用 法 で ある。

23

)サレ バ 、實 穢土ヲイトヒ、マメヤカニ淨土ヲ欣 。

まことに

ねがふ

(巻第一〇本   四〇一頁)

  レ モ不 知 、徒 ニ流 轉スルガ如シ。 (巻第一〇末 四四七頁)   ら イタヅラ ル テ ン

24

レ )凢 夫 ノ 智 惠 ナ ク シ テ、 生 死 ノ 猒 ベ キ ヲ モ 不 知 、 菩 提 ノ 欣 フ ベ キ ヲ   ら ぼん ぶ チ ヱ イトフ ネガ

         例 (

23

)(

べきことも」 の意と解され、 「願フ」 と同様であり、実動詞用法である。

24

) は、漢字 「欣」 という表記で 「淨土を願う。 」「菩提を願う

  次に、 「給ヘ」 の用法を見る。本書に 「給ヘ」 の用例が多数見られるが、

(5)

五 沙石集における希望表現について 希望表現と認める 「給ヘ」 は一四例見られる。

25

)「我 ニ有 緣 ノ御舍利ヲ ハシマサ バ 、其 ワレ う えん (オ)

  のさう

相ヲ示シ給ヘ 」 トテ、掌

たなごころ

ヲ 合 あはせ

テ祈 き 念 ねん シケリ。 (巻第二   九一頁)

  ケレ バ 、 (巻第九 三九五頁)

26

)「南 無 三 世 ノ 諸 佛、 此 ノ 心 ヲ 照 給 ヘ 」 ト 云 ケ ル 音 ヘ、 忉 利 天 ヘ 聞 エ さん ぜ テラシ いひ こ ( ヱ ) た う り て ん

  例 (

25

)(

対する祈りであり、 「希求」 を「表出」 する用法である。 ⑺ ま た ち よ、 こ の 心 を お 見 せ く だ さ い。 」 の 意 と 解 さ れ、 い ず れ も 神 仏 に

26

) は、 「ど う か そ の 様 子 を お 示 し て ほ し い。 」「三 世 の 仏 さ

  3、「望」「祈」「乞」「請」「求」「誂」の用法

  ま ず、 「望 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「望 」 は 五 四 例 あ り、 そ の う ち 連 用 形名詞法が六例、実動詞用法が二五例、助動詞用法が一例見られ、熟語 形式の 「希望」 が七例、 「所望」 が一一例見られる。

27

  )「勝 緣 ノ力ヲ放 レテハ、出離ノ望 解 ガタシ。 」 (巻第一 六三頁) しよう えん ハナ のぞ トゲ

28

  )「世ニシタガヘ バ 望ミ アルニ似タリ。 」 (巻第五末 二五七頁)

  例 (

27

)(

である。

28

) における 「望ミ」 はいずれも 「希望」 の意を表す名詞用法

  天ノ與 ニ隨フベシ。 (巻第一〇本 四〇六頁) あたふる

29

)サレ バ 先 業ノ感ズル所ニ任 テ、非分ノ福德ヲ望 ズ、心キヨクシ 〔テ〕 せんごふ まかせ ノゾマ (

30

)僅ニ身ヲタスクル衣 食 ノ事アルヲ、不足ナク思 テ、望ム 心ナクハ富 い しよく おもひ とめ

リ。 (巻第一〇本   四〇八頁)

  例 (

29

)(

法である。

30

) における 「望マズ」 「望ム」 は、動作行為を表す実動詞用

  (巻第一〇末 四六一頁)

31

レ )志ハウトシト云ヘドモ、所 望 菩提 〔ノ〕 爲也。       む

32

  レ )後 賢ナヲ シ明 テ弘 通 シ給 バ 所 望 。 (巻第一〇末 四六一頁)   ナリ   む コウケン (ホ) あきらめ コウ ツウ たまは

  例 (

31

)(

用的な、実動詞用法である。

32

レ ) における 「所 望 」 は、漢文の語法で表記され、これは慣   む

  ン 。 (巻第一〇末 四五八頁)

33

)伏 シ テ 望 マ ク ハ 、 檀 那 始 終 宗 乘 ノ 外 護 ト シ テ、 令 法 久 住 萬 幸 ナ ラ フ ダ ン ナ シ ジ ウ ソウジよウ ゲ ゴ リヤウ ホウ ク ジ ウ バ ン カ ウ ノゾ

  例(

用法である。 りたい」 の意と解され、これは助動詞用法であり、 「願望」 を「表出」 する

33

)は、書簡の用例で 「望マクハ~ン」 の形で、 「望むことは~であ

34

  )只天 運 ニ任 テ、希 望 ノ心ナク、 (巻第四 一九六頁) てん うん まかせ け ま う

  キザルハ、人ノ常ノ心ナリ。 (巻第八 三五九頁)

35

)頭ニ雪ヲ頂キ、面ニ波ヲタヽミツヽ、一生ハツクレドモ、希 望 ハツ け ま う

  例(

34

)(

35

)における 「希望」 は「欲望」 と同じ意味の名詞用法である。

(6)

  衜 心 ヲ給 候ヘ」 ト、申給ケレ バ (巻第一 七七頁) どう しん たび

36

)「我 身ニハ別ノ所望 モ候 ハズ。末 代 ニ菩提心祈請スル人ノ候ハンニ、 わ が み さふら まつ だい

37

)「汝 ガ所 望 スル 佛舍利、其 なんぢ しよ まう

傍 ニ臥 タル物ニイヘ」 ト、   の

かたはら

ふし

       

  (巻第二

  九〇頁)

  例(

36

)における 「所望」 は名詞用法、例 (

変動詞用法である。

37

)における 「所望スル」 はサ

  次 に、 「祈 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「祈 」 は 五 〇 例 あ り、 そ の う ち 動 詞 連用形名詞法 「祈リ」 が二例、実動詞用法 「祈ル」 が一四例、熟語形式 「祈 申」 が一〇例、 「祈念」 が八例、 「祈請」 が一二例、 「祈祷」 は四例見られる。

38

)「ナ シ ニ、 ソ ノ 糞 ヲ 持 ゾ。 ヤ レ、 法 師 ガ 祈 ニ、 仁 王 經 ヲ ヨ ム ゾ。 」  コヱ もつ にん わう きやう いのり

       (巻第五本   二一四頁)

  例(

38

)は動詞連用形名詞法である。

  ル ベシ。 (巻第二 一一五頁)

39

)神 呪 を 持 チ、 名 號 ヲ 唱 テ、 魔 界 〔ノ 〕 障 碍 ヲ 拂 ヒ、 臨 終 ノ 正 念 ヲ 祈 たも みやう がう となへ ま かい し よ う げ

  タリトス。 」 (巻第一〇末 四五〇頁)

40

)「國 ヲ 祈 リ 民 ヲ 安 ク シ、 災 ヲ 除 キ 福 ヲ 招 ク 事、 上 代 ヨ リ 密 宗 ヲ 勝 レ タミ ヤス ワザハイ ノゾ サヒハイ マネ ミ ツ シ ウ スグ イノ

41

)同ジ行 業ヲ菩提ニ向 テ廻 向シ、叶 ハザランマデモ、衜 心 ヲ バ 祈リ申 ぎやうごふ ムケ エ カ ウ かな だう しん まうす

ベキ也。 (巻第一   七四頁)

  例(

39

)(

40

)(

41

)は実動詞用法である。 (

42

)心憂 覺 ケレ バ 、神 宮寺ニ參 籠シテ、藥師如來に祈 念 ス。 ウク おぼえ じ ん ぐ う じ さんろう き ねん

          (巻第二   九四頁)

43

)弟子共丁寧ニ祈 請シ ケルニ、夢ニ、先 師 鬼 神ノ形ニテ來レリ。 せん し き じ ん き せ い

      

  (巻第五本

  二〇二頁)

44

)「モシヤト先ヅ祈 禱シ 、大般若ヲ信讀ニヨミタク存 候。 」 ぞんじ き た う

        (巻第七   三二二頁)

  例(

42

)(

43

)(

いずれもサ変動詞の形で実動詞用法である。

44

)における 「祈念」 「祈請」 「祈祷」 は熟語用法であり、

  例(

42

)(

43

)(

いずれもサ変動詞の形で実動詞用法である。

44

)における 「祈念」 「祈請」 「祈祷」 は熟語用法であり、

  次 に、 「乞 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「乞 」 は 三 〇 例 あ り、 そ の う ち 実 動 詞用法の 「乞フ」 が一七例、熟語 「乞食」 が一〇例、熟語 「乞匃」 が三例見 られる。

リテ、遙 ニ年 タクルマデ、本國ニ有 ケリ。 はるか トシ あり

45

)軈 而馳 セ歸 テ、乞 ユルシ、相 具シテ、樣 〳〵ニイタハリ、命タスカ や が て ハ かへり あ ひ ぐ さ ま ざ ま コウテ

(巻第二   九七頁)

46

)「佛ノ弟子ハ人ニ物ヲ乞フ 物也。コワ レジ」 トテ、ニグルナルベシ。 (ハ)

(巻第八   三六四頁)

  例 (

る意を表す。例 (

45

) は他本により 「許しを乞う」 の意と解し、抽象的な動作を求め

46

) は 「物を乞う」 の意と解され、具体的な物を求める

(7)

七 沙石集における希望表現について 意を表す。いずれも実動詞用法である。 (

  レ。 (巻第一〇末 四五三頁) 47 )大方ハ三 衣一鉢ヲ以テ、乞 食 頭 陀ヲ行ズルコソ、佛弟子ノ本 ニテ侍 サ ン ヱ イ チ ハ ツ ヅ ダ もと コツジキ

48 )三寶ノ福 田、父 母師長ノ恩 田、貧病乞 匃 ノ悲 田ニモ施 セズシテ、 ふくでん ぶ も ヲンでん ひ で ん せ こつがい

           (巻第七   三〇八頁)

49 )大 内 裏 ノ ツ イ ガ キ ノ 外 ニ、 モ ロ 〳 〵 ノ 非 人・ 乞 丐 ・ 病 者 ノ 被 だい だい り びやうしや れ コ ツ ガ イ

レ 出 いださ タ ルニ、加 か ぢ 持シテタビケレ バ 、病モ瘉 いえ ニケリ。

(巻第一〇本   四二四頁)

  例 (

47 ) における 「乞食」 は仏教修行の一種であり、例 (

48 )(

ける 「乞匃」 は貧しい物乞いの人を表す。いずれも熟語用法である。 49 ) にお   次 に、 「請 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「請 」 は 五 三 例 見 ら れ る が、 多 く は 希望表現と関係ない用法であり、希望表現と認められるのは前出の熟語 形式の 「祈請」 以外に、一例の 「起請」 が見られる。

50   )北 野 ニ七日參籠シ、起 請 ヲカキテ、 (巻第五末 二二六頁) きた の き しやう

  例 (

用法である。 50 ) における 「起請」 は神仏に奉る誓約の文書であり、これは名詞

  次 に、 「求 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「求 」 は 三 〇 例 あ り、 そ の う ち 実 動 詞用法の 「求ム」 が二六例、及び熟語形式の 「希求」 が二例、 「所求」 が一 例、 「欣求」 が一例見られる。 (

  (巻第八 三六六頁) 51 )サレ バ 法ヲ說 テ布施ヲ求メ 、行 ヲタテヽ供米ヲ取ル。 とき ぎやう

  求ム 。貪 テ利ヲ思フ。 (巻第一〇本 四二二頁) むさぼり 52 )上代ノ僧ノ官 途ハ上 ヨリ賞シ給フ。名聞ニアラズ。近代ハ望 テ名ヲ くわんど うへ のぞみ

  例 (

51 )(

も実動詞用法である。 52 ) における 「布施を要求して、 」「名聞を求める。 」 はいずれ

53 )希 求 ノ志深クシテ、少 キノ淨 業アラ バ 、生ジツベシ。 スコシ じやうごふ け ぐ

       (巻第二   一一八頁)

  誦シ、禮拜シテ、所願ヲ求メンニハ。 」 (巻第二 一〇三頁) 54 )「諸 ノ 所 求 ヲ 祈 ン ヨ リ ハ、 シ カ ジ、 地 藏 ノ 所 ニ シ テ、 一 食 ノ 間 ダ 念 もろもろ イノラ い ち じ き あひ し よ ぐ

ニ可 志深クシテ、行住坐臥ニ念佛シテ、念々ニステザル人ノミゾ、本願 55 )「餘 ヲ バ 、 只 仰 テ 信 ジ テ、 厭 離 穢 土 ノ 思 ヒ マ コ ト シ ク、 欣 求 淨 土 ノ あふぎ えん り ゑ ど ごん ぐ

  レ 叶 」トミヘ タル。 (巻第六 二七五頁)   し   ふ (エ)

  例(

53 )における 「希求」 は「極楽往生を願う」 意、例 (

求」 は「乞い願うこと」 の意、例 ( 54 )における 「所 ことを願う」 意と解され、いずれも熟語形式の用法である。 55 )における 「欣求」 は「浄土に生まれる   次 に、 「誂 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「誂 」 は 一 例 あ り、 連 用 形 名 詞 法 で ある。

56 )「此

  苦ヲ救 ベキヨシ、御アツラヱ アリ。 」 (巻第八 三六一頁)   の スクウ (ヘ)

(8)

  例 (

た。 」の意と解され、連用形名詞法の用法である。

56

) に お け る 「ア ツ ラ ヱ 」 は 「こ の 苦 か ら 救 う よ う に ご 依 頼 が あ っ

  4、「ホシ」「マホシ」「タシ」「バヤ」「モガナ」「ナン」の用法

  ま ず、 「ホ シ 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 形 容 詞 「ホ シ 」 は 二 〇 例 あ り、 そ のうち派生語の 「ホシサ」 が三例、 「ホシガル」 が三例見られる。

  (

アマダリノ石ニ打 アテヽ、打 破テヲ キツ。

うちうちわり(オ)57

)日 來 ホ シ ト 思 ケ レ バ 、 二 三 坏 ヨ ク 〳 〵 ⻝ テ、 坊 主 ガ 祕 藏 ノ 水 瓶 ヲ、

ひごろおもひクヒひさうみづがめ

  (巻第八

  三四六頁)

  例(

ていたので、 」の意と解され、三人称の 「願望」 を「説明」 する用法である。

57

)は 「ホシ」 の終止形の形であり、 「日頃から飴を食べたいと思っ

  ク 思ヒケル儘 ニ、 (巻第七 三〇三頁)

マヽ58

)或 俗 士 ノ下 人 、主 ノ親 キ人ノ下人ノ、乘 ヨキ馬ヲ持チタルヲ、ホシ

  るぞくしげにんしうしたしのり

  ニ立 ヨリテ、 (巻第五 二二九頁)

たち59

)此 禪師、武藏野ノ野中ニテ、水ノホシカリ ケレ バ 、小 家ノミヘ ケル

  のこや(エ)

  例 (

が、 」 の 意 と 解 さ れ、 (

58

) は 連 用 形 「ホ シ ク 」 の 形 で あ り、 「手 に 入 れ た い と 思 っ て い た

法である。 かったので、 」 の意と解され、いずれも三人称の 「願望」 を 「説明」 する用

59

) は 連 用 形 「ホ シ カ リ 」 の 形 で あ り、 「水 が ほ し

60

  )ヨソヨリホシキ 物トリチラシケリ。 (巻第一〇末 四四八頁)

  例(

60

)は連体形 「ホシキ」 の形であり、 「他人が ほ しいものを分けてい た。 」の意と解され、一人称の 「願望」 を「説明」 する用法である。

61

)「拙 ク不 當 ニシテ、物ホシサ ニコソ候 ヘ」 トイヘ バ 、

ツタナふたうさふら

        (巻第一〇本   四一五頁)

  例 (

用法である。 合わないが、物が ほ しくて」 の意と解され、 「願望」 を「説明」 する名詞的

61

) は 「ホシ」 に接尾語 「サ」 を付けた 「ホシサ」 の形であり、 「理に

  ノゾム。 」 (巻第一〇末 四三八頁)

62

)「能 才 覺 モ ナ ク、 戒 行・ 智 惠 モ ナ ク シ テ、 布 施 ヲ ホ シ ガ リ 、 供 ヲ

のうさいかくフセクリウ

  例 (

す動詞的用法である。 し が り、 」 の 意 と 解 さ れ、 内 心 の 「願 望 」 が 外 に 現 れ て い る 動 作 行 為 を 表

62

) は 「ホシ」 の派生語 「ホシガル」 の形であり、 「他人の施しを ほ   次 に、 「マ ホ シ 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「マ ホ シ 」 は 二 例 見 ら れ、 い ず れも 「ある」 の未然形に接続する。

63

)君モ臣モ賢ナル世ヲコソ、アラマホシク 侍レト云云。

       (巻第三   一四七頁)

人 意、多 ハ今生ノ樂ニ誇 ヌレ バ 、後世菩提ノ勤ヲ忘ル。

  のこころおほくホコリ64

)佛 ニ ツ カ ヘ バ 、 現 世 安 穩 、 後 生 善 處 コ ソ、 ア ラ マ ホ シ ケ レ ド モ、

げんぜあんをんごしやうぜんしよ

(巻第六   二八三頁)

  例 (

63

)(

の だ。 」「現 世 で の 安 穏 と 後 世 で の 往 生 こ そ を 望 む が、 」 の 意 と 解 さ れ、

64

) は 地 の 文 に お け る 用 例 で あ り、 「賢 な る 世 で あ り た い も

(9)

沙石集における希望表現について いずれも 「希求」 を「説明」 する用法である。

  次 に、 「タ シ 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「タ シ 」 は 一 五 例 あ り、 そ の う ち の六例が漢字表記である。

65   )「大般若ヲ信讀ニヨミタク 存 候。 」 (巻第七 三二二頁)

ぞんじ

66 )「馴 〳〵シキ申 事ニテ候ヘドモ、承リ度 候」 ト云 ケル。

ナレまうしいひたく

           (巻第八   三五〇頁)

  例 (

65 )(

出」 する用法である。 たいと思う。 」「知りたく存じます。 」の意と解され、一人称の 「願望」 を「表 66 ) は 「タシ」 の連用形の形であり、 「大般若経を正式に読み

  シ、サテハ引 出 シ給ヘ」 トテ (巻第四 一九三頁)

ひきいだ

67 )「往 生 不 定 ナ レ バ 、 水 ニ 入 テ 後、 ナ ヲ 〳 〵 モ 浮 出 度 キ 事 ア ラ バ 引 ベ

ふぢやういり(ホ)うきいでひくた

  例 (

の意と解され、 「願望」 を「説明」 する用法である。 67 ) は 「タ シ 」 の 連 体 形 の 形 で あ り、 「浮 き 上 が り た く な っ た ら、 」

  ト云 ケレドモ、 (巻第九 三八五頁)

いひ

68 )「サリナガラ、ヒトリ〳〵モ心安 テコソアリタケレ バ 、只 上リ給へ」

やすくタダ

  例(

ば、 」の意と解され、 「願望」 を「説明」 する用法である。 68 )は 「タシ」 の已然形の形であり、 「それぞれに安心していたけれ

  次 に、 「 バ ヤ 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「 バ ヤ 」 は 一 八 例 見 ら れ、 和 歌、 会話文、心話文に用いられる。 (

    アラメ 人目ハヅカシ思カヘシツ (巻第五末 二三七頁) 69     )矢ウチハゲ ヒヤウト射 バ ヤ ト思ヘドモ サラ バ 世ヲソムカデコソ

〔イ〕

70 )布施ノカサモトラ バ ヤ ト思 テ、 「酒ハノミ候ワ ズ」 ト云 。

おもひ(ハ)いふ

      

  (巻第七

  三二三頁)

  例(

69 )は歌謡の中における用例、 (

と解され、 「願望」 を「説明」 する用法である。 「矢 を 射 た い と 思 う け れ ど も、 」「多 く の 布 施 を と り た い と 思 っ て、 」 の 意 70 )は心話文における用例であり、

  ト云ヘ バ 、 (巻第八 三四七頁) 71 )「同クハ世間ニナキヤウナル御名ヲ、付ケマイ ラセ候 ワ バ ヤ ト思 候」

(ヰ)さふら(ハ)おもひ

72 )「近

比ヨリ念佛ヲモ申シ、善根ヲモ營マ バ ヤ ト存 候ゾ」 ト云 。

  きぞんじいふ

(巻第八   三五八頁)

  例(

71 )(

と解され、 「願望」 を「表出」 する用法である。 前 を つ け て さ し あ げ た い と 思 い ま す。 」「善 根 を 営 み た い と 思 う。 」 の 意 72 )は会話文における用例、 「~ バ ヤと思う」 の形であり、 「名

73   )「サラ バ ソレヲ見 候 バ ヤ 」ト云 ニ、 (巻第九 三八六頁)

いふみさふらは

74 )アマリニ貴 ク覺 テ、 「法相ノ大事少 々承 ハラ バ ヤ 」トイヘ バ 、

タツトヲボヘセウ〳〵うけたま

        (巻第一〇末   四四一頁)

  例 (

73 )(

望」 を「表出」 する用法である。 を見たい。 」「法相宗の要諦を少しなりとも承りたい。 」の意と解され、 「願 74 ) は 会 話 文 に お け る 用 例、 言 い 切 り の 形 で あ り、 「そ の 馬

(10)

一〇

  次 に、 「モ ガ ナ 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 終 助 詞 「モ ガ ナ 」 は 一 例 見 ら れ る。

75

  )古里ヘユク人モガナ ツゲヤラム シラヌ山路ニ一 人マヨウ ト

ヒトリ(フ)

(巻第五末   二四〇頁)

  例(

意と解され、 「希求」 を「表出」 する用法である。

75

)は和歌における用例であり、 「古里に行く人がいて ほ しい。 」の   次に、 「ナン」 の用法を見る。本書に 「ナン」 は一例見られる。

  京ヘゾ誘 ヒケル。 (巻第九 三八五頁)

サソ76

)「カ ク 心 苦 ク テ ス マ ン ヨ リ ハ、 都 ニ テ ハ ト テ モ 角 ス ギ ナ ン 」 ト テ、

こころくるしかく

  例(

「希求」 を「表出」 する用法である。

76

)は、 「都にいればなんとかして過ごせて ほ しい」 の意と解され、

  四、おわりに   以上、沙石集における希望表現の構成と用法を考察してきた。内容と 全体の分量の豊富さと関連して、用例も豊富に現れる。その希望表現の 構 成 形 式 の 種 類 は 今 ま で 考 察 し て き た 仏 教 説 話 と 類 似 す る 傾 向 に あ る が、 漢 字 片 仮 名 交 じ り 文 に 希 望 表 現 と し て よ く 見 ら れ る 「ネ ガ ハ ク ハ 」 が見られない。また、希望の助動詞 「マホシ」 より 「タシ」 が多用されて いる。この時代の傾向としてとらえられることである。

  各 構 成 形 式 の 用 方 の 特 徴 に つ い て い え ば、 「欲 」 は 人 間 一 般 の 「ヨ ク 」 と 「五欲」 「貪欲」 などの仏教用語の両方を表すが、それに対して、音読 される 「願」 は仏教用語を表し、人間一般の 「ねがい」 は訓読の 「願ヒ」 で 表 す 傾 向 が 見 ら れ る。 ま た、 こ の 時 代 に 多 数 用 い ら れ る 慣 用 形 式 の 「願 ハクハ~」 は見られず、同じ語構成の 「望ハクハ~」 が一例見られる。

  全体的には、慣用形式 「~ントオモフ」 「望マクハ~」 及び和語の形容 詞、助動詞、終助詞は内心の希望を表し、希望表現の中核であることが 今までの考察と一致する。

【注】

(1)柴田昭二、連  仲友「希望表現の通史的研究  序説」『香川大学教育学部研究報告第Ⅰ部第

109号』平成

(4)(5)(6)(7)注(2)参照。    (3)『日本古典文学大事典』第三巻一九八四年四月第一刷発行岩波書店 明」にあたる。 しいか」、三人称の「三人称~たがる」「三人称~てほしがる」などの形式は、「説 た」「一人称~てほしかった」、二人称形式「二人称~たいか」「二人称~てほ はそれぞれ「願望」、「希求」の「表出」であり、一人称の過去形「一人称~たかっ 的である。したがって、一人称現在形形式「一人称~たい」「一人称~てほしい」 望」は「~たい」の形で、「希求」は「~てほしい」の形で表現するのが最も一般 質しや過去などの場合を希望の「説明」と称する。現代日本語においては、「願 と称する。さらに、希望を直接発する場合を希望の「表出」、それ以外の問い るものを「願望表現」、他者の動作・状態に対して向けられるものを「希求表現」 である。また、その下位分類として、話者自身の動作・状態に対して向けられ (2)ここでいう希望表現とは、人の願い望みに関する、一種の心情的表現形式 12年3月

(しばたしょうじ       香川大学名誉教授)

(れんちゅうゆう    広島市立大学客員研究員)

(二〇一八年五月三一日受理)

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