一
打聞集における希望表現について 目次
一、はじめに
二、希望表現の構成形式
三、各形式の用法
四、おわりに
一、はじめに
本 稿 は、 別 稿
⑴を 受 け、 打 聞 集 を 研 究 資 料 と し て、 そ れ に お け る 希 望 表現
⑵の実態を解明しようとするものである。
『日
本 古 典 文 学 大 事 典 』
⑶な ど に よ る と、 打 聞 集 は 編 者 未 詳、 長 承 三 年 (一 一 三 四 ) 以 前 の 成 立。 現 存 す る の は 大 正 末 年 に 滋 賀 県 の 金 剛 輪 寺 で 発 見 さ れ た 写 本 が 唯 一 の 伝 本 で あ り、 そ の 表 紙 に 「打 聞 集
下帖」 と あ る こ とから、本来は二巻あるいは三巻であったと思われる。下帖は漢字片仮 名交じり文の二七の説話からなり、そのうちインド (天竺) 説話は六話、 中国 (震旦) 説話は七話、日本 (本朝) 説話は一四話が含まれ、内容はす べて仏教に関係するものである。また、これら二七話のうち、今昔物語 集と二一話、宇治拾遺物語と八話、古本説話集と二話が重なる。そのう ち今昔物語集と宇治拾遺物語に重複して共通するもの四話、今昔物語集 と 古 本 説 話 集 に 重 複 し て 共 通 す る も の 二 話 が あ る の で、 結 局 二 七 話 中 二五話はこれら三書のどれかと共通していることになる。残る二話も一 話は日本霊異記と共通し、一話は説話内容が判然としない ほ ど短小なメ モであることから、 「打聞集 下帖」 (以下 「本書」 と略す) に固有の説話 は皆無と言っても過言ではない。 本書の成立及びこれらの書との関係については橋本進吉博士を始めと し て 既 に 多 く の 研 究 が 行 わ れ 諸 説 が あ る。 中 で も 本 書 に 宛 字 が 散 見 さ れ る こ と は 注 目 さ れ よ う。 例 え ば、 「晋 の 始 皇 」(宇 治 拾 遺 物 語 に 「秦 始 皇」 )、 「イサ清ヨキ」 (古本説話集に 「潔」 )のように。これらは本書には、 編 者 が 聞 い た 話 を 書 き 付 け る 打 ち 聞 き の メ モ の 性 格 を 窺 わ せ る 部 分 と、 先行説話の表現を忠実に継承しているらしい部分が混在することを示す ように思われる。本稿はこれらの成立事情を踏まえ、本書における希望 表現の状況のみでなく、類話がある説話集における希望表現を表す部分 との表現とも併せて考察する。 テ キ ス ト に は、 東 辻 保 和 著 『打 聞 集 の 研 究 と 総 索 引 』(清 文 堂 昭 和 五十六年一月発行) を用いる。その底本は、京都国立博物館蔵 『打聞集
下打聞集における希望表現について
柴
田 昭 二
連
仲 友
二 帖 付日記内縁
』。 テ キ ス ト に よ れ ば、 翻 字 に 際 し て 底 本 に な い 濁 点 を 施 し た。 また、仮名書きの傍に、適宜漢字を ( ) に囲んで注記した。底本には、 片 仮 名 で 読 み の 附 け て あ る 箇 所 が あ り、 そ れ は そ の ま ま の 状 態 で 示 し、 他の総ての漢字の読みを、平仮名で示した。底本には殆ど施されていな い が 句 読 点 及 び 中 黒 点 を 施 し、 引 用 符 「 」 を 施 し、 仮 名 の 大 小 の 別・ 振り仮名の位置は原則底本の通りとしているとするに従う。
二、希望表現の構成形式 打 聞 集 (以 下、 「本 書 」 と 略 す ) に お け る 希 望 表 現 と 認 め ら れ る 構 成 形 式及びそれぞれの用例数は以下の通りである。
「~ムトオモフ」 (二例)
「~ムトス」 (二例)
「願」 (三例)
「給ヘ」 (三例)
「祈リ」 (一四例)
「乞フ」 (三例)
「求ム」 (三例)
右から見られるように、まず、打聞集における希望表現の構成形式の 種類は非常に少なく、特に、希望表現を構成する重要な助動詞・終助詞 のマホシ・タシ・ バ ヤなどが見られない。また、希望表現と認められる 各形式の用例数も非常に少ない。これは、打聞集の全体の分量とともに 文体に原因があると考えられる。 三、各形式の用法 1 、「~ムトオモフ」 「~ムトス」 の用法
ま ず、 「~ ム ト オ モ フ 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 希 望 表 現 と 認 め ら れ る 「~ムトオモフ」 は二例見られる。
( 1 )「オ ノ ガ 内
うち〻
うちニ思
おもふ事
ことナ ム 有
あル。 先
せん年
ねんニ、 我
われイ ミ ジ ウ 寶
たからニセ シ 玉
たまヲナム盗
ぬすまレニシ
。其
それを﨤
かへしエムト思
おもヘ ド、得
うベキ樣
やうモ无
なシ。 ( 2 7 3 行 三五頁)
類話として今昔物語集
⑷巻第五 「国王、為盗人被盗夜光玉語第三」 には、
「我 レ 内
うち内
うちニ 思 フ 事 ナ ム 有 ル。 先
せん年
ねんニ 並 ビ 無 キ 宝 ト 思 ヒ シ 玉 ヲ ナ ム 被
ぬす盗
まれニシ。其レ返シ得
えムト思ヘ ドモ、可
う得
べキ様
ようモ無シ。 」
( 2 )「其
それヲ盜
ぬすみタラム人
ひとニマレ、尋
たづねテ返
かへしえ得
サセタラ バ 、此
この國
くにヲ半
なかば分
わかちテ知
しらセムト思
おもふ。其
その由
よしヲ仰
おほせ下
くだセ」
ト仰
おほせ給
たまふ時
ときニ、 ( 2 7 4 行 三五頁)
今昔物語集巻第五 「国王、為盗人被盗夜光玉語第三」 には、
「其 レ 盗
ぬすみタ ラ ム 人 ヲ 尋
たづねテ 還
かへシ 得
えたラ バ 、 此
この国 半 国 ヲ 分
わかちテ 令
しら知
しめム ト 思 フ ニ、其ノ由宣
せん旨
じ下
くだセ」 ト仰セ給フ時ニ、
例( 1 )( 2 )は会話文における用例である。例 ( 1 )は、従属節で 「先年、 私 は そ れ を 返 し て 手 に 入 れ た い と 思 っ た け れ ど も、 そ の 方 法 が な か っ た。 」の意と解され、これは一人称の 「願望」
⑸を「説明」
⑹する用法である。 例( 2 )は、文末で言い切りの形で 「この国の半分を分けて領地させたい と 思 う。 」 の 意 と 解 さ れ、 こ れ は 一 人 称 の 「願 望 」 を 「表 出 」
⑺す る 用 法 で ある。
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三
打聞集における希望表現について そして、例 ( 1 )( 2 ) はいずれも今昔物語集に類話があり、希望表現 を表す部分も同様な表現が用いられている。 次 に、 「~ ン ト ス 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に お い て 希 望 表 現 に 関 係 す る 「~ントス」 は三例見られる。
( 3 )昔
むかし、佛
ほとけ失
うせ給
たまハムズル程
ほどニ、羅
ら睺
ご罒
ら、「佛
ほとけノ失
うせたまハム見
みるニ更
さらニタフベキニ非
あらズ。サ レ バ 、他
たの世
せ界
かいニイキテ、カヽル 悲
かなしみモ見
みジ」
トテ、 ( 214 行 二八頁)
今昔物語集巻第三 「仏、入涅槃給時、遇羅睺羅語第三〇」 には、
今
いまは昔
むかし、 仏 涅
ね槃
はんニ 入
いり給 ハ ム ト 為
すル 時 ニ、 羅
ら睺
ご羅
らノ 思 ハ ク、 「我 レ 仏 ノ 涅
ね槃
はんニ 入
いり給 ハ ム ヲ 見 ム 程
ほどニ、 悲
かなしビ ノ 心 更
さらニ 不
たふべ可 堪
からズ。 然
さレ バ 我 レ、 他
ほかノ世界ニ行
ゆきテカヽル悲ビヲ不
み見ジ」 ト思
オモヒテ、
( 4 )「汝
なむぢ、 父
ちちノ尺
しやかむに迦 牟 尼 佛
ほとけ失
うせ給
たまひナムトス。 イ カ デ、 ソ ノ 終
をはりノ臨
のぞみニハ相
あハデ、 コ ヽ ニ ハキタルゾ」 トノ給
たまヘ バ 、 ( 21 6 行 二八頁)
今昔物語集巻第三 「仏、入涅槃給時、遇羅睺羅語第三〇」 には、
「汝
なむぢガ 父 釈
しや迦
か牟
む尼
に仏
ぶつ、 既
すでニ 涅
ね槃
はんニ 入
いり給 ヒ ナ ム ト ス 。 何
いかデ カ 汝
なむヂ 其 ノ 時ニ不
あひたてまつら奉遇ズシテ、此ノ世界ニ至レルゾ」 ト。
( 5 )「イ ト ア ヤ シ キ 事
こと也
なり。 父
ちち佛
ほとけ失
うせ給
たまハムズル時
ときニ成
なりテ、 汝
なむぢヲ待
まち給
たまフ。 速
すみやかニ參
まゐりテ、 冣
さい後
ごノ臨
のぞみニ見
み奉
たてまつレ」
トノ給
たまヘバ、 ( 21 8 行 二九頁)
今昔物語集巻第三 「仏、入涅槃給時、遇羅睺羅語第三〇」 に、
「仏 ハ 既 ニ 涅
ね槃
はんニ 入
いり給 ヒ ナ ム ト 為
すル ニ、 羅 睺 羅 忽
たちまちニ 不
み見
え給
たまハ ネ バ 、 其レヲ待チ給ヘル也。速ニ御 傍
かたはらニ疾
とく参リ給ヘ」 ト勧
すすめケレ バ 、
例( 3 )( 4 )( 5 )は 「涅槃に入ろうとしている。 」の意と解され、いず れ も あ る 状 況 が 発 生 し よ う と す る 時 点 と い う 客 観 的 な 「将 然 」 を 表 す 用 法である。これらの用法はたとえ主語が有情物であっても、希望表現と は関係しない。 なお、例 ( 3 )( 4 )( 5 )はそれぞれ今昔物語集に類話があり、その 「将 然」 を表す部分の文脈・表記も類話の該当部分と概ね一致している。
しかし、以下の例 ( 6 )( 7 )( 8 ) における 「~ムトス」 は有情物のあ る 動 作 が 行 お う と す る 「将 然 」 を 表 す 用 例 で あ り、 こ の よ う な 用 例 は 希 望表現と関連性がある。
( 6 )三
みたり人ノ畫
ゑ師
し、書
かくベキ絹
きぬヲ竝
ならべテ、三
みたり人 竝
ならびテ筆
ふで下
くだサムトスル程
ほどニ、 ( 2 03 行 二七頁)
宇治拾遺物語
⑻巻九―二 「宝志和尚影事」 には、
三人の絵師、各書
かくべき絹をひろげて、三人ならびて、筆を下
くださん とする に、
( 7 )「害
がいシテ物
ものニセムトスル 也
なり」ト云
いへバ、 ( 3 44 行 四二頁)
今昔物語集巻第九 「□人、以父銭買取亀放河語第一三」 には、
「殺シテ可
す為
べキ要
えうノ有ル也」 ト。
宇治拾遺物語巻一三―四 「亀ヲ買テ放事」 には、
「殺して物にせんずる 」と云。
( 8 )昔
むかし、 慈
じかくだいし覺 大 師 入
にふたう唐 時
のとき、 會
ゑしやう昌 天
てん子
し、 佛
ぶつ法
ほう破
は滅
めつ之
の被
るれ宣
おほせ下
ごとくゝ
者
ださばレ
、 分
わかちて使
つかひの者
ものを堂
だう塔
たふヤブリ、 法
はふ師
し共
どもトラヘテ成
なす俗
ぞくゝ
。 覺
かく大
だい師
し、 合
あひぬ破
は滅
めつ之
の使
つかひにゝ
。 大
だい師
しヲ見
み付
つけテ追
おひ取
とらムズ。大
だい師
し迯
にげテ堂
だうの内
うちにコモリ給
たまふ。 ( 2 98 行 三七頁)
(羅)(釈)(遭)
(最)(宣)
遭
四
今昔物語集巻第一一 「慈覚大師、亘宋、伝顕密法帰来語第一一」 には、
仏法流
る布
ふノ所ニ行
ゆきテハ是
これヲ習フ間、恵
ゑし正
やう天
てん子
しト云フ天皇ノ代ニ、此 ノ 天 皇 仏 法 ヲ 亡
ほろぼス 宣
せん旨
じヲ 下
くだシ テ、 寺 塔 ヲ 破
やぶリ 壊
こほちテ 正
しやう教
げうヲ 焼 キ 失 ヒ、 法師ヲ捕
とらへテ令
ぐゑんぞくせし還俗ム。使四方ニ相
あヒ分レテ亡
ほろぼす。其時ニ、大師此ノ使 ニ会
あひヌ。独
ひとりみ身ニシテ随
したがヘル者無シ。使等
ら大師ヲ見テ喜
よろこびテ追フ。大師 逃
にげテ一
ひとつノ堂ノ内ニ入ヌ。
宇治拾遺物語巻一三―一〇 「慈覚大師、入
二纐纈城
一給事」 には、
昔
むかし、慈覚大師、仏法をならひ伝へんとて、唐
もろこしへ渡給ておはしける程 に、 会
(くわいしやう)昌 年中に、唐
(とうのぶそう)武宗、仏法を滅
ほろぼして、堂塔をこぼち、僧尼 を捕
とらへて失
うしなひ、或は還
(げんぞく)俗せしめ給
(たまふみだれ)乱に会
(あひ)給へり。大師をも捕
とらへんと し ける程に、逃てある堂の中へ入給ぬ。
例( 6 )は 「筆を下ろそうとする、 」の意、例 ( 7 )は 「殺して使おうと思っ て い る の だ。 」 の 意、 例 ( 8 )「大 師 を 追 い か け て 捕 ら え よ う。 」 の 意 と 解 さ れ、 こ れ ら は 例 ( 3 )( 4 )( 5 ) よ り 希 望 表 現 と 関 連 性 が あ る も の で ある。
ま た、 例 ( 6 ) は 宇 治 拾 遺 物 語 に 類 話 が あ り、 「将 然 」 を 表 す 部 分 は 一 致している。例 ( 7 )( 8 )は今昔物語集と宇治拾遺物語に類話があるが、 「将 然 」 を 表 す 部 分 は 今 昔 物 語 集 で は 表 現 が 異 な り、 宇 治 拾 遺 物 語 と は 一致する。
2 、「願」 の用法 本 書 に 「願 」 は 三 例 見 ら れ、 そ の う ち 名 詞 用 法 が 二 例、 動 詞 用 法 が 一 例あり、すべて佛教用語である。
( 9 )聖
ひじり、大
だい願
ぐわんヲ立
たテ、祈
いのり給
たまヘド、其
そノ驗
しるしナシ。 ( 1 96 行 二六頁) 今昔物語集巻第六 「玄奘三蔵、渡天竺伝法帰来語第六」 には、
其ノ時ニ、法師大
だい願
ぐわんヲ立テヽ祈リ給フト云ヘドモ、其ノ験
しるし無シ。
(
( 2 3 2 行 三〇頁) 立 給 ケニヤ有 ム、
フ たてたまあら10 )龍 樹 井 思 ワ ビ テ 、 キ サ キ ノ 御 モ ノ ス ソ ヲ ヒ キ カ ツ ギ テ 伏 給 、 多 願シテヲ りうじゆぼさつおもひおむ(裳)(引被)ふたまひおほくのぐわん
今昔物語集巻第四 「竜樹、俗時、作隠形薬語第二四」 には、
被
き切
らレ侘
わビテ、后ノ御
み裳
もノ裾
すそヲ曳
ひキ被
かつギテ臥
ふシ給テ、心ノ内ニ多
おほくノ 願
ぐわんヲ発
おこシ給フ。
古本説話集
⑼巻下六三 「竜樹菩薩先生以
二隠蓑笠
一犯
二后妃
一事」 には、
今一人は、后
きさきの御裳
もの裾
すそをひき被
かづきて伏
ふシ給
(たまひ)て、多
おほくの願
(ぐわん)を立
たて給 ふ。
例 ( 9 )(
ずれも名詞用法である。 10 ) における 「願」 は 「神仏に立てる誓願」 の意と解され、い なお、例 ( 9 ) は今昔物語集に類話があり、例 (
している。 治 拾 遺 物 語 に 類 話 が あ り、 表 現 に 小 異 あ る が、 「願 」 を 表 す 部 分 が 一 致 10 ) は今昔物語集と宇
(
結 願 、本 唐 ニ歸 ケリ。 ( 211 行 二八頁)
シテノニ けちぐわんもとモロコシかへり11 )七 日 滿 壇 上 血 多 コ ボ レ タ リ ケ レ バ 、「法 驗 有 ケ リ 」 ト 云 、ルノニノベキナリテ なぬかにみてだんうへちおほくほふしるしあるいひ
例(
11 )における 「結願」 はサ変動詞用法である。
な お、 例 (
語集では異なった表現となっている。 11 ) は 今 昔 物 語 集 に 類 話 が あ る が、 該 当 す る 部 分 が 今 昔 物
(菩薩)08-柴田(縦書).indd 4 2019/09/18 8:45:46
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五
打聞集における希望表現について 3 、「給ヘ」 の用法 「給
ヘ 」 は 命 令 表 現 と 見 る の が 一 般 的 で あ る が、 対 話 の 対 象 が 神 仏 の 場合においては、命令表現より希望表現と見るのが妥当であろう。本書 にこのような用法は三例見られる。
(
12 )「我 本 師 尺 迦如來 、失 給 後 久 成 、アラタニ見 給 覽 。我 助ハテヌレドモヲ わがほんじしやかによらいうせたまひのちひさしくなりみたまふらむわれたすけ
給
たまヘ」
ト念
ねむジテ臥
ふせルニ、 (
27 行 一〇頁)
今昔物語集巻第六 「震旦秦始皇時、天竺僧渡語第一」 には、
「我 ガ 大 師、 釈 迦 牟 尼 如
によ来
らい、 涅
ね槃
はんニ 入
いり給 テ 後
のち久 ク 成
なりヌ ト 云 ヘ ド モ、 神
じん通
づうノ 力
りきヲ 以 テ 新
あらタ ニ 見 給 フ ラ ム。 願
ねがはク ハ 我 ガ 此 ノ 苦 ヲ 助 ケ 給 ヘ 」 ト祈念シテ臥
ふシタルニ、
(
13 )「此 船 カ ウカタブク、有 樣 有 。若 龍 王用 物 有 、其 驗 見 給 」ノラムシスルバヲヘ このふね(斯)あるやうあるもりうわうようものあらそのしるしみせたま
ト
祈
いのり給
たまふ程
ほどニ、 ( 1 9 7 行 二六頁)
今昔物語集巻第六 「玄奘三蔵、渡天竺伝法帰来語第六」 には、
「若 シ、 此 ノ 船 ニ 竜
りゆう王
わうノ 要
えうス ル 物 ノ 有 ル カ。 然 ラ バ 其 ノ 験
しるシ ヲ 可
みす見
べシ」 ト宣
のたまフ時ニ、
(
14 )人 立 去 間 、 丑 寅 方 向 、「本 山 三 寶 藥 師 佛 、 助 給 」 、 手 摩 □ 拜タルニテトテ ひとのたちさりあひだうしとらのかたむかひほんざんさむぽうやくしほとけたすけたまへてをすりはい
ス。 (□は 「薬」 か) ( 3 22 行 三九頁)
今昔物語集巻第一一 「慈覚大師、亘宋、伝顕密法帰来語第一一」 には、
人ノ立
たち去
さりタル程ニ、大師丑
うし寅
とらノ方
かたニ向
むかひテ 掌
たなごころヲ合セ、礼拝シテ云
いはク、 「本
もとの山
やまノ三宝薬師仏、我レヲ助
たすけテ古
ふる郷
さとニ返ル事ヲ令
え得
しメ給ヘ 」ト。 宇治拾遺物語巻一三―一〇 「慈覚大師、入
二纐纈城
一給事」 には、
人の立
たち去
さりたるひまに、 艮
(うしとらの)方に向
むかひて、 「我山の三宝、助け給 ヘ 」と手をすりて祈請し給に、
例 (
12 )(
14 ) は 「どうか私をお助けください。 」 の意、例 (
法である。 実質的には神仏に対する祈りであり、いずれも 「希求」 を「表出」 する用
⑽後 続 語 は 「念 」「祈 」「拝 」 で あ る。 こ れ ら の 用 例 は 命 令 形 を と り な が ら 印 し を お 見 せ く だ さ い。 」 の 意 と 解 さ れ、 そ の 対 象 は 神 仏 で あ り、 そ の 13 ) は 「その
なお、例 (
給ヘ」 の形で用いられている。例 ( 12 )は今昔物語集に類話があり、今昔物語集には 「願クハ~
昔物語集に該当部分は 「ベシ」 と表現が異なっている。例 ( 13 )は今昔物語集に類話があるが、今
とっている。 語 集 と 宇 治 拾 遺 物 語 に 類 話 が あ り、 該 当 部 分 は 三 書 と も 同 一 の 表 現 を 14 ) は今昔物
4 、「祈ル」 「乞フ」 「求ム」 の用法
ま ず、 「祈 ル 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「祈 ル 」 の 用 例 は 一 四 例 が あ り、 そのうち名詞用法一例、実動詞用法一三例が見られる。
(
( 21 3 行 二八頁) 15 )「利 仁 ノ將 軍 ノ死 、此 人 ノ祈 ノ驗 」 知 。
ハナリケリトケリ としひとしやうぐんしにしこのひといのりしるししり今昔物語集巻第一四 「依調伏法験、利仁将軍死語第四五」 には、
「然
されバ 、利仁ノ将軍ノ死ニシ事ハ、其
その調伏ノ法ノ験
しるシニ依
よりテ也ケリ」 トハ知
しりケレ。
六
(
16)カクテ、三
さむ
四
し日
にち許
ばかりヌ
(温)ルミ給
ケレバ、種
しゆ〻
じゆの御
おむ祈
いのり初
はじめラレテ、殿
とのウ
(上)ヘモ騒
さわぎ給
たまひヒケリ。 ( 4 0 1 行 四八頁)
今昔物語集巻第一四 「依千手陀羅尼験力、遁蛇難語第四三」 には、
「此クテ三四日 許
ばかり暑
あつくシテ、様〻ノ祈
いのり共
ども被
はじめら始レテ、父
ぶ母
もモ囂
さわギ給ヒケ リ」
古今説話集巻下五一 「西三条殿若君遇
二百鬼夜行
一事」 には、
二三日許
ばかり温
ぬるみ給
(たまひ)たりければ、御祈
いのり どもはじめ、殿、上
うへ、騒
さはぎ給
(たまひ)けり。
例(
15)(
16) における 「祈り」 は名詞用法である。
な お、 例 (
な る。 例 ( 15) は 今 昔 物 語 集 に 類 話 が あ り、 該 当 す る 部 分 は 表 現 が 異 が概ね一致している。 16) は 今 昔 物 語 集 と 古 今 説 話 集 に 類 話 が あ り、 該 当 す る 部 分
(
17)三
さむざうの藏申
まうサク、「舎
しや利
りハ具
ぐシ奉
たてまつラネドモ、此
ここニテ祈
いのらバ出
いで御
おはす坐
ルモノナリ」 (
38行 一一頁)
今昔物語集巻第六 「康僧会三蔵、至胡国行出仏舎利語第四」 には、
三 蔵 答
こたえテ 宣
のたまハ ク、 「舎 利 不
ぐしたて具 奉
まつらズ ト 云 フ ト モ、 祈 リ 奉 ラ バ 自
おのづか然 ラ 出
いで御
おはスル者也」 ト。
(
18)三
さむざうの藏 申
まうさク、「舎
しや利
り祈
いのり出
いだシタテマツラズハ、此
このくび頸
ヲ取
とるベキ也
なり」
ト申
まうす時
ときニ、 (
40行 一二頁)
今昔物語集巻第六 「康僧会三蔵、至胡国行出仏舎利語第四」 には、
三蔵ノ答ヘ給ハク、 「舎利ヲ不
いのり祈
いだし出
たて奉
まつらズハ、此ノ身ノ頸
くびヲ可
とらる被取
べキ ナリ」 ト。
(
19)「トザマカウサマニ祈
いのれ
ドモ、露
つゆノ驗
しるシ无
なシ。 」 (
51行 一二頁)
宇治拾遺物語巻二―二〇 「浄観僧正祈
レ雨法験之事」 には、
「 如
(かくのごとく)是 、方〻に御祈 ども、させるしるしなし。 」
(
20)「ヘ
(塀)
ヰノモトニ北
きた向
むきニ立
たちテ、別
べちニ祈
いのり申
まうセ。」 (
52行 一二頁)
宇治拾遺物語巻二―二〇 「浄観僧正祈
レ雨法験之事」 には、
「座をたちて、別に壁の本にたちて、 れ
いの。」
例(
17)(
18)(
19)(
20) は実動詞用法である。
なお、例 (
17)(
18) は今昔物語集に類話があり、例 (
19)(
拾遺物語に類話があり、該当の部分が概ね一致している。 20) は宇治 次 に、 「乞 フ 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「乞 フ 」 は 三 例 あ り、 す べ て 実 動 詞用法である。
(
21)川
かはの半
なかばヨリ おきな指
さし出
いでテ、此
この鍋
かなへヲ乞
こふ。 ( 1 98 行 二六頁)
今昔物語集巻第六 「玄奘三蔵、渡天竺伝法帰来語第六」 には、
河ノ中ヨリ翁
おきな差
さし出
いデヽ、此ノ鍋
かなへヲ乞フ 。
(
22)「若
もシ
鬼
おにノ タ メ ニ 食
くハレズ ハ、 此
このてら寺
ノ鐘
かね、 如
ごとく本
もとのレ ニ
付
つかセム」
トウ ケ 乞
こひケ レ バ 、 ( 24 6 行 三二頁)
イ(翁)
撞
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H1908016/研究報告(01).indb 101 2019/09/25 16:07:31
七
打聞集における希望表現について ( 23 )无 益 事 ナレド、力 憑 此 鐘 ウケコフ 。 ( 24 7 行 三二頁)
ヲテヲ やくなきことちからたのみこのかね例(
21 )(
22 )(
た具体物であり、それを求める意を表す実動詞用法である。 23 )における 「乞フ」 の対象物はいずれも 「鍋」 「鐘」 といっ なお、例 (
例 ( 21 ) は今昔物語集に類話があり、該当部分が一致している。
22 )(
ない。 23 ) は日本霊異記に類話があるが、日本霊異記には該当部分が 次 に、 「求 ム 」 の 用 法 を 見 る。 本 書 に 「求 ム 」 は 三 例 あ り、 す べ て 実 動 詞用法である。
(
志 賀 郡 、大 友 王 子 立 給 寺 有 。 (
ノニノノル しがコホリおほともわうじたてたまへてらあり24 )□ 智 證 大 師 、 唐 歸 給 、 我 門 徒 佛 法 持 所 求 往 給 、 近 江 國ヨリテベキメニニ (昔)ちしようだいしもろこしかへりたまひわがもんとのぶつほふたもつところもといきたまふあふみのく
60 行 一三頁)
今昔物語集巻第一一 「智証大師、初門徒立三井寺語第二八」 には、
然ル間、我ガ門
もん徒
とヲ別
べちニ立テムト思フ心有テ、我ガ門徒ノ仏法ヲ可
つた伝
へお置
くべキ所カ有ルト、所
ところ〻
どころニ求メ 行
あるキ給フニ、
(
( 25 )「唐 、入 定 所 此 五 古 落 投 所 求 往 」 イラヘ給 。
ニテスベキニハトテシナリト もろこしにふぢやうところこのごこおちよなげところもとめいくたまふ83 行 一五頁)
今昔物語集巻第一一 「弘法大師、始建高野山語第二五」 には、
大 師 ノ 宣
のたまハ ク、 「我 レ 唐 ニ シ テ 三
さんご鈷 ヲ 擲
なげテ、 「禅
ぜん定
ぢやうノ 霊
れい穴
くゑつニ 落
おちヨ 」 ト 誓ヒキ。今其
その所ヲ求メ 行
ありク也」 ト。
(
26 )軸 成 エ求 不 得 、寤 夢 、 僧 來告 、 ( 41 5 行 五〇頁)ニテテ ぢくなしもとめえずしねたるゆめにそうのきてつぐる 例(
24 )(
25 )(
26 )の 「求む」 は何れも実動詞用法である。
なお、例 (
24 )(
し て い る。 例 ( 25 ) は今昔物語集に類話があり、該当する部分が一致 い。 26 ) は 宇 治 拾 遺 物 語 に 類 話 が あ る が、 該 当 す る 部 分 が な 四、おわりに
以上、打聞集における希望表現の構成と用法を考察して、また類話の 今昔物語集、宇治拾遺物語、古今説話集における当該箇所の表現を比較 考察してきた。
内容及び全体の分量と関連して、本書における希望表現の構成形式の 種類が非常に少なく、それぞれの用例数も非常に少ない。特に、希望表 現 を 表 す 和 語 の 「マ ホ シ 」、 「タ シ 」、 「 バ ヤ 」 が 見 ら れ な い こ と が 特 徴 と いえよう。
各 構 成 形 式 の 用 法 に つ い て い え ば、 「~ ム ト オ モ フ 」「~ 給 ヘ 」 は 希 望 を 「表出」 「説明」 を表し、本書における希望表現の中核である。 「将然」 を 表 す 「~ ム ト ス 」 は 希 望 表 現 と 関 連 す る 用 法 も 見 ら れ、 「願 」 は 名 詞 用 法 で 仏 教 用 語 に 用 い ら れ、 「祈 リ 」「乞 フ 」「求 ム 」 は 実 動 詞 用 法 で 希 望 に 基 づ い た 動 作 を 表 し、 こ れ ら の 用 法 は 希 望 表 現 の 周 辺 的 な も の で あ る。
また、本書の成立に関しても、宇治拾遺物語、今昔物語集、古今説話 集の類話の比較からは、希望表現に関する範囲で、同一の、あるいは類 似の表現を持つ用例が多く見られ、本書と三書との関係の深さを見るこ とができた。ただし、今昔物語集、宇治拾遺物語がそれぞれの文体、表 記 の 統 一 性 が 本 書 よ り 強 く、 本 書 が 全 く 聞 き 書 き と い う ほ ど で は な い が、各説話において、やや古体であることを示すように思われる。
鈷八