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(1)

イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み 1二〇〇七年法的サービス法1

我妻   学

一 はじめに

二 法曹制度改革の背景

三 法的サービス法案

四 二〇〇七年法的サービス法

五 おわりに

一 はじめに

司法制度改革の三の柱として︑国民の期待に応える司法制度の構築︵制度基盤の整備︶︑司法制度を支える法曹       ︵1︶の在り方︵人的基盤の拡充︶︑国民的基盤の確立︵国民の司法参加︶が掲げられている︒

   イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  二九

(2)

      三〇

 新たな法曹養成機関として︑二〇〇四年に開校した法科大学院は︑二〇〇八年三月に三期生が修了している︒法

科大学院を修了した司法修習生の素質・能力は従来に比べて優れた点があるとの積極的な評価が与えられているも

のの︑法科大学院の教育の実施状況および法科大学院の修了者について︑法律基本科目をはじめ基本的な知識・理

解が不十分な修了者が一部に見られること︑論理的表現能力の不十分な修了者が一部に見られること︑各法科大学

院における法律実務教育内容にバラツキがあること等の問題点が指摘されている︒これに対して︑中央教育審議会

大学分科会法科大学院特別委員会は︑法科大学院における教育の質の一層の向上を図るため︑﹃法科大学院教育の

質の向上のための改善方策について︵中間まとめ︶﹄を二・︒八年九月一二︒日に公表して境・

弁護士の質に関して︑全国の弁護士会の市民相談窓・に寄せられた苦情纂は・三︒四年以後・統一の基準に

基づいて集計されているが︑二〇〇七年は八︑六六八件である︒苦情の内容として多いのは︑﹁処理の仕方﹂︵二︑

四七二件︶︑﹁対応.態度等﹂︵二︑四四八件︶︑﹁処理の遅滞﹂︵一︑一六四件︶である︒苦情に対する処理結果は︑

﹁話を聞いてもらえばよい︑というだけで終わった﹂︵一︑四三三件︶︑﹁対象会員に対して︑苦情のあったことを伝

えた︵一︑〇九五件︶といったもののほかに︑﹁依頼した弁護士とよく話し合うよう勧めた﹂︵一︑三八四件︶︑﹁懲

戒制度・紛議制度・報酬制度を説明した﹂二︑・八・件︶が製・このような助ゴ一︒に対して・当事者がどのよう

な対応をしているのかは必ずしも明らかではない︒

 全国の弁護士会に対する懲戒請求の新受件数も二〇〇三年以後︑一︑○○○件を超え︑二〇〇六年は一︑三六七

件︑二〇〇七年は九︑五八五件に急増している︒ただし︑実際に懲戒処分に付される割合は︑二〇〇六年に六九件

で︑全体の五パーセントに過ぎず︑二〇〇七年は七〇件で︑○.七パーセントに過ぎない︒懲戒処分が一回のみと

いう場合が大部分である︵七四.三パーセント︶が︑懲戒処分を受けた弁護士の処分時の年齢は︑五〇歳代︵二六

(3)

件︶︑経験年数二?二九年︵三件︶が最も多いことが注目さ麩・

 将来の法曹養成機関として︑法科大学院教育における質の担保を保証することは最重要課題であるが︑あわせて

法的サービスの規制および苦情処理制度に関しても検討する必要があろう︒本論文は︑我が国における法的サービ

スの規制および苦情処理制度を考察する準備作業として︑イギリス︵イングランド・ウエールズ︶における近時の       ︵6︶法曹制度改革の動向を紹介する︒

 イギリスにおける弁護士は︑ハイ・コートにおける弁論を担当するバリスタと不動産取引を主に扱うソリシタの

二種類に分かれていると説明されるのが一般的で殼・

 サッチャー政権の下で成立した一九入五年司法の運営に関する法律︵Sr§﹂ood﹃自け一〇﹈ジ  ○﹃ ﹄己﹇ωけ一〇①  ㌧rO古  一q⊃○◎0︶は︑

ソリシタが独占していた不動産取引に関して︑認定不動産取引士︵巨8曇Φq 8自Φ竃ロ8旦が参入する途を認め︑

一九九〇年の裁判所および法的サービスに関する法律︵Oo巨詰芦qPΦo︒巴゜︒Φヨ8°︒﹀臼﹂㊤q⊃O以下︑﹁九〇年法﹂と

略記奉︶は・さらに銀行および住宅金融組A︒に対しても・参入する途を開こうとし超・

バリスタが独占的に有していたハイ・〒ト以上の上位裁判所の法廷弁劃に関して・九︒年法は・認定ソリシ

タにも認めている︒このように︑法的サービスに関して︑積極的に競争原理が導入されている︒さらに︑法曹人口

の増加︵表1︑表2参照︶にともない︑弁護士業務の専門性︑多様性が進んでいる︒バリスタとソリシタは︑それ

ぞれ長い伝統と自治に支えられており︑今後も両者の職域は堅持されていくであろうが︑提供している法的サービ

スの具体的な相違は︑既に相対的なものに過ぎなくなっている︒

 二〇〇七年一〇月三〇日に女王に裁可された二〇〇七年法的サービス法︵PΦσ︒巴o︒︒ヨ8°︒巨g心︒OOべ︵6°ト︒Φ︶°以下︑

﹁二〇〇七年法﹂と略記する︒︶は︑法的サービスにおける競争原理をより積極的に進めるとともに︑あわせて規制

   イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  一一二

(4)

年7002

73β16070ち470メ810

年6002 05﹂0639β必3盟︐041 年5002 179劉5769L4839軌01

年坐20 認ほ5799コ93757ぴ9 年0320 339臥5918ぴ325刀29

年0220 97β弘663▲35田仇8

計合       三二息      緩和によって︑多様化している法的サービスの規制を従来の法律専門職の自治の観点㎜      からではなく︑公益性および消費者保護の観点から再構築してゆくことを目指してい肱         ︑       ︑       LH︶0

2

2

U

る︒したがって︑九〇年法以後 積極的に進められてきた一連の法曹制度改革の中で

最重要の改革と言っても過言ではなく︑我が国における法的サービスの規制および苦

情処理制度に関して︑研究する際にも参考になると考える︒

二 法曹制度改革の背景

1 二〇〇一年の公正取引庁による報告書

   公正取引庁は︑ソリシタおよびバリスタなどの弁護士のほか︑会計士︑建築士など

殴  の専門職によるサービスの競争を阻害する種々の規制を指摘し︑これらの規制が正当一化与るかに三て・法律経済コンサルタントム云社に詳細な羅を依頼した上で検討

訂      ︵13︶B  し︑報告書を二〇〇一年三月に公表している︒公正取引庁長官は︑イギリスにおける

  商業活動を精査し︑寡占状態が生じていないかを明らかにする権限を有しているから

  である︵一九七三年公正取引法二条︶︒ただし︑公益性の観点から︑専門職に関して

  は︑一定の範囲で競争を制限することも認められている︵一九九八年競争法附則四

  条︶︒

(5)

 法的サービスに関する具体的な規制の問題としては︑ソリシタと会計士などの法律以外の専門家が共同で︑法的

サービスだけではなく︑その他の専門的なサービスを包括的に提供する多業種法律事務所︵旨已註ー目ω巳b巨③昌写9

庁匡︵§°・︶が禁止されていること二九九・年ソリシタ実務規程七条︶・企業などに勤務するソリ発が企業

の取引先などのために法的サービスを提供することが禁止されている︵同四条︑一九九〇年雇用弁護士規程︶こと︑

およびバリスタが相互にパートナーシップを形成することが禁止されていることなどについて指摘されている︒本

報告書は︑あくまでも不当な規制に対する経済的効率性および消費者の便益を指摘するにとどまり︑規制による法

的サービスの質に関する具体的な問題点を検討しているわけではない︒

 公正取引庁の報告書による指摘を受けて︑法的サービスの規制を管轄する大法官府は︑﹃公益性の観点﹄という

表題で︑二・・二年七月に諮問書を公表して版馳・法的サービスに関しても・原則として市場を開放し・競争原理

を導入し︑例外的に消費者が競争によって害される場合にのみ規制を認める立場に立っている︒現在の法的サービ

スの規制枠組みは︑時代遅れであり︑硬直的で︑説明責任を果たしておらず︑透明性が不十分であると結論づけて

いる︒憲法省︵      ︵16︶Oo冨詳日Φ昌♂﹃Oo5法已﹇8⇒巴量﹃︶は・二︒︒三年七月に﹃法的サ|ビス事業の競争と規制﹄とい︑つ

表題の諮問に関する報告書を公刊してW駆・当初は・不動産取引の規制・勅撰弁護士︵⇔已Φ巴︒°・02日巳︶など法的

サービスの規制に関する個別問題に関して検討されていたが︑法的サービスの性質が変化しており︑現在の法的

サービスに関する規制に関する枠組みが複雑であることから︑法的サービスに関する枠組みをどのように構築する

のか︑というより根本的で包括的な問題に関して検討が進められていった︒

イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  三三

(6)

三四

2 クレメンテイ報告書

 二〇〇三年七月二四日に大法官兼憲法省大臣であるフアルコナー卿︵PO﹃O﹈呵巴OO⇒①﹃ Oh弓プO﹃OけO白︶は︑クレメン       ︵18︶テイ︵臼゜日Φ⇒芭氏に︑二〇〇四年末までにどのような法的サービスの規制枠組みが最も効率的.革新的で︑公益

性および消費者の利益に最も合致するか︑に関して検討するように依頼している︒      ︵19︶      ︵20︶ 二〇〇四年三月に諮問書が公刊され︑諮問書に対する回答などに基づいて︑同年一二月一五日に最終報告書が公

刊されている︒

 クレメンテイ報告書が指摘している主要な問題点は︑第一に法的サービスに対する主たる規制がロー・ソサイエ

ティ︑バリスタ評議会などの法曹専門職団体に委ねられているが︑適切に機能していないこと︑規制に関する監督

機関も複雑で一貫していないため︑機能不全に陥っていること︑第二に法的サービスに対する消費者の苦情処理手

続は︑法曹専門職団体の内部処理に委ねられ︑遅延し︑信頼性に問題があること︑第三にITの専門家などが法律

事務所の運営に関与することなどを制限する規制が現状に則していないことである︒このように︑クレメンテイ報      ︵21︶告書も法的サービスの質に関して︑個々具体的に考察しているのではない︒

 一九九七年にブレア政権の下で︑規制の効率性および信頼性を高めるために政府に対して諮問する﹃よりよい規      ︵22︶制枠組みのプロジエクト︵ロΦ叶8﹃国Φσ︒巨昌oロ討c・×呵o苫︒︶﹄が組織されているが︑同プロジエクトでは︑規制に関

する五の原則として︑リスクとコストとの均衡︑規制に関して説明できること︑規則と基準が論理一貫しているこ      ︵23︶と︑規制内容が透明︑簡便で︑扱いやすいこと︑規制の目的が明確であることが挙げられている︒

(7)

 クレメンテイ報告書は︑法的サービスを規制する固有の枠組みとして︑①法の支配の維持︑②司法へのアクセス

を促進すること︑③消費者の利益を保護・促進すること︑④消費者の利益を適切に保護しながら︑法的サービスの

競争を促進すること︑⑤法律専門職が信頼され︑頼りになり︑実効性︵OぽO江くΦ︶があること︑⑥一般市民が法律

上の権利に関する理解を深めるようにすることを挙げている︒これらの六原則は︑法的サービスの規制に関する新

たな基本原理となっている︒

 法的サービスの規制の下になる法律専門家の職業原理としては︑独立性︑誠実性︵巨訂o︒﹃尋︶︑依頼者に対する

最善の利益のために行動する義務︑依頼者との間の秘匿特権︵一①oq巴肩o甘゜・°︒一〇⇒巴嘗己①σqΦ︶が示されている︒

 クレメンテイ報告書は︑このように法的サービスに関する規制の基本原理を明確にした上で︑法的サービスに関

する主要な三の問題点に対して︑法的サービスの監督機関︑苦情処理・懲戒手続および新たな業務形態に関する具

体的な提言を示している︒

︵1︶法的サービスの監督機関

 クレメンテイ報告書は︑現在の法的サービスの規制に関して合理的な規制目的および原理が認められず︑消費者

の利益を十分に保護していないとして︑批判している︒

 法的サービスの新たな監督⁝機関の主たる機能は︑法曹養成︑法的サービスに関する規則の制定︑監督︑苦情処理

および懲戒に関して︑統一的に監督することにある︒

 第一案は︑金融サービスにおける金融庁に相当する独立の機関として︑法的サービス庁︵↑oo︒巴moヨ8°︒﹀巨ゴo〒

﹂蔓︶を創設し︑法的サービスを直接監督すること︵A案︶︑第二案は︑実際の法的規制は現在と同じように各法律

専門職団体に任せ︑横断的に監督する機関として︑法的サービス評議会︵PΦoq巴︒︒①ヨ8°・切8昆︶を新たに設立す

   イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  三五

(8)

三六

ること︵B案︶である︒

 A案は︑新たに独立の監督機関を設けて︑法律専門職団体に従来認められてきた監督機能を全て移譲するもので

ある︒A案の長所としては︑監督機関が法律専門職団体とは独立の単一機関であるので︑従来のようにソリシタあ

るいはバリスタなどの法律専門職を基準とする規制ではなく︑法廷弁論権︑不動産譲渡などの法的サービス類型に

応じた規則を柔軟に設けることができ︑公益性および消費者の利益をより促進することが期待される︒さらに︑単

一の規制によって︑異なる法律専門職間の法曹養成について共通に定めることによって︑ソリシタとバリスタとの

相互交流も容易になりうる︒

 これに対して︑短所としては︑新たな監督機関の設立に要する費用がかかり︑広範な法的サービスの規制を一本

化することは︑かえって手続が煩項となるおそれがあること︑法律専門職団体による自治という伝統を無視し︑法

律専門家としての自覚を喪失させるおそれがあることである︒さらに︑銀行などの金融機関においては︑法律専門

職団体のような自治は認められてこなかったので︑新たな監督機関として金融庁が設立されたのに対して︑法的

サービスにおいては︑法律専門職団体の自治に委ねられてきており︑規制の背景事情が相互に異なることを強調し

ている︒ B案は︑法律専門職団体に代表機関としての役割の他に一定の監督機能を残し︑新たに設立される法的サービス

評議会が︑法律専門職団体の規則︑実務について間接的に監督するものである︒B案の長所としては︑法律専門職

団体による法律専門家に対する通常の規制を従来のように認めながら︑新たに監督機関を上位機関として横断的に

設けることによって︑今までよりも規制についてより一貫性を有し︑透明性を高めることができる点にある︒さら

にA案よりも設立に要する費用を抑制し︑法律専門家としての自覚を高め︑従来と同じように高い職業倫理規範を

(9)

維持することが期待できる︒

 短所としては︑A案のような専門職団体内部における監督機関と代表機関との明確な分離による独立性は認めら

れず︑消費者保護の観点よりも各々の法律専門職の利益を優先するおそれがある︒多業種間の法律業務の規制を考

える場合には︑各々の法律専門職団体の個別利益ではなく︑横断的に規律することと必ずしも調和しないおそれも

ある︒ 現在の法律専門職団体の代表機関は︑専ら法律専門職によって構成されており︑法律家以外のものの関与はほと

んどなされていない︒監督機関は︑質を維持しながら競争を促進する機能を有するのに対して︑代表機関は公益性

に配慮しながら︑団体の構成員の利益を図る必要がある︒法律専門職団体の代表機関と監督機関は︑公益性と消費

者保護の観点からは︑相互に利益が対立するので︑二の機関を明確に分離することが望ましいことが強調されてい

る︒法律専門職団体の代表機関は︑一年の任期で役員が交代しているが︑監督機関は︑持ち回りとするよりは︑継

続性が重要であることから︑人的にも相互に分離することが必要であるとしている︒

 そこで︑クレメンテイ報告書は︑B案を修正し︑法律専門職団体に一定の規制機能を残しながら︑法的サービス

評議会が間接的に監督すること︑各々の法律専門職団体の代表機関と監督機関を分離する案︵修正B案︶が最も適

切な形態であると結論づけている︒修正B案によっても︑各々の法律専門職団体内部の代表機関と監督機関が分離

され︑法的サービス評議会に法律専門職団体を包括的に監督する権限が付与されるが︑日常業務については︑各々

の法律専門職団体の監督機関に監督権限を委譲することを認めることによって︑A案と同様に柔軟に監督すること

ができ︑移行費用もA案よりも安価で済むからである︒どのように法律専門職団体内部の代表機関と監督機関が分

離すべきかについては︑法的サービス評議会が定め︑法律専門職団体が要件を満たさない場合には︑法的サービス

   イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  三七

(10)

三八

評議会が直接監督することを認めている︒

 EU法上では︑独立専門職︵巨ぴΦ巨買昆Φmω8⇒°︒︶に関する規制として︑自己規制は必要不可欠であり︑競争を阻

害するような規制を設けることは明確に禁止されている︒しかし︑競争を促進するために︑法律専門職団体の上位

組織として政府から独立した監督機関を設けることは︑EU法上も違法とはされないと判断している︒

 法的サービスの監督機関は︑個人ではなく︑一二人から一六人で構成され︑法律専門職団体から独立性を維持す

るために︑構成員の過半数を法律家以外のものから選出されるべきである︒法的サービス評議会の委員長および常

務理事は︑法律家以外のものから選出されなければならない︒法的サービス評議会が独立性を保持し︑政治的な干

渉を受けないためには︑大臣ではなく︑裁判官によって任命されるべきであるが︑議会に対する責任との関係で︑      ︵24︶憲法省大臣が記録長官︵呂知Q力吟Φ﹃O﹃閲O﹈巨oり︶と協議の上で任命することを提案している︒

 法的サービス評議会は︑消費者の意見をくみ上げるために︑年次報告書を公刊すること︑消費者パネルを設ける

こともあわせて︑提案されている︒

 法的サービス評議会の機能は︑法曹に対する規制よりも司法へのアクセスとして公益的な性格を有するので︑政

府が設立費用を一定の割合で負担すべきであると提案している︒ただし︑法律専門職団体と政府の費用負担の割合

を具体的にどの位に設定するかについては︑議会で議論すべきであるとしている︒

︵2︶法的サービスに関する苦情処理および懲戒制度

 ①苦情処理制度の問題

 提供された法的サービスに対して不満があるものは︑まずソリシタあるいはバリスタなど法的サービスを提供し

た者あるいは所属する事務所に対して直接苦情を申し立てる必要がある︒もしその苦情処理に満足できなければ︑

(11)

法的サービスの提供者が所属する各法律専門職団体に対して︑苦情を申し立てる︒苦情処理手続の細部に関しては︑      ︵25︶各法律専門職団体の自治に委ねられている︒

 法律専門職の中で︑特にソリシタに関する苦情処理手続に対する消費者の不満が強かった︒ソリシタの数が他の

法律専門職の数と比較すると圧倒的に多く︑法的サービスの内容も不動産取引︑遺言書の検認状︑交通事故など消

費者にとってソリシタが最も身近な法律家であることが挙げられる︒さらに巨大なソリシタ事務所が登場し︑以前

よりも利潤の追求を重視するようになっていること︑バリスタとは異なり︑依頼人と直接交渉し︑金員を受領する

こと︑ソリシタに対する信頼を基礎に依頼人と弁護士の関係が成り立っているが︑実際には個人事務所か他にパー

トナーがいるかを問わず︑ソリシタは互いに独立して活動しており︑内部監査が不十分であるためにソリシタの非      ︵26︶行を監視できないこと︑などが挙げられる︒

 ソリシタの事務処理が遅延しているという苦情の他に︑当事者の権利意識が高揚しているのに︑ソリシタが依頼

人の意見に耳を傾けず︑訴訟の進捗状況︑弁護士報酬などに関して適切に当事者に説明していないために︑依頼者

とソリシタとの間で紛争が生ずる場合も多い︒

 これ以上争っても当事者は時間の無駄だとあきらめたり︑ソリシタとのいざこざを嫌うなどの理由で︑ソリシタ       ︵27︶に苦情を申し立てないで︑泣き寝入りをしている場合も少なくない︒

 さらに依頼者から報酬を受領した場合には︑ソリシタはロー・ソサイエティに会計報告する義務を負っているが︑

遵守していない場合も多かった︒

 一〇年以上の実務経験を有するソリシタニ名︑非法律家一名から構成され︑ソリシタの懲戒を審理するソリシタ

懲戒審判所︵      ︵28︶弓冨︒︒昆○ぎ﹃乙︒9°︒o甘巨p目⇒苦巨巴︶は・霧違反の程度に応じて︑江・訓金︑三年以内の警の停止︵°・皐

   イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九−二︶  三九

(12)

      四〇

bΦ5・︒ざ⇒︶︑ソリシタの資格を剥奪するなどの権能が認められている︒しかし︑ソリシタ懲戒審判所の手続は遅延し︑

ソリシタが不当な行為を繰り返し行っても︑ソリシタの資格を剥奪するとその間はソリシタ業務が行えなくなるた      あ め︑強力な懲罰を課すことはほとんどないとされている︒さらに︑ソリシタの資格が剥奪された場合にも︑永久に

追放されるのではなく︑実際にはソリシタへの復帰︵國Oo◎古O﹃騨け一〇︼ρ 叶O  印O印︶を比較的容易に認めており︑再び不当

な職務行為をなし︑ソリシタの資格を剥奪される場合がある︒このようにソリシタの懲戒手続・処分が適切に機能       しているとは言い難かった︒なお︑裁判所もソリシタの資格を剥奪する懲戒権能を有している︵一九七四年ソリシ

タ法五〇条︶︒

 一九九〇年から一九九五年までブリストル小児病院で︑不適切な心臓手術が行われ︑子供が死亡した事件では︑

健康および医療安全を維持.促進するために︑医師免許の登録︑良質の医療の育成︑懲戒などを行っている医事審

議会︵︹︸①﹃PΦ﹃③一 リ﹄Φ△﹂6巴  OO巨6﹈一︶︵○呂○︶が適切に⁝機能しなかったことが問題とされ︑ブリストルの健康保険の最       ヨ 高責任者が適切に対応しなかったことを理由に処分されている︒これに対して︑ソリシタが重大な非行をした場合

であっても︑当該ソリシタの所属しているソリシタ事務所あるいはロー・ソサイエティの上層部に対する処分が医       ︵32︶師の場合のようになされたことはなかった︒

 一九九九年ソリシタ実務規程︵勺﹃③Oけ一60 ﹂㎝︶によって︑弁護士費用などに関する情報提供のほか︑ソリシタ事務

所内に苦情処理制度を設ける必要があるが︑実際に整備している事務所は少ない︒

②法的サービス・オンブズマン

法的サービス・オンブズマン︵↑oo︒巴ωoヨ8°・○日亘邑切日彗゜以下︑﹁オンブズマン﹂と略記する︶は︑法的サー

(13)

ビスの質を維持し︑発展させることによって︑司法へのアクセスを高めるための苦情処理機関として九〇年法に基

づいて設立されている︵三条・附則ゴ蘂︶・オンブズマンは大法官によって任命され︑人事および予算の決定権

は大法官府が有している︵附則三条4︑7︶が︑それ以外は政府から独立して運営されている︒オンブズマンは︑

法律家以外から選任され︑任期は三年であるが︑再任が認められている︒現在のオンブズマンは︑N曇合ζ③目o自

︵M︶氏である︒

 法的サービスに対して消費者が不満を感じている場合に︑直接オンブズマンに申し立てることは認められておら

ず︑まず法的サービスを提供した法律専門家が属する各々の法律専門職団に苦情を申し立て︑その苦情処理に対し

てなお不満がある場合に︑オンブズマンに書面で申請することができる︒手続費用は無料である︒オンブズマンは︑

あくまでも法的サービスに対する消費者の救済制度であるので︑ソリシタなどの法律専門家は︑申し立てることが

できない︒      エ  オンブズマンは︑ソリシタ︑バリスタのほか︑ソリシタ事務所に勤める法律専門職員︵冨o︒巴o×①6巨守Φ゜︒︶︑弁理

士︵       ︵36︶○冨詳隅9冒゜︒庄巨ΦoS勺餌冨昌濫①旨゜︒︶および認定不動産取引士の五の法的サ←スを提供する各法律専門職団

体による苦情処理が適切に行われたかを第一次的に調査する︒必要に応じて苦情処理の基準を監視し︑基準に問題

があれば勧告を法律専門職団体の苦情処理機関に対して行い︑当該法律専門職団体の苦情処理機関は回答する義務

がある︒ただし︑オンブズマンは︑あくまでも各々の法律専門職団体の苦情処理手続に対する中立の外部監査機関

であり︑苦情の要因となった法律家の行為が正当であったかを調査すること︑あるいは法的問題に関して意見を述

べる権限までは認められていない︒

  一九九九年司法へのアクセス法︵﹀08°・乙・8旨゜・註8巳q⊃P﹂⑩Φ⇔○冨旦2心︒心︒°以下︑﹁九九年法﹂と略記する︒︶によ

    イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  四一

(14)

年6002

08β1616

年0520 1mL318 年0420 5621勉1

年3002 80ほー502 年0220 0401為2

タシリソタスリバ       四二

㎞       ㎜   って︑苦情に対して再調査することを法律専門職団体に勧告すること︑あるい

       ロ働       働   は補償金の支払いを命ずることができるように権限が強化されている︵四九允         允㎜  ㎜ 条︶︒オンブズマンの判断に対して︑申立人だけではなく︑法律専門職団体は

㎞      ㎜   司法審査を申し立てることができる︒︿  ﹄ オンブズマンは・葎専門職団体に関する苦情の申立てがなされると主に記

ロ       リコぱ      コイ﹄       踊   録を精査し︑苦情処理手続が適切であったかを中立的な立場で判断し︑必要に

ゅ       ゆ鋤       ㎏   応じて法律専門職団体に苦情処理手続に関する勧告︑申立人に対する補償を命輌  輌 ずるが︑幾権限は個々の法律専門職団体に委ねられている・オンブズマンは・

お       お㎞       ㎞   自ら法律専門職団体の苦情処理手続の改善を図るというよりは︑法的サービスあ       れゆ      レ㎞       ㎞   の質を維持し︑法律家に対する信頼を占口同めるために︑法律専門職団体による自d         d      ︵37︶耽      ㎝  治を尊重し︑法律専門職団体の自浄作用に委ねている︒

リ      カ剛轍 剛 オンブズマンに申し立てられた苦情の圧倒的多数は︑・!ソサイエティの

﹄翻 ピ処理に関するものであ三表3︑表4参照︶.具体的に問題となっているのは︑

{㌶

@ =︵詩詩顯露鶏⊇霞⁝竃竃鷲ジ蓬計

蒜ガ ㌶が遅延し・苦情に関する調査が不+分である点であった・㎞㌢  麟腸麹  認 眸㎜ 93口

理処情苦

律規の

(15)

③苦情処理長官

 九九年法は︑法律専門職団体の苦情処理機関が有効かつ効果的に機能していないと大法官が判断した場合に︑い

わば最後の手段として法的サ壱ス苦情処農㌣①︒α量昌Φ゜°8昌§°・8ゴ巨゜・°・§冒以下︑﹁苦情処理長官﹂

と略記する︒︶を任命して︑当該苦情処理機関の改善を意図している︵五一条︑五二条︶︒オンブズマンのように

各々の法律専門職団体の苦情処理手続に対する外部監査ではなく︑自主的な改善を期待できない特定の法律専門職

団体に対して︑苦情処理手続の抜本的な改善を命ずることを目的としている︒

 苦情処理長官は︑大法官から任命され︑水準以下の法律専門職団体による苦情処理を抜本的に向上させるために

苦情処理手続の状況の報告を求め︑苦情処理の調査︑勧告する権能を有し︑苦情処理手続の改善のための目標を設

定し︑当該団体が達成できない場合には︑苦情処理総件数︑改善目標に到達しなかった処理件数︑当該団体の財源

および構成員の数などを勘案して当該団体に対して制裁金を課すことができる︒

 二〇〇四年二月にソリシタの苦情処理機関の改善のために︑苦情処理長官が初めて任命され︑オンブズマンの

呂芦NO自氏が現在兼務されている︒

 オンブズマンは︑個々の苦情処理に関する記録の提出を命ずる権能を有するが︑苦情処理長官には︑さらに問題

となった事件に関する調査権能を有し︑ロー・ソサイエティに苦情処理件数の具体的な目標値を設定させる権能を

有している︒特定の法律専門職団体の苦情処理手続を抜本的に改善するために︑オンブズマンと苦情処理長官の役      ︵40︶割は相互に補完しあっている︒

 二〇〇四年四月にロー・ソサイエティは︑質の低い法的サービスに関する苦情処理をより迅速に行うために︑ソ

リシタ監督庁に代えて︑消費者苦情処理サービス︵08°︒已5﹃Oo日芭①巨゜・ω①ヨ︒①・・︶を設立している︒これに対し

   イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  四三

(16)

      四四

て︑オンブズマンは︑ロー.ソサイエティが設立した新たな苦情処理制度が︑質の低い法的サービスの苦情処理を

行うために二〇〇三年に設立された消費者苦情評議会︵08︒・§20︒日芭知巨ωO片Φ︒8﹃巴①︶と名称以外に実質的な

相違点が認められず︑オンブズマンと事前に何らの協議をせずに苦情処理手続の改革を行ったことを非難して匹剖︒

 ロー.ソサイエティが設定した苦情処理件数の目標が不十分であるとして︑苦情処理長官は︑二〇〇六年五月に

・!ソサイエティに対して︑二五万ポンドの制裁金の支払いを命じてW麗・

 ④法律苦情処理局の創設

 クレメンテイ報告書は︑苦情処理手続のモデルとして︑第一案は︑法律専門職団体から単一の独立機関に委譲す

ること︵A案︶︑第二案は︑各法律専門職団体に苦情処理手続を委ね︑必要に応じて︑外部機関によって監督する

方法︵B案︶が検討されている︒B案のように苦情処理手続を各法律専門職団体に委ねることは︑現行の苦情処理

手続の中立性および消費者の信頼性から問題があり︑消費者の利益保護のために︑A案を支持している︒法律専門

職団体とは独立した単一の苦情処理手続を設けることによって︑苦情処理手続を単純化し︑一貫した手続とするこ

とは︑新たな業務形態により容易に適A口しうるからである︒さらに苦情処理手続で顕在化した問題を横断的に法律

専門職団体にブイードバックし︑法的サービスの質を向上させることが期待されている︒

 苦情処理手続は︑基準を満たさない法律専門職団体に対するサンクションとして設けるというよりは︑アクセス

の容易さおよび手続の一貫性を重視して︑全ての法律専門職団体を横断的に規律する単一の苦情処理手続として法

律苦情処理局︵○旨8冒↑︒o︒巴○○∋旦知巨゜︒︵09︶︶を新たに設けることを提案している︒

 法律苦情処理局は︑人事権および政策決定などに関して法的サービス評議会の一般的な監督に服するが︑法的

(17)

サービス評議会は個々の苦情処理手続に干渉することは認められない︒法律苦情処理局の局長は法律の専門家では

なく︑法律家以外のものから選任すること︑かつ委員の過半数は︑法律家以外から選任されなければならないが︑

法律家も構成員とすべきであるとしている︒

 法律苦情処理局は︑苦情の種類にかかわらず︑消費者に対して迅速で公正な救済を提供しなければならない︒苦

情の対象となった法的サービスの程度に応じて︑法律専門家の謝罪︑報酬の減額︑賠償金の支払いなどの救済を命

ずる︒ 法律事務所内部における苦情処理手続は︑外部機関による苦情処理手続と比較してより迅速︑安価に解決し︑苦

情をフィードバックすることにより︑法的サービスの質の向上を図ることが期待できるので︑今までと同じように

並存させることを提案している︒しかし︑当事者が苦情の申立てをしたにもかかわらず︑受理通知が一定期間内に

なされない場合︑あるいは苦情を申立てたときから合理的な期間内に解決できない場合には︑直接苦情処理局に苦

情を申し立てることを認めている︒具体的な申請期間については︑法律苦情処理局が定める予定である︒

 苦情処理局による苦情処理は︑消費者は無料であるが︑法律専門職団体が費用を拠出すべきであるとしている︒

 クレメンテイ報告書に対して︑オンブズマンは︑法的サービスの質を向上するには︑法的専門職団体から独立し

た苦情処理制度だけを創設するだけではなく︑法的サービスの質の低さを理由とする苦情に対して法律専門職団体      ︵43︶が自ら解決する責任を負わせるべきである︑としている︒

 クレメンテイ報告書は︑懲戒手続に関しては︑新たな独立の機関を設ける必要性は認められないとして︑従来通

りに各法律専門職団体に委ねられる︒これに対して︑主にソリシタの懲戒審判所が機能してこなかったことから︑

懲戒手続に関しても各法律専門職団体に委ねるのではなく︑法的サービス評議会に委ねるべきであったとの批判が

   イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  四五

(18)

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計合 セ﹀ノ       四六       ︵44︶  なされている︒   ︵3︶新たな業務形態︵≧↓Φ∋①↓一︿Φ9ωゴΦωΦω言o↓⊂δ︵﹀ロω︶︶   イギリスにおいても消費者に対する法的サービスの主たる提供者は︑ソリシタの個人事  務所または小規模事務所である︵表5参照︶︒    ソリシタはパートナーシップ形態で事務経営することが認められている︒一九九八年の      め   EU指令により︑EU加盟国における法曹資格者は︑ロー・ソサイエティあるいはバリス

Φ タ評議会に登録されれば︑イギリス国内で恒久的にソリシタ事務所のパートナーとなるこ

醐 とが認められている︒これに対して︑ソリシタ以外の会計士などがパートナーとなること 07

鋤  および弁護士事務所を保有することは禁止されている︒バリスタはパートナーシップ形態

働  で事務所を経営すること自体が認められていない︒

ぬ  クレメンテイ報告書は︑法律家が共同あるいは法律家と法律家以外の専門職による新た

㎞  なサービスがどこまで許容されるかについて︑検討した上で︑新たな業務形態は・あくま

︐脚  でも法律家が主導すべきであるとの立場をとっている︒

励  ①法律専門職間の法律共同事務所︵﹁ΦQ①一□ωo一巳⊃零×τ﹁①o↓一〇Φω︵﹁O刀Φ︶︶

榔   法律専門職間の法律共同事務所とは︑たとえばソリシタとバリスタなどがパートナーシ

⁝ップあるいは有限責任事業組合︵巨巨§葺勺§Φ﹃功巨b︶の形態によって︑法的

輌サービスを提供する︒あくまでも︑法的サービスだけを提供し・−Tの専門家・会計士な

(19)

どの法律家以外の専門家は︑事務所経営の効率化を図るために経営者︵旨P5品2︶として関与を認めるだけで︑法

的サービス以外の包括的なサービスを提供することを認めていない点で︑多業種共同事務所とは異なる︒

 すでに︑ソリシタ︑バリスタおよびパラリーガルを雇用している非営利法人であるロー・センターにおいては︑

無料で種々の法的サービスを提供している︒ロー・センターには︑法律扶助のほか︑地方公共団体などから資金が

拠出されている︒さらに︑ソリシタあるいはバリスタの全体の二割程度は︑企業︑政府機関および労働組合で業務

を行っている︒ただし︑これらの法律家は︑雇用主の顧客など第三者に対して︑法的サービスを提供することが禁

止されている︒法律専門職間の法律共同事務所を企業が保有することが認められれば︑消費者に広く法的サービス

を提供することが可能となる︒

 法律専門職間の法律共同事務所が認められれば︑ソリシタ︑バリスタにとっては職域を拡充できる︒さらに︑事

務所の経営と所有を分離することも認めているので︑銀行あるいは金融会社などの非法律家による法律事務所の所

有も認めているが︑あくまでも消費者に提供するのは︑法的サービスに限定している︒このように︑事務所の経営

と所有を分離する余地を認めれば︑法律事務所の経営基盤をより強固にして︑パートナー間の経済的リスクを軽減

しうる︒ これに対して︑法律専門職間の法律共同事務所が都市部に集中し︑地方では反対に法律事務所の選択が現在より

もさらに制限されるのではないか︑法律家以外の専門家が事務所の経営に関与することによって︑倫理上の問題が

生ずるのではないか︑といった問題点が指摘されている︒

 ロー.ソサイエティは︑各々の法律専門職団体が倫理規程を設け︑必要に応じて共通の規程を設けることで対応

することができるので︑法律専門職間の法律共同事務所の拡充を支持し︑ソリシタとバリスタがパートナーシップ

   イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  四七

(20)

四八

を形成することに対する規制の撤廃を提案している︒法律家は依頼人の利益を優先させる義務を一般的に負うので︑

法律専門家として︑ソリシタとバリスタとの間に共通の規程を設けることは困難ではないからである︒

 法律専門職間の法律共同事務所の経営責任としては︑個人的なパートナーシップ形態から一定の経済的な組織と

しての規制をすることが必要となる︒そこで︑法律専門職間の法律共同事務所の法律業務全体に責任を有する法曹

資格と経験を有する法律業務責任者︵出①置o﹃いΦo︒巴四即昆8︶︵国○ピ勺︶を任命しなければならない︒さらに︑法律

業務の会計管理および依頼人からの預り金の管理に責任を持つ財務管理責任者︵国︒邑o﹃呵日③づ8碧巳﹀量巨゜・叶﹃㌣

古ざ5︶曾○臣︶をあわせて︑任命しなければならない︒財務管理者は必ずしも法律家でなくてもよい︒大規模︑中

規模のソリシタ事務所においては︑事実上このような業務形態がとられており︑小規模のソリシタ事務所において

は︑法律業務責任者が財務管理責任者を兼務することも認めている︒

 法律専門職間の法律共同事務所の経営者の過半数は︑法曹資格を有していなければならないが︑ITの専門家︑

会計士などの法律家以外の者が︑事務所の経営効率を高めるために︑経営者となることも認めている︒法律家以外

の経営者の具体的な割合は︑法律専門職間の法律共同事務所の規制によって定められるが︑総経営者の半数以下に

留めること︑法律専門職団体の一定の規制基準を遵守することを前提要件としている︒

 事務所の経営と所有が分かれている場合に︑所有者は︑個々の事件記録その他の個別の情報にアクセスすること

は認められない︒

 法律専門職団体が法律専門職間の法律共同事務所の監督機関となるには︑法的サービス評議会に申請し︑認定さ

れなければならない︒法律専門職間の法律共同事務所となるには︑法的サービス評議会により規制機関として認定

された法律専門職団体に申請して︑認定されなければならない︒

(21)

 ②多業種共同事務所︵ζ⊂一↓〒O一ωq廿=轟⊇τ﹁①90Φω︶︵ζ0刀ω︶

 法律専門職間の法律共同事務所は︑あくまでも法律家の主導による法的サービスに限定して提供するのに対して︑

多業種共同事務所では︑法律家と法律家以外の者がパートナーシップを形成し︑法的サービスに限定されない包括

的なサービスを提供する︒サービスの提供主体が必ずしも法律家に限定されているわけではない点が法律専門職間

の法律共同事務所とは異なる︒具体的には︑銀行︑保険会社︑スーパーマーケットなどの異業種の事業が︑多業種

共同事務所を設立することが想定されている︒多業種共同事務所は︑ワンストップ・サービスと呼ばれているよう

に︑多重債務︑相続︑税金の問題などに関して︑専門職間の業務を相互に補完し︑業務の効率性を高め︑包括的な

サービスを提供しうるので︑裁判外紛争処理による解決が促進するなど消費者に幅広い選択権を与えうる︒

 多業種共同事務所に関しては︑以下の問題点が指摘されている︒第一に多業種共同事務所をどのように規律する

のか︑共同事務所間での専門職間の利益相反︑多業種の専門家および法律家との共同の業務において︑倫理および

専門家責任を具体的にどのように定めるか︑が重要である︒法的サービスに関しては︑新たに設けられる法的サー

ビス評議会によって監督されるが︑特に︑法律家でない者および法律家によって監督されていない専門家をどのよ

うに規制しうるかが問題となる︒

 第二に職業倫理に関しても︑異なる専門職間で異なること︑第三に依頼人と法律家間の秘匿特権の適用範囲が法

律専門家と依頼人との間の法的サービスだけに限定されるのか︑あるいは法律家以外の専門家による包括的なサー

ビスにも一律に適用されるのか︑が問題となる︒

 法的サービスが主たるサービスではない場合︑法律家による監督がなされていない領域︑事務所の所有と経営が

イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  四九

(22)

五〇

分離している場合に︑どのように多業種共同法律事務所を規制するかも必ずしも明確ではない︒

 そこで︑クレメンテイ報告書は︑多業種共同事務所の場合にも法的サービスが主の場合で︑法律家が責任者の場

合にのみ認める︒そこで︑専門職団体相互間で規制を行う団体を設立する認証を付与することによって︑多業種共

同事務所による法的サービスの提供を認める︒この場合には︑新たな事業として認定する法的サービスの内容を特

定する必要がある︒具体的には︑法律家と会計士が共同する場合には︑法的サービスだけではなく︑金融庁の規制

も遵守しなければならず︑責任者も法律業務責任者および財務管理責任者を設ける必要がある︒

 クレメンテイ報告書では︑新たな業務形態としては︑法律専門職間の法律共同事務所を第一段階として認め︑多

業種共同事務所の設立に関しては見送ることを提言していた︒

三 法的サービス法案

1 憲法省によるホワイト・ペーパー

 憲法省は︑二〇〇五年一〇月一七日に﹃将来の法的サービス﹄という表題のホワイト・ペーパーを公表し︑消費

者の利益を最優先して︑法的サービスを規制する枠組みを消費者のニーズにより適合し︑信頼性のあるものに根本      ︵46︶的に変更することを明確にしている︒

 各法律専門職団体を中心とした現在の規制では︑法的サービスの実質的内容が同じであるにもかかわらず︑サー

ビスの提供主体によってそれぞればらばらに規律されているので︑法的サービスの規制自体が迷路のように入り組

(23)

んでいる︒法律専門職団体は︑規制機関であるとともにそれぞれの法律専門職の代表機関でもあるので︑それぞれ

の法的サービスの享受者たる消費者の観点というよりは︑むしろ各法律専門職の利益を優先するおそれがある︒

 そこで︑法的サービスを規制する新たな枠組みに関して︑より平易で説明責任を果たすことによって︑消費者の

保護が保障されることを目的としている︒具体的には︑法的サービスを第一義的に規制する各法律専門職団体の独

立した上位組織として︑新たに法的サービス評議会を設け︑横断的に法的サービスを監督する︒法的サービス評議

会の構成員の多数は法律家でない者を充て︑法律専門職団体および政府からも独立した機関とする︒

 ロー.ソサイエティあるいはバリスタ評議会などのような法律専門職団体は︑今まで代表機関と監督機関が分離

されていなかったので︑より公正さを担保するために原則的に両⁝機関を分離するなど法律専門職団体が監督⁝機関と

して適切であることを法的サービス評議会に示した上で︑日常業務について監督することになる︒新たに︑消費者

の意見をくみ上げるために消費者問題︑法的サービス︑民事および刑事手続︑法曹教育︑苦情処理などの専門家か

ら構⁝成される消費者パネルを設置する︒

 法的サービス評議会の権限は︑消費者の利益保護のために︑広範なものとなるので︑法律によって定められなけ

ればならない︒消費者の利益を実質的に保護するため︑法に違反し︑消費者の集団的利益を害する法的サービスに      ︵47︶対して︑差止命令を裁判所に求めることができる︒

 政府は︑法的サービスの規制に関するクレメンテイ報告書の提言を基本的に受け入れて︑法的サービスに関する

立法を行うことを明らかにしている︒

 法的サービス評議会は︑新たな法律専門職団体を認証する場合あるいは既存の法律専門職団体の認証を取消す場

合︑法律専門職団体の規則を変更する指令を発するなどの重要な規制に関しては︑消費者パネル︑憲法省大臣︑公

   イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  五一

(24)

       五二

正取引庁長官などと協議しなければならない︒公正取引庁は︑認証された法律専門職団体の規程が競争を抑制して

いないかを調査する権能を引き続き有し︑法的サービス評議会は公正取引庁が指摘した問題に対応する法律上の義

務がある︒法的サービス評議会と公正取引庁の見解が食い違った場合には︑憲法省大臣は︑競争に関する委員会の

助言のもとに問題を解決する権能が付与される︒

 苦情処理手続に関して︑各々の法律専門職団体の苦情処理機関の上部組織として︑法的サービスにかかわる苦情

全般を扱う独立の法律苦情処理局を新たに設ける︒法的サービス評議会は︑憲法省大臣の承認のもとに法律苦情処

理局の委員長を任命し︑法律苦情処理局の人事および予算を承認する︒このように憲法省大臣の監督権限が極めて

広範に認められていることに留意する必要がある︒

 さらに︑多業種共同事務所の規制および法的サービス評議会の財源負担という重大な点に関して︑クレメンテイ

報告書の立場を否定している︒

 クレメンテイ報告書は︑まず法律専門職間の法律共同事務所を許容する結論を示し︑多業種共同事務所は時期尚

早であるとしているが︑政府はこれを支持せず︑むしろ多業種共同事務所を積極的に導入する方針を明確にしてい

る︒多業種共同事務所を設けることによって︑法的サービスに限定しないで消費者に包括的なサービスを提供する

ことによって︑消費者により柔軟な選択の機会を提供すること︑異なる専門家を同じ事務所におくことによって事

業の効率化︑手数料を軽減することによって︑消費者が包括的なサービスをより低廉に享受できること︑多業種共

同事務所は︑地方においても種々のサービスを提供することにより︑司法へのアクセスをより容易にすること︑多

業種共同事務所が外部資金や法律以外の専門家が積極的に参入することを認めることによって︑消費者に対する

サービスをよりよいものにすること︑多業種共同事務所は︑質の高い法的サービスを提供することによって︑消費

(25)

者の信頼も向上することが期待されている︒

 包括的なサービスを提供している事務所にとっても︑財政上の制約を緩和して︑より柔軟に外部資金の調達を容

易にし︑リスクを分散させることによって︑経営の効率化を図ることができること︑保険会社︑銀行および不動産

管理会社など法律事務所以外の異業種による事務所の設立によって︑法的サービスと関連するサービスを包括的に

提供し︑相乗効果を享受しうること︑多業種共同事務所は法律専門家以外の職員を法律専門家と同様に処遇するこ

とによって︑質の高い職員を確保することができること︑法律専門家にとっても現在よりも職域を拡充し︑より選       ︵48︶択肢を拡大させることが期待されている︒

 法律専門職団体が多業種共同事務所を規制する権能を有するためには︑法的サービス評議会の認証を受けなけれ

ばならない︒認証要件の詳細に関しては︑法的サービス評議会が定めた基準を立法化することによって定める︒ク

レメンテイ報告書のように多業種共同事務所の役員の過半数を法律家と定めることは︑新たな事業形態を抑制する

ものであると否定し︑役員に法律家としての資格を有するものが一名いるだけで多業種共同事務所を許容する立場

を採っている︒

 法的サービス評議会の財源に関して︑クレメンテイ報告書は︑法的サービス評議会の⁝機能が︑法曹に対する規制

というよりも司法へのアクセスとして公益的な性格を有するので︑政府が財源を負担すべきであると提案していた

が︑政府は︑全額を各法律専門職団体が負担することによって責任を果たすべきであるとしている︒

イギリス︵イングランド・ウェールズ︶における法曹制度改革の試み       ︵都法四十九ー二︶  五三

(26)

五四

2 法的サービス法草案

      ︵49︶ 二〇〇六年五月二四日に法的サービス法草案︵O日津↑Φo︒巴゜︒Φヨ8°︒bd巨︶が理由書などと併せて公表されている︒

同草案は︑一五九条および一五条の附則から構成されている︒      ︵50︶ 同年七月二五日に両院協議会が法的サービス法草案を検討した上で報告書を提出している︒両院協議会は︑同年

五月二一二日に任命されてから︑僅か二ヵ月間と十分に調査を行う時間的猶予がないため︑最重要課題に関して︑法

的サービス法草案が特にクレメンテイ報告書の提案から逸脱している点を中心に五八の提言をしている︒

 具体的には︑立法の重点が公益性の観点から消費者の利益に移行していること︑法的サービス評議会の委員長お

よび委員の任命・解任権に関して︑憲法省大臣の専権とするなど憲法省大臣が法的サービスの規制に対して︑過度

に干渉し︑法曹の独立性を侵害するおそれがあるので︑政府による干渉を必要最小限に留めるために主席裁判官と

の協議に基づいて行うことを提案している︒さらに︑消費者パネルとともに法律専門職パネル︵勺日昆註o⇒2

勺芦色を設けること︑法的サービス評議会による規制に関する判断に対して︑ハイ・コートへの不服申立てを認

めること︑法的サービス評議会の設立費用を法律専門職団体が負担することが合理的であるのかなどについて︑再

検討することなどを提案している︒法律家は︑当事者双方の利益を代表するだけではなく︑裁判所および公益的な

立場にも配慮する必要があるので︑消費者の利益を過度に尊重すると︑かえって法律家の独立性を侵害するおそれ

があるからである︒

 最も重大な事項として︑多業種共同事務所内部での利益相反の問題︑多業種共同事務所を導入した場合にどのよ

参照

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体裁 丁数 印記

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表1および図1, 2はこれらの関係を示したもの である。A/B環trans結合の場合, IとⅢでは水酸基 がequatorialであるうえにβ結合なので,