「鶏」に関することわざ ―「鶏」をどう捉えてきたか―
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(2) 「鶏」に関することわざ ―― 「鶏」をどう捉えてきたか ―― 馬 場 俊 臣. 1 はじめに 「ことわざ」は、古くから言い伝えられてきた、教訓・風刺・真理などを含んだ 短い言葉であり、様々な事物に対する人々の見方や捉え方が反映されている。 馬場(2010)~(2017)では、「牛」「虎」「兎」「龍」 「蛇」 「馬」 「羊」 「猿」に関 する日本のことわざを取り上げ、ことわざに反映されたそれぞれの動物に対する 人々の捉え方の特徴を見た。本稿では、「鶏(にわとり)(とり)」に関することわ ざを取り上げ「鶏」に対するどのような捉え方が表されているかを示したい。 本稿で取り上げることわざは、『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』 (北村(編) (2012))に基づいている。同書「付録全文データ収録CD-ROM」の「見出しキー ワード」検索によれば、「鶏」をキーワードとすることわざは57句(俗信・俗説、 言葉遊び・しゃれ、慣用句、故事を含む)あり、十二支の動物名を含むことわざの 中では少ない方である。なお、「鳥」をキーワードとすることわざは145句ある。 鶏は、紀元前2000年ごろに、インド、東南アジアでヤケイ(野鶏)を家畜化した ものである1。家畜化の目的は、時計の役割、闘鶏、宗教や信仰、装飾品としての利 用、占い、食用などの説がある(秋篠宮文仁2000:69) 。現在、鶏の品種数は「世 界には少なく見積もると300、多く見積もると500のニワトリ品種が存在する」(都 築政起2014:7)とのことであり数多くの品種がある。 日本へは、中国・朝鮮半島および南西諸島経由の二つのルートを経て伝えられた。 縄文後・晩期以降の遺跡で鶏の骨が出土しており、また、6世紀末以降の古墳から ニワトリ形の埴輪が出土している。この頃から日本列島各地にいた鶏の子孫が現在 の地鶏であると考えられている。その後、平安時代に小国鶏の祖先が中国から日本 に入り、また、江戸時代に軍鶏や烏骨鶏の祖先がベトナムや中国などから日本に入っ てきた。江戸時代末頃までに作出された日本鶏の代表的品種は天然記念物に指定さ れており、2グループと15種に分けられる。土佐地鶏などの地鶏グループ、大軍鶏 などの軍鶏グループの2グループ、小国鶏、矮鶏、烏骨鶏、声良鶏、比内鶏、蜀鶏、 蓑曳鶏、河内奴鶏、黒柏鶏、土佐のオナガドリ(特別天然記念物)、東天紅鶏、蓑 曳矮鶏、鶉矮鶏、薩摩鶏、地頭鶏の15種である。明治時代以降、海外から卵用・肉 1. 『 日本大百科全書(ニッポニカ) 』 ( 「ニワトリ」の項目)に基づく。. -9-.
(3) 用のニワトリ品種が多く移入され、日本在来の品種と掛け合わされて数多くの実用 品種が新たに作出された。なお、2016年現在、日本には、ブロイラー約1億3500万 羽、採卵鶏約1億7000万羽がいる2。 さて、「鶏」に関することわざは、「鶏口となるも牛後となる勿れ(大きな集団の 末端に連なるよりは、小さな集団でも頭目となるほうがよい)」、「鶏を割くになん ぞ牛刀を用いん(小事を処理するのに、大人物や大げさな方法を用いる必要はない) 」 など中国の故事に基づく成語も広く知られているが、本稿では、日本のことわざを 対象とするため、中国の故事成語などに基づくことわざは取り上げない。本稿では、 「鶏」に関する日本のことわざ3を見ていく。 以下、鶏に関することわざにおいて注目された鶏の特徴を鶏の姿形と行動別に分 類し、ことわざを例示していく。( )内に示した解釈は『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』に基づいている。関連する情報も随時補う。. 2 鶏に関する日本のことわざ ⑴ 姿形 (ア)裸足 ① じたばたしても鶏は裸足/鶏は裸足(何と言おうと、どう悪あがきしようと、 事実ははっきりしていること。) ② ばたばた言うても鶏は裸足、田螺は家持ち(何でもそれぞれに天性というもの があること。また、分かり切っていること。) 4 も裸足(どこへ行っても同じものは同じで、変わるはずがな ③ 何処の鶏(とり). い。また、人間の本性はどこの国でも同じである。) 鶏の足に関しては、「脚5と趾6は、爬虫類の鱗に相当する角質化した脚鱗に覆わ れている。ニワトリの趾は4本あり、第五趾を欠いている。第一趾は後方に向いて おり、歩行時のバランスをとっている。趾の先端には堅く鋭い鈎爪をみる。距(け づめ)は、雄鶏の脚の後内側面にみられ、骨性の芯を有している。」(平松浩二 2014:32)、 「脚鱗は、明らかに鳥が爬虫類から受け継いだ鱗の痕跡を物語っている。 」 (岡本新2001:37)とのことである。 2. この段落の以上の記述は、 『日本大百科全書(ニッポニカ) 』 ( 「ニワトリ」の項目) 、都築. 政起(2014) 、矢野晋吾(2017)に基づく。 3. 『 故事俗信ことわざ大辞典 第二版』に漢籍類及び西洋での出典が示されていない表現を. 日本のことわざとみなす(俗信・俗説等も除く) 。 4. 「 鶏」に「とり」の読みを付していない場合は「にわとり」と読む。. 5. あし。. 6. あしゆび。. - 10 -.
(4) 鳥は爬虫類から進化したと考えられており、「そのむかし、爬虫類である恐竜た ちが地上で覇権を争っていた時代、小さな恐竜のなかからうろこの代わりに羽毛を もつものたちが出現した。(中略)その後、かれらは大きく発達した羽毛が自分の からだを空中に浮かすことに適していることに気づくようになる。 このできごとは、 羽毛をもつ小さな恐竜たちにとって、今までの生活観を根底から覆す画期的なこと であった。飛ぶことによって得られる自由は、かれらに地上では望めない繁栄を確 実に示唆していた。かれらにとって、より高度な飛翔力を求めることに迷いがあろ うはずはなく、飛ぶために自分の機能を変化させはじめ、しだいに鳥としての位置 をかためていったのである。」(岡本新2001:2-3)とのことである。 (イ)肥えている ① 豪家の門に痩せたる犬無く、農夫の倉に肥えたる鶏有り(権勢のある家の犬は 痩せてなどおらず、また農夫の倉に住む鶏も皆太っている。だれでもそれぞれの 場所で、そこに応じた生活をして、それなりのかせぎをあげていることのたとえ。 ) 鶏を食べることに関しては、近世には卵料理が一般化し、幕末から鶏肉の食用が 「江戸時代、味噌や塩仕立ての汁物として調理されることが多かっ 普及し始めた7。 た鶏肉は、江戸末期までに外食で提供されるようになり、すき焼き式の鶏鍋が主役 になった。そして、牛肉の流行の中で、牛鍋屋と兼業するなどしつつ、展開していっ たのである。」 (矢野晋吾2017:162)とのことである。ちなみに、 焼き鳥に関しては、 「明治時代になって、現在の焼き鳥につながる記録が見られるようになる。 (中略) ここで見る限り、当時8は「焼き鳥」とは呼んでいたものの、使われていた肉は鶏の 内臓肉であったり、あるいは牛肉、馬肉、狗肉と、鶏にこだわらない原材料であっ た。(中略)焼き鳥が料理として売られ始めた頃、その肉は臓物や端肉など、あり 合わせのものであった。そのため、社会的にも評価が高くなく、人によっては目を 忍んで食べるような状況であった。現在、各地のご当地焼き鳥の中には、豚や内臓 肉などを使用しているものもあるが、もともと、「焼き鳥」とは鶏に限ったもので はなかったのである。」(矢野晋吾2017:163-165)とのことである。 ⑵ 行動 (ア)鳴く ① 何処の鶏(とり)の声も同じこと(どこへ行っても同じものは同じで、変わる はずがない。また、人間の本性はどこの国でも同じである。 ) ② 一鶏(いっけい)鳴けば万鶏(ばんけい)歌う(一羽の鶏が鳴くと、それにつ られて他のすべての鶏が鳴く。一人の言動につられて多くの者が付和雷同する。 ) 7. 『 日本大百科全書(ニッポニカ) 』 ( 「ニワトリ」の項目)に基づく。. 8. 明治20~30年代。. - 11 -.
(5) ③ 鶏鳴きて夜深し(思い立ったことの結果の良し悪しの見通しがまだ立たないこ と。思い切って挑戦しているが、なかなか芽を出さず不安に思っている状態。 )9 夜明けを告げて鳴く鶏は神聖な存在と結び付けられやすい。「鶏と太陽神とのか かわりは、東南アジアの原始人から現代人にいたるまで、世界各地で広く伝えられ ている。原始人にとっては、鶏は夜明けを告げるので、闇夜に悪霊を追い払い恵み 豊かな太陽を呼ぶものとして、宗教的畏敬の対象となった。日本でも神話のなかで、 天の岩屋戸に隠れた太陽神の天照大神を引き出すために、思兼神が鶏(長鳴き鶏) を集めて鳴かせたという。このように鶏を鳴かせて太陽を迎えるという考え方は、 インド北東部のアッサム地方のナガ族などの農耕民のあいだに広がっていて、日本 神話の起源について、ひとつの足がかりを与えている。 」 (江口保暢2003:180) ( 、 『古 事記』の天岩戸の神話について)「神話という物語のなかで、沈んでしまった太陽 を復活させるには、鶏という存在が欠かせない要素として描かれている。鶏が声を 上げることによって、初めて太陽が力を取り戻し、東の空から地上を照らす。鶏の 一声で、混沌の世界から、秩序ある世界へと切り替わるのである。」(矢野晋吾 2017:41)とのことである。また、伊勢神宮の式年遷宮では「鶏鳴三声」という儀 式があり、「伊勢神宮の式年遷宮で最も重要な行事、旧社殿から新社殿へ御神体を 移す「遷御の儀」でも鶏は非常に重要な役割を果たしている。(中略)この行事で 重要な儀礼が「鶏鳴三声」である。(中略)神職が「カケコウ、 カケコウ、 カケコウ」 と、鶏の声を三回上げながら、手にした扇を上方から下方へ三回煽ぎ、鶏の羽ばた きのような音を出す。これが終わると、天皇陛下の勅使が出御を告げ、御神霊(御 神体)を捧げた行列が旧社殿から新社殿へと向かい、遷座を行う。この行事は、外 宮では「カケロウ、カケロウ、カケロウ」の三声で、扇の煽ぎ方も下方から上方へ と、反対になる。鶏鳴三声では、長年、鎮座していた御神体が外界に出て新しい社 殿に入っていく際、鶏の声で世界を鎮め、清めるという意味を持つと考えられる。 鶏によって清められた場を、御神体がつつがなく進み、新たな世界が始まるのであ る。」(矢野晋吾2017:43-44)とのことである。 なお、鳥の鳴き声を表す日本語の擬声語は時代とともに変化している。山口仲美 (2008:277-303)によれば、奈良時代以降、カ行音の系統が一般的であり、 「カケ ロ」 「コケコー」などがあり、室町時代から江戸時代にかけてはタ行音の系統の「トー テンコー」などが加わり、明治時代以降、タ行音の系統はすたれ、カ行音の系統の 10. 「コケコッコー」などが使われているとのことである。 「もっとも古いと思われる」. 用例を載せている『日本国語大辞典 第二版 第五巻』 (小学館、2001年)の「こ けこっこう」の項目には、「尋常小学読本(明治三六年) (1903) 〈文部省〉二「を 9. 『 伊勢物語』 (第五十三段)の「簡単に逢えない女にやっとのことで逢って寝物語している. うちに、早くも朝が来て一番鶏が鳴いてしまった」という話に基づく。 10. 『 日本国語大辞典 第二版 第一巻』 (小学館、2000年) 「凡例」7頁。. - 12 -.
(6) んどりは〈略〉はばたきをして、こけこっこーと、なきました」の用例が示されて いる。 ところで、夜明けに最初に鳴く一番鶏は集団内の序列で決まっているそうである。 「夜明け前に最初の「コケコッコー」が聞こえた直後、近くから次々と他の鳴き 声が続くのは、おなじみの光景だ。 だが、おんどりたちは誰が最初に鳴くのかを、どのようにして決めているのだろ うか。 英科学誌ネイチャー(Nature)系オンライン科学誌「サイエンティフィック・ リポーツ(Scientific Reports)」に掲載された、飼育されたニワトリを用いた一連 の実験結果によると、それは集団内の地位で決まっているという。 日本の研究チームは、論文に「最上位のおんどりが常に最初に鳴き始める。続い て下位のおんどりたちが、社会階級の上から順に鳴き声を発する」と記している。 また、最上位のおんどりを集団から物理的に排除すると、第2位のおんどりが最初 の鳴き声を発するという。 おんどりが鳴く行動は、自分たちの縄張りを誇示するための手段と考えられてい る。これにより、好戦的な状況を招く可能性が高い突然の遭遇のリスクを抑えてい るのだという。 ニワトリは非常に社会的で、階層化された動物だ。おんどり同士が初めて遭遇す ると、けんかという昔ながらのやり方で、互いの「つつきの順位(上下関係) 」を 即座に定める。最も力が強い最上位のおんどりから順に、餌、めんどり、ねぐらな どを優先的に獲得できる。」(「おんどりの朝の鳴き声、序列の高い順から 研究」 2015年7月24日 AFP)(「おんどりの朝の鳴き声、序列の高い順から 研究 写 真1枚 国際ニュース:AFPBB News」 http://www.afpbb.com/articles/-/3055386? pid=0)とのことである。 (イ)歩く ) ① 鶏は三歩あるくと忘れる11(すぐに物忘れをする。 このことわざが使われるようになった時期に関しては、「見出しを普通のことわ ざ辞典として初めて取り上げたのが平成一二年の『岩波ことわざ辞典』であった。 その時の記述に最新のことわざとして取り上げたが、読者などからの反響から、も う少し古くからあった可能性が生じた。その後の調査で昭和四〇年ころの福島県の 地方誌に「鶏の三足」の形のものが確認された。文献ではこれ以上に遡れる資料は でてきていない(中略)戦前期のものでも山形・津軽・北海道生まれの親族から耳 にしたという情報が得られたことから、明治期には関東北部から東北一帯にかけて 11. 時田昌瑞(2009:494)より。. - 13 -.
(7) いわれていたことわざであった可能性が強まっている。 」 (時田昌瑞2009:494)と のことである。 鶏が歩く時の首の動きに関しては、「身近な鳥類としてハトやニワトリ、カラス がいますが、これらが他の鳥類と異なるのは歩行の際に独特の動きをする首です。 一体どういう理由からあのような動きをしているのか皆さん考えたことがあると思 うのですが、モノを見るのに有効な動きであるためあのような歩行を行っているそ うです。歩行時に首が激しく動いているものの、実は一瞬“止まっている”時間が あるといいます。この止まっている時間というのは体は前進しているものの首は後 ろ方向に動いているように見える時間で、この時首は地面の動きに対し同期、つま り静止しているためあのようなカクカクとした動きに見えるといいます。ハトにつ いては通常歩行の際、地面と首が静止しているのはわずか20ミリ秒程度なのですが、 この時間で視野に入るものを的確に捉えているといいます。私達哺乳類は移動して いる際、注目しているモノに対し首と目を動かし素早く焦点を合わせ追っているも ののハトやニワトリの場合は哺乳類よりも首が柔軟で長いため首を動かした歩行を 行ったほうが効率的に視野に収めることができるそうです。」(「ハトやニワトリが 首を動かしながら歩く理由:ZAPZAP!」 http://zapzapjp.com/43386262.html) 、 「首を前後左右に振るあの独特の動きは、周りを見ているのだそうです。ニワトリ は眼球運動が出来ないので、目だけで何かを追うことはなく、首全体を動かすので す。ニワトリの目にはもう一つ、私たちと大きく異なる点があります。それは、ま ばたきです。なんとニワトリの瞼は、下から上に動くのです。」(「ニワトリ」 http://www.za2gaku.info/doubutu/ニワトリ/)とのことである。 ちなみに、鶏が「飛ぶ」ことに関しては、「ニワトリは、家禽化の途上で体重増 加などの要因により、その飛行能力を著しく低下させた。しかし、鳥類としての機 能形態をよく留めており、哺乳類家畜とは異なる構造上の特徴が多くみられる。 (平 」 松浩二2014:31)、「鳥類の特徴を飛ぶことについて論じてきたが、実際にニワトリ の生態を観察すると、積極的に飛ぶという習性はあまりみられない。どちらかとい うと、飛べない鳥といったほうが正確かもしれない。しかし、飛翔能力に関する鳥 類本来の体制を受け継いでいることは明らかで、からだをできるだけ軽くするよう な構造と機能を多くもっている。」(岡本新2001:3)とのことである。なお、飛べ ない鳥は「鳥類のなかでダチョウ、エミューなどの走鳥類やペンギン類およびほか の一部の鳥たちは飛翔力をもっていない。しかし、走鳥類は地上をかなりのスピー ドで走る能力に恵まれ、また、ペンギン類は水中を自由に泳ぐことが可能である。 」 (岡本新2001:3)とのことである。鶏はごく短距離であれば飛ぶことはできる。 (ウ)卵を温める ① 鶏の卵(かいご)を温むるが如し(非常に大切にすること。 ). - 14 -.
(8) 鶏の卵に関しては、「白色卵は、白色レグホンの系統間交配によって作出された ニワトリのものである。一方、淡褐色卵は白色レグホンとロードアイランドレッド あるいは横斑プリマスロックの交配によるものであり、また、白色レグホンが関与 せずロードアイランドレッド、横斑プリマスロックおよび白色プリマスロックによ り作出された卵用鶏は褐色卵を生産する。」(岡本新2001:119) 、 「我が国の鶏卵サ イズ規格は、 「畜産物の価格安定等に関する法律施行規則」 に基づき定められており、 卵重によりSS、S、MS、M、LおよびLLの6規格に分けられる。(中略)卵重は採 卵鶏の加齢に伴い大型化するので、消費ニーズに合った鶏卵を生産する必要性が生 じる。(中略)卵黄色の制御は、地域による消費者の好み、あるいは鶏卵中の特定 の栄養成分を高めた鶏卵の特徴付けなどを目的としている。いわゆる黄色から濃橙 色に至るまで、様々な卵黄色の鶏卵が生産されている。 」 (中嶋真一2014:28-29) とのことである。 (エ)水を飲む ① 鶏が水を飲んで天井見るよう(実のない汁を飲むようす。 ) 鶏が水を飲むことに関しては、「鶏は、汗をかきません。そのため、水を飲むこ とで体温調節を行うので、水は切らさないようにします。とくに夏は飲む量が多い ので、注意が必要です。ちなみに大型の鶏が飲む水の量は、1日に300ml(コップ に1ぱい半)ぐらいです。」(「インターネット家畜マガジン“VIEH”」 http:// zookan.lin.gr.jp/vieh/tori/hiyoko_h.html)、「にわとりは、水を口に含み上方を向い て流し込みます。人間のように下を向いたまま飲み込めないようですよ。」(「にわ とりの水飲み~口に水を含み、上を向いて流し込む雌鶏さんたち~」 https:// www.youtube.com/watch?v=BPkvkCsfrRs)、「大部分の鳥は、くちばしを水につ けると一口水にふくみ、次に上を向いてそれを喉に流し込みます。それを何度も繰 り返して水を飲むのです。 」 ( 「平塚市博物館」 http://www.hirahaku.jp/hakubutsukan_ archive/seibutsu/00000059/76.html)とのことである。 (オ)首をかしげる ① 雨降りの鶏(小首をかしげて思案にふけるようす。また、しょんぼりしてやつ れているようす。) (カ)やけどしそうになる ① 鶏が火にくばったよう(鶏がやけどしそうになって鳴き騒ぐようす。慌てて騒 ぐようす。)(「くばる」は「火の中に入る」の意). - 15 -.
(9) 3 鶏に関する各地の俗信・俗説等 鶏に関する各地方の俗信・俗説・諺等も多い。本節では、 それらを例示していく。 関連する情報も随時補う。 (1)夜に鶏が鳴くことは凶事と捉えることが多い。 ① 鶏が夜鳴きをすると凶事がある ② 夜、鶏が鳴けば禍が来る ③ 宵の口に鶏が鳴くと不吉なことが起こる ④ 鶏宵に鳴けば火事あり 鶏の夜鳴きに関しては、(東南アジアでは)「鶏は昼と夜のあいだを仕切る鳥だか ら、鶏の夜鳴きは凶と見る地域があり、日本でさえ、鶏の夜鳴きは縁起が悪いこと が起きると信ずる地域もある。」(江口保暢2003:193)とのことである。 (2)鶏の行動と天気との結びつきが多い。 ① 鶏が朝早くから巣立ちすると天気になる ② 鶏が羽毛をつくろうときは天気 ③ 鶏が遅くまで餌を外で拾っていると明日は雨 なお、「鳥が遅く塒(ねぐら)につくと翌日は雨」「鳥が梢の方に巣を作れば大水 があり、下枝に巣を作れば大風がある」「鳥が巣へ急ぐときは雨」など、鳥の行動 と天気とを結びつける俗信・俗説も多い。 (3)とさかの薬効に関するものもある。 ① 鶏のとさかを食べると早起きをする ② 寝小便には鶏のとさかを食べるとよい とさかに関しては、「鳥類の頭上にある肉質の突起で、肉冠ともいう。ある種の キジ目の鳥などに存在し、代表的なものはニワトリのとさかである。とさかは、い わゆる三次性徴の一つで、その発達は性ホルモンの影響を受け、雄でよく発達して いる。したがって、雄鶏を去勢すると、とさかは退化する。組織的には、外側の表 皮層と数層の真皮層よりなり、通常の皮膚が分厚く隆起したものといえる。色は、 表皮下の血管のために、通常は赤色である。とさかのおもな機能はディスプレーと 種の認識であるが、ニワトリでは単冠、バラ冠、クルミ冠、エンドウ冠などのいろ いろな形態のとさかがあり、遺伝子の単純な支配によって生ずる。」(『日本大百科 全書(ニッポニカ)』「とさか」の項目)、「ニワトリに鶏冠(とさか)があるのは、 オスに顕著に見られることから、メスを誘引する役割があるのではないかと考えら - 16 -.
(10) れています。つまり鶏冠が立派なオスは「かっこいい」というわけです。鶏冠が赤 く見えるのは、鶏冠の皮膚が赤いのではなく、鶏冠に毛細血管が集まっており、そ の部分の皮膚が薄いので、血液の色が透けています。鶏冠の皮膚の色そのものは他 の部分の皮膚と同じです。ニワトリを含む鳥類には汗腺というものがありませんの で、結果的に体温調節の役割も果たしているのかもしれません。」(「姫路科学館・ 昆虫マンガ「カブちゃん」第90話」 http://www.city.himeji.hyogo.jp/atom/wadai/ kabu/kabu90.html)とのことである。. 4 終わりに 鶏は日本人にとって身近な動物である。裸足のような脚や鳴くことなど、鶏の特 徴的な姿形や個々の行動などがことわざに描き出されている。 鶏は、世界中で広く飼われており、 『世界ことわざ大事典』 (柴田武ほか (編) (1995) ) によると、さまざまな言語や文化圏にも「鶏」に関することわざがある。「同じ餌 場で二羽の雄鶏は鳴かぬ(長(おさ)になれるのは一人だけ) 」 (トルコ) 、 「一番よ く鳴く鶏が一番卵を産むわけではない(大口をたたく人間が一番いい業績を上げる わけではない) 」 (南アフリカ)、「鳴いた鶏が卵を産む(「あら、臭いわね。誰がお ならをしたの?」と言う本人が実は犯人だ)」(カンボジア)など鳴いたり卵を産ん だりすることに関することわざもある。また、「まだ鳴いているニワトリを、その まま煮え湯に入れてはならない(裁く前には申し立てを聞かねばならない) 」 (ナイ ジェリア)、「鶏は嫌いでも卵は食べる、鰻は嫌いでもスープは飲む(普段蔑んでい ることや嫌だと言っていることから利益を得る)」(タイ)のように食べるものとし ての鶏に関することわざもある。 以上、本稿では、「鶏」に関することわざを示しながら、 「鶏」に対する見方や捉 え方の特徴を見た。 参照文献 秋篠宮文仁(2000)「鶏――家禽化のプロセス」秋篠宮文仁(編) 『鶏と人』小学館 江口保暢(2003)『動物と人間の歴史』築地書館 岡本新(2001)『ニワトリの動物学』東京大学出版会 北村孝一(編)(2012)『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館 柴田武・谷川俊太郎・矢川澄子(編)(1995)『世界ことわざ大事典』大修館書店 都築政起(2014)「ニワトリの品種と分化」古瀬充宏(編) 『ニワトリの科学』朝倉 書店 時田昌瑞(2009)『図説ことわざ事典』東京書籍 中嶋真一(2014)「日本のニワトリの生産システムの特徴」古瀬充宏(編) 『ニワト リの科学』朝倉書店 『日本大百科全書(ニッポニカ)』(ジャパンナレッジ版) 「ニワトリ」 「とさか」の - 17 -.
(11) 項目 馬場俊臣(2010)~(2017) 「「牛」に関することわざ」 「 「虎」に関することわざ類」 「「兎」に関することわざ」 「「龍」に関することわざ」 「 「蛇」に関することわざ」 「「馬」に関することわざ」 「「羊」に関することわざ」 「 「猿」に関することわざ」 『札幌国語研究』15~22(北海道教育大学国語国文学会・札幌) 平松浩二(2014)「ニワトリの特徴 構造上の特徴」古瀬充宏(編) 『ニワトリの科 学』朝倉書店 矢野晋吾(2017) 『NHKカルチャーラジオ歴史再発見 ニワトリはいつから庭に いるのか 人間と鶏の民俗誌』NHK出版 山口仲美(2008) 『ちんちん千鳥のなく声は 日本語の歴史 鳥声編』講談社学術 文庫(単行本は1989年、大修館書店刊) 付記 本稿は、平成29年度北海道教育大学札幌校公開講座「文学に見られる動物た ち(Ⅺ)―鶏― 第4回 日本語と鶏」(平成29年9月16日)の講演資料の一 部に修正を加えたものである。. - 18 -.
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