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2012年7月16日 博士学位申請論文審査報告書

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2012 年 7 月 16 日 博士学位申請論文審査報告書 

 

早稲田大学大学院経済学研究科  研究科長 須賀晃一殿 

主査 近藤康之(早稲田大学政治経済学術院教授 博士(社会経済)(筑波大学)) 

副査 貞廣彰(早稲田大学政治経済学術院教授 経済学博士(京都大学)) 

副査 堀江康煕(関西外語大学英語キャリア学部教授 博士(経済学)(大阪大学)) 

副査 藪下史郎(早稲田大学政治経済学術院教授 Ph. D.(イェ-ル大学)) 

 

学位申請者:森祐司(2012 年 3 月 31 日退学、指導教員:森映雄) 

学位申請論文:「地域銀行の行動分析:地域経済環境と銀行行動の変容」 

 

審査委員は、上記の学位申請論文について慎重に審査し、申請者に対する口頭試問(2012 年 7 月 13 日)を実施した結果、下記の評価に基づき、同論文が博士学位に値すると判定 し、ここに報告する。 

 

記   

1. 本論文の概要と構成 

本論文は、1990 年代および 2000 年代における地域銀行(地方銀行および第二地方銀行)

の経営行動を実証的に分析することを目的としている。1990 年代のバブル崩壊とその後 の不況、および 1990 年後半から 2000 年代初頭の金融制度改革のために、地域銀行を取り 巻く環境は大きく変化した。このことを考慮して、従来は貸出行動を中心に地域銀行の経 営行動について分析されてきたが、本論文では貸出業務に加えて、証券投資業務、投資信 託の窓口販売業務にも着目している。さらに、株主構造が変化したことにより、地域銀行 の経営行動が一層の収益向上を意識したものへと変化した可能性を検証している。

序章において、データに基づいて時代背景と問題意識を明確に述べたうえで、第 1 章で は、個別行のパネルデータを用いて貸出供給関数を推定し、地域銀行の貸出供給行動に影 響を与える要因について分析している。同章は、以下の査読付き雑誌に掲載された論文を 加筆修正したものである。

 森祐司(2011)「地域銀行と地域経済に関する実証分析」信金中央金庫『信金中 金月報』10 巻 6 号、39~59 ページ。

第 2 章では、地域銀行の証券投資におけるリスクテイクの度合いを VaR(バリューアッ トリスク)により評価し、パネルデータモデルにより証券投資におけるリスクテイクに影 響を及ぼす要因(財務状況や環境条件)について分析している。

第 3 章の前半では、地域銀行による投資信託の窓口販売が拡大した要因について分析を 行っている。さらに後半では、既存業務との範囲の経済性の存在を、収入・費用の両面か ら見た検証している。同章は、以下の査読付き雑誌に掲載された 2 編の論文を加筆修正し

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て再構成したものである。

 森祐司(2008)「地域銀行の投信窓販」早稲田大学『早稲田経済学研究』67 号、1

~40 ページ。

 森祐司(2008)「地域銀行の投信窓販に関する範囲の経済性」日本証券経済研究 所『証券経済研究』64 号、129~147 ページ。

第 4 章は、地域銀行の株主構成の変化により、経営行動が一層の収益向上を意識したも のへと変化したという仮説を、総資産利益率(ROA)を被説明変数とするパネルデータモ デルにより検証している。同章は、以下の査読付き雑誌に掲載された論文を加筆修正した ものである。

 森祐司(2011)「地域銀行における株主構成とコーポレート・ガバナンス」日本 証券アナリスト協会『証券アナリストジャーナル』49 巻 1 号、85~98 ページ。

最後に終章において、論文全体の分析結果のまとめと、今後の展望が示されている。

本論文の構成は以下の通りである。

序章 本論の目的と分析の枠組み 1. はじめに

2. 地域経済環境の変化と地域銀行の行動への影響 2.1. 地域間格差の拡大

2.2. 地域銀行の行動変化

2.3. 地域銀行の収益環境の悪化と収益性志向への変化 3. 本論の目的

4. 本論の構成 参考文献

第 1 章 貸出行動についての分析 1. はじめに

2. 地域銀行と地域経済に関する先行研究 3. 推定モデルの定式化

3.1. 営業地盤と競争条件の影響を考慮した貸出供給モデル 3.2. 貸出における競争条件の影響

3.3. 貸出供給関数の推定モデル 4. 推定結果

4.1. データ及び推定方法

4.2. 推定方法・期間分割・分類について 4.3. 1990 年代についての推定結果 4.4. 2000 年代を対象とした推定 5. まとめと今後の課題

補論 1 推定に利用したデータ 補論 2 推定のための地域銀行の分類 参考文献

第 2 章 証券投資の決定要因

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1. はじめに

2. 地域銀行の証券投資に関する先行研究 3. 地域銀行の証券投資の概要

3.1. 預証率・利回り・資産構成の推移 3.2. VaR によるリスク分析

3.3. 地域銀行の証券投資リスク

4. リスクテイクの分析モデルと推定結果 4.1. 分析モデル

4.2. 1990 年代を対象とした推定 4.3. 2000 年代を対象とした推定

4.4. リスクテイクの総資産額に対する逓増的増加について 4.5. デリバティブ損益絶対額比率を加えた場合の推定 4.6. 推定結果のまとめ

5. まとめと今後の課題 補論 1 推定に利用したデータ

補論 2 VaR の計測方法 1. 証券投資資産の構成 2. 債券資産の満期構成 3. 資産クラス

4. 期待収益率・分散共分散の算出 5. VaR の推定方法

参考文献

第 3 章 投資信託の窓口販売についての分析 1. 地域銀行の投信窓販の論点

2. 銀行による投信窓販の状況 2.1. 銀行による投信窓販の変遷

2.2. 地域銀行による投信窓販拡大の要因 3. 地域銀行の投信窓販の要因分析

3.1. 先行研究

3.2. 地域銀行の投信窓販の要因分析 4. 投信窓販の地域銀行の収益への貢献 4.1. 銀行による投信窓販の意義 4.2. 投信窓販と地域銀行の収益性 4.3. 投信窓販の収益性への寄与

5. 投信窓販に関する範囲の経済性についての分析 5.1. 問題意識と先行研究

5.2. 収入面の範囲の経済性の分析 5.3. 費用面の範囲の経済性の分析 6. 結論と今後の課題

補論1.投信窓販の要因分析のためのデータ

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補論 2.投信業務の ROA への寄与に関する頑健性

補論 3.費用面の範囲の経済性推定における地域銀行の分類 参考文献

第 4 章 株式所有構造から見たコーポレート・ガバナンス 1. 銀行のガバナンス

2. 地域銀行の外部ガバナンスに関する論点 2.1. 先行研究

2.2. 本章の目的と考え方 3. 地域銀行の株主構成 3.1. 株主構成の変遷

3.2. 地域銀行の大株主と銀行行動 4. 実証分析

4.1. エントレンチメント仮説と検定 4.2. 「経営者の意識変化仮説」と検定 4.3. 推定モデルと推定手法

4.4. 推定結果とその解釈 5. まとめと今後の課題 補論 1. データ

1. 未上場の地域銀行

2. 都銀の子会社・関連会社の地域銀行 補論 2. 採用した経営パフォーマンス指標について 参考文献

終章 地域銀行の課題と将来展望

2. 本論文の内容と学術的貢献 

本論文は、地域銀行(地方銀行と第二地方銀行)の経営行動を 1990 年代と 2000 年代と を比較して実証的に分析したものである。分析対象の期間は、1990 年代のバブル崩壊と その後の不況、および 1990 年代後半以降の金融制度改革により、地域銀行を取り巻く環 境が大きく変化した時期であることから、極めて重要かつ興味深い研究課題に取り組んだ 論文である。

序章では、データに基づいて時代背景と問題意識を明確に述べたうえで、本論文の目的 が述べられている。本論文の主な目的は、1990 年代と 2000 年代における地域銀行の経営行 動を、計量経済学的手法(とくにパネルデータモデル等)を用いて実証的に分析すること である。 

我が国の地域銀行は、本店所在地の都道府県を主な営業地域とし、その地域内で店舗展 開を行い、地域密着型の金融サービスを提供してきた。地域銀行を取り巻く経済環境が 1990 年代から大きく変化したことから、地域銀行行動もその影響を受けるようになった。

このことを背景として、地域銀行の貸出業務、証券投資業務、投信窓口販売業務について

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実証分析を行うこと、および地域銀行の動態的行動変化を地域銀行のコーポレートガバナ ンスの視点から検討することの必要性が述べられている。本章における主張の多くは統計 データに基づいており、問題意識と目的が明快に述べられている。 

 

第 1 章では、地域銀行の貸出行動についての分析が行われている。主たる分析は、個別 銀行のパネルデータを用いた貸出供給関数の推定に基づいている。貸出増加率を被説明変 数としたパネルデータモデルにより、次のような結論を得ている。(1)1990 年代には財務状 況の健全化が優先され、景気の回復した 2000 年代までには財務状況が改善されたため、財 務の健全性をあらわす説明変数(自己資本比率)は 1990 年代においては有意であったが、

2000 年代には有意でない。(2)1990 年代には自己資本比率、預金総額、有価証券資産増加率 など、財務の健全性、経営規模および証券投資規模をあらわす説明変数が貸出増加率に対 して有意な影響を与えていたが、2000 年代においては貸出金利などの説明変数が有意とな った。この背景には、地域銀行の経営において収益性がより重視されるようになったこと があると考えられる。

この章の貢献は、1990 年代のみを対象とした先行研究では得られていなかった新しい知 見を得たことにある。すなわち、第 1 章で分析対象とした銀行の貸出業務については多く の先行研究があるが、その多くは、分析対象期間が 1990 年代までであり、クロスセクショ ンデータを用いた分析であった。それに対して、本章では、分析対象期間を日本経済、ひ いては地域経済環境が変化した 2000 年代に拡張し、パネルデータモデルに基づいて、1990 年代(1995~2001 年度)と 2000 年代(2002~2007 年度)とを比較しながら分析がなされて いる。

 

第 2 章では、地域銀行による証券投資の決定要因についての分析が行われている。地域 銀行の証券投資におけるリスクテイクの変動要因を、リスクテイクの度合いをバリューア ットリスク(VaR)によって評価し、パネルデータモデルに基づいて分析したことに特徴の ある研究である。1990 年代と 2000 年代の比較により、リスクテイクに対して影響を与える 要因の変化について、次のような結論を得ている。(1)自己資本比率、総資産規模が大きい ほど、中小企業向け貸出比率が低いほど、証券投資のリスクテイクは高くなる傾向が 1990 年代と 2000 年代に共通に見られた。(2)利回り実績やデリバティブ取引の有無もリスクテイ クに対して影響を与えるが、その影響は 1990 年代から 2000 年代に変化した。

先行研究が主に着目していた預証率だけでなく、VaR を用いてリスク管理の面から地域 銀行の証券投資を分析した本章の研究は、とくに 2000 年代に預証率が高まり証券投資の銀 行経営全体に占める重要度が高まったことからも、意義のあるものと言える。

第 3 章では、地域銀行の投資信託の窓口販売についての実証分析が行われている。銀行 による投資信託の窓口販売(以下、投信窓販)は 1998 年に解禁された。本章は、研究が未 だ進んでいない地域銀行の投信窓販に取り組んだ意欲的研究である。本章の前半では、投 信窓販の拡大要因について分析している。2001~2006 年度の個別銀行のパネルデ-タを用 い、被説明変数を投信預かり残高と投信普及率とした 2 種類のモデルに基づいて、投信窓 販の要因分析を行い、次のような結論を得ている。(1)地域銀行の本業での収益性の代理変

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数である利鞘と預貸率については、地域銀行の投信窓販の決定要因として有意な影響は見 られなかった。(2)地域銀行の財務状態の代理変数である不良債権比率と自己資本比率は、

有意に投信窓販に影響し、財務状態が良いほど地域銀行の投信窓販は増加する。(3)地域銀 行の競争力を示す県内貸出シェアは投信窓販に正の効果持つ。(4)投信業務の収益性を示す 投信業務相対収益率は投信普及率に有意な効果を持たないが、投信預かり残高には概ね正 の有意な効果を持っている。(5)地域銀行の規模を示す預金残高や店舗数は、投信窓販に有 意な影響を及ぼさない。(6) 貸出と預金の両面についての地域内競争環境を示すハーフィ ンダール指数は、負の有意な影響を及ぼしており、地域内の預金・貸出市場が競争的であ るほど、地域銀行は投信窓販を積極的に行う。(7)投信の需要要因としてのリスク調整済み リターンは投信窓販に対して有意な効果を持たない。

本章の後半では、地域銀行の投信窓販による収益性を預貸業務という伝統的業務と投信 窓販という新規業務とを関連付けて、収入面・費用面から範囲の経済性について分析して いる。欧米の銀行業を対象とした関連研究では、一部の例外を除いて範囲の経済性はほと んど観察されていない。日本の銀行業を対象とした先行研究では、範囲の経済性が観察さ れる場合とされない場合に二分されているが、都市銀行を対象とした 1990 年代以前の実証 研究がほとんどであり、投信窓販のような新しい業務は対象とされていなかった。本章の 分析は、2000 年代について、投信窓販に着目したものであり、先行研究との比較という意 味でも大変興味深く意義のある研究である。投信窓販の収入面からの範囲の経済性を分析 するために、トランスログ型収入関数を定式化し、パネルデータモデルに基づく仮説検定 を行っている。その結果、地域銀行全体として範囲の経済性が観察され、とくに都市圏で はなく地方圏に位置する地域銀行、貸出総額が相対的に少ないグループにおいて範囲の経 済性が観察された。さらに、投信窓販の費用面からの範囲の経済性を分析するために、ト ランスログ型の費用関数を定式化し、費用シェア方程式系のパラメータ推定に基づく仮説 検定を行っている。その結果、地域銀行の投信窓販業務と貸出業務とのあいだに範囲の経 済性が観察された。

この章の貢献は、1998 年に解禁された投資信託の窓口販売という、銀行業にとって比較 的新しい業務を、先行研究でも検討されてきた範囲の経済性という観点から検討したこと にある。著者も述べている通り、我々の知る限り、本章の研究は投信窓販と伝統的業務と のあいだの範囲の経済性を検証した初めてのものである。地域銀行をその立地に関して都 市圏と地方圏というグループに分類したり、貸出総額の多寡によって上位行と下位行とい うグループに分類したりするなど、地域銀行全体に同一の収入・費用関数を想定すること の妥当性にも注意が払われている。その結果、範囲の経済性についてグループごとに若干 異なる結果が得られるなど、今後のさらなる研究の進展の期待される研究課題を見出して いる点にも貢献が見られる。 

 

第 4 章では、地域銀行の株式保有構造から見たコーポレートガバナンスについての実証 分析が行われている。1990 年代までは地域銀行の大株主は主に都銀、長信銀や生命保険会 社であったが、1990 年代末から地域銀行の株主構成が変化し始め、外国人投資家、年金基 金や投資信託が機関投資家として登場してきた。本章では、この株主構成の変化が地域銀 行経営者に対する規律付けに与える効果を 2 つの仮説として分析している。第 1 の仮説は、

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都銀・長信銀・地銀という銀行株主が大株主である地域銀行は、エントレンチメント効果 のために経営者に対する規律付けメカニズムが作用せず、そうでない銀行と比べて経営パ フォ-マンスが悪くなる、というものである。第 2 の仮説は、外国人投資家や信託口(年 金基金と投資信託)という機関投資家の持ち株比率が高い地域銀行の経営パフォ-マンス は、そうでない銀行よりも高い、というものである。パネルデータモデルを用いた統計的 仮説検定により、次のような結論を得ている。(1)都銀、長信銀、地域銀行等の銀行株主が 地域銀行の安定株主であった 1990 年代においては、ROA で測った地域銀行の経営パフォー マンスは、銀行による株式所有比率が高いほど低く、エントレンチメント効果が見られた。

しかし、2000 年代になると、銀行株主が地域銀行株式を売却し、大株主でなくなったこと から、エントレンチメント効果は限定的なものとなった。(2)外国人投資家や年金基金、投 資信託など機関投資家による株式所有比率が高くなった 2000 年代には、議決権行使等で株 主が経営者を牽制する事例が増加したこともあり、これらの株主による所有比率が高いほ ど経営パフォーマンスが良いことが観察された。同様の効果は、1990 年代にはほとんど見 られなかった。したがって、2 つの仮説がおおむね支持されるとの結論を得ている。

この章の貢献は、1990 年代を比較の基準として、地域銀行の株主構成が大きく変化した 2000 年代における株式保有構造と経営パフォーマンスとの関係を分析した点にある。先行 研究でなされた議論は、1990 年代までの銀行株主が大株主として固定的であったことを前 提に成立したものであったと言える。その前提条件が大きく変化した 2000 年代について、

地域銀行のガバナンスを再考した点は、本章の大きな貢献である。とくに、長引く不況の 中で環境変化に翻弄され、経営の方向性が定まらなかった地域銀行を分析対象としたこと で、先行研究にはない興味深い示唆に富んだ分析がなされている。 

 

終章では、各章で得られた結果を総括し、今後の展望が示されている。 

 

3. 予備審査における修正要求への対応 

いくつかの点を改善あるいは修正することが要求されたが、以下に述べるように、すべ ての要求に対して適切な対応がなされた。 

本論文全体について望まれる主な改善・修正は 2 点あった。まず、各章がそれぞれ独立 した分析となっており、重複する記述があるので、地域経済環境の変化とその要因や、そ れが銀行行動に及ぼす影響、および筆者の地域銀行ビジョンを序章の中で述べる方が良い との指摘がなされた。この指摘への対応として、筆者の地域銀行ビジョンを含む問題意識 および時代背景について、データに基づいた明快な説明が序章に追加された。さらに、各 章の推計式の導出にあたり、著者の理論的見解をより明確に示すべきであるとの指摘に対 応して、各章の記述が適切に改善された。 

第 1 章について望まれる主な改善・修正は 2 点あった。まず、貸出供給関数の導出に際 し貸出需要関数を考慮していないとの指摘に対して、これを定式化し、推定に際して操作 変数を用いることで適切に貸出供給関数についての推論を行うように改善された。さらに、

一部の説明変数について、それを採用した理由・採用しない理由が説得的でないとの指摘 があった。それに対応して、外生変数と見なし得る理由、および代理変数を採用している ことなどの説明が適切に追加された。 

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全体の構成として、第 2 章と第 3 章を入れ替えるべきとの指摘があり、それに従った改 訂がなされた。改訂後の第 2 章について望まれる主な改善・修正は 3 点あった。第 1 に、

地域銀行のリスクテイキングとその財務の健全性との関係を、銀行のモラルハザードにつ いての考慮を含めてより詳細に考察すべきとの指摘に対して、不良債権比率が高いほど証 券投資のリスクテイクが高くなるという傾向がある反面、自己資本比率が高い地銀ほどリ スクテイクが高くなることから、モラルハザードの問題との解釈は留保が必要であるとの 説明が、2.4.6 節に追加された。第 2 に、本論文の他章で取り扱っている貸出や投信窓販に もリスクが存在するにもかかわらず、本章で証券投資リスクのみを取り上げて VaR 分析し ていることについて、すなわち、銀行行動全体でのリスクに関し VaR 分析が行われていな いことについて、その理由を明らかにすべきと指摘されていた。それに対して、本章の主 たる目的は銀行のリスク分析ではなく、証券投資業務の分析であるとの説明を追記するこ とにより、本章の位置付けが明確にされた。また、銀行業務全般について VaR 分析するに は、データ整備の問題なども含めて今後の検討課題であるとの説明も追記された。第 3 に、

VaR の差は証券種類によって発生し、有価証券の構成比の変化の作用が重要となると考え られるので、このことに関連する言及をすべきとの指摘に対して、VaR に差の生じる理由 を明確にするには、計測方法の詳細な説明が必要となることから、本章に補論 2 を新たに 設けて説明が追加された。

改訂後の第 3 章(予備審査時の論文では第 2 章)について望まれる主な改善・修正は 3 点あった。第 1 に、地域銀行の投信窓販業務の比重を明記する必要があるとの指摘に対し て、預金総額に対する比率としてデータに基づいた記述が追加された。第 2 に、収入面の 範囲の経済性が発生する理論的根拠の丁寧な説明が求められるとの指摘に対して、5.2.1 節 の冒頭に、範囲の経済性の定義などについて、より充実した説明が追記された。第 3 に、

収益力の高い地域銀行が投信窓販を促進するという逆因果性が存在しないか検討すべきと の指摘に対して、補論 2 に適切な議論が追記された。

第 4 章について望まれる主な改善・修正は 2 点あった。まず、仮説 2 に関連して、外国 人投資家や信託口(年金基金と投資信託)という機関投資家の地域銀行株式の取得行動の 分析を加えることで逆因果性の問題への対処をすべきであるとの指摘に対して、4.2 節を新 設して議論が追記された。さらに、ガバナンスに関する先行研究で分析対象とされてきた 株価ではなく、収益性を取り上げていることに対する著者の見解を明確にすべきとの指摘 に対して、経営者や機関投資家が意識する指標として ROA が妥当である理由を詳細に述べ るために本章に補論 2 が追加された。

終章に対して、論文全体を総括し、各章の末尾に記されている今後の課題を整理した記 述をすべきとの指摘に対して、適切な改訂がなされた。

また、推定期間の区分(1990 年代と 2000 年代)、地域銀行の所在地に基づく分類類型

(都市圏・地域圏)、地域銀行の規模に基づく分類類型(貸出総額で分類した上位行・下 位行)を、論文全体に共通のものに変更して、多くの推定とそれに基づく仮説検定等が新 たになされている。これにより、議論の一貫性が大いに向上した。

本論文は、地域銀行の経営行動とガバナンスについて、バランス良く選定されたテーマ

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について実証分析を行ったものである。ただし、地域銀行の経済環境との対応をより詳し く考慮した分析、地域銀行の経営全般についてのリスク分析、経営の悪化した地域銀行を 他の大手銀行が子会社化・関連会社化して救済した事例も考慮したガバナンス分析などは、

分析の及んでいない重要な研究課題として残る。しかしながら、このことは本論文の価値 を大きく減じるものではなく、本論文によって見出された、将来の発展が期待される有望 な研究課題と見なされるべきであろう。

本論文は、地域銀行の経営行動を実証的に分析したものである。分析対象の期間は、

1990 年代のバブル崩壊とその後の不況、および 1990 年代後半以降の金融制度改革により、

地域銀行を取り巻く環境が大きく変化した時期であることから、重要かつ興味深い結論を 導いている。計量モデルの導出に際しての経済理論的考察も適切になされている。とくに、

先行研究では考慮されていなかった 2000 年代を中心として実証分析を行ったこと、それ を 1990 年代の結果と比較検討したこと、投資信託の窓口販売業務と伝統的業務とのあい だの範囲の経済性を初めて検証したことなど、高く評価されるべきものである。したがっ て、博士学位に十分に値するものと判定する。

以 上 

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