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博士(水産学)征矢野学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 水 産 学 ) 征矢 野 学 位 論 文 題 名

サケ科魚類雌の性成熟に及ぼす甲状腺ホルモンの作用に関する研究

学位論文 内容の要旨

  一般に硬骨魚類の 卵巣卵の発達は,生殖腺刺激ホルモン(GTH)の働きと,その刺激により 合成・分泌された性ステロイドの働きにより進行するが,この過程には他の様々な内分泌要因も また関与している。甲状腺ホルモンもそのーっと考えられるが,魚類の卵巣発達と甲状腺ホルモ シとの関連を示唆する報告はこれまであまりにも断片的であり,その作用機構も未だ明確ではな い。本研究では,サケ科魚類の性成熟に関わる甲状腺ホルモンの働きを解明する目的で,サクラ マス〇ncorhynchus masouの卵巣発達に伴う甲状腺ホルモン(thyroxine,T4;triiodothyro‑

nlne,Tヨ冫,estradiol―17ロくE2),17d,20p ‑ dihydroxy―4―pregnen―3―one(DHP)お よびvitellogenin(VTG)の血中量の変化を測定 するとともに,サクラマスおよびニジマス

〇ncorhynchus mykissの卵濾胞における甲状腺ホルモンの代謝および特異的取り込みを調ベ,

卵濾胞組織の甲状腺ホルモンの標的細胞としての可能性を検討した。また,サクラマスの卵濾胞 における甲状腺ホルモンの特異的取り込み率の季節変化を調ベ,卵巣における甲状腺ホルモンの 作用時期を検討した。さらに、生体外培養法を用いて,卵濾胞におけるステ口イド合成および最 終成熟に及ぼす甲状腺ホルモンの影響を調べた。これらの研究に加えて,甲状腺ホルモンの卵発 達に関わる諸作用が魚類一般に共通する現象であるか否かを検討するため,生殖様式の異なるメ ダカ〇ryzias latipesを用いて,血中T4,T3およびE2量の日周変化を測定するとともに,卵 発達段階の異なる卵濾胞にっいてステロイド合成に及ぼす甲状腺ホルモンの影響を調ベ,さらに 産卵環境が卵の最終成熟を誘導するアユPlecoglossus altivelisを用いて,産卵環境への移行に 伴 う 血 中T4量 の 変 化 を 測 定 す る と と も に 最 終 成 熟 に 及 ぼ すT3の 影 響 を 調 べ た 。   サクラマスのT4お よびT3の血中量は,卵黄形成開始前の3月にピークを示した後,E2およ びVTGの血中量が上 昇する卵黄形成期には低値を 維持し,血中DHP量が上昇する最終成熟期 から産卵期にかけてさらに減少した。このことから,甲状腺ホルモンの血中量の上昇が卵黄形成 開始期の卵巣のGTHに対する感受性を高めている可能性が示唆された。しかし,血中ホルモン 量の挙動のみからその特定の作用を推定することは困難であるため,卵濾胞を用いた生体外実験

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によってその検討を行った。

  二ジマスの卵濾胞細胞層では,莢膜細胞層と顆粒膜細胞層のいずれにおいてもT4からTaへの 代謝が観察された。しかし,莢膜細胞層では培養24時間後のT3代謝量が顆粒膜細胞層のそれの3.5 倍と高く,T4からT3への代謝が主に莢膜細胞層で行われることが確かめられた。また,T3は 莢膜細胞中よりも培養液中に多量に存在しており,細胞内に取り込まれたT4が直ちにT3に代謝 されて細胞外ヘ放出される可能性を示した。また,サクラマスおよびニジマスの卵濾胞細胞層が 甲状腺ホルモンを特異的に取り込むことが明らかにされた。この特異的取り込みは莢膜細胞層で 顕著であり,顆粒膜細胞層では認められず,莢膜細胞層がT3の特異的取り込み機構を持ち,甲 状腺ホルモンの標的細胞としての特徴を有することが初めて明らかにされた。さらに,サクラマ スの卵濾胞における甲状腺ホルモンの特異的取り込み率は,血中甲状腺ホルモン量が最も高かっ た卵黄形成開始前の3月中旬に最高値を示した。これらのことから,甲状腺ホルモンが卵濾胞に 直 接 作用 し て卵 黄形 成の 開始 に 何ら かの 役割 を 担っ てい る可 能性 が 強く 示唆 され た。

  卵巣における甲状腺ホルモンの生理作用のーっとして,性ステ口イド合成との関わりを検討し た。まず,卵黄形成期のサクラマスおよびニジマスの卵濾胞にTヨを添加して生体外培養を行つ たところ,Ta単独ではprogesterone(P),testosterone(T)およびE2の合成を高める効果 は認められな かったが,サケ生殖腺刺激ホ ルモン(GTH)の存在下ではT』はPおよびTの合成 を促進した。さらに,卵黄形成期のニジマスの卵濾胞細胞層を莢膜細胞層と顆粒膜細胞層とに分 離し,Tヨを添加して同様の培養を行ったところ,T3は莢膜細胞層のP合成のみを高めた。この ことから,T3は卵黄形成期には莢膜細胞層 のGTHに対する感受性を高め て,Pまでのステ口 イド生合成を促進する可能性が示唆された。次に最終成熟期のサクラマスおよびニジマス卵濾胞 をT3を 添加 して 生 体外 で培 養し たと こ ろ,T3単独で はDHP合成および卵核胞崩壊(GVBD)' を 高 め る 効 果 は 認 め ら れ な か っ た が , サ ケGTHの 存 在 下 で はT3のDHP合 成お よびGVBD の 促進 効果 が観 察 され た。 しか し,T3のDHP合 成促 進効 果とGVBD促進効果は必ず しも一 致しなかったことから,卵濾胞におけるT3の作用にっいては複数の機構が存在する可能性が示 唆された。

  サケ科魚類 とは生殖様式の異なるメダカのT4およびT3の血中量はE2のそれと同時に上昇を 始め,E2がピ ークを示す4時間前に最高値に違して,甲状腺ホルモンがメダカにおいても卵黄 形成期の卵発達に作用している可能性を示した。また,甲状腺ホルモンの血中量は,卵黄形成期 のみならず最終成熟期にも高値をとり,甲状腺ホルモンの最終成熟への関与を強く示した。さら に,発達段階 の異なるメダカ卵濾胞にT3を添加して生体外で培養したところ,T3は単独では

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Ez合成 を 高 め な かっ た が , 妊 馬血 清 性 生 殖 腺 刺激 ホ ル モ ン (PMSG)の 存在 下で卵 濾胞に おけ るEz合 成 を 促 進 し た 。 こ の こと か ら , 甲 状腺 ホ ル モ ン は メダ カ 卵 濾 胞 でのE2合 成 に関 す る GTHの作用 を高め るこ とが示 唆され た。

  一方 , ア ユ 雌 の血 中T4量 は産 卵 環 境 へ の移 行 後3日目 に上昇 したが ,非産 卵環境 の群 では全 く 変 化を 示 さ な か っ た。 また ,アユ 雌へのT3の投 与のみ では最 終成 熟およ び産卵 は誘起 され な か っ た が ,T3処 理 個 体 の 卵 巣 を 生 体 外 でDHPと 共 に 培 養 し た と こ ろ , 卵 母 細 胞 のGVBDが 促 進 され る 傾 向 が 強 く認 め ら れ ,T3が ア ユ の 卵母 細 胞 に 直 接作 用 しDHPに 対 す る 反 応性 を 高 め る 可能 性 が 示 唆 さ れた 。さ らにT3処理個 体は雄 の臭い に反応 して 高い排 卵率を 示し,T3は雄 性フ ェ口モ ンに対 する 雌の感 受性を 高める 作用 を持っ と推定 された 。

  以上 の結 果より ,本研 究に用 いた魚 種で は卵巣 が甲状 腺ホル モン の標的 器官であり,特にサケ 科魚 類では 莢膜細 胞層 がその 主要な 標的細 胞で ある可 能性が 高いと 結諭さ れた。また,卵濾胞に お け るT3の 作 用 はGTHの 作 用と 密 接 に 関 連し て い る こ とが 明 ら か に され た 。T3の卵 濾 胞 に お ける ステ口 イド合 成促 進効果 は魚類 一般に 共通 の作用 のよう に思わ れるが ,魚種や卵巣卵の発達 段階 により その効 果に 相違が みられ ること から ,卵巣 卵の発 達段階 や生殖 様式の相違を考慮にい れた より詳 細な実 験解 析が必 要であ ると考 えら れる。

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査

教 授 教 授 助 教授

高橋 山崎 山内

裕哉 文雄 晧平

  魚 類 の性 成 熟 の 進 行 には , 脳 下 垂 体か ら の 生 殖 腺刺 激 ホ ル モ ン(GtH) および 生殖腺 からの 性 ホルモ ンが 主要な 役割を 演ずる ことは 周知 の事実 である が,そ れ以 外の内分泌要因も相乗的な い し許容 的な 作用を 持っこ とが想 定され てお り,そ れにっ いても 多様 な面からの研究がなされて い る。申 請者 の研究 はそれ らの因 子のー っと して甲 状腺ホ ルモン (サ イ口キシン,T4;トリヨー ド サ イ 口 ニ ン,T3) に 着目し ,そ の作用 の場を 卵巣と する 作業仮 説の下 に,主 にサケ 科魚 類の 単 回 産 卵 型 の サ ク ラ マ ス ( 〇ncorhynchus masou) およ び 多 回 産 卵型 の ニ ジ マ ス( 〇 凡 . corhynchus mykiss)の 卵濾 胞 に お け る性 ス テ ロ イ ド 合成 と 最 終 成 熟に 及ばす 甲状 腺ホル モン

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の影 響を明 らかに した もので ある。 さらに 本研 究では 排卵が 光周期 と同期 して 起こるメダカ科の メダ カ(〇ryzias latipes), および 排卵の 誘起が 特異的 産卵 環境と雄の存在に依存するアユ科の ア ユ(Plecoglossus altivelis) にっ いても ,同様 な観点 から の実験 的研究 がなさ れ,性 成熟 に 関連 する甲 状腺ホ ルモ ンの作 用の硬 骨魚類 一般 への普 遍化の 可能性 が検証 され ている。本研究で 得 ら れ た 知 見 の う ち , 審 査 委 員 一 同 は 以 下 の 諸 点 を 特 に 高 く 評 価 し た 。   先ず ,本 研究で はサケ 科魚の 卵濾胞 の構 成要素 のうち ,特に 莢膜 細胞が 甲状腺 ホルモンの標的 組 織 とし て 初 め て 特 定さ れ て い る 。す な わ ち 生 体外 で 培 地 に 添加 さ れ た 産 生型T4の活性 型T3 への 代謝量 は莢膜 細胞 層では 顆粒膜 細胞層 に比 して3.5倍と高 く, しかも 莢膜細 胞内に取り込ま れ たT4は 直 ち にT3に 代 謝 さ れて 細 胞 外 に 放出 さ れ る こ とが 示 唆 さ れ た 。ま た 卵濾胞 細胞層 に は 放 射性T3の 特 異的 取 り 込 み があ り,そ れが莢 膜細胞 層で 顕著で 顆粒膜 細胞層 では 認めら れな いこ とを実 証した 。

  甲状 腺ホ ルモン の卵濾 胞にお ける生 物作 用を解 析する ため, サク ラマス 雌の性 成熟に伴う甲状 腺 ホ ルモ ン の 血 中 量 の変 動 を 追 跡 して ,T3お よびT4の 血中 量 が 卵 黄 形 成開 始 前にピ ークを み せ, 卵黄形 成盛期 に相 対的に 低い値 を保っ たの ち卵黄 形成完 了後に さらに 滅少 することを明らか にし た。生 体外で の卵 濾胞に よる甲 状腺ホ ルモ ンの特 異的取 り込み 率も血 中甲 状腺ホルモン量の 変動 と一致 する推 移を みせた ことか ら申請 者は ,甲状 腺ホル モンが 卵濾胞 に直 接作用して卵巣の GtHに 対 す る 感 受性 の 増 大 や 肝臓 に お け る ビテ ロ ゲ ニ ン産 生細胞 の増数 を刺激 する 可能性 につ いて 論及し ている 。

  また 卵濾 胞の重 要な機 能のー っであ る性 ステ口 イド産 生に対 する 甲状腺 ホルモ ンの作用を生体 外 実 験 で 追 及し た 結 果 ,T3は サ ケGtHの 存 在 下 での み サ ケ 科 魚の 卵 濾 胞 莢 膜細 胞 層 に お ける プ 口 ゲ ス テ 口ン の 合 成 と 卵核 胞 崩 壊 (CVBD)を 促進 す る こ と を確 証 し ,T3が 莢 膜 細 胞 層の . GtHに 対 す る 感 受性 を 高 め て ステ 口 イ ド 合 成, さ ら に は卵 母細胞 の最終 成熟誘 起機 構に関 与す る可 能性を 考察し てい る。

  繁殖 期 に 光 周 期と 同 期 し て 連日 の産卵 を行う .メダ カで はT3とT4の血中 量は次 回の産 卵前の 36時間 前と12時間前 の卵母 細胞 の卵黄 形成期 にピー クをみ せる のみな らず, その最 終成熟期にも 相対 的に高 値をと り, 甲状腺 ホルモ ンの卵 母細 胞最終 成熟へ の関与 を強く 示唆 した。またエスト ラ ジ オ― ル (E2)の 血 中 量 は 甲状 腺 ホ ル モ ン のピ ー ク のそれ ぞれ4時間 前にピ ーク をみせ た。

事 実 , 生 体 外 で はT3はGtHの 存 在 下 で 産 卵 前32時 間 の 卵濾 胞 に お け るE2の 合 成 を促 進 す る こと が立証 され, これ を論拠 に甲状 腺ホルモンと性ステ口イド合成との関わりが強調されている。

ま た アユ で はT3が卵 母 細 胞 に 直接 作用し て,そ の卵成 熟誘 起物質 に対す る反応 性を 高める 可能

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性が生体外実験により確かめられていると共に,T3投与雌のみを収容した水槽に成熟雄の飼育 水を注入すると排卵率が対照雌に比して有意に上昇することを実証して,甲状腺ホルモンがアユ 雌の雄性フ ェ口モンに対する感受性を高める可能性にっいて興味ある論議を展開している。

  以上のように本研究は,魚類の卵巣が甲状腺ホルモンの標的器官のーっであり,特に卵濾胞の 莢膜細胞がその主要な標的部位として甲状腺ホルモンの作用下でGtHの効果の増強をみせるこ とを初めて指摘するなど,甲状腺ホルモンの魚類の生殖機構との関係に多くの新知見を加えたも のとして高く評価できる。よって審査員一同ば本研究が博士(水産学)の学位を受けるに充分な 内容を持っと判定した。

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参照

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