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フルオキセチンは情動ストレスによる三叉神経脊髄路核尾側亜核・上位頸髄部での咬筋侵害応答の増強を抑制する

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Academic year: 2021

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学 位 研 究 紹 介

学 位 研 究 紹 介

【目   的】

 心理ストレス(ストレス)は痛みを増大する。そのた め顎顔面部の慢性痛の診断・治療では,患者の持つスト レスが病態にもたらす効果を評価し,適切な対応をとる ことが重要である。脳神経科学的にストレス発生と痛み の情報処理には共通の脳領域が関与するため,ストレス と痛みは密接に関係するとされる。脳幹にある三叉神経 脊髄路核尾側亜核(Vc)は顎顔面部など三叉神経領域 の侵害応答の処理において重要な部位である。過去の動 物実験により,ストレスによる顎顔面部の侵害応答(痛 み)の増大は,Vc の興奮性の変化が関係することがわ かっている。よってストレスを制御することで Vc の興 奮性の変化を抑制することは,顎顔面部の慢性痛の軽減 へとつながることが考えられるが,詳しいメカニズムは わかっていない。  ストレスにより発症するうつ病の原因の1つに,脳内 セロトニン機能低下があるとされる。その治療に用いら れる抗うつ薬の1つであるセロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)は脳内セロトニン機能低下を代償することで抗 ストレス効果をもたらす。  そこで本研究の目的は,顎顔面領域の1つの咬筋を対 象に,ストレスおよびその軽減が三叉神経脊髄路核尾側 亜核(Vc)での咬筋侵害応答に与える影響を,抗スト レス効果を持つ SSRI を用いて,以下の3点を調べるこ とで明らかにすることである。 1)‌‌ストレスによって引き起こされるうつ様行動‌(スト レス応答)‌に対する SSRI 投与効果 2)ストレスが Vc での咬筋侵害応答へ及ぼす影響 3)SSRI 投与が Vc での咬筋侵害応答へ及ぼす影響

【方   法】

 雄ラットにストレス処置(強制水泳ストレス:FST)(10 分間 / 日×3日)または非ストレス処置を行った。FST 処置中の非水泳時間をうつ様行動(ストレス応答)の指 標とした。各ストレス処置の 30 分後,フルオキセチン (SSRI)( 1 mg/kg/ 日)または生食水を腹腔内投与した。 以上の処置を実施した翌日,全身麻酔下,左側咬筋へ侵 害刺激(5%ホルマリン,0.02‌ml)を行い,2時間後, 灌流固定を行った(図1)。Vc 部での咬筋侵害応答は, 神経興奮のマーカーである Fos タンパク(Fos)の発現 を免疫組織化学的に同定し,陽性細胞数を計測すること で定量評価した。Vc における Fos 発現は,顎顔面部侵 害受容に重要な役割を担うことが示されている Vc と頚 髄の移行部‌(caudal-Vc 部)で定量評価した。

【結   果】

1)‌‌ストレス処置によるうつ様行動‌(ストレス応答)に 対する SSRI 投与効果  FST 処置により有意に非水泳時間が延長したが, SSRI の連日投与群では非水泳時間の延長を認めなかっ た(図2)。 2)‌‌ストレス処置が Vc 部での咬筋侵害刺激による Fos 発現におよぼす影響

フルオキセチンは情動ストレスによる三叉

神経脊髄路核尾側亜核・上位頸髄部での

咬筋侵害応答の増強を抑制する

Inhibitory effects of fluoxetine, an

antidepressant drug, on masseter

muscle nociception at the trigeminal

subnucleus caudalis and upper

cervical spinal cord regions in a rat

model of psychophysical stress

新潟大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面口腔外科学分野 中谷 暢佑 Division‌of‌Oral‌and‌Maxillofacial‌Surgery,‌Niigata‌University‌ Graduate‌School‌of‌Medical‌and‌Dental‌Sciences Yosuke Nakatani 65 図1 実験プロトコール

(2)

新潟歯学会誌 49(2):2019 - 20 - 66  ストレス群では非ストレス群と比較し,caudal-Vc 部 で咬筋侵害刺激による Fos 陽性細胞数の有意な増加を 認めた(図3)。 3)‌‌SSRI が Vc 部での咬筋侵害刺激による Fos 発現に およぼす影響  ストレス群への SSRI の連日投与は,caudal-Vc 部に おいて,咬筋侵害刺激による Fos 陽性細胞数を有意に 減少させた。一方,非ストレス群では,SSRI の連日投 与は咬筋侵害刺激による Fos 陽性細胞数を変化させな かった(図3)。

【考   察】

 Vc は顎顔面部の侵害情報を上位脳へ中継する部位だ けでなく,上位脳からの下行性制御を受ける部位である。 よって顎顔面部の侵害情報を処理する上で,重要な役割 を担っている。また先行研究により Vc の興奮性の変化 が顎顔面部の痛みの増大に関連することが示されてい る。本研究では,Fos の発現を指標に,ストレスが,咬 筋侵害刺激による Vc の興奮性を増大することを明らか にした。つまりストレスによる咬筋痛の増大は,Vc の 興奮性増大を基盤とすることが明らかとなった。さらに, 脳神経系のセロトニン機構の変化はストレスによるうつ 状態の基盤であることから,ストレスによる Vc を興奮 させるメカニズムとしてセロトニン機構の関与に着目し た。そしてストレス軽減がストレスによる侵害応答の増 大を軽減すると予想し,SSRI を投与したところ,スト レス応答(うつ様行動)は軽減し,Vc 部での咬筋侵害 応答を低下させることを示した。非ストレス群では‌ SSRI 投与による Fos の発現に変化を認めなかった。つ まりストレス状態でのセロトニン機構の変調が,Vc 部 での Fos 陽性細胞数の増加に関与することが考えられ た。

【結   論】

 心理ストレスは,セロトニン機構を含む脳神経系の機 能を変化させることで,Vc の興奮性を増大させ,Vc で の咬筋侵害応答の増大を引き起こすことが示唆された。 図2 ストレス処置によるうつ様行動に対する影響および SSRI 投与効果の結果 図 3 ストレス処置が Vc 部での Fos 発現におよぼす影響お よび SSRI 投与効果についての結果

参照

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