博 士 論 文 概 要
全文
(2) 伊豆半島の西部,達磨山〜長九郎山にかけての一帯には,鮮新世〜更新世の火 成活動に伴う酸性変質帯が断続的に広く分布する。同地域では,浅熱水性の珪石 鉱床として知られる宇久須珪石鉱床をはじめ,深田,船原,仁科などの明礬石鉱 床 が 知 ら れ て い る 。 こ れ ら 酸 性 変 質 帯 に 産 す る 明 礬 石 の 多 く は K-Na 固 溶 体 系 列 で あ る が , Ca の 固 溶 体 系 列 (ミ ナ ミ 石 , フ ー ア ン 石 )も 産 出 す る 。 明礬石は,酸性変質帯に普遍的に産する鉱物であるが,その化学組成には一般 に広い幅があり,生成条件を反映していると考えられている。特にマグマからの 発散物に由来する上昇熱水から生成した明礬石は,同一産地でも広い組成の幅が あ り , 一 般 に 複 雑 な 成 長 組 織 を 示 す 。 そ の 一 方 , H2S に 由 来 す る 硫 酸 酸 性 環 境 下 で 生 成 し た 明 礬 石 は ,そ の 組 成 が 明 礬 石 - ソ ー ダ 明 礬 石 固 溶 体 系 列 に 限 ら れ る 。こ のように明礬石の産状や組成の多様性は,変質作用をもたらした熱水の挙動を反 映しているが,その成因や生成条件の知見は,熱水の活動やその変遷を知るため の重要な手掛かりとなり得る。このような観点から本研究では,伊豆半島西部に おいて鉱物学的,地化学的分析を行い,組成の多様な明礬石について記載すると ともに,同地域の熱水活動の変遷について検討したものである。本論文は9章か ら構成され,各章の概要は以下の通りである。 第 1 章は序論である。本研究に関わる背景および研究目的を述べ,本論文の構 成を示した。 第 2 章では明礬石型の結晶構造を持つ鉱物の分類について述べている。明礬石 型 の 結 晶 構 造 を も つ 鉱 物 は , 一 般 に MR3(XO4)2(OH)6 の 理 想 構 造 式 を も ち , 三 方 晶 系 で 空 間 群 R ‐ 3 m に 属 す る 含 水 硫 酸 塩 鉱 物 ,燐 酸 塩 鉱 物 お よ び 砒 酸 塩 鉱 物 で , 明礬石群,ビューダン石群およびクランダル石群に分けられる。鉱物種は全体で 50 前 後 に 及 ぶ が , こ れ ら の 中 で 最 も 普 遍 的 に 産 す る の は , 明 礬 石 群 に 属 し M サ イ ト を K お よ び N a が 占 め る 明 礬 石 - ソ ー ダ 明 礬 石 固 溶 体 系 列 で あ る 。本 研 究 に お い て は 特 に Ca を 含 む 明 礬 石 群 の 鉱 物 の 産 状 お よ び 組 成 に 着 目 し て い る が , こ れ は 1 9 8 2 年 に 群 馬 県 奥 万 座 温 泉 に お い て 初 め て 記 載 さ れ( ミ ナ ミ 石 ),そ の 後 1 9 9 2 年に南米チリのエルインディオ金銀銅鉱床において記載された明礬石鉱物(フー ア ン 石 ) が Ca 端 成 分 と さ れ て 鉱 物 種 名 が 変 遷 し て き た 歴 史 的 経 緯 に よ る 。 第 3 章で は伊 豆半 島西部 の地 質お よ び変質 帯の 概略 に ついて 述べ てい る 。伊 豆 半島の西部には,半島の西列を構成する第四紀の火山群(北から順に大瀬崎,井 田,達磨,棚場,猫越,長九郎)が南北に連なる。その基盤をなすのは,下位よ り第三系中新統仁科層群,湯ヶ島層群,白浜層群で,これらは鮮新統内浦安山岩 類,狩野安山岩類,小下田安山岩類,須原安山岩類によって不整合に覆われる。 本地域の基盤岩類中には,鮮新世〜更新世の火成活動に伴う酸性変質帯が断続的 であるが広く分布する。それら変質帯の中心部は,宇久須珪石鉱床および深田, 船原,仁科の各明礬石鉱床として採鉱稼行の対象となってきた。また各変質帯の 変質母岩は,広域的に強く変質してプロピライトとなっている。 1.
(3) 第 4 章 で は 明 礬 石 の 分 析 手 法 に つ い て 述 べ た 。 分 析 に は 主 に XRD, MDG お よ び EPMA が 用 い ら れ た が , こ の う ち EPMA に よ る 定 量 分 析 に 関 し て は エ ネ ル ギ ー分散法により行い,電子線照射による明礬石中のアルカリの逸散を防ぐため, 最 適 な 印 加 電 流 と 計 数 時 間 が 決 定 さ れ た 。そ の 測 定 条 件 は ,1 5 k V ,3 5 0 p A で 計 数 時 間 15 秒 で あ る 。 第 5 章 で は 伊 豆 半 島 西 部 の 11 地 点 か ら 得 ら れ た 明 礬 石 の 産 状 と 化 学 組 成 に つ いて詳述している。 産状に関して,本地域の明礬石は主に 3 種類に分類される。すなわち,①明礬 石脈として葉片状結晶の塊状集合体として産するもの。②溶脱珪化岩中に再結晶 化した石英の隙間を充填して産するもの。③火山岩の斑晶が溶脱した空隙を充填 して産するものである。さらに本地域に産出する明礬石の形態は,c 軸に垂直な 六角板状で錐面の見られるもの,または錐面が発達し擬立方体状を呈するものが 認められる。その多くは直径数十〜数百μm である。主に無色透明でガラス光沢 を有し,鏡下で累帯構造は確認できなかった。 化学組成の上からは,本地域の明礬石は主に 4 種類の組成分布を呈する。すな わち,①比較的均質な組成を持つ明礬石であり,組成像においても均質であるも の 。② 明 礬 石 - ソ ー ダ 明 礬 石 固 溶 体 系 列 の 組 成 を 持 つ も の 。組 成 像 で は 明 瞭 な 初 生 的組成累帯を示す場合と,ほぼ均質な明礬石が鉱物粒界や割れ目に沿ってソーダ 明 礬 石 に 置 換 さ れ て 二 次 的 組 成 累 帯 を 示 す 場 合 が あ る 。③ 明 礬 石 - ソ ー ダ 明 礬 石 固 溶体系列およびミナミ石の組成をもち,組成像では明瞭な初生的組成累帯を示す も の 。 ④ ほ ぼ 均 質 な Ca 端 成 分 ( フ ー ア ン 石 ) の 組 成 を も ち , 周 縁 部 は ソ ー ダ 明 礬石で取り巻かれるもの,であることを明らかにした。 伊 豆 半 島 西 部 の 酸 性 変 質 帯 で 産 出 す る 明 礬 石 の う ち ,C a に 富 む 明 礬 石 に 関 し て は特に 2 種類の組成累帯が顕著である。どちらも c 軸に垂直な六角板状の形態を 有し,溶食を受けたウッドハウス石の結晶を核とするが,一方では,明礬石,ソ ーダ明礬石及びミナミ石が交互に現れる組成累帯を形成して成長している。他方 では,ほぼ均質なフーアン石からなり,最外縁をソーダ明礬石が取り囲む構造を と る こ と を 見 出 し た 。 結 晶 核 と し て 共 存 す る ウ ッ ド ハ ウ ス 石 は , 特 に Sr の 量 比 によって組成に大きな幅があり,組成像では明瞭な初生的組成累帯が認められる ことを示した。 第 6 章 で は 船 原 鉱 床 お よ び 仁 科 鉱 床 に 産 す る 明 礬 石 に 関 し て 行 っ た K-Ar 年 代 の 測 定 結 果 に つ い て 述 べ て い る 。両 鉱 床 に 産 す る 明 礬 石 か ら 比 較 的 K に 富 む 2 試 料を選び年代測定に供した。船原鉱床産試料は,安山岩組織を残した溶脱珪化岩 中に産する六角板状または擬立方体状の自形結晶集合体である。また,仁科鉱床 産 試 料 は , 溶 脱 珪 化 岩 中 の 割 れ 目 を 充 填 す る 幅 約 1 cm の 白 色 明 礬 石 脈 で あ る 。 2 回 測 定 に よ る 測 定 結 果 は , 船 原 鉱 床 に つ い て 3.3±0.1 Ma( 後 期 鮮 新 世 ) が , 仁 科 鉱 床 に つ い て 0.34±0.05 Ma( 中 期 更 新 世 ) の 年 代 値 が そ れ ぞ れ 得 ら れ た 。 2.
(4) 第 7 章では伊豆半島西部の 7 地点から得られた明礬石および共生する黄鉄鉱に 関して行った硫黄同位体の測定結果について述べている。7 試料とも主に明礬石 および石英から構成されており,そのうち 3 試料については黄鉄鉱により鉱染さ れ て い る こ と を 見 出 し た 。 測 定 し た 全 て の 明 礬 石 に つ い て , δ 3 4 S V- C D T 値 は 1 8 ‰ 以 上 で , 黄 鉄 鉱 に つ い て は 0 ‰ の 測 定 限 界 以 下 で あ っ た 。 ま た 明 礬 石 の (Na,Ca) / K 比 の 増 加 に 伴 っ て δ 3 4 S V- C D T 値 が 増 加 す る 傾 向 が 認 め ら れ た 。 さ ら に , 同 位 体 平 衡 温 度 は ,船 原 鉱 床 で 2 0 5 ± 5 ℃ ,宇 久 須 鉱 床 の 周 縁 部 に 位 置 す る 赤 川 上 流 で 235±6℃ , 仁 科 鉱 床 で 213±5℃ で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 第 8 章 で は 第 5〜 7 章 で 得 ら れ た 結 果 に 基 づ い た 考 察 を 詳 述 し て い る 。 C a を 含 む 明 礬 石 の 累 帯 構 造 か ら ,明 礬 石 ,ソ ー ダ 明 礬 石 お よ び ミ ナ ミ 石 が 交 互 に現れる組成累帯構造は,成長する結晶表面に接する熱水の条件変動を反映する と考えられた。一方,ほぼ均質なフーアン石でソーダ明礬石で取り巻かれる組織 を 有 す る も の は ,フ ー ア ン 石 の 生 成 環 境 が K お よ び N a に 乏 し い こ と を 示 唆 す る 。 また,成長組織をもつ明礬石がウッドハウス石の結晶核上にエピタキシャル成長 している組織は,熱水系全体の化学組成の進化を反映していると考えられた。 明 礬 石 と 黄 鉄 鉱 の 硫 黄 同 位 体 組 成 か ら ,熱 水 系 は S O 2 の 不 均 化 反 応 で も た ら さ れたことが示されると同時に,明礬石がマグマ性の熱水溶液から生じたことが示 唆された。また変質鉱物の共生関係から,変質帯を生成した熱水は宇久須鉱床の 中 心 部 で 280℃ 以 上 の 温 度 条 件 で あ っ た と 見 積 ら れ る 。 一 方 , 諸 坪 峠 〜 仁 科 鉱 床 の地域では,宇久須鉱床一帯に比べ概して低い生成温度が見積られるが,変質帯 の 中 心 部 で は 200℃ 以 上 の 生 成 温 度 で あ っ た と 考 え ら れ る 。 本 地 域 に 産 す る 明 礬 石 の K-Ar 年 代 の 測 定 結 果 か ら , 船 原 鉱 床 の 形 成 は , 宇 久 須,深田両鉱床の形成時期より早く,その空間的時間的分布から,狩野安山岩類 の後期の活動によると考えられた。一方,仁科鉱床の形成時期は,長九郎火山北 方の貫入岩体の活動時期とよく一致することがわかった。 さ ら に 断 層 ・ 裂 罅 系 の 解 析 か ら , 伊 豆 半 島 西 部 は , 2.0Ma〜 1.0Ma に は 宇 久 須 鉱 床 周 辺 が 南 北 方 向 の 圧 縮 応 力 場 に ,ま た 1 . 0 M a 〜 0 . 3 M a に は 諸 坪 峠 周 辺 が 北 北 西 - 南 南 東 方 向 の 圧 縮 応 力 場 に 置 か れ て い た こ と が 示 唆 さ れ た 。こ れ ら の 断 裂 系 の 形成に伴って,熱水系の中心も変位したと考えられる。 以上の考察から,伊豆半島西部の熱水活動の様式と変遷に関するモデルを構築 す る こ と が で き た 。す な わ ち ,ま ず 2 . 0 M a 以 前 に 船 原 鉱 床 を 形 成 し た 最 初 の 熱 水 活 動 が 引 き 起 こ さ れ た 。 引 き 続 く 2.0Ma〜 1.0Ma に , 棚 場 火 山 の 活 動 に よ り 宇 久 須 鉱 床 一 帯 で マ グ マ 発 散 物 を 含 む 熱 水 循 環 が 引 き 起 こ さ れ た 。 1.0Ma〜 0.3Ma に は,猫越火山,長九郎火山の噴出に伴い新たな熱水系が形成された。これらマグ マの活動は,伊豆地塊の本州への衝突に伴う断裂系の形成に規制されて移動した と考えられる。 第 9 章は総括が記述されている。 3.
(5) 研 究 業 績 種 類 別. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 発表・発行年月、. 連名者(申請者含む). 論文 ( 1 )( 報 文 ) 伊 豆 半 島 西 部 に お け る 酸 性 変 質 作 用 の K-Ar 年 代 . 岩 石 鉱 物 科 学 .( 2 0 0 5 )( 掲 載 決 定 ) ○安藤康行・堤 貞夫 ( 2 )( 報 文 ) 伊豆半島西部の酸性変質作用および明礬石の地球化学. 岩 石 鉱 物 科 学 ( 2005) 34 巻 2 号 ( 印 刷 中 ) ○安藤康行・堤 貞夫 講演. ( 1 )宇 久 須 鉱 山 産 及 び 奥 万 座 温 泉 産 C a 含 有 a l u n i t e 系 鉱 物 の 累 帯構造. 地 球 惑 星 科 学 関 連 学 会 1998 年 合 同 大 会 予 稿 集 ( 1998) 248. ○安藤康行・堤 貞夫. その他 (1)岩手県宮古市根市鉱山. 鉱 物 情 報 ( 2004) 141, 7-8. 林 政彦・林富士子・安藤康行・田村静男・鈴木保光・原田誠治 ( 2 ) 群 馬 県 奥 万 座 温 泉 産 フ ー ア ン 石 ( 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 写 真 ). 鉱 物 情 報 ( 1 9 9 8 ) 11 4 , 1 . ○安藤康行. 5.
(6) 研 究 業 績 種 類 別. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 6. 発表・発行年月、. 連名者(申請者含む).
(7) 研 究 業 績 種 類 別. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 7. 発表・発行年月、. 連名者(申請者含む).
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