7,12‑dimethylbenz〔a〕anthracene(DMBA)誘発ラッ ト乳癌の発生,増殖,細胞動態およびホルモンレセプ ターに及ぼす高脂肪食およびプロスタグランディン 合成酵素阻害剤インドメタシンの影響
著者 谷屋 隆雄
著者別名 Taniya, Takao
雑誌名 博士学位論文要旨 論文内容の要旨および論文審査
結果の要旨/金沢大学大学院医学研究科
巻 平成4年7月
ページ 54
発行年 1992‑07‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/14979
医博乙第1132号 平成3年6月19日 谷屋隆雄
7,12-dimethylbenz[a]anthracene(DMBA)誘発ラット乳癌の発生,
増殖,細胞動態およびホルモンレセプターに及ぼす高脂肪食およびプロスタ グランディン合成酵素阻害剤インドメタシンの影響
主査教授宮崎逸夫 副査教授磨伊正義 教授中西功夫 学位授与番号
学位授与年月日 氏名 学位論文題目
論文審査委員
内容の要旨および審査の結果の要旨
本邦と欧米における乳癌を比較すると,欧米の乳癌は発生頻度が高く,その予後も悪いことが 知られている。この原因は,脂肪摂取量の違いにあるとされ,実験的にも高脂肪食に含まれる多 価不飽和脂肪酸が,乳癌の増殖を促進させることが確認されている。この促進作用は,プロスタ グランディン(prostaglandin)の合成が増加することによると考えられており,高脂肪食の発癌 促進作用が,プロスタグランディン合成酵素阻害剤であるインドメタシン(indomethacin)の投 与により完全に抑制されたとの報告がある。しかし,多価不飽和脂肪酸には,腫瘍細胞に対する 直接的な増殖促進作用も報告されていろ。一方,高脂肪食のホルモンレセプター(hormone
receptor)に及ぼす影響に関しても不明な点が多い。そこで,7,12-dimethylbenz[a]anthracene
(DMBA)誘発ラット乳癌の発生,増殖,細胞動態およびホルモンレセプターに及ぼす高脂肪食 ならびにインドメタシンの影響について検討した。
生後50日の雌Sprague-Dawley系ラットに5昭のDMBAを一回胃内投与し,その一週後より 任意に4群に分け,総カロリーの等しい,20%コーン油含有の高脂肪食,05%コーン油含有の 低脂肪食,およびそれぞれに0005%のインドメタシンを添加した4種類の食餌を与えた。その結 果,以下の結論を得た。
1)高脂肪食群では,低脂肪食群に比較し,有意に腫瘍の発生および増殖が促進された。一万,
高脂肪食にインドメタシンを添加した群は,高脂肪食群と比較すると,有意に腫瘍の発生率と発 生個数の低下及び腫揚発生までの潜伏期間の延長を認めた。
2)しかし,一旦発生した腫瘍においては,高脂肪食,低脂肪食にかかわらず,インドメタシン 添加群において,各担癌ラットの平均腫揚個数の増加,初発腫瘍の平均腫瘍径の増加,Bromo-
deoxyUridine標識率の増加および潜在的倍加時間の短縮を認めた。
3)腫瘍組織内のホルモンレセプター値には,有意差を認めなかった。
以上より,DMBA誘発ラット乳癌において,高脂肪食はその発生と増殖をともに促進させ,
一方,インドメタシンは,腫揚の発生段階では高脂肪食による発生促進作用を抑制するが,腫瘍 の増殖段階では脂肪摂取量にかかわらずその増殖を促進する作用を示した。
本研究は,乳癌患者に対する高脂肪食あるいはインドメタシンの投与が,その増殖を促進させ る可能性を示唆し,乳癌の発生と増殖という観点から,乳癌外科学上価値ある労作と認められた。
-54-