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田辺 征夫

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Academic year: 2021

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(1)

 当研究所は、南都諸寺の文化財を総合的に研究する国立研究機関として 発足して以降、平城宮跡や藤原宮跡の発掘調査と研究、あるいは文化財科 学に関する先端研究、そして諸外国の文化財に関する研究や国際文化協力 と、調査研究の枠組みを徐々に拡大しながら、文化財に関する総合的な研 究をおこなう姿勢を貫いて参りました。

 平成16年の文化財保護法改正によって新たな文化財となった文化的景観 についても、当研究所では重点的な取り組みの対象に採り上げ、特に平成 18年度から22年度における独立行政法人国立文化財機構第2期中期計画に 位置付け、調査研究を実施して参りました。本報告書は、文化的景観に関 する調査研究のうち、ケーススタディーとして実施しました四万十川流域 の文化的景観に関する調査研究の成果をまとめたものとなります。

 文化的景観という新しい文化財の範躊は、既往の文化財の考え方と異な る面が多々あります。そもそも、景観という対象は自明なものではありま せん。人々の生活や生業が生み出すものであるので、必ずしも美的である 必要はなく、かといって無秩序なものでもありません。有形と無形の要素 双方を含み込んでおり、常に緩やかに変化しています。つかみどころのな い概念にも見えますが、見方を変えれば、文化財だけでなく環境全体を総 合的な視点からとらえる上での基礎をなすものともなりえます。この意味 で、文化的景観の調査研究への取り組みは、当研究所創設時の姿勢に立ち 返ることをも意味しています。

 四万十川流域の文化的景観は、自治体の枠を越え、5市町連携で重要文

(2)

化的景観に選定された、全国初の事例となりました。文化的景観としては、

各市町を単位とする個別のまとまりが認められますが、四万十川を通じて 流域全体が有機的に結びつく点、まさに文化的景観独自のダイナミズムが 感じられるところです。しかしながら、流域全体がいかなるシステムによっ て有機的に結びついているかについては、明快な説明がなされていないの も実情です。これまでの文化財の枠組みにはまったく存在しなかった、広 域にわたる文化財である四万十川流域の文化的景観は、文化的景観という 概念が持ちうるであろう可能性と、それが同時に抱えるであろう保護施策 上の問題点に対して、多くの示唆を与えてくれることと考えます。本調査 研究が、四万十川流域の文化的景観の調査研究と保護に対して、そして文 化的景観を巡る学術と保護行政一般に対して、なにがしかの寄与となるこ とを切にお祈り申し上げます。

 最後に、四万十川流域の文化的景観の保護に邁進されている住民、行政 担当者、調査関係者各位からの、当調査研究への御指導及び御協力に対し、

深甚の謝意を表します。

平成23年3月

独立行政法人国立文化財機構理事 奈良文化財研究所長

田辺 征夫

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