博 士 ( 工 学 ) 小 川 博 靖
学位 論文題名
ポリアク リロニトリル系炭素繊維の生産性と 機能性 の向上に関する研究
学位論文内容の要旨
従来、ボリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維は先進複合材料の強化繊維として応 用され、また先進的なレドックスフロー型電池の材料として期待されているが、その引張 強度は低く、またその生産過程である酸化には数時間以上を要するなど生産性が極めて低 く問題であった。特に、
PAX
系炭素繊維の引張特性を高度化しようとすると生産性が大 きく低下するため引張特性の高度化と高生産性を同時に実現することが困難であった。ま た、引張特性とともに高温空気中での複合材料の特性が低下しない優れた耐熱酸化性や電 池特性に優れたP A:V
系炭素繊維を高効率で生産することが困難であったため、これら分 野への需要拡大に対して大きな問題となっていた。本研究は、これらの諸問題を解決する ことを目的に、高引張特性を有するPAN
系炭素繊維を効率よく工業的に製造するととも にそれらの特性に加えて優れた耐熱酸化性や電池特性を有するPAX
系炭素繊維を製造す ることに関するものである。PA
丶系炭素繊維.の前駆体繊維およびその製造過程である酸化、炭素化における諸条件 ならびに査電子顕
X
線 回折 駆体繊維 ては温度 工業的な 炭素繊維 どの影響 造、結合 中空化現 の諸変化 調べた:以上の検討から、以下の結果を得た:
1
.以下に記載のボリアクリ口ニトリル(PAX
)系繊維,酸化方法,炭素化方法によって,400kgf/mn2以上の引張強度を有するボリアクリロニトリル系炭素繊維を30分以下
の 短 い 酸 化 時 間 で 工 業 的 に 安 定 し て 製 造 で き る こ と が わ か っ た ・
(
1
)前駆体PAX
系繊維には,アクリル酸ナトリウムを共重合し,工程油荊にジメチルシロキサンを付着させた高延伸PAN系繊維を用いる.
(2)酸化は,100 mg/d程度の高い張力下で,空気中,好ましく敬,酸素濃度50volぶの
酸素と窒素混合ガス雰囲気中,二層構造を形成しない上限の酸化温度にて結合酸 走) 前し や、 な構
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素 量 約5名 と す る ま で 酸 化 し , つ い で , さ ら に 高 温 に て 繊 維 の 安 定 化 度SI値 を 80名 とす る ま で二 段 階 で行 う ・
(3) 炭 素化は ,不活性 ガス( 窒素)中 ,張力250 mg/d,昇温 速度15℃/s以 下で炭素 化 温 度1300℃ 程度 ま で 行う .
2. 酸 化 過 程 に おけ るPAX系 繊 維の 繊 維 収縮 応 カ な, 約40℃ か ら 増 大し 約120℃ の 極大 値 に い た り( 領 域I ‑1), こ の 極大 値 か ら極 小 値 を経 て ( 領 域I‑2)再 び 増 大レ 一 定 値 に い た る ( 領 域H) 変 化 を 示 し , 領 域Iな ,PAN系 繊 維 の 構 造 に , そ し て , 領 域n はpAN系 繊 維 の酸 化 に 伴う 化 学 的, 物 理 的構 造 変 化に 対 応 レ てい る こ とを 認 め た.
工 業 的 に 有 効 な 多 段 ロ ー ラ ー 群 を有 す る 酸化 炉 を 用い た 酸 化 では , 領 域I.2で延 伸 し 領域nで収 縮する ように,100 .mg/dの 張力下で 酸化す ることに より, 高引張特 性 のPAX系 炭 素 繊維 を 製 造出 来 る こと が わ かっ た .
3. 安 定化 度(SI:Stabilization Index)は , 多段 ロ ー ラー 群 を 有する酸 化炉を 用いた酸 化 に お け る 酸 化 繊 維 の 適 正 化 の 指 標 と し て 特 に 有 効 で あ る こ と が わ か っ た . 4. 炭 素化 過程 における 酸化繊 維の収縮 応カは ,約300℃から約420℃ で緩和し (領域m),
そ の 後 増大 す る (領 域lV)変 化 を示 し た .こ の 領 域mに お い て,張カ を適正 化し繊維 を 延 伸 す る こ と に よ っ て , 高 性 能 の 炭 素 繊 維 を 製 造 で き る こ と が わ か っ た .
表 面や 内 部 の欠 陥 の 少 ない 高 性 能のPA丶系 炭 素 繊維を製 造する ためには , 繊維の 工程油 剤として のボリ ジメチル シロキ サンを用 い,酸化 繊維の 安定化 低くし ,また 昇温速度 を約15℃/S以下で炭 素化す ることが 適当で あることが 上 記1. で 得た 炭 素 化 温度1300℃の 炭素繊 維を用い て,繊 維を陽極 ,リン酸 陰極と する電 解表面酸 化処理 を行うこ とによ り高耐熱 酸化性で 高層間 接着強 るP AIv系炭素 繊維を, また, 高温水蒸 気中で 比表面積15〜34 m‑/gの活性イ とした 後次亜 塩素酸中 で電解 表面処理 するこ とによっ て,レド ックス フロー 性 に 優 れたPAN系 炭 素 繊 維を 短 い 酸化 時 間 で製 造 で きる こ と がわ か っ た.
後 に , 本研 究 に よっ て , 高 引張 特 性 のPAX系炭 素 繊 維を 効 率 よく 製 造 でき ら の 特 性に 加 え て耐 熱 酸 化 性や レ ド ック ス フ 口ー 電 池 特性 に 優 れたPAN系 造 で き るこ と を 明ら か に し 、PAN系炭 素 繊 維の 製 造 技術 向 上 と工 業 的 需要 貢献で きるこ とが明ら かにな った。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ポリアクリロニトリル系炭素繊維の生産性と 機能性の向上に関する研究
近年の複合材料の発達は目覚ましい ものがある.これら複合材料に使われる炭素繊維の ほ とん どは ,有 機前 駆体 であ るボ リア クリ ロ ニト リ ル(PANy繊維の紡糸,酸化(耐炎 化),炭素化などの工 程を経て作られるいわゆるボリアクリロニトリル系炭素繊維である.
そ れは軽量であるうえに優れた機械特 性を持つことが大きな特徴である.しかし,工業材 料 としてさらに需要を増大し,その用 途を広げるためには生産のためのコストの削減およ び 新しい機能性の付与が大きな課題と なっており,工学的,技術的な検討が世界各国で活 発になされている.
本諭 文倣 ,PAN系炭 素繊 維の 高い 機械 特性 を保 ちな がら その 生産 性を 向 上さ せること を 目的として,その各製造プロセスを 基礎的および工学的に検討したもので,従来よりも 格 段の生産性向上に成功している.加 えて,炭素繊維の耐熱性および電極特性を向上およ び付与するための要件 を製造プロセスとの関連で検討している.
まず ,PAN系 繊 維中 の共 重合 体の 種類 と組 成, 酸化 およ び炭 素化 条件 が 炭素 繊維の製 造 プロセスおよびその機械特性に及ば す影響を検討した.その結果,共重合体としてアク リ ル酸 ナト リウ ムを4〜6 wt$含む 前駆 体を 高 い延 仲下 で紡糸し,それを高張力下窒素・
酸 素混 合ガ ス中 で二 段階 で酸 化し(低温で結合酸素量が約5%に達するまで,競いてより 高 温 で12% ま で 酸 化 す る ), そし て窒 素中 張力 下で1300℃ま で炭 素 化す るこ とに よっ て 炭素 繊維 を製 造す るプ ロセ スを開発した.このプロセスの採用 によって,400 kgf/mm2 以 上 の 引 張 強 度 を 有 す るPAN系 炭 素 繊 維 を , 従 来 の 工程 の約1/4の 時間 (30分以 内)
で,工業的に安定して 製造することが可能となった.
っぎに,酸化過程における繊維の収 縮応カの変化を詳細に測定・解析した.繊維にかか る 応カ が極 大値 を経 て減 少す る領 域(120〜240℃ )で は繊 維を 延伸 し, 応 カが 再び増大 し て一 定値 とな る領 域(240〜300℃) では 収 縮さ せる ことが,高い引張強度を持つ炭素 繊 維の製造には効果的であることを明 らかにした.この成果は工業的な多段ローラー群を
夫 男
郎 俊
道 光
志 忠
垣
井
田
葉
稲 高
嶋 千
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
有する酸化炉を用いる工程に対して有効な指針を与えている.そして,これら収縮応カの 評価に基づぃて決定される安定化度(SI:Stabilization Index)を提案し,それが前駆体 繊維の酸化度の適正化指標として有用であることを示した.さらに,繊維の収縮応カの測 定を炭素化過程にまで拡張し,応カの弛緩する温度範囲
(300
〜420℃)での張力付加が,炭素繊維の機械特性向上に有効であることを明らかにした.
繊維の機械特性を維持するためにな,繊維表面や内部の欠陥を極力少なくすることが肝 要である.そのためには,PAN系繊維の工程油荊としてはボリジメチルシロキサンが適 当であり,さらに酸化繊維の安定化度
SI
を低くし,また炭素化過程での昇温速度を15℃/s以下とすることが適当であることを明らかにした.