博 士 ( 医 学 ) 田 宮 奈 緒 子
学 位 論 文 題 名
小 児 期 体 カ の 臨 床 的 評 価 法 と 臨 床 及び スポー`ソ医学への応用
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
I目 的
ス ポーツ 医学的 研究 は現在 注目を あびて きてい るが ,発育 期小児 においてはその研究はいまだ 少 ナょく ,小児 の体カ の客観 的評価法も確立されていない。そこで,成人では確立している体力即 ち 有酸素 運動能 の測定 法を小 児に 応用し ,臨床 検査上 容易 に行い 得る方法を考案し,その正常値 を 確立し ,臨床 に応用 した。 また ,無酸 素運動 能も測 定し て,両 運動能を合わせた小児の総合的 体 力発達 の特徴 を検討 した。 さらに,小児の日常活動性の定量化を試み,発育期スポー`ソ医学周 辺 におけ る問題 点を考 察した 。
II対象 と 方 法 お よ び結 果 1.有 酸 素 運 動 能 の沮lJ定
有 酸 素 運 動 能 の 指 標 と し て 最 大 酸 素 摂 取 量(VO:max) とPhysical Working Capacity O
(PWC) を 用 い , 成 人 に お い て 確立 さ れ て い るAstrandの 方 法 (負 荷 量 とVO: の 回 帰 式 より VO:maxを 求め る 方 法 ) を応 用 し た 。 小児 用 の 回 帰 式を 作 成 す る ため に,8―12歳 の健康 小児 16名( 男児7名, 女児9名) を対象 として 自転 車工ル ゴメ一 夕ーに よる 心拍数 を指標 とした3段 階 運 動 負荷 法 を 行 い ,ペ ダル の負荷 と回 転数よ り負荷 量を求 め,chect社 製Metaboler RS―1100H を用 いてVO: を測定 した 。両者 は相関 関係に あり ,VO。max二ニ16.6x最大負 荷量十257(r‑二ニ O. 982)の 回 帰 式 が 得 られ た 。
こ の 式 を 用 いて ,6ー15歳 の 健 康 小 児112名 ( 男児64名 ,女 児48名 )を 対 象 し てVO:maxと PWCを 測 定 し た。 ま ず ,各 個人で 負荷量 と心 拍数の 関係式 を作成 し, 最大心 拍数( 二二220―年 齢 ) を 惹 起 さ せ る 最 大 負荷 量 を 求 め ,前 述 の 回 帰 式よ りVO:maxを 算 出 した 。PWCは 最 大 心
拍 数 の75% を 惹 起 し得 る 負 荷 量 と定 義 し 求 め た 。結 果 は 男 女 それ ぞ れ, 推定V02 max/kg値は 62.3土12. 6mE/kg7min(m土SD) ,53.8土12. 8mE/kg/min,PWC/kg値 は2.40土O.35Watt/
kg,1.99土O.46Watt/kgで あっ た。両 値とも 男児の 方が女 児よ り高値 を示し ており ,ま た男女 とも 成人 より高 値であ った。
2.運動 負荷テ スト とメデ ィカル チェッ クへ の臨床 応用
8―15歳のス ポ− `ソ少 年団員30名( 男児26名 ,女児4名 )と6亠11歳の川 崎病罹 患後小 児16名
( 男 児7名 , 女 児9名) を 対象 に前述 の運動 負荷に より ,メデ ィカル チェッ クと 同時に 有酸素 運 動能 を測 定した 。全員 ,心拍 数は 目標に 近い値 が得ら れ呼吸 数や 血圧の 反応は正常であり,川崎 病 後 小 児 に お い て は 推 定VO,zm ax/kgとPWC/kg値は 健 康 対 照 群 と差 は な か っ た。 ま た , ス ポ ー ツ 団員12名 中9名 で4力月の トレー ニン グ後に 有意な 上昇を 認め, 体力 増強効 果があ ったこ とが 示唆 された 。
3.肥満 治療へ の応 用
@6―14歳の肥 満児22名(男 児10名, 女児12名)に おける有酸素運動能は,男女それぞれ,推定 V02max/kgは32.8土7,ImE/kg/min,36.8土5,8mE/kg/min,PWC/kg値 は1.18土O.26 Watt/kg,1.43土0.32Watt/kgであ り,健 康対象 群に比 べ著明 に低 値を示 してい た。◎ 有酸 素 運動 能の 低下は 肥満児 の重要 な問 題点で あると 考え, 治療に 有酸 素運動 を中心とした運動療法を 採り 入れ ,減量 と共に 体カの 増強 を試みた。運動種目には自転車工ルゴメー夕―,トレッドミル,
階 段 昇 降 , 繩 跳 び の4種 目 を 選 び , 運 動 強 度 は 有 酸 素 運 動 域 で あ る6080%HRmaxを 目 標と し た 。4種 目 の 運 動 中の 心 拍数の 変動を みる と,前2種 目は容 易に目 標域に 維持 され肥 満の運 動 療 法に 適する 思われ た。 ◎治療4週 間後に は有酸 素運動 能は 全員で 正常範 囲内に 到達し ,平 均体 重減 少率 は8.4土2.6% であり ,良好 な結果 が得 られた 。
4.小児 期の無 酸素 運動能 の測定
7→15歳 の 健康 小 児20名を 対 象 と し て, 無 酸 素 運 動 能を 測 定 し た 。2 kpず つ増量 する3段階 負 荷に 対し10秒間の 全速カ ペダリ ングを 行わ せ,回 転数が120回 転/分 以上 になる ように 調節し た 。 無 酸 素 パ タ ー は 負 荷 量 (X) と 回 転 数 (Y) の 関 係 か らPower=XY=二a(X十b/2a)2 ーbz/4a peak power=ニb 74aに よ り 求 め た 。 小 児 で は5―7Watt/kgで あ り 年 齢 依存 傾 向を 示し ていた 。
5.一般 小児の 日常 活動性 の定量
3―15歳 の 健康 小 児340名 を 対 象 と して1日 の 歩 数を 歩 数 計 を 用い て 測 定 し た 。3一6歳 の幼 児 期 で は男 女 と も 約20,000歩であ った。 男子で は6―12歳 で,女 子では5−6歳 でピー クとな っ
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た 後は 年齢と 共に低 下傾向 を示 してい た。ま た,21名にお いて心 拍数モ ニタ一 計を 用いて1日 の 心 拍数の 変動を 測定し ,運 動強化 とその 活動時 間か ら活動 性を定 量化し 分析した。心拍数が有酸 素 運 動 領 域 で あ る60%HRmax以 上 と な る 時 間 帯 は 小 学 生 で は 男 子 で 約23時 間 , 女 子 で は 1時間 弱と明 らか に男女 差を認 めるが ,中 学生で は男女 とも殆 どなく なり ,生活 パター ンの変 化 に よる影 響が大 きいと 考え られた 。
6.小 学生の 遊びと スポ一 `ソ活 動の 現状調 査
小 学生500人を 対象 にして 遊びや スポー `ソ の内容 にっいてアンケート調査を行った。男子でみ る と低学 年では 友だち 同士 による 遊び程 度のも ので あり, 高学年 になる と地域のクラブ組織によ る 活動が 増えて いた。 女子 におい ては戸 外での 活動 は比較 的少な く,年 齢と共に身体活動量の少 な い遊び に変わ ってい く事 が特徴 的であ った。
m考 案
今回 の有酸 素運動 能の測 定方法 の特 徴は, 心拍数 を指標 にし て各個 体に対して相対的に同強度 の運動 負荷を かけ ,さら に回帰 式を用 いる ことで 最大負 荷をか けずに 測定 が可能な点であり,従 来 のallーoutに よ る 方 法 に 比べ 年 少 児 で も安 全 か つ 容 易 に行 い 得 る と 思わ れ た 。 得 られ た VO:maxやPWC値 は , 他 の 報告 と 比 較 す ると 若 干 高 い 傾向 に あ っ た が, 性 差 ・ 年 齢 との 関 係 は一致 してい た。 また本 方法tま測 定と同 時にメ ディ カルチェックや肥満治療にも応用できること などか ら臨床 上有 用な方 法であ ると思 われ る。
今回 得られ た結果 から小 児の体 力発 達の特 徴をみ ると, 有酸 素運動 能は思春期前で最も高く,
無酸素 運動能 は年 齢に依 存して いた。 各小 児にお いて両 者は相 関があ ると 言われており,両体カ の発達 を促進 する 為には 思春期 前からオールラウンドに身体を使えるようナょ運動や多種にわたる スポー ツ活動 を推 進して ゆくの が好ま しい と思わ れる。 しかし 実際に は, 日常活動性は生活様式 とも深 く結び っい ている ためか 心肺機能が最も発達する前思春期に低下しており,スポ−`ソ活動 も特定 の種目 を組 織に所 属して 行う児が多く,小児の健康を維持増進するための運動やスポ一`ソ の重要 性を再 確認 する必 要があ ると思 われ た。
IV結 論
小 児 に お け る 体 カ の 評 価 法 を 確 立 し , 臨 床 及 び ス ポ ー ツ 医 学 ヘ 応 用 し た 。 1.自転 車工ル ゴメ― 夕一 を用い て,年 少小児 でも容 易に 行い得 る有酸 素運動 能の 測定法 を考 f
察 し た。 小 児 に お ける 負 荷 量 とVO: の 回 帰式:VOユmax二二16.6x最大負 荷量十237を 作成し ,
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心拍数を指標とした3段階運動負荷方法により最大負荷をかけずに測定が可能となり,安全かつ 容易な方法であると思われた。
2.VOよmaxやPWC値 は,健康小児では男子・思 春期前の時期・均整のとれた 体格の児が 高値を示しており,肥満児では著明に低下していた。また,本方法は両値の測定と同時にメディ カルチェックや肥満児の運動療法などの臨床応用も行うことができ有用であると思われた。
3.小児の無酸素運動能は年齢に依存して発達していた。
4.有酸素運動能は思春期前で最も高くなるにも拘らず,現状では日常生活の活動性が低下し て お り , こ の こ と は 発 育 期 ス ポ ー ツ 医 学 の 問 題 点 の ー っ で あ る と 恩 わ れ た 。
学位論文審査の要旨
田宮氏のこの度の研究は,発育期小児で容易に行い得る有酸素運動能の測定法を考察し,その 正常値を確立し,メディカルチェックや肥満治療などその臨床応用を試みたものである。また,
無酸素運動能も測定し,小児の総合的体力発達の特徴を検討するとともに,日常活動性の定量化 を行い,同時に発育期スポーツ医学の最近の問題点をも考察した。
有酸 素運 動能 は ,最 大酸 素摂 取量 (V02max)とPhysical Working Capacity(PWC)を 指標として表わされた。Astrandの方法により小児用に作成した負荷量とVO:の回帰式及び自 転車工ルゴメータによる3段階漸増負荷法から各個人の負荷量を求め,それと心拍数の関係式及 び最大心拍数から,V02maxとPWC, 5%H Rmロェを算出した。6−15歳の健康小児112名(男児64 名,女児48名 )において男女それぞれ, 推定V02 max/kg値は62.3土12. 6mE7kg/min(m土 SD),53.8土12. 8mE/kg7min,PWC/kg値は2.40土0.35Watt/kg,1.99土O.46Watt/kgで あ り , 両 値 と も 男 子 が 女 子 よ り 高 く , 又 男 女 と も 成 人 よ り 高 値 で あ っ た 。 この有酸素運動能の測定は同時に,運動負荷テストとして各種環境系の反応を調べることも容 易であり,特にスポーツ選手ではメディカルチェックやトレーニングによる体力増強効果の判定 に有用であった。また,肥満治療に有酸素運動を中心とした運動療法を取り入れる際に運動強度
三 雄
保
脩 和
本 藤
崎
松 斉
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授 授
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教 教
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査 査
査
主 副
副
を60―80%HRmaxを 目 標 と し たが , 自 転 車 工ル ゴ メ 一 夕 ー を用 い る と 各 個人 で 得 ら れ た心 拍 数と負 荷量 の関係 に基づ ぃて至 適負荷 量を 設定す る事が でき, 容易 に目標 域を維持することがで き,減 量お よび体 力増進 効果を 得る上 で有 効であ った。
今回 の研究 の主な 特徴は 年少 小児で も容易 に行い うる有 酸素 運動能 の測定 方法を考察したこと である 。す なわち 心拍数 を指標 にして 各個 体に対 して相 対的に 同強 度の運 動負荷をかけ,さらに 回帰式 を用 いるこ とで最 大負荷 をかけ ずに 沮IJ定が 可能な 点で あり, 従来のall―outによる方法 に比べ 年少 児でも 安全か つ容易 に行い 得る 方法で ある。 この方 法は また測 定にメディカルチェツ ク や 肥 満 治 療 に も 応 用 す る こ と が で き , 臨 床 応 用 上 有 用 性 が 高 い と 判 断 さ れ た 。 無 酸 素運 動能はForce―velocity testの 理論に より沮lJ定し たとこ ろ7ー15歳の 健康 小児20名 で 約5―7 Watt/kgで あ り , 従来 の 報 告 通 り年 齢 依 存 傾 向 を示 し て い た 。こ のこと から 小児の 体力発 達tま,有 酸素 運動能 は思春 期前で 最も高 いが ,無酸 素運動能は年齢依存性で幼小児では未 熟であ るの が特徴 的であ る。両 運動能 の発 達を促 進する 為には オー ルラウ ンドに身体を使えるよ うな運 動や 多種に わたる スポー `ソ活 動が好ましいが,小児期特に幼少児では有酸素運動を主体と した楽 しめ るもの が適し ており ,瞬発 カや 筋カな どの無 酸素運 動を 要する 種目は思春期を過ぎて から取 り入 れるの が望ま しいと 考えら れた 。しか し,日 常活動 性の 現状で は遊びの中での有酸素 運動は 少な くその 活動性 は前思 春期に 低下しており,この点が小児スポ一`ソ医学における問題点 のーっ であ ると考 えられ た。
以上 ,田宮 氏が今 回行っ た研 究の中 ,自転 車工ル ゴメ一 夕ー を用い て,年 少小児でも安全かっ 容 易 に 行 い 得 る 有酸 素 運 動 能 の測 定 法 を 考 案し た 点 , お よ びこ の 方 法 はVO:maxやPhysical Working Capacityの測 定 と 同 時 にメ デ ィ カ ル チェ ッ ク や 肥 満児 の 運 動 療 法など の臨床 応用 に も有用 性が 極めて 高いこ となど の点か ら学 位論文 として 評価し 得る ものと 判断された。副査の斉 藤和雄 教授 および 宮崎保 教授か ら専門 的な 立場か らそれ ぞれ数 問の 質問が あり,討議が重ねられ た が , い ず れ に 関 し て も 極 め て 妥 当 な 答 が な さ れ た も の と 判 断 さ れ た 。
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