学 位 論 文 題 名
博 士 ( 医 学 ) 竹 田 誠
1 ―methyl ―4 ー phenyl‑l , 2 ,3 ,6 ―tetrahydropyridine 誘導サルParkinson 病モデルに茄ける
brain ― derived neurotrophic factor の 神 経保 護 作 用 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近 年神 経成 長因 子(nerve growth factor: NGF)を 始め とす る神 経栄 養 因子に 関す る 知 見 が 急 速 に 深 ま り , 基 礎 的 実 験 に と ど ま ら ず 臨 床 応 用 の 報 告 も 散見 され るよ う に なってきた.脳由来神 経栄養因子(brain‑derived neurotrophic factor: BDNF)は neurotrophin―3(NT−3),neurotrophin‑4/5 (NTー4/5)とともにNGF familyを形成する塩 基 性 蛋 白 で あ り , ニ ワ ト リ 胚 脊 髄 知 覚 神 経 の 栄 養 因 子 と し て 知 ら れ て い た . 1992年Hymanら がBDNFがratの 培 養 黒 質 ニ ュ ー ロ ン の 生 存 ・ 維 持 に 促 進 的 な 働 き をし ,1―methyl‑4‑phenylpyridinium ion (MPP+)の毒性に対し保護的な作用 をも 有 す る こ と をin vitroで 証 明 し て 以 来 ,BDNFは黒 質ド パ ミン ニュ ーロ ンのtrophic factorと し て . 特 に 特 発 性Parkinson病 と の関 連 から その 生理 的な 意 義が 注目 され ている,
そ の 後 ,ratを 用 い たunlesionedモ デ ル でBDNFがド パミ ンニ ュー ロ ンの 働き を促 進 す る こ と が 示 さ れ て い た が ,6‑hydroxydopamine (6‑OHDA)やaxotomyに よ る lesionedモ デ ル で は 必 ず し も 細 胞 傷 害 に 対 し 保 護 的 な 作 用 を 示 さ な い こ と も あ り 、 面vivoの 実 験 系 に お け るBDNFの 作 用 に は い ま だ 議 論 が 多 い . ま た, よル ヒト に近いprimatesでの知見も欠如していた.
本 研 究 で はBDNFの 中 脳 黒 質 ド パ ミ ン ニ ュ ー ロ ン に 対 す る 加vivoで の 作 用 を,1−methyl‑4―phenyl−1,2,3,6‑tetrahydropyridine (MPTP)にて誘導したサルParkinson 病モデルを用いて検討した.
体 重7kg前 後 の 日 本 サ ル の メ ス 成 獣12頭 に 以 下 の 投 与 計 画 に 従 いMPTPを 全 身 投与しParkinson病モデルを作成した.
groupI:正 常対 照群 (n=2),groupII:MPTP 15mgを浸透圧ポンプ(Alzet: 2ML2, mean pumping rate5メml/hour)にて14日間持続静脈内 投与(n=2),group III: MPTP Smgをday0,4,7にbolusに静 脈内 投与 (n〓2),group IV: MPTP SmgをdayOお よび4 にbolusに静脈内投与(n=6),
groupIを 除 く 各groupの 実 験 動 物 の 半 数 はBDNFの 投 与 を 受 け , 他 の 半 数 は 対 照
群 とした.BDNF投与 群には1冖g/mlのBDNF蛋白を含 むChinesehamsterovaソの培 養液を浸透圧ポンプ(魁Zet2ML2:meannowra.te5戸lmour)に充填し、dayOに全身 麻 酔下大 槽内に留 置した シリコン チュー ブに接続 し後頭部 皮下に埋め込んだ.
こ れによ り総量6.5ロ1のBDNFが14目間にわたり髄腔内に投与された.対照群に はBDNF活性のない培養液を同様に投与した.
術後,連日実験動物の神経学的所見を観察し,dり14にpentobarbita亅による深麻 酔 下にscむflceし,摘 脳後組織 学的検 索を行っ た.神経 学的所見はKurlanらの MOnkeyP訂kinSOniSmRanngSC甜e(MPRS)を用いてParkjnSOniSmをtremor,pOSture, gむt,bradykinesia,bmance,grossmotorskills,defencereacnonの7つに要素化し重症 度を定量化した,
摘出した 脳はただ ちに10ワDホルムアルデヒト緩衝液にて浸潤固定した.脳を 前 頭極と 後頭極を 結ぶ線 に平行に 切り出 し,中脳 黒質を含 む厚さ6〃mの切片を 作成し,Hematoxylin・eosin染色を行った.組織学的検索はparscompacta内側部,中 央 部,外 側部の3部に 分けて行 い,単位面積当たりの細胞数および計測可能な神 経 細 胞 の 面 積 を イ メ ー ジ ア ナ ラ イ ザ ー (01ympusVDEOMICROMETERVMうO) を用いて算出した,
groupII(MPTP15mg14目 間持続静 注)の サルはBDNF投 与群, 非投与群 ともに 14日 間 の 観 察 期間 を 通 して 無 症 状 であ っ た ,groupm(MPTP5mg3回静 脈 内 投 与 )のサ ルはBDNF投 与群,非 投与群ともに第1週後半から重度のParkjnsonismを 呈 し , そ の症 状 , 重症 度 に 明ら か な差は なかっ た.groupIV(MPr5mg2回静脈 内 投与)では,BDNF非投与群の3頭のサルは第1週後半から重篤なParkinsonismを 呈 し,経口摂取が不能となり,manumfeedingにて水分およびヒト治療用流動食を 補給した.
Parkinsonismの内容を検討するとdefencereaCnonの障害が早期に出現し,それ にやや遅れてgむt,bradykinesia,b甜ance,grossmotorskills,postureの障害が続い た.uemorはさらに遅れて出現し,その程度も軽かった.
こ れ に対し ,groupWのBDNF投 与群ではParkinsonismはよ り遅く第2週に 出現 し,その程度も比較的軽度であった.
症状別に見ると,tremorはほとんど出現せず,その他の症状は第2週中盤にほぽ 同 時 に 出 現 し て おり , そ の程 度 もBDNF非 投与 群 に 比べ よ り 軽度 で あ った , こ れ ら の 症 状をMPRSに て 定 量化 し 検 討す る とBDNF非投 与 群 ではday4以 降 急 激にス コアが上 昇する のに対し ,BDNF投与群では遅れて第2週に上昇し,その 増 分 も 少 な い た め ,day6以 降 で 両group間 に スコ ア の 有意 な 差 を示 し た . MPTPの投与を 受けたgroupII―IVの中脳黒質parscompactaでは,BDNF投与群お よび非投与群共通に,神経細胞の胞体の膨化,chromatolysis,一部核の消失と神経 細 胞の減 少および それに 伴うグリ ア細胞 の増生が 認められ た,これらの所見は 特にparscompacぬ内側部で明らかであった.
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組織 学的 所見 は臨床症状とよく相関し ており,重篤なParkinsonismを呈した BDNF非 投 与 群 のpars compactaで は神 経細 胞の 減少 が著 明で あっ た. 対し て BDNF投 与群 のサ ルで も同 様の 所見 は 観察 され たが ,程 度は 比較 的軽 度であっ た .BDNF投 与群 ,非 投与 群と も正 常 対象 群に 比べ 有意 に細 胞数 が減 少してお り ,そ の細 胞面 積の 平均 値も 小さ か った が,BDNF投与 群と 非投 与群 との間に は ど の 部 位 を と っ て も 細 胞 数 , 細 胞 面 積 と も 有 意 差 を 認 め な か っ た . しかしpars compacta全体の細胞を大きさにより分けて比較すると,group IVで は 面積250/i m2以上の細胞数は有意にBDNF投与群に多く,面積250/i m2以下の 細胞数は非投与群 に多い傾向が認められた.
BDNFの 投 与 の 有 無 に よら ず, 細胞 面積250p m2以 上の 残存 細胞 数はMPRSと 負 の相 関を ,細 胞面 積250メmL以下 の残 存細 胞数は正の相関を示し,光顕所見 を 勘案 すれ ば, それぞれニューロンの変 性,壊死と,それに続くグリア細胞の 増生に対応するも のと考えられた.
以上 の結 果か らBDNFがMPTPによ る 黒質 ニュ ーロ ンの 細胞 死を 抑制 し,その 機能を部分的にで はあるが保存した事が示された.
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
主 査 教 授 阿 部 弘 副 査 教 授 田 代 邦 雄 副 査 教 授 長 嶋 和 郎
学 位 論 文 題 名
1 − methyl ―4 ―phenyl −1 ,2 , 3 ,6 −tetrahydropyridine 誘導サルParkinson 病モデルにおける
brain ― derived neurotrophic factor の 神 経 保 護作 用
近 年 神 経 栄 養 因 子 に 関 す る 知 見 が 急 速 に 深 ま り , 基 礎 的 実 験 に と ど ま ら ず , 臨 床 応 用 の 報 告 も 散 見 さ れ る よ う に な っ て き た . 神 経 変 性 疾 患 で はAlzheimer病 や 筋 萎 縮 性 側 索 硬 化 症 に 対 す る 臨 床研 究が 試み られ てい る が .Parkinson病に関しては未だ予 備段階である.本研究ではbrain−derived neurotrophic factor (BDNF)のド パミ ンニ ュー ロン に 対す る保 護作 用を1− methyl―4‑phenyl・1,2,3,6−tetrahydropyridine (MPTP)により誘導したサル Parkinson病モデルにて検討した・
体 重7kg前 後 の 日 本 サ ル の メ ス 成 獣12頭 を 用 い , 最 低2週 間 の 観 察 期 間 の 後 ,lya/mlのBDNF蛋 白を 含むChinese hamster ovaryの培 養液6.5mlを , 浸 透圧 ポン プ(Alzet 2ML2,mean pumping rate Syml/hour)に充填し,皮下に 埋 め 込 ん だ . こ の ポ ン プ よ り 大 槽 内 に 留 置 し た17ゲ ー ジ の 翼 状 針 を 介 し て , 総 量6.5VgのBDNFが2週 間 に わ た り 持 続 的 に 髄 腔 内 に 注 入 さ れ た ・ BDNF非 投 与 群 に はBDNF活 性 の な いChinese hamster ovary培養 液が 同様 に して髄腔内に投与された.
次 に 以 下 の 投 与 計 画 に 従 い MPTPを 全 身 投 与 し , 重 症 度 の 異 な る Parkinson病 モ デ ル を 作 成 し た .I群 :MPTPもBDNFも 投 与 せ ず 正 常 対 照 群 と した (2頭) . II群:MPTP l5mgを浸透圧ポンプ(Alzet 2ML2)にて14目間持 続 静 脈 内 投 与 し た(BDNF投 与, 非投 与各1頭) .III群:MPTP Smgをday 0.4 お よぴ7の 計3回bolusに 静 脈内 投与 した(BDNF投 与, 非 投与 各1頭) .IV群:
MPTP SmgをdayOお よ び4の 計2回bolusに 静 脈 内 投 与 し た(BDNF投 与 , 非 投与各3頭). 、
術後2週 間に わた り神 経 学的 所見 を観 察し ,Monkey Parkinsonism Rating Scale (MPRS)にてParkinSOnjSmをtremor,gait,bradykineSia,balanCe,grOSS motorSkills.defencereactionの7つ に 要 素 化 し 重 症 度 を 定 量 化 し た . 実 験 動 物 は2週 間 後 にsacrlceし 、 中 脳 黒 質 の 組 織 所 見 を 観 察 し た 後 、 イ メ ー ジ ア ナ ラ イ ザ ー (OLYMPUSVDEOMICROMETERVM― 30) に て 細 胞 数およぴ細胞面積を計測し、定量化を行った.
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実 験 期間 中I群 およぴII群 のサルは すべて無症 状であっ た.ni群では BDNFの 投 与の 有 無 によ ら ず重 篤 なparbnsonismを 呈 し、day14のMPRS も 両群 と も17で あり 、 差は 認 め られ な か った ,IV群のB畊晒非投 与群 では、第1週後半にdefencereactionカ消失し、歩行障害、bradybnesiaが出 現した ,さらに第2週には経 口摂取も 不可能と なり重篤 なparkinSonism を 呈し た ,こ れ に対し てBDNF投与群 では、第1週 は無症状 であり、 第2 週 中盤 に より 軽 度 のpa出nsonismを 呈 した に とどま った,BDNF投 与群 と 非 投 与 群 の 間にday6以 降MPRS上 有 意 な差 が 認め ら れ (day6‐10: 圧O.Ol,dayll−:pくO.05),dり14のMPRSの平均値はそれぞれ5および17で あった.
病理学 的にはparkjnSonismを呈したサルで著明な神経細胞の脱落と、
グ リア 細 胞の 増 生 が見 ら れ、 臨 床 症状 と よく 相関 していた .W群にお い て神 経 細胞 の 脱落はBDNF非投与群 に比べ、BDNF投 与群で有 竃:こ少 なかった(pく0.01).
これら の結果より 、霊長類 のParkinson病モデ ルにおけ るBDNFのドパ ミ ンニ ュ ーロ ン に対す る保護的 作用が明ら かとなっ た,より 高力価の BDNFの 精 製、BDNF分 泌細 胞 の 中枢 神 経 系内 へ の植 え 込 み、 脳 血液 関 門を通 過する製剤 の開発等 による特 発性ParkinSon病へ の臨床応用の可 能性が示された.
本研究は,Parkinson病に対するBDNFの臨床応用を行う際に,非常に有 意義な研究と考えられ,学位授与に値する,