• 検索結果がありません。

土谷体育における自律的学習を導く教師行動に関する研究 : 岩井邦夫教諭の授業分析を通して

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "土谷体育における自律的学習を導く教師行動に関する研究 : 岩井邦夫教諭の授業分析を通して"

Copied!
93
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)学位論文. 土谷体育における自律的学習を導く教師行動に関する研究 一岩井邦夫教諭の授業分析を通して一. 兵庫教育大学 大学院 学校教育研究科. 教科・領域教育専攻 生活・健康系コース. M95756J大國浩志.

(2) 目 次 1. 序論. 土谷体育について. 2. 第1節. 自律的学習の基底となるもの. 2. 第2節. 土谷体育の原点. 3. 研究の目的と方法. 5. 第1節. 研究の目的. 5. 第2節. 研究の方法. 5. 第1章. 第2章. 第3章 第1節 第2節 第3節. 「忍者ドラムカンボールゲーム」の経過 題材決定までの道のり 「忍者ドラムカンボールゲーム」のルール. 学習活動から見た学習過程. 子ども一人ひとりに対応した教師行動. 13. 第1節. 城を守る2人の子ども. 13. 第2節. 攻撃への川田の参加を促した岩井の教師行動. 14. 1. 川田のめあてを捉え,引き出す岩井. 14. 2. 攻撃に参加した川田. 16. 攻撃への河原の参加を促した岩井の教師行動. 17. 1. 河原のめあての変化を待つ岩井. 17. 2. 攻撃に参加した河原. 18. 第4節. 2人に対する教師行動を生んだ岩井の意図. 21. 第5節. 試合中の岩井の教師行動のまとめ. 22. 第4章. 第3節. 第5章. 25. ルールづくりにおける教師行動. 25. 第1節 ルールについての岩井の考え. 一1一.

(3) 第2節. 子ども達の見つけた問題からつくられたルール1. 26. 第3節. 子ども達の見つけた問題からつくられたルール1. 28. 第4節. 岩井からの問題提示. 29. 第5節. 岩井の問題提示によってつくられたルール1. 31. 第6節. 岩井の問題提示によってつくられたルール2. 33. 第7節. 岩井の提案によってつくられたルール. 34. 第8節. ルールづくりに対する子どもの気持ち. 36. 子ども達の記述を通して見た「忍者ドラムカンボールゲーム」. 37. 第1節. 岩井のねらい. 37. 第2節. 子ども達のめあてに着目して. 37. 第3節. 子ども達の作文に着目して. 40. 1. 単元途中の調査から. 40. 2. 単元終了後の調査から. 41. ストーリーを支えるフィロソフィー. 44. 結論. 46. 第6章. 第4節. 第7章. 文献 図表一覧 資料. 一ll一.

(4) 序. 百冊 込. 近年,新学雑観に立った授業の展開がさけばれ, 「個別化」 「個性化」の教育が求めら. れてきたが,中央教育審議会の第1次答申(平成8年7月19日)では,さらに「生きる力」 が強調された.ここで言う「生きる力」とは, 「単に過去の知識を記憶しているというこ. とではなく,初めて遭遇するような場面でも,自分で課題を見つけ,自ら考え,自ら問題 を解決していく資質や能力である」1)としている.. そのような「生きる力」を育むためには,子ども一人ひとりが自律的に学習を進める教 育を展開していかなければならない.そこでは,これまで以上に,教師がどのように指導 し,支援をしていけばよいのかといった教師行動が重要な課題となるであろう.. ところが,1947年号ら35年間に渡って奈良女子大学文学部附属小学校(以下,奈良女子 大附小と略す)に勤めた土谷正規は,新学力観や「生きる力」などで言われる新しい時代 の教育の先駆的実践ともいえる授業を行っている.土谷は,木下竹次(1872−1964)の自 律的学習法を,体育科教育の分野で具体化した人であり,その代表的実践が,今から17年 前に行われた,5年生の「わたしの運動」という単元の授業である.. この授業は,子ども達自身が健康診断や体力テストの結果などから,各自の体力の問題 点を探り,それを補うための運動を工夫し,実践するというものである.そして,同じよ うな問題意識や同じような道具を使う子ども達で班を作るが,授業ではそれぞれが自律的 に学習していくのである.さらに,班も固定的なものではなく,問題意識や使う道具の変 化に応じて班の成員は移動することが認められているのである.. このように,自分で課題を見つけ,自ら考え,自ら問題を解決していく学習であったこ とによって,小林2)が「延々と半年近くにわたって『わたしの運動』の学習に取り組んで きた子どもたちは,なお飽きもせずに学習意欲を燃やし,『題材を,ハンドボールのゲー. ムにしよう』という土谷の提案に誰一人として賛成しなかったという.自律的学習ここに 極まるというべきであろう」と述べるように,子ども達にとって価値ある学習とな6たの であろう.. 以上のように,自律的学習を育てる土谷の体育実践(以下,土谷体育と略す〉は,新学 力観に立った授業の展開の上からも,中教審の答申で強調された「生きる力」を育む授業 をつくる上からも,今後の体育授業のあり方を模索する貴重な存在であることがわかる. 一1一.

(5) 第1章 土谷体育について 第1節 自律的学習の基底となるもの 自律的学習について,土谷は次のように述べている.. 「わたしがいう自律的学習というのは,子ども一人ひとりが自分の本物のめあてを持って. 学習にのぞみ,自分で問題点をみつけてその問題をくだき,新しい実践のめあてを作って 努力し克服達成の喜びをつかんでいくことである」3).. つまり,土谷にとって,子ども自らが「めあて」を持って学習するということは,自律 的学習の基底となっていたのである.. そして,土谷が1962年,43歳の. 表1.足開きとびこしの記録(学習研究158号.1962年) め あ て ことがら. 時に発表した授業の記録票には,. 表1のように, 「①のめあて」 「②のめあて」 「③のめあて」. ①のめあて ②のめあて ③のめあて. たしかめ. 54321 54321 54321. つぎのめあて. 「つぎのめあて」という言葉が使 われている.. 学習でよかっ. スこと 学習で改めた. さらに土谷は,この記録票を実. 「こと. 際に使ってみた結果として,「こ の授業では,教師が一定時間で学習目標を変更する機会を作ったのであるが,学習が子ど もたちのものになるためには,この学習目標の変更を,子どもたちの手によってなされる ことが望ましいのではないだろうか」4)ということも結論の一つとして得ている.そして. 以後,土谷の体育では,子どもたちが授業中にめあてを変更することを認める方法がとら れることになる.. 平成3年発行の小学校体育指導資料5)において文部省は, 「児童一人一人に対応し,児 童の現在の力量に見合った学習のねらいが導かれるとともに,今もっている自分の力に合っ. た具体的な『めあて』をもち,学習を展開する」ための参考としてモデルAとモデルBと いう学習過程を示した.しかし,個に応じためあてを持たせるはずの学習過程が,多くの 教師にとってはパターン化されたものとなり,画一的な指導を生む結果になってしまった のである.そこで,平成7年発行の小学校体育指導資料6)では,学習過程の工夫の例とし て図1のような例を示している. 一2一.

(6) 学習の仕方を理解する工夫の例. 1・・・・…. 1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・X. め あ て. め あ て. め あ て. め あ. ①. ② ①. ②. て. めあて① 一. 一. 一. 一. 進んだ段階の例. 学習の仕方に慣れていない段階の例. X. めあて①. X. 1. めあて①. s t. 一. めあて②. めあて② ※めあて①にじっくり 時間をかけて学習する。. めあて② ※めあて①,めあて②の移行 を子供一人一人に委ねる。. 図1.モデルAの学習過程の工夫の例(小学校体育指導資料.1995年). この図で言えば1962年以後の土谷の実践は,「進んだ段階の例」にあたる.つまり,土 谷の言う自律的学習は,「めあて」そのものも子ども一人ひとりが自らの手によってつか み,学習していく中から生まれるという本質を押さえている点において,いま流行してい る「めあて学習」の先駆けでもあったのである.. 第2節 土谷体育の原点 前節において,子ども自らが「めあて」を持って学習するということが,自律的学習の 基底となっていることを述べた.では,その土谷体育はどのようにして形作られていった のであろうか.. 以下,平成8年4月に,筆者が土谷に対し,めあての捉え方に関して質問した手紙への 応答書簡をもとにして,推察してみたい.. この手紙は,「わたしが昭和22年奈良女高師附小に赴任して,すぐ取り組んだのは, (中略) 『何とか遊び環境を作って,戸外にとび出して遊ばせよう』ということでした」 という書き出しで始まる.. そして,「体操授業は,一人ひとりのやりたいことを聞いてやり,『いっしょうけんめ いやろうな』を合言葉にして進めました.(中略)一心になって遊ぶ子ども,この心が授 業に生かされること,遊びの能力,遊戯精神を根底においた指導をすることを考えました」. と続く.思いきり遊ばせ,喜んで遊ぶ子どもたちの姿から,土谷体育の原形が生まれよう としたのである.. 一. その後,約2年に渡り「みんなを外で遊ばせること,授業は一人ひとりのやりたいこと を書かせ,それを見てやり,授業中にも修正させたりし」という実践を続けていくうちに,. 「一人ひとりの記録の中に,はっきりとその子どものああそらしいものを持ってのぞんで 一3一.

(7) いることが,『楽しい』とか『よかった』と感じることにつながることがわかりました. 『大体よかった』とか『まあまあ』とか書いている子どもは,実は本当のああそを持って いないこともわかってきました」と気づいていくのである.. そして, 「如何にして,楽しく「よかった』という学習をさせようかと,いろいろさせ. ているうちに,各人がめあてをもち,その達成に努力すること」が大事な原点になるとい う考えにたどりつく.. ただし,土谷自身が,「『自律学習にするには,めあてを持たせることである』という 理論からわたしのめあて学習が出てきたのでなく」と述べているように,土谷は,目の前 にいる子どもと,その子どもの記録を丹念に観察することを積み重ね追究する実践から熟 成していったのである.. また, 「各人がめあてをもち」と述べているように,土谷はその実践の初めから,「め あて」は教師が一方的に与えるものではなく,子ども自らがっかみ取っていくものであり, 自ら持った「めあて」であるからこそ,それを達成したときに「楽しい」とか「よかった」. と感じることができることを確かめているのである.つまり「各人がめあてをもち,その 達成に努力すること」は,自律的学習を育てる土谷体育の原点でもあるのである.. 一4一.

(8) 第2章 研究の目的と方法 第1節 研究の目的 土谷体育に関する研究は,小林7)によって土谷体育の構造が,実践的授業研究・自律的 学習・綜合学習の三つの内容から検討し明らかにされている.そして,梶川8)によって木. 下竹次の自律的学習法をもとに誕生し,体育指導を中心として創りあげられた土谷の指導 原理が,また,佐藤9)によって土谷の実践である「わたしの運動」の授業分析を通して, 土谷の指導法が明らかにされている. さらに,土谷に学ぶ実践者について,小林10’11)楊井12),河野13),大上14)によって岩井. 邦夫の実践が,堂薗6)によって仲島正教(西宮市立高須南小学校教諭)の実践が,足立16). によって豊田千代(大阪府豊中市立大池小学校教諭)の実践が分析され,その指導法が明 らかにされている.. 第1章で述べたように,自律的学習を育てる土谷体育では,子ども達自らが「めあて」 を持つことを基底としている.しかし,これまで教師がどのようにして子どもの「めあて」. を捉え,どのような指導を行っているのかといった教師行動を扱った研究は十分になされ ていない.. そこで本研究では,土谷の後継者として自他ともに認められている奈良女子大附小の岩 井邦夫教諭の授業分析を通して,自律的学習へと導く土谷体育の実際を明らかにし,今後 の体育授業に生かすことを目的とする.. 第2節 研究の方法 1.対. 象. 奈良女子大学文学部附属小学校 3年月評(男子19名・女子21名). 2.題材名 「楽しいボールゲームをつくろう一忍者ドラムカンボールゲームー」. 3.期. 間. 平成8年5月14日∼6月25日 計11時間 4.記録方法 (1)授業者に,マイクロケセットテープレコーダーを携帯してもらい,指導の言葉を 録音した. 一5一.

(9) (2)筆者が,ビデオカメラによって,授業を録画し,教師の行動,児童の取り組みを 録画した. (3)児童が,学習前後の学習カード(岩井教諭が使用しているものに,めあての達成 に関する項目を追加.詳細は資料1参照)と単元途中と終了後に感想を記入した. (4)毎時間後,児童が体育に関して記述した日記を収集した.. 5.分析方法 (1)録音した教師の言葉と,録画した教師の行動と児童の取り組みから,授業記録を 作成する. (2)児童の記述した学習カードと日記及び,単元途中と終了後の感想より,児童のめ あてや考えを分析する.. (3>上記(1) (2)から,それらの関連を検討する.. 一6一.

(10) 第3章. 「忍者ドラムカンボールゲ・・一一・ム」の経過. 第1節 題材決定までの道のり 今回記録を採ったのは,岩井のゲームの授業で,題材は「楽しいボールゲームをつくろ う一忍者ドラムカンボールゲームー」である.. 普通の小学校であれば,おそらく「今日からボールゲームを始めます」といった教師の 言葉で題材が決まり,授業が始まるのであろうが,岩井は題材の決定をも学習に位置づけ ているのである.. 岩井の学級では,2年生であった昨年度「ぼくの忍法わたしの忍法パート3」が行なわ れたが,本年度はその続きとして「パート4」を行うかどうか,岩井は事前に子ども達に アンケートをとっていた.その結果は,「はい」が23名, 「いいえ」が17名であったが,. 「忍者体育討論会」では,「はい」「いいえ」のそれぞれの立場で意見を戦わせていった のである.いま流行のディベートである. しかし, 「いいえ」の立場の子どもの意見も, 「ぼくの忍法わたしの忍法パート4」が. やりたくないというものではなく,「もっとほかの忍法を覚えたい」とか「ボール忍法を やりたい」といった発言がほとんどであった.. 話し合いは,拮抗し,なかなか結論が出ないまま,3時間にわたって行なわれた.次に 示すのは,子ども達が話し合いに真剣に取り組む様子が表れた大石の日記である. 今日,二,三,四時間と,忍ぼうとうろんかいがありました. 『はい』の人と,『いいえ』. と言う人と,わかれました.ぼくは『いいえ』にいきました.みんなあっちへいったり,こ っちへきたりして,(「はい」と「いいえ」に別れ,机を向かい合わせにして話し合い,考 えが変わった者は席の移動が許されたため,机の位置が)ぐちゃぐちゃでした.(中略) さいこのとこらへんに『先生にきめてもらったらいいな一』と言った人がいたら,ぼくは, 『なるほど一』と思いました.『ちがう,ちがう,いままでにやったことのない体育がいい』 と言う人がいたら,ぼくも『なるほど一』と,まよってばかりいました.. このようにして,子ども達が体育学習に対して,前向きに取り組もうとする思いの伝わっ. てくる話し合いが続いたのである.結局,子ども達のみで結論を出すことはできず,「今 までやったことのない体育をやりたい」という意見や,「忍者みたいにボールを投げたり. 受けたりしたい」という意見を尊重しながら,岩井の提案で「忍者ドラムカンボールゲー ム」を学習することに決定したのである. 一7一.

(11) 第2節. 「忍者ドラムカンボールゲーム」のルール. しかし,最初は表2の表2.第1時間目に教師から示されたルール. 人)でパスして攻めると. ○ゲームのやり方 敵(相手チーム)の忍者のお城(ドラムカン)に,爆弾(ボール) を投げ当てて勝敗を競う.. いうような大まかなルー. ○ゲームのきまりや約そく ①ゲームの開始→ジャンケンで,城から攻める.. ように,3人(または4. ルが示されるだけで,⑤. ②ゲームの回数→3回ぐらい行う.. に見るとおり,細かなルー. ③得点→相手のお城に,ボールを投げて当てたら1点とする. その合計点で勝ち負けを決める.. ルは,毎時間ゲームを行 う中で起こった問題をも. とに,子ども達の話し合 いによってつくられてい. ④ゲームのやり方→3人(4人)でパスして攻める. (一人で持って走らない) ⑤きまりや約束…学級でつくり,改める. ⑥じゅんびと後かたづけ ○赤ぼうし…赤ドラムカン(鉄ぼうがわ) ○白ぼうし…青ドラムカン(校しゃがわ) ○ゼッケン①・⑤の人は,ボール ○ゼッケン②③・⑥⑦⑧の人は,ドラムカン. くことになった.. 子どもの自律的学習を育てるのであるから,ルールは覚えるものではなく,ルールも子 どもとともに工夫し,つくり上げるものとして学習に位置づけているのである.. そして,このボールゲームのコートは白線で区切ることをしないため,区切ったコート で見られるような試合の中断はない.. また,ドラムカンを12個並べ6コート作り,写真1のように全チームが同時に試合を進 めていく.従って,審判もいないのだが,問題が起こるとお互いに相手チームの言い分を 聞き合いながら,試合が長時間に渡って中断することもほとんどなく,スムーズに進めら れていった.. 写真1. 一斉に試合を行う子ども達. 一8一.

(12) 第3節 学習活動から見た学習過程 10ページの表3は,「忍者ドラムカンボールゲーム」の学習過程である.. 表3からわかるように,毎時間の学習の流れはほぼ一定している.そこで,それぞれの 活動に費やした時間を集計し,その平均時間と割合を示したものが表4である.. 表4.各活動に費やした時間の平均と割合. 活動 内 容 ①試 合. 平均時間. ②話し合い ③チームで相談 ④教師による説明・確認 ⑤補助運動・整理運動 ⑥準備・片付け 合. 計. 割合. 19分48秒 11分20秒 3分23秒 2分27秒 3分55秒. 41.3%. 7分06秒 47分59秒. 14.8%. 23.6% 7.1% 5.1% 8.1%. 100.0%. このように,11時間を通して中心となった活動は,「試合」で全体の41.3%を占めてい る.次いで,試合で起こった問題についての「話し合い」が23.6%で続いている.そこで は,このボールゲームのルールについても話し合われたのである.. 次に多いのは,「準備・片付け」の14.8%である.しかし,第1時問目の準備がこのボー. ルゲームを初めて行うために12分もかかったのを除けば,第2時一目以降は準備と片付け を合わせても6分余りで行っているのである. そして,一番割合の低い項目が,学習の進め方やルールに関する「教師の説明・確認」 の5.1%である.. また,今回の学習では,毎時間の初めに行われた一人ひとりがボールを使っての「ドリ ブル」 「走りながらの投げ受け」 「場所を移動してのシュート」という「補助運動」と. 「チームで相談」している時に一部のチームが自主的に練習を行ったのを除いて,ゲーム のための技術的な練習の時間は取られていない.. しかも,普通は教師が示したものを行うことの多い補助運動においても,第2時間目に 岩井は,「準備の運動は,この前の順番でいいですか」「『何かこんなの入れて欲しい』 というのありませんか」と問い掛け,子ども達にも考えさせるのである.. 以上,各活動に費やした時間の観点から述べたが,毎時間の活動内容の配列に着目する 一9一.

(13) 表3.「忍者ドラムカンボールゲーム」の学習過程 月日. 漕. 5月14日. 5月16日. 5月2i日. 5月23日. 5月28日. 5月30日. 6月4日. 6月6日. 1時間目. 2時間目. 3時間目. 4時間目. 5時間目. 6時間目. 7時二目. 8時問目. 試合場の準備. 試合場の準備. 試合場の準備 @. めあての確認 @. (4分50秒). 学習の進め方の. 5101520253035404550. m認 (1分20秒). 補助運動 @. @. (12分). (3分40秒). ルールの確認 @. (2分40秒). 補助運動 試合① hリブル・投げ受け Vュート(3分45秒) 試合の進め方の m認 (3分10秒) 試合①. (4分55秒). 試合①について. フ話し合い. 補助運動 @. @. (6分20秒). 試合①について. @. (5分15秒). @. (7分45秒). フ話し合い @. (6分50秒). (4分25秒). @. @. 試合場の片付け. (5分25秒). フ話し合い @. (5分15秒). 試合③について. フ話し合い. @. (2分50秒). (4分). (7分45秒). 試合①について. (3分30秒). 整理運動 (1分). @. ヲ範 (3分15秒). 補助運動 @. (2分20秒). 試合①. 試合①. 試合場の準備. @. @. 見学者のめあて. (2分40秒). 見学 のめあての発表. (40秒). 補助運動 @. (2分30秒). 試合①. 補助運動 @. (2分20秒). 学習の進め方の m認 (2分40秒). (3分30秒). 一試合場の準備. @. (2分). ルールの確認及び見 w者のめあての発表. 学習の進め方の m認 (2分10秒). @. 補助運動. (1分30秒). 補助運動(2分10秒). 試合①. @. (3分). 試合①. 試合①. 試合②. 試合②. 示② @. (3分15秒). チームで相談 @. (8分15秒). (6分). (8分55秒). @. 試合②. 及び. 詩㊦@について フ話し合い. (4分55秒). @. 試合②. (6分). 11時間目 試合場の準備. @. (5分5秒). 補助運動(1分35秒). 学習の進め方の m認 (1分35秒). 試合①. 見学者の感想を. @. キく①及び試合. チームで相談①. ?ンつけたいい. @. オ合い(6分10秒). 魔フ発表(4分35秒). 試合②. 試合②. 試合②. 見学者の感想を. キく①及び試合. @についての話. @ @. (5分50秒). @. (9分40秒). (6分40秒). チームで相談. チームで相談. @. 試合③. (4分50秒)侮. 試合③. (2分20秒). @ @. (5分50秒). @. 教師からの課題. (5分35秒). 試合②・③につ. 「ての話し合い. (6分). 試合③. 試合③. @. @. 「い事の発表 @. 詩㊦A・③につ 「ての話し合い. 試合場の片付け @. @. 試合場の片付け @. (2分55秒). 整理運動 (i分). 一 10一. ,. 詩㊦A・③につ 「ての話し合い. (2分40秒). (10分15秒). 試合場の片付け. @. 及び. 詩∫?ノみつけ スいい事の発表. (2分55秒). 整理運動 @. (2分25秒). @. (7分55秒). 見学者の感想を. キく② @. 及び. 詩㊦A・③についての話し合い. @. 及び. ウ師からの課題 示 (8分) 試合場の片付け. 試合場の片付け. @. @. (2分20秒). 整理運動(1分5秒). (8分15秒). 見学者の感想を. @ (10分10秒) ’. @. @. (6分5秒). キく② @ 及び. く5分10秒). 整理運動(1分20秒 (9分55秒). @. チームで相談②. (9分20秒). チームで相談 (2分50秒). (3分15秒). @. (7分50秒). (3分5秒). 試合③ @. (2分25秒). 整理運動G分35秒). キく②及び教. tからのルール フ提示(3分50秒). (9分15秒). ワとめ(2分45秒). 試合場の片付け @. (2分15秒). 整理運動 G分). (2分55秒). 整理運動(30秒). (雨のため,早め ノ終了). @ (10分25秒). (次の時間3年生の. 試合中みつけた. ?jのため,早め. 「い事の発表. 試合場の片付け @. @. ボールゲームの. (4分20秒). 見学者の感想を キく②(2分15秒). @. 試合中みつけた 見学者の感想を. 示③ @ 及び. @. @. 試合場の片付け @. @. @. チームで相談. (4分30秒). 試合③. (4分40秒). (2分20秒). (5分15秒). 試合③. (4分55秒). 試合③. (8分15秒). 試合②. チームで相談 @. (7分). (6分10秒). (6分15秒). (3分20秒). @. 試合②. チームで相談 @. (8分55秒). キく①. チームで相談 @. @. 見学者の感想を キく①(1分30秒). 見学者の感想を. フ話し合い. @ (5分55秒). @. 試合①について. @ @. (3分10秒). 整理運動(1分25秒). r中,素早い子の. フ話し合い. 試合場の片付け @. (3分30秒〉. 試合場の準備. @. ルールの確認(1分) の発表(1分40秒). 補助運動. @ @. 教師からの課題 示①(2分55秒). @. フ話し合い. (6分10秒). (2分45秒). (1分20秒). m認. 補助運動 @. @. 学習の進め方の. 試合場の準備 (2分40秒). 6月25日. 9時間目i1・關目. @. 試合③. 試合②について. @. ルールの確認(2分). (2分50秒). 6月20日. 試合①. 教師からの課題. 試合②について. @. (4分). 試合②. (6分40秒). 試合②. (2分55秒). @ @. 試合場の準備. 試合場の準備. ルールの確認(2分) 試合①. @. @. (3分10秒). 試合①について. フ話し合い @. @. 試合場の準備. (2分20秒). 6月13日. (3分40秒). 整理運動 1分 @. (9分15秒). 試合場の片付け @. (2分30秒). 整理運動(25秒). ノ終了).

(14) と,図2のような3つのパターンに分類することができる. 【第1・2時間目】 ①試合場の準備. ②補助運動・ドリブル・投げ上げ受け・シュート. ③教師による説明・確認・試合の進め方の確認・ルールの確認 など. ④試合・教師は全てのコートを巡. @回し,助言・助力を行う i対戦相手は,. @ 1時間を通して同じ) (1・2回 @繰り返す) ⑤試合についての話し合い E試合中に起こった問題に @ついて話し合い,きまり @や約束を決める. ⑥試合場の片付け. 【第10・11時間目】. 【第3時問目∼第9時間目】 ①試合場の準備. ①試合場の準備. ②補助運動. ②補助運動. ・ドリブル ・投げ上げ受け. ・ドリ ブル. ・シュート. ・シュート. ■. 投げ上げ受け. ③教師による説明・確認 ・試合の進め方の確認 ・ルールの確認 など. ③教師による説明 ・確認 試合の進め方の確認 ルールの確認 など. ④試合(2試合目の後は⑥へ 1・3試合目の後は⑤へ). ④試合 (最終の試合後は⑥へ) ・教師は全てのコー トを巡 回し, 助言・助力を行う. ・教師は1つのコートに絞 り,記録をしたり,助言. o. ・. (対戦相手は,. 助力を行う. 1時間を通して同じ). (対戦相手は,. (1・2回. 1時間を通して同じ). 繰り返す). ⑤チームで相談 ●. ⑤試合についての. 話し合い ・試合中に起こった 問題について話し 合い,きまりや約 束を決める. 次の試合に向けて,. チームで相談する (練習を行う. チームもある). ⑥試合についての 話し合い ・試合中に見つけた. ⑥チームで相談. ⑦整理運動. いい事を発表する. ・次の試合に向けて,. チームで相談する (練習を行う. チームもある). ⑦試合場の片付け. ⑦試合場の片付け. ⑧整理運動 ⑧整理運動. 図2.忍者ドラムカンボールゲームにおける授業展開のパターン 第1・2時問目のパターンは,この単元を始めて間もないことから,岩井は試合開始と 同時に全てのコートを巡回し,助言・助力を行っていったのである.そして,試合が終わ る度に全員を集合させ,子ども達に問題となったことや気づいたことを発表させ,問題を 解決したり,新しいルールを作ったりしたのである. 一11一.

(15) 第3時間目∼9時間目のパターンでは,子ども達が試合の進め方やルールにも慣れてき. たため,いずれの時間においても1時間で3試合ずつ行っている.そして,第1・2時問 目のパターン同様,1試合目と3試合目の後には全員での話し合いの場を設けているが, 2試合目の終了後には,一人ひとりのめあてをチーム全員で確かめ合いながら学習できる ようにするため,チームでの相談の時間を新設したのである.また,このパターン7時間 の内,第5時間目を除いて,試合が始まると岩井は一つのコートに絞って,そのコートで 繰り広げられる試合の記録を取り,その記録を用いることで,パスの大切さやチームのま とまりなどに気づかせようとしたのである.. 第10・ll時問目のパターンにおいては,単元のまとめの時期であるため,より子ども達 が自ら考え,活動できるように,試合後のチームでの相談を増やし,その日の最終の試合 の後にのみ全体での話し合いを行った.しかも,その話し合いでは,試合中に見つけたい い事の発表を中心とし,子ども達のボールゲームに対する意欲を高めようともしていた.. 以上のことから,岩井も土谷がそうであったように,教師が一方的に進める活動をでき るだけ押さえ,子ども達が自ら考え,進める活動を大切にする自律的学習を目指している ことを伺い知ることができたのである.. 一12一.

(16) 第4章 子ども一人ひとりに対応した教師行動 一2人の子どもの事例に即して一 第3章では,「忍者ドラムカンボールゲーム」の大まかな経過について述べたが,本章 では,学習活動の中心であった試合中,岩井は自律的学習を育てるためにどのような行動 をとったのかを2人の子どもの事例に即して実証的に明らかにしたい.. 第1節 城を守る2人の子ども 次に示す図3は,5月16日,この題材の第2時間目の2ゲーム目,緑①(宇部・河原・ 岡山)チームと青①(上村・赤井・川田)チームの試合の,河原と川田の動きである. (児童名は全て仮名). 〈liz}). 途中35秒間,座っ. ↑ て見ている (白毫線). 図3.5月16日2ゲーム目の河原君(左)と川田さん(右)の動き この図を見れば,2人とも7分45秒の試合時間の間,ほとんど城(ドラムカン)の回り しか動いていないことがわかる.しかも,シュートを防ごうとした手にボールが当たるな どの他には,一度もボールに触れることなくゲームが終了したことも全く同じである.し かし,この時の2人のめあてには大きな違いがあったのである.. 実はこの前の時間も,2人は同じように,味方が攻撃している時も自分たちの城の前で 立って見ている場面があった.以下は,5月14日,初めてこのボールゲームを行った日の 2ゲーム目,開始後の授業記録である.(アンダーライン筆者.以下同様). T. 〔攻撃に参加しないで,1人でドラムカンの前に残って城を守っている河原に〕向こ うが攻めてきた時に,守ったらええんやないの?. 河原. いや.. T. いやなの.. 河原. うん.….. 一13一.

(17) T. そう.. T. 〔隣のコートで同じように攻撃に参加せず,ドラムカンの前に残り,城を守っている 川田に〕敵,きてない.. 川田. え.Kつ.. T. 敵,攻めてきてない.. 川田. 違うの.ここ守ってるの.. この日,河原はめあてに「お城をちゃんと守りたい」と書いているように,自分の意思 で城を守っている.また,川田もめあてには「落とさずに,ボールをちゃんとわたせるよ うに,上手にわたすことがめあて」と書いているが,岩井の言葉掛けに対して「ここ守っ. てるの」と答えているように,本人が納得し,自分の意思で自分達のチームの城を守って いるという点では河原と同じであった.. 第2節 攻撃への川田の参加を促した岩井の教師行動 1.川田のめあてを捉え,引き出す岩井. ところが,図3の場面での2人のめあては異なっていた.川田は前時終了後,学習カー ドに「今日は私だけしろまもりでつぎは,私だけじゃなく赤井さんか上村君がしろまもり. をしたらいいと思います」と書いている.そして,第2時間目の彼女のめあては「ドラム カンをいっしょうけんめいにまもってどんどん点を入れていきたいです」となり,今日は 自分も攻撃に参加したいという考えが現れている.しかし,ゲームが始まってみると再び 城を守る役にされてしまう.そして,1ゲーム目の途中下記のような場面が現れる. 川田. 上村君,お城守り.. 上村. お城守り,….. 川田. どうして上村君がやらないで,私ばっかりいやや.. T. 〔川田さんに〕後で出し,そのこと後で出し.. この授業記録からもわかるように,岩井は川田の声を耳にし,彼女がめあてに向けて取 り組めていないのを知り,1ゲーム目の後の話し合いで発表するように促した.だが,1 ゲーム目終了後の話し合いで,川田は発言しなかったのである.そして,2ゲーム目,次 のような場面が訪れる. T 〔川田のチームが点を入れられてしまったが,なかなか攻撃に移らないので,そのチ ーム全員に〕すぐに攻めよう,すぐに.すぐに攻めよう. 一14一.

(18) T. 〔1人城の前から動こうとしない川田に〕すぐに攻めたらええねん,もう.. 川田. 私「行ったらだめ」て言われたもん.. T. なんで,行ったらあかんの?. 川田. 可江ちゃんが….. T. 言いたいことがあったら,言い.言いたいことがあったら,後でちゃんと言い.なあ.. ここで,岩井は本当は攻撃にも参加したいという川田のめあてをはっきりと捉え,再び ゲーム後の話し合いで発表するように促した.・. そして,2ゲーム目終了後の話し合いでは, 「2回目のゲームで,みんなに聞いてもら いたいことある人」と全員に問い掛け,3名挙手した中の川田をすかさず指名した.次は, その話し合いの場面である. 川田. はい.私は,ボールとかを持って,ドリブルして,ドラムカンとかに当てたいのに, ずっとお城ばかり守らされるので,いやです.. T. ああ,そうだ.先生もそう思うわ. 〔河原君に〕河原君はあれでいいのか?(河原 君は「うん」と答える) 〔今一度,河原君に〕いいのか?(河原君は,再び「うん」 と答える)うん.. T. 〔川田さんのチームの赤井さんと上村君に〕ちょっと.しかし,赤井さんと上村君と. このチームは,川田さんは「自分も攻めたいのに,ずっと守らされているんだ」とい うことを,それは3人で話し合ってして下さい.. T. 〔全員に〕自分だけ楽しかったら,いいんじゃないな,このゲームは.みんなが楽し もうとしているのに,川田さんは攻めずに,行かされてないということは,ちゃんと 聞いたらなあかん.. T. 〔赤井さんと上村君に〕返事したって.立って,返事してあげて. (2人は「わかり ました」と答える)はい.それ,言い分聞いてあげ,それが仲よしのチームや.なつ.. T. 〔全員に〕はい.自分の同じチームの仲よしを,作っていくの大事なことや.なつ. 自分だけ入れて楽しかったら,それは楽しいゲームちがう,勝っても.なつ.. ついに川田はめあてに向けて取り組めない自分の気持ちを発表したのであるが,岩井は 問題の解決はメンバーによる話し合いにゆだねたのである.そして,「自分の同じチーム の仲よしを,作っていくの大事なことや.自分だけ入れて楽しかったら,それは楽しいゲー. ムちがう,勝っても」という言葉で,話し合いの方向づけをしてやったのである.. 一15一.

(19) 2.攻撃に参加した川田 話し合いの後の3ゲーム目では,図4のように川田も味方と敵の城の問を走り回り,し かも,2本のシュートを決めたのである.. 赤井さんのシュートが敵に当り,跳ね返った ボールを拾ってシュートし決める.. illi})!. (Ilil]) ・iii,,,. 十. 3ゲーム目の開始と同時に3人で攻め込み,上村君から 川田さんヘパスが渡り,シュートが決まる.. 堀. (白い線). 図4 5月16日3ゲーム目の川田さんの動き そして,3ゲームの後の話し合いの冒頭で,岩井は次のように川田に攻撃に参加できた 気持ちを発表する場面を用意したのである.. T. 〔川田さんに〕はい.それでは,3ゲーム目を聞いてみたいんですが,川田さん立っ て.さっき,「私は攻めたいのに,ずっと守らされているので」っていう自分の気持. ちを伝えて,3ゲーム目どうでしたか? 川田. ちゃんと私にもボールを渡してくれて,城守りだけじゃなくて,ボールをドラムカ ンに当てれてよかったです.. T. 川田さん,当てれたん.なあ.よかったやん.. T. 〔赤井さんと上村君に〕ほれ見てみい.赤井さん,上村君.川田さんも当ててくれた やないかあ.. この川田の発表をうけて岩井は,「同じチームの忍者の気持ちを考えてやったら,よく なる」とまとめ,チームワークの大切さを説いていくのである.その日の日記で川田は, 攻撃に参加できた喜びを振り返り,次のように記している. 5月16日(木). 川田 明菜. 体育(ドラムカンボールゲーム). 今日は,Fの1とたいせんします.. (中略)3し合目ですごくうれしかったことは,1し 一16一.

(20) 合目2し合目まえのたいせんぜんぶしろまもりだったのが3し合目では,2点むこうのFグ ループのしろまもりさんのすきをみてしろにバクダンを当てました.上村君,赤井さんパス. をなん回もしてくれてありがとう!すごくかんしゃしているよ.こんどは,Aの1とたいせ んしてかてるかな.みんなつよいからかてるか自しんあんまりないな.負けてもいいや.い っしょうけんめいがんばってしろにこうげきしていくそ.. 以上,川田のめあてを捉えた岩井が,自らの言葉で問題を発表するようにうながし,チー ムでの話し合いによって問題を解決するように促したことによって,川田は自分の言葉で,. 上村と赤井に対して「パスをなん回もしてくれてありがとう!」と感謝気持ちを記すこと ができたのではないだろうか.そして以後,川田のチームは3人がいっしょになって攻撃 したり守ったりする方法で戦っていくのである.. 第3節 攻撃への河原の参加を促した岩井の教師行動 1.河原のめあての変化を待つ岩井 一方,河原は前時終了後,学習カードの「きょうの学習の中で,一番気持ちよくできた とか,楽しくできたのは,何をどんなにしている時でしたか」という問いにも,「きょう の学習の中で,自分が一番がんばって考えや力を出してやったのは,どんな時でしたか」. という問いにも「まもっていたとき」と答えている.さらに,第2時間目の彼のめあては 「上をまもる」であり,今日も守りを意識していることがわかる.. ところが,先の図3からもわかるように,この日の2ゲーム目の途中では座り込んでし まう場面がみられた.次は,その直後の授業記録である.. T. 〔守り役として1人ドラムカンの前にいるのだが,味方が攻撃している時,ドラムカ ンの前に座っているので〕河原君座ってないで,攻める時攻めようよ.. 河原. 守り役だもん.. T. 守り役だけど,ここにいてても,座ってるだけやったら.. 河原. でも,急に取られてきて,….. T. 攻めに行こうよ.行こうよ.行かへんの?これがいいの?. 河原. うん.. T. うん.2人で困ってるよ,せやけど.2人で困ってるよ.. 河原. (ドラムカンの前から動こうとしない). 決して攻撃への参加を強要せず,河原のめあてを尋ね,攻撃への参加を促し,河原自身 一17一.

(21) のめあての変化を待つ岩井の教師行動を読み返しながら,筆者は土谷の次の言葉を思い出 した.. 「興味を持ち始めた子ども達は,体育館なり運動場に来て,現場の環境や素材に接して, 『やれそうだ』 『ゲームに勝ちたいなあ』などという,その子どもにとっての仮ゐああそ を持つようになる. (中略)子ども達のいだいた仮ゐああそを全部認めてやってrさあ, やれ』と活動に移らせると,子ども達は勢いよく活動を始めるだろう.. しかし,間もなくその子どもにとっての抵抗や障害が出てきて,学習活動が止まるよう になる.教師はそれを予期し,すぐ近づいて,その障害をさぐっそやり,問題点をいっしょ. にさがしてやることが必要になる.(中略)子ども達は,授業の始めから,本物のめあて を考えて持つことは困難であって,やってみ,困ったことにぶち当った結果において出て くるものなのである」17).. おそらく,河原が学習カードに記入した「上をまもる」というめあては,まだ土谷の言 う「仮のめあて」の段階であったと思われる.そこで岩井は,そのめあても認めながら, 攻撃に参加するように促す.そして,彼がまだそれを拒むうちは,いったんその場を離れ, 時々彼の動きを観察するのである.. しかし,先の授業記録の場面で座り込んだ河原に,岩井は「抵抗や障害が出てきて,学 習活動が止まる」のを感じ取り,2ゲーム目終了後の話し合いで,川田が自分も攻撃に参 加したいというめあてを発表したのを利用して,河原にも「河原君はあれでいいのか」 「いいのか」と彼のめあてを確認するのである一一ここでも河原は,「うん」と返事をする だけである.. 岩井としては,河原にも川田のチームがそうなったように,3人がいっしょになって攻 撃したり守ったりする方法で戦ってほしいと願いながらも,「うん」とうなずくのである.. つまり,教師がめあてを与えるのではなく,河原自身が気づくまで待とうと考えたのであ る.ただし,ただ何もしないで待つのではなく,積極的に彼のめあてが本物であるかどう かを確かめながら,彼のめあての変化を待つのである.. 2.攻撃に参加した河原 そして,河原のめあての変化は,3ゲーム目に次のような形で現れる. T. 〔再び,攻撃に参加せず1人で城を守っているので〕河原君も,大きく出てみたら どう?ずっとここにいていいかあ?. 河原. うん.. 一18一.

(22) ここでも河原は「うん」とうなずくだけで,攻撃に参加しようとはしなかった.. ところが,岩井のこの言葉掛けの後,しばらくして,図5のように,河原が自分の意思 で,二度にわたって自分の城を離れ攻撃に参加しようとしている. ①味方の攻撃の時,約30秒間,初めて 大きく堀から前に出るが,歩いて帰る. ,. (lill}). ’. ②再び,約45秒間,堀から大きく前に出る がボールにからむことはできなかった.. 堀. (白い線). 図5.5月16日3ゲーム目の河原君の動き その時,河原がパスを受けたり渡したり,シュートしたりといったボールに触れるプレー. こそなかったが,彼のめあてに変化が起こったことがうかがえる.そして,それは次の時 間でさらに大きな変化となって現れるのである.. 第3時問目,河原の学習カードに記されためあては「ボールがあたらないようにしっか りおしろをまもる」である.この文字だけを読むと,これまでの2時間とほとんど変化が ないように感じるが,彼の動きは,この日のゲームを追うごとに変化していくのである.. 1ゲーム目は,図6のように,前の時間の3ゲーム目と同じように,味方が攻撃すると きに,自分の城を離れる姿が3回にわたって見られた. ②再び,50秒間敵の城に近づき,味方の攻撃を見ていたが, 宇部君のシュートが決まり,走って守りに帰る.. dy. (lilll). ①1分間にわたり,相手 千. の城の前まで行って帰る.. ③味方とほぼ一緒に城を離れ,1分25秒間敵の 城の回りを動いているうちにゲームが終わる.. 堀. (白い線). 図6.5月21日1ゲーム目の河原君の動き 一19一.

(23) このゲームでも,ボールにからむプレーこそ見られなかったが,3回目に城を離れる時,. 河原は他のメンバーとほぼ同時に城を離れ攻撃に参加しようとしている.この時,彼に守 りだけではない攻撃に関するめあてが生まれようとしていたのである.. ①ゲーム開始から55秒間,攻撃に参加し,初めて宇部君から パスをもらい,ドリブルで進み,再び宇部君にパスをする.. @. (ililli). ’. ②2回目の攻撃が試合終了までの3分50秒続いている時の動き.○の地点 (堀 窒「線). で岡山さんからパスをもらい,岡山さんにパスを返す.☆の地点で横にい た宇部君からのパスを受け,城の反対側に回った宇部君にパスをわたす.. 図7.5月21日2ゲーム目の河原君の動き そして,ついに図7のように,2ゲーム目の試合開始と同時に城を離れた河原に,この ボールゲームを通じて初のパスが宇部からわたる.パスを受けた彼は,約2mドリブルで 進み,再び宇部にパスを返す.. また,2回目の攻撃では,2カ所でパスの受け渡しを行っている.さらに,今までは自 分と敵の城の間を味方のプレーを見ながら動いているようにしか見えなかったが,このゲー. ムでは,相手の城の裏側に回り込むよ うな動きも見られ,攻撃に積極的に参 加しようとする姿を見ることができた.. 同様にして3ゲーム目も写真2のよ うに,他のメンバーと一緒に城を離れ 攻撃したり,相手のボールになるとす ぐに城に帰り,城を守ったりする生き 生きとした動きが続いたのである. 写真2.攻撃に向かう河原君(写真右下). 一20一.

(24) この日の終了後,河原は学習カードの「きょうの学習の中で,一番気持ちよくできたと. か,楽しくできたのは,何をどんなにしている時でしたか」という問いにも,「きょうの 学習の中で,自分が一番がんばって考えや力を出してやったのは,どんな時でしたか」と. いう問いにも「はじめて攻めたとき」と答えている.さらに,第4時亭亭の彼のめあては 「おしろをまもってばかりいない」となり,守りだけでなく攻撃も意識しためあてへと変 わっていったのである.これはまだ,土谷の言う「本物のめあて」にはなっていないかも しれないが,「仮のめあて」から一歩前進しためあてになったのではないだろうか.. そして,第4時問目が行なわれ,初のシュートも決めた河原はこの日の日記に次のよう に攻撃に参加した喜びを記している. 5月23日(木). 河原 幸治. ドラムカンボールゲームのこと. 今日,ドラムカンボールゲームをしました.7対2でかちました. 「7対2でかったぞお一」 と言いました.. 「おしろばかりまもっていなくてよかったなあ一」 と言いました.. かててよかったです.. 第4節 2人に対する教師行動を生んだ岩井の意図 以上,第2或問目の2ゲーム目,動きを図で現しただけでは一見同じに見える河原と川 田が,どんなめあてでそこにいたのか,それを教師はどのように捉えて,どのように対応 したのかを述べてきた.. そして,またそれは,2人に対する教師の助言・助力でありながら,全体に対する働き 掛けでもあった.そのことは,次に示す,第2時間目の授業後の岩井と筆者との会話の中 から見出すことができる. 岩井 今日,あの,河原で変えようか,川田で変えようかっていうのがあったわけや.見な がら.. 河原は,あれ無理に出さして,点入れられたら,先生あんなん言ったからつてなるわ な.ところが川田さんとこは,出たほうがよかったわけやな. ・筆者 ううん.点が入りましたもんね.. 一21一.

(25) 岩井 だから,ずっとドラムカンにへばりついている子をどうしょうかいうのが,心にあっ たわけやな,今日な.で,1人変わったわな,今日は.. この「ずっとドラムカンにへばりついている子をどうしょうかいうのが,心にあったわ けやな,今日な」という会話からもわかるように, 「本物のめあて」になっていない河原,. 自分の切実な思いを込めためあてが達成できずにいる川田,この2人のめあてをうまく捉 えた岩井は,即座に解決してやるべき姿を川田に見いだし,全員の問題として考えさせる. ことで解決へと導くのである.それは,さらに河原の心を揺さぶり,彼のめあてをも変化 させることにつながったのであろう.. 第5節 試難中の岩井の教師行動のまとめ 平成3年に岩井の「ぼくの・わたしの忍者ごっこ」 (1年生14時間)の授業を分析した 河野18)は,巡回指導中における岩井の言葉掛けを「発言行動のカテゴリー」としてまとめ. ている.今回のボールゲームの試. 表5.岩井の発言行動カテゴリー. 平中における言葉掛けを,同様に 分類した結果が表5である. なお,河野は, 「これはおもし. 試合中. 発言数 割合. カテゴリー. 157. 2.8%. 21. 30.0%. 222. 6.9%. 51. 20.9%. 155. 説明. 0.7%. 5. 5.0%. 批判. 2.3%. 17. 12.7%. 共感(受容). 15.2%. 113. 15.9%. 指示. 231. 19.9%. よっしゃ」といった言葉掛けを. 77. 6.6%. 「受容」と分類したが,今回の授. 237. 20.4%. 117. 10.1%. 確認 賞賛 激励 問い掛け. 109. 9.4%. 57 148. 業においては「ああ,爆弾当てら れた」 「いい音鳴ったあ」など,. 子ども達の気持ちを代弁する形で 岩井が発した言葉がかなりみられ. 割合発言数 21.2%. 185. ろい」 「見てあげよう」 「よっしゃ,. 巡回指導中. 1161100.0%. 合計. 100.0% 741. たので,それらを「共感」として 注)試合中は今回の授業での結果巡回指導中は河野の論文 から引用.. 分類した.. 今回の授業で岩井が試合中に行った言葉掛けで最も多かったのが「さあ,反撃反撃」 「入れ返そう」 「頑張ろう頑張ろう」といった激励で,全体の20.4%を占めている.. 次に多いのが,「持って走らなかったな」「○対○だね」といったルールや得点に関す る確認の言葉掛けで19.9%.. 次いで多いのは,指示の言葉掛けで15.9%であるが,それらの多くは「○○しなさい」 一22一.

(26) という命令的な指示ではなく「みんなで守ろうよ」 「それをパスやな」といった子どもに 行動の決定権を残した形の指示がほとんどであった.. 岩井は,この単元を通しての3時間37分秒45秒という試合時間の間だけで,のべl161回 もの発言(センテンス数)を行っている.途中,試合の様子を記録に取りながら,ほとん. ど発言しない試合時間があったのを含めても,およそll秒に1回の発言を行ったことにな る.. 全てのコートを巡回しながら,これだけの発言を行うのであるから,岩井は次々と矢継 ぎ早に発言しているようだが,そうではない.時には,じっと子ども達の動きを見るだけ で,次のコートへ移ったりもするのである.. その岩井の教師行動を,子どものめあてとの関係から図式化すると,図8のように表す ことができると考える.. 教 師 行動. 子どもたちの活動 ○漠然とした仮のめあて を持って活動する. J. ○じっと見る ・問題が起きた時,自分たちで話し 合って解決しているか ・力いっぱい続けて活動しているか ・動きが高まっているか ・約束やきまりが守られているか. ○問い掛け・指示・待つ. ○動きが停滞する. 「ここは何してるのかな?」. s. 「今どこにいたらいいかな?」 「みんなで守ろうよ」. ○次のめあてを見つけて 活動する. ○じっと見る・賞賛・激励 「おお,○○さんうまく守った」 「今の早さがいいなあ」 「さあ,反撃反撃」 「頑張れ,頑張れ」. 図8.岩井の試合中の教師行動. 一23一.

(27) つまり,岩井は子ども達が舌動を始めた「仮のめあて」の段階では,「問題が起きた時,. 自分たちで話し合って解決しているか」「力いっぱい続けて活動しているか」といった観 点で,まず「じっと見る」のである.そして,第3節で紹介した河原のように,子ども達 の「めあて」が薄れ,動きが停滞したと感じた時に, 「問い掛け」たり, 「指示」の言葉. を投げ掛けたりしながら,子ども達のめあての変化を「待つ」のである.. そのことによって,子ども達は自ら考えた新しいめあてを持って活動する.そこで,岩 井は再びじっと見て,新しい「めあて」に向かって活動する子ども達を「激励」し,「賞 賛」するのである.. こうした岩井の教師行動に導かれながら,子ども達は次・々と「めあて」を新たにし,学 習を進めていったのである.. 一24一.

(28) 第5章 ルールづくりにおける教師行動 第4章では,自律的学習を導くために,試合中において岩井がとった教師行動について 述べてきた.そこで,本章では,自律的学習を育てるならば,ルールも覚えるものではな く,子どもとともにつくり上げるものであると考え重要視していた岩井が,どのようにし てルールをつくり上げたのかについて明らかにしたい.. 第1節 ルールについての岩井の考え ボールゲームのルールを子どもとともにつくり学習を進めていく方法について,土谷は 1956年に5年生の「ハンドボール」を題材とし,「問題をみつけて発表し,ルールを作ろ う」という目標で10時間行っている.この時決められたルールには「人のボールを奪いとっ. た時は,元の人にかえす」といったものが含まれていたように,既成の「ハンドボール」 のルールにとらわれたものではないことがわかる. また,それを紹介した稿の前半で土谷は,体育の学習に限らない広い立場から, 「私た. ちは,その集団のルールが高まるように指導することが必要である.その集団のルールが 高まるためには,教師や,他のおとなたちが教え込んだり,おしつけても駄目であって,. 子ども達自身が生活の中から問題を見つけ,それを解決する方法として,ルールを作って 守るようにするのである」と述べている19).. つまり,めあてと同じように,ルールも子ども達の手でつくりあげるものでなければな らないという土谷の考えが読み取れる.しかも,この実践が今から40年前に行われている のを知る時,筆者は改めて土谷の先見性に驚かされるのである.. そして,岩井はボールゲームにおけるルールのつくり方について, 「既成のスポーツの. ルールでゲームをさせたり高度なルールをたくさん知っていることを良しとしない.ルー ルは,その学級の実態や今までの学習経験や様子に応じて,子どもの問題となったことの うち,みんなが守ることのできる程度のものをつくり,不適当であれば,1時間の学習の 中であっても改めていけばよい.最初は簡単なきまりであっても,学習が進むにつれて問 題ももめごとも多く出てきて,必要感からルールが生まれてくる.そして,みんなが本気 になって取り組み,納得ずくでつくったルールや約そくは,守ることができる.ルールを 守る習慣は,フェァープレーの精神や公正な態度を養い,学校生活における民主的な生活 態度を育てていく基盤となる」と述べている20>.. 一25一.

(29) これは,岩井が先の土谷の考えを受け継いだ形で,ボールゲームのルールづくりに関し てより具体的に述べたものである.岩井もまた,自律的学習を育てるためには,ルールも. 教師が一方的に与えるものではなく,子ども達とともにつくり上げていくものであると考 えていたのである.. 第2節子ども達の見つけた問題からつくられたルール1 では,岩井と子ども達は,どのようにルールをつくり上げていったのであろうか.. 第3節の表2で示した最初のルールは授業の推移とともに表6のように付け加わっていっ. た・. 表6.ルールの変遷. 第1時間目の授業では,. 試合場を準備するのに12分. 新しくつくったきまりや約そく. 01時問目 5/14(火) ア.ボールを持って走らないで,ドリブルしながら進もう.. もかかったために,2試合. イ.顔面をねらわない.もし当てたら,すぐあやまろう.. しか行えなかったが,試合. エ.ドラムカンの裏側から攻めてもよいし,上に当ててもよい.. が行われている問,岩井は. オ.ボールがころがって,ドラムカンに当たっても,1点とする.. ウ.1人で攻めないで,チームの人とパスして攻めよう.. カ.勝っても自慢しない.. 1つのコートを平均17秒と いう時間で観察しながら, 次々と助言して回る.. 時には,じっと子ども達 の動きを見るだけで,次の コートへ移ったりもする. このように,6コー一一・一ト全. ての試合を見てまわりなが ら,新しいルールを決める. 必要のあるような問題が起. キ.もめごとが起きて,話し合いをしても,どちらも言い分がある時は, 公平にジャンケンで決める. ク.ボールを同時に取り合ったら,ジャンケンで決めよう.. 02時間目 5/16(木) ケ.ドラムカンにかすれたボールも,1点とする. (点数でもめるから,自分のチームで入れた点数を,きちんと数え. ていく). 03時二目 5/21(火) コ.相手チームの投げたボールが,味方の人に当たってからお城に当っ ても,1点とする. サ.城の堀(白い線)の中へ,敵は入れない.味方の人は,自分のお城 に2人まで入って守ってよい.. 04時間目 5/23(木) 〈準備や後片付けは,走ってしよう〉. 05時問目 5/28(火) シ.もしチャンスがあって,1人で攻めて入った点も1点とする. ス.同じチームの人や相手チームの人に,悪口を言わないようにしよう.. こっていないかも見て回っ ているのである.そして,. 試合が終わると,子ども達. 07時間目 6/4(火) セ.相手に時間かせぎと言われないように,パスをして攻める. ソ.お城を守っている相手の人の体促・頭)に,ボールが当たったら, すぐあやまる.. 08時問目 6/6(木). から問題を発表させ,ルー ルを決めていくのである.. タ.ドリブルをして持って,またドリブルしない. 二度ドリブルした時は,その場所から相手ボールとする. チ.線の中へ入って入れた点は,ぬいて,得点としない.. 一26一.

(30) そのようにして,第1時問目の1ゲーム終了後の話し合いで付け加わったルールが,ア からオである.次に示すのは,それらのルールが決定するまでの経過の一部である.. まず,アの「ボールを持って走らないで,ドリブルしながら進もう」というルールが生 まれたのは,1ゲーム目,緑①(宇部・河原・岡山)チームと白①(三波・小村・岩本) の試合の途中に,ボールを持って走る子が現れたことがきっかけとなる. 岡山. (岡山さんがボールを手に持ったままドラムカンに走り寄り,ドーンとぶつける). T. 〔両方のチームに〕ああ,当たった.. T. 〔三波君が,不満そうな顔で何かつぶやいたのを聞いて〕ああ,何や?. 三波. 持ってるう.持って走ってるう.パスして,〔Tはあわてて話そうとする三波君 の言い分を,「うん」とうなずきながら聞いてやる〕ドリブルして….. 岩本. あのねえ, 〔Tは「持って走ってるん?」と尋ねる〕持ってるの.持って走って るの.. T. 〔三波君と岩本さんに〕ほな,後でそれ出して.次の時,出して.なあ.持って走 ってる.. この場面で岩井は,子ども達の出した問題が,他の試合でも数多く見られることから, 全員の問題としてル・一一一・ルをつくる必要を感じ,試合の後の話し合いで発表するように促し. たのである.そして,1ゲーム目終了後,次のようにして子ども達の見つけた問題からア のル・一一・一ルが生まれたのである.. T. 〔全員に〕はい,今,1回目のゲームをやって,先生こんなことがあったので,気を つけてほしい,みんなに言いたいことある人?(8名挙手)あるんだなあ.はい.. T. 三波君からいきましょうか.はい.. 三波. 岡山さんがボールを持って走っているので,やめてほしいです.. 岡山. これから,気をつけます.. T. 〔全員に〕ボールを持って走らない,ラグビーみたいにボールを持って走らないやっ たな.じゃあ,どうしたら前へ進めるの. (子ども達「バスケットみたいに,ドリブ ルして」とか「パス」などと,それぞれに考えを口にする). はい.じゃあ,それ,そう決めとくよ.〔記録用紙にメモを取りながら〕ボールを 持って走らないで,前へ進む場合には,ドリブルして進む.いいね? (子ども達「はあい」)⇒アのルールが決定する. 一27一.

(31) 第3節子ども達の見つけた問題からつくられたルール2 アのルールの決定に続いて話し合われたのが,次に示すイの「顔面をねらわない.もし 当てたら,すぐあやまろう」というルールについてである. 宇部. はい.あの,三波君達に注意してもらいたいんだけど,あの,岩本さんが,あの, なんかゴールところで入れれないので,あの,顔面ねらって投げてきて,(岩本さん は「顔面ねらってない」とつぶやく)ぼくに,ぼくのほっぺたに当たっていたかった のでそういう顔面ねらいはやめたほうがいいと思います.. T. 〔全員に〕はい.これも約束いい?(子ども達「はあい」と答えるが,岩本さんは, 「ねらってない」と言っている). T. 〔岩本さんに〕知ってやらなかったんだけどな.. T. 〔全員に〕知って顔面をねらわないけど,当たってしまったらどうしたらいい?(子 ども達数名が, 「あやまる」と答える). あやまる.これ,約束だよ.〔記録用紙にメモを取りながら〕そして,知って,そ の顔面をねらったりしないでいいね,約束は?(子ども達「はあい」)いいね?. そりゃあ,そやな.お城を攻めてんのに,顔面攻めてたらあかんな.(子ども達か. ら笑い声がもれる)よおし.それ,約束だよ1顔面をねらわない.知らなくてやった ら,あやまると.約束だよ.⇒イのルールが決定する. ここでも「顔面ねらいはやめたほうがいいと思います」という宇部によって出された問 題をもとにルールを決めているが,今回は岩井が試合中に見ることのできなかった場面が 問題として出される.. そこで岩井は,まず,宇部の意見から「顔面をねらわない」というルールをつくる.し かし,岩本の「顔面ねらってない」というつぶやきから,彼女の納得できない様子を知り,. 岩本の心を落ち着かせるように「知ってやらなかったんだけどな」と語りかける.その上 で,故意でなくてもボールを顔面に当てることは相手にとっていやなことなので,「もし 当てたら,すぐあやまろう」というルールを付け加える.. そして, 「そりゃあ,そやな.お城を攻めてんのに,顔面攻めてたらあかんな」とユー. モアをまじえてまとめることにより,それまで対立していた2人の気持ちと話し合いの雰 囲気を和ませるのである.. 上記のように,子ども達が見つけた問題を全体の場で話し合うことによって,第1時問 目にはア・イの他にウからクの合計8つが,新しいルールとして誕生していったのである. 一28一.

(32) 同様にして,第2時間目には「ドラムカンにかすれたボールも,1点とする」というケ のルールが加わった.このようにして誕生したルールをもとに次の時間の学習が進められ. ていったのだが,第3時間目には,第1・2時間目とは少し異なる方法でルールが誕生し たのである.. 第4節 岩井からの問題提示 第2時間目には,試合の進め方に関する問題はほとんど出なくなっていたので,第3時 北目,岩井は新たな方法で試合を観察していった.この日の岩井は,1ゲーム目開始と同 時に白①(三波・小村・岩本)チーム対赤①(藤本・長嶋・桝本)チームのコートの横に しゃがんで,この試合を観察しながら,画板にのせた画用紙にマジックで,図9のような メモを取り始めたのである.. 赤①チーム. 白①チーム. (1=藤本・2=長嶋・3=桝本). (1=三波・2=小村・3=岩本). 3.2.1一>3−1−2.0 2.1.3.@ 1.2.3.1.@. 1→2→×(パスミス). 1→2→3→×(パスミス). 1.× 1→2→3 (白1とぶつかる). 1→2→シュート× 1→2→3→シュート× 1.@ 1→3→1→シュート×. 1.2.× 1.2.×. 2 一・@. 図9.5月21日1ゲーム目に岩井のとったゲームの記録 これは,子ども達が着ているユニホームのゼッケン番号を矢印でつないだものである. 例えば, 「3→2」であれば,3番の者から2番へのパスがつながったことを表す.また, 「×(パスミス)」や「×」はパスをした方のミスを表し,「シュート×」はシュートミス. を表す.他に,「①」の様に丸囲いの数字は決まったシュートの本数を表している. そして,1ゲーム目終了後の話し合いで,この図を次のように用いた. T 〔全員に〕はい,これ〔1ゲーム目の記録用紙を〕見てちょうだい.1回戦のね,Eの1 (白①チーム)とCの1(赤①チーム)の試合ですよ.どっちが勝つと思う?見てみるよ.. Cの1は1番2番,ボール渡ったけど,2番味方にパス渡ってない.1番2番,味方に パス渡ってない.1番2番,味方にパス渡ってない.1番,パス渡ってない.1番2番, 一29一.

(33) 2番が3番へほったんだけど3番の桝本さんのとこへ白1がぶつかった. ところが,こちら見てごらん,Eの1. (図7の白①チームの説明を赤①チームと同様に行う). どうしたらいい?何が大事や?(子ども達,口々に「みんなにパス」などと答える) そうや,みんながパス回っている.こちらは?(数名が「回っていない」と答える) 回ってない.それでは,2ゲーム目はパス続けて,頑張っていけるようにしよう.. この場面で岩井は,ゼッケンと矢印でパスのつながりを表した簡単な図を見せることで,. チーム全員によってパスを回していくことが,勝敗を分けることを確認した.つまり,岩 井がこのボールゲームで大切にしたいと考えていたのが,チーム全員がパスをつないで攻 めることだったのである.. そして,2ゲーム目・3ゲーム目と,同じ対戦を観察し,記録した結果が図10である. 白①チーム. 赤①チーム. (1=三波・2=小村・3;岩本). (1=藤本・2;長嶋・3=桝本). 1→3→2→3→× 2→1→① 3→1→2→3→1→ドリブル×. 2. 2→×. ゲ. 1→3→× 2→3→×. 】ム目. R→2→1→2→3→×. P→2→3→1→2→3→1→2. →3→1にがす→2にがす 3→× 1→2にがす 3→×. 1→3→2→① 1→3ジャンケン. 2→3→2→1→2→3→① 1→3→2→1→3→1→2→②. 3 ゲ1ム目. 1→3→1→2→× 1→×. Q→1→2→×. P→3→2→1→オワリ1. P→2→1→2→1→①. ■. 一. 一. 一. 一. 一. 印. ◎. 図10.5月21日2・3ゲーム目に岩井のとったゲームの記録. この図から,どちらのチームも岩井が考えたように,みんなでパスを回すことを意識し 試合を行っていたことがうかがえる. ところが,3ゲーム目の途中,岩井が筆者に「こうなったら,もうシュートができんね. これは,城に堀をつくらんと,これはもうシュートできないわ. (『ああ,もって走って. る』と叫ぶ子どもの声)もって走ることになってしまうし」と語りかけてきた. 一30一.

参照

関連したドキュメント

自分は超能力を持っていて他人の行動を左右で きると信じている。そして、例えば、たまたま

目標を、子どもと教師のオリエンテーションでいくつかの文節に分け」、学習課題としている。例

信号を時々無視するとしている。宗教別では,仏教徒がたいてい信号を守 ると答える傾向にあった

C :はい。榎本先生、てるちゃんって実践神学を教えていたんだけど、授

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2

使用済自動車に搭載されているエアコンディショナーに冷媒としてフロン類が含まれている かどうかを確認する次の体制を記入してください。 (1又は2に○印をつけてください。 )

(1)  研究課題に関して、 資料を収集し、 実験、 測定、 調査、 実践を行い、 分析する能力を身につけて いる.