• 検索結果がありません。

援助行動と法に関する規範認識の構造

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "援助行動と法に関する規範認識の構造"

Copied!
84
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

援助行動と法に関する規範認識の構造

ーアメリカにおける実証データをもとにして一

木 下 麻 奈 子

目次

第 1章 第 2章 第 3章

第 4章

第 5章

問題の所在 モ デ ル 方法 第 1節 第 2節 第 3節 第 4節 第 5節

結 果 第 1節 第 2節 第 3節

結 論

調査対象 調査方法 調査期間 質問紙の構成 分析方法

クロス表による分析結果

LISRELによる分析結果

Ordered Probit Modelによる分析結果 三七二

‑ 111  ‑ 16-3•4-700 (香法'97)

(2)

援助行動と法に関する規範認識の構造(木下)

第 1章

この研究の目的は,援助行動に代表される利他的な行為と法の関係につ アメリカ人がどのように捉えているかを,実証データによって明ら いて,

かにすることである。 これはまた,筆者がかつて提示した,援助行動とい アメリカ人の価値観や規範に対する認識構造のモデルを検証

(I) 

することでもある。

う次元での,

問題の所在

たとえば,路上で誰かが強盗に襲われているのに出くわしたとしよう。

あるいは,人影のない路上で見知らぬ人が倒れているのを見たとしよう。

そのとき,人はこれらの被害者を助けようとするだろうか。

また助けるとして,人はどのような動機で他者 それとも見て 見ぬふりをするだろうか。

を援助しようとするのであろうか。

この場合, ふつう考えられるのは,道徳のような内在的な動機, ないし は社会の中に存在する利他的な規範といった,ィンフォーマルなルールの

(2) 

影響である。ではこのような道徳や社会規範が弱まった「倫理的低圧社会」

になったとき,援助行動を強制するアメリカの一部の法律(このような援

(3) 

助行動を強制する法を,以下本稿では「援助法」と略称する)は有効に機 能するだろうか。もし機能するとすれば,人はこれら法や道徳を含めたトー タルな社会的ルールから,具体的にどのような影響を受けるのか, またそ の場合,いかなる基準をもとにして行動を決めるのか。

そも法や道徳をどのように評価しているのか。

そして人は, そも それは援助行動に関して,

三 七

相互補完的な関係にあるのか,相乗的な関係にあるのか,

る関係にあるのか。本研究の目的は,

や規範意識が,援助行動にどのように結びつくかを分析することである。

援助行動の背後にある価値観や規範のうち,

次の 2点である。第 1は,援助を強制する法を立法し,援助を義務化する ことによって,人の行動はどのように変化するかという問題,第 2は,人

そもそもそれを法的な問題と考える それとも対立す このような法や道徳をめぐる価値観

とりわけ主眼を置く問題は

が援助をめぐる規範を認識するとき,

16-3•4-699 (香法'97) ‑ 112  ‑

(3)

か, あるいは非法的な問題と考えるか, そのことを判断する基準と根拠は 何かという問題である。

この場合援助行動と法の問題は, 2つの切り口を持つ。 1つは「よいこ とを行う人の心理」という側面であり, もう一つは, 「法による道徳の強制 の問題」という側面である。前者は社会心理学における「利他的行動」, 「援 助行動」の研究, ないしは性格心理学や,発達心理学における「道徳意識」

14) 

の研究として分析が進められてきた。一方後者に関しては, 主に法哲学の 分野で古くから議論されてきた。 それらの議論の多くは「法と道徳, ある

いは利他的行動がどのような関係にあるべきか」についてのものであり,

当為を強調した研究である。特にミルの研究に代表されるように,個人の

(5) 

自由の侵害との関係で,いかに法を位置付けるかに焦点が当てられている。

以上の研究史の中から問題点として浮かび上がってくるのは,次の 3つ である。第 1に,心理学側からの研究では, マクロな視点からの援助行動 に関する研究が数少ないことである。援助する動機や意思決定過程に関す これらは,援助を る研究など,個人の認知レベルの研究は膨大であるが,

社会政策的に促進させる観点のものではない。第 2に,法哲学側からの研 究では,法と道徳に関する実証研究が存在しないことである。第 3に,両 者に共通する欠点として,法や道徳を社会的ルールの一部として,文化相 対的に捉えた議論が少いことである。法や道徳などの社会的ルールは,

うまでもなく文化に大きく依存しているが, これを無視して議論が抽象的 に語られる場合は,

る。

その成果がどれだけ普遍的なものであるかが不明であ

本研究では, これらの問題点を次のような方向から克服することを試み る。第 1に,

に組み込みうるかという,

この研究においては,援助に対する人の心理をいかに法政策 いわばミクロとマクロの視点を接合するモデル を使用する。第 2に, この研究では, 一定の対象者に対して社会調査を行

三七〇

ぃ,筆者のモデルでどれほど援助行動の全体像が説明できるかを,統計的 手法を用いて実証的に明らかにしていく。第 3に, この研究は,援助行動

‑ 113  ‑ 16--3•4~698 (香法'97)

(4)

援助行動と法に関する規範認識の構造(木下)

六九

と法の関係を,国際比較により相対的に解明する。対象とするのはアメリ 力と日本である。ただし紙幅の関係上,本稿ではアメリカでのデータの分 析にのみ焦点を絞る。日本でのモデルの妥当性,およびアメリカとの比較

については,別稿で検討する。

第 2 章 モ デ ル

本研究で用いるのは,筆者が以前に作成した,援助意図と法に関する意

(6) 

思決定過程モデルである。このモデルでは,援助行動は 5つの行動類型に 分類されると考えている。それらは「内面的同調」による援助行動,「外面 的同調」による援助行動,「心理的反発」を伴う援助行動,「逸脱行動」,ぉ

よび「個人行動」である。これらの類型は,モラリティーに対する評価,

法の目的に対する評価,サンクションに対する評価という, 3つの潜在的 機能の組み合わせから導かれたものである。モラリティーに対する評価と

は,援助行動を「私的(内面的)動機」に基づいて行うことに対する評価

(志向)を意味する。法の目的に対する評価とは,「援助義務」を法で規定 することに対する評価(志向)である。サンクションに対する評価とは,

「制裁」を用いて援助させることに対する評価(志向)を意味する。ただ しこの 3つの概念は,仮説的に構成したものであり,行動レベルで顕在す るものではない。詳しい説明は前論文にゆずるとして,その組合わせによ る5つの行動類型を簡単に説明する(第29表参照)。

まず「内面的同調」による援助行動とは,援助をすべきというモラリ ティーの高い人が,援助を義務づけた法の目的も,また義務づけるサンク ション自体をも受容して,援助を行うものである。次に「外面的同調」に よる援助行動とは,法の強制力により援助は行うが,援助行動が規範とし て内面化されていない場合である。第 3は「心理的反発」を生じ,援助を 行うにしても,不満をもつ場合である。このケースでは法の目的に対する 認知と,サンクションに対する認知が分離状態にある。第 4は,「逸脱行動」

であり,援助の必要性を認識しながらも,法規範の内容もサンクションも

16-3•4-697 (香法'97) ‑ 114 

(5)

否定する場合である。第 5は「個人行動」であり,援助の必要性を認識せ ず,その上,法規範の影響を受けない非規範的な行動である。

もしこのモデルが妥当なものであるならば,モラリティーに対する評価,

法の目的に対する評価,サンクションに対する評価の組み合わせによって,

上記の異なる行動パターンが見出されると予想される。そこでこの研究で は,まずこの 3つの潜在的変数を統計的に推定し,その後に理論的に構築 された 5つの行動類型がどれほど妥当であるかを検討する。

以上をまとめて述べると,ここで実証しようとする具体的な仮説は次の 3つである。

(仮説 1) : 顕型として援助行動は同一でも,その内部構造にはいくつかの タイプが存在する。

すなわち行動のレベルでは見かけ上同じように援助しているが,法や道 徳に対する認識の仕方が異なるため,先に述べた援助行動の類型が生じる。

とりわけ,法に対する認識内には,法の目的に対する評価と,サンクショ ンに対する評価が存在するところから,数種の組み合わせが派生すること になる。従来の遵法論では,法に対する評価は内部構造を持たないとみな すか,たとえ内部構造を持つとしても,人の発達段階によってその内の一 つが出現すると考えている場合が多かった。筆者は,法に対する評価が多 元構造を持つものと考えており,本研究ではそれを実証的に示すことを目 的としている。

(仮説 2) : 法がある場合とない場合では,たとえ外見上の行動に差が見 られなくても,認知構造が変化する。

すなわち,援助法が立法されたり,法律によって一定の行為をすること が強制されると,すでに内在化している規範認識の構造が変化すると思わ れる。その変化については,ポジティブとネガティブの両面が想定される。

(仮説 3) : 他者への援助行動は,アメリカでは一義的にモラリティーの 問題と考えられている。ただし,個人の道徳心やコミュニティーの結束力 が低下した低倫理社会では,人びとは援助を強制する法の施行もやむを得

六八

‑ 115  ‑ 16-3•4-696 (香法'97)

(6)

援助行動と法に関する規範認識の構造(木下)

ないと評価するだろう。

3

章 方 法

第1節 調 査 対 象

調査地域として,アメリカ合衆国のカリフォルニア小卜

I

サンフランシスコ 市(SanFrancisco city)を選択した。サンフランシスコ市を選択した理由 は,①それが大都会であり,この研究の対象である「襲われた被害者への 援助」という問題が実際に起きる可能性が高いと考えられたためである。

②また本調査との比較のために行う日本での調査地域を大阪市に予定して いたため,それと類似した大都市である必要があったこと(ちなみに,大 阪市とサンフランシスコ市は姉妹都市である),③さらに筆者が当時所属し ていた大学 (UC,Berkeley)がサンフランシスコ市に近く,有権者に馴染 みが深いため,回収率が高くなると考えたからである。調査対象の母集団 は,同地域在住の有権者登録した男女の個人 (registeredvoters) 42万2285 人であ囚。その有権者名簿からシステマテック・ランダム・サンプリング

(8) 

(systematic random sampling)によって,調査対象者1000人を抽出した。

(9) 

回収された有効サンプル数は358人(回収率35.8%)であった。回収率が低 かった理由は,有権者登録の名簿が,カリフォルニア州知事選挙直前のも のであったため,死亡者が名簿に記載されているなど不備があったこと,

またサンフランシスコ市が大都市であるため市場調在等の一般の調査が多 く,学術研究の調査に対しても不快に思う回答拒否者が多かったことなど による。

なお,カリフォルニア小卜1では,現時点ではまだ一般的な「援助法」を立 法化していない。

六七

第 2節 調 査 方 法

調査方法はすべて郵送法によった。まず7月末に,調査対象者1000人全員 に調査票を送った。次にその 2週間後,対象者全員に,返送者への礼状と 16-3•4-695 (香法'97) ‑ 116  ‑

(7)

未返送者への督促を兼ねたフォロー・アップ・レターを郵送した。さらに

(10) 

その 2週間後に,その時点での未返送者に対し,調査表を再送付した。

第 3節 調 査 期 間

調査は, 1994年7月28日に開始し,同日付けで調査票を郵送した。調査表

OD 

が最後に返送されてきたのは,同年9月末であった。

第4節 質問紙の構成

質問紙の背景となるモデル,すなわち要因の構造は,第 1図で示されて いるように, 3つの段階で構成されている。まず第 1段階では,デモグラ フィック要因によって,モラリティーに対する評価,法の目的に対する評 価,およびサンクションに対する評価が規定される。なお,これら 3つの 評価は潜在的な要因であり,質問項目にはなっていない。第 2段階ではこ れら 3つの潜在変数によって,モラリティーに関する行動,法の目的に関 する行動,およびサンクションに関する行動が規定される。第 3段階では,

さまざまな状況において援助するかしないかが,これら第 2段階の行動に よって規定されていると考える。

(12) 

このモデルの質問は次のような内容である(付録 1参照)。図の下層か ら順に,質問の構成との関係を説明する。

まずデモグラフィック的要因として,年齢(質問Fl),性別(質問F2), 最終学歴(質問F3),職業(質問F4),収入(質問F5),育った場所(質問 F6), 近所との交流度(質問F7),人種(質問 F8),宗教(質問F9)について 尋ねた。このうち,近所との交流度は正確に言えばデモグラフィック要因 ではないが,被調査者の個人属性を表す要因として,便宜的にここに位置 づけた。

下から 2層目は,上述したように潜在的な変数であるので,質問項目に なっていない。下から 3層目は行動レベルの質問であり,モラリティーに 関する行動,法の目的に関する行動および,サンクションに関する行動の

六六

‑ 117  ‑ 16-3•4--694 (香法'97)

(8)

援助行動と法に関する規範認識の構造(木下)

3種類がある。ただし本研究のモデルでは,法とモラリティーが相互に関 係しつつもも独立した概念として定義しているので,質問によっては,モ ラリティーと法の目的の両者にまたがる内容のものもある。まずモラリ ティーに関する行動について尋ねたものとして,質問7のF,質問8のA, 質問9のA,F,  Gがある。法の目的に関するものとしては,質問7のA,C,  D,  E, 質問8のA, C,  D,  G, 質問9のA, B,  D,  Eがある。サンクショ

ンに関する行動について尋ねたものとして,質問7のB,質問8のB,F, 質 問9のC,質問10, 11,  12がある。

援助行動

3段 疇

モラリティーに 麗する行動

六五

法の目的に 陽する行動

デモグラフィック要因

サンクションに 関する行動

2段 疇

1段 鴫

1図:援助行動と法に関する概略モデル

その他,援助に関る行動意図,および一般的社会態度に関する質問とし

16-3•4-693 (香法'97) ‑ 118  ‑

(9)

て,臓器提供のプログラムヘの登録の有無(質問19),献血の経験の有無(質 問20),献血を法律で義務づけることへの賛否(質問21),政治的態度(質 問22),法に対して抱いているイメージ(質問18),法一般についての態度

(質問13から17),社会一般についての態度(質問8のE) を用意した。

最上層にあるのは援助行動に関する質問であり,①襲われている他者を 助けた経験があるかどうか(質問 1), ②自分が襲われたことがあるかどう か(質問 2)'③仮定の話しとして,もし数週間後に誰かが襲われているの を見た場合,被害者を助けるかどうか(質問 3)'④異なる 6つの状況下で 援助をする可能性(質問4)'⑤援助法が存在する場合,被害者を助けるか どうか(質問 5)'⑥援助法が存在する場合,質問4と同じ状況下での援助 の可能性(質問 6) について尋ねた。

第 5節 分 析 方 法

このようにして得られたデータで,第 1図のモデルがどれほど有効に説 明できるかを検討する。まず,援助する意図の有無とデモグラフィック要 因との関係を,クロス集計により分析する。次に,異なる統計手法を使用 して,分割表の分析から見出された人々の態度を規定している要因を分析 する。具体的にいうと,共分散構造分析(LISREL)によって,援助行動を 決定する 3つの潜在的な要因,すなわちモラリティーに対する評価,法の 目的に対する評価,サンクションに対する評価を推定する。そして推定値 の組合わせによって, 5つの援助行動の型を検証する。最後にオーダード・

プロビット (OrderedProbit) によって,独立変数との関係を調べ,どの 援助行動の類型が典型的なのかを推定する。

六四

‑ 119  ‑ 16-3•4-692 (香法'97)

(10)

r. 

/¥ 

援助行動と法に関する規範認識の構造(木下)

4

章 結 果

第 1節 クロス表による分析結果 (1)  過去の援助・被援助経験

誰かが暴漢に襲われているのを見たことがあるかという質問について,

全体の52.2%の人が「ある」と答え, 46.4%が「ない」と答えている(質 問IA)。「見たことがある」と答えた有効回答者のうち, 14.0%が「自分 1 人で助けた」とし, 25.3%が「警察等を呼んだ」, 23.1% が 「 近 く に い

た人と助けた」, 3.2%が「(公務員以外の)その場にいた他の人に助けるよ うに頼んだ」と答えた(質問1B)。しかし34.4%の人が,「何もしなかった」

と答えた。「何もしなかった」理由の48.3%が「状況がそれほど深刻そう でなかったから」であり, 30.0%が「巻き込まれたくなかったから」であ

る(質問IC)。

被調査者自身が暴漢に襲われたことがあるかを尋ねたところ(質問2A), 38.3 %が「ある」と答え, 60.3%が「ない」と答えた。このうち,「あ

る」と答えた人に「誰が中心となって助けてくれたか」を尋ねたところ(質 問2B),有効回答者の66.9%が「誰も助けてくれなかった」と答えた。一 方,助けてくれた人は「友人」が10.2

% , 

「見知らぬ人」が11.0

%, 

「警 察」が11.9%である。

暴漢に襲われたのを見た経験,本人自身が襲われた経験がいずれも高い のは,アメリカの大都会の治安環境の悪さを反映している。またこのよう な場面において,本人は「援助した」という率が高いのに (65.6 %) , 他人 からは「援助されなかった」とする率が高い(66.9 %)。そのズレの背後に

は,自己を弁護する主観的バイアスが存在するのかも知れない。

(2)  援助法がない場合の一般的な援助意図

誰かが暴漢に襲われているのを目撃したとき,人びとは被害者を助けよ うとどの程度考えるであろうか。質問3Aによると,「どのようなときにで

16-3•4--691 (香法'97) 120 

(11)

も絶対助けるだろう」と答えたものは38.3%であり,「おそらく助けるだろ う」と答えたものは51.7 %, 「おそらく助けないだろう」と答えたのは 7.8 %, 「絶対助けないだろう」と答えたものは1.4%であった。被調査者 の9割のものが,なんらかの形で助けようとする意図を持っていることが

(13) 

わかる。この値が,上述した,過去の経験において助けたとする者の率 (65.6 % ) を か な り 上 回 る の は , 現 実 を 踏 ま え な い タ テ マ 工 的 反 応 が 多 かったせいかも知れない。

「助ける」と一概にいっても,その動機はさまざまである。「おそらく助 けるであろう」,および「絶対助けるだろう」と答えた人に対してその理由 をたずねたところ(質問3B), 欠損値を除いた309人中, 38.2%が「義務だ と感じるから」と答え, 52.8%の人が「無視できないから」と答えた。い ずれも,個人の道徳観や社会の価値規範を反映した回答である。また,助 け 方 も 種 々 な 手 段 を 念 頭 に お い て お り , 欠 損 値 を 除 い た312人 の う ち 19.6 %が「自分自身で助ける」とし, 47.1%が「警察等を呼ぶ」と答え,

31.1 %が「側にいた人と一緒に助ける」と答えた(質問3C)。

一方,「助けないだろう」とする理由としては,「おそらく助けない」あ るいは「絶対助けないだろう」と答えた人の内,有効回答者32人中81.3

の人が「自分が怪我するのを恐れるから」だとし, 9.4%が「警察に行く など面倒なことに巻き込まれたくないから」とし, 6.3%が「警察が責任を 持つべきことだ」とし, 3.1%が「興味がないから」と答えた。

(3)  法がない場合の援助意図と個人的要因との関係

人を援助するかどうかの決定は,基本的には各自の価値観や道徳に規定 されている。そういった志向を生み出すのは,性別,年齢,学歴,政治的 態度といった個人条件や,各自が歩んだ生活経験を中心とした環境条件で ある。ここでは,そのような条件の一つであるデモグラフィック要因を中 心に,援助意図の関係を分析する。

援助法がない場合の援助意図と,社会的態度やデモグラフィック要因と

121~ 16-3•4-690 (香法'97)

『 ‑

/¥ 

(12)

援助行動と法に関する規範認識の構造(木下)

の関係を,

(14) 

クロス集計表で調べた。 まず政治的態度については, リベラル な人と中立的な人が保守的な人より, 「絶対助けるだろう」と答える傾向に あるが,統計的には有意な差はみられなかった

(15) 

世代別では,

(第 1表)。

2 0代およびそれ以下の若い人や 50代の人は「助けるだ ろう」 と答える傾向にあるが,

の援助意図は弱くなっている。

みられなかった (第 2表)。

三六

( 4 0

'T

}

?

9

P1

l g

li

轡廿

1U (

. . . .  

600 

9 1

4

図輯S 9 9  

O N 9  

05 

l [ / U ' Y : 5

"4 l £ 

6  

V

<

 

4

00 

0 0 0  

00 

︵苓︶+﹃

16-3•4-689 (香法'97)

nv  

6 L  

 

:z 

6

1 1

3 0代,

( 4 0

'T⇔ン岱舟︶蘊ぬ盆喪

" t

l g

4 0代の人および60代以上の人 しかしこれについても統計的に有意な差は

T玉ギ

O L

0 9

O S

o

c

7

O N

図輯

e

a L 

v. L 

! :  

8'9  St 

ss  

z.CV 6S 

B gs  

!>

9!

> 

4-qY:~"4

9 1

4 qg  

C.CC 

O L C  

za v 

lv c 

9  

9~

0 00 1 

00 

0 0 0  

0. OO l 

l qg l

00 

0 0 0  

g 9

<

 

LZ 

80 0 

VL V9 

= 

s N 

z v c 1 1 起鎚

‑ 122  ‑

(13)

性別では,女性の援助意図が多少強い傾向にあるが,統計的に有意な差 はみられなかった(第 3表)。

教育程度別では,小学校卒の者の援助意図が弱い傾向にあるが,これに ついても統計的に有意な差はみられない(第 4表)。

職業別では,統計的に有意な差はみられなかったが,専門職,マネー ジャーや学生などの教育程度の高い人の援助意図が強く,無職の人や引退 者,工場・店経営者の援助意図は弱い傾向にあった。ただし統計的に有意 な差はない(第 5表)。

収入別にみると,中程度 (1万 5千ドル以上から 2万ドル以下まで)の 年収の人をピークとして「絶対助けるだろう」と答える人が多く,それ以 下や以上の収入の人は,「助ける」と答える率が減少する傾向にあった。と

ころが「助けない」という率は中程度の年収の者に多く,高収入の者は低 かった。この点は統計的にも差が若干みられた (0.05<P <0.10)。教育 程度と職業の関係 (P

0. Ol)および教育程度と収入の関係 (P

0. Ol) 

は高いので,これらの結果は,全体として一貫した傾向を示しているとい えよう(第 6表)。

育った場所別では,大都市より中小都市で育った人において援助意図が 強い傾向にある。田舎で育った人は「助けない」と答える傾向が強くみら れるが,田舎で育った人の被験者数が10人しかいないので,それが意味の ある傾向であるとは必ずしもいえない(第 7表)。

近所との交流度別では,統計的に有意な差はみられないが,「全く交流が ない」と答えた人は,「絶対援助をする」と答える割合が低かった(第 8表)。 人種別では,アジア系の人の援助意図が著しく弱く,統計的にも有意な 差がみられた (P < 0. 05)  (第 9表)。

宗教別では,統計的に有意な差が若干みられ,仏教系の人と無宗の人の 援助意図が弱かった (0.05  < P < 0 .10)  (第10表)。宗教と人種は非常に 高い関係にあるので (p0.01) , この結果は先の結果と一貫したもので ある。

六〇

123  16--3•4-688 (香法'97)

(14)

芦臣[ll

16 |3•4ーー687

3 性別にみた援助行動(法がない場合)

援助の意図 男性 女 性

'9 7)

絶対助けない たぷん助ける 絶対助ける

計(%)

4 7 9   1 2 5   1 5 3  

100. 0  167 

7.3  51  4  41  2 

100 0  177  総 数=344 N.  S 

124

4 学歴別にみた援助行動(法がない場合)

澤湮ヰ湮代芹‑ぃ至斗が迦君提器S芸賑︵汁

F )

援助の意図 小学校卒 嘉濤学校卒 2年制大学卒 4年創大学卒 大学院卒

助けない たぶん助ける

絶対助ける

計(%)

3 4 3   4 1 4   1 7 1  

10  5  50 9  38 6 

8 1 1   3 3 3   1 4 4  

8 4  55  1  36  4 

5 1  55  1  39 8 

100 0 

100  0  57 

100  0  65 

100  0  107 

100 0  98  総数=334 N S 

(15)

5 職業別にみた援助行動(法がない場合)

援助の意図 助けない たぷん助ける

絶対助ける

計(%)

農業 工逼.

店経営 14  3  71  4  14  3 

ホワイト・

ヵユ—

57 9  34  2 

ヲルー・

ヵユ—

4 3  60  9  34  8 

専 門 職 マネージャー 需 職 主 婦 学生 引退

100  0 

50 0  44 

10  9  50 0  39 1 

4 3 3   1 4 4   2 6 1  

10  5  52  6  36  8 

4 8  52 4  42  9 

2 5 3   8 1 0   1 5 3

 

0 2  

100  0  100 0 

38 

100 0  23 

100 0  96 

100 0  46 

100  0  14 

100  0  19 

100 0  21 

100  0  33  総 数=299 N S 

125 ! 

6 収入別にみた援助行動(法がない場合)

揖助の意図 1万ドル未漏 $1万以上

$1 5万未漏

$1 5万以上

$2万未漏

$2万以上

$3万未漏

$3万以上

$5万未涵

$5万以上

$10万未漏 $10万以上

16 │ 3•4686

助けない たぶん助ける

絶対助ける

計(%)

12 9  64. 5  22. 6  100 0 

31. 0 

8 1 2  

 

1 7 1   1 4 4  

25 0  20 8  54 2 

3 4 3   0 6 3   1 5 3  

5 2  49 4  45 

52 6  40 0 

9 1  57. 6  33 3 

100 0  17. 0 

100 0  24.0 

100 0  39 0 

100 0  77 0 

100 0  95 0 

100 0  33 0  総数=316 05 10 

︵ 咄

i97)

>臣

[ll

(16)

寸臣[l[

163•4685

1 育った場所別にみた援助行動(法がない場合)

援助の意図 大都市 大都市郊外 中小都市 町村

'9 7)

助けない たぶん助ける

絶対助ける

計(%)

10 1  55. 1  34. 8 

100  138.0 

7.  4  55. 3  37. 2 

8.  4  45 8  45 8 

30 0  60  10.0 

100.0  94.0 

100. 0  83 0 

100. 0  10.0  総数=325 0.  05 

│ 126 

1

̲  

8 近所との交流別にみた援助行動(法がない場合)

澤湮ヰ湮行許一こ涯斗か泄悪挺器

S芸距︵汁

F )

援助の意図 頻繁に 時々 滅多に 全然しない

助けない たぶん助ける

絶対助ける

計(%)

52. 8  39 3 

51  2  40 

47 4  43 9 

1 3 6   2 0 7   1 6 2  

100 0  89 0 

100  0  125 0 

100 0  57 0 

100 0  58 0  総数=329

(17)

9 人種別にみた援助行動(法がない場合)

援助の意図 アジア系 黒人系 ヒスパニック系 白人系

助けない たぷん助ける

絶対助ける

計(%)

15  4  67  3  17  3 

52  0  44  0 

41  2  52  9 

50  0  41  4 

100  0  52 

100 0  25  0 

100  0  17  0 

100 0  222  0  総数二316 p 005 

127 999 

10 宗教別にみた援助行動(法がない場合)

援助の意図 プロテスタント ユダヤ教 カソリック 仏教 撫宗教

3 2  63 5  33 3 

48. 1  51 

10 0  46 0  44 0 

0 3 7   5 3 1   2 3 4  

1 8 1   1 7 1   1 5 3  

16 |3•4684

助けない たぶん助ける

絶対助ける

計(%)

100 0  63 0 

100 0  27 0 

100. 0  100. 0 

100 0  12 0 

100. 0  90.0  総数=292 0 05p0 10 

'9 7)

汁臣[ll

(18)

援助行動と法に関する規範認識の構造(木下)

デモグラフィック要因と援助意図の間には,

その最大の理由は,

では(少なくともタテマ工的には)援助を積極的に支持する規範が強く,

デモグラフィック要因の差をこえて,圧倒的多数の人が援助を肯定してい 以上の結果を通じて,

ほど強い相関が見られないことがわかった。

それ アメリカ

るからであろう。

(4)  援助法がある場合の援助意図

援助法があると仮定した場合,法の強制力によって援助する意図は変わ るであろうか。質問 5では,援助法がある場合に被害者を助けるかどうか について尋ねた。 その結果, 「どのようなときにでも絶対助けるだろう」と 答 え た も の は32.4%であり, 「おそらく助けるだろう」

55.0 

%, 

「おそらく助けないだろう」 と答えたのは7.5

%, 

と答えたものは

「絶対助けない だろう」と答えたものは2.0%であった。 ただし3.1%は欠損値である。法 の存在を示唆しなかった場合と同様に,全体として約 9割のものが,

らかの形で助けようとする意図を持っている。

なん

(5)  法がある場合の援助意図と個人的要因との関係

政治的態度別では,リベラルな人および保守的な人が,「絶対助けるだろ う」と答える傾向にある。 ただ保守的な人は, 「助けない」とする率も高い。

また, これらの関係には,統計的に有意な差はみられなかった (第11表)。 年齢別では,法のない場合と同じ<,20代およびそれ以下の若い人は「絶 対に助けるだろう」 と答える傾向が非常に強いが, 30代で減り, 40代と50 代でふたたび高くなっている。 60代以上の年長者は援助意図は低くなって 三五

いる。 このように年代によって援助意図に差のでる理由が,年齢による体 カの変化のためなのか, あるいは社会的地位の変化によるものか, それと

も世代による価値観の違いなのかについては, ここでは不明である。 しか しこれについては,統計的に有意な差はみられなかった(第12表)。

女性の方に援助意図がやや強い 性別では,統計的な差はみられないが,

16--3•4-683 (香法'97) ‑ 128  ‑

(19)

11 政治的態度別にみた援助行動(法がある場合)

援助の意図 リペラル 中道 保守

助けない たぷん助ける

絶対助ける

計(%)

9 0  53  2  37 8 

61  9  30  1 

18  2  45  36 4 

100 0  111 

100  0  176 

100 0  44  総数=331

129 

│ '   12 世代別にみた援助行動(法がある場合)

援助の意図 20代と以下 3 0代 40 50 60 70代以上

163・4

682 

助けない たぶん助ける

絶対助ける

計(%)

4.  8  50.0  45. 2 

100. 0  62 

6.  8  64 4  28. 8 

100 0  73 

8.  1  57.0  34. 9 

100. 0  86 

13  51. 1  35. 6 

100. 0  45 

15 4  57. 7  26. 9 

100.0  26 

16 7  61.  21. 4 

100.0  42  総 数=334 N.  S. 

'9 7)

匡 ~lll

(20)

[l[[l[

16 |3•4681

13 性別にみた援助行動(法がある場合)

援助の意図 男性 女 性

97)

絶対助けない たぶん助ける 絶対助ける

計(%)

4 6 9   1 9 8   1 5 2  

54  1  38 2 

100 0  166 

100 0  170  総 数=336 N S 

130 14 学歴別にみた援助行動(法がある場合)

T

が泄君挺捧

S芸固︵汁

F )

援助の意図 小学校卒 高等学校卒 2年制大学卒 4年制大学卒 大学院卒

助けない たぶん助ける

絶対助ける

計(%)

5 0 5   2 5 2   1 7 1  

5 1 4   0 9 0   1 4 4  

10 0  50  40 

1 4  

5 7   6 2  

100 0 

100  0  57 

100 0  60 

100 0  106 

10  4  57 3  32 3 

100 0  96  総数=334 N S 

(21)

15 職業別にみた援助行動(法がある場合)

援助の意図 助けない たぷん助げる

絶対助ける

計(%)

農 業 工蕩.

店経営 28 6  28 6  42  9 

ホワイト・

ヵユ—

73  7  21  1 

ヲルー・

ヵュご 4 5  54  5  40 9 

専 門 職 マネージャー 需 職 主婦 学生 引退

100  0 

52  6  41  2 

9 8 3   5 6 7   1 5 2  

3 6  

4 8   1 7  

8 2 1   5 3 1   1 6 2  

55  0  45  0 

1 7 1   6 7 6   1 6 1  

100 0 

100 0 

100 0  38 

100 0  22 

100  0  97 

100  0  44 

100  0  14 

100 0  19 

100 0  20 

100 0  31  総 数=294 01 

│ 131

16表

慢助の意図 1万 ド ル 未 瀑 Sl方以上

$1  5万未瀑 助けない

たぶん助ける 絶対助ける

10  0  50 0  40 

収入別にみた援助行動(法がある場合)

=•·'C S2: 月以上 'り七,.

$3万 未 瀑

IT"oi, 以 +

$2

9 1 

f~ 方以上

$5万未瀑

$10万以上

52  9  47  1 

40  9  50 0 

2 6   3 1   6 3  

59  5  33  8 

粘方以上

$10万未瀑

10  6  56 4  33 0 

2 6 2   8 0 1   1 6 2  

163・4680

計(%)

100 0  30 

100 0  17 

100 0  22 

100 0  38 

100 0  74 

100  0  94 

100 0  33  総 数=308 N S 

'9 7)

l臣

l

 ll

参照

関連したドキュメント

BC107 は、電源を入れて自動的に GPS 信号を受信します。GPS

自分は超能力を持っていて他人の行動を左右で きると信じている。そして、例えば、たまたま

Bemmann, Die Umstimmung des Tatentschlossenen zu einer schwereren oder leichteren Begehungsweise, Festschrift für Gallas(((((),

すべての Web ページで HTTPS でのアクセスを提供することが必要である。サーバー証 明書を使った HTTPS

検討対象は、 RCCV とする。比較する応答結果については、応力に与える影響を概略的 に評価するために適していると考えられる変位とする。

● 生徒のキリスト教に関する理解の向上を目的とした活動を今年度も引き続き

● 生徒のキリスト教に関する理解の向上を目的とした活動を今年度も引き続き

実効性 評価 方法. ○全社員を対象としたアンケート において,下記設問に関する回答